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ケニー・ノイスの戦い:周回が残っている限りレースは終わっていない

5年前のアラゴンで大事故に見舞われ、一次は命まで危ぶまれたケニー・ノイスが自伝を出したのを機に、MotoGP公式がインタビューを行っていますので、久しぶりに訳出。
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7月5日はケニー・ノイスの家族にとって特別な、しかし悪夢のような日である。5年前、タイトルホルダーのケニーはモーターランド・アラゴンで行われたFIM CEVスーパーバイクレースで命の危機に陥るような大事故にあったのだ。命を取り留め、さらにグラスゴー・スケールで3点という、これより厳しいレベルはない深刻な昏睡からも脱したケニーは、限界を超えたその先を目指して回復を続けている。彼は日々前身をつづけ、困難な状況の中、それでも新たな人生を歩もうと決意した人々にとってのメッセージを発しているのだ。

偶然にもその事故からちょうど5年目、ケニーは自伝を出版した。「挑戦:スーパーバイク、Moto2、そしてグラスゴー3」というタイトルのこの本にはアメリカでのダートトラックに始まりMoto2に至るまでの歴史と、人生をすっかり変えることになってしまった事故からのリカバリーについて書かれている。有名な元ライダーでコメンテーターである彼の父親、デニス・ノイスとの共著である本書にはMotoGPレジェンドのウェイン・レイニーが序文を寄せていて、すでに予約が始まっている。ノイスは併せて自身の回復のためのチャリティーを立ち上げた。このたびmotogp.comではケニー・ノイスのこれからについて彼にインタビューを行っている。

Q:モーターランド・アラゴンでの事故からちょうど5年の節目を迎えて自伝を上梓されました。執筆を始めたときに思っていたとおりになりましたか?

A:すごくうれしいですね。これまでやってきたのとは全然違うプロジェクトでしたけど、物を書くことは楽しかったです。ちゃんと仕事として取り組んだし、日々いい仕事ができるうようになりました。まあ物を書くということがこんなに時間が掛かる物だとは思ってなかったですけどね。最初は事故からちょうど3年目になる日に出版しようと狙ってたんです。事故後に意識を回復した瞬間のことは忘れる前に書き留めておきたかったんですが、自分の身体の状況を考えてなかったんですよ。ちゃんとした早さでキーボードが打てなかった。だから申し訳なかったんだけどそこは母さんに頼むことにしたんです。すごく我慢強く付き合ってくれましたね。おかげでうまくいったと思います。それが第1章の話なんですが、その後は自分で打てるようになったし、詳細まで記録できたんでよかったです。


Q:この本ではご自身のレースキャリアと事故前後の人生について振り返っています。いろんなことがあったと思うのですが、どうやって構成を組み立てたんですか?お父様のアドバイスが相当役立ったんじゃないかと思いますけど。

A:なかなかたいへんでしたね。精神的に辛いことについて話すのも辛かったですけど、そもそもこういうことについて物を書くというのが初めてってのがきつかったです。父さんが手伝ってくれたおかげで修正すべきことが全部見えてきましたね。今日は完璧に見えた文章が、翌日冷静な頭で読み返すと違って見える。「出版されて初めて完成なんだ」と教えられました。


Q:バイクレースのファンは困難を克服した一例としてあなたを見ていますし、あなたも同じような状況にある人の助けになりたいと話していました。新型コロナウイルスが引き起こした困難な状況の下、人々はあなたのようなお手本になるようなヒーローを求めるようにになるのでしょうか。

