アメリカのGPレジェンド、ランディ・マモラ:2位になるということ

シーズンも終わってしばらく虚脱状態でしたが、最終戦直前の記事ですがちょっと面白いので翻訳。ランディ・マモラへのインタビューです。Cycle Worldより。
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13年間のGPでの500ccキャリアを通じてランディ・マモラがランキング2位を記録したのは1980年、81年、84年、87年の実に4回。58歳になるこの日曜にスペインのリカルド・トロモ・サーキットで行われたMotoGP最終戦を終えたマルク・マルケスが、そしてむしろこちらの方が近いだろうアンドレア・ドヴィツィオーゾがどんな気持ちになるのか、彼は良く知っている。

「みんなに言われますね。『敗者の中では一番だ』って」とマモラは言う。「でもレベルがここまで高くなってライダーの才能もマシンも凄くなると色んなライダーが勝てるようになってるんです。だからメダルを手にできるってだけでも凄く特別なんですよ。最初はスズキでケニー・ロバーツと戦って、その後はホンダでエディ・ローソンとって感じで少しずつ進歩しながらシーズン開幕を迎えてましたね。
 タイトル争いで僕を負かした相手にも勝ってるんですよ。それも全員にね。1986年は初めてヤマハに乗って、1レース勝ってランキングは3位。翌年は3レースに勝ってランキングは2位。僕らがヤマハのトップチームだったんです。その時勝ったのはワイン・ガードナーですね。ホンダがすごく速かったんですよ。ワインも見事に乗りこなしていた。それがほんとにうまいこといったんですね」

もしマルケスが日曜のレースで勝てば7勝を挙げて4度目の最高峰クラスのタイトルを獲得することになる。2013年の彼の勝利数をひとつ上回り、2016年と比べたら2勝も多い。しかし史上タイ記録となる10連勝を含む2014年の13勝には6つ及ばない。24歳の彼は現時点で35勝を最高峰クラスで挙げているのだ。

2日間のプラクティスを終えてマルケスはポールを獲得し戦いを有利に進めている。「間違いなくダニとマルクがユーズドタイヤでの速さがありますね」とドヴィツィオーゾは金曜に言っている。「それが今の現実です。コーナー中盤で僕は早さが無い。マシンを起こしてスムーズに脱出できないんです」。そんな彼は9番手からのスタートとなる。

マルケスはヴァレンシアで2度のクラッシュを喫している。金曜の午後のプラクティス終了直前と土曜の予選だ。どちらも彼はかすり傷一つ負わないで済んだ。マルケスと同様、ドヴィツィオーゾも6勝。彼にとってこれは2004年の125ccから始まったGPでの16年のキャリアの中での年間最多勝利である。

「このスポーツにかかわってるならわかってるでしょうけど、やっぱりドヴィツィオーゾにドキドキしますよね」とマモラは言う。「これまで彼のファンじゃなかったとしても今年はファンになってしまう。ドヴィはすべてを賭けているのか?その通りです。できることならやりなおしたいと思っているのか?もちろんです。でもそれは終わったからこそ言えることなんです。どっちにしろ彼は全力を尽くしたんです。
 レースではドヴィは勝たなきゃならない。それに加えて幸運も必要です。ダニ・ペドロサが2006年のポルトガルでニッキー・ヘイデンをはじき飛ばしたとき、今でも覚えていますけどニッキーはずっと「なんでだ、なんでだ、なんでだ」って言い続けてましたね。ヴァレンティーノ・ロッシはヴァレンシアで得点圏内に入るくらいで良かった。つまりニッキーにはチャンスはなかったってことです。でもロッシは転倒してゼッケン69がチャンピオンになった」

マモラは当時500ccのGPマシンを駆る最高のライダーの一人だった。「銀メダルを4個、銅メダルを2個持ってるんです。メダルを手に入れられない人だっているし、表彰台に上がらないままの人もいる。僕は表彰台には57回上がっていて、しかもその隣にはバイクを走らせたら史上最高ってやつらがいた。
 もちろん自分はチャンピオンだって言えないんですけどね。でかいパーティーには無縁なママだった。でも自分が思ってた以上のことができたんです。もちろんミスもしましたよ。自分を叱りつけたいくらいです。でもほんとにこの競技をやっていてよかったですよ。4つのメーカーで表彰台に上がってるんです。ランキング2位も3つのメーカーで獲得した。僕にとっては素晴らしいことなんです」
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写真のキャプションも面白いので翻訳。
1枚目「最高峰クラスの最年少優勝記録を持っているのはマルク・マルケスだが、表彰台の最年少記録は19歳のときフィンランドで表彰台に上がったランディ・マモラがいまだに保持している。ライダーズ・フォー・ヘルス(訳注:アフリカで公衆衛生活動をバイクでやろうという慈善団体)の共同創設者であるマモラは現在ドゥカティの2シーターMotoGPマシンを走らせている。「僕はもうパドックに38年もいるんですよ」

2枚目「ドゥカティのチーム力について:「これはジジ・ダリーニャのおかげでもありますね」とマモラは言う。「ここまでのバイクを作るには何年もかかるんです。フォーミュラ1と同じですね。まとも走るようになるのに5年はかかる。そういうところは似てるんです」

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チームオーダーではなくチームスピリットの問題

さて、さきほどアップしたMotoMatters.comのEmmett氏の文章はニュートラルややロレンソ寄りかも、でしたが、こちらはめっちゃロレンソに厳しいMat Oxley氏の記事です。Motor Sport Magazineより。
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最終戦ヴァレンシアをもって素晴らしいシーズンに幕が下ろされた。さてそろそろ決着させよう。ホルヘ・ロレンソがチームメイトの手助けをしなかったのは正しかったのか、それとも間違っていたのだろうか?

チームオーダーはむかつくだろうって?本当にその通りだ。しかしチームオーダーというものは必ずしも君が考えるようなものではないこともある。君がプロのレーサーでMotoGPのワークスチームで走っているとしよう。少なくとも100人が君のために働いている。君はスターかもしれないし、雇われている中ではたぶん一番お金をもらっている。テレビに映るのは君だし、女性たちが追いかけるのも君だ。しかし君がレースで走れるのはみんなのおかげだ。彼らがいなければ君は何物にもなれないのだ。この事実をわかっていないライダーはMotoGPのグリッドには一人もいない。

日曜、ドゥカティにはまだMotoGPのタイトルを獲得するチャンスが残されていた。ごく僅かなチャンスだが、チャンスはチャンスだ。この数か月、ホルヘ・ロレンソは最後の2戦になれば喜んでチームメイトのアンドレア・ドヴィツィオーゾを手助けすると我々に明言していた。彼はもっともらしくこう言い続け、そして先月のセパンでは実際にドヴィツィオーゾに譲っている。そして同じことをヴァレンシアでもするだろうと誰もが思い込んでいた。

しかし彼はそうしなかった。周回を重ねても彼はドヴィツィオーゾを後ろに従えたままヨハン・ザルコとマルク・マルケス、そしてダニ・ペドロサを追いかけ続けたのだ。ドゥカティのピットがうろたえているのは傍目にも明らかだった。ロレンソは何が起こっているかは正確に把握していた。しかし彼は合理的な判断ができるチームメイトなら誰でもするだろうことをしなかったのだ。まともなチームメイトならチームオーダーがあろうがなかろうがチャンピオン候補に道を譲って、自分自身で運命を切り拓くように後は任せるはずだろう。

もっともありそうな結果はドヴィツィオーゾがタイトルを逃すことである。レースに勝って、そしてマルケスかホンダが派手なミスをするのを待つしかない。つまり可能性は極めて低いということだ。彼は週末を通じて終始リラックスしていたが、それは彼のタイトル獲得の可能性が極めて小さいことをわかっていただからだろう。しかしそこがポイントではない。ロレンソはドヴィツィオーゾに任せるべきだったのだ。チームオーダーに従うべきだという話ではない。そうではなくてチームスピリットを大事にすべきだったということなのだ。

何年もの間私はなんとかホルヘのことを好きになろうとがんばってきた。ライダーを好きになろうが嫌いになろうが、それは私の仕事には関係の無い話だ。私の仕事はレースについて書くことなのだ。しかしレーサーも人間だ。リザルトに印刷されたただの名前ではないのだ。私は良いライダーもひどいライダーもたくさん知っている。しかし彼らがライディングの才能を持っているのであれば、人間として尊敬されなくてもレーサーとしては尊敬されるべきだ。そしてややひねくれた話ではあるが、私はある種のめんどくさいタイプのライダーと過ごすのが好きなのだ。彼らは血に飢えていて、だからこそレーサーとしての適性を持っているのだ。

もちろん私が好こうが嫌おうがホルヘは気にも留めないはずだ。私以外の誰でも同じだろう。彼はポップスターではなくレーサーである。彼の仕事はレースに勝つことであって、レコード売り上げやらテレビの視聴率やらを稼ぐことではないのだ。

しかし私は彼が日曜にやったことは間違いだったと考えている。4位と5位を入れ替えるのにさほどの重みは無い。なのになぜ彼はそうしなかったのだろうか?そうすれば(特にイタリアを中心とした)様々なジャーナリストからの攻撃を受けることもなかったはずだし、私もこのブログを書くこともなかっただろう。

ダッシュボードのメッセージとピットボードと、そしておそらく自らの良心の声までも無視するという彼の決断はこの数日大議論を巻き起こしている。イタリアのカジノという名の(もしくは彼らがそう呼んでいる)メディアへの返答を通じてロレンソとドゥカティは騒ぎを沈静化させようとしていた。ドヴィツィオーゾも同じだ。彼はそういう男だからだ。彼はチーム内での論争が誰の助けにもならないことを理解しているのだ、だからこそ彼は超然としていられるのだし自分の人生と折り合いをつけられるのだ。

ロレンソはこう言って自分の立場を主張している。ドヴィツィオーゾをザルコ、ポイントリーダーのマルケス、そのチームメイトのペドロサの3人からなるトップグループに追いつかせようとしていたのだと。自分はドヴィツィオーゾより速かったのだから、それで説明がつくと言っているのだ。

ただしそれは事実ではない。ドヴィツィオーゾのファステストラップは少しだけロレンソを上回っているのだ。そして3周目から18周目までのほとんどの周回でドヴィツィオーゾはロレンソを上回っている。より正確に言えば16周の内9周だ。そして何度か彼はロレンソのリアタイヤの直後にまで接近しているのである。

さらに言うならロレンソはペドロサとの差を着実に詰めていったというわけでもない。7周目、彼と前を行くホンダとの差は0.4秒。それが11周目には0.7秒近くまで広がっているのだ。そしてその差は0.8秒を超え、17周目までには1秒を超えることになる。ペドロサが少し遅くなった場合のみ二人の間が縮まっただけである。ロレンソは自分がドヴィツィオーゾより速かったと言っているが、自分が前にいるのにどうしてそれがわかったのだろうか?ドヴィツィオーゾは常にロレンソの0.2~0.3秒後ろにつけていたのである。

こうしたことがドヴィツィオーゾの冷静さにどんな影響を与えただろう?31歳の彼はバイクレーサーとしてはあり得ない程穏やかで合理的な判断をする。しかしその彼もチームメイトの頑迷さに冷静さを失ったはずだ。ロレンソが自分を引っ張っているのと同じようにペドロサに引っ張らせるチャンスもあったのだ。

もしドヴィツィオーゾがペドロサの後ろで4位になったらレースの様相も変わっていた可能性がある。ドヴィツィオーゾは何かで新たな可能性をみつけられたかもしれないのだ。こうしたひらめきもバイクレースでは重要な役割を果たすことがある。もちろんその場合でもタイトル争いの振り子を戻すには何か予想もしなかったことが起こる必要があった。しかしその予想もしなかったことが実際起こりかけたのだ。つまり試してみる価値はあったということである。どんなことでも試す価値はあったのだ。しかもロレンソには失うものはなかったのだ。

これは実際のチームオーダーとは何の関係も無い話である。これはチームとして一緒にやること、仲間を助けること、同じ方向に向かって努力すること、そういう話だ。これはチームスピリットの話なのだ。それこそがチーム競技であるバイクレースにとって重要なことなのだ。サッカーと同じなのだ。

ライダーなら良いチームに恵まれたいと思うはずだ。そしてすべてのスタッフに好きになってもらう、愛してもらうことが大事なのだ。だからこそ彼らは君のためにもう一頑張りしてくれるのだ。ライダーなら自分のために働く全ての人に目標達成の手伝いをしてもらいたいはずだ。1月の寒い夜、深夜1時を越えてもまだ会社にいて計算を続けながらなんとかプログラムを解析しようとしてるデータエンジニアに、あきらめて家に帰るのではなくもう少し頑張ってもらいたいはずだ。この日曜の午後、間違いなくドゥカティのスタッフの中にはロレンソへの愛を失った人がいるはずだ。

それだけではない。チームメイトにも愛されたいはずだ。ことによったら来年はロレンソがドヴィツィオーゾの助けを必要とするかもしれない。ドヴィツィオーゾは紳士だし過ぎ去ったことにいつまでもこだわる男ではない。しかし先のことはわかならい。正しいことをしそこなうという失態はいつの日にか自分に跳ね返ってくるかもしれないのだ。トム・サイクスとロリス・バスにピットでの良い関係がどれほど重要か聞いたことがある。彼らの関係のせいでサイクスはおそらく2014年のワールドスーパーバイクのタイトルを逃しているのだ。この件についてはロレンソとヴァレンティーノ・ロッシの関係を思い出してみてもいいだろう。

ロレンソにあらゆる手段でメッセージを送りタイトル獲得の希望を潰さないように頼んだにもかかわらずドゥカティは月曜には違う話を作り上げた。彼らはレースの状況を見誤ったと言うのだ。これは単にイメージ戦略の一環に過ぎない。組織を理性的かつ穏やかに保つためだ。しかし密室ではジジ・ダリーニャとロレンソがかなり率直に意見交換をしているのではないかと私は疑っている。

ロレンソでもドヴィツィオーゾでもいい。私はドゥカティがMotoGPタイトルを獲得するのが見たいと思っている。しかし日曜にロレンソがやったことは独善的なガキのやることだと思っているのだ。
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まあペドロサとの差とかも、実は17周目をピークにその後は着実に縮めていってるんですよね。そしてペドロサにロレンソが近づくにつれてロレンソとドヴィの差が広がっていってます。あとドヴィツィオーゾのタイムはロレンソに比べると安定していないので、数字があるからといって何かが証明されるとは限らないですけどね(というロレンソ好きの意見)。

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2017ヴァレンシアMotoGP決勝まとめ:思うようにならないチームオーダー、そして奇跡

お待たせしました。テストがはさまったので次のシーズンが始まっちゃった感じですが、MotoMatters.comの超長文まとめをいきます。
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様々なドラマが交錯したシーズン。最終戦がその掉尾を飾るべく、やはりドラマに満ちた戦いとなるのも当然だろう。タイトルの行方については当然のように予想通りの結果となった。マルク・マルケスは21ポイントという大差をつけてヴァレンシア入りしたのだ。それでも彼は11位以上でゴールしなければアンドレア・ドヴィツィオーゾが勝利を逃すのを祈ることになるという状況だったのだが。

予選終了時点ではマルケスにとってかなり有利な状況となっていた。彼はポールを獲得し、ドヴィツィオーゾはグリッド3列目に沈んだのだ。二人の間にはドヴィツィオーゾがトップを目指すのを阻むように強力なライバルたちがひしめいている。それどころではない。彼らは彼らで当然の権利としてドヴィツィオーゾから優勝を奪い獲るかもしれないのだ。

レース終了を告げるチェッカードフラッグが振り下ろされるまで、ギリシアの叙事詩のように様々な出来事が続けざまに起こっていた。チームオーダーと裏切り、クラッシュとクラッシュ寸前でのリカバリー、策謀と隠蔽、密かなマシン変更、誰もが予想しなかったほど上位でゴールする一群。味わい深い勝者、勝利に見放されたライダー、そしてタイトル決定。ヴァレンシアまでの17レースも多くの語るべきことがあったが、最終戦はこれまで以上に多くの物語に満ちている。

戦略と戦術

ある意味21ポイント差というのがレースを少々複雑にしたという一面はある。4度目のMotoGPタイトルを狙うマルク・マルケスにとっても、2007年以来のタイトルを目指すドゥカティにとっても戦略こそがすべてだった。集中を切らさないことに望みを繋いでマルケスはリスクを冒してでも序盤でプッシュし勝利を狙うべきだろうか?10番手辺りを安全に走るべきだろうか?しかしその場合集中力を切らして取り返しのつかないミスをする危険はないだろうか?転倒のリスクを冒して前に抜け出るべきだろうか?それとも血気盛んなアンドレア・イアンノーネやヨハン・ザルコのいる危険なトップ5辺りで留まるべきだろうか?

