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カタールについて書き漏らしたこと:ロレンソのブレーキ、クラッチローのタイヤ、ストーブリーグの始まり

えー、本編としていつもの通り日曜まとめがあるんですが、基本的にレースの展開とプレカンがメインなので、今回はこちらから。こういう現地にいてこその情報は本当にありがたいです。MotoMatters.comより。
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かつてMotoGPにはジャーナリストが楽に生きていける時代があった。1日が終わるとき、そしてレースが終わった後、どちらにせよ話を聞くべきライダーはせいぜい4人か5人。あとは場合に応じて話が面白かったり耳を傾けるべきだったりするライダーも追加される。その程度だ。残りのライダーについては無視しても問題はない。まあ彼らが幸運に恵まれたりトップライダーがその目の前でクラッシュしたりしたら話を聞けばいい。

ところがちょっとした変化のせいでその状況は一変した。ドルナがメーカーを甘言で釣ったおかげで、統一電子制御が導入され、さらにはサテライトチームに良いマシンが供給されるようになった。さらにはミシュランがブリヂストンに代わってオフィシャル・タイヤ・サプライヤとなりライダーにとってわかりやすいタイヤを供給する。そしてMoto3やMoto2から才能ある新世代のライダーがMotoGPに昇格してきた。

その結果、せいぜい3~4しかなかった毎レース語るべきネタが1ダース以上も転がっているという状況が出来したのである。ジャーナリストは12人のワークスライダーの内のできるだけ多くに話を聞かなければならない。その上、半ダースか、下手すると1ダースものサテライトライダーに話を聞くのだ。ワークスの広報が混乱に拍車をかける。やつらはライダーへの囲み取材を5分ほどの間しかおかずに設定するのだ。そもそもライダーの囲み取材には最低でも15分は掛かるというのに。優先順位が低いライダーでも話は本当に面白いのである。

死んだように眠るのは死んでから

別にMotoGPジャーナリストの人生の辛さを嘆き悲しんでいるわけではない。全く違う。私たちジャーナリストは世界中を飛び回り、チームから情報をもらい、間近でレーサーの人生、そしてレーサーという人間そのものを観察し、聡明なエンジニアやチーフメカと話をしたり、つまりはレース界で最高の頭脳に質問をしたり、MotoGPの歴史が始まって以来の最高の時代にレーシングスーツを着てM1やGP18やRC213Vにまたがる連中の次に近くでレースを観ることができる。4~5時間の睡眠が続く1週間を乗り切れるのであれば、これほど素晴らしい人生はない。

しかしそうした人生にも辛いことがある。毎週末、自分が書かなかったことについて思いを巡らせてしまうのだ。夜遅くに何かを書き上げたとたんに忘れてしまう事柄があるからだ。その時には気付かなくても、後から思い返せばどれほど大事なことだったかがわかったりもする。その時点ではより派手に見える話を優先してしまうこともある。そんなわけで、時々はレースウィークについて書き漏らしたことを思い出して、真の姿を描こうとするのである。

マルケスを読み切る

そうした話題にいく前に、もう一度あの最終コーナーについてまとめておく。アンドレア・ドヴィツィオーゾが最終コーナーのバトルでマルク・マルケスを破ったのは直近の9レースで3度目だ。素晴らしい記録である。しかしそこには二人の特徴が凝縮しているのだ。マルク・マルケスは2位に甘んじることなく勝利のために全てを賭けた。そしてなんとか最終コーナーでアンドレア・ドヴィツィオーゾを抜こうと彼のインにマシンをねじ込む。一方ドヴィツィオーゾはマルケスが来るとわかっていて敢えて彼をインに入れる。自分の方が良いラインをキープできるとわかっていたのだ。そしてチェッカーフラッグを先にくぐる。この一連の出来事はマルケスの大胆さとドヴィツィオーゾの自信の両方をまざまざと見せつけてくれた。

さて、日曜について私が書き漏らしたことで最も重要なことはホルヘ・ロレンソのクラッシュだろう。ワークス・ドゥカティの彼は予選結果がふるわなかった上にスタートで出遅れ最初の2コーナーの間に4つも順位を落としてしまい1周目は13番手でゴールラインを通過することになった。しかしラップを重ねるごとにロレンソはペースを上げ、トップにじわじわと近づいていく。レース折り返し点では彼は10番手まで上がってきた。

13周目、ロレンソにとって全てが悪夢となる。4コーナーに向けてブレーキを掛けたとき、フロントブレーキのパッドが落ちたのだ。ブレーキが使えない状態となりロレンソはコーナーを曲がりきれないと覚る。そして壁にぶつかるまえになんとかマシンを止めようとするものの、結局彼は時速160kmでグラベルに突っ込みマシンを倒すことにしたのだ。

レース後、ロレンソは数周前から問題が出始め、それがひどくなっていったのだと説明している。ブレーキレバーを握ると周を重ねるごとにハンドルに近くなっていったのだそうだ。「フロントブレーキレバーがどんどん指に近くなってきて、最後はブレーキが使えなくなったんです」とロレンソは言う。「数メーターほど突っ込み過ぎることになったんでフロントは少し控えめにしてリアブレーキを積極的に使うようにして、ラップ毎に状況が悪くなっていくのをなんとかしようと思ったんです」

