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ど突き合いの責任は誰に?

大荒れだったアルゼンチンの興奮も冷めやらぬままアメリカズGPに突入するので、とりあえずこれでアルゼンチンネタは最後です。再びMat Oxley氏の記事をMotor Sport Magazineより。こんどは「なんでMotoGPはど突き合いが多くなったのか」について。
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骨折した右手首を休ませながら、またもや自分のせいでもないのにシーズンを棒に振ることについてダニ・ペドロサが自宅で噛みしめている今こそMotoGPがどんな場所までやってきたのかじっくり考える良い時ではないだろうか。

なぜレースはこんなにアグレッシブになってしまったのか。責めを負うべき人間がいるのであればそれは誰なのか?勝利を渇望する余りこないだの日曜に相手に突っ込んでいったマルク・マルケスやヨハン・ザルコやダニオ・ペトルッチといったライダーが悪いのか?それとも誰もが罪を犯したことがあり、今後機会があれば罪を犯すという意味では全ライダーが責めを負うべきなのか?

そういうことだ。全員が何かしら責めを負うべきなのだ。しかしこのど突き合いが蔓延したことについて責めを負うべき者たちがいる。あなただ。そう、これを読んでいるあなたである。そして私だ。そして日曜午後に楽しもうとテレビの前に座る他の全ての人々だ。

人間というのは大きく心を動かされるものに弱い。そしてそれが手に入れば入るほど、欲望も増していくのだ。ジャンキーと同じである。昨今ではアクション映画のようなスリルをスポーツに求めるようになっている。シナプスが信号を出し続けられるよう次から次へと興奮を追い求めるのだ。

スリルに満ちたアルゼンチンGPの大騒ぎの直後、私は1970年のSF映画「ローラーボール」を記事で引用した。この映画ではバイクも登場する下劣で悪辣なスポーツが描かれる。偶然にもこの映画の舞台は2018年の政府から権力を引き継いだ巨大企業群が支配する世界だ(ここに関しては現実世界ではありえないが)。ローラーボールの運営会社の幹部は豪華な宮殿に住んでおり、バトルをヒートアップさせてファンをより多く惹きつけるべく常にルールを変更し続けている。

「奴らは俺たちが血溜まりの上で滑るようになるまでルールを変えてくつもりなんだ」。ローラーボールの最大のスター、ジョンソンEの台詞である。

モータースポーツもより面白い接戦となるよう常にルールを書き換えている。我々がテレビのチャンネルを合わせてキャッシュレジスターが鳴り続けるようにするためだ。

MotoGPのリザルトを見返してみれば1949年6月に開催された初レースからどれほど変化したのかがすぐにわかる。以来3000以上のレースが行われているが、全クラスを通じてトップ15のタイム差が小さい上位25レースの内20レースはこの5年以内のものだ。さらに1949年から2016年の間で最高峰クラスでトップ15が35秒以内でフィニッシュしているのは(ドライレースでフルディスタンスに限ると)4レースしかない。一方去年だけでもそれが6回も起こっているのだ。最後に1967年の優勝者が2位につけた差の平均が2分05秒だったのに対して昨シーズンは2.2秒だったことにも触れておこう。

別の言い方をすれば、レーサーが他のライダーと顔を合わせる機会はコース上よりパドックのバーの方が多かったし、彼らはそれに慣れていたということだ。マシンの性能差が大きかったのがその理由だ。今ではマシン差は極めて小さく、ライダーはお互いの顔が見える位置でレースをし、ライバルに差をつけるためにはとてつもなく奇妙なこともやってみせたりする。別に最悪のルール違反を犯した者を擁護しようというわけではない。3クラス共にレースがアグレッシブに、そして肉弾戦になっている裏にある理由を探ろうとしているのだ。

現在のGPレースがどれほど接近戦になっているのかは、最も最近の3件の死亡事故の内2件が転倒後に直後を走っていたライバルに轢かれたことに起因していることからもわかる。そして先日のブリラムのワールドスーパーバイクでのユージーン・ラヴァティの恐ろしい事故も同じだ。彼の直後を走っていたジョルディ・トレスが避けきれずにラヴァティを轢いてしまっている。

実際の所、これは今に始まったことではない。100万年ほど前のことだが、私はヤマハ・プロAmと呼ばれるシリーズに参戦していた。ヤマハがRD350LC(訳注:ヤマハRZ350)を提供するワンメイクレースだ。どのマシンになるかはライダー自身がくじを引いて決まる。文字通りのくじ引きで、ヘルメットの中からイグニッションキーを取り出すのである。Moto2とは違う。こちらは同じ仕様のCBR600エンジンをくじ引きシステムに従ってチームに配分するのだ。