A:かもしれませんね。でもそんな風に考えたことは一度も無かったです。ぼくらはこれまでも誰かの助けになることを目的としていましたし、このところずっと誰かに手を貸したり支援したりアドバイスしたりとできる限りのことをやっています。とは言え新型コロナ禍は当初思っていたよりずっとたいへんなことになっていて、だからお手本がほしいと思う人もずっと多くなっているんでしょうね。こうした厳しい状況を生き抜いていくわけですから。他のみんなと同じように私も新型コロナで何が変わっていくのかを注視しています。MotoGPみたいな大イベントは重要ですね。ファンが気を紛らわして楽しい時間を過ごすことができるし、アスリートが真剣に取り組んでいる姿を見ることもできる。残り周回がある限りレースは終わっちゃいない。やっとヘレスでGPが再開されるわけですが、無観客ってのは不思議な感じでしょうね。でもレースが始まるんです。ドルナがやったことは見習うべきことですね。


Q:ウェイン・レイニーが序文を寄せてくれていますが、それはあなたにとってどんな意味を持ちますか?

A:ウェインが書いてくれているように、彼は僕のこどもの頃からのヒーローなんです。だから最初から彼に文章を寄せてもらいたかったんです。それで彼にお願いしてみたらすぐに快諾してもらえました。ウェインは物書きというタイプではないので嬉しかったですしとても感謝してます。とても気に入ってますし、世界中の人に読んでほしいですね。


Q:ウェイン・レイニーは本当にお手本になるような人物ですね。あなたはソーシャルメディアで悲劇から立ち直った同様の例としてポール・バサゴイティア(訳注:フリースタイル・マウンテンバイクライダーで2015年に脊髄損傷を負った)のドキュメンタリーに言及しています。ご家族の献身的なサポートは別にして、回復途上のあなたにとっては誰がヒーローだったのですか?

A:深刻な怪我を負って、でも笑顔を絶やすことなくトレーニングを続けるすべての人たちですね。リハビリの間は本当に苦しかったですけど、ステップ・バイ・ステップ財団で、それぞれ異なる麻痺を抱える人たちに出会ったんですが、彼らがいたから頑張れたんです。彼らはトレーニングを楽しんでいたんですよ。それがすごく衝撃的で、そこから僕の取り組む姿勢が変わったんです。


Q:ソーシャルメディアについてですが、あなたの回復の様子を追いかけているとわかりますけど、笑顔やジョークを絶やしていませんね。だからこそ楽観的でいられるんでしょうか?

A:いちばんたいへんなのは、カメラのスイッチが切れた後も笑顔を絶やさないことですね。最初は自分がついてないからこんな怪我をしたんだと思ってたんですけど、もっと悪い結果だってあり得たんだと、今の状況に感謝できいるようになってきて、運が良いから人生の第2章を始められるんだと思えるようになったんです。


Q:「みんなに昏睡状態ってものをわかってもらいたい。映画みたいにあるときいきなり目が覚めるわけじゃないんだ」と書いていました。この部分からは何を読み取ればいいんでしょうか。「グラスゴー3」というのはこの本の3本の柱のひとつですが…。

A:他にもいろいろ重要なことが書かれているので柱と言って良いのかどうかわからないですけど、確かに家族にとっても僕にとっても重要な転機となったのは間違いないです。僕の回復がいきなり唯一の関心事になってしまったんですから。また普通の生活ができるかどうか。お医者さんが真剣な顔で、死ぬかもしれないし一生植物状態かもしれないと言ったときにみんなの優先順位が変わったんだと思います。そしてそれこそがこの本で僕が伝えたかったことなんです。


Q:あの難しい瞬間から5年が経ちました。今までとは違うやり方で前に進めているという気持ちはありますか?

A:ちょうど昨日も妻と話していたんですが、今は「ここまで達成すれば嬉しい」というラインを設定する以上のことはやっていないんですけど、それを達成したらもう次の目標を考えているんで嬉しさが長続きしないんですよ。


Q:毎日かなりの時間をリハビリに費やしていて、そのおかげで本まで書けるようになりました。でもそれだけじゃなくてノイス・キャンプのようなプロジェクトにも携わっていますしエトニック・トライク(訳注:前2輪の3輪自転車、電動アシストオプションあり。サイトはこちら)のテストライダーも務めています。他にもやろうとしていることはありますか?そもそもどうやって時間を捻出するんでしょうか?すごすぎますよね!

