エルヴェ・ポンシャラル:「契約のあるライダーを奪い獲るなんて、絶対しない」

この日曜からいよいよセパンテストなのにフォルガーに去られてしまったテック3。とりあえずセパンはオーディションも兼ねて2018年は浪人中のヨニー・エルナンデスで臨むとのこと。とは言えまだ決まったわけではありません。そんなわけで悩めるチーム代表、エルヴェ・ポンシャラルへのインタビューをMotoMatters.comより。
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シーズンを戦うライダーを失うのにこれ以上ひどい時機というものは想像するのも難しい。ヨナス・フォルガーが健康上の理由で2018年のMotoGPを走らないと発表したせいでモンスター・ヤマハ・テック3チームは最悪の状況に陥ることになったのだ。新シーズンに向けてのテストのわずか数週間前だ。つまりMotoGPで走れるほどの能力のあるライダーはとっくに契約が済んでいると言うことだ。にもかかわらずテック3の代表、エルヴェ・ポンシャラルは代役を探さなければならない羽目に陥っている。

たいへんな仕事である。しかもポンシャラルはライダーを確保するのに既存の契約を破棄させるようなことはしないと決意しているのだ。「私のところにどれだけの人が電話してきたか知ったらびっくりしますよ。しかも誰から掛かってきたかもすごいですよ」と彼はMotoMatters.comに話し始めた。「実際気になる名前もありました。でも私にとっていちばん大事なのは、そして絶対守りたいのは、もう契約済みのライダーを奪ったり、そういうライダーと交渉したりしないってことなんです」

これは単に善悪の問題ではない。彼自身を守ることにもなるのだ。「だってみんな一生懸命がんばって、そうやって計画を実現しようとしてるんです。それでやっと契約までこぎ着けて、両者がサインして、そういうのは尊重されるべきですよ。だってライダーが『まあ最悪でも契約はできたわけだし、もしもっといいチャンスがあったらそっちに乗り換えればいいわけだから…』とか思って契約するとかだったら、そもそも契約する意味がないじゃないですか」

ババ抜きでババを引いたら

「現時点で確かに私は問題というか大問題を抱えていて、なんとかしなきゃならない状況なのは確かです。でもその問題を、ちゃんと仕事をやり遂げた、自分は何も悪くない誰かに押しつけていいって理由はないでしょ?だって私がどこかのチームから誰かを引っ張ったら、そしたらそのチームを今の私と同じ状況に突き落とすことになる。そんなことできないですよ。自分が失ったライダーの代役になれるほど良いライダーはどこにもいないって状況に陥れるってことなんですからね」

IRTA(International Racing Team Association:国際レーシングチーム協会−MotoGP参戦チームの集まり)の代表でもある彼の立場を考慮すれば、なおさら契約済みのライダーにチームとの契約を破棄させるのは難しいというのも理解できる。しかしポンシャラルはそれは全く関係無いと言っている。「もちろん私がそんな(契約破棄をしたライダーを受け入れるような)ことをしたら、まずい前例になりますよね。でも自分がIRTAの代表じゃなかったとしても同じですよ。価値観の問題なんです」

ポンシャラルのセパンに向けてのスケジュールはもうぎっしり詰まっている。空いたシートをめぐって、 最初から予定していたか、わざわざそのために飛んでくるかにかかわらず、様々なライダーのマネジャーとの面会が予定されているのだ。セパンで誰かを走らせるかどうかについては半々だとポンシャラルは考えているが、誰がテストライダーを務めるにせよ、フォルガーの代役としてフル参戦することはないだろう。「マルケスとかロッシとかザルコとかより速くないとね…」

正しい選択を

ポンシャラルはよりよい選択をするために、テック3がライダーを確保した場合に影響を受ける関係者とじっくり時間をかけて話し合いたいと考えている。「2018年にヨナス・フォルガーの代わりに走るライダーは(タイの)ブリーラムでのテストまでは決めないことにしています」とポンシャラルは語る。「そのライダーが本当に契約がないのか、うちが問題を抱えることが本当にないのか、ヤマハにふさわしいのか、ドルナは喜ぶか、IRTAも喜ぶか、そういうことをきちんとチェックしたいんです。今うちは問題を抱えていますし、奇跡のような解決策なんてない。だから馬鹿げたことをしないように時間を掛けて、関係者と話をして、少なくとも誰も傷つけない、そしてうちが選んだライダーが幸せになるような決断をしたいんです」

ポンシャラルによればヤマハは信じられないほど協力的だという。しかし最終的に代役探しの責任を負うのは彼自身だ。さらに彼はワールドスーパーバイクのパタ・ヤマハからライダーを引き抜くという選択肢も考えてはいないと言う。「ヤマハは協力的ですし、うちのことを気の毒に思ってくれていて、私の重荷を分かち合ってくれています。でもヤマハがスーパーバイクのライダーをうちに回してくれるってことはないのは確かですよ。だってそんなの意味ないですからね。アレックス・ロウズとかミハエル・ヴァン・デル・マルクとかはちゃんとしたチームでちゃんとした契約があるわけですから。スーパーバイクのどちらかを引き抜くつもりなんてさらさらないですよ。私の中ではそんなことはやっちゃいけないことなんです。いいアイディアに見えますけど間違ってる。そんなの人に問題を押しつけるだけなんです」

理想の候補

ではポンシャラルの理想の候補はどこにいるのだろう?「この世界が理想通りなら理想のライダーはMoto2ライダーってことになりますね。それは間違いないです。Moto2で1シーズンか2シーズン戦ったライダーってことです。毎日頭をよぎるライダーがいるんですよ。シャヴィ・ヴィエルヘなんですけどね」。ポンシャラルはスペイン人の彼が大好きなのだ。そして彼をテック3のMoto2チームに引き留めておくために多大な労力を費やしている。しかしヴィエルヘは2017年を最後にダイナボルト・インタクトに移籍してしまった。

「彼が離れてしまったのは本当に残念です。じゃなかったなら名違いなく彼を走らせてましたし、それで何もかもピタリとはまったはずなんです。レミー(ガードナー)はまだ若すぎますし、まだそこまでではない。ボー・ベンドシュナイデルはまだ18歳でMoto3から上がってきたばかりですから問題外です。でもこれが2年後くらいだったらボーを乗せていたかもですね。それは合理的な判断だと思います。でもなによりシャヴィ・ヴィエルのことは返す返すも残念です。彼は他のチームと契約することにしちゃったんですけど、まあ彼を呼び戻すつもりはないですよ。だって今は彼を手に入れるために一生懸命やった別のチームにいるわけですから。そのチームを潰すなんてことはできません。そんなことはやったことはないし、これからもぜったいしませんよ」

多くのファンが口にしている名前はペッコ・バニャイアである。イタリア人の彼はテック3には最適ではないか。MotoGP界でも評価は高く、ヴァレンティーノ・ロッシのVR46アカデミー出身でスカイVR46でMoto2を走るということでヤマハとも関係が深い。既に他のメーカーも触手を伸ばしており、ドゥカティとの契約も間近だという噂もある。

しかしどんなに厳しい状況に直面しようともポンシャラルの選択肢にバニャイアは入っていないようだ。「あー、もう傷口に塩をすり込まないでくださいよ!」。私がバニャイアの名前を出すとポンシャラルは冗談めかしてこう言った。「彼は私の一番のお気に入りですよ。夢にまで見るライダーです。ペッコ・バニャイアとは何年か前に彼がMoto3で走り始めたころから交渉してるんです。でもそういうのはうちだけじゃない。それに彼は今は良いチームにいて、チームも彼のためにすべてを調えている。レースに勝てる可能性は高いしタイトルだって獲れそうなんです。それを邪魔するなんてあり得ない。いつかは彼を走らせたいという夢はありますけど、現時点では選択肢ではない。これまでお話しした通りの理由でね。でも同じことがオリヴェイラとかビンダーとかアレックス・マルケスとか、そういうMoto2のトップライダーとの契約は誰もが夢見てることなんですよ。でもみんな契約済みなんです!」

素晴らしい才能

ヨナス・フォルガーに煮え湯を飲まされたとは言え、ポンシャラルは今でも彼の才能を高く評価している。ポンシャラルは数年間にわたってフォルガーを追いかけ続け、テック3との契約にこぎ着けたときには本当に喜んだものだった。フォルガーはポンシャラルの期待を大きく上回る結果を出した。彼を失ったのはテック3にとっても痛手だがGPにとってはもっと大きな痛手だと言う。

「チームもヤマハもスポンサーも私も、みんながっかりしています。でもこれはなんとかできる。私はヨナス・フォルガーの方が気の毒なんです。彼がもう1年走ったら何もかもうまくいって、テクニックやレベルアップや自身の才能や、そういう歯車がかみ合ったら彼がどんなことができたか、想像もできないと思いますよ。
 彼の才能の凄さについてひとつ教えましょう。うちが分析してるデータや彼がザクセンリングでやってみせたことや、そういうのはたまたま起こったことではないんです。彼がウインターテストで残した結果もとんでもなかったんです。だから本当に残念ですよ。このまま彼が戻ってこないなんてことがないといいとんですが、現時点では偉大な才能を失ってしまったんです。彼ならMotoGPの歴史を書き換えられたかもしれない。この話の教訓はつまりバイクや細々した技術的なことや改善や、そういうことについていろいろ話をしてるけど、ライダーは人間だってことなんです。人間ってのは難しくて、そして壊れやすいってことなんです」

「人間探求の冒険ですから」

チームを待ち受ける困難にもかかわらずエルヴェ・ポンシャラルは希望を失っていない。「2人体制は維持したいと心から思ってますし、そうできると思っています。なんにせよこれは人間探求という冒険の一つなんですから。私たちと一緒に走ってくれるライダーはできればいい奴で、一緒に良い体験をして、そして良い意味での驚きを共有したいと思っているんです。モンスター・ヤマハ・テック3チームはグリッドに2台並べますよ。それは100%保証します。そしてこれは私が信じていることのひとつなんです」

ポンシャラルが誰を選ぶことになっても、そのライダーはチームからできる限りのサポートを受けることになるだろう。「うちのことは多少はご存じでしょ?ライダーを選んだら彼はうちのライダーになるんです。つまり彼が最高のパフォーマンスを発揮できるように、うちの100%を注ぎ込むってことなんです」。それがポンシャラルの結論だ。「そして少なくとも今思っているのは、何があっても『乗る機会はもらったけど、それほど大したもんじゃなかった』なんてことは絶対言わなせいってことです。うちのライダーには最高のパフォーマンスが見せられるようにサポートしますよ。去年のM1は最初に乗るマシンとしては最高のバイクだったと思ってます。チームもそれほど悪くはないですしね。だから前にも言いましたけど、うちは誰かを幸せにできると思いますよ」
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名伯楽ってそういうことですよね。そして理想の上司でもある。

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ヨナス・フォルガーは2018年は参戦せず治療に専念

今朝流れたニュースですが、テック3には代わりをどうするかという難問が。MotoMatters.comが代役の可能性のあるライダーの名前を挙げつつ解説してくれてます。
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モンスター・テック3にとっては歓迎できないサプライズで2018年シーズンが幕を開けることになった。ヨナス・フォルガーが2018年には走らないせいでチームは2人目のライダーがいないままシーズンを迎えることになったことをチームが今日発表したのだ。

フォルガーが今シーズンを走らないことにしたのは2017年終盤に悩まされた健康問題の治療に専念するためである。彼はアジアラウンドを体調不良で欠場し、後にそれがジルベール症候群のせいであると診断されたのだ。これは肝臓の遺伝疾患で慢性疲労を引き起こすものである。フォルダーの体調はまだ100%とは言えず、それで治療に専念するため1年間休養することとしたのだ。

フォルガーの決断によってテック3はかなり難しい状況に陥ることになった。ドルナとの契約で、そしてスポンサーとの契約では2018年は二人のライダーを走らせることになっている。しかし2018年の最初の公式テストとなるセパンテストまではあとわずか11日。候補として検討すべきライダーはすべて2018年シーズンに向けて既に契約済みだ。代役を確保するには既に契約のあるライダーを買い取るか、それとも戦える速さがあるにもかかわらず契約のないライダーをみつけるかしかない。

通常であればまずはヤマハ関係のライダーを探ることになる。ヤマハと契約していてしかもGPにできる参戦ライダーについてヤマハと交渉するのである。最初の候補はワールドスーパーバイクのパタ・ヤマハチームのライダーだろう。しかしWSBKも2018年の開幕は間近で、アレックス・ロウズとミハエル・ファン・デル・マルクのどちらがテック3に言ってもパタ・ヤマハにとっては大打撃となる。取材の過程ではどちらもライダーについても移籍に関する話合いが行われている様子はなかった。

次の選択肢は全日本スーパーバイクのヤマハライダーだ。中須賀克行も野左根航汰もヤマハとの直接契約で、どちらもヤマハのMotoGPマシンの経験がある。中須賀がMotoGPに移籍することはほどあり得ないだろう。36歳になる彼は子供を連れて世界を転戦する気はないのだ。野左根の方が可能性は高い。彼はまだ22歳でもてぎではフォルガーの代役を務めているのだ。

しかしフォルガーの代役として最もありそうなのはテストしかやっていない経験豊富なライダーたちだ。いちばん先に思いつくのはシルヴァン・ギュントーリだろう。しかし彼はスズキとMotoGPライダーとしての契約を結んでおり、これがハードルとなる。ギュントーリは2017年にスズキGSX-RRでアレックス・リンスの代役として走っているし2007年にはテック3で走っていたこともある。

以前MotoGPのレギュラーだったステファン・ブラドルも2018年はレースを走る契約は交わしていない。しかし既にホンダのテストライダーとして契約している。ブラドルが長いことホンダでやってきたのは一つの障害となるかもしれないが、彼はヤマハでも走ったことがあるのだ。2015年前半、マルコ・メランドリの代役としてアプリリアに行くまで走っていたフォワード・ヤマハのCRTマシンのことである。

もしヤマハのライダーも契約のないライダーも確保できなければ代表のポンシャラルとテック3は既に契約済みのライダーを引っ張ってくるしかないということになる。実力のあるライダーだとかなり値の張ることになる。他のメーカーと契約しているならなおさらだ。テック3にはMoto2ライダーという選択肢もあるが、とは言えそれなりに面倒くさいことになるだろう。ペッコ・バニャイアなら早めにMotoGPに上げるという手もある。彼はVR46とも関係が深いのでヤマハにはうってつけだし、ファミリーとしてキープすることもはるかに代役ライダーを探しやすいからだ。もしシャヴィ・ヴィエルヘが2017年限りでテック3を離れていなければ、それで決まりだったろう。ポンシャラルは彼の走りに感銘を受けていたのだ。

とにかく現時点ではフォルガーの代役についてははっきりしない状況だ。エルヴェ・ポンシャラル自身まだ見えてはいないだろう。これほど早く代わりを見つけるというのは実に難しいのだ。

同様にフォルガー自身の将来も霧の中だ。いくらポンシャラルが彼を信頼していたとは言えもうテック3には戻れないだろう。そもそもテック3はフォルガーをMotoGPに上げるときには2年契約を結びたがっていたほどなのだ。しかしプレスリリースのポンシャラルのコメントには押し隠した怒りがほの見える。フォルガーがポンシャラルに味わわせた苦労を思えばそれも無理からぬことである。

テック3のプレスリリースは以下の通り。
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ヨナス・フォルガーは2018年を走らない

今年初となるMotoGP公式テストを1週間後に控えた今日、ヨナス・フォルガーはモンスター・ヤマハ・テック3の一員として迎えた2018年のMotoGPシーズンを走らないという決断をした。現時点では肉体的、精神的に完璧な準備が整っていないと感じているからだ。自分自身とモンスター・ヤマハ・テック3チームに誠実であるために、彼は2018年シーズンを走らないという非常に難しい決断をして、プレッシャーから遠ざかり完全に回復する道を選んだのだ。

ヨナス・フォルガー

「ほんとうに信じられないほど心から悲しく思っています。MotoGPの2018年シーズンを走らないことにしました。願っていたほど回復しなかったのです、そして今の状況では100%でMotoGPマシンに乗れるとは思えません。すべての関係者の皆さん、特にモンスター・ヤマハ・テック3チーム、日本のヤマハ発動機、モンスターエナジー、HJC、イクソン、フォルマ・ブーツ、ルディ・プロジェクトの皆さんには感謝します。いつか戻ってきたいと思っています。そして今、応援してくれている皆さんに感謝します」

エルヴェ・ポンシャラル
チーム・マネジャー

「昨晩(火曜日)、ヨナス・フォルガーのマネジャーのボブ・ムーアから電話をもらいました。彼が電話で話したことは、にわかには信じがたいことでした。ヨナス・フォルガーが精神的にも肉体的にも100%回復していないということで2018年のMotoGPを走らないと決断したと伝えられたんです。彼が2018年を私たちと一緒に走ってくれないなんて、今でも信じたくはありません。彼は私が心から信頼するライダーであり、今年は一緒にトップレベルに行けると思っていたのだからなおさらです。受け入れるのは難しいですけど彼の決断は尊敬します。しかし代わりのライダーを探してみせます。 速いライダーはみんな契約済みなので極めて難しいことはわかっていますが、レース界では常に前向きでいなければなりませんし、常に道を切り開いていかなければなりません。そして私たちの力で誰かを幸せにしたいのです。また状況が進展したらすぐにお知らせします」
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ちょっとポンちゃんのコメントで泣いたよ…。

ちなみにベン・スピースはキャメロン・ボービエールをお薦めしてましたね。


そして最新の状況はこんな感じらしいです。



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MotoMatters.comトラベルガイド-レース1カタール:夜の宝石

さて第1戦、カタール編です。
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MotoGPトラベルガイドはカレンダー通りに進めていく予定だ。というわけで初回は毎年開幕戦が行われるあの場所から始めることにする。カタールだ。なぜMotoGPファンの多くが住む場所から遠く離れた砂漠の真ん中で開幕戦が行われるのか?答えは簡単だ。お金である。カタールはMotoGPの開幕戦(そしてワールドスーパーバイクの最終戦)を開催するために多額のお金を払っているのである。つまりMotoGP開幕戦を見たければペルシャ湾の砂漠の半島まではるばる旅をする必要があるということだ。

MotoMatters.comトラベルガイド得点表


雰囲気 6 サーキット及び近くの都市の雰囲気:数字が大きいほど良い
異国情緒 7 地元の習慣や文化や料理は理解しやすいやすいか、移動方法は難しくないか:数字が大きいほど異国情緒あり
費用 8 3行って帰るまでに必要な費用:数字が大きいほど高額
レース以外の要素 3 レースに興味が無い人向けの楽しみはあるか:数字が大きいほどたくさん


どこにあるか?

