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次に来るMotoGPの電制制御制限

電子制御が統一されたおかげでおもしろいレースが観られるようになったわけですが、ハードとソフトを統一してもまだメーカーの裁量が残っている部分があります。これが次に制限されるというMat Oxley氏の記事をMotor Sport Magazineより。
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今のMotoGPがかつてと比べて面白くなっているのにはいくつか理由がある。その一つとして2016年からのソフトウェア統一が挙げられる。

ドルナが供給する統一ソフトウェアによりマシンの性能差が縮まったが、なにより重要なのはライダーの手にマシンの支配権が戻ったことである。そんなわけでマルク・マルケスやヨハン・ザルコのリアタイヤから煙が上がるとき、それをコントロールしているのはライダーの右手なのだ。彼らはリスクと報償の間で綱渡りをしているのである。ここでがんばっているのはアルゴリズムに従ってカチコチリズムを奏でる小さなブラックボックスなのではないのだ。まあ、ある程度まではということではあるが。

何年もにわたってドルナの会長カルメロ・エスペレータはメーカー製ソフトウェアを禁止するための戦いを各社の幹部と繰り広げてきた。MotoGPマシンがコンピュータ制御のミサイルと化してしまったからだ。エスペレータにとってこの戦いに勝利し統一ソフトウェアの導入を実現した日は最高の一日だったろう(彼がどうやってそれを実現したかは神のみぞ知る、だ)。

ドルナはさらに電子制御をダウングレードすることで性能差を縮めるとともに電子制御によるライダー支援を削減する。今シーズン限りでメーカー製IMUが禁止されるのだ。

IMUとは何だろう?。電子制御ソフトが脳だとしたらIMU、すなわち慣性測定ユニット(Inertial Measurement Unit)は感覚器に相当する。電子制御システムにマシンの運動状態を伝えるのだ。ピッチング(前後の傾き)、ヨーイング(進行方向に対する左右の動き)、ローリング(傾き)といった情報だ。MotoGPマシンのIMUにはジャイロスコープと加速度計が備わっており、それぞれがこうした測定を行いつつバンクやピッチングの速さといった動的要素を計算しているのである。加速度計が最初に実際の現場に投入されたのは第二次世界大戦でのことだ。米国空軍が戦闘機パイロットにかかるGを計測しようとしたのが始まりである。

理論上はIMUは横方向のGから諸々の計算を行い、電子制御ユニットにその結果を送信するだけである。そして電子制御ユニットがトラクションコントロールやウィリーコントロール、エンブレコントロールやローンチコントロールといった様々な制御を行うのだ。

ではなぜドルナが自社製IMUを禁止したいと考えいるのだろうか?実はほとんどのメーカーが、サテライトも含めてルールをねじ曲げて、電子制御ソフトがより上手く作動するようIMUのソフトウェアを仕込んでいるのだ。これはルール違反だがそれを見つけることはほぼ不可能である。

どうやってIMUでごまかすのか?おそらくこんな具合だろう。例えばエンジニアがトラクションコントロールのアルゴリズムを変更してリアタイヤを温存し最終ラップでライダーが速さを見せられるようにしたい場合を考えてみよう。かつてMotoGPで使われていたメーカー製ソフトウェアと異なり、ドルナのキットではどうにもならない。統一ソフトウェアではバンクさせる速さとライダーが必要とするトルク(つまりスロットル開度)を関連づけられないからだ。そしてエンジニアはドルナのソフトウェアをいじることはできない。誰かがごまかしていると疑えばMotoGPの技術スタッフは好きに中身を検証することができるのだ。

そこでエンジニアは下流の電子制御ユニットをいじるのではなく、その上流にあるIMUをいじるのである。こちらは独自の計算ソフトを使っており、ドルナの支配下にはない。そもそもMUソフトは非常に基本的な機能しか想定されていない。ジャイロスコープと加速度計からの信号を整理して電子制御ユニットに計算結果を送るだけだ。