ドゥカティにとっても難しい決定が待ち受けている。まずやらなければならないのはドヴィツィオーゾをできるだけ前に行かせてトップを狙えるようにすることだ。しかし前にはチームメイトのホルヘ・ロレンソがいる。ロレンソを先に行かせてドヴィツィオーゾがトップに絡んできたら譲れる位置を確保させるべきだろうか?ロレンソにドヴィツィオーゾを引っ張らせて、できるだけ前まで一緒に行くべきだろうか?それともすぐにでもドヴィツィオーゾに道を譲って後は彼に任せるべきだろうか?

他にも考えるべきことはある。ダニ・ペドロサは自身が勝利することでチームメイトを助けることができる。アンドレア・ドヴィツィオーゾの前でゴールするだけでも充分だ。ヨハン・ザルコは初勝利を渇望しているし、アンドレア・イアンノーネはスズキでの初表彰台を狙っている。しかしどちらもタイトル争いに変な形で絡みたいとは思っていない。

誰が決めるのか?

あらゆる戦略やら何やらがこれにかかわるメーカーやチームで検討された。上手くいかなかった場合の対策も作られ、チームボスはライダーと話し、ライダーはチームと話し、ライダーとチームの間でピットボードに何を掲示するかが決められる。ワークスはダッシュボードメッセージを決め、ライダーにその意味が伝えられる。

しかし、どんな戦略を作り上げようとも、最後に何をするかを決めるのはライダーだ。ライダーはピットボードやダッシュボードのメッセージを無視することができるのだ。コンディションが悪ければマレーシアでのホルヘ・ロレンソのようにメッセージを見逃す可能性もある。ことによったら敢えて無視した上で、見なかったと言い張ることさえするかもしれない。

抵抗を突破する

スタートランプが消えるとマルク・マルケスの戦略が明らかになる。彼は前に出ることにしたのだ。彼はスタートダッシュを決めるとトップを狙う。しかし2列目からスタートしたチームメイトにはかなわなかった。二人は1コーナーに向けてマシンを倒し込んでいくが、ペドロサがマルケスのリアホイールに危うく接触しかけたほど接近していた。

2台のホンダに続くのはアンドレア・イアンノーネだ。その後ろをホルヘ・ロレンソとヨハン・ザルコが追いかける。しかし優勝を狙うザルコは11コーナーまでには優雅にアンドレア・イアンノーネのインにマシンを滑り込ませて3位に順位を上げる。

イアンノーネの後ろにはホルヘ・ロレンソが迫っていた。そしてその後ろにいるのがアンドレア・ドヴィツィオーゾだ。ドヴィツィオーゾは思い通りのスタートを決め、6位に上がりチームメイトの後ろにぴたりとつける。2周目にロレンソがイアンノーネを抜くとドヴィツィオーゾも2つのコーナーをクリアするころにはそれに続く。トップの5人、レプソル・ホンダ、ワークス・ドゥカティ、そしてテック3のヨハン・ザルコが後続を徐々に引き離し、勝利の行方はこの5台に絞り込まれる。つまりタイトルの行方も彼らが決めることになったということだ。

ネタバレ注意

早めにトップに立って後続を引き離そうというのがマルケスの計画だったとしてもそれに付き合う気はヨハン・ザルコにはさらさらなかった。ザルコはすぐにダニ・ペドロサを抜くと2周にわたってマルケスを追いかける。彼は6コーナーでマルケスを抜くとすぐにギャップを広げ始めようとする。彼はマルケスを引き離すことはできなかったが、しかしマルケスのアタックを怖れなくても良いくらいの速さは保ち続けることができた。

ザルコとマルケスは少しずつペドロサを離していく。一方ペドロサの後ろにはワークス・ドゥカティの2台が迫っていた。ロレンソはペドロサを追いかける。しかし後ろのアンドレア・ドヴィツィオーゾは明らかに苛立ちを増しながらチームメイトの後ろを走っていた。ドヴィツィオーゾはコース前半でロレンソに近づくが後半では少しだけ遅れてしまい、最大の抜きどころである1コーナーでアタックを掛けられる距離までどうしても近づくことができない。

“推奨”マッピング

これがレースの序盤1/3ほどにわたって続く。そしてロレンソがペドロサから離れ始めるとワークス・ドゥカティの我慢も限界に達する。ロレンソのダッシュに「推奨マッピング:マッピング8」と表示される。セパンで現れたメッセージと同じだ。

エンジンマッピングを変更した方が良いという穏やかな提案だろうか?レース序盤でタイヤのエッジがたれてしまったとでも?ロレンソがドヴィツィオーゾに道を譲るために進路を変えなかったということはそれが正しいというのもいかにもありそうなことだ。しかし5ラップ後に同じメッセージが表示される。つまりもうごまかす気はなくなったということだ。そしてその1周後にはロレンソのピットボードに順位を落としてドヴィツィオーゾに譲るよう指示がでる。ドゥカティとしてはこれ以上はっきりしたメッセージは出せなかっただろう。

ダッシュボードに表示される暗号も、ピットボードでのはっきりしたメッセージもしかし何ら期待された効果を発揮しなかった。ホルヘ・ロレンソはドヴィツィオーゾに道を譲ることなく前を走り続ける。彼はむしろペースを上げてペドロサに再び近づき始めたのだ。彼はドヴィツィオーゾをスリップに従えている。その間もダッシュボードとピットボードの両方でメッセージは表示され続ける。しかしロレンソはそれを無視し続ける。にもかかわらずドヴィツィオーゾは今やレース中のベストポジションまで上がってきたのだ。チームメイトの肩越しにはペドロサが見える。そしてそのすぐ前にはザルコとマルケスがいる。

この状況がメディアの間に議論を巻き起こしたのだ。チームオーダーとそしてドゥカティが心からロレンソをそれに従わせたかったことについてだ。しかしその議論はすべてチェッカードフラッグが振り下ろされて後の話だ。レースの女神はまだ驚きのネタを一つか二つ用意していたのである。予想されていた以上にレースが面白いものとなったのだ。

バトルが始まる

レースがその2/3にさしかかる頃、ダニ・ペドロサが徐々にマルケスとザルコに近づき始める。これをきっかけとしてマルケスは自分の選択肢を再検討し始める。彼は自分のペースがザルコに勝っていることに気付いていた。そしてザルコの後ろを走り続けることで集中力が途切れかけていることにも気付いていた。「彼の後ろを走ってるとき、自分はもっと行けるって思ったんです」とマルケスはレース後に語っている。「集中も切れそうでした。あり得ないようなミスも何度かしてたんです。自分のペースで走れてなかったらですね。そんな時、彼がミスをして僕が抜いて、でも彼はアグレッシブでしたね」

マルケスとザルコはその前も順位を入れ替えていたが、ザルコはマルク・マルケスやヴァレンティーノ・ロッシと同じ流派に属している。誰かに抜かれたら抜き返さずにはいれられない一派だ。二人のホンダとヤマハはダンスをするように2コーナーから4コーナーまでを駆け抜ける。ザルコがマルケスのインにねじ込み前に出る。マルケスの心が乱れているのは明らかだった。抜かれた後の彼は一旦後ろを振り向いてドヴィツィオーゾがどこにいるのかを気にし始めたのだ。

4周後、ザルコの直後につけたマルケスはチャンスを見逃さなかった。最終コーナーでザルコが僅かにアウトにはらんだのだ。マルケスにとってはそれで充分だった。過去何年もホンダは14コーナーではヤマハに歯が立たなかったのだが、ビッグバンエンジンが状況を変えたのだ。マルケスはクロスラインでザルコの前に出る。しかしザルコがついている音も聞こえていた。ザルコのM1が急速に近づいてくる音でマルケスの心はかき乱されることになる。

マルケススタイル

「僕が彼を最終コーナーで抜いたときは怖かったですね。彼のマシンがすごく近くにいる気がして、それでブレーキを遅らせてヤバい状況を避けようとした。でもそのせいで自分がヤバいことになったんです」。そのヤバい状況とはマルケスがレース後に語ったとおり、“マルケススタイル”そのものであった。彼は1コーナー進入でフロントを滑らせる。そしてフロントホイールは左側にフルロックしたのだ。マルケスはマシンを膝と、そして肘で支えながらなんとかフロントがグリップを取り戻すことを祈る。その間もフロントはロックしたまま白煙を挙げている。ついにリアがグリップを取り戻すと彼はマシンを起こして1コーナー外側のアスファルトから飛び出していく。どうにかマシンをコントロールしながら彼はグラベルに突っ込み、そして2台のドゥカティの数秒後ろでコースに復帰して見せた。

マルケスはレース後にこの一連の動きをこう分析している。「ストレートエンドで1台すごく僕に近づいてくるような気がして、それでブレーキを遅らせすぎたんです。これが最初のミスですね。そしてコーナーにも速く入りすぎた。で、突然小さくチャタリングが起きたんです。このチャタリングには今週末ずっと悩まされてたんです。そしてフロントが滑った。フロントが滑って、OK、とにかく最後までマシンを離さないようにしようって思いました。グラベルで止まるか壁まで行くかはわからないけど、とにかくマシンを離さないようにってね」

マシンにしがみつきながらもマルケスは転倒しないかもしれないと気付いていた。「フロントは滑ってましたけどリアはまだグリップしてることに気付いてたんです。フロントはいっちゃったけどリアはまだ大丈夫。で、肘で立て直せるなってなって、肘と膝を全力で突っ張ったんです」。この週末を通じて彼にかかっていたプレッシャーレスのせいでこんなことが起こったのだとしても、彼を救ったのもそのプレッシャーだ。「ここから立て直せたのはレースの緊張感のおかげですね。マシンの上で硬くなりすぎてはいました。でも同時に感覚も研ぎ澄まされたままだったんです。それでマシンを立て直して、またマシンを寝かせてアスファルトの上に留まるって手もあったんですけど、グラベルに入ってでも5位に留まる方が良いって思ったんです」

(ほぼ)不可能を可能にする

しかし転倒寸前からのマルケスの復活はドラマチックな幕切れに向けての前奏曲にすぎなかった。彼がコースに復帰する一方、ドヴィツィオーゾのタイトル獲得のチャンスが僅かながら広がることになる。このままマルケスが5位に留まれば優勝してもタイトル獲得は不可能だ。しかしドヴィツィオーゾにはそれ以外の選択肢はないのだ。「その時点でもう僕はほぼ終わってましたね。でもマルクがミスをするのを見て、もう表彰台なんてどうでもいいから勝ちに行こうと思ったんです。そこまでのペースはなかったけど、でもその時は全力を尽くしてました」

それ以前にホルヘ・ロレンソはペースを上げて前を行くダニ・ペドロサを追走していた。ドヴィツィオーゾがそれを追いかける。頼れるのは自分だけだ。しかしペースの違いが明らかになっていく。ロレンソはペドロサをプッシュし始める。ドヴィツィオーゾをトップに連れて行こうとしているのかもしれないし、2005年以来の優勝無しという結果を怖れていたのかもしれない。

理由はどうあれ、彼は走り続けることはできなかった。5コーナーで無理をしすぎたロレンソは進入でフロントを滑らせ転倒してしまうのだ。マルク・マルケスとは異なりロレンソはフロントのスリップから復活できなかった。

グラベルへ
だからといって彼が何もしなかったというわけではない。「グリップが無くなり始めてフロントは終わりかけてました」とロレンソは説明する。「ハードを選んでも変わらなかったですね。070(原注:ムジェロ以来使われているフロントタイヤ)のサイドは前のより充分固くて、ハードだともっと固いんです。最後の5周で右コーナーではフロントが滑ってましたね。クラッシュしそうなところからから何度も立ち直って、でも最後は無理だった。ダニとザルコがすごく近づいてきて、ちょっとリスクを冒したらいっちゃったんです」

限界を超えたドゥカティライダーはロレンソだけではない。コーナー3つ後にはペドロサとのギャップを縮めようとしたアンドレア・ドヴィツィオーゾが8コーナーでマシンを止められないままグラベルに真っ直ぐ突っ込みスロースピードで転倒、タイトル争いに決着がつく。再びマシンにまたがりゆっくりドゥカティのピットに戻ってきた彼はヒーローとして迎え入れられる。そこでアンドレア・ドヴィツィオーゾは自分がドゥカティに愛されていることを知るのだ。そしてそれは当然のことなのだ。

全力を尽くしてレースを戦ったドヴィツィオーゾだが、最初はタイトル争いが絶望的になってしまうことを怖れていたと言う。「5周目を過ぎた頃からはずっと最後まで100%で走ってました」とドヴィツィオーゾは言う。「トップと同じペースで走れてましたけどレース中ずっと限界以上で走ってたんです。だからホルヘはクラッシュしたんだし、僕もクラッシュした。そこまでのペースでは走れなかったんです。いいところまでは行けたんですけどね。0.2秒とかそれくらいの差なんですけど、全力で走ってるときの0.2秒って大きいんですよ」

スムーズに走れるように

最初はロレンソが少々邪魔だったが、5周目以降にロレンソがペースを上げると彼についていくことで自分がスムーズに走れるようになったとロレンソは言っている。しかし彼がドゥカティGP17を曲げるのにかなり苦労しているのは明らかで、レース後はかなりぐったりしていた。かなりのエネルギーを費やさなければなかったようだ。「ホルヘは僕が予選までよりスムーズに走れるように助けてくれましたけど、それでスムーズに走れてたというわけじゃないんです。体力も使いましたしタイヤも使ってしまった。体力を使い果たしたせいでスムーズに走れなくなった。クラッシュするまではトップについていけたんですが」