ロサイル・インターナショナル・サーキットはカタールの首都、ドーハ中心から北に30km行ったところに位置している。アル・コア湾岸道路沿いだ。ドーハに向かう飛行機からもはっきり見えるし、車でサーキットに向かう時には丸くて青白に塗り分けられたルサイル多目的ホールというスポーツ施設の先にある照明システムが目印となる。

行き方

カタールに入るには街の南側のドーハ空港(ハマッド国際空港:DOH)を利用するのが唯一の方法となっている。カタールと地域の湾岸協力理事会諸国との間に外交危機が勃発する以前はサウジアラビアを経由することもできたが、2017年6月以来、国境は閉鎖されたままとなっている。

かつてはカタールに入国するのにビザが必要だったが2017年8月以降、80カ国について査証免除プログラムを発効しており入国者の国籍ごとに設定された30日~90日の入国期間以内であれば帰国のチケットを提示することでビザが必要なくなっている。手続きは空港到着時に行うこととなっている。

もし複数の国籍をもっていて前回もカタールを訪れたことがなるのなら2回目以降も前回と同じパスポートを提出するのが身のためだ。最初が英国のパスポートで次がアイルランドやオーストラリアのパスポートだったりすると入国管理のスタッフと面談することになる。これはもちろんカタールに限ったことではないし、旅行の際にはいつも気に掛けているべきことである。

カタールに入国後、サーキットに行くには車かタクシーを使うしかない。公共交通機関がないのだ。タクシーの場合50-60カタール、ユーロにして15~18(2000円~2500円くらい)となる。

コースまで自分で運転するのはなかなかスリリングだ。建設中のビルが多すぎてカーナビがすぐに古くなってしまうのである。Googleマップですら迷うことがある。もし迷ったのならアク・コアの標識をたどりながらたどり着くのを祈ろう。

どこに泊まるか?

MotoGPのカタールラウンドに行くなら宿泊は自動的に首都ドーハになる。サーキット近くのこの都市にはレースファン用に置くのホテルやゲストハウスが用意されている。

ドーハのホテルは2種類に大別される。アラブ域外から来る旅行者を狙った大規模な国際チェーンホテルと近隣地域から来る人のための小さな地元のホテルである。宿泊にいくら出せるかでどちらになるかが決まる。大きな国際ホテルチェーンは地元ホテルと比較してかなり(つまり数倍)高いのが普通だ。

国際ホテルも地元ホテルも部屋はかなり大きくて広々している。どの部屋もエアコン付き(夏には昼間の気温が40℃にも達する国では必須だ)だが、レースが開催される3月の気温は上がってもせいぜい35℃くらいまでだ。さらに多くの部屋は遮光カーテンと二重ガラスとなっている。

ドーハでの問題は騒音だ。常にビルが建設され続けている都市なのだ(というかカタールはどこでもそうだ)。高価な国際ホテルは遮音もしっかりしているし、普通は高層階に部屋があるので騒音はそれほど気にならない。イスラム諸国のひとつなので街中のスピーカーから1日5回流れる祈祷の放送がある。5回の中には夜明けと真夜中も含まれている。地上に近ければ近いほど祈祷の音は大きくなる。そしてそれが楽しいかどうかは祈祷による。メロディアスで美しいこともあれば音程補正を入れてもらわないと、ということもあるのだ。

ドーハにしか宿泊地がないので移動時間を縮めるための方法はそうたくさんはない。まずホテルは空港に近い南側を避けて街の北側にするのがお薦めだ。サーキットまでは交通状況によっては15~30分ほど余計にかかることになる。南側(旧市街/スーク周辺)の渋滞はことにひどく、サーキットまではかなりの時間を要することになる。街の北側、人工島ザ・パール近くやウェスト・ベイエリアであれば移動時間は相当節約できる。

神経質な(西欧人の)旅行者は国際チェーンホテルを選択する方がいいだろう。リッツやハイアットやインターコンチネンタルといったウェスト・ベイエリアのホテルだ。世界中の食べ物がひしめくドーハ最大のショッピングモールの向かいとなる。ただしこうしたホテルに泊まるということはカタールを味わえないということだ。どこにでもあるホテルに泊まってどこにでもある環境の中でどこにでもある食事をすることになるのだ。

食べ物・飲み物

カタールの食事はバラエティに富んだものだし、実に驚くような楽しみに満ちている。カタール料理は典型的な中東料理だが、シーフードが中心である。スパイスが効いているが辛すぎはしない。歴史的にインド亜大陸と関係が深い地域でもありパキスタンやベンガル地方、インドからの労働者が多いこともあって、インド料理の影響も強く、様々なカレーが食べられる。

もっと西欧的なものがたべたければ典型的な西欧ファストフードもあちこちにある。マクドナルド、バーガーキング、ハーディーズ、ケンタッキーフライドチキン、ダンキンドーナツ、ピザハット、ワガママその他の店がドーハ中に存在している。さらにシャワルマやファラフェルといった地元のファストフードも味わえる。

カタールではアルコールも手に入るがかなりの制限がある。国際チェーンホテルやレストランで(かなり高額となるが)売っているが、特別許可を得たカタール人以外の人が家で飲むためにしか購入することはできない。また自分で運転するのであればカタールで酒を飲むのは最悪の考えである。飲酒運転は厳しく取り締まられることになっており、例えば飲んだ翌朝であっても少しでも呼気にアルコールが含まれていれば厳しい罰を受けることになるのだ。

費用

MotoGPカタール戦は決して安くはないが破産覚悟というほどでもない。ヨーロッパからみて最大の負担は航空運賃である。とは言えカタール外交危機以来、安価なチケットも手に入るようになっている。価格は400~600ユーロで、どこの航空会社を選ぶか、そしてどれくらい我慢強いかで払う金額が決まってくる。

ホテルの価格も様々だ。国際チェーンホテルにするか地元のホテルにするかで違うが、いずれにせよヨーロッパのホテルの価格とそれほど違いはない。

食べ物とタクシーは概ね安価だ。ガソリンはバカみたいに安いし、アラブ諸国の例に漏れずどこでも手に入る。

行くべき理由

カタールに行くべき理由は二つある。まず最初にシーズン開幕戦だということだ。引き絞られた弓から放たれた矢のように一気に緊張感が高まるのは開幕戦ならではである。これまでのシーズン前テスト、あらゆる推測、テストでのレースシミュレーションに基づく比較とそこから得た予測、こうした全てが現実という壁に立ち向かう。どのラウンドにもそこでしか味わえない雰囲気があるが、開幕戦ということで少しだけ特別な味わいが付加されるのである。

もうひとつの理由はナイトレースである。とんでもない電力の無駄遣いなのだろうが、コースを取り巻く投光器に照らされた光景は実に見応えがある。チームによっては照明の下で輝くような美しさを発揮できるようスペシャルペイントを施してくることもあるほどだ。

そして闇である。だからこそ見えるものがあるのだ。MotoGPマシンが1コーナーに向けて激しい原則をするときにカーボンディスクが発するオレンジ色の光。ライダーがシフトダウンするとき、そしてマシンがグリッドで暖機しているときにエキパイから吹き出す青と黄色の炎。まるで映画トロンのようにヘルメットのシールドに反射するダッシュボードの照明。こうした全てに魅了されてフォトグラファーははカタールのレースを愛してしまうのだ。

闇もまた特別な雰囲気をもたらしてくれるということだ。MotoGPとしては実に少ない観客数だが、だからこその雰囲気があるのだ。MotoGPマシンの野蛮な咆吼はどのサーキットでも耳にすることはできる。しかし暗闇で吠えるMotoGPマシンの声は本能を刺激するのだ。それは心の奥底で忘れ去られた先史時代の我々の祖先が持っていた何かを呼び起こすのである。

こうした雰囲気が今年から変更されたタイムスケジュールによってどう変化するのだろうか。午後7時スタートのMotoGPクラスだけが引き続き真の闇の中で行われるレースとなり、Moto3とMoto2は太陽光の下で行われることになる。ただしMoto2は黄昏時だ。これもまた特別な体験となるだろう。ライダーがバトルを繰り広げている間に空が次第にオレンジに染まっていくのだ。

もしパドックパスを入手できたならさらに素晴らしい体験ができるだろう。パドックにはほとんど誰もいないおかげで、ライダーもチームスタッフもジャーナリストもいつもよりおしゃべりする時間が取れる。ライダーはファンやメディアのコメント取りから解放されていつもよりリラックスしている。カタールは立錐の余地がないほど混雑しているミサノの対極にあるのだ。

(10月下旬にカタールで開催されるワールドスーパーバイク最終戦に行く場合についても同じことが言える。シーズン最終戦ということでやはり特別な雰囲気がある)

レース以外の楽しみ

暑いのが好きならカタールが大好きになるだろう。高温で乾燥しているが、MotoGPレースが開催される時期なら暑さがそれほど得意でない人にも耐えられるレベルだ。高層ビルが形作るスカイラインは見物だし、常に変化している。毎年新しいビルが建設されているのだ。電力は安価で(お金もうなるほどあるので)ビルは夜になると美しく照らし出され、建築家が照明で飾り立てるカンヴァスと化す。

首都周辺ではエンターテインメントも目白押しだ。想像する限りのあらゆるものを売っている巨大なショッピングモールがある。映画館ではほとんどオリジナルと同じバージョンの映画が上映されている。

カタールはアラブ諸国の中では最も自由が認められている国であり、男女が峻別されている場所は極わずかだ。ショッピングモールでも映画館でもスポーツ施設でも、とにかくどこでも男女が分けられることはない。

これがまた劇的なコントラストを演出することになる。イスラム風ベールに全身を包んだ女性が短パンTシャツの女性とすれ違う。伝統的アラブ風の白い長衣であるトーブを纏った男性がピンストライプの男とすれ違う。現代と古代、自由と保守が常に分け隔て無く行き交っている。トーブを着るべきという圧力にさらされた若いカタール人はこうした文化的衝突を象徴している。彼らは長衣と白いターバンであるグトラを身に付けているが、アガルと呼ばれるターバンを固定するヘッドバンドは真っ直ぐではなく気取った角度にしつらえているのだ。野球帽を後ろ向きに被ったり横向きに被ったりのカタール版である。

文化に興味があるならイスラム美術館に行くのもいいだろう。イスラム世界の1400年にわたる芸術と文化を収めた美術館である。ここには世界中から集められた写本や織物、陶器、ガラスなどの美術品が展示されている。美術館はドーハ湾にある優雅な建物の中にある。他にも国の歴史が展示されているカタール国立博物館の他、様々な博物館・美術館がドーハ周辺に立地している。湾岸諸国の他の国と同様、カタールは自国を文化の中心地として位置づけており、博物館や美術館、図書館がどんどん建設されており、アートフェスや文化フェスが数多く開催されている。

カタール湾からそう遠くないところにはスーク・ワキーフ市場がある。伝統的なアラブのバザールだ。軒の低い建物が狭い路地にひしめいている。スパイスを売る店、織物を売る店、その他諸々があなたを待ち構えている。このところ旅行者向けの場所になりつつはあるのは確かだが、それでもまだ、例えばバルセロナのラ・ブカリーアと同様、旅行者のためだけではなく、いまだに地元民のために機能している市場である。

アウトドアのアクティビティもたくさんある。ゴルフコースはたくさんあるし(砂漠にゴルフコースとは馬鹿馬鹿しいにもほどがあるが、お金があればなんでもできる)、砂漠自体も様々な冒険を提供してくれる。ラクダツアーや4輪バギーやモトクロスバイクや4駆ジープでのオフロードトリップだ。

アラビア半島を囲む海も様々なアクティビティを提供してくれる。ダウというアラブ風の帆船で海岸や湾岸エリアをクルーズすることもできるしダイビングもある。カタール周辺の海は遠浅でダイビングを学ぶにはもってこいだ。

ただしこうした課外活動にはひとつ問題がある。カタールのレーススケジュールとバッティングするのだ。現時点ではまだ固まっては以内が、午後7時からのレースということなら昼頃からバイクが走り始めることになるだろう。つまり何かをするにしても午前中はほとんど使えず、そして夕方サーキットから帰ってきた後もほとんど何もできないということだ。

行くべきでない理由

カタールにレースを観に行かない理由はいくらでもある。サーキットの観客はまばらで、ムジェロやバルセロナで体験できるような感情の渦に巻き込まれるような体験はとても望めない。サーキットを離れたらレースの気配はどこにもない。ドーハに戻るとまるでレースなどなかったような気になる。ドーハでの生活は天然ガスを中心に回っているのであって、お金もそこからやってくるのだ。

お金、そしてそれを臆面もなく見せびらかすのも気に障る。金持ちと貧乏人、持つ者と持たざる者の差が過酷さをもって見せつけられるのだ。富の表現の仕方は品があるとは言えない。金持ちが走らせるのはただの高い車ではない。手に入る限りで最も巨大で最も派手で最も高い車だ。あらゆるものに金メッキがほどこされ、身に付けている宝石は装飾というより筋トレに効きそうな量だ。一方、貧乏人(ほとんどが外国人労働者だ)はうち捨てられ残酷な扱いを受けている。

カタールでは常に建設ラッシュが続いている。あちこちが騒音とほこりにまみれている。砂埃の元は砂漠だけではない。永遠に続く基礎抗堀りとそこへのセメント注入も砂埃を発生させる。朝、コースに向かうときに走った道が帰る時には通行止めになっていたり、そもそも消えていたりすることもある。

カタールでの運転もかなり勇気のいることだ。大金持ちのカタール人は彼ら自身が法律である。そして巨大でスピードの出る車で交通状況を無視してぶっ飛ばすのだ。トヨタ・ランドクルーザーとレンジローバーには気を付けた方がいい。ドライバーは道路に注意を向けるよりインスタグラムをアップすることに夢中だったりするからだ。もし彼らにぶつけられても何があったかにはかかわらずあなたのせいである。地元警察はいつでも事実ではなく金持ちの味方なのだ。

海外での警察沙汰も避けるべきことの一つである。そして比較的ましな国とそうでない国があるなかで、カタールは最悪の国の一つだ。GPでパーマネントの仕事を持つある人物はバカな運転をしたせいで地元の監獄に1か月近く拘留された。誰も被害を受けなかったにもかかわらずだ。これもまた飲酒運転なんぞ想像すらすべきでない理由である。前の晩しこたま飲んだら翌日は運転しようとなど思わないことだ。

カタールの恥部

カタールの好景気の裏には実際かなりの闇が隠されている。それでもこうした闇がこの2年ほどメディアの注目を集めているのは幸いだ。街とサーキットを往復するだけでは気付かないかもしれないが、目を凝らしてみればはっきり見えるはずだ。ネパールやインドやスリランカからの労働者がバスで宿舎から工場まで運ばれていく。バスの中の扇風機はエアコンがないことを密かに主張してくる。

海外からの出稼ぎ労働者が頼らざるを得ないカファラ制度が実質的に彼らを奴隷化しているのだ。カタールに到着するとパスポートを取り上げられ仕事を変えることも国を出ることも雇用主の許可が無ければできず、しかも渡航費は前金でローンを組まされている。つまり彼らは働きながらその借金を返済しなければならないということだ。多くの場合、労働環境は劣悪で、暑さにもかかわらず水さえ与えられない。危険な環境のせいで恐ろしいほど頻繁に死者が発生する。ロサイル・インターナショナル・サーキットの建設では何人の死者を出したのか?この質問をしそこなった私はジャーナリスト失格だ。

さらに湾岸地域に深く根を下ろしている反ユダヤ主義もある。イスラエル国籍でカタールに入国するのはほぼ不可能だしパスポートにイスラエルのスタンプが押してあるだけでも入国を拒否されることがある。ホモセクシュアルであることをおおっぴらに表現するのも法律で罰せられる。ただし異性愛者の不利をしている限り何か聞かれることはほとんどない。

パドックの意見

カタールに関するパドックの意見は二分されている。極少数が大好きで、楽しめる人もいるが残りのほとんどは大嫌いだ。カタールを愛している人の理由は(照明を愛している写真家を除けば)独特な国であること、そしてスケジュールだ。

私の意見
カタールに行けたのは良かった。他では得られない経験ができたからだ。しかし2回目の訪問で新たに得られたものは何もない。以来印象は悪くなるばかりだ。一回は行く価値があるが一回で充分である。
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カタール危機とカファラ制度についてはこちらの記事がまとまっています。

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MotoMatters.comトラベルガイド予告−どのレースを観に行くべきか

海外レースは誰にとってもハードルが高いもの。それは地続きのヨーロッパの皆さんにとっても同じ様子。というわけで我らがMotoMatters.comがこれから各地のレースについてトラベルガイドを書いてくれるという、その予告記事です。
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MotoGPを追いかけている一人として、私もファンから多くの質問を受けてきた。そのほとんどはレース自体についてだ。あるレースであるライダーが上手くやれたのか、それともだめだったのか?あるメーカーのマシンが特定のサーキットで他のメーカーより良い成績を残しているのはなぜか?その他ライダーやマシンやチームやGPそのものについての様々な質問である。たいていはほとんどの質問には答えられるし、かなりの自身を持って答えられる質問もある。さらにはこうした質問に対する答えを記事にする時間も見つけることができる場合が多い。

しかしこれまで記事にしてこなかった類の質問がある。他のMotoGPの常連と同じように、私も数限りなくきかれた質問だ。行くならどのレースが最高なのか?このレースだったらどこに宿泊すべきか?あのサーキットにはどうやって行ったらいいのか?等々。ツイッターやフェイスブックではそのたびに答えてきたのだが、ウェブサイトで記事にすることがこれまでなかった質問だ。

そろそろこうした状況にもピリオドを打つべき頃合いだろう。これからの数週間をかけて現在MotoGPのカレンダーに載っている各サーキットについての記事を掲載する予定だ。内容はそれぞれのサーキットについて皆さんが気になる情報についてだ。その情報があれば「どのサーキットに行こうか?」と思ったときに自分で答えを見つける助けになるだろう。どのサーキットに行くべきかについては書かない。趣味や嗜好はそれぞれだからだ。ケイシー・ストーナーのようなライダーもいればヴァレンティーノ・ロッシのようなライダーもいるのと同じなのだ。しかしこの記事を読んで、様々なレースがある中、本当はどのレースを観に行きたいのか皆さんが気付く助けになるといいと考えている。

どうやって決めるか

どのレースに行くかはサーキットだけでは決められないのはもちろんだ。そこでサーキット以外の情報も含めてそのレースを観に行く理由を提示する予定だ。サーキットの外には何があるのか?レース好きやバイク好き、そしてレースが必ずしも大好きなわけではない友人や家族にとっての楽しいことリストは何だろう?レースがある時期にそこに行くにはパートナーや家族や友達をどうやって説得したらいいのだろう?