しかし勝利に向けて必死になっているエンジニアだかチームだかメーカーだかは、要するにそこにいる全員と言うことだが、彼らはIMUをもっと役立つようプログラムできるのである。バンキングスピードに関するアウトプットを他の数値と組み合わせて自分のところのマシンのトラクションコントロールがライバルよりうまく作動するようにできるのだ。

これがMotoGPで電子制御に苦労しているチームとそうでないチームの差が出ている理由なのだろうか?モヴィスター・ヤマハのヴァレンティーノ・ロッシとマーヴェリック・ヴィニャーレスは悪夢のようなトラクションコントロールシステムに悩まされている。しかしこれは別の理由によるものだろう。

事情通なら誰でも、IMUでごまかしていないところはひとつもないと思っている。レースというのはそういうものだ。自社製電子制御ユニットとソフトを禁止したにもかかわらず自社専用IMU(自社製か他社製かを問わず)を許可するというのは、当然のごとくIMUでどう差をつけるかという競争に直結するのである。

モヴィスターに対する他社の優位性はどちらかというとドルナが供給するマニエッティ・マレリ社製ソフトウェアに対する知見の差だろう。システムのマップやアルゴリズムに関する複雑な数字を効果的に組み合わせるには深い知見が必要なのだ。他社は元マニエッティのスタッフを雇用したり、マニエッティと緊密な関係を築いていたりする。ヤマハだけが自分の力でシステムの秘密を解き明かそうと決意しているように見えるのだ。そのやり方にも意味はある。ヤマハの電子制御エンジニアはこれを通じて多くを学ぶことができるのだ。現代のレースでは非常に重要な要素である。しかしそのせいでロッシとヴィニャーレスが結果を出せないでいるのも事実だ。

もちろん統一IMUがどんな結果をレースにもたらすのかは誰にもわからない。しかし自社専用IMUの禁止は合理的な判断である。電子制御ユニットとソフトウェアを統一したにもかかわらず自分のところのIMUでごまかせるとしたらどうだろう?

最もありそうなのは統一IMUのおかげで異なるマシン同士の性能差はさらに小さくなるということだ。これは良いことである。性能差が小さければレースも接戦になり見応えが増すからだ。ファンにとっては素晴らしいことだし、ひいてはドルナにとってもパドック全体にとっても素晴らしい結果をもたらすことになるだろう。とは言えレースが接戦になるということはアグレッシブさも増し、接触も増え、転倒も増えるということも覚えておこう。これは最近になって顕著になっているのだ。
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もう少し付け加えると、IMUで実際の数値から得られるものとは異なる計算結果を意図的に電子制御ユニットに送ることで、電子制御ユニットからの介入方法をドルナ/マニエッティ・マレリの想定とは異なる方法でやらせてるってことみたいですね。こういうのも面白いんですが。

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コメント

IMUですかぁ(゚ー゚)初めて知りました。
メーカーとしては、やれることはなんでもやるだろうし、それが普通ですよね。
でも、ちょっと遠目から見るといびつな感じもしないでもないようなw
それも統一となると、結局メーカーは素の状態で優れた車体と扱いやすくパワフルなエンジンを造るということになるんでしょうかね?
そして優れたライダーがそれを操り勝つ。
ここのところは変わらないかもですね。

今回もマルケス強し!他者の結果も兼ね合わせると、この勝利は二勝分くらいの価値があるかもしれないのでは?
今後が退屈症候群にならなければ良いですが。

投稿: motobeatle | 2018/05/21 19:10

>motobeatleさん
 電子制御はライダー支援システムとしてはたいへん優秀で、これはこれでレース現場で開発して欲しい来もするんですが、やっぱり今の状況を見ると独自開発時代はやりすぎだったなあって思いますね。
 そしてマルケス…。去年以上のポイント差がついちゃってるんですよねえ。しかも2番手って、今シーズンいいところのないヴィニャーレスですし…。

投稿: とみなが | 2018/05/21 21:39

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