最終的に彼はフロントタイヤと体力を使い果たしてしまったのだ。「8コーナーでかなり強くブレーキングしたのは得意なコーナーだったからです。でも突っ込み過ぎましたね。マシンを止められなくてリアが滑ってしまった。ワイドになって白線を踏んでコースアウトしてしまったんです。ずっと限界を超え続けて、それでも走れてたんですけど、結局こうなってしまいました」

ホンダ対ヤマハ

タイトル争いは終わったかもしれないがレースにはまだまだ決着がついていない。ダニ・ペドロサがヨハン・ザルコに追いつきはじめ襲いかかるチャンスをうかがっているのだ。彼は14コーナーで一度抜きにかかるが少々無理をし過ぎてはらんでしまい、再びザルコにインに入られてしまう。ザルコはヤマハの優れた脱出加速を活かして最終コーナーを立ち上がりホームストレートで差を広げていく。

しかしペドロサはあきらめていなかった。残り4周、ザルコを追いながらチャンスをうかがう彼は明らかに速さでは勝っていたのだ。しかしザルコも黙ってはいないだろう。もしペドロサがトップに立ちたければもう一段上を行くしか無いのだ。

ペドロサは最終ラップに入ったところに狙いを定めていた。ザルコの後ろ、スリップがきく位置につけた彼は、スリップから抜けると今週の彼が出した最速スピードでストレートを駆け抜ける。ザルコに並んだ彼はインをとるとブレーキングで前にでる。ペドロサは完璧なラインでコーナーに入り、ザルコは進入でワイドにはらむ。そしてほんの僅かリードが広がる。

それで充分だった。ペドロサが2コーナーで少しだけラインを外したときザルコは充分狙える位置まで近づいていたのだが、ペドロサはうまくリカバーしてみせたのだ。最終ラップで全力を尽くした彼はザルコが再び抜こうと思えない距離を保ったままゴールラインを駆け抜ける。今シーズン2度目となる素晴らしい勝利だ。そしてレプソル・ホンダのチームタイトルにさらにポイントを上乗せしたのだ。

穏やかでも偉大

ペドロサの優勝にはありがちなことだが、今回も歴史的な偉業にもかかわらずあり得ない程無視されてしまいそうだ。今回の勝利でペドロサはエディー・ローソンの持つ最高峰クラス31勝という記録に並び、ドゥーハンの通算54勝(ドゥーハンの場合はすべて500ccでの記録だが)にも並んだのである。1988年から1993年の黄金時代に活躍したライダーでいまだにトップ4以内に名を留めているのはドゥーハンだけだ。ヴァレンティーノ・ロッシ、ホルヘ・ロレンソ、マルク・マルケス、そして今ダニ・ペドロサがレイニー、シュワンツ、ローソンを上回っている。残りはドゥーハンだけだ。

ペドロサは今後も過小評価された天才で居続けるだろう。ヴァレンティーノ・ロッシ、マルク・マルケス、ホルヘ・ロレンソ、ケイシー・ストーナーの全てにキャリアを通じて安定して勝ち続けている唯一のライダーなのだ。彼がMotoGPタイトルを獲得していないと指摘するファンもいるが、それは彼が史上最高の4人のライダーに互して最高峰クラスで31勝を挙げているという事実を無視しているのだ。タイトルを獲れなかったライダーの名簿はもの凄く長いものだ、そしてMotoGPのエイリアンを相手に勝つ続けられたライダーはごく僅かしかいないのである。

今回の勝利もおそらく忘れられてしまうことだろう。記憶に起こるシーズンの議論になったレースのことを振り返ったときのトリビア問題になってしまうかもしれない。レース後にペドロサの勝利に語っていた人は僅かしかいなかった。ほどんどはチームオーダーやホルヘ・ロレンソがアンドレア・ドヴィツィオーゾを助けなかったことやマルク・マルケスのクラッシュ寸前からの復帰について語っていた。しかしダニ・ペドロサはそんなことは気にしないだろう。彼は勝利をおさめ、そして今ウインドサーフィンに向かっている。ペドロサが勝利を目指すのは自分を満足させるためであり人々の注目を集めるためではないのである。

ダメなハンドリング

ペドロサの優勝に陰を落としたのはそびえ立つ策謀の壁だ。まず最初の疑問はチームオーダーについてである。ドゥカティがロレンソのダッシュボードに「推奨マッピング:マッピング8」というメッセージを表示した際には「疑わしきは罰せず」の原則を通すこともできた。もちろんドゥカティがセパンでチームオーダーについて頭を悩ませていたことは間違いない。しかしそれとダッシュボードに表示されたメッセージの直接的な関係を証明することは難しかった。

ヴァレンシアで最初にロレンソのダッシュボードに同じメッセージが表示された時点で、それはほぼチームオーダーを暗号で表したものであることは確証できた。そして何度もそれが表示されるに及んで(実際にはレース中盤からはずっとダッシュボードに表示されたままだったようだが)疑いの余地は無くなった。そしてドゥカティはダッシュボードメッセージに続いてロレンソのピットボードには他に解釈のしようがない「一つ順位を落とせ」というメッセージを出している。ドゥカティはヴァレンシアのレースでチームオーダーを出したということだ。そしてホルヘ・ロレンソに順位を一つ落とすように命令したのである。

ドゥカティにとっての問題を大きくしたのはホルヘ・ロレンソがオーダーを無視したという事実だ。最初から最後までロレンソは後ろを走るドヴィツィオーゾに順位を譲ろうとはしなかった。順位を落とすふりすらしなかったのである。特に最初の数周、ドヴィツィオーゾは明らかにロレンソより速かったにもかかわらずだ。

だから前から言ってたじゃないか

これは驚くべきことではないのかもしれない。土曜に時点でチームメイトを手助けするかと訪ねられたロレンソは、助けるための条件を明確に示したのである。「それほど複雑な話ではなくてドヴィはまずトップグループにいるのが条件ですね。で、トップグループに彼がいたら後はトップグループのライダーがそれほど多くなくて彼にも勝つチャンスがあって、そして彼にとっては理想的な展開ですけどマルクが何かミスをするかトラブルがあるかですね。それはかなり難しいですけどまずは勝つこと、そしてマルクが12位以下でゴールすることが条件ですから。そう簡単には起こることじゃない。マルクがエンジンに問題を抱えるとかクラッシュするとかの方がありそうですね」

ロレンソは自分がドヴィツィオーゾを手助けする状況については明確なビジョンを持っていた。「まずは自分がトップグループに入るようにしないとね。そしてドヴィもそこにいて、で、マルクが何か問題を抱えていて、その上でピットサインかダッシュボードを見て、そうしたら手助けしますよ」。

コーポレートコミュニケーション

レースの展開のおかげでドゥカティはイメージ低下防止に向けて緊急対処が必要な羽目に陥ることになる。レース終盤の何周かを残して二人がピットに戻ってきたとき、まずはロレンソがドヴィツィオーゾのところに行って自分がやったことについて説明を始めた。テレビの画面ではドヴィツィオーゾがそれに反論することなく受け入れる姿が映っていたが彼の表情は明るいものだったとは言えない。

レース後、メディアの面々が押しかけたのは「例のスポンサーのホスピタリティ」と遠回しに呼ばれている場所だ。ライダーが何を話すか聞くためである。公式発表はもう決まっていて、当事者たちも説明を受けているのは間違いない。ジャーナリストたちはドゥカティのボス、パオロ・チアバッティが会社の公式見解をチームボスのダヴィデ・タルドッツィに渡しているのを目にしている。我々がチアバッティと話す時点ではチームの末端までその見解が浸透していた。

ドゥカティの公式見解のポイントはロレンソのダッシュボードに表示された「推奨」という言葉である。チアバッティはこう語った。「これはピットの視点からのライダーへの提案ですね。ライダーは私たちが他のライダーも見ていることはわかってるわけですし、今回について言えば、ドヴィと話してもらってもわかると思いますが、序盤は彼が速いコーナーもあったし遅いコーナーもあったと彼は考えている。でも見方を変えると彼のきれいなラインのおかげでドヴィは楽に乗れていたってのもあるんです。だから彼はペドロサに追いつくことができたと言っているし、残念ながら二人とも限界を超えてしまったとも言っている。そしてホルヘも、自分がマルケスにトラブルが発生するのを見たて、しかもトップに追いついたら間違いなく抜かせたって言っています。でもまずはトップグループに追いついて1位と2位の座を確保しなきゃならなかった。話はそれからだったんです」

私たちには見えないこと

チアバッティはテレビ画面で状況を判断することの危険性についても言及している。「正直言うとテレビ画面だけでは本当は何が起こっているのなんて絶対にわかりませんよ。ライダーが前との差を詰められると思って、もう一人がそれについていけると思っていて、そしてきれいなラインをなぞることで上手くいっていると思ったのならそれでいいと私は思ってますよ。ぜんぜん怒ってなんかいません。もしマルクがクラッシュしてロレンソが勝ってドヴィが2位なんてことだったらそりゃあ頭にきますよ。でも今回はそうはなってないんです。
 さっき言った通り、見た通りに判断することはあるでしょうけど、マシンに乗って走ってるのはライダーなんです。まだいけるかどうか、マージンがあるかどうか、前との差を、チームメイトとの差を詰められるかどうか、そういうことを判断するのはライダーなんです。だから彼が抜きにかかったり、別のライダーが接近したりとか、そういう状況があったとはとても思えないんですよ。だからドヴィの言ったことがすべてですね。彼がそう思うからそうなんだってことです。だから彼も頭にきてなんかいない。彼は本当に少しだけリラックスできて、それほど無理をしなくて済んだってことなんです」

そうは言ってもドゥカティはロレンソとも話をしている。「ええ、私たちは彼がドヴィの邪魔になっていた場面もあると思ってましたからね。でも結局こういうことになって、ドヴィは怒り心頭でピットに戻ってきても良かったのにそんなことはなかった。だからプロのライダーを信頼すべきってことですよ。彼らは自分が何をしているのか充分わかっている。私たちの提案はドヴィを前に行かせることだった。彼を前に出すべきだって思ったんです。でも別の見方をすれば、確かにドヴィは遅れ始めていて、そこから取り戻していったのも事実なんです」

一丸となって

ドヴィツィオーゾに抜かせれば全てが済んだというわけではもちろんない。ドヴィツィオーゾがタイトルを獲得するにはそれ以上のことが起こらなければならなかった。「前の二人を抜くためにはまずは追いつかなきゃならなかった」。チアバッティはこう続けている。「もし追いつけなければどうにもならないわけです。そして二人ともにクラッシュするまでは実にうまくいっていた。前2台との差を着実に詰めていけてましたからね。でも結局、マルクがクラッシュ寸前から立て直したのを見せられた。彼は5位か4位でゴールするだろうし、残念だけどそれじゃあうちにとってはなんの意味も無い。彼はクラッシュしなかったってのがすべてですね。彼はグラベルに突っ込んで、それでマシンを立て直せないまま再スタートできない可能性もあった。でも結局そうはならなかった。だからうちにとっても後悔はあんまりないんです」

チアバッティは不当な形でタイトルを奪われたとドゥカティが思っているわけではないと明言している。「実際マルケスはチャンピオンにふさわしいですよ。だって今シーズンの彼のライディングは凄かったですからね。それにマルケスとホンダを相手にして最終戦まで戦えたってのはすごいことだと思いますよ」。そう彼は語っているのだ。

「もちろん心から喜ぶことはできないですけどね。ブルノやフィリップアイランドのことは後悔してますし、アルゼンチンでのクラッシュも悔やんでいる。あれはうちのせいじゃないですから。もしもっといい立場で最終戦に臨めたなら、そしてフィリップアイランドとかアルゼンチンで失った11ポイントとかが取り戻せたなら話は違ったと思うんです。5ポイントとか6ポイント差だったかもしれない。そしたら違う戦略もあったでしょうしマルケスにかかるプレッシャーも違ったでしょうね。でもこれがレースってものですから。マルケスだってシルバーストンでエンジンブローに見舞われてますしね。もしそれがなかったらたぶんあそこでは表彰台だってしょうし」。チアバッティはレースで起こる予測不可能な事象について辛そうにこう語ったのだ。「たられば」が本当になるなら毎日がクリスマスみたいなものだろう。

紳士にふさわしい良い仕事

ドヴィツィオーゾは敗者となってもいつもの通り人間の大きさを見せてくれた。「メッセージについては何も知らないんです。序盤では僕の方が少し速い場所もありましたけどコースの後半は遅かっだですね。週末を通じてずっとホルヘからは0.3秒遅れくらいまでしか詰められなかった。でもレースではもっと良かったんです。でもまだ彼よりは遅かった」。ドヴィツィオーゾはロレンソのおかげで体力を温存できたと強調している。少しだけスムーズに走れたということだ。レースを通じてドヴィツィオーゾの走りは彼らしくないものだった。マシンと格闘していたのだ。ロレンソの後ろで走ることで少しだけ楽に乗れるようになったのである。

ドヴィツィオーゾは今シーズンの最後のレースから明るい光を見出しているようだ。「クラッシュするまではトップグループについていけましたからね。つまり去年より戦闘力がついてきたってことなんです。去年のヴァレンシアより戦闘力があったんで嬉しいですね。でも結果を見ればわかるとおりまだ充分じゃない。でもトップは遠くない。まだ足りないところはあります。コーナリングとかはまだmだですし、もっとスムーズに乗れるようにしないとね」

厳しい尋問
ドヴィツィオーゾがメディアに優しく接してもらい、そして彼が会見のために椅子に座った時には大きな拍手が起きた一方で、ホルヘ・ロレンソは容赦ない攻撃にさらされていた。イタリアメディア向けの会見では、彼がドヴィツィオーゾに譲らなかったことについてあるジャーナリストがほとんど喧嘩を仕掛けていた。ロレンソはかなり苛立ち最後にはイタリア語での返答をやめスペイン語で話し始めたほどだ。「あなたは質問してるんじゃないでしょ。質問してるんじゃないなら答える気もないですね」

英語話者向け会見でのロレンソはそれほど戦闘的ではなかったが、何が起こったのかについてかなり厳しい質問を浴びていた。彼の言い分はドゥカティの作り上げた公式見解そのものだった。「ドヴィが後ろにいたことに関しては、見ての通り今週末の彼はずっとリズムが作れないまま苦労してましたからね」。それがロレンソの説明だ。「タイトルがかかったのが彼が得意とするサーキットじゃないのも悔しいですね。もし他のコースなら彼はもっと速かったはずです。でも週末を通して僕の方が速くてマルケスと同じくらいで走れてた。トップグループとはコンマ何秒くらいの差になったあたりでドヴィについてのメッセージがダッシュボードに出てるのを観たんですけど、最後まで攻めて前に近づいて残りのコンマ何秒かを詰めた方がドゥカティにとっても僕にとってもドヴィにとってもいいって思ったんで」