こうした観点については私の妻であるローゼ・ベルベが自分の好きな場所について語ってくれることになっている。私と結婚するくらいイカレていたせいでたまたまレースに興味を持った人間としての意見だ。ローゼは年間カレンダーの概ね半数ほどのサーキットに行っている。そしてそのほとんどのサーキットについて、その近くでどんな楽しいことがあるのかを知っているのだ。

とは言え私に答えられない質問が一つある。ファンに良く聞かれるのだが、このサーキットではどの座席が一番見応えがあるか、という質問にはいつも同じ答えを返しているのだ。「プレスセンターですね」それが答えだ。どうしたってそうした適当な答えにならざるを得ないのである。実は私はほとんどのコースについてその答えをもっていないのだ。コースを回っていろんなスタンドに座ってといった時間がないために、私はどこが一番見応えのある場所かを知らないのである。これについては各回のコメント欄でそれぞれの好みの場所について書いていただけるとありがたい。

この記事はみなさんの役に立つことが目的ではあるが、当たり前だが私の経験に基づくものであることは理解していただきたい。費用について言えば、私はオランダに住んでいて、レースにはアムステルダムから出向いていることが前提だ。ヨーロッパ言語のいくつかについては何とかなるし、ヨーロッパと米国の文化についてはそれなりのことを知っている。つまり私の書く内容はヨーロッパ中心の視点からということである。

私がそれほど費用はかからないと言う時には、それはアムステルダム出発が前提となる。私がある場所を異国情緒に溢れていると書くのも、ヨーロッパ在住の私がその文化にどれほど不案内かを示しているということだ。私の意見はあなたのこれまでの経験とはずれている可能性があるということである。私にとってはもてぎは費用がかかる場所で異国情緒に溢れているが、あなたが日本人で水戸にすんでいるなら私とは異なる意見を持っているはずだ。とは言えこの連載が役に立つこと、そしてみなさんが次の旅行を計画するきっかけになればいいと考えている。

パッケージツアーにするか個人旅行にするか?

まず最初に考えなければいけないこと。MotoGPに行こうと思い立ってまず考えるのはパックツアーにするか自分で旅程を組み立てるかだ。どちらも良い点と悪い点がある。ざっくり言うと、自分で旅程を作るなら安上がりだが面倒くさいということになる。専門の旅行会社のパックツアーだと費用はかかるが楽はできるし、自分だけではとても入れないような場所に行けることもある。

パッケージツアー

ポールポジショントラベルのような会社(注意:ポールポジショントラベルはMotoMatters.comの広告スポンサー:脚注参照)から購入できるパックツアーはそれぞれ内容が異なるケースがあるが、レースウィークエンドの前に空港集合で、旅行会社がその後の宿泊、食事、サーキットへの交通手段、レースのチケットを確保してくれるのが一般的だ。自分で手配するのは指定された空港までの交通手段の確保である。

パックツアー会社は個人旅行では難しいことも手配もしてくれる。パドックパスの手配やチームホスピタリティでの食事といった特典だ。グリッドやサービスロード(コースの周りを取り囲んでいる写真家やマーシャルがいる道路)に入れることもある。こうしたツアーは安くはないがMotoGP観戦に特別な味わいを追加してくれるものだ。

パックツアーを利用しないケース

自分の地元のレースに自分のバイクで行ってキャンプをするとか決勝日だけ行くとかであればパックツアーを利用する意味はほとんどない。

自分でやる

MotoGPに行くのに自分で旅程を手配するのにも多くのメリットがあるが、何より費用が安く済むというのが一番だ。早めに計画すれば比較的リーズナブルはホテルを見つけることもできる。サーキットの周りの地域について少しでも知識があればなおさらだ。個人旅行ならパックより自由度もある。例えば金曜にバルセロナに入って土曜は街を見て、日曜にレースを観てその夜に帰るといったことも可能なのだ。そんなツアーを企画してくれる人を見つけることはほぼ不可能である。

季節にかかわらずレースファンは大好きなのだが、キャンプをしたければ自分で企画した方がいいだろう。もちろんテントのレンタルを含めてこの分野に乗り出している会社も複数存在してはいる。とは言えキャンプというのはそれなりに勇気が必要だ。レースファンは日が暮れたら床に就くものだと思っている人にはショッキングだろうが、サーキット周辺のキャンプサイトというのは、まあオブラートにくるんで言ったとしてもなかなかに騒がしいものである。音楽が鳴り響き、レッドゾーンでバイクのエンジンがうなりを上げる。様々な国から集まった酔っ払いのレースファンが固定されていないものを手当たり次第にたき火に放り込む。ものすごく楽しめる可能性もあるが、アルトゥル・ショーペンハウエルの「充足理由律の四つの根拠について」を集中して読める環境でないのは確かだ。

自分で旅行を手配する場合、チケットの購入方法も複数の選択肢から選ぶことになる。サーキットから買うこともできる。たいていのサーキットはネット販売を行っているし、何ヶ月も前に買う人のための割引制度も用意している。ただしサーキットのウェブサイトは上手く翻訳できていないことも多いし使いにくいので楽に購入できるとは言いがたいのも事実である。

そういうのがお気に召さないのであればMotoGP.comのサイトから購入することも可能である。私がファンから聞くところではかなり信頼できるようだ。他にもパックツアーの会社がチケットを売っていることもある。ただしあなたのe-mailアドレスを入手して高価なパックツアーを宣伝にかかるというデメリットも存在するのだが。

チケットを扱う代理店も数多くある。こうした代理店を使おうというのであればまずはインターネットで評判を調べてみよう。ファンやソーシャルメディアを通じて、実際に使ったことのある人を見つけて、チケットが期日までに手に入ったかを確認するのだ。

もちろんいきなりサーキットの入り口まで行くという手もある。GP人気が高まっている最近ではややリスクがあるやり方とはなるが。これでうまくいくだろうレースも確かにある。カタールやオースチン、フィリップアイランド、アラゴン、シルバーストンあたりであれば収容数が多かったり、そもそも観客が少なかったりするからだ。しかし他のサーキットではかなり危険な賭となるだろう。日曜朝にヴァレンシアに行ってもチケットを入手できる望みはない。アッセン、ヘレス、レッドブルリング、ムジェロ、そしてミサノも同じような状況だ。

MotoGPテストに行く価値はあるか?

私が時々受ける質問に、このテストは公開されるか、というのがある。また、これはあまり聞かれることはないがのだが、テストは観に行く価値があるのか、という質問もある。どちらの質問に対する答えも同じだ。場合によるし、どんなテストかにもよるし、いつのテストかにもよる。

まずどんなテストかということだ。テストは二つに大別できる。プライベートなものと公式テストだ。公式テストはシーズンに先立って行われるもので2018年はセパン、タイ、カタールで開催される。この他シーズン中にレース後の月曜に行われるもの(MotoGPではヘレス、バルセロナ、ブルノ、Moto2、Moto3はルマン、ムジェロ、アラゴン)もある。

公式テストは普通は公開されている上、無料のことがある。サーキットがグランドスタンドをファンのために開放してくれて、座って見学できるということだ。コースによってはテスト中にパドックに入ることもできる。それだけでも価値があるだろう。誰もがいつもより時間に余裕があり、リラックスもしている。誰もが100%レースに集中している週末と比べればサインをもらったりライダーとの自撮りを撮ったりメカニックやチーフメカと話すチャンスも大きいということだ。

ただしテストは楽しみという意味ではやや劣るのは確かだ。何が進行しているのかはほとんどわからないし、レースほど観るべきものはない。映像を映すスクリーンもたいていはないし、タイムチャートもないし実況もない。情報は何もないのだ。せいぜいMotoGP.comのサイトのライブタイミングをスマホで確認すれば何が起こっているのか把握できるかもしれないと淡い期待を抱くことしかできない。でなければソーシャルメディアで何かレポートが上がっているのを追いかけるのだ。

テストというものは実際かなり退屈なものなのだ。それは私たちジャーナリストにとっても同じである。ジャーナリストにとってテストの良いところは、後から何かを見つけられるということである。テスト現場で集めた様々な断片をつなぎ合わせて初めてわかることだ。しかし見世物としてはテストには決定的に何かが欠けている。

ファンにとってはプライベートテストはもっとつまらないものだ。公開されるプライベートテストは2つか3つしかない。ほとんどは非公開で行われる。完全非公開のテストというのは当然だが誰もが観たがるものだ。私たちの誰もが知りたい秘密のパーツをメーカーがテストするのである。だからこそ私たちは追いやられるということなのだが。

とは言えプライベートテストの中には公開で行われるものもある。12月にヘレスで行われるMotoGP/WSBKの合同テストがその一例だ。参加チームが多すぎてメーカーは秘密を守ることができるとは思っていないのだ。とは言え、こうしたテストでも公式テストほどの情報をファンが得られるものでない。

だがヘレステストには魅力的なことがある。パドックのレストランのテラスで座ってコーヒーをすすりながらマシンがうなりを上げてこのサーキットでで最速の二つのコーナーを駆け抜けていくのに耳を傾けるのはこの上ない喜びなのだ。

レースについて

テストについてはこれくらいにしよう。これからの数週間、今シーズンMotoGPが開催される19のサーキットについて私からのアドバイスと私の考えについて記事にしていくことになる。お楽しみに。

脚注:ポールポジショントラベルはMotoMatters.comの広告主のひとつである。しかし私の知る限り、この会社は素晴らしいと言えるし、顧客からの苦情もほとんど耳にしたことはない。ポールポジションのツアーの人々と話をしたことがあるが、同じ顔に出会うことが多いし、多くの人が何年も繰り返しここを利用している。もちろんポールポジションと同じくらい良い旅行会社もあるだろうが、自身で経験していないので、他社についての意見は提供できない。
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既にカタールについては記事なってるので、明日やる予定。

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共に走る:チーフメカとの1年

珍しくMotoGP公式からMat Oxley氏の記事。これはドルナが出版したMotoGPのこれまでについての本からの抜粋の様子。ニック・ハリス氏監修で寄稿者にはマイケル・スコット氏、マシュー・マイルズ氏、ジュリアン・ライダー氏、ケヴィン・キャメロン氏、デニス・ノイス氏といったお馴染みの豪華な面々が名を連ねています。とりあえず英語版はこちらで購入可能。£40+送料£30=邦貨換算11,000円なので一杯飲んで判断力を麻痺させてからポチりました。
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MotoGPにおけるチーフメカというのはライダーとマシンの仲立ちをする無くてはならない重要な要素である。そしてどうやったら勝てるシーズンにできるか、それをジェレミー・バージェス以上によくわかっているチーフメカはどこにもいない。彼はヴァレンティーノ・ロッシ、ミック・ドゥーハン、さらに遡ってワイン・ガードナーを世界チャンピオンの座に押し上げているのだ。

ジェレミー・バージェスはそれまでの世界GPのピットレーン70年の歴史でおそらく最高の導師である。チーフメカとしての28年間で、ワイン・ガードナー、ミック・ドゥーハン、ヴァレンティーノ・ロッシの世話をし、そして最高峰クラスで13回のタイトルと148回の優勝という素晴らしい成績を挙げている。

その28シーズン、そしてこれに先立つGPでのメカニックとして、彼は多くの勝利と敗北、そしてその間のあらゆる経験を重ねてきたのだ。MotoGPのパドックでさえ彼ほど勝利の方程式やライダーのやる気の引き出し方や、そしてあらゆる種類の強烈なプレシャーの下で多くの人々とうまく働く方法を知っている人間はほとんどいない。

2013年に引退したバージェスは1980年にワークス・スズキのランディ・マモラと働くためにヨーロッパに渡るまでオーストラリアでレースをしていたのだが、そのきっかけはほとんど偶然と言っても良いだろう。農場で育った彼の周りは多くの農業機械が取り巻いていた。そして彼は自分で問題を解決するために機械修理を学ばなければならなかったのである。そうやって彼は独学でエンジニアとしての力をつけていったのだ。

ヨーロッパにやって来た彼のレースへの取り組み姿勢は常に真っ直ぐで、実践主義的で、知性に溢れ、骨身を惜しまないものだった。そして現代のレースがどれほど複雑になろうとそれに戸惑うことなく問題はいつでもすぐに解決しようとしていた。こうした態度こそが彼を成功に導いたのである。

「物事を単純化するのが好きなんですよ」そうバージェスは語る。「どんなスポーツでも同じですね。サッカーを例に挙げましょう。ゲームには三つの局面がある。相手がボールを持っているときと自分がボールを持っているときと誰もボールを持っていない時ですね。実はそれ以上に複雑になりようがないんですよ。バイクレースも同じです。バイクはすべて機械でできている、つまり機能するかしないか、それだけなんですよ。ライダーが問題を抱えることがあるかもしれない。問題ってのは要するに手元に答えがない質問なんです。だからとにかく答えを探すしかない。まずは大きな問題から取りかかることですね。たいていはみんな小さなことがらにとらわれちゃうんですよ」

MotoGPのシーズンは毎年ウインターテストから始まる。ここでライダーは新型マシンの出来を見極め、チーフメカに最初のフィードバックを与えることになる。そしてチーフメカはライダーの言葉を翻訳しメーカーのエンジニアと共に問題解決に取り組みマシンの改善を行うのだ。

「テストは何よりも楽しかったですね」今年62歳になるバージェスはそう続けた。「エンジニアの資格を証明する紙切れなんてこれまで一度も手に入れたことがないんです。だから完全に科学的な方法でマシンを見ているというわけではなかったんですよ。それほど高次の分析はしないんです。ライダーと一緒に問題を解決するために考えて、それで良いバランスを見つけようとしていたんです」

彼がヨーロッパで過ごした34年間でレースの様相は大きく様変わりした。コース上でもピットでもパドックでもだ。「1980年代は私とゲオルグ・ヴコマノヴィッチとランディだけでやってました。メカニックが一人とチーフメカが一人ということです。2013年には私の他にマシン担当が4人、ホイール&燃料担当が一人、タイヤ担当が一人、コンピュータ担当が一人、サスペンション担当が一人、あと日本人の技術者が2人ほど、つまり人数はざっと6倍になったってことですね。
 自分の仕事に名前をつけるなら、何でも屋ですね。現代のレースマシンは本当に精妙で一人や二人や、それどころか三人がかりでも手に負えるものではないんです。それ以上の人員が必要なんです。でも同時にライダーが言おうとしていることを理解して感じることができる人間も必要なんです。ヴァレンティーノとは何年も一緒にやっていたんで、彼がモーターホームに戻って、データエンジニアがコンピュータから情報を取り出して、そしたら私が彼にヴァレンティーノがなんて言っていたか伝えるんです。やることはたくさんある。だから誰かが全体を調整して、ある問題を解決するための優先順位をつけてどの仕事に何人でどれくらいの時間を注ぎ込むかを決めなければならない。そしてその問題を小さくするのにどんな段階を踏んでいけば良いのかを決めなければならないんです」

バージェスが毎シーズン2月から11月までずっとスタッフと一緒に世界中のサーキットを飛び回り、強いプレッシャーがかかる中で一緒に仕事をやり続けたというのも彼の成功の一因である。

「みんなが楽しい気持ちでいれば仕事は上手くいくものですよ。誰かがある特定の仕事が大好きなら、いつでも私は彼にその仕事を担当させて楽しく働いてもらうようにしてました。他のみんなも同じように自分が好きな仕事を楽しくやれるようにしていた。
 夕食はいつも一緒に食べてましたね。それぞれ勝手にどっか行っちゃうようなことはなかった。チームとして上手くいっていたし、いつも笑ってました。私たちの一団はいつもうるさいって怒られてましたね。ヤマハでやってるときにはある日本人スタッフがピットにやってきて「ちょっとf**kin’ f**kin’言い過ぎだ」って言ってました実際そうでしたしね。
 コミュニケーションというのはどんな仕事でも一番の秘訣なんです。コミュニケーションが明確で率直で規範に基づいているなら成功できるんです。あらゆることが隠し事なしでね。でもある部署が他の部署かに何か隠し事をするようになったら問題です。これは人生において他の法則と同じくらい大事な法則なんです」

バージェスがGPで挙げた148勝という数字は実に見事なものだ。しかし彼が一つのレースから次のレースに向かうやり方というのはいつでもシンプルで控えめである。

「勝つ時ってのはあらゆる仕事がちゃんとできたってことなんです。実際ミックやヴァレンティーノやワインが勝つと心からほっとしてましたね。プラクティスでマシンを仕上げてレースを終えて結果を出す。私にとっては興奮するようなことではなかったんです。ただ仕事が上手くいったってだけだったんです」

GPでの28シーズンというのは400戦以上ということであり、つまりは当然のことだがバージェスは数え切れないほどの敗北も経験しているということだ。敗北というのは勝利とは全く違った気持ちになるのだという。次のレースでは決してそうならないために敗北を最大限に利用するのだ。

「レースに負けて最初に思うのは自分たちに足りないところがあったってことですね。2位で終わっても別に気にしませんでした。もし2位に終わる理由があればですね。でも2位になって、その理由がわからなかったなら、それこそ本当に問題を抱えているってことで、翌週に向けて問題を解決するために働くことになるんです」
バージェスの最も知られた成功は2004年の仕事だろう。ホンダからヤマハに移籍したその年にタイトルを獲得するという素晴らしい記録をロッシに与えたエンジニアが彼なのだ。