プロAmは野蛮で過激だったし、そのせいで当たり前だが多くのテレビの視聴者を喜ばせることになった。数限りない事故も発生した。私は多重クラッシュに巻き込まれた後にヘルメットに付いたタイヤ痕を拭き取ったことさえある。徹底的に悪辣で嫌な奴にならなければチャンスを手にすることもできない。グリッド上のマシンの性能が接近しているとこういうことになるのだ。

接触はレースの一部だと言われてきた。ファンは自分のお気に入りのライダーが怪我をしたり最悪の結果を迎えたりするまではど突き合いを大いに楽しんでいる。しかし我々も問題の一因なのだ。マシン、ライダー、ドルナ、そして外野から見ている我々、そのすべてが原因となっているのである。

クラッシュや接触の原因は他にもある。安全性だ。グランプリサーカスが壁と街灯とバス待合所に隣接して行われていた頃は、クラッシュしたらそれで最期になるかもしれなかった。だからこそ誰もがクラッシュをしないように、そして誰かをクラッシュさせないようにしていた。

レースが安全になればなるほどバトルは激しさを増すようになりクラッシュも増えた。数字がそれを証明している。MotoGPにおけるクラッシュ率は安全性が高まりバトルが接近してくるのに従い右肩上がりに増加しているのだ。2016年と2017年は史上初めて転倒が1000回を越えたシーズンとなった。1997年の1ラウンド当たりのクラッシュは33回である。それが2009年には40に増加し、去年は62回に達している。

今のレースはこうなっているのだ。コースの安全性を高めライディングギアが良くなればライダーはそこで生み出された余裕をラップタイムを縮めるために使ってしまうのだ。リタイヤにつながらない限りクラッシュを怖れないタフな連中なのだ。怪我の可能性が減った、自分が怪我をする可能性もライバルに怪我をさせる可能性も減ったせいで、ほとんどのライダーがお互いに対して急降下爆撃を喰らわすのを怖れないようになったのだ。

安全性が高まったせいでかえって危険性が増してしまったその転換点というのはどこかに存在したのだろうか?ケイシー・ストーナーはそれが存在したと考えている。2007年と2011年のタイトルを獲得した彼はアスファルトのランオフエリアに強く異議を唱えていた。彼はそのせいでライダーたちが相手に無理なアタックをするようになると考えていたのだ。無理をしすぎて接触してランオフに突っ込んでも問題なくレースを続けられる可能性があるからだ。別の言い方をするなら、数十年のライダーたちが考えもしなかったやり方で賭けに出ることができようになっているということである。それは相手をどれだけ尊重しているかということとは関係無いのだ。

今のMotoGPでは接触は当たり前になっている。いつでも起こっているし、それが時には大騒ぎを巻き起こすこともある。どうしたら問題は解決するのだろうか?ランオフエリアを小さくすればいいのか?ライダーを裸で走らせればいいのか?もちろんそんなことはありえない。実のところ私はその答えを持ち合わせていないのだ。しかしこれが現実なのである。
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うーむ。

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コメント

答えを持ってる人は誰もいないんでしょうね。
選手、チーム、運営…そして観戦者も。
だからレースの無事に感謝し、すべての選手たちの渾身のショーダウンに拍手と敬意を贈る。それだけですわ…

投稿: りゅ | 2018/04/16 23:34

いろいろな面で今まで以上に大丈夫になってきたから、次元が変わってきたんでしょうね。
タイヤもそうかもですね。
昔じゃマシンを起こさないとアクセルを開けられなかったとか言いますし。
ケーシーのランオフエリアの指摘は鋭いですね。
ダートに戻すなど、良い意味でそれ以上やったら危ないっていう環境を作りだすのは有効かも。
知恵を絞れば、行き過ぎの流れを是正することは可能だと思います。
非常に難しいんでしょうけど。


投稿: motobeatle | 2018/04/17 01:59

motogpは戦争なんだよね。

ドラえもんの超有名な一コマのセリフ
『どっちも自分が正しいと思ってるよ。
戦争なんて そんなもんだよ。』

それを思い出してしまう。

あ~早く沈静化してほしい・・・

投稿: bb | 2018/04/17 21:00

>りゅさん
 ですね。でも無事は祈るってのは大事かもです。

投稿: とみなが | 2018/04/18 18:38

>motobeatleさん
 パワーの増加とそれを受け止めるシャーシやタイヤの性能向上がとんでもないことになっていて、それ以上に安全性も高まったって、すごいですよね。まあ人間がそれについていけるのも凄すぎですが。

投稿: とみなが | 2018/04/18 18:39

>bbさん
 まあTLとかあまり気にせずレースを楽しみましょう!

投稿: とみなが | 2018/04/18 18:40

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