今回はメッセージを確認できたとも彼は言っている。「メッセージは見てますよ。でもその提案を見た上で最後まで攻めることにしたんです。その感触は正しかったですし。ドヴィのタイムを0.1〜2秒は縮める助けになったし、それでトップグループに近づくことができた。トップグループに近づくのが僕の目的だったし、それは見ての通りです。ペドロサに近づいてていて、もしドヴィツィオーゾが僕に近づいて優勝が見えてきたなら譲るつもりでした。そうはならなかったのは残念ですが。もしマルケスがクラッシュしたのを見たら彼を前に出してましたよ」

走りながら考える

ロレンソが憤激しているのは見た目にも明らかだった。「それ以外に何ができたってんですか?チームにとっても僕に撮ってもドヴィにとっても最高の結果になるようにやってたのに。そりゃドヴィが近づくコーナーもあったでしょうし、僕が彼にスペースを残すために遅くなったこともある。でも30周全体を考えたら彼の前を走る方が彼のタイムを縮めることができたんです」

ロレンソは家でテレビを見ているファンの目にどう映ったかということは全く気にしていない。「まず言いたいのは、今この時点では僕は他の人がどう考えるかなんて気にしてません。僕は自分が良かれと思ったことをするだけだし、チームを一番に考えてるんです。今回も同じですよ。なんでこのことについてずっと話してるのか意味がわかんないですよ。チームにだってなかなかわかってもらえないのに、関わりのない人にわかってもらえるなんてとても無理ですよ。10倍くらい難しい」

彼がピットに戻るとドゥカティのレース部門のボス、ジジ・ダリーニャがロレンソのもとにやってきてメッセージを見たのか尋ねたという。ロレンソは語る。「ジジが僕にメッセージを見たかどうか聞いてきたんで、ちゃんと見てたし、あれが自分にできる最良のことだって答えたんです。彼はドヴィにも話を聞いていて、ドヴィも前に行くのに僕が助けになったって言ってます。僕もドヴィのところに行ってなんで僕が攻め続けたか説明して、彼も『あれ以上は自分にはできなかった』って言ってます」

誰の目にも悪そうに映る

ロレンソの決断は正しかったのだろうか?それとも彼はチームオーダーを無視した咎で罰せられるべきだろうか?結果はどうあれドゥカティもロレンソも褒めてもらえるような状況にはないのは確かだ。今回の状況が生み出したドラマのせいで関係者すべてがひどい人間にのように見えてしまう(ただしアンドレア・ドヴィツィオーゾは当然のようにその例外だ)。ドゥカティはチームオーダーを出してライダーを無理矢理従わせようとしたひどい会社に見える。その上、最初はダッシュボードに表示されたそれがチームオーダーではないとごまかしたせいで、さらに悪者になっている。そしてホルヘ・ロレンソがそれを無視したことがさらに問題を大きくしている。

ホルヘ・ロレンソもまたひどい人間に見えてしまっている。彼が正しいことをしかたどうかではなく、チームオーダーのせいで彼はチームメイトを窮地に追い込んだ悪人となってしまった。それもただのチームメイトではない。かつての負け犬が気骨を見せて最強のマルク・マルケスに挑んでいる、そのアンドレア・ドヴィツィオーゾを窮地に追い込んだことになってしまったのだ。たとえドヴィツィオーゾを前に行かせるより後ろに従えて走った方が助けになったとしても、彼の選んだ方法はひどいものに見えてしまうのだ。世間に対するロレンソの印象は元々よろしくないものだった。しかし今回のことはそれをさらに悪くする方向にしか働いていない。

しかし今回の件で最悪なのはこれら諸々が結果になんの影響も与えなかったということだろう。アンドレア・ドヴィツィオーゾはそもそもヴァレンシアで勝てる速さがなかったのだ。それはロレンソが彼を引っ張ろうが彼を前に行かせようが関係なかっただろう。マルク・マルケスは珍しくも神経質になって多くのミスを犯したが、5位よりもっと下でゴールすることもあり得なかった。ドヴィツィオーゾもプレッシャーと緊張感から逃れることはできなかった。マシンの上の彼はひどい様子で、あらゆるコーナーに進入するたびにマシンと格闘していた。彼の体は弓のようにこわばり、力を発揮できないまま彼の速さはどこかにいってしまった。

では、もしロレンソがドヴィツィオーゾを前に行かせていたらどういうことになっただろうか?ドヴィツィオーゾはやはりクラッシュしていた可能性があるし、トップに追いつこうとなんとかする遙か以前に転倒していたということもありそうだ。レース後半のドヴィツィオーゾはロレンソより遅かった。つまりドヴィツィオーゾは転倒し、さらにロレンソもトップに追いつけず大した成績を残せないという結果に終わった可能性もあるということだ。

正しい?間違い?どうでもいい?

ロレンソがやったことは間違いだったのだろうか?必ずしもそうとは言えない。彼の行為はタイトル争いに実質的な影響を及ぼしていないのだ。彼に関して言えば、確かにドヴィツィオーゾをトップに追いつかせようとしていたというのは事実の可能性が高い。しかしことここに至ると確固たる証拠がほしくなるというものだ。もちろんロレンソがそうしたように自分の意見を表明することは可能だ。タイトルを逃したドゥカティの悔しさを和らげるために優勝を狙うべきだったと主張してもいい。あらゆる言説がそれなりの価値を持っている。しかしそれでも目に見えるものがひどすぎるのだ。

広報の視点から言うとドゥカティとロレンソにとって最高のシナリオはこうだ。ロレンソにドヴィツィオーゾを行かせるよう最初にメッセージを出した際にロレンソがその通りにする。同じメッセージを何度もダッシュボードに表示させるというのはドゥカティにとっては良くない状況だ。さらにそれを暗号で出したというのもまずい。ロレンソがそれを無視したというのは、ドゥカティにとってもロレンソにとってもダメージを大きくしている。

2017年のMotoGPタイトルを獲得するためにドゥカティがあらゆる手を尽くしたことについては責めるべきではない。彼らはできることをやって、それでも目標には届かなかっただけだ。こんなことで2017年のすばらしい、そして実は心温まる物語に影が落とされるのは残念だし、それ以上に悲しいことだ。アンドレア・ドヴィツィオーゾが偉大なライダーの一人となったのだ。彼は史上最高のライダーと互角に戦ったのである。

偉大なライダーが作られるのを見ているのだ

はっきりさせておこう。2017年のタイトルを獲得したことでマルク・マルケスは史上最高のライダーになったということは間違いない。彼はシーズンを通じて何度もそれを証明してみせたのだ。彼は必要とあればこれまで誰もやったことのないやり方で勝ってみせた。新たな戦術、新たな戦略、時にはシンプルに誰も真似のできない速さでもって勝ってみせた。彼の能力と生まれ持った才能には疑問の余地はない。馬鹿馬鹿しいと言ってもいいほどの転倒寸前からの復帰は、居並ぶ我々に彼の才能をまざまざと見せつけるものだった。まだまだこれからの24歳にもかかわらずマルケスは既に6つの世界タイトルを獲得している。しかもその内4つは最高峰クラスだ。そして彼は4つの最高峰タイトルと6つの世界タイトルを最年少で達成しているのだ。彼はここ何年も開幕時点でMotoGPのチャンピオン最有力候補に挙げられ、そして毎戦優勝候補となっている。

今年の彼のタイトル獲得は安定性によるものが大きいだろう。もちろん優勝も多い。マルケスとドヴィツィオーゾは共に6勝ずつを挙げているのだ。しかしそれ以上に重要なのは彼が優勝できないレースでポイントを稼いでいることである。彼の表彰台は6回。対するドヴィツィオーゾは2回。ゴールしたレースでの最低順位はムジェロの6位だ。あとは4位が2回あるだけで、それ以外は表彰台に昇っているのである。

この安定性のおかげで今シーズン彼をみまった3度のリタイヤにもかかわらずチャンピオンを獲得できたのだ。その内2回は彼のミスのせいだ。コンディションがついてこなかったのに責めすぎたのが理由である。しかし3つめについてはホンダのせいだ。シルバーストンでのエンジンブローである。これがなければもっと早くタイトルは決まっていただろう。

アンドレア・ドヴィツィオーゾについてはどうだろう。勝てないときの彼はかなり苦労していた。彼がゴールしたレースでトップ5を逃したのは4回。その内1回はフィリップアイランドでの13位だ。しかし彼はマルケスを最終コーナーでの競り合いの末に破ってもいる。オーストリアともてぎだ。敗れたとは言えドヴィツィオーゾの成績は誇るべきものだ。

楽な勝利はない

今シーズンのマルケスがどれほど辛い思いをしていたかは彼の美容師が気付いている。マルケスがタイトル獲得のプレスカンファレンスでこう語った。バルセロナを終えてマルケスが髪を切りに行くと美容師が彼に何か悩みがあるのかと尋ねたというのだ。「モントメロの後、美容院に行くと彼女が言ったんですよ。『何があったんですか?』ってね。『何があったって?なんでそんなこと聞くの?』って返すと『禿がある』って。24歳なんだからそんなわけないって言ったんですよ。僕のおじいさんも父親も髪はふさふさですから。で、その足で病院に行ったらお医者さんがレースに対するやり方を変えろって言うんです。ストレスがひどすぎるんだって。それでわかったんです。いつもにこにこしてるし楽しいと思ってるんだけど、心の底では違うって。僕も普通の人間でプレッシャーを感じてたんです」

彼はこうしたことについてチームとも話をしていたようだ。「ルマンが終わって空港に向かう車の中でエミリオとホセに言ったんです。乗ってて楽しくないって。仕事だから乗ってるけど楽しめてない。それで考え方を変えることにしたんです。まずは楽しく乗れるようにアプローチを変えよう、その上でどう結果を出せるか考えようってなったんです。今はそうやってるんです。テストではしゃかりきに働く。テストでは毎日100周以上走る。楽しくやれる方法をみつけたんです」

その変化はフレームにも表れている。マルケスは彼専用の剛性の高いフレームを捨ててホンダの他のライダーと同じフレームを使い始めたのだ。「ルマンの後にモントメロでテストをしたんです。そこで変えたんです。違うフレームを試して、選んだのは新型じゃなかった。カルとか他のみんなが使ってるスペックになったんです。僕が使ってたのは違うやつでした。でもみんなと同じ方が少しだけいい感じだったんです。ちょっとずつ色んなことを試したんです。そうやってちょっとずつ感触を取り戻していった」。それでもまだマシンに全幅の信頼を置いて走れているわけではない。それが今シーズン27回もクラッシュした理由だ。しかし戦闘力は取り戻している。そしてマシンも気持ち良く乗れるようになっているのだ。

悩めるヤマハ

マルク・マルケスのタイトル獲得は誰にとっても予想の範囲内だが、2017年のヨハン・ザルコの活躍には皆が驚かされることになった。モンスター・テック3ヤマハの彼はルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得したばかりかベスト・インディペンデント・ライダー(訳注:サテライトのトップ)まで獲得したのである。彼のMotoGP初勝利もそれほど遠くはないはずだ。今シーズンは微妙に歯車がかみ合わないことがあったし、それがまたしてもヴァレンシアで起こってしまったのが未勝利の原因である。彼はヴァレンシアではトップから1/3秒差でゴールしているが、前にいたダニ・ペドロサには1コーナーできれいに抜かれた末の敗戦なのだ。

今シーズンのザルコがすごいのはワークスのモビスター・ヤマハの前で何度もゴールしているということだ。シーズン前半、ヴァレンティーノ・ロッシとマーヴェリック・ヴィニャーレスの二人を後ろに従えてザルコがゴールしたのは9戦中4戦。ヴァレンシアも同じだ。ワークスヤマハを差し置いて第一バイオリンを弾いたのはザルコだったのである。

ワークス・ヤマハが最終戦で試験的に2016年型フレームに戻したにもかかわらず同じことが起こっているのだ。そうだ。2017年型を捨てたヴィニャーレスとロッシがヴァレンシアのレースで使ったのは2016年型だったのである。当初の予定ではテストで旧型フレームを使うはずだった。しかし予選結果が奮わなかったことでロッシもヴィニャーレスも失うものはないと考えたのだ。どちらも前よりましだったとかんじている。旧型フレームの方がシーズンを通じて見つからなかったものを持っているようだ。しかしセッティング時間が限られていたせいでトップ争いができるほどマシンを仕上げられなかったのである。

先祖返り

セッティング時間が特に不足していたのがマーヴェリック・ヴィニャーレスだ。彼は3回目のアタックでマシンを止めてしまう。マシンから得られる感触が良すぎて無理をしてしまったのだ。「フレームの感じは最高でしたね。最初のアタックで1分32秒台を連発できて、2回目には2番手まで上がれた。今週通じて得られなかった感触でした。すごくいい感じで、だからちょっと責めるのが早すぎたんですね。ほんとにいい感じだったんでね」

セッティング時間が足りなかったのがヴィニャーレスにとっては全てだった。リアタイヤにバイブレーションが出た結果12位でゴールすることになる。しかし彼が得た良い感触のおかげで火曜のテストに向けての光が見えているらしい。そして2017年についてはもうすべてを忘れてしまいたいようだ。「今シーズンについてはこれ以上考えたくないですね。もうこれで終わりにしたいです。もう次のシーズンに向けて走り始めたいし、もう同じ間違いはしたくない。あんまりいろいろ頭を悩ませたくないってのが正直なところです。特に最後の何レースかはほんとに難しかったし、めっちゃみんなきつかった。だからもう辛かったシーズンは終わりにして新しいシーズンを始めたいんです」

ヴァレンティーノ・ロッシの方はもう少し前向きだ。「もともと火曜と水曜にテストをするつもりだったんでこうしたんです。なんで今日やったらだめなの?ってなったんですよ。10日テストをやるよりレースを1回走る方が得られることが多かったりしますしね。だからそうしたんです。結果が出せなかったのは残念ですけどね。でも得るものはあった…、面白いことに気付けたんです。でもまあ今のところは簡単ではない。ギャップを縮めるためにいろんなところに手を着けてますから。電子制御についてもそうだし、マシンの動的な解析とかもですね。だから今が大事な時期なのは間違いないです」

ロッシにとってはマシンからのフィードバックが増えたことが大きな一歩になったようだ。「マシンが乗りやすくなったし、マシンからのフィードバックもわかりやすくなりましたね。去年、新型を試したときと同じフィーリングでですね。でも同時にリアタイヤに問題を抱えてしまったのも事実です。それで似たような成績になってしまった。もし昨日のマシンを使っていても似たような順位だったでしょうね」

タイヤの消耗をコントロールする

2016年型フレームの最大の問題はタイヤの消耗だ。レース終盤でタイヤがだめになってしまうのだとロッシは言う。それで最後の数ラップの戦闘力が落ちてしまうのだそうだ。難しいところだが解決不可能な話ではない。ヨハン・ザルコはダニ・ペドロサとわずか1/3秒差でゴールしているのだ。