「2004年がたいへんな年になるのは覚悟していました。でもチームが一丸となって信じられないくらい頑張ったんです。それで様々な困難を乗り越えることができた」ヤマハに移籍する前にホンダで100勝以上のGP優勝を飾った彼はその年のことをこう語る。「もちろんライダーは最高でした。でもマシンはライバルに比べて明らかに劣っていた。私たちはできるだけのことをして、ヤマハは約束通り提供すべきものを提供すべきタイミングで提供してくれた。だからこれは論理的に前に進んでいったその結果なんです。
 当初ヤマハは2004年は2〜3レース目で優勝して、タイトルは2005年の創立50周年に獲得するつもりでいたんです。でもヴァレンティーノも私も全精力を注ぎ込めば2004年にはホンダが手の内を全て晒しだすことになって、そうすれば相手の力量が正確に測れると考えていたんです」

毎シーズン、知性とノウハウを駆使してライダーとマシンの仲立ちをしながら両者の絆を強くするというのがバージェスの仕事だった。毎レース、ライダーから最高のものを引き出すためには人間の脳についても内燃機関と同じくらいの知識が必要だと彼は理解していたのだ。別の言葉で言うなら彼は一種の精神科医にならなければならなかったということである。

「バイクレースのかなりの部分はフィーリングに左右されるんです。だから黄金のハンドルバーのおかげでライダーがいい感じで乗れるって思うなら黄金のハンドルバーをあげればいいんです。チーフメカというのはいつでもライダーの側についているように見えないといけないし、駆け引き上手でないといけない。私はいつも賛成する方が反対するより楽だって考えてます。ライダーと自分の考えが違っている場合、ライダーが自分で間違いに気付く方が、こっちの立場を主張し続けるよりずっといいんです。だからたいていの場合、私は裏でこういうメッセージを送ってるんです。わかったよ、君の好きなようにするから。でもまああんまりいいことにはならないと思うよ、ってね。
 だからライダーには選択肢を与えて、ライダーが自分でどれが一番か決められるってなれば、そこからが心理ゲームの始まりなんですよ。ミックみたいに活きの良いライダーとテストに行って、そこで彼が『なんでこんなマシンにしたんだよ、こんなのに乗る気は無いね!』とか言うでしょ?そしたらこっちは『とにかく5ラップだけ走ってくれ』って言うんです。それでとりあえず何周かして戻ってきてこう言うんです。『まあそれほど悪くはないね。もうちょっとこれでやってみてもいいかな』って」

バージェスは毎シーズン解決が難しい難問に直面していた。バイクというのは4輪と比べると実にわかりにくいものだからだ。ライダーがマシン+ライダー重量の1/3ほどを占めるというだけではない。ライダーは同時に動く錘なのだ。つまりマシンに対してライダーがどう動くかだけでもマシンの挙動やセッティングや性能に大きく影響するのである。

「バイクでレースをするというのは簡単なことじゃないんです。4輪の連中は2輪のレースを魔術か何かみたいに思ってますよ。でも、さっきも言った通り、これは一人の人間とどうやっていくかという話なんです。ライダーがマシンから良い感触を得られなかったりマシンに信頼が置けなかったりしたらラップタイムを追求するのがめちゃくちゃたいへんになるんです。
 マシンの究極の限界点は転倒するところなんです。転倒間近ってあたりじゃ遅いんですよ。だから限界を超えないように、でも限界ぎりぎりに近づかなきゃいけない。最高のバイクレーサーなら誰でも素晴らしい頭脳を持っている。自分が何をすべきかを理解しなきゃならないんですけど、ヴァレンティーノやミックはそのあたりが本当にすごかった。彼らはレースの最後まで良いラップタイムを出し続けるためには何をしなきゃいけないのか精確に理解していたんです。
 彼らは限界を超えて走るとタイヤが空転することを知っていたんです。タイヤが空転すると同じペースだけどタイヤを空転させてないライダーの前には行けなかったりするんですよ。繰り返しになりますけど、あんまり安全サイドに行きすぎてもいけないし、だからといって空転させすぎてもいけない。そういうところこそ賢いライダーの腕の見せ所なんです。コーナー進入からコーナー途中、コーナー脱出まで1周14コーナー以上、30ラップにわたって集中力を保ち続け、それで毎ラップ0.2秒しか違わない。そういう緊張感を保ち続ける。他の連中はたいてい追いつこうとか速く走ろうとして、でもタイヤを空転させたり、ワイドにはらんだりして遅くなる。ヴァレンティーノやミックやウェイン・レイニーやエディ・ローソンやジャコモ・アゴスチーニや、とにかくそれが誰であろうと、安全サイドに行きすぎることなく、しかもグリップの限界を超えることなく緊張感を保って走り続けることが重要だってわかってるんです」

バージェスはその28シーズンの経歴のほぼ半分で世界チャンピオンを獲得している。なんと驚くべき実績だろう。つまりたいていは幸せな気持ちでオーストラリアに帰っていたということだ。9か月もの長旅でスタッフを率い続けた後となればなおさらだろう。

「いつも一生懸命働いて、大いに笑って、でもシーズンの終わりには別れ別れになるのをみんな喜んでましたね」と彼は笑いながら言った。

今バージェスはアデレード郊外で家族と一緒の時を過ごしている。テニスとゴルフとクラシックカーのレストアの毎日だ。

「概して素晴らしいレース人生を送ったと言えますね。キャリアを通して素晴らしい人々、そして素晴らしいライダーたちと仕事ができたのは凄く幸せなことでした。だから本当に恵まれていたんだと思います」
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ビジネスの人は良く読むといいよ。

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新年:MotoGP2018年シーズンについて三つの予言

そんなわけでとりあえずMotoMatters.comのDavid Emmett氏による今シーズンの予想です。当たるも八卦当たらぬも八卦。
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年が改まり新たなチャンスもやってくる。なにもかも白紙状態からのスタートだ。未来のことはわからない。だからこそ予想を立てるには最高の時期である。乱暴で根拠のない予想もあれば、先を見通した確固たる予測もある。もちろんこれから語る予想がどちらになるのか私たちにもわかっていないのだが、それもまた予想の楽しみの一部なのだ。

2018年もまたバイクレースの歴史に残る素晴らしい年になりそうだ。そう楽観するのにはそれなりの理由がある。MotoGPがこれほど接戦となっていたことはかつてないし、多くの才能溢れたライダーがいる。そしてマシンの性能も接近している。さらに今年はMoto2とMoto3からフレッシュな若手もやってくる。彼らは古株どもを横に押しやろうとやる気満々だ。そしてワールドスーパーバイクで導入された新ルールのおかげでトップを走るライダーたちとそれを追いかけるライダーたちとの不平等が解消できそうだ。

新シーズンは私たちが望んだとおりになるのだろうか?レースでは何が起こっても不思議ではない。しかし2018年の重要なポイントについて3つほど予想を立ててみよう。

1.マルク・マルケスは7つめのタイトルに向けて自分らしく勝利を重ねる

「良い気分ですね」。ヴァレンシアで2018年型ホンダRC218Vの初テストを終えたマルク・マルケスは私たちに向けてそう言った。「良い気分なのはセッティングのパラメーターがちゃんと感じられるエンジンに出会ったのが初めてだからなんです。わかります?」

比較のために2016年のテストでのコメントをみてみよう。「現時点ではまだエンジンに電子制御をあわせていかないといけない状況ですね…トルクのマッピングもエンブレのマッピングも2016年仕様なんで。でも何もかも調整し直しですよ。それでみんなやらなきゃいけないことがたくさんあって、だから今日は長い1日でしたね」

2015年はどうだっただろうか?その時ホンダが持ち込んだ2016年の新型エンジンはどうだっただろう?「エンジン特性については上手く言えないですね。電子制御がまだまだなんです。かなり気を遣わないといけない。まだかなりアグレッシブなんですよ。それを電子制御で何とかしようとしてるところです。去年の段階でエンジンはかなりアグレッシブでしたけど、マニエッティ・マレリだとさらにアグレッシブになっちゃうんです」

2016年、2017年の両年、マルク・マルケスは大幅な変更が施されたエンジンでシーズンをスタートしている。まずはクランクシャフトの回転方向を変更し、1年後にはスクリーマーからビッグバンエンジンに変えた。そしてそのせいで戦闘力を増すためにかなりの労力を割くこととなってしまった。それでも彼は世界タイトルを獲得している。両年ともシーズン序盤は不安定な成績だったにもかかわらずだ。そして2016年の5勝、2017の6勝は他のホンダライダーに大きな差をつける成績であった。

時間を2017年11月のヴァレンシアまで進めよう。テストを終えたマルケスはここ数年なかったほどRC213Vの完成度を感じていた。おそらくHRCがマニエッティ・マレリ社の電子制御に関するデータをこの2年間蓄積してきたおかげだろう。そしてさらに確実に言えるのはこれがHRCがマニエッティ・マレリで働いていたエンジニアを去年から雇っているおかげだということだ。ミシュランの方向性も2018年に向けて固まっており、ほとんど変更すべき点はないようだ。

2018年、マルケスはこれまでとは異なりあまり手を入れなくてよい、そしてあまり問題を抱えていないマシンでスタートを切ることになる。もちろんRC213Vは完成形とは程遠い。しかし開発の焦点はエンジンからシャーシに移りつつある。本来はもっと早くそちらに移行したかったのは確かだが、今シーズンは問題の少ない、しかも強いマシンでスタートが切れるのだ。つまりマルケスに勝つのはかなり難しいということである。2018年、彼は多くの勝利を重ねるだろう。私は19戦中8勝か9勝はするのではないかとにらんでいる。タイトル争いに勝利するというのはつまりはレースに勝ち続けるということなのである。

2.ヴァレンティーノ・ロッシはヤマハとの契約を延長する

何年にもわたってヴァレンティーノ・ロッシが成し遂げてきたことを賞賛する理由はいくらでも挙げられる。しかし彼がその長い年月の間常にトップにいたことこそが最も賞賛に値するだろう。そしてこれは彼の業績の中でも最も評価されていないものである。38歳になっても戦闘力を維持していたライダーはほとんどいないし、彼ほど長いことトップに居続けたライダーに至っては皆無だ。彼の初勝利はアプリリアの125で挙げた1996年のブルノである。そして最も最近の勝利は2017年のアッセンで、これはヤマハのMotoGPマシンで記録したものだ。初勝利の20年10か月7日後のことである。そして4か月後のフィリップアイランドでは2位を獲得して再び表彰台に上がる。

2018年、彼は39歳になってシーズンをスタートすることになる。ほとんどのレーサーが引退を余儀なくされる年齢はとうに超えている。当然、今年の彼は同じ質問を受け続けることになるだろう。2018年いっぱいで引退するのか?と。

2017年の彼の答えは2015、2016の両年を通じて彼が答えていたものと同じだった。もし戦闘力があれば少なくとももう1年は走る。そして2018年で引退するのかという質問について考えるなら2017年の第16戦を思い出せばいい。彼は表彰台に立っているのだ。彼はたった2戦前に表彰台に乗っているのだから2018年に同じことができないと考える理由はない。そして彼が2018年も表彰台に昇れるなら2018年に勝利を挙げることもできるだろう。そして彼が2018年に勝利を挙げることができるのであれば2019年も相変わらず戦えるライダーのはずだ。

それが実現するかどうかのかなりの部分は今年のヤマハYZR-M1のできにかかっている。2017年はヤマハにとってここ数年で最悪の年となった。18レースでわずか4勝しかできなかったのだ。マーヴェリック・ヴィニャーレスはランキング3位に終わったが、これはヤマハとしては2007年以来のトップ2を逃す年となったということである。ロッシは5位。これまたヤマハに復帰した2013年以降最悪の成績だ。ヤマハは同じ轍を踏むわけにはいかないはずだ。ヴィニャーレスがヤマハ2年目となることを考慮すれば去年よりは2人のライダーからのフィードバックをうまく使うこともできるだろうし、開発の方向性もより簡単に定まるだろう。

ヴァレンティーノ・ロッシは最初の2〜3レースを走ってからヤマハとの契約延長について決めるというのが公式見解である。しかし1月末のセパンテストを終えた段階で決意するだろうというのがよりありそうなシナリオだ。セパンでマルケスやヴィニャーレスと一緒に走ってみて、戦える状態にあれば2018年、そしてそれ以降のタイトル争いも視野に入ってくるだろう。発表はシーズンも深まってからになるだろうが、私の中では来年もロッシが契約することは確定だ。そして延長オプション付きの1年契約となるのではないかというのが私の予想である。

もしヤマハの戦闘力が無い場合、ロッシはヤマハを離れて別のところに行くのだろうか?答えは間違いなくノーだ。2011年、2012年が悲惨な結果に終わったことを考えればドゥカティが彼の復帰を歓迎することはないだろう。いくら当時の関係者がほとんどいなくなっているとは言ってもだ。ロッシはホンダではいまだに出入禁止リストの中の一人である。2003年に彼に捨てられたことをホンダはまだ許してはいないのだ。一方ロッシとしてもKTMやアプリリア、スズキに賭けてみようという状況にはない。引退後もロッシはかなりヤマハとの強い関係を保つはずだ。VR46アカデミーはヤマハのサポートを受けているし、Sky VR46チームも最高峰クラスに上がったらヤマハM1を得るつもりでいるのだ。つまり彼が別メーカーに移っても良いことはひとつもないのである。ロッシとヤマハは強い絆で結ばれているのだ。特に彼の引退後はさらに強い関係となるだろう。しかしそれはまだしばらく先のことだ。

3.ストーブリーグはそれほど大したものにはならない

来年のMotoGPストーブリーグに向けて外野はもうかなり浮き足立っている。カル・クラッチロー、フランコ・モルビデリ、シャヴィエル・シメオンを除く全てのライダーが2018年で契約が切れるのだ。ワークスのシートは全て空くことになる。メーカー間で激しい契約金吊り上げ競争が始まるのをレースメディアの面々は舌なめずりしながら待っているということだ。

私は今年のストーブリーグが期待外れに終わるのではないかと懸念している。おそらくその名(訳注:英語ではSilly Season=ネタ枯れでバカバカしき記事が大きく取り上げられる夏場のこと)にふさわしいものにはならないだろう。最もありそうなのは、ほとんどのライダーが2019年も契約を延長するという、こちらとしては騙されたような結果だろう。今年のMotoGPのストーブリーグはかなり穏やかなものになりそうなのだ。

どうしてか?契約椅子取りゲームの中心にはいつも鍵になるライダーがいる。しかし2019年について言えば、中心にいるはずのライダーは誰もが移籍に興味がないのだ。マルク・マルケスはマシンの戦闘力がある限り喜んでホンダに留まるつもりだ。さらに重要なことは彼が自分のスタッフと一緒にやりたがっているということだ。友人のグループと言っても良い程のチームは彼にとって最も重要なものであり、成功の基盤なのである。ワークスチームは以前にも増して、ライダー交代に伴って全チームメンバーを雇い直すのを嫌うようになっている。エンジニアもメカニックも新型マシンについての経験が無く、そうこうしている内に新たなスタッフに道を譲っていなくなったスタッフが持っていたノウハウが失われてしまうのである。

ヤマハではヴァレンティーノ・ロッシはもう一年の契約を望んでいるし、マーヴェリック・ヴィニャーレスは自分がここでタイトルを獲れると信じて移籍してきた。もし彼が2018年の序盤で優勝するようなことがあれば移籍する動機は全くなくなることになる。ドゥカティのアンドレア・ドヴィツィオーゾは今もらっている契約金を遥かに変えた価値が自分にあることを証明しているし、彼にとってドゥカティ以外で唯一の現実的な選択肢はホンダしかない。ホルヘ・ロレンソは2017年後半に戦闘力のあるところを見せており、今年1年、彼の腕(そしてGP18のウイング)があれば2018年は充分戦えるはずだ。

ダニ・ペドロサのホンダのシートも安泰だろう(ドヴィツィオーゾがHRCと契約しない限り)。行く先の決まっていない中では彼は相変わらず最高のライダーなのだ。最近では最も過小評価されているライダーだがペドロサはこの16年毎年優勝している唯一のライダーであり、最高峰クラスの勝利数では歴代8位でケヴィン・シュワンツ、ウェイン・レイニー、ケニー・ロバーツといったライダーを上回り、エディ・ローソンと同じ成績なのだ。もし2018年型ホンダが良いマシンであれば彼はまた勝利を挙げるだろう。つまり戦闘力があるまだ32歳のライダーを置き換える意味がないということである。

ではスズキとアプリリアはどうだろうか?スズキの最大の失敗は2人とも新しいライダーで2017年のスタートを切ったことである。どちらも参照すべきデータを持っていなかったのだ。そのせいでアレックス・リンスもアンドレア・イアンノーネもシーズン前に間違ったエンジンを選んでしまうことになった。エンジンはシーズン中は変更できないのだ。スズキは二度と間違いは起こさないだろう。アプリリアは2017年からアレイシ・エスパルガロと共に歩を進めてきたが、彼らの抱えている問題はライダーを変えても解決するものではない。まず必要なのは良いマシンなのだ。

一番大きな動きがありそうなのはKTMだ。なによりヨハン・ザルコがワークス2席の内、1席は確保したも同然だろう。2017年に覚醒したザルコは自らが特別なライダーであることを証明してみせた。ポル・エスパルガロもブラッドリー・スミスもRC16の開発には大きな貢献をしているのは確かだが(ただしスミスは開発モードの時間が長すぎてレースモードに入りきれなかった)、どちらも長期的視点からはタイトルを獲る力があるようには見えないのも事実だ。この二人のテック3初年度と比べればザルコが力量で勝っているのは明らかである。しかも去年の方が争いは厳しかったのだ。ザルコが加入し、おそらくスミスが抜けることになるだろう。

ストーブリーグで本当に興味深いのは実はライダーよりマシンである。KTMは2019年にサテライトチームを作りたいようだ。ミゲール・オリヴェイラとブラッド・ビンダーをそこに入れようというのだ。それはチームになるのだろうか?LCRは長いことホンダと一緒にやっていて、カル・クラッチローとHRCの契約も2019年まであるし、マルクVDSはフランコ・モルビデリとの契約が2019年まである。つまりKTMが走らせたい誰かのためにのシートは一つしかないということである。

最有力候補はアスパー改めアンヘル・ニエート・チームだろう。ホルヘ・マルチネスは既にMoto3でKTMを使っている。となればMotoGPでもKTMに鞍替えするのは自然なことだろう。

MotoGPで大きな動きがあるまでには後1〜2年は必要ではないだろうか。その頃になればMoto3やMoto2からの新しい血がその地歩を固めているはずだ。MotoGPのこれからの鍵はホアン・ミルになりそうだ。Moto3での驚くべき1年を終えた彼には多くの注目が集まっている。Moto2でどれほど成長するのだろうか。もし彼が2017年と同様の素晴らしい結果を残せたなら次の激しい競り合いは彼を巡ってのことになるはずだ。
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ふむ。穏やかなストーブリーグでありますよう。

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今年良く読まれた記事ベスト10:2017年版

さて年末恒例ベスト10。ちょっと早めにアップです。実は今年の本当の1位は初出2013年、更新2016年の「ICD-10 エクセル表(カッとなって作った)」、2位は去年の「なぜホンダは決して楽な道を選ばないのか」だったんですが、カウントダウン形式で読んでいってこういうのがトップ2だとずっこけるでしょ、みなさん?あと4位には2014年の「MotoGPマシンでの身長の限界ってどれくらい?」とかも入ってましたし、2015年の「人は一生のうちに平均何回入院するか?」とかもランクインしてるのです。
ま、今年は更新が少なかったとは言え、やっぱりロングテールネタも侮れないってことかもですが。

では「今年の」「バイクネタ」ベスト10をご紹介。例によって記事ごとのPVなので、定期的にトップページにお越し頂いている方がカウントされてない(=検索でヒットする記事が上位にくる)とかありますのでそこんとこよろしく。
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10位「2017ザクセンリングMotoGP:書き切れなかったこと」(2017年7月5日)
 地元でフォルガーが2位に入って今年のテック3の好調さとヤマハワークスの不調っぷりを印象づけたザクセンリング。そのこぼれ話です。イアンノーネの減らず口が楽しいですね。

9位「ストーブリーグ表2018(2017.08.20時点)」(2017年8月20日)
 こうやってみるとちょっとした波風は立ちましたがやはり穏やかなストーブリーグだったなあと。ちなみに最終版を作ってませんでしたが、マルクVDSのモルビデリの隣にルティが来て完成です。

8位「スズキのMotoGP活動…いったいいつになったら底を打つのか」(2017年9月30日)
 イアンノーネのやさぐれっぷりに象徴される悩めるスズキのお話。でも終盤になってちょっとだけ光が見えてきたのではないでしょうか?っつーかそう思いたいですね。

7位「イタリアGP:クラッチローがグラベルで起こったことについて語る」(2017年6月5日)
 ムジェロでペドロサにはじき飛ばされたクラッチローのコメント。いつものあけすけなもの言いがちょっとした議論を巻き起こしましたが、そこはいつものカルのこと。オチつきで楽しくおさまっています。

6位「ビアッジ、バイクに別れを告げる:死ぬのが怖かった。」(2017年6月28日)
 モタードトレーニング中の怪我で重傷を負ったマックス・ビアッジのバイク降ります宣言。悲しいですがそれもまた人生。Ciao!