A:今はリハビリが仕事なんですけど、だからといってお医者さんが給料を払ってくれたりはしませんからね、というか逆ですから!ノイス・キャンプは大好きなんです。参加者のお世話をして、スタッフや僕からのアドバイスで彼らが上手くなるのを見るのは楽しいですから。そしてエトニックのトライクについて触れてくれてありがとうございます。僕にとっては最も重要な移動手段なんですよ。あの転倒からこっち、誰かに手助けしてもらわないと2輪ではバランスが取れなくなっているんです。あらゆるものを試してみたんですよ。普通のマウンテンバイクや小径自転車や電動スクーターや140ccのバイクまでね。でもどれに乗っても同じ問題が出るんです。走り出すときと止まるときですね。その瞬間って足の動きに正確さが求められるんですけど、スピードに対してうまく反応できない上に、地面を強く押しすぎないようスムーズに動かすこともできないんです。だからエトニック・バイクを試した時はほんとうにワクワクしましたね。3輪なんで止まるときも足を降ろさなくていい。しかもすごく安定していて4輪マシンみたいなんだけど、でも基本は自転車なんです。


Q:あなたが本の完成に向けてスパートしている一方、MotoGPもヘレス開催に向けて加速しています。今シーズンは何に期待しますか?何か驚くようなことがあるでしょうか?そしてワールドスーパーバイクのような他のカテゴリーについてはどうでしょう。何か特に楽しみにしていることはありますか?

A:何か予想を立てるほど大胆にはなれませね。だってレベルは拮抗しているし、いろいろ新しい要素もありますからね。個人的にはヴァレンティーノ・ロッシとアレックス・リンクのファンなのでで去年のシルバーストンみたいな対決をもっと見たいですね。でもまあいつものことですが、そう簡単にはいかないでしょう。ワールドスーパーバイクについては新型ホンダをどうバウティスタが乗りこなすかがに興味がありますね。でもご存じの通り僕の心は緑色なんで、カワサキ・レーシング・チームと共にトップに行きますよ。


Q:2020年も予定が目白押しで、本を出すのにもチャレンジしたわけですが、直近で何か新たなチャレンジはお考えですか?

A:もっとうまくバランスをとれるようにして走れるようになりたいですね!ほとんどの人には造作も無いことですよね。小さい頃に覚えちゃうんだし。でもクラッシュの後、僕はまだ走れてないんです。スローモーションで考えてみると、走るのってまずは片足でジャンプして、次はもう一方の足でジャンプするってのをバランスを崩すことなく繰り返す…って単純な動作に思えますが、でも実際にはすごく複雑なんですよ。それから、このことには気付いてないんですけど、僕らの脳ってすごい計算と調整を行っていて、それでやっと走ることができるんです。


Q:将来についてはどうお考えですか。いつも新たなプロジェクトが待ってますけど、再び何らかの形でバイクに乗りたいと常々公言されてます。その夢は相変わらず持ち続けていますか?

A:また乗りたいですね。でももうレースはいいです。ノイス・キャンプには小さなカワサキZ12(訳注:Z125PROでしょう)があるんですけど、乗るならあれが完璧じゃないかとにらんでるんです…それもそう遠くない将来にね!最初に乗るときにはカメラをたくさん使って記録しますよ。できれば膝スリもしたいし、楽々とやってみせたい。トライするところは必ずみんなに見てもらいますよ。

ここまであなたは多くの目標を自分で掲げて、それを一歩一歩成し遂げてきました。これからもそれは変わることがないように思えます。だからこれからもこの調子で目標に向かっていってください。頑張って、ケニー!
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インタビューで言及されるEttnic.comはサイトがめっちゃ重いので、走行シーンを見たい方はこちらのYouTubeチャンネルからどうぞ。

しかし今年のMotoGPクラスの初戦となるスペインGPは怪我人続出でしたので、みなさまくれぐれもご安全に。

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