なぜザルコは2016年型フレームを使いながらもワークスライダーの指摘する問題に悩まされていないのだろうか?違いはおそらくザルコのスロットルワークのスムーズさにあるのだろう。土曜の夜、ミシュランのボス、ニコラス・グーベールが最も驚かされたライダーとしてザルコの名を挙げていた。特にスロットルワークのスムーズさが凄いのだと言っている。カレックスのフレームでMoto2を走っている際に学んだことかもしれない。カレックスはレース序盤では速いのだがすぐにリアタイヤを消耗してしまうのだ。ザルコはMoto2でタイヤマネジメントを学んだのだ。そしてそのスキルをMotoGPに適用しているのである。ザルコはリアタイヤを必要なだけ滑らせるためのスロットルワークを身につけていて、それでタイヤライフとパフォーマンスを両立させているのである。

ヤマハが2018年シーズンの開始にあたって2016年型を再び引っ張り出すことを決めたということは、要するに失敗を認めたということである。これは驚くべきことだ(補足するなら、これは報道発表(別名「嘘」)の観点からも学ぶべきことがある。我々がヴァレンティーノ・ロッシに旧型を使わないのか尋ねると、彼はそれが不可能だと答えていた。2017年型エンジンは2016年型フレームに載せられないと言うのだ。結局それは、まあ言うなれば解釈の間違いであり、事実とは違っていたということである)。

迷い道

ヤマハはどこで道を誤ったのだろうか?2017年型フレームは冬期テストの段階では良い感触だった。マーヴェリック・ヴィニャーレスはスズキ風の乗り方で、ストレートでハードにブレーキを掛けてから曲がっていく。逆にロッシはマシンをそれほど気に入っていなかった。ヴィニャーレスの乗り方だとフロントタイヤに大きな荷重がかかり、それで曲がっていくのだが、ヤマハを速く走らせる乗り方ではない。マシン開発の過程で、特にミシュランがフロントタイヤのケーシングを固くして以降はM1の開発の方向性とミシュランの特性が乖離していき、シーズンが深まるにつれてそれが大きくなっていったのだ。

そしてヤマハは2016年型フレームに戻すことにした。これがヴァレンシアテストのベースとなる他、1週間後のセパンでも使われる予定だ。2016年型フレームが持つ感触の良さを維持しながら今シーズン苦労し続けたタイヤ消耗を抑えることができればいいと彼らは願っている。

ヴァレンティーノ・ロッシはセカンドグループでレースを終えている。トップから13秒遅れでスズキの二人と一緒だった。ロッシと、そしてチームメイトのアンドレア・イアンノーネの前でゴールしたアレックス・リンスが4位で、これはMotoGPでの彼のベストリザルトだ。スズキの2台の成績がワークス・ドゥカティのリタイヤの恩恵を得ているのはもちろんだが、リンスもイアンノーネも再び進歩し始めたのも事実だ。スズキのプロジェクトが正しい方向に向かいだしたのだ。2018年用の新型エンジンはこれまでのパワーの問題を解決しているはずだ。アラゴンでのレース後のテストではレース中のタイムを1秒縮めているのである。

スズキの数秒後ろでは2台のサテライト・ホンダが7位と8位でゴールしている。フィニッシュライン直前にカル・クラッチローを抜いたジャック・ミラーが7位だ。ミラーは良い形でホンダでの最後のレースを終えることになった。ミケーレ・ピッロがドゥカティ最上位の9位、ティト・ラバトが5台目のホンダとして10位に滑り込んでいる。これは彼のシーズン最高位だ。

奇跡はいつも起こるわけではない

MotoGPの決戦を前にしたサポートクラスも実に見応えのあるものだった。最初のレースとなるMoto3でジョアン・ミルが今シーズン11勝目を挙げるかに見えたのだが、彼は目の前でクラッシュしたガブリエル・ロドリゴを避けきれずコースアウトしてしまう。これについてミルは自分のせいだと言っている。ロドリゴに近づきすぎた上、彼のリアホイールの外側に接触してしまったということだ。

その時のロドリゴとミルはホルヘ・マルティンを追いかけていたのだが、既にこの時点でトップのマルティンにじわじわと離され始めたいた。そして2台がクラッシュするとマルティンは後続とのギャップを広げながら悠々と初勝利を飾る。長いこと待ち望んだ勝利だ。そして強さを発揮した今シーズンの締めくくりにふさわしい勝利だ。

ミルは最終的に2位まで上がっている。その後ろでマルコス・ラミレスが3位となった。しかし最も印象的だったのはミルのペースだ。彼は15周でマルティンとの差を4秒詰めたのだ。

Moto2の決勝もスリリングな始まりだった。しかしミゲール・オリヴェイラがトップに立つと2017年のMoto2チャンピオンのフランコ・モルビデリに2秒以上の差をつけてそのまま勝利する。そしてブラッド・ビンダーが3位に入ったことで、KTMは2台での表彰台を連続で実現することとなった。

オレンジ色の未来?

KTMのMoto2プロジェクトは初年度にもかかわらず長足の進歩を遂げている。しかしこれは彼らにとっては過程の一つにすぎないのだ。ヴァレンシアの決勝の翌日となる月曜日、ドイツ語サイトのSpeedweekのインタビューに答えてKTMのボスであるステファン・ピエレが2019年の計画について語っている。彼によればブラッドリー・スミスをまずはヨハン・ザルコと交代させたいとのことだ。既にかなり以前から交渉は進んでいるようだ。

ザルコと契約するというのはKTMにとってもザルコ自身にとっても大いに意味のあることだろう。ヴィニャーレスとロッシが走っている限りワークスのモヴィスター・ヤマハに空席はない。そしてロッシが引退する気配もない。2017年はランキング5位に終わったとは言え、彼は今年も優勝して戦闘力がまだあることを証明してみせたのだ。一方のヴィニャーレスはヤマハの将来を背負っているライダーだ。ヤマハは長期的視野でその決定をしているのだ。

ザルコは類い希なる才能を示しているし、フィードバックも驚くほど的確である。ザルコはKTMがタイトル争いに割って入るためには必要なライダーなのだ。そして彼はKTM125で行われるレッドブル・ルーキーズ・カップの初代チャンピオンでもある。つまり彼は出身地に帰るということになるのだ。

サテライトチームの新設というのもKTMの計画には含まれている。ドゥカティにとってのプラマックと同様のジュニアチームを作るという計画だ。そのシートを埋めるのは簡単だろう。ミゲール・オリヴェイラとブラッド・ビンダーは既に速さと知性と戦闘力を持っていることが証明されている。ピエレは特にビンダーを買っているようだ。曰く「神のごときブレーキング」。二人は2019年にはMotoGPにやってくるだろう。そのサテライトチームの運営はマルクVDSが最有力候補である。

明るい未来

とは言えこれはすべて未来の話だ。今2017年が終わったばかりである。残るのは思い出だけだ。しかしなんという思い出だろう!2017年には奥のことが明らかとなった。私たちは今レースの黄金時代を目の当たりにしているということ、そこに降臨したのは史上まれに見る偉大なライダーたちだということ、レースはすでに接戦続きでドラマに満ちているが、それでもライダーの個性が求められているということ、テストが制限され電子制御とタイヤが統一された新たなレギュレーションの下では知性が鍵となること、恐ろしいほどのスピードを保ちながらレースをコントロールするにはタイヤとマシンの耐久性のバランスが重要なこと、目も眩むような速さで走れなければ勝てないこと、しかし速さだけでは勝てないこと、GPが(比喩的にも文字通りにも)豊かになるのはこうした発展のおかげだということ。

2017年の最大の収穫?我々は今黄金時代のただ中にいて、そしてその終わりはまだまだ見えない。才能溢れる多くのライダーがいて、フランコ・モルビデリやミゲール・オリヴェイラやブラッド・ビンダーやジョアン・ミルやホルヘ・マルティンやその他の多くの若くて素晴らしいライダーが上を狙っている。未来は今と同じくらい明るいことがわかったのだ最大の収穫だろう。
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いいシーズンでしたねえ。ほんとに。しばらくはこの余韻を噛みしめながら過ごしましょう。

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公式リリース>ヴァレンシアGP2017

ホンダヤマハドゥカティ(英語)スズキアプリリア(英語)KTM(英語)

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2017ヴァレンシアMotoGPプレビュー:最後のチャンス

ああ、もう最後ですよ。久しぶりの最終戦決戦。点差は離れていますが何があるかは最後までわかりません!というわけでプレビューをMotoMatters.comより。 
あ、今回はこちらのコース図もご参照くださいな。
Valencia_ricardo_tormo_track_mapsvg
(By Will Pittenger - Wikipediaより)
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MotoGPクラスではこの12年間で4回目となるヴァレンシアでのタイトル決定がいよいよ日曜に迫ってきた。アンドレア・ドヴィツィオーゾとマルク・マルケスが2017年のMotoGPチャンピオンの座を賭けて激突するのだ。それぞれのタイトル獲得条件の詳しい解説はこちらをご参照いただきたい。しかし簡単に言えば次の二点が既に明らかになっているということである。もしアンドレア・ドヴィツィオーゾが勝てなければタイトルは自動的にマルケスのものとなる。そしてドヴィツィオーゾの結果にかかわらずマルケスは11位以上でタイトルを獲得できるのだ。

タイトル決定の場としてヴァレンシア近郊のチェステに位置するリカルド・トロモ・サーキットは実にふさわしいところだ。すり鉢状の地形の中の限られたスペースに4kmの曲がりくねったコースが配置されている。おかげで観客はスタンドのどこに座ってもコース全体を見渡すことができる。どこに座ろうが最も遠い場所でも1kmほどしか離れていないのだ。

実に狭い場所にコースを詰め込んだことで当然のようにヴァレンシアはタイトコーナーの連続するサーキットとなっている。14のコーナーの内3つが1速、6つが2速、7つは90度以上だ。そしてコンパクトなスペースに詰め込まれているだけではない。長いストレートがあるせいでタイヤメーカーにとってはかなりの挑戦となっているのだ。

デインジャー・ゾーン

右の12コーナーを素早く曲がるとほぼ半周にわたって左コーナーのみが続く。次の右コーナーである4コーナーに到着するまでタイヤの右サイドは45秒にわたって冷える一方だ。4コーナーで攻めすぎるとグラベルに突っ込んで終わりを迎えることになる。4コーナーをうまくこなせば少し息をつけるが自信過剰は禁物だ。同じくらいの数のライダーが4コーナーから連続する、やはり右の5コーナーで転倒しているのである。

しかし4コーナーと5コーナーが主たる転倒ポイントというわけではない。その栄誉は(不名誉なのかもしれないが)1コーナーと2コーナーのものなのだ。理由はシンプルだ。抜くのがたいへんなこのコースで、最初の2つのコーナーが最高の抜きどころなのである。長いストレートの後にやってくる1コーナーはブレーキングバトルでの抜き合いが見られる。そして2コーナーには1コーナーでの失敗をリカバーできるチャンスがあるのだ。1コーナーでやられたのであれば、やり返すチャンスでもある。

しかしタイトコーナーが連続するヴァレンシアだからといって、それが面白さを減じているわけではない。特にコース終盤には世界最高と言えるいくつかのコーナーが控えているのだ。僅かに曲がる7コーナーは特筆すべき良さがあるし、8コーナー立ち上がりから11コーナーにかけても素晴らしい。しかし11コーナーから最終コーナーにかけての一連の流れこそが真の見所と言って良いだろう。まずは12コーナーで勢いをつけて右に曲がる。そして言葉に尽くしがたい終わりの見えない左13コーナーだ。ここは丘を駆け上がった頂上でライダーがリアを振り出しながら最終コーナーに向けて今度は駆け下りていくのだ。そして最終左の14コーナーはフィニッシュライン前の最後のチャンスとなる。

最終コーナーで抜きにかかるのはかなりの危険を伴う。ここで前に行くには、ただでさえ低速なコーナーでさらにブレーキを遅らせながらも強く掛けなければいけないのだ。その上で前のライダーのインにマシンをねじ込んでいく。ここでクラッシュしないで済んでも(そしてここで抜こうとした相手をコース外にはじき飛ばすことは良くあることだが)自分がアウトにはらんでしまいスピードが全く乗らないことに気付くことなる。フィニッシュラインまでの短い区間では最終コーナーでの脱出加速が死命を制するのだ。そして最終コーナーで無理をしたむくいが脱出加速に現れるのである。

覚悟の上で

最終コーナーでタイトルの行方が決まる年もあった。しかし今年はそうなりそうもない。アンドレア・ドヴィツィオーゾは優勝しかない。そしてマルク・マルケスはそこから遥かに遅れてもタイトルを獲得できるのだ。そのどちらも可能性は低いだろう。ドヴィツィオーゾはヴァレンシアでの優勝経験はなくMotoGPクラスではわずかに一度表彰台に昇ったきりである。一方マルケスはMotoGPクラスに上がってからは表彰台を逃したことはなく、トップ10を逃したのは実に2009年まで遡るのだ。ドヴィツィオーゾの優勝も難しいことだろうが、マルケスが11位以下でゴールするのにいたっては、ほぼあり得ない話だろう。

以前はヴァレンシアはドゥカティにとって鬼門であった。少なくともケイシー・ストーナーがホンダに去ってからはそう言っていいだろう。しかしGP15での大進化がマシンの最大の弱点を克服したおかげでタイトコーナーでも以前より楽に曲がれるようになっている。高速コーナーではまだ苦労してはいるので13コーナーはドゥカティにとってアキレスの踵と言えるだろう。そしてコースのあちこちに存在するヘアピンでもやられる可能性はある。

しかしドゥカティにも強みがある。その加速力は低速コーナー立ち上がりで心強い味方となるはずだし、そこで他のライダーに差をつけられるだろう。さらにここに強力なブレーキングが加わることでヴァレンシアでも充分な戦闘力を発揮することになるだろう。アンドレア・イアンノーネがそれを証明している。去年はGP16で表彰台に昇っているのだ。ケイシー・ストーナーが2010年を最後にドゥカティを去って以来初の表彰台となったのだ。

逆もまた真なり

ホンダが抱えている問題はドゥカティの正しく裏返しである。RC213Vはドゥカティと同様ブレーキングは得意だが、それだけではない。動きも素早く操縦も楽なのだ。低速コーナーでも高速コーナーでも問題としない。ヴァレンシアには最適なマシンだ。ホンダが遅れをとるのは低速コーナーからの加速である。特にストレートに抜ける最終コーナーが問題となる。こうした問題は今シーズンになってある程度は解決されてはいるものの、ヴァレンシアの最終コーナーでは見過ごすことのできないものとなるだろう。

ヴァレンシアで上手く走ることができるドゥカティのライダーがいるとしたらそれはホルヘ・ロレンソだろう。ここまでのドゥカティでの成績を見る限り、彼は自分好みで気持ち良く走れるサーキットで速さを発揮し、それ以外ではからきしダメだ。ブルノでウィングが導入されて以来、ロレンソはぐっとトップ集団に近づいている。この4戦で2度の表彰台だ。そしてすべてがぴたりとはまれば勝つことも充分できるだろう。