5位「2017ヴァレンシアMotoGP決勝まとめ:思うようにならないチームオーダー、そして奇跡」(2017年11月19日)
 タイトルがかかった最終戦ヴァレンシア。ランキング2位でマルケスを追いかけるドヴィツィオーゾをサポートするはずだったロレンソに出された謎の、っつーかもうこの時点では謎でもなんでもなくなっていた「推奨:Mapping 8」の文字。結局ロレンソは最後まで譲ることがなかったのですが、いろんな議論を巻き起こすことになりました。怒濤のMotoMatters.comの大長文です。あれだな、大長文をやっつけるとその後しばらく立ち直れなくなるくらいぐったりして、それが年末の更新頻度にひびいてるんだな、きっと(←てきとーな言い訳)。

4位「「みんなでZ席」キャンペーン」(2017年5月6日)
 今年もツインリンクもてぎはZ席にロッシ応援席を作りました。しかも最高の席であるZ2を含むZ1-Z3全部という暴挙。んで頭にきたので、もう誰のファンでもいいからZ席買っちゃおうぜ!というキャンペーンです。私も含めてロッシファンでない知り合いがそれなりに紛れ込んでいた様子。ちなみに今年もロッシは途中で転倒。ご愁傷様。こんなことならみんなに開放してくれれば…と思うことしきり。ちなみに今年も運営は最高でしたね。レースも最高だったし、満足感は高かったです。

3位「チームオーダーではなくチームスピリットの問題」(2017年11月19日)
 7位のEmmett氏の記事とは対照的にロレンソに批判的なMat Oxley氏の記事。あそこは譲っとくべきだろうと。バリバリ伝説世代としては巨摩郡を引っ張ったロン・ハスラムがコースアウトしながら「いけ、ガンボーイ」ってつぶやいたのを思い出してロレンソかっこいい!ってなってたけど、ドヴィツィオーゾとしては「おまえ邪魔」って思ってたっぽいので(Web Mr.Bikeのパオロ・イアニエリ氏によるドヴィへのインタビュー)、Oxley氏の意見が正しいのかもです。

2位「ストーブリーグ表2018(2017.06.15時点)」(2017年6月15日)
 今年は比較的穏やかだと思われていたのにイアンノーネがクビになるとかならないとかの噂も出てごたごたしました。め、結局おさまるところにおさまった感じでしたね。

1位「MotoGP:ロレンソがドゥカティについて語る」(2017年4月28日)
 良くも悪くも(主に悪くも、かな?)今年の話題の人だったホルヘ・ロレンソ。今年はドゥカティに移籍してなかなか苦労していますが、それでも最終盤はかなりやれるところを見せてくれました。これが1位なのはおそらくSRダンディ別館の読者の皆様の趣味を表してるってことですね、きっと。
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そんなわけで今年も1年お楽しみいただけたでしょうか。素晴らしいタイトル争いでしたが、来年も良いシーズンになりますよう。

それでは皆様良いお年をお迎えください。

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アメリカのGPレジェンド、ランディ・マモラ:2位になるということ

シーズンも終わってしばらく虚脱状態でしたが、最終戦直前の記事ですがちょっと面白いので翻訳。ランディ・マモラへのインタビューです。Cycle Worldより。
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13年間のGPでの500ccキャリアを通じてランディ・マモラがランキング2位を記録したのは1980年、81年、84年、87年の実に4回。58歳になるこの日曜にスペインのリカルド・トロモ・サーキットで行われたMotoGP最終戦を終えたマルク・マルケスが、そしてむしろこちらの方が近いだろうアンドレア・ドヴィツィオーゾがどんな気持ちになるのか、彼は良く知っている。

「みんなに言われますね。『敗者の中では一番だ』って」とマモラは言う。「でもレベルがここまで高くなってライダーの才能もマシンも凄くなると色んなライダーが勝てるようになってるんです。だからメダルを手にできるってだけでも凄く特別なんですよ。最初はスズキでケニー・ロバーツと戦って、その後はホンダでエディ・ローソンとって感じで少しずつ進歩しながらシーズン開幕を迎えてましたね。
 タイトル争いで僕を負かした相手にも勝ってるんですよ。それも全員にね。1986年は初めてヤマハに乗って、1レース勝ってランキングは3位。翌年は3レースに勝ってランキングは2位。僕らがヤマハのトップチームだったんです。その時勝ったのはワイン・ガードナーですね。ホンダがすごく速かったんですよ。ワインも見事に乗りこなしていた。それがほんとにうまいこといったんですね」

もしマルケスが日曜のレースで勝てば7勝を挙げて4度目の最高峰クラスのタイトルを獲得することになる。2013年の彼の勝利数をひとつ上回り、2016年と比べたら2勝も多い。しかし史上タイ記録となる10連勝を含む2014年の13勝には6つ及ばない。24歳の彼は現時点で35勝を最高峰クラスで挙げているのだ。

2日間のプラクティスを終えてマルケスはポールを獲得し戦いを有利に進めている。「間違いなくダニとマルクがユーズドタイヤでの速さがありますね」とドヴィツィオーゾは金曜に言っている。「それが今の現実です。コーナー中盤で僕は早さが無い。マシンを起こしてスムーズに脱出できないんです」。そんな彼は9番手からのスタートとなる。

マルケスはヴァレンシアで2度のクラッシュを喫している。金曜の午後のプラクティス終了直前と土曜の予選だ。どちらも彼はかすり傷一つ負わないで済んだ。マルケスと同様、ドヴィツィオーゾも6勝。彼にとってこれは2004年の125ccから始まったGPでの16年のキャリアの中での年間最多勝利である。

「このスポーツにかかわってるならわかってるでしょうけど、やっぱりドヴィツィオーゾにドキドキしますよね」とマモラは言う。「これまで彼のファンじゃなかったとしても今年はファンになってしまう。ドヴィはすべてを賭けているのか?その通りです。できることならやりなおしたいと思っているのか?もちろんです。でもそれは終わったからこそ言えることなんです。どっちにしろ彼は全力を尽くしたんです。
 レースではドヴィは勝たなきゃならない。それに加えて幸運も必要です。ダニ・ペドロサが2006年のポルトガルでニッキー・ヘイデンをはじき飛ばしたとき、今でも覚えていますけどニッキーはずっと「なんでだ、なんでだ、なんでだ」って言い続けてましたね。ヴァレンティーノ・ロッシはヴァレンシアで得点圏内に入るくらいで良かった。つまりニッキーにはチャンスはなかったってことです。でもロッシは転倒してゼッケン69がチャンピオンになった」

マモラは当時500ccのGPマシンを駆る最高のライダーの一人だった。「銀メダルを4個、銅メダルを2個持ってるんです。メダルを手に入れられない人だっているし、表彰台に上がらないままの人もいる。僕は表彰台には57回上がっていて、しかもその隣にはバイクを走らせたら史上最高ってやつらがいた。
 もちろん自分はチャンピオンだって言えないんですけどね。でかいパーティーには無縁なママだった。でも自分が思ってた以上のことができたんです。もちろんミスもしましたよ。自分を叱りつけたいくらいです。でもほんとにこの競技をやっていてよかったですよ。4つのメーカーで表彰台に上がってるんです。ランキング2位も3つのメーカーで獲得した。僕にとっては素晴らしいことなんです」
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写真のキャプションも面白いので翻訳。
1枚目「最高峰クラスの最年少優勝記録を持っているのはマルク・マルケスだが、表彰台の最年少記録は19歳のときフィンランドで表彰台に上がったランディ・マモラがいまだに保持している。ライダーズ・フォー・ヘルス(訳注:アフリカで公衆衛生活動をバイクでやろうという慈善団体)の共同創設者であるマモラは現在ドゥカティの2シーターMotoGPマシンを走らせている。「僕はもうパドックに38年もいるんですよ」

2枚目「ドゥカティのチーム力について:「これはジジ・ダリーニャのおかげでもありますね」とマモラは言う。「ここまでのバイクを作るには何年もかかるんです。フォーミュラ1と同じですね。まとも走るようになるのに5年はかかる。そういうところは似てるんです」

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チームオーダーではなくチームスピリットの問題

さて、さきほどアップしたMotoMatters.comのEmmett氏の文章はニュートラルややロレンソ寄りかも、でしたが、こちらはめっちゃロレンソに厳しいMat Oxley氏の記事です。Motor Sport Magazineより。
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最終戦ヴァレンシアをもって素晴らしいシーズンに幕が下ろされた。さてそろそろ決着させよう。ホルヘ・ロレンソがチームメイトの手助けをしなかったのは正しかったのか、それとも間違っていたのだろうか?

チームオーダーはむかつくだろうって?本当にその通りだ。しかしチームオーダーというものは必ずしも君が考えるようなものではないこともある。君がプロのレーサーでMotoGPのワークスチームで走っているとしよう。少なくとも100人が君のために働いている。君はスターかもしれないし、雇われている中ではたぶん一番お金をもらっている。テレビに映るのは君だし、女性たちが追いかけるのも君だ。しかし君がレースで走れるのはみんなのおかげだ。彼らがいなければ君は何物にもなれないのだ。この事実をわかっていないライダーはMotoGPのグリッドには一人もいない。

日曜、ドゥカティにはまだMotoGPのタイトルを獲得するチャンスが残されていた。ごく僅かなチャンスだが、チャンスはチャンスだ。この数か月、ホルヘ・ロレンソは最後の2戦になれば喜んでチームメイトのアンドレア・ドヴィツィオーゾを手助けすると我々に明言していた。彼はもっともらしくこう言い続け、そして先月のセパンでは実際にドヴィツィオーゾに譲っている。そして同じことをヴァレンシアでもするだろうと誰もが思い込んでいた。

しかし彼はそうしなかった。周回を重ねても彼はドヴィツィオーゾを後ろに従えたままヨハン・ザルコとマルク・マルケス、そしてダニ・ペドロサを追いかけ続けたのだ。ドゥカティのピットがうろたえているのは傍目にも明らかだった。ロレンソは何が起こっているかは正確に把握していた。しかし彼は合理的な判断ができるチームメイトなら誰でもするだろうことをしなかったのだ。まともなチームメイトならチームオーダーがあろうがなかろうがチャンピオン候補に道を譲って、自分自身で運命を切り拓くように後は任せるはずだろう。

もっともありそうな結果はドヴィツィオーゾがタイトルを逃すことである。レースに勝って、そしてマルケスかホンダが派手なミスをするのを待つしかない。つまり可能性は極めて低いということだ。彼は週末を通じて終始リラックスしていたが、それは彼のタイトル獲得の可能性が極めて小さいことをわかっていただからだろう。しかしそこがポイントではない。ロレンソはドヴィツィオーゾに任せるべきだったのだ。チームオーダーに従うべきだという話ではない。そうではなくてチームスピリットを大事にすべきだったということなのだ。

何年もの間私はなんとかホルヘのことを好きになろうとがんばってきた。ライダーを好きになろうが嫌いになろうが、それは私の仕事には関係の無い話だ。私の仕事はレースについて書くことなのだ。しかしレーサーも人間だ。リザルトに印刷されたただの名前ではないのだ。私は良いライダーもひどいライダーもたくさん知っている。しかし彼らがライディングの才能を持っているのであれば、人間として尊敬されなくてもレーサーとしては尊敬されるべきだ。そしてややひねくれた話ではあるが、私はある種のめんどくさいタイプのライダーと過ごすのが好きなのだ。彼らは血に飢えていて、だからこそレーサーとしての適性を持っているのだ。

もちろん私が好こうが嫌おうがホルヘは気にも留めないはずだ。私以外の誰でも同じだろう。彼はポップスターではなくレーサーである。彼の仕事はレースに勝つことであって、レコード売り上げやらテレビの視聴率やらを稼ぐことではないのだ。

しかし私は彼が日曜にやったことは間違いだったと考えている。4位と5位を入れ替えるのにさほどの重みは無い。なのになぜ彼はそうしなかったのだろうか?そうすれば(特にイタリアを中心とした)様々なジャーナリストからの攻撃を受けることもなかったはずだし、私もこのブログを書くこともなかっただろう。

ダッシュボードのメッセージとピットボードと、そしておそらく自らの良心の声までも無視するという彼の決断はこの数日大議論を巻き起こしている。イタリアのカジノという名の(もしくは彼らがそう呼んでいる)メディアへの返答を通じてロレンソとドゥカティは騒ぎを沈静化させようとしていた。ドヴィツィオーゾも同じだ。彼はそういう男だからだ。彼はチーム内での論争が誰の助けにもならないことを理解しているのだ、だからこそ彼は超然としていられるのだし自分の人生と折り合いをつけられるのだ。

ロレンソはこう言って自分の立場を主張している。ドヴィツィオーゾをザルコ、ポイントリーダーのマルケス、そのチームメイトのペドロサの3人からなるトップグループに追いつかせようとしていたのだと。自分はドヴィツィオーゾより速かったのだから、それで説明がつくと言っているのだ。

ただしそれは事実ではない。ドヴィツィオーゾのファステストラップは少しだけロレンソを上回っているのだ。そして3周目から18周目までのほとんどの周回でドヴィツィオーゾはロレンソを上回っている。より正確に言えば16周の内9周だ。そして何度か彼はロレンソのリアタイヤの直後にまで接近しているのである。

さらに言うならロレンソはペドロサとの差を着実に詰めていったというわけでもない。7周目、彼と前を行くホンダとの差は0.4秒。それが11周目には0.7秒近くまで広がっているのだ。そしてその差は0.8秒を超え、17周目までには1秒を超えることになる。ペドロサが少し遅くなった場合のみ二人の間が縮まっただけである。ロレンソは自分がドヴィツィオーゾより速かったと言っているが、自分が前にいるのにどうしてそれがわかったのだろうか?ドヴィツィオーゾは常にロレンソの0.2~0.3秒後ろにつけていたのである。

こうしたことがドヴィツィオーゾの冷静さにどんな影響を与えただろう?31歳の彼はバイクレーサーとしてはあり得ない程穏やかで合理的な判断をする。しかしその彼もチームメイトの頑迷さに冷静さを失ったはずだ。ロレンソが自分を引っ張っているのと同じようにペドロサに引っ張らせるチャンスもあったのだ。

もしドヴィツィオーゾがペドロサの後ろで4位になったらレースの様相も変わっていた可能性がある。ドヴィツィオーゾは何かで新たな可能性をみつけられたかもしれないのだ。こうしたひらめきもバイクレースでは重要な役割を果たすことがある。もちろんその場合でもタイトル争いの振り子を戻すには何か予想もしなかったことが起こる必要があった。しかしその予想もしなかったことが実際起こりかけたのだ。つまり試してみる価値はあったということである。どんなことでも試す価値はあったのだ。しかもロレンソには失うものはなかったのだ。

これは実際のチームオーダーとは何の関係も無い話である。これはチームとして一緒にやること、仲間を助けること、同じ方向に向かって努力すること、そういう話だ。これはチームスピリットの話なのだ。それこそがチーム競技であるバイクレースにとって重要なことなのだ。サッカーと同じなのだ。

ライダーなら良いチームに恵まれたいと思うはずだ。そしてすべてのスタッフに好きになってもらう、愛してもらうことが大事なのだ。だからこそ彼らは君のためにもう一頑張りしてくれるのだ。ライダーなら自分のために働く全ての人に目標達成の手伝いをしてもらいたいはずだ。1月の寒い夜、深夜1時を越えてもまだ会社にいて計算を続けながらなんとかプログラムを解析しようとしてるデータエンジニアに、あきらめて家に帰るのではなくもう少し頑張ってもらいたいはずだ。この日曜の午後、間違いなくドゥカティのスタッフの中にはロレンソへの愛を失った人がいるはずだ。

それだけではない。チームメイトにも愛されたいはずだ。ことによったら来年はロレンソがドヴィツィオーゾの助けを必要とするかもしれない。ドヴィツィオーゾは紳士だし過ぎ去ったことにいつまでもこだわる男ではない。しかし先のことはわかならい。正しいことをしそこなうという失態はいつの日にか自分に跳ね返ってくるかもしれないのだ。トム・サイクスとロリス・バスにピットでの良い関係がどれほど重要か聞いたことがある。彼らの関係のせいでサイクスはおそらく2014年のワールドスーパーバイクのタイトルを逃しているのだ。この件についてはロレンソとヴァレンティーノ・ロッシの関係を思い出してみてもいいだろう。

ロレンソにあらゆる手段でメッセージを送りタイトル獲得の希望を潰さないように頼んだにもかかわらずドゥカティは月曜には違う話を作り上げた。彼らはレースの状況を見誤ったと言うのだ。これは単にイメージ戦略の一環に過ぎない。組織を理性的かつ穏やかに保つためだ。しかし密室ではジジ・ダリーニャとロレンソがかなり率直に意見交換をしているのではないかと私は疑っている。

ロレンソでもドヴィツィオーゾでもいい。私はドゥカティがMotoGPタイトルを獲得するのが見たいと思っている。しかし日曜にロレンソがやったことは独善的なガキのやることだと思っているのだ。
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まあペドロサとの差とかも、実は17周目をピークにその後は着実に縮めていってるんですよね。そしてペドロサにロレンソが近づくにつれてロレンソとドヴィの差が広がっていってます。あとドヴィツィオーゾのタイムはロレンソに比べると安定していないので、数字があるからといって何かが証明されるとは限らないですけどね(というロレンソ好きの意見)。

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2017ヴァレンシアMotoGP決勝まとめ:思うようにならないチームオーダー、そして奇跡

お待たせしました。テストがはさまったので次のシーズンが始まっちゃった感じですが、MotoMatters.comの超長文まとめをいきます。
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様々なドラマが交錯したシーズン。最終戦がその掉尾を飾るべく、やはりドラマに満ちた戦いとなるのも当然だろう。タイトルの行方については当然のように予想通りの結果となった。マルク・マルケスは21ポイントという大差をつけてヴァレンシア入りしたのだ。それでも彼は11位以上でゴールしなければアンドレア・ドヴィツィオーゾが勝利を逃すのを祈ることになるという状況だったのだが。

予選終了時点ではマルケスにとってかなり有利な状況となっていた。彼はポールを獲得し、ドヴィツィオーゾはグリッド3列目に沈んだのだ。二人の間にはドヴィツィオーゾがトップを目指すのを阻むように強力なライバルたちがひしめいている。それどころではない。彼らは彼らで当然の権利としてドヴィツィオーゾから優勝を奪い獲るかもしれないのだ。

レース終了を告げるチェッカードフラッグが振り下ろされるまで、ギリシアの叙事詩のように様々な出来事が続けざまに起こっていた。チームオーダーと裏切り、クラッシュとクラッシュ寸前でのリカバリー、策謀と隠蔽、密かなマシン変更、誰もが予想しなかったほど上位でゴールする一群。味わい深い勝者、勝利に見放されたライダー、そしてタイトル決定。ヴァレンシアまでの17レースも多くの語るべきことがあったが、最終戦はこれまで以上に多くの物語に満ちている。

戦略と戦術

ある意味21ポイント差というのがレースを少々複雑にしたという一面はある。4度目のMotoGPタイトルを狙うマルク・マルケスにとっても、2007年以来のタイトルを目指すドゥカティにとっても戦略こそがすべてだった。集中を切らさないことに望みを繋いでマルケスはリスクを冒してでも序盤でプッシュし勝利を狙うべきだろうか?10番手辺りを安全に走るべきだろうか?しかしその場合集中力を切らして取り返しのつかないミスをする危険はないだろうか?転倒のリスクを冒して前に抜け出るべきだろうか?それとも血気盛んなアンドレア・イアンノーネやヨハン・ザルコのいる危険なトップ5辺りで留まるべきだろうか?

ドゥカティにとっても難しい決定が待ち受けている。まずやらなければならないのはドヴィツィオーゾをできるだけ前に行かせてトップを狙えるようにすることだ。しかし前にはチームメイトのホルヘ・ロレンソがいる。ロレンソを先に行かせてドヴィツィオーゾがトップに絡んできたら譲れる位置を確保させるべきだろうか?ロレンソにドヴィツィオーゾを引っ張らせて、できるだけ前まで一緒に行くべきだろうか?それともすぐにでもドヴィツィオーゾに道を譲って後は彼に任せるべきだろうか?

他にも考えるべきことはある。ダニ・ペドロサは自身が勝利することでチームメイトを助けることができる。アンドレア・ドヴィツィオーゾの前でゴールするだけでも充分だ。ヨハン・ザルコは初勝利を渇望しているし、アンドレア・イアンノーネはスズキでの初表彰台を狙っている。しかしどちらもタイトル争いに変な形で絡みたいとは思っていない。

誰が決めるのか?

あらゆる戦略やら何やらがこれにかかわるメーカーやチームで検討された。上手くいかなかった場合の対策も作られ、チームボスはライダーと話し、ライダーはチームと話し、ライダーとチームの間でピットボードに何を掲示するかが決められる。ワークスはダッシュボードメッセージを決め、ライダーにその意味が伝えられる。

しかし、どんな戦略を作り上げようとも、最後に何をするかを決めるのはライダーだ。ライダーはピットボードやダッシュボードのメッセージを無視することができるのだ。コンディションが悪ければマレーシアでのホルヘ・ロレンソのようにメッセージを見逃す可能性もある。ことによったら敢えて無視した上で、見なかったと言い張ることさえするかもしれない。

抵抗を突破する

スタートランプが消えるとマルク・マルケスの戦略が明らかになる。彼は前に出ることにしたのだ。彼はスタートダッシュを決めるとトップを狙う。しかし2列目からスタートしたチームメイトにはかなわなかった。二人は1コーナーに向けてマシンを倒し込んでいくが、ペドロサがマルケスのリアホイールに危うく接触しかけたほど接近していた。

2台のホンダに続くのはアンドレア・イアンノーネだ。その後ろをホルヘ・ロレンソとヨハン・ザルコが追いかける。しかし優勝を狙うザルコは11コーナーまでには優雅にアンドレア・イアンノーネのインにマシンを滑り込ませて3位に順位を上げる。

イアンノーネの後ろにはホルヘ・ロレンソが迫っていた。そしてその後ろにいるのがアンドレア・ドヴィツィオーゾだ。ドヴィツィオーゾは思い通りのスタートを決め、6位に上がりチームメイトの後ろにぴたりとつける。2周目にロレンソがイアンノーネを抜くとドヴィツィオーゾも2つのコーナーをクリアするころにはそれに続く。トップの5人、レプソル・ホンダ、ワークス・ドゥカティ、そしてテック3のヨハン・ザルコが後続を徐々に引き離し、勝利の行方はこの5台に絞り込まれる。つまりタイトルの行方も彼らが決めることになったということだ。

ネタバレ注意

早めにトップに立って後続を引き離そうというのがマルケスの計画だったとしてもそれに付き合う気はヨハン・ザルコにはさらさらなかった。ザルコはすぐにダニ・ペドロサを抜くと2周にわたってマルケスを追いかける。彼は6コーナーでマルケスを抜くとすぐにギャップを広げ始めようとする。彼はマルケスを引き離すことはできなかったが、しかしマルケスのアタックを怖れなくても良いくらいの速さは保ち続けることができた。

ザルコとマルケスは少しずつペドロサを離していく。一方ペドロサの後ろにはワークス・ドゥカティの2台が迫っていた。ロレンソはペドロサを追いかける。しかし後ろのアンドレア・ドヴィツィオーゾは明らかに苛立ちを増しながらチームメイトの後ろを走っていた。ドヴィツィオーゾはコース前半でロレンソに近づくが後半では少しだけ遅れてしまい、最大の抜きどころである1コーナーでアタックを掛けられる距離までどうしても近づくことができない。

“推奨”マッピング

これがレースの序盤1/3ほどにわたって続く。そしてロレンソがペドロサから離れ始めるとワークス・ドゥカティの我慢も限界に達する。ロレンソのダッシュに「推奨マッピング:マッピング8」と表示される。セパンで現れたメッセージと同じだ。

エンジンマッピングを変更した方が良いという穏やかな提案だろうか?レース序盤でタイヤのエッジがたれてしまったとでも?ロレンソがドヴィツィオーゾに道を譲るために進路を変えなかったということはそれが正しいというのもいかにもありそうなことだ。しかし5ラップ後に同じメッセージが表示される。つまりもうごまかす気はなくなったということだ。そしてその1周後にはロレンソのピットボードに順位を落としてドヴィツィオーゾに譲るよう指示がでる。ドゥカティとしてはこれ以上はっきりしたメッセージは出せなかっただろう。

ダッシュボードに表示される暗号も、ピットボードでのはっきりしたメッセージもしかし何ら期待された効果を発揮しなかった。ホルヘ・ロレンソはドヴィツィオーゾに道を譲ることなく前を走り続ける。彼はむしろペースを上げてペドロサに再び近づき始めたのだ。彼はドヴィツィオーゾをスリップに従えている。その間もダッシュボードとピットボードの両方でメッセージは表示され続ける。しかしロレンソはそれを無視し続ける。にもかかわらずドヴィツィオーゾは今やレース中のベストポジションまで上がってきたのだ。チームメイトの肩越しにはペドロサが見える。そしてそのすぐ前にはザルコとマルケスがいる。

この状況がメディアの間に議論を巻き起こしたのだ。チームオーダーとそしてドゥカティが心からロレンソをそれに従わせたかったことについてだ。しかしその議論はすべてチェッカードフラッグが振り下ろされて後の話だ。レースの女神はまだ驚きのネタを一つか二つ用意していたのである。予想されていた以上にレースが面白いものとなったのだ。

バトルが始まる

レースがその2/3にさしかかる頃、ダニ・ペドロサが徐々にマルケスとザルコに近づき始める。これをきっかけとしてマルケスは自分の選択肢を再検討し始める。彼は自分のペースがザルコに勝っていることに気付いていた。そしてザルコの後ろを走り続けることで集中力が途切れかけていることにも気付いていた。「彼の後ろを走ってるとき、自分はもっと行けるって思ったんです」とマルケスはレース後に語っている。「集中も切れそうでした。あり得ないようなミスも何度かしてたんです。自分のペースで走れてなかったらですね。そんな時、彼がミスをして僕が抜いて、でも彼はアグレッシブでしたね」

マルケスとザルコはその前も順位を入れ替えていたが、ザルコはマルク・マルケスやヴァレンティーノ・ロッシと同じ流派に属している。誰かに抜かれたら抜き返さずにはいれられない一派だ。二人のホンダとヤマハはダンスをするように2コーナーから4コーナーまでを駆け抜ける。ザルコがマルケスのインにねじ込み前に出る。マルケスの心が乱れているのは明らかだった。抜かれた後の彼は一旦後ろを振り向いてドヴィツィオーゾがどこにいるのかを気にし始めたのだ。

4周後、ザルコの直後につけたマルケスはチャンスを見逃さなかった。最終コーナーでザルコが僅かにアウトにはらんだのだ。マルケスにとってはそれで充分だった。過去何年もホンダは14コーナーではヤマハに歯が立たなかったのだが、ビッグバンエンジンが状況を変えたのだ。マルケスはクロスラインでザルコの前に出る。しかしザルコがついている音も聞こえていた。ザルコのM1が急速に近づいてくる音でマルケスの心はかき乱されることになる。

マルケススタイル

「僕が彼を最終コーナーで抜いたときは怖かったですね。彼のマシンがすごく近くにいる気がして、それでブレーキを遅らせてヤバい状況を避けようとした。でもそのせいで自分がヤバいことになったんです」。そのヤバい状況とはマルケスがレース後に語ったとおり、“マルケススタイル”そのものであった。彼は1コーナー進入でフロントを滑らせる。そしてフロントホイールは左側にフルロックしたのだ。マルケスはマシンを膝と、そして肘で支えながらなんとかフロントがグリップを取り戻すことを祈る。その間もフロントはロックしたまま白煙を挙げている。ついにリアがグリップを取り戻すと彼はマシンを起こして1コーナー外側のアスファルトから飛び出していく。どうにかマシンをコントロールしながら彼はグラベルに突っ込み、そして2台のドゥカティの数秒後ろでコースに復帰して見せた。

マルケスはレース後にこの一連の動きをこう分析している。「ストレートエンドで1台すごく僕に近づいてくるような気がして、それでブレーキを遅らせすぎたんです。これが最初のミスですね。そしてコーナーにも速く入りすぎた。で、突然小さくチャタリングが起きたんです。このチャタリングには今週末ずっと悩まされてたんです。そしてフロントが滑った。フロントが滑って、OK、とにかく最後までマシンを離さないようにしようって思いました。グラベルで止まるか壁まで行くかはわからないけど、とにかくマシンを離さないようにってね」

マシンにしがみつきながらもマルケスは転倒しないかもしれないと気付いていた。「フロントは滑ってましたけどリアはまだグリップしてることに気付いてたんです。フロントはいっちゃったけどリアはまだ大丈夫。で、肘で立て直せるなってなって、肘と膝を全力で突っ張ったんです」。この週末を通じて彼にかかっていたプレッシャーレスのせいでこんなことが起こったのだとしても、彼を救ったのもそのプレッシャーだ。「ここから立て直せたのはレースの緊張感のおかげですね。マシンの上で硬くなりすぎてはいました。でも同時に感覚も研ぎ澄まされたままだったんです。それでマシンを立て直して、またマシンを寝かせてアスファルトの上に留まるって手もあったんですけど、グラベルに入ってでも5位に留まる方が良いって思ったんです」

(ほぼ)不可能を可能にする

しかし転倒寸前からのマルケスの復活はドラマチックな幕切れに向けての前奏曲にすぎなかった。彼がコースに復帰する一方、ドヴィツィオーゾのタイトル獲得のチャンスが僅かながら広がることになる。このままマルケスが5位に留まれば優勝してもタイトル獲得は不可能だ。しかしドヴィツィオーゾにはそれ以外の選択肢はないのだ。「その時点でもう僕はほぼ終わってましたね。でもマルクがミスをするのを見て、もう表彰台なんてどうでもいいから勝ちに行こうと思ったんです。そこまでのペースはなかったけど、でもその時は全力を尽くしてました」

それ以前にホルヘ・ロレンソはペースを上げて前を行くダニ・ペドロサを追走していた。ドヴィツィオーゾがそれを追いかける。頼れるのは自分だけだ。しかしペースの違いが明らかになっていく。ロレンソはペドロサをプッシュし始める。ドヴィツィオーゾをトップに連れて行こうとしているのかもしれないし、2005年以来の優勝無しという結果を怖れていたのかもしれない。

理由はどうあれ、彼は走り続けることはできなかった。5コーナーで無理をしすぎたロレンソは進入でフロントを滑らせ転倒してしまうのだ。マルク・マルケスとは異なりロレンソはフロントのスリップから復活できなかった。

グラベルへ
だからといって彼が何もしなかったというわけではない。「グリップが無くなり始めてフロントは終わりかけてました」とロレンソは説明する。「ハードを選んでも変わらなかったですね。070(原注:ムジェロ以来使われているフロントタイヤ)のサイドは前のより充分固くて、ハードだともっと固いんです。最後の5周で右コーナーではフロントが滑ってましたね。クラッシュしそうなところからから何度も立ち直って、でも最後は無理だった。ダニとザルコがすごく近づいてきて、ちょっとリスクを冒したらいっちゃったんです」

限界を超えたドゥカティライダーはロレンソだけではない。コーナー3つ後にはペドロサとのギャップを縮めようとしたアンドレア・ドヴィツィオーゾが8コーナーでマシンを止められないままグラベルに真っ直ぐ突っ込みスロースピードで転倒、タイトル争いに決着がつく。再びマシンにまたがりゆっくりドゥカティのピットに戻ってきた彼はヒーローとして迎え入れられる。そこでアンドレア・ドヴィツィオーゾは自分がドゥカティに愛されていることを知るのだ。そしてそれは当然のことなのだ。

全力を尽くしてレースを戦ったドヴィツィオーゾだが、最初はタイトル争いが絶望的になってしまうことを怖れていたと言う。「5周目を過ぎた頃からはずっと最後まで100%で走ってました」とドヴィツィオーゾは言う。「トップと同じペースで走れてましたけどレース中ずっと限界以上で走ってたんです。だからホルヘはクラッシュしたんだし、僕もクラッシュした。そこまでのペースでは走れなかったんです。いいところまでは行けたんですけどね。0.2秒とかそれくらいの差なんですけど、全力で走ってるときの0.2秒って大きいんですよ」

スムーズに走れるように

最初はロレンソが少々邪魔だったが、5周目以降にロレンソがペースを上げると彼についていくことで自分がスムーズに走れるようになったとロレンソは言っている。しかし彼がドゥカティGP17を曲げるのにかなり苦労しているのは明らかで、レース後はかなりぐったりしていた。かなりのエネルギーを費やさなければなかったようだ。「ホルヘは僕が予選までよりスムーズに走れるように助けてくれましたけど、それでスムーズに走れてたというわけじゃないんです。体力も使いましたしタイヤも使ってしまった。体力を使い果たしたせいでスムーズに走れなくなった。クラッシュするまではトップについていけたんですが」

最終的に彼はフロントタイヤと体力を使い果たしてしまったのだ。「8コーナーでかなり強くブレーキングしたのは得意なコーナーだったからです。でも突っ込み過ぎましたね。マシンを止められなくてリアが滑ってしまった。ワイドになって白線を踏んでコースアウトしてしまったんです。ずっと限界を超え続けて、それでも走れてたんですけど、結局こうなってしまいました」

ホンダ対ヤマハ

タイトル争いは終わったかもしれないがレースにはまだまだ決着がついていない。ダニ・ペドロサがヨハン・ザルコに追いつきはじめ襲いかかるチャンスをうかがっているのだ。彼は14コーナーで一度抜きにかかるが少々無理をし過ぎてはらんでしまい、再びザルコにインに入られてしまう。ザルコはヤマハの優れた脱出加速を活かして最終コーナーを立ち上がりホームストレートで差を広げていく。