セパンではほぼそうなりそうだった。しかしちょっとした問題が彼の後ろにいたのだ。アンドレア・ドヴィツィオーゾの方が少しだけ速かったのだ。そしてドヴィツィオーゾはその2周ほど後、ドヴィツィオーゾがロレンソを抜く。当然のように数々の陰謀論がとりざたされることとなった。最終コーナーでフロントが滑っていたというとは、ドヴィツィオーゾに追いかけられながらロレンソは限界で走っていたということを示唆している。つまり彼は勝てたかもしれないが、そのためにリスクを冒す価値はなかったということなのだ。彼の雇い主を怒らせることにもなっただろう。

最良の友

ロレンソはヴァレンシアでも同じ状況になるのだろうか?その可能性はある。アンドレア・イアンノーネの表彰台はマシンが良くなっていることの証左だ。そしてヴァレンシアでのロレンソの成績はきら星のごとく輝いている。2010年以来4勝、そしてこの2年も勝っているのだ。ドゥカティがどんな問題を抱えていようがヴァレンシアでのロレンソは速さを見せるだろう。もし彼がチームメイトの直前を走っているなら、譲るためにはそれなりに露骨な動きをせざるを得ないはずだ。ミスをしないためにもロレンソは最終戦では喜んで譲るだろう。問題はその必要があるのか、ということである。

マルク・マルケスの方のチームメイトもタイトル争いにからんでくる順位にいる可能性がある。ヴァレンシアのロレンソがきら星ならダニ・ペドロサは銀河レベルの輝きを放っているのだ。ヴァレンシアではMotoGPで3勝を挙げ、そして唯一3クラスで勝利を挙げているのだ。ここではその他にMotoGPで4度の表彰台を獲得している。2012年から2015年は連続4回の表彰台だ。ヴァレンシアと彼の相性の良さは完璧なのだ。

もちろんマルク・マルケスにとっても完璧だということだ。チームメイトのダニ・ペドロサが勝ってくれれば最高である。もしペドロサが勝てば自動的にマルケスのタイトルが決まるのだ。2017年のタイトルを決めるあらゆるシナリオの中で、これが一番可能性が高いだろう。

金を鉛に変える

ではヤマハはどうか?これまで通りならヴァレンシアでのヤマハは素晴らしい走りを見せるはずだ。ホルヘ・ロレンソはM1で4勝しているのだ。彼の当時のチームメイトのヴァレンティーノ・ロッシにとっては苦い思い出が詰まった場所ではある。ロッシの最後の表彰台は2014年。そして最後の勝利は2004年まで遡る。2006年にはここでニッキー・ヘイデンにタイトルを明け渡している。そしてここ数年は4位が最高成績という体たらくだ。

マーヴェリック・ヴィニャーレスの方はもっと明るい光が見えている。去年はスズキで5位フィニッシュ。より良いマシンの今年はトップ争いに割って入るかもしれない。もし最後までリアタイヤが保てばその通りになるだろう。今年のM1は最もセッティングが難しいバイクになっているように見える。ある週末は最高なのに次の週末は姿を消してしまう。

タイヤとシャーシとエンジンと電子制御の組み合わせで何か錬金術のような不思議な化学反応が起こっているのだろう。スイートスポットにはまれば手がつけられない速さを見せる。しかし2017年のスイートスポットは実に狭いのである。なぜこんなことが起こるのだろう?温度変化に極めて敏感なミシュランタイヤがその一因だろうが、しかし真に責めを負うべきはヤマハ自身である。おそらくパワーを追求しすぎてセッティングのしやすさを犠牲にし過ぎたのだろう。まだだに制御の正しいセッティング方法が見いだせていない可能性もある。フレームやスイングアームの剛性がマッチしていないのかもしれない。しかし何よりそれらの組み合わせだというのが最もありそうなことだ。

新しきを捨てて古きに戻る

ヤマハM1については2017年も速さを見せているが、これまでとは違う状況の違うサーキットにおいてである。モヴィスター・ヤマハにとって不幸だったのは速さを見せているM1がヨハンザルコと、好調なときのヨナス・フォルガーが手にする2016年型だということである。ザルコはヴァレンシアでは過去4年間Moto2に乗ってその気概を示している。彼は2013、2014と表彰台を獲得し、去年はポール・トゥ・ウィンを飾っているのだ。気持ち良く乗れるマシンを手にした彼が得意とするサーキットでMotoGP初勝利を挙げるのだろうか?戦いは厳しい。しかし不可能な話ではない。

スズキの二人もヴァレンシアで速さを見せるだろう。アンドレア・イアンノーネもアレックス・リンスももてぎとフィリップアイランドで良い結果を出してGSX-RRが得意とするサーキットに乗りこんできたのだ。イアンノーネはドゥカティでも去年のヴァレンシアで表彰台を獲得している。そしてリンスはMoto2時代の2015年に表彰台を獲得している。二人の走りも期待できるだろう。

スズキとしては厳しい結果が続いた今シーズンの悪い思い出を払拭したいところではあるが、表彰台を獲得するというのは痛し痒しでもある。今シーズン表彰台に上がれないということになればスズキは来年再びテストとエンジン開発がやり放題という優遇措置を受けられるのだ。そうなれば今シーズンのマシンが抱えていた問題を解決することもできるし、失地を挽回することもできるだろう。しかしリンスだろうがイアンノーネだろうが、レース中に表彰台の匂いを嗅ぎつけたなら、それを追いかけることになるはずだ。チームと個人スポンサーから与えられる表彰台獲得ボーナスはさておき、そもそもMotoGPレーサーというのはプライドのために走っているのである。ろくでもない結果に終わった1年間で傷ついたエゴを慰撫するのにカヴァのマグナムボトルほど効果的なものはないのである。

6メーカーみんなが速い

MotoGPの残り2つのメーカーもヴァレンシアの結果を左右する要素になりそうだ。アプリリアもKTMもここでかなりのテストをこなしている。つまり多くのサーバいっぱいの価値あるデータを持っているということなのだ。アプリリアについてはアレイシ・エスパルガロが怪我から復帰し、良い結果で一年を終えたいと狙っている。進化の年となった今年の総決算だ。

一方、ピットの反対側では喜びではなく開放感が支配している。今シーズンの速い時期にサム・ロウズはアプリリアから見捨てられていた。確かにシーズン序盤は誰が見てもひどい結果だった。しかしテストやシーズン序盤に成績がふるわなかったのには理由がある。ロウズはアレイシ・エスパルガロと同じパーツを決して手にすることがなかったのだ。しかしそれよりもアプリリアが彼のことを気にすることがなかった上、彼を支援しようともしなかったのが最大の理由だろう。

ロウズのMotoGPキャリアは結果が出せないまま終わってしまった。そして彼は(現時点では)それがヴァレンシアで終わることを喜んでいる。しかしMotoGPライダーとしてのロウズの実力を測ることはまだできないと思わずにはいられない。彼は自身の実力を発揮するチャンスを与えられなかったのだ。彼は潜在能力に溢れた素晴らしいライダーかもしれないし、MotoGPでは実力を発揮できない下のクラスに留まるべきライダーなのかもしれない。我々にはその判断は不可能だ。ロウズはそのどちらであるかを見せるチャンスすら与えられなかったのである。

新たな出発

KTMはヴァレンシアで最も注目すべきチームである。ここで何百周も走ったミカ・カリォのおかげでチームは膨大なデータを収集しているのである。そしてブラッドリー・スミスは自信を取り戻している。将来も保証されたのだ。ポル・エスパルガロはますます強くなっている。彼はRC16にまたがったその時から恋に落ちているのだ。再びレースに出るカリォにとっては本当はレギュラーライダーとして走りたかったのに2018年もテストライダーとなる自身の実力を見せる再びの機会である。

とは言えKTMにとっての真に大事なのは火曜からのレース後テストである。RC16はまだアンダーステアに悩まされており、高速の長いコーナーで苦労しているのだ。2018年に向けての改良型エンジンがその問題を解決してくれるかもしれない。今シーズン、スミスとエスパルガロのおかげでマシンのポテンシャルは証明された。2018年の新型はかなり戦闘力を発揮するはずだ。この日曜についえは表彰台は遠いだろうが、1年後にはどうなるかわからない。

これこそがバイクレースの魅力である。ひとつのシーズンが終わっても、2日後には新たなシーズンが始まるのだ。2017年につかみ損ねたチャンスは2018年に再び巡ってくる。日曜が終われば閉じられたドアが再び開かれる。月曜にはすべてがぬぐい去られるのだ。しかしまずは日曜だ。大きな見せ場が待っている。
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うむ。楽しみだ。そしてもう寂しい気持ちになってる…。

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公式プレビュー>ヴァレンシアGP2017

ホンダヤマハドゥカティ(英語)スズキ(英語)アプリリア(英語)、KTM(未)。

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公式リリース>マレーシアGP2017

ホンダドゥカティ(英語)ヤマハスズキアプリリア(英語)KTM(英語)

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2017セパンMotoGPまとめパート1:チームオーダーか純粋な能力か?

いろいろ味わい深いことになったセパンでしたね。ホルヘは、ほんとうは勝ってロッシにざまあみろって言いたかったんじゃ無いかなぁとかいろいろ見ながら思ってましたよ。そんなセパンのまとめをMotoMatters.comから。長いぞ!
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時にタイトル獲得にはチームからのちょっとした助けが必要となることがある。タイトル争いが熾烈なときは特にそうだ。チームメイトからのちょっとした手助けはチームのトップが彼にちょっとした耳打ちをしたからかもしれない。そこに勝利ボーナスを取り損なうという苦い薬を飲み込むための経済的なおまけがついていたとしても誰にわかろう。こうしたことは実に効果を発揮する。もちろんあなたとチームメイトが憎み合っていないというのが前提ではあるが。

バイクレースにおいてチームオーダーというのはずっとタブーである。ジャーナリストもライダーもチームも誰もがその話題を慎重に避けようとしてる。一方ファンはライダーのやったことが単なるコース上の出来事ではなくチームボスに命じられたことなのかどうかを血眼になって探ろうとする。ライダーとピットの間の無線連絡ができない状況ではピットボードと、そして昨年からはダッシュボードに表示する定型文のみがコミュニケーションの手段だ。

無線連絡ができないということはつまりチームオーダーに関する推測や妄想は増すばかりだということだ。ピットボードは他のチームにも見える上、スペースも限られている。メッセージはいきおい簡単で、その分あいまいなものにならざるを得ない。ヴァレンティーノロッシは永遠にBRKというピットボードが何を意味するか問われ続けているし、ダニ・ペドロサもレース中のDOGMAやら最終ラップに入るときのZZTTという表示をよく使っている。

あいまいだからこそ安全なのか?

こうしたメッセージは何をいみしているのだろうか?チームはあまり進んで語ることはない。コミュニケーションがすべて公開されている中、彼らは少しでもうまくやろうとしているのだ。ありふれたわかりやすいメッセージはライバルを利することになってしまう。先週日曜、レースの2/3あたりまでは自分のではなくライバルのピットボードだけを見ていたとマルケスは言っている。相手が何をしているかを把握しようとしていたのだ。だからこそチームは大事な情報を発信するときにはカモフラージュしようとするのである。

こうしたあいまいさが陰謀論にせっせと肥料を与えているのである。ファンもジャーナリストもメッセージを穴の開くほど見つめながら裏の意味を探ろうとする。コース上の動きとピットボードのメッセージを関連づけようとするのだ。「前後即因果」というやつである。99%は牽強付会にすぎない。しかしたまに、ほんとうにごくたまにその推測にも根拠がある場合があるのだ。

そしてこうした一見ありふれたメッセージが先日の決勝、残り6周というところでホルヘ・ロレンソのダッシュボードに表示されたのだ。彼はその時点でトップを走っていたが、この数周ほどチームメイトのアンドレア・ドヴィツィオーゾが1秒弱というところまで近づいてきた。一方マルク・マルケスは4番手を走っている。このままの順位ならドヴィツィオーゾに26ポイント差。つまり2台のドゥカティが順位を入れ替えない限りセパンでタイトルを決めるという状況だったのだ。しかしもしドヴィツィオーゾがロレンソの前でゴールすればマルケスとの差は21ポイントとなりタイトル決定はヴァレンシアまで持ち越しとなる。

アルミ箔の防御シールド

ロレンソのダッシュボードに(そしてドルナのおかげで世界中のテレビ画面に)表示されたメッセージはこうだ。「推奨マッピング:マッピング8」。これはロレンソに対してドヴィツィオーゾに譲れという意味だろうか?それともエンジンマッピングをずぶ濡れのセパンの決勝終盤にむけて最適なものにしろという文字通りの意味だろうか?その真の意味を探るにはレースを振り返り、そして当事者たちの発言を見直すのが一番だろう。

アンドレア・ドヴィツィオーゾはマルク・マルケスに33ポイント差をつけれられてセパン入りしている。フィリップアイランドは悲惨な結果だったのだ。初のMotoGPタイトル獲得の可能性は風前の灯火だった。自力ではもうどうにもならないのだ。セパンでは自分が勝って、しかもマルケスの結果が奮わないということにならなければタイトル争いには復帰できない。しかもヴァレンシアに飛んで同じことを繰り返さなければならないのだ。とても無理そうに見えるって?その通りだ。しかしタイトル争いというのは終わるまではどんな可能性でもあるのだ。

週末のドヴィツィオーゾは絶好調だった。ウェットの金曜もドライの土曜も速さを発揮し予選ではフロントローを獲得する。幸運が少しだけ戻ってきたようだ。一方マルケスはQ2で転倒を喫し予選は7位に終わっている。マルケスと自分の間にはチームメイトのホルヘ・ロレンソがいる。今シーズンなんども破ってきた相手だ。そしてロレンソの理解力に疑問の余地は無い。少なくとも自分が近づけばロレンソは注意深く走るだろうことは間違いない。自分を転倒されるような危ないことはしないはずだ。最高の展開なら?ロレンソが手助けしてくれる可能性もある。

条件付き支援

ロレンソは機会ある毎にメディアに対して喜んで手助けしたいと語っている。とは言えいつもというわけではない。タイトルがヴァレンシアに持ち越されたなら、という条件をつけていたのだ。他のラウンドで助けなければならない場合については口をにごしてきた。

余談だが、メディアがロレンソがドヴィツィオーゾを助けるかどうかということを話題にしたがっている一方でヴァレンティーノ・ロッシがモヴィスター・ヤマハのチームメイトのマーヴェリック・ヴィニャーレスに対する支援について聞かれることがほとんどないのは興味深い(付け加えるならフィリップアイランドでヴィニャレースのタイトル獲得の可能性にとどめを刺したのはロッシその人である。彼が前でゴールしたことでヴィニャーレスとマルケスの差は50ポイントに広がりタイトル争いから脱落することになった)。ダニ・ペドロサも、もしそういう状況になったらマルク・マルケスに何をしてあげるつもか、などという質問に悩まされてはいない。

Moto2決勝終了後からMotoGP決勝の間に降った雨でさらに運命はドヴィツィオーゾに味方することになる。ドゥカティGP17がウェットで速いのはFP2の結果を見れば明らかだった。そして速かったのはGP17だけではない。ウェットでのトップ10の内4台がドゥカティで、ホンダはマルケス一人だったのだ。モヴィスター・ヤマハの二人はFP2で速さを見せている。フィリップアイランドでの進歩がマレーシアでも維持されているようだ。スズキまでもが争いに割って入っている。もしFP2のパターンがレースでも繰り返されるのであればドヴィツィオーゾがマルケスのリードをしっかり削るというのもあながち無い話ではないだろう。

パニックに襲われた?

マルク・マルケスの頭の中ではこうした考えが巡っていたことだろう。彼は絶妙なスタートを切って1コーナーではホールショットを決める。しかしそのせいでぎりぎりのブレーキングと2コーナーに向けてのギャンブルめいたマシンの切り返しが必要になってしまった。そこで少し熱くなりすぎたマルケスはわずかにはらんでホルヘ・ロレンソをコースの端まで追いやってしまう。マルケスの天下はわずか50mほど。ヨハン・ザルコがインにねじ込んできてトップを奪ったのだ。

マルケスがロケットのごとくスタートを切ったのに対してアンドレア・ドヴィツィオーゾのスタートはかなり残念なものだった。スタートで出遅れたせいで彼は1コーナーのブレーキング開始時点で7番手に落ちてしまう。神経質になりすぎたのだろう。それはマルク・マルケスと同様だった。しかしマルケスが神経質になりすぎて1コーナーで順位を落としたのとは対照的にドヴィツィオーゾはスピードを殺してコーナーに入ったおかげでタイトなラインで回りザルコとそう遠くない位置につけることができた。2コーナーに向けて切り返すときにはドヴィツィオーゾはホルヘ・ロレンソの直後につけレプソルホンダを一緒に追いかけることになる。

ザルコはアクセルを開けて差をつけていく。そして彼の後方ではホルヘ・ロレンソがマルケスとペドロサを視界にとらえていた。ドゥカティのパワーとレイトブレーキングを許容する能力のおかげでロレンソは2台のホンダを易々と抜き去って2位に上がる。そして一台のドゥカティに抜かれたと思ったホンダの二人はすぐにもう一台からも攻撃を受けることになる。ダニ・ペドロサは1周ほどはかなりの抵抗を見せドヴィツィオーゾと3~4回順位を入れ替えている。しかし彼らがバックストレートに向けて14コーナーを立ち上がるとドゥカティの加速の優位性が明らかとなる。ペドロサを抜いて4位に上がったドヴィツィオーゾの次の標的はマルケスだ。

やりたい放題

彼がマルケスを完全に抜き去って3位に上がるまでに3周しかかからなかった。14コーナーでインに入るとバックストレートで優位性を存分に発揮したが15コーナーで少しミスを犯しはらんでしまう。そこにマルケスが入ってくる。ドヴィツィオーゾがマルケスがいるにもかかわらずコーナーのイン側に入りかけたときには危うく2台とも転倒するところだった。しかし彼は体制を立て直しマシンを起こす。次のチャンスは4コーナーだ。こんどこそ加速と強力なブレーキングを活かして3位に上がる。

マルケスはドゥカティの加速に負けるのは覚悟していた。しかし本当に負けていたのはそこではない。問題はコーナー進入だったのだ。本来なら天候にかかわらずホンダRC213Vが得意とする部分だ。レース後にマルケスはこう語っている。「今日はあっちはいつもの通り加速が良かったですね。でも問題はこっちの強いところ、ブレーキングとコーナー進入だったんです。これまでのレースと違ってそこで強さを発揮できなかった。感触があんまり良くなかったんです。あっちはいつでも加速はいいんだけど、うちはコーナー進入がいい。今日の問題はそのコーナー進入だったんです」

ドヴィツィオーゾがタイトル獲得の可能性を残すには3位では不十分だった。なによりマルケスが4位では希望はない。しかも上位4台が残りのライダーからどんどん離れている状況ではマルケス4位の可能性はますます高まるばかりだ。5位のダニ・ペドロサとの差はすでにかなりのものとなっている。マルケスが4位ならドヴィツィオーゾは優勝をねらうしかないのだ。

一丁上がり。残るは2台

ドヴィツィオーゾが対処すべき相手は2台。チームメイトのホルヘ・ロレンソとモンスター・テック3ヤマハのヨハンザルコだ。火傷した猫もかくやという勢いで1周目を飛ばしているザルコが頼るのはリアのソフトタイヤだ。おかげでレース序盤にはそのグリップに助けられている。問題はリアソフトでどこまでいけるかだ。そしてそれまでにザルコがどれほどのギャップを築けるかである。

そのソフトリアは予想より保った。ザルコは決してスピードを緩めることはなく、安定したペースで充分なリードを保ち続けたのだ。ザルコの問題はドゥカティが2台とも自分より遥かに速かったことだ。加速に物を言わせて差を縮めてくる。2台のドゥカティは9周目にザルコをとらえると9コーナーでロレンソが、14コーナーでドヴィツィオーゾが抜いていく。そしてレースは2台の争いとなった。

折り返し点ではロレンソがトップ、ドヴィツィオーゾが2位、そしてマルク・マルケスがヨハン・ザルコとの差を縮め始める。まだタイトルはマルケスの手の中だ。この時点でゴールすればマルケスは26ポイント差をつけてタイトル獲得を決められる。彼にはザルコが近づいてくるが見えている。そしてタイトル獲得を確実にする3ポイントの上積みを考え始める。

決め時

マルケスはテック3ヤマハを追いかけるがザルコも自分のリズムをみつけていた。マルケスはわずかに差を詰めるが抜けるほど近づくということはリスクも少々大きくなり過ぎるということだ。失うものが多すぎると判断したマルケスは少し引いてザルコを行かせる。4位で充分だろう。

「レース後はすごく良い気分でしたね。今日は考え得る限り最悪のコンディションでしたから」。後にマルコスはこう言っている。「ウェットで滑りやすいコースで限界もわかりにくい。つまり簡単にミスしてしまうってことなんです。まあとにかく疲れましたよ。スタートではかなりアグレッシブに決めたんですけどドゥカティが2台とも僕より速いって気付いて、あとザルコに追いついた時もちょっと危なかったですね。それで走りながら、ヴァレンシアに乗りこむのに24ポイント差でも21ポイント差でも対して違わないなって考えたんです。だから4位をキープすることにした。今回のレースで大事だったのはとにかく冷静さを保って、無理しないことだったんです」

マルケスはレース中に感じたプレッシャーについて無防備なまでに正直に語っている。「まあぶっちゃけ僕だって人間ですからね。、タイトル争いをしてると、ちょっとした挙動でも大クラッシュかって思っちゃうんですよ。それが普通だし自然なことですよね。今日は、OK、もっとリスクをとれば今日タイトルが獲れるけど、ここでクラッシュしたら8ポイントか7ポイント差に詰められる。だから一歩ずついこうって思ったんです」。大きなポイント差でヴァレンシアに臨む方が数ポイントのためにすべてを手放すよりはいいということだ。

ザルコが3位確実なものにしたことでポイント計算はトップを走る2台のドゥカティ次第となった。もしアンドレア・ドヴィツィオーゾがタイトルの可能性を捨てたくなければホルヘ・ロレンソを抜かなければならない。しかしロレンソは渇望していたドゥカティ移籍後の初勝利を目の前にしている。今シーズン、2回もそのチャンスがあったのに取り逃がしている優勝だ。ロレンソは素直に譲るのだろうか?

領土の確定

その時だ。ロレンソのダッシュボードにメッセージが表示される。「推奨マッピング:マッピング8」。これはロレンソに譲れという暗号なのだろうか?それともその通りの意味なのだろうか?そろそろトラクションコントロールかエンジンブレーキのマップかを適切なものに変更しろということなのだろうか?

真実は我々の知るところではない。ことによったらドヴィツィオーゾとロレンソが二人とも引退してから話してくれるかもしれないが、今のところはレースについて、チームオーダーについて、そしてライダーについて知っていることから判断するしかない。推論でもある程度はどれの答えが正しそうかはわかるはずだ。

まずこれが文字通りの意味かどうかから始めよう。マッピング変更を推奨していたのだろうか?もちろんありそうな話だ。最初に言えるのはライダーがレース中にマッピングを変更するのは事実なのだ。電子制御で何ができるか、どうやってセッティングするのか、ライダーはどうやってマッピング変更を決断するのかについては去年ブラッドリー・スミスに対して行った二つのインタビュー(訳注:和訳はこちらこちらをご覧いただくのがいいだろう。彼はその全てを説明してくれている。

次に言えるのはチームもいつマッピングを変更すべきかライダーに伝えることがあるということだ。ダッシュボードメッセージが使われる前は(使われるようになった今でも)チームはピットボードでライダーに変更を促している。ピットボードにはモードが番号か文字かその両方かで表示され、ライダーは自分が何をすべきか知るというわけである。そしてライダーがこれを無視することもあるのもみんな知っている。アンドレア・イアンノーネがドゥカティ・ワークスに入ってすぐの頃、彼はメッセージが出されたにもかかわらずレース中にマッピングを変更するのを忘れたりしているのだ。

つまりエンジンマッピングの変更を促していたという可能性はあるということだ。ではこれがチームオーダーだったという可能性はどうだろうか?それに答えるにはもう少し要素を分解する必要がある。そもそもMotoGPにはチームオーダーというものが存在するのだろうか。もし存在するならどやってドゥカティはそれを伝えるのだろうか。ドゥカティは(そして他のワークスは)チームオーダーについて正直に語ることがあるのだろうか?それとも隠そうとするのだろうか?そしてライダーはチームオーダーを出されたらそれに従うのだろうか?

チームオーダー:真実は幻想か?

まずはここから始めよう。MotoGPにチームオーダーは存在するのだろうか?疑惑の影はあるものの、そもそもチームオーダーという言葉自体が説明を要するものだ。ライダーとピットの間の無線通信がないということは、チームオーダーは事前に出しておく必要があるというとだからだ。レース後、ドゥカティのチームの幹部たちはジャーナリストから引っ張りだことなった。ダヴィデ・タルドッツィはCRASH.netに対して、ライダーに対して状況の説明はしたと語っている。「ライダーと起こりえることについて話はしていますよ。こういう状況ではとにかくタイトル争いを終わらせないために何ができるかってことなんですよ。マルクにプレゼントを渡すなんて馬鹿げてますからね。確かに難しいってことはわかってますけど、ヴァレンシアまで持ち込めるならそうすべきでしょ?」

スペインのメディア
に対してドゥカティ・コルセのトップ、パオロ・チアバッティは、この件については既にチーム内で議論が進んでいたと話している。タイトルの可能性があるならそれを目指すべきだというのがチアバッティの考えだ。さらに大事なのはドゥカティにとってこれが初めてではないということだ。2016年のアルゼンチンGPの残りコーナー二つというところでアンドレア・イアンノーネがアンドレア・ドヴィツィオーゾをはじき飛ばしている。それが原因となってイアンノーネはドゥカティのシートを失うこととなった。ドゥカティはロレンソとドヴィツィオーゾの両方に激しすぎるバトルは控えるように警告したということだ。ロレンソに対する例のメッセージがドヴィツィオーゾに譲れという意味なのかとはっきり聞かれたチアバッティはにっこり笑ってこう答えている。「あなたがそうお考えなら…」

ドゥカティ・コルセのボス、ジジ・ダリーニャもイタリアのメディアに対して似たようなことを語っている。もちろんライダーと話し合ったということについてだ。「チームのことや会社で働いている人のことを考えるのは当然でしょう。どんなに辛くても選ばなきゃならない道ってものがあるんです」

先例

さらに私たちはドゥカティがかつてチームオーダーを出したということも知っている。これまたダッシュボードメッセージだった。フィリップアイランドのレース序盤、スコット・レディングがドヴィツィオーゾに譲るようにメッセージが送られたのだ。その前の何戦か、ドゥカティのスタッフがドヴィツィオーゾに順位を譲ることについて話し合っているが、フィリップアイランドではそういう話は出ていないとのことだった。レディングはオーストラリアで記者たちにこう語っている。「実際、レース前にそういう話は無かったですよ。日本とか他のところではありましたけど、ここではなかったですね。でもレース中ダッシュにドヴィに行かせろってメッセージが出たんで、その通りにしたんですよ」

しかし後にレディングは考えを変えている。彼はドヴィツィオーゾに追いつくとペドロサを含めた三つ巴のバトルに突入するのだ。「誰かに追いついて、しかも自分の方が速いってのにどうしろって言うんですかね?自分のことも考えなきゃならないんです。ぼくだってランキングを争っている。もしこれがトップ5とかだったらポイント差も大きいんで、僕だってしょうが無いかって思いますよ。でも1ポイントですよ。僕だったら全然気にしませんよ。この何週間か苦労し続けて、なのに連中は僕を助けてくれなかった。今でもですよ。そりゃ僕は移籍するんだし、それでいいですよ。それはわかってたことです。できるときには彼らを助けてもいい。でも1ポイントですよ。んで、あんな状況なら自分のことを考えたくもなるってもんです」

境界を知る

明らかになっているのは、ドゥカティが今後起こり得ることについてライダーに伝えていたということだ。タイトル争いが重要な局面になったらロレンソがドヴィツィオーゾに順位を譲らなければならないことが起こりえるということである。この話し合いにかなりの時間を要したかどうかは別の話だ。ドヴィツィオーゾは注意力も気力もすべてレースに集中させたい。彼が知っておかなければならないのはロレンソに接近したときロレンソが激しい戦いを仕掛けてこないということだけなのだ。

一方ロレンソについても大して説得の必要はなかったはずだ。彼はかなりの金額をチームから受け取っているのだ。毎年1250万ユーロ(邦貨換算16.5億円)である。彼はチームのために働くべきであることはわかっているということだ。「状況については誰に言われなくてもわかってましたよ」とロレンソはプレスカンファレンスで語っている。「マルケスにクラッシュとか何かあったらタイトル争いは重要な要素になりますからね。彼が4以下5位にいるってのもわかってましたし。もちろんレースには勝ちたかったですよ。最後まで攻め続けたかった。でもさっき言った通りフロントがもう限界だったんです。それで最後までドヴィについていくには限界でブレーキングしなければならなかった」

ドヴィツィオーゾを破るにはかなりのリスクを冒さなければならなかった。そしてそのリスクを冒すには失うものが多すぎたということだ。確かに彼はドゥカティでの初勝利を切望していたと言っている。しかしそのためにすべてを捨てるつもりはないもと言っているのだ。「僕はMotoGPで44勝してるんです。だからドゥカティで勝つのも時間の問題だと思ってますよ」そう彼はイタリアのメディアに語っている。彼によれば勝利だけを目指すこともでいたかもしれないが、そんなことをすれば二人ともグラベルに突っ込んでレースを終える可能性が90%くらいになっただろうということだ。

レース後、ここまで正直なコメントが出ているというのに二重の意味を持つ暗号をレース中に送って真意を隠すなどということをドゥカティはしたのだろうか?あり得ないことではない。しかし後から告白するくらいなら隠蔽工作にほとんど意味は無い。ルールではチームオーダーは禁止されていない。つまりドゥカティがそれを隠す必要もないのである。