しかしペドロサはあきらめていなかった。残り4周、ザルコを追いながらチャンスをうかがう彼は明らかに速さでは勝っていたのだ。しかしザルコも黙ってはいないだろう。もしペドロサがトップに立ちたければもう一段上を行くしか無いのだ。

ペドロサは最終ラップに入ったところに狙いを定めていた。ザルコの後ろ、スリップがきく位置につけた彼は、スリップから抜けると今週の彼が出した最速スピードでストレートを駆け抜ける。ザルコに並んだ彼はインをとるとブレーキングで前にでる。ペドロサは完璧なラインでコーナーに入り、ザルコは進入でワイドにはらむ。そしてほんの僅かリードが広がる。

それで充分だった。ペドロサが2コーナーで少しだけラインを外したときザルコは充分狙える位置まで近づいていたのだが、ペドロサはうまくリカバーしてみせたのだ。最終ラップで全力を尽くした彼はザルコが再び抜こうと思えない距離を保ったままゴールラインを駆け抜ける。今シーズン2度目となる素晴らしい勝利だ。そしてレプソル・ホンダのチームタイトルにさらにポイントを上乗せしたのだ。

穏やかでも偉大

ペドロサの優勝にはありがちなことだが、今回も歴史的な偉業にもかかわらずあり得ない程無視されてしまいそうだ。今回の勝利でペドロサはエディー・ローソンの持つ最高峰クラス31勝という記録に並び、ドゥーハンの通算54勝(ドゥーハンの場合はすべて500ccでの記録だが)にも並んだのである。1988年から1993年の黄金時代に活躍したライダーでいまだにトップ4以内に名を留めているのはドゥーハンだけだ。ヴァレンティーノ・ロッシ、ホルヘ・ロレンソ、マルク・マルケス、そして今ダニ・ペドロサがレイニー、シュワンツ、ローソンを上回っている。残りはドゥーハンだけだ。

ペドロサは今後も過小評価された天才で居続けるだろう。ヴァレンティーノ・ロッシ、マルク・マルケス、ホルヘ・ロレンソ、ケイシー・ストーナーの全てにキャリアを通じて安定して勝ち続けている唯一のライダーなのだ。彼がMotoGPタイトルを獲得していないと指摘するファンもいるが、それは彼が史上最高の4人のライダーに互して最高峰クラスで31勝を挙げているという事実を無視しているのだ。タイトルを獲れなかったライダーの名簿はもの凄く長いものだ、そしてMotoGPのエイリアンを相手に勝つ続けられたライダーはごく僅かしかいないのである。

今回の勝利もおそらく忘れられてしまうことだろう。記憶に起こるシーズンの議論になったレースのことを振り返ったときのトリビア問題になってしまうかもしれない。レース後にペドロサの勝利に語っていた人は僅かしかいなかった。ほどんどはチームオーダーやホルヘ・ロレンソがアンドレア・ドヴィツィオーゾを助けなかったことやマルク・マルケスのクラッシュ寸前からの復帰について語っていた。しかしダニ・ペドロサはそんなことは気にしないだろう。彼は勝利をおさめ、そして今ウインドサーフィンに向かっている。ペドロサが勝利を目指すのは自分を満足させるためであり人々の注目を集めるためではないのである。

ダメなハンドリング

ペドロサの優勝に陰を落としたのはそびえ立つ策謀の壁だ。まず最初の疑問はチームオーダーについてである。ドゥカティがロレンソのダッシュボードに「推奨マッピング:マッピング8」というメッセージを表示した際には「疑わしきは罰せず」の原則を通すこともできた。もちろんドゥカティがセパンでチームオーダーについて頭を悩ませていたことは間違いない。しかしそれとダッシュボードに表示されたメッセージの直接的な関係を証明することは難しかった。

ヴァレンシアで最初にロレンソのダッシュボードに同じメッセージが表示された時点で、それはほぼチームオーダーを暗号で表したものであることは確証できた。そして何度もそれが表示されるに及んで(実際にはレース中盤からはずっとダッシュボードに表示されたままだったようだが)疑いの余地は無くなった。そしてドゥカティはダッシュボードメッセージに続いてロレンソのピットボードには他に解釈のしようがない「一つ順位を落とせ」というメッセージを出している。ドゥカティはヴァレンシアのレースでチームオーダーを出したということだ。そしてホルヘ・ロレンソに順位を一つ落とすように命令したのである。

ドゥカティにとっての問題を大きくしたのはホルヘ・ロレンソがオーダーを無視したという事実だ。最初から最後までロレンソは後ろを走るドヴィツィオーゾに順位を譲ろうとはしなかった。順位を落とすふりすらしなかったのである。特に最初の数周、ドヴィツィオーゾは明らかにロレンソより速かったにもかかわらずだ。

だから前から言ってたじゃないか

これは驚くべきことではないのかもしれない。土曜に時点でチームメイトを手助けするかと訪ねられたロレンソは、助けるための条件を明確に示したのである。「それほど複雑な話ではなくてドヴィはまずトップグループにいるのが条件ですね。で、トップグループに彼がいたら後はトップグループのライダーがそれほど多くなくて彼にも勝つチャンスがあって、そして彼にとっては理想的な展開ですけどマルクが何かミスをするかトラブルがあるかですね。それはかなり難しいですけどまずは勝つこと、そしてマルクが12位以下でゴールすることが条件ですから。そう簡単には起こることじゃない。マルクがエンジンに問題を抱えるとかクラッシュするとかの方がありそうですね」

ロレンソは自分がドヴィツィオーゾを手助けする状況については明確なビジョンを持っていた。「まずは自分がトップグループに入るようにしないとね。そしてドヴィもそこにいて、で、マルクが何か問題を抱えていて、その上でピットサインかダッシュボードを見て、そうしたら手助けしますよ」。

コーポレートコミュニケーション

レースの展開のおかげでドゥカティはイメージ低下防止に向けて緊急対処が必要な羽目に陥ることになる。レース終盤の何周かを残して二人がピットに戻ってきたとき、まずはロレンソがドヴィツィオーゾのところに行って自分がやったことについて説明を始めた。テレビの画面ではドヴィツィオーゾがそれに反論することなく受け入れる姿が映っていたが彼の表情は明るいものだったとは言えない。

レース後、メディアの面々が押しかけたのは「例のスポンサーのホスピタリティ」と遠回しに呼ばれている場所だ。ライダーが何を話すか聞くためである。公式発表はもう決まっていて、当事者たちも説明を受けているのは間違いない。ジャーナリストたちはドゥカティのボス、パオロ・チアバッティが会社の公式見解をチームボスのダヴィデ・タルドッツィに渡しているのを目にしている。我々がチアバッティと話す時点ではチームの末端までその見解が浸透していた。

ドゥカティの公式見解のポイントはロレンソのダッシュボードに表示された「推奨」という言葉である。チアバッティはこう語った。「これはピットの視点からのライダーへの提案ですね。ライダーは私たちが他のライダーも見ていることはわかってるわけですし、今回について言えば、ドヴィと話してもらってもわかると思いますが、序盤は彼が速いコーナーもあったし遅いコーナーもあったと彼は考えている。でも見方を変えると彼のきれいなラインのおかげでドヴィは楽に乗れていたってのもあるんです。だから彼はペドロサに追いつくことができたと言っているし、残念ながら二人とも限界を超えてしまったとも言っている。そしてホルヘも、自分がマルケスにトラブルが発生するのを見たて、しかもトップに追いついたら間違いなく抜かせたって言っています。でもまずはトップグループに追いついて1位と2位の座を確保しなきゃならなかった。話はそれからだったんです」

私たちには見えないこと

チアバッティはテレビ画面で状況を判断することの危険性についても言及している。「正直言うとテレビ画面だけでは本当は何が起こっているのなんて絶対にわかりませんよ。ライダーが前との差を詰められると思って、もう一人がそれについていけると思っていて、そしてきれいなラインをなぞることで上手くいっていると思ったのならそれでいいと私は思ってますよ。ぜんぜん怒ってなんかいません。もしマルクがクラッシュしてロレンソが勝ってドヴィが2位なんてことだったらそりゃあ頭にきますよ。でも今回はそうはなってないんです。
 さっき言った通り、見た通りに判断することはあるでしょうけど、マシンに乗って走ってるのはライダーなんです。まだいけるかどうか、マージンがあるかどうか、前との差を、チームメイトとの差を詰められるかどうか、そういうことを判断するのはライダーなんです。だから彼が抜きにかかったり、別のライダーが接近したりとか、そういう状況があったとはとても思えないんですよ。だからドヴィの言ったことがすべてですね。彼がそう思うからそうなんだってことです。だから彼も頭にきてなんかいない。彼は本当に少しだけリラックスできて、それほど無理をしなくて済んだってことなんです」

そうは言ってもドゥカティはロレンソとも話をしている。「ええ、私たちは彼がドヴィの邪魔になっていた場面もあると思ってましたからね。でも結局こういうことになって、ドヴィは怒り心頭でピットに戻ってきても良かったのにそんなことはなかった。だからプロのライダーを信頼すべきってことですよ。彼らは自分が何をしているのか充分わかっている。私たちの提案はドヴィを前に行かせることだった。彼を前に出すべきだって思ったんです。でも別の見方をすれば、確かにドヴィは遅れ始めていて、そこから取り戻していったのも事実なんです」

一丸となって

ドヴィツィオーゾに抜かせれば全てが済んだというわけではもちろんない。ドヴィツィオーゾがタイトルを獲得するにはそれ以上のことが起こらなければならなかった。「前の二人を抜くためにはまずは追いつかなきゃならなかった」。チアバッティはこう続けている。「もし追いつけなければどうにもならないわけです。そして二人ともにクラッシュするまでは実にうまくいっていた。前2台との差を着実に詰めていけてましたからね。でも結局、マルクがクラッシュ寸前から立て直したのを見せられた。彼は5位か4位でゴールするだろうし、残念だけどそれじゃあうちにとってはなんの意味も無い。彼はクラッシュしなかったってのがすべてですね。彼はグラベルに突っ込んで、それでマシンを立て直せないまま再スタートできない可能性もあった。でも結局そうはならなかった。だからうちにとっても後悔はあんまりないんです」

チアバッティは不当な形でタイトルを奪われたとドゥカティが思っているわけではないと明言している。「実際マルケスはチャンピオンにふさわしいですよ。だって今シーズンの彼のライディングは凄かったですからね。それにマルケスとホンダを相手にして最終戦まで戦えたってのはすごいことだと思いますよ」。そう彼は語っているのだ。

「もちろん心から喜ぶことはできないですけどね。ブルノやフィリップアイランドのことは後悔してますし、アルゼンチンでのクラッシュも悔やんでいる。あれはうちのせいじゃないですから。もしもっといい立場で最終戦に臨めたなら、そしてフィリップアイランドとかアルゼンチンで失った11ポイントとかが取り戻せたなら話は違ったと思うんです。5ポイントとか6ポイント差だったかもしれない。そしたら違う戦略もあったでしょうしマルケスにかかるプレッシャーも違ったでしょうね。でもこれがレースってものですから。マルケスだってシルバーストンでエンジンブローに見舞われてますしね。もしそれがなかったらたぶんあそこでは表彰台だってしょうし」。チアバッティはレースで起こる予測不可能な事象について辛そうにこう語ったのだ。「たられば」が本当になるなら毎日がクリスマスみたいなものだろう。

紳士にふさわしい良い仕事

ドヴィツィオーゾは敗者となってもいつもの通り人間の大きさを見せてくれた。「メッセージについては何も知らないんです。序盤では僕の方が少し速い場所もありましたけどコースの後半は遅かっだですね。週末を通じてずっとホルヘからは0.3秒遅れくらいまでしか詰められなかった。でもレースではもっと良かったんです。でもまだ彼よりは遅かった」。ドヴィツィオーゾはロレンソのおかげで体力を温存できたと強調している。少しだけスムーズに走れたということだ。レースを通じてドヴィツィオーゾの走りは彼らしくないものだった。マシンと格闘していたのだ。ロレンソの後ろで走ることで少しだけ楽に乗れるようになったのである。

ドヴィツィオーゾは今シーズンの最後のレースから明るい光を見出しているようだ。「クラッシュするまではトップグループについていけましたからね。つまり去年より戦闘力がついてきたってことなんです。去年のヴァレンシアより戦闘力があったんで嬉しいですね。でも結果を見ればわかるとおりまだ充分じゃない。でもトップは遠くない。まだ足りないところはあります。コーナリングとかはまだmだですし、もっとスムーズに乗れるようにしないとね」

厳しい尋問
ドヴィツィオーゾがメディアに優しく接してもらい、そして彼が会見のために椅子に座った時には大きな拍手が起きた一方で、ホルヘ・ロレンソは容赦ない攻撃にさらされていた。イタリアメディア向けの会見では、彼がドヴィツィオーゾに譲らなかったことについてあるジャーナリストがほとんど喧嘩を仕掛けていた。ロレンソはかなり苛立ち最後にはイタリア語での返答をやめスペイン語で話し始めたほどだ。「あなたは質問してるんじゃないでしょ。質問してるんじゃないなら答える気もないですね」

英語話者向け会見でのロレンソはそれほど戦闘的ではなかったが、何が起こったのかについてかなり厳しい質問を浴びていた。彼の言い分はドゥカティの作り上げた公式見解そのものだった。「ドヴィが後ろにいたことに関しては、見ての通り今週末の彼はずっとリズムが作れないまま苦労してましたからね」。それがロレンソの説明だ。「タイトルがかかったのが彼が得意とするサーキットじゃないのも悔しいですね。もし他のコースなら彼はもっと速かったはずです。でも週末を通して僕の方が速くてマルケスと同じくらいで走れてた。トップグループとはコンマ何秒くらいの差になったあたりでドヴィについてのメッセージがダッシュボードに出てるのを観たんですけど、最後まで攻めて前に近づいて残りのコンマ何秒かを詰めた方がドゥカティにとっても僕にとってもドヴィにとってもいいって思ったんで」

今回はメッセージを確認できたとも彼は言っている。「メッセージは見てますよ。でもその提案を見た上で最後まで攻めることにしたんです。その感触は正しかったですし。ドヴィのタイムを0.1〜2秒は縮める助けになったし、それでトップグループに近づくことができた。トップグループに近づくのが僕の目的だったし、それは見ての通りです。ペドロサに近づいてていて、もしドヴィツィオーゾが僕に近づいて優勝が見えてきたなら譲るつもりでした。そうはならなかったのは残念ですが。もしマルケスがクラッシュしたのを見たら彼を前に出してましたよ」

走りながら考える

ロレンソが憤激しているのは見た目にも明らかだった。「それ以外に何ができたってんですか?チームにとっても僕に撮ってもドヴィにとっても最高の結果になるようにやってたのに。そりゃドヴィが近づくコーナーもあったでしょうし、僕が彼にスペースを残すために遅くなったこともある。でも30周全体を考えたら彼の前を走る方が彼のタイムを縮めることができたんです」

ロレンソは家でテレビを見ているファンの目にどう映ったかということは全く気にしていない。「まず言いたいのは、今この時点では僕は他の人がどう考えるかなんて気にしてません。僕は自分が良かれと思ったことをするだけだし、チームを一番に考えてるんです。今回も同じですよ。なんでこのことについてずっと話してるのか意味がわかんないですよ。チームにだってなかなかわかってもらえないのに、関わりのない人にわかってもらえるなんてとても無理ですよ。10倍くらい難しい」

彼がピットに戻るとドゥカティのレース部門のボス、ジジ・ダリーニャがロレンソのもとにやってきてメッセージを見たのか尋ねたという。ロレンソは語る。「ジジが僕にメッセージを見たかどうか聞いてきたんで、ちゃんと見てたし、あれが自分にできる最良のことだって答えたんです。彼はドヴィにも話を聞いていて、ドヴィも前に行くのに僕が助けになったって言ってます。僕もドヴィのところに行ってなんで僕が攻め続けたか説明して、彼も『あれ以上は自分にはできなかった』って言ってます」

誰の目にも悪そうに映る

ロレンソの決断は正しかったのだろうか?それとも彼はチームオーダーを無視した咎で罰せられるべきだろうか?結果はどうあれドゥカティもロレンソも褒めてもらえるような状況にはないのは確かだ。今回の状況が生み出したドラマのせいで関係者すべてがひどい人間にのように見えてしまう(ただしアンドレア・ドヴィツィオーゾは当然のようにその例外だ)。ドゥカティはチームオーダーを出してライダーを無理矢理従わせようとしたひどい会社に見える。その上、最初はダッシュボードに表示されたそれがチームオーダーではないとごまかしたせいで、さらに悪者になっている。そしてホルヘ・ロレンソがそれを無視したことがさらに問題を大きくしている。

ホルヘ・ロレンソもまたひどい人間に見えてしまっている。彼が正しいことをしかたどうかではなく、チームオーダーのせいで彼はチームメイトを窮地に追い込んだ悪人となってしまった。それもただのチームメイトではない。かつての負け犬が気骨を見せて最強のマルク・マルケスに挑んでいる、そのアンドレア・ドヴィツィオーゾを窮地に追い込んだことになってしまったのだ。たとえドヴィツィオーゾを前に行かせるより後ろに従えて走った方が助けになったとしても、彼の選んだ方法はひどいものに見えてしまうのだ。世間に対するロレンソの印象は元々よろしくないものだった。しかし今回のことはそれをさらに悪くする方向にしか働いていない。

しかし今回の件で最悪なのはこれら諸々が結果になんの影響も与えなかったということだろう。アンドレア・ドヴィツィオーゾはそもそもヴァレンシアで勝てる速さがなかったのだ。それはロレンソが彼を引っ張ろうが彼を前に行かせようが関係なかっただろう。マルク・マルケスは珍しくも神経質になって多くのミスを犯したが、5位よりもっと下でゴールすることもあり得なかった。ドヴィツィオーゾもプレッシャーと緊張感から逃れることはできなかった。マシンの上の彼はひどい様子で、あらゆるコーナーに進入するたびにマシンと格闘していた。彼の体は弓のようにこわばり、力を発揮できないまま彼の速さはどこかにいってしまった。

では、もしロレンソがドヴィツィオーゾを前に行かせていたらどういうことになっただろうか?ドヴィツィオーゾはやはりクラッシュしていた可能性があるし、トップに追いつこうとなんとかする遙か以前に転倒していたということもありそうだ。レース後半のドヴィツィオーゾはロレンソより遅かった。つまりドヴィツィオーゾは転倒し、さらにロレンソもトップに追いつけず大した成績を残せないという結果に終わった可能性もあるということだ。

正しい?間違い?どうでもいい?

ロレンソがやったことは間違いだったのだろうか?必ずしもそうとは言えない。彼の行為はタイトル争いに実質的な影響を及ぼしていないのだ。彼に関して言えば、確かにドヴィツィオーゾをトップに追いつかせようとしていたというのは事実の可能性が高い。しかしことここに至ると確固たる証拠がほしくなるというものだ。もちろんロレンソがそうしたように自分の意見を表明することは可能だ。タイトルを逃したドゥカティの悔しさを和らげるために優勝を狙うべきだったと主張してもいい。あらゆる言説がそれなりの価値を持っている。しかしそれでも目に見えるものがひどすぎるのだ。

広報の視点から言うとドゥカティとロレンソにとって最高のシナリオはこうだ。ロレンソにドヴィツィオーゾを行かせるよう最初にメッセージを出した際にロレンソがその通りにする。同じメッセージを何度もダッシュボードに表示させるというのはドゥカティにとっては良くない状況だ。さらにそれを暗号で出したというのもまずい。ロレンソがそれを無視したというのは、ドゥカティにとってもロレンソにとってもダメージを大きくしている。

2017年のMotoGPタイトルを獲得するためにドゥカティがあらゆる手を尽くしたことについては責めるべきではない。彼らはできることをやって、それでも目標には届かなかっただけだ。こんなことで2017年のすばらしい、そして実は心温まる物語に影が落とされるのは残念だし、それ以上に悲しいことだ。アンドレア・ドヴィツィオーゾが偉大なライダーの一人となったのだ。彼は史上最高のライダーと互角に戦ったのである。

偉大なライダーが作られるのを見ているのだ

はっきりさせておこう。2017年のタイトルを獲得したことでマルク・マルケスは史上最高のライダーになったということは間違いない。彼はシーズンを通じて何度もそれを証明してみせたのだ。彼は必要とあればこれまで誰もやったことのないやり方で勝ってみせた。新たな戦術、新たな戦略、時にはシンプルに誰も真似のできない速さでもって勝ってみせた。彼の能力と生まれ持った才能には疑問の余地はない。馬鹿馬鹿しいと言ってもいいほどの転倒寸前からの復帰は、居並ぶ我々に彼の才能をまざまざと見せつけるものだった。まだまだこれからの24歳にもかかわらずマルケスは既に6つの世界タイトルを獲得している。しかもその内4つは最高峰クラスだ。そして彼は4つの最高峰タイトルと6つの世界タイトルを最年少で達成しているのだ。彼はここ何年も開幕時点でMotoGPのチャンピオン最有力候補に挙げられ、そして毎戦優勝候補となっている。

今年の彼のタイトル獲得は安定性によるものが大きいだろう。もちろん優勝も多い。マルケスとドヴィツィオーゾは共に6勝ずつを挙げているのだ。しかしそれ以上に重要なのは彼が優勝できないレースでポイントを稼いでいることである。彼の表彰台は6回。対するドヴィツィオーゾは2回。ゴールしたレースでの最低順位はムジェロの6位だ。あとは4位が2回あるだけで、それ以外は表彰台に昇っているのである。

この安定性のおかげで今シーズン彼をみまった3度のリタイヤにもかかわらずチャンピオンを獲得できたのだ。その内2回は彼のミスのせいだ。コンディションがついてこなかったのに責めすぎたのが理由である。しかし3つめについてはホンダのせいだ。シルバーストンでのエンジンブローである。これがなければもっと早くタイトルは決まっていただろう。

アンドレア・ドヴィツィオーゾについてはどうだろう。勝てないときの彼はかなり苦労していた。彼がゴールしたレースでトップ5を逃したのは4回。その内1回はフィリップアイランドでの13位だ。しかし彼はマルケスを最終コーナーでの競り合いの末に破ってもいる。オーストリアともてぎだ。敗れたとは言えドヴィツィオーゾの成績は誇るべきものだ。

楽な勝利はない

今シーズンのマルケスがどれほど辛い思いをしていたかは彼の美容師が気付いている。マルケスがタイトル獲得のプレスカンファレンスでこう語った。バルセロナを終えてマルケスが髪を切りに行くと美容師が彼に何か悩みがあるのかと尋ねたというのだ。「モントメロの後、美容院に行くと彼女が言ったんですよ。『何があったんですか?』ってね。『何があったって?なんでそんなこと聞くの?』って返すと『禿がある』って。24歳なんだからそんなわけないって言ったんですよ。僕のおじいさんも父親も髪はふさふさですから。で、その足で病院に行ったらお医者さんがレースに対するやり方を変えろって言うんです。ストレスがひどすぎるんだって。それでわかったんです。いつもにこにこしてるし楽しいと思ってるんだけど、心の底では違うって。僕も普通の人間でプレッシャーを感じてたんです」

彼はこうしたことについてチームとも話をしていたようだ。「ルマンが終わって空港に向かう車の中でエミリオとホセに言ったんです。乗ってて楽しくないって。仕事だから乗ってるけど楽しめてない。それで考え方を変えることにしたんです。まずは楽しく乗れるようにアプローチを変えよう、その上でどう結果を出せるか考えようってなったんです。今はそうやってるんです。テストではしゃかりきに働く。テストでは毎日100周以上走る。楽しくやれる方法をみつけたんです」

その変化はフレームにも表れている。マルケスは彼専用の剛性の高いフレームを捨ててホンダの他のライダーと同じフレームを使い始めたのだ。「ルマンの後にモントメロでテストをしたんです。そこで変えたんです。違うフレームを試して、選んだのは新型じゃなかった。カルとか他のみんなが使ってるスペックになったんです。僕が使ってたのは違うやつでした。でもみんなと同じ方が少しだけいい感じだったんです。ちょっとずつ色んなことを試したんです。そうやってちょっとずつ感触を取り戻していった」。それでもまだマシンに全幅の信頼を置いて走れているわけではない。それが今シーズン27回もクラッシュした理由だ。しかし戦闘力は取り戻している。そしてマシンも気持ち良く乗れるようになっているのだ。

悩めるヤマハ

マルク・マルケスのタイトル獲得は誰にとっても予想の範囲内だが、2017年のヨハン・ザルコの活躍には皆が驚かされることになった。モンスター・テック3ヤマハの彼はルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得したばかりかベスト・インディペンデント・ライダー(訳注:サテライトのトップ)まで獲得したのである。彼のMotoGP初勝利もそれほど遠くはないはずだ。今シーズンは微妙に歯車がかみ合わないことがあったし、それがまたしてもヴァレンシアで起こってしまったのが未勝利の原因である。彼はヴァレンシアではトップから1/3秒差でゴールしているが、前にいたダニ・ペドロサには1コーナーできれいに抜かれた末の敗戦なのだ。

今シーズンのザルコがすごいのはワークスのモビスター・ヤマハの前で何度もゴールしているということだ。シーズン前半、ヴァレンティーノ・ロッシとマーヴェリック・ヴィニャーレスの二人を後ろに従えてザルコがゴールしたのは9戦中4戦。ヴァレンシアも同じだ。ワークスヤマハを差し置いて第一バイオリンを弾いたのはザルコだったのである。

ワークス・ヤマハが最終戦で試験的に2016年型フレームに戻したにもかかわらず同じことが起こっているのだ。そうだ。2017年型を捨てたヴィニャーレスとロッシがヴァレンシアのレースで使ったのは2016年型だったのである。当初の予定ではテストで旧型フレームを使うはずだった。しかし予選結果が奮わなかったことでロッシもヴィニャーレスも失うものはないと考えたのだ。どちらも前よりましだったとかんじている。旧型フレームの方がシーズンを通じて見つからなかったものを持っているようだ。しかしセッティング時間が限られていたせいでトップ争いができるほどマシンを仕上げられなかったのである。

先祖返り

セッティング時間が特に不足していたのがマーヴェリック・ヴィニャーレスだ。彼は3回目のアタックでマシンを止めてしまう。マシンから得られる感触が良すぎて無理をしてしまったのだ。「フレームの感じは最高でしたね。最初のアタックで1分32秒台を連発できて、2回目には2番手まで上がれた。今週通じて得られなかった感触でした。すごくいい感じで、だからちょっと責めるのが早すぎたんですね。ほんとにいい感じだったんでね」

セッティング時間が足りなかったのがヴィニャーレスにとっては全てだった。リアタイヤにバイブレーションが出た結果12位でゴールすることになる。しかし彼が得た良い感触のおかげで火曜のテストに向けての光が見えているらしい。そして2017年についてはもうすべてを忘れてしまいたいようだ。「今シーズンについてはこれ以上考えたくないですね。もうこれで終わりにしたいです。もう次のシーズンに向けて走り始めたいし、もう同じ間違いはしたくない。あんまりいろいろ頭を悩ませたくないってのが正直なところです。特に最後の何レースかはほんとに難しかったし、めっちゃみんなきつかった。だからもう辛かったシーズンは終わりにして新しいシーズンを始めたいんです」

ヴァレンティーノ・ロッシの方はもう少し前向きだ。「もともと火曜と水曜にテストをするつもりだったんでこうしたんです。なんで今日やったらだめなの?ってなったんですよ。10日テストをやるよりレースを1回走る方が得られることが多かったりしますしね。だからそうしたんです。結果が出せなかったのは残念ですけどね。でも得るものはあった…、面白いことに気付けたんです。でもまあ今のところは簡単ではない。ギャップを縮めるためにいろんなところに手を着けてますから。電子制御についてもそうだし、マシンの動的な解析とかもですね。だから今が大事な時期なのは間違いないです」

ロッシにとってはマシンからのフィードバックが増えたことが大きな一歩になったようだ。「マシンが乗りやすくなったし、マシンからのフィードバックもわかりやすくなりましたね。去年、新型を試したときと同じフィーリングでですね。でも同時にリアタイヤに問題を抱えてしまったのも事実です。それで似たような成績になってしまった。もし昨日のマシンを使っていても似たような順位だったでしょうね」

タイヤの消耗をコントロールする

2016年型フレームの最大の問題はタイヤの消耗だ。レース終盤でタイヤがだめになってしまうのだとロッシは言う。それで最後の数ラップの戦闘力が落ちてしまうのだそうだ。難しいところだが解決不可能な話ではない。ヨハン・ザルコはダニ・ペドロサとわずか1/3秒差でゴールしているのだ。

なぜザルコは2016年型フレームを使いながらもワークスライダーの指摘する問題に悩まされていないのだろうか?違いはおそらくザルコのスロットルワークのスムーズさにあるのだろう。土曜の夜、ミシュランのボス、ニコラス・グーベールが最も驚かされたライダーとしてザルコの名を挙げていた。特にスロットルワークのスムーズさが凄いのだと言っている。カレックスのフレームでMoto2を走っている際に学んだことかもしれない。カレックスはレース序盤では速いのだがすぐにリアタイヤを消耗してしまうのだ。ザルコはMoto2でタイヤマネジメントを学んだのだ。そしてそのスキルをMotoGPに適用しているのである。ザルコはリアタイヤを必要なだけ滑らせるためのスロットルワークを身につけていて、それでタイヤライフとパフォーマンスを両立させているのである。

ヤマハが2018年シーズンの開始にあたって2016年型を再び引っ張り出すことを決めたということは、要するに失敗を認めたということである。これは驚くべきことだ(補足するなら、これは報道発表(別名「嘘」)の観点からも学ぶべきことがある。我々がヴァレンティーノ・ロッシに旧型を使わないのか尋ねると、彼はそれが不可能だと答えていた。2017年型エンジンは2016年型フレームに載せられないと言うのだ。結局それは、まあ言うなれば解釈の間違いであり、事実とは違っていたということである)。

迷い道

ヤマハはどこで道を誤ったのだろうか?2017年型フレームは冬期テストの段階では良い感触だった。マーヴェリック・ヴィニャーレスはスズキ風の乗り方で、ストレートでハードにブレーキを掛けてから曲がっていく。逆にロッシはマシンをそれほど気に入っていなかった。ヴィニャーレスの乗り方だとフロントタイヤに大きな荷重がかかり、それで曲がっていくのだが、ヤマハを速く走らせる乗り方ではない。マシン開発の過程で、特にミシュランがフロントタイヤのケーシングを固くして以降はM1の開発の方向性とミシュランの特性が乖離していき、シーズンが深まるにつれてそれが大きくなっていったのだ。

そしてヤマハは2016年型フレームに戻すことにした。これがヴァレンシアテストのベースとなる他、1週間後のセパンでも使われる予定だ。2016年型フレームが持つ感触の良さを維持しながら今シーズン苦労し続けたタイヤ消耗を抑えることができればいいと彼らは願っている。

ヴァレンティーノ・ロッシはセカンドグループでレースを終えている。トップから13秒遅れでスズキの二人と一緒だった。ロッシと、そしてチームメイトのアンドレア・イアンノーネの前でゴールしたアレックス・リンスが4位で、これはMotoGPでの彼のベストリザルトだ。スズキの2台の成績がワークス・ドゥカティのリタイヤの恩恵を得ているのはもちろんだが、リンスもイアンノーネも再び進歩し始めたのも事実だ。スズキのプロジェクトが正しい方向に向かいだしたのだ。2018年用の新型エンジンはこれまでのパワーの問題を解決しているはずだ。アラゴンでのレース後のテストではレース中のタイムを1秒縮めているのである。

スズキの数秒後ろでは2台のサテライト・ホンダが7位と8位でゴールしている。フィニッシュライン直前にカル・クラッチローを抜いたジャック・ミラーが7位だ。ミラーは良い形でホンダでの最後のレースを終えることになった。ミケーレ・ピッロがドゥカティ最上位の9位、ティト・ラバトが5台目のホンダとして10位に滑り込んでいる。これは彼のシーズン最高位だ。

奇跡はいつも起こるわけではない

MotoGPの決戦を前にしたサポートクラスも実に見応えのあるものだった。最初のレースとなるMoto3でジョアン・ミルが今シーズン11勝目を挙げるかに見えたのだが、彼は目の前でクラッシュしたガブリエル・ロドリゴを避けきれずコースアウトしてしまう。これについてミルは自分のせいだと言っている。ロドリゴに近づきすぎた上、彼のリアホイールの外側に接触してしまったということだ。

その時のロドリゴとミルはホルヘ・マルティンを追いかけていたのだが、既にこの時点でトップのマルティンにじわじわと離され始めたいた。そして2台がクラッシュするとマルティンは後続とのギャップを広げながら悠々と初勝利を飾る。長いこと待ち望んだ勝利だ。そして強さを発揮した今シーズンの締めくくりにふさわしい勝利だ。

ミルは最終的に2位まで上がっている。その後ろでマルコス・ラミレスが3位となった。しかし最も印象的だったのはミルのペースだ。彼は15周でマルティンとの差を4秒詰めたのだ。

Moto2の決勝もスリリングな始まりだった。しかしミゲール・オリヴェイラがトップに立つと2017年のMoto2チャンピオンのフランコ・モルビデリに2秒以上の差をつけてそのまま勝利する。そしてブラッド・ビンダーが3位に入ったことで、KTMは2台での表彰台を連続で実現することとなった。

オレンジ色の未来?

KTMのMoto2プロジェクトは初年度にもかかわらず長足の進歩を遂げている。しかしこれは彼らにとっては過程の一つにすぎないのだ。ヴァレンシアの決勝の翌日となる月曜日、ドイツ語サイトのSpeedweekのインタビューに答えてKTMのボスであるステファン・ピエレが2019年の計画について語っている。彼によればブラッドリー・スミスをまずはヨハン・ザルコと交代させたいとのことだ。既にかなり以前から交渉は進んでいるようだ。

ザルコと契約するというのはKTMにとってもザルコ自身にとっても大いに意味のあることだろう。ヴィニャーレスとロッシが走っている限りワークスのモヴィスター・ヤマハに空席はない。そしてロッシが引退する気配もない。2017年はランキング5位に終わったとは言え、彼は今年も優勝して戦闘力がまだあることを証明してみせたのだ。一方のヴィニャーレスはヤマハの将来を背負っているライダーだ。ヤマハは長期的視野でその決定をしているのだ。

ザルコは類い希なる才能を示しているし、フィードバックも驚くほど的確である。ザルコはKTMがタイトル争いに割って入るためには必要なライダーなのだ。そして彼はKTM125で行われるレッドブル・ルーキーズ・カップの初代チャンピオンでもある。つまり彼は出身地に帰るということになるのだ。

サテライトチームの新設というのもKTMの計画には含まれている。ドゥカティにとってのプラマックと同様のジュニアチームを作るという計画だ。そのシートを埋めるのは簡単だろう。ミゲール・オリヴェイラとブラッド・ビンダーは既に速さと知性と戦闘力を持っていることが証明されている。ピエレは特にビンダーを買っているようだ。曰く「神のごときブレーキング」。二人は2019年にはMotoGPにやってくるだろう。そのサテライトチームの運営はマルクVDSが最有力候補である。

明るい未来

とは言えこれはすべて未来の話だ。今2017年が終わったばかりである。残るのは思い出だけだ。しかしなんという思い出だろう!2017年には奥のことが明らかとなった。私たちは今レースの黄金時代を目の当たりにしているということ、そこに降臨したのは史上まれに見る偉大なライダーたちだということ、レースはすでに接戦続きでドラマに満ちているが、それでもライダーの個性が求められているということ、テストが制限され電子制御とタイヤが統一された新たなレギュレーションの下では知性が鍵となること、恐ろしいほどのスピードを保ちながらレースをコントロールするにはタイヤとマシンの耐久性のバランスが重要なこと、目も眩むような速さで走れなければ勝てないこと、しかし速さだけでは勝てないこと、GPが(比喩的にも文字通りにも)豊かになるのはこうした発展のおかげだということ。

2017年の最大の収穫?我々は今黄金時代のただ中にいて、そしてその終わりはまだまだ見えない。才能溢れる多くのライダーがいて、フランコ・モルビデリやミゲール・オリヴェイラやブラッド・ビンダーやジョアン・ミルやホルヘ・マルティンやその他の多くの若くて素晴らしいライダーが上を狙っている。未来は今と同じくらい明るいことがわかったのだ最大の収穫だろう。
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いいシーズンでしたねえ。ほんとに。しばらくはこの余韻を噛みしめながら過ごしましょう。

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