説明と納得

もしチームオーダーが発信されたとしてロレンソがそれに従わない理由はあるだろうか?それは考えにくい。彼はドゥカティ加入以来、イタリア人チームメイトと良い関係を築いているのだ。ドヴィツィオーゾはこの状況についてこう言っている。「去年のヴァレンシアから行ってますけど、すぐに彼とはうまくやれるって思ったんですよ」とロレンソに向かって言ったのだ。「前にあったみたいに彼は僕に何かひどいことをしたりピット内に奇妙な状況を作り出そうとはしない。彼は自分自身、そしてチームと自分の仕事に集中して、僕が彼をチームメイトだって意識してないってように思ってるみたいなんです。みんなモニタのラップタイムを見てますからね。比べてみればわかりますけど彼と僕はライディングスタイルも違いますし。みんな誰からでも学ぶことはできる。でも彼とライディングスタイルが違っても問題はないですね。彼は彼のやり方があって、僕はそれで何にも問題を感じてませんから」

もちろんロレンソがチームオーダーに気づいてもいいはずだった。レース後、彼はダッシュボードのメッセージを見ていなかったと強調している。「ほんとに何にも見てないんです。次のコーナーに向けてのライン取りに集中していたんです。雨の時は集中力を切らしたくないですから。ミザノで集中力を切らしたときに何があったかはみなさんご存じでしょ?だからダッシュボードを見てもギアを変えるべき回転数だけ見てたんです」。ウェットのミザノでロレンソはマッピングを変更しようとして集中力をとぎらし、結果としてクラッシュしている。コンディションはミザノより悪い中、ロレンソは同じミスを繰り返したくなかったのだ。

要するにチームオーダーなどいらなかったということになったのだ。ドヴィツィオーゾは終始一貫あたかもゴムでつながったようにつかず離れずといった感じでロレンソの後ろで走っていた。あるラップでは彼は近づき、次のラップでは少し離れ、そしてまた近づくといった具合だ。そして16周目、ドヴィツィオーゾは再びロレンソの真後ろにつける。ロレンソのマシンは最終コーナーで激しく暴れる。フロントが滑ったのだ。彼はなんとか膝で立て直した。アスファルトにはそれを示す赤い痕がかなりの長さで残される。そのせいで彼はドヴィツィオーゾに前に行かれてしまった。立ち上がりでドヴィツィオーゾが前に出てトップに立ったのだ。

ロレンソを抜いたドヴィツィオーゾは勝利を確実なものにすべく瞬く間に差を広げていく。最終ラップだけは雨が再び降り始めたことでロレンソにもチャンスが訪れるが、それにしてもリスクは高すぎた。リスクに気付いたロレンソは慎重な走りで2位を確保する。


人にもらったものか、自分で手にしたものか?

結局のところ、セパンでのアンドレア・ドヴィツィオーゾの勝利はチームオーダーの結果なのか?ロレンソがメッセージを見て彼を前に行かせたということなのだろうか?本当のところはわからないながらも、ドヴィツィオーゾがロレンソより速かったのは事実である。そしてロレンソがミスを犯したのも事実だ。最終コーナーでマシンが大きく振られたことでロレンソは順位を落としているのである。そしてそれは彼がトップを守るために限界で走っていたからこそなのだ。

結論は?「推奨マッピング:マッピング8」というメッセージが「15コーナーで激しくフロントを滑らせた上で膝で立て直せ」という意味で無い限り直接的な指示とは考えにくいだろう。もし直接的なチームオーダーだったとしてもアンドレア・ドヴィツィオーゾは実力で勝てたはずだ。ドゥカティがロレンソに何を伝えようが、どちらにせよドヴィツィオーゾより速く走ることはできたなかったのである。この日、ドヴィツィオーゾは相手がチームメイトだろうと誰だろうと決して負けない強さを持っていたのだ。

アンドレア・ドヴィツィオーゾのセパン優勝は彼の血管に流れている血は氷の冷たさであることの証明である。あれだけのプレッシャーの中でも冷静さを保ったのだ。ドヴィツィオーゾは勝つしかなかった。しかし同時に攻めすぎてすべてを失うわけにもいかなかった。マルケスよりドヴィツィオーゾの方が少しだけプレッシャーが少なかったのは確かだろう。ドヴィツィオーゾはそもそもかなり難しい状況に置かれていて、しかも失うものは少なかった。しかし彼の勝ち方は今シーズンの強いドヴィツィオーゾを象徴していたと言えよう。

まだ終わってはいない

この勝利が重要であると言うのには他にも理由がある。ドヴィツィオーゾはついに勝利数でマルケスの6勝に並んだのだ。もし彼がヴァレンシアで勝てば7勝、つまりマルケスはポイント数でドヴィツィオーゾを上回らなければならないということになったのだ。もし同ポイントなら勝利数でチャンピオンが決まる。つまりマルケスはヴァレンシアで最低でも11位、5ポイント以上を獲得しなければならないのである。

もちろんドヴィツィオーゾがタイトルを獲得するのは難しい話だ。彼はヴァレンシアで優勝しなければならないのだ。2位で獲得できるのは20ポイント。そしてマルケスとの差は21ポイントあるのだ。しかもドヴィツィオーゾが勝つと同時にマルケスが今シーズン最悪の結果とならなければいけない。それもマルケスが最も得意とするサーキットでだ。しかもこのコースはドゥカティよりホンダ向きである。

とは言えタイトル争いが最終戦まで持ち込まれたということは、あらゆる可能性があるということでもある。最終戦ヴァレンシアまでタイトル争いがもつれこむのは4スト時代になって4回目のことだ。2015年、ヴァレンティーノ・ロッシはグリッドの後方からスタートしたがホルヘ・ロレンソに追いつくことはかなわず、結局ロレンソがタイトルを獲得している。2013年はマルク・マルケスが慎重に、しかしマシンを暴れさせながら走って優勝したホルヘ・ロレンソのタイトル獲得を阻止している。

しかしヴァレンティーノ・ロッシが転倒してタイトルを逃した2006年の例もある。その結果、一旦はランキングトップから滑り落ちたニッキー・ヘイデンにタイトルを譲り渡すという憂き目に遭っているのだ。「だからこそ僕らは日曜にグリッドに並ぶんです。何が起こるかは誰にもわかりませんからね」。2006年の幕切れはいつもこう言っていたヘイデンにふさわしいものだったと言えよう。

アンドレア・ドヴィツィオーゾがタイトルを獲得するにはヴァレンシアで奇跡が必要となる。奇跡はそうそうやってくるものではないが、しかし可能性はゼロではない。そして何が起こるせよ、ドヴィツィオーゾとマルケスのどちらも今年のチャンピオンにふさわしいのは間違いない。今シーズンのマルケスは光り輝いていた。彼の才能はマシンの性能を遥かに超え、勝利を重ねる安定性もあった。マルケスはほとんどのレースで4位以内に入り、6位より下だったことは一度もない。かつては転倒癖が弱点だったが新たに導入されたフロントタイヤとホンダがマシンに施した改善のおかげでそれも陰を潜めている。

一方のドヴィツィオーゾも素晴らしい結果を出している。ライダーとして成長し、冷静さと静かな集中力を駆使して期待を遥かに超える走りを見せているのだ。彼の走りは安定しているが同時にドゥカティの力を最大限に引き出してもいる。そしてドゥカティの弱点もうまくカバーしているのだ。彼の唯一の弱点は、うまくいかないときの落差である。ひどい結果になることがあるのだ。しかし誰がタイトルを獲ろうが、今シーズンの最大の勝者はMotoGPそのものだろう。
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あー、あー、あー!あと1レースでこの素晴らしいシーズンが終わってしまうなんてー!

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公式プレビュー>マレーシアGP2017

ホンダヤマハドゥカティ(英語)スズキ(英語)アプリリア(英語)、KTM(未)。

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MotoGPオーストラリアGP:ドヴィツィオーゾを最後に凌いだレディング

最後の最後にドヴィツィオーゾを抜き去ったレディングですが、ドゥカティの人たちは(当然)怒っている様子。もっともドヴィツィオーゾ自身は特になんとも思っていないようですが。CRASH.netよりNeil Morison氏の記事を。
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スコット・レディングは日曜のレースで復活を遂げたこと、そして同じドゥカティに乗るアンドレア・ドヴィツィオーゾを最後に抜き去ってみせたことに満足している。一方ドヴィツィオーゾはレディングのやったことに対して感情を動かしている様子はない。

タイトル争いをするアンドレア・ドヴィツィオーゾにとっては痛い誤算だったかもしれない。フィリップアイランドの決勝、スコット・レディングは3台による熾烈な争いを力でねじ伏せて11位を獲得してみせたのだ。

オーストラリアGPの最終ラップ、ドヴィツィオーゾのスリップを利用して11位、5ポイントを獲得したレディングによれば、彼はその後ドゥカティの幹部に無視されているとのことだ。レディングの次でゴールしたのはダニ・ペドロサだ。そしてドヴィツィオーゾはがっかりの13位。タイトル争いにとってはかなり厳しい結果である。

ドヴィツィオーゾが2ラップ目に大きなミスを犯した後、レディングはダッシュボードコミュニケーションで彼に譲るように指示されていたという。そしてレディングはその指示にきちんと従い、黙ってワークスGP17が抜き去っているのを大人しく見守っている。

しかしレディングはすぐに自分の調子が良いことに気付き、前を行くドヴィツィオーゾとペドロサとの差を詰めていく。アラゴンで散々苦労したあげくなんとか14位でゴールし、日本では16位という結果に終わっている彼は、今こそ自分の力を見せつけるときだと考えたのだ。「パドックのみんなはいつだって僕の実力を信じてない。だから自分の力を発揮できてタイヤも使いこなせるときには、ちゃんとそれを証明しないとね」

ドヴィツィオーゾはレディングに抜かれたことについてはなんとも思っていないようだ。フィリップアイランドの高速最終コーナー出口での遅さを恥じるばかりである。「彼は自分のレースをしただけですからね」とドヴィツィオーゾは言う。抜かれたことを問題にしたくはないのだ。

レース後レディングはこう言っている。「すごい差を詰めなきゃならなかった。MotoGPではいきなり何秒も縮めるなんてことはできないですからね。ほんとに少しずつ削って削っていくんです。タイヤのことはちょっと心配してましたね。でもほとんどみんなソフトだったし感触も良かったしグリップもあったしタイヤは保たせることができた。
 だから攻めていったんです。でバトルに持ち込めた。ドヴィを負かすつもりはなかったんです。だって彼が僕を抜いたときに向こうの方がちょっと強いなって思いましたからね。でも僕も、いつもなら苦労する最終コーナーでかなり速かったんで行くことにしたんです。満足してますよ。まあ喜んでない人もいるってのはわかってますけど糞食らえですね。自分のことを考えなきゃならないこともなるんです」

ドヴィツィオーゾを加速で抜き去ったレディングだが、可能であればドヴィツィオーゾを助けるようにという話がドゥカティの中であったのだそうだ。「最終コーナーで彼を抜けたんですが、とにかくぴったり張り付いて頑張って加速してコーナーに突っ込んでいった。でもペドロサも相手にしなきゃならなかったんです。すべてを犠牲にするつもりはなかったんですよ。クソみたいな週末を2回連続で過ごしたんだから、自身を失わないってことだけが大事だったんです。
 ドヴィを助けてやれよって話もありましたよ。でも表彰台争いとかそういう状況ではなかったですからね。そうなれば話は違う。彼はコースアウトして戻ってきて僕は彼を抜いて、そしたら彼が僕に並んだんで先に行かせたんです。行かせてやったら彼はどんどん前に行った。でもどうすれば良かったって言うんですかね。誰かに追いついたってときにどうすればいいと?
 パドックではみんあ僕の力をいっつも疑ってるんです。だから自分の力を発揮できてタイヤも使いこなせるならそれを証明しないと。もしドヴィの後ろでゴールしてたらみんな、ああスコットはよくやったね、ってくらいの感想ですよ。でも今回は違う。みんな『まじか!スコットはすごいね。すごいことをやったよ』って思う。つまり僕は彼を負かそうとしてやったんじゃなくて、単に今日は全般的に僕が強かったってだけなんです。自分でも思ってもみなかったですけどね」

フィリップアイランドのレース前にドヴィツィオーゾを支援するように命令されたのだろうか?「いや、そんなことは言われてませんよ。日本とか別のところでは言われましたけど今回はなかったですね。
 でもレース中インパネにドヴィを行かせろって表示が出たんです。だからその通りに彼を行かせたんですよ。でもさっき言った通り誰かに追いついて抜けそうで、自分がかなり速いってのにどうしろって言うんですかね。
 自分のこれからのことも考えなきゃならないんです。僕もランキング争いをしてるんですよ。あれが5位とかそれ以上を争ってるんならポイント差も大きいし、だったらいいかってなるんですよ。僕も違う風に考えられたかもしれない。でも1ポイントしか違わないんですよ?僕だったら全然気にしませんよ。
 この何週間か苦労し続けて、なのに連中は僕を助けてくれなかった。今でもですよ。そりゃ僕は移籍するんだし、それでいいですよ。それはわかってたことです。できるときには彼らを助けてもいい。でも1ポイントですよ。んで、あんな状況なら自分のことを考えたくもなるってもんです。
 この前に人のタイトル獲得を手伝ってやったのは1ポイントで自分がタイトルを失ったときですよ。今回ももし状況が許せば僕だって手伝ってあげたかったし、実際にそうしてあげた。彼を前に行かせたんですよ。前に行かせて、彼は離れていった。でも今日は僕もいつもより強さがあったし、だからそれを証明したかったんです。証明する相手が自分だとしてもね。
 そういう意味で自分が前でゴールしたことを後悔はしてませんよ。ゴールまでの加速競争で、僕はペドロサが前にいると思ったんです。僕らはバトルしていて、だから何一つあきらめたくはなかったんです。自分ができることを見せたかったんです」

混戦だったレース後にドゥカティの人間と話したかと聞かれたレディングは、今のところ無視されていると答えている。

「いつもならレース後に会いに来てくれるんですけど今のところは無視されてますね。ちょっとがっかりですけど、まああの順位ならどちらにせよタイトルの望みは消えてくわけですし。もっと前を走ってろってことですよ。彼は自分でミスをした(2ラップ目の1コーナー)。それは僕のせいじゃない。
 僕は彼を助けてあげたんですよ。彼を前に行かせた。自分の仕事はこなしたんです。でもいつも与えるだけってわけにはいかないでしょ。誰も僕がタイトル争いをしてるとき助けてなんてくれなかった。僕に与えられたのは腕の骨折って結果だけです。だから僕が自分のことを考えてやらないといけないんですよ」

マルク・マルケスに33ポイント差をつけられたドヴィツィオーゾはレディングのやったことに対して怒っているかと尋ねられてこう答えている。「いいえ、彼は彼のレースをしただけですからね。
 自分のトラクションがなかったことにがっかりしてるだけですよ。結局彼の方がトラクションで勝っていたんです。最終コーナーまでインを閉めまくってたんですけど、最終立ち上がりで僕が遅かったんで彼が抜いていったってだけです」
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普段から良い関係を築いておくのが大事なんですよ。

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