わざと転かす

4コーナーでついにブレーキが完全に機能を停止し、ロレンソはグラベルでレースを終えることとなった。「運が悪いことにこの4コーナーに入って前半部分まではブレーキが大丈夫だったんです。そしたら突然ブレーキが全くきかなくなったんですよ」とロレンソは語る。「それでブレーキがきかないままかなりのスピードでグラベルを突っ切って壁に向かっていったんでマシンから飛び降りて壁にぶつからないようにしたんです」

ドゥカティはこの問題に関してははっきりした発言を控えているままだ。チームボスのダヴィデ・タルドッツィがロレンソは「フロントブレーキに問題を抱えていた」と語ったのみである。とは言えこれがパーツの問題だということはほのめかしている。「ブレンボと原因を探っているところです」とタルドッツィは教えてくれた。「誰かがやらかしたって話ではありません。うちがブレンボと探っているのは技術的な問題ですね」

後にロレンソはジャーナリストに対して問題の原因の手がかりを探しにグラベルに行ったと話している。そして何かを見つけたとのことだ。「ピットに戻ってきたマシンにはあるパーツが一つ欠けてたんです。メカニックが何人か4コーナーに行って探して、幸運にもみつけたんです。すごくたいへんでしたけど、とにかく見つけてくれた。マシンから飛んだパーツです。それがクラッシュの前なのか後なのかはわからないですけど。わかっているのはブレーキが全く機能しなかったってことだけです」

募る苛立ち

クラッシュしたロレンソは苛立っていた。土曜には気に入った方のマシンの燃料ポンプに問題が出ているのだ。彼は自分のお気に入りのコースでもっと良い成績が取れたはずだと考えている。「今日はなんでもあり得たんです」と彼は言う。「かなりの数のライダーが同じペースで走っていましたね。僕にとってはありがたいことに、序盤ではみんな僕より速かったけど、どんどんペースが落ちてきて、一方僕のペースはどんどん上がっていったんです。レース後半の方が前半より速いと感じたのはこれが初めてですね。でも残念なことにそれを証明できなかった。クラッシュしちゃいましたからね。ミラーをかなりの速さで抜いて、イアンノーネにどんどん近づいて、トップグループも見えてきてたんです」

こんな風に苛立ちが募るというのはドゥカティとロレンソの交渉に良い影響があるわけがない。ドゥカティとしてはロレンソ、ドヴィツィオーゾの両者とシーズン前に契約を結びたいと考えていた。少なくとも1月にボローニャで行われたチーム立ち上げお披露目会では私たちはそう聞いていた。レース前にドゥカティのボス、パオロ・チアバッティになぜどちらとも契約が済んでいないのかと私が尋ねると彼はこう答えた。「いろいろ複雑なんですよ。MotoGPではなんでもそうですけどね」

レース後、ダヴィデ・タルドッツィは事態を繕おうと、こう語っている。「我々がこれから何をしようとしているかに関係無く、両者と契約したいとは言い続けますよ。どちらに対しても満足していますしね。これからどうなるかはともかく、現時点ではまだどちらとも話をしていません。何もかも上手くいってますよ。うちとしてもホルヘを本来のポジションで走れるようにしたい。彼にふさわしいポジションをね」

パワーを出せば燃料を食う

KTMとアプリリアのどちらもカタールで印象を残すことはできなかった。開発状況はどちらにとっても憂慮すべきものである。アプリリアの新型エンジンはRS-GPにパワーをもたらしたが、その代償は大きかった。特に燃費に厳しいコースというわけでもないのにアレイシ・エスパルガロは燃料切れにみまわれたのだ。

「スタートはすごくよかったんですけど3周目を過ぎたら燃料警告が出たんです」とエスパルガロ兄は語る。「すごく薄い燃調でスタートしたんです。序盤で燃料を節約して終盤で予選用マップにする予定だったんですよ。だから警告を観たときにはマジ頭にきましたよ、だってフルスロットルにしてるのに、どこを走ってもまともにスピードが出ないんです」

とは言え彼は満足している。「そうは言っても今日はすごくいい感じでしたし、レースを通じて安定して走れました。コーナリングスピードは予選よりレースの方が速かったですしね。ライディングスタイルを変えたんです。おかげでミラーやイアンノーネにも楽に付いていけました。9位ででゴールできたはずなんですけど、マシンが最終ラップで止まっちゃったんですよね。予定通りの戦略が全うできればトップ5で戦うこともできたでしょうね」

アプリリアの最大の問題はリアのグリップ不足である。しかしエスパルガロとスコット・レディングの体験はかなり違っている。エスパルガロはかなり早い段階でグリップ不足に苦しめられたが、すぐに問題は消えた。一方のレディングはいつまでもグリップが回復しなかったという。「週末を通して悩まされた問題にレース中も悩まされましたね。リアのグリップが全然なくて減速でもコーナリングでも立ち上がりでもだめで、それが残り5周というところで突然良くなったんです。でも残り5周じゃ何もできませんでした」

2年目のジンクス

KTMにとってのカタールはさらに辛いものだった。去年の終盤、KTMはトップ10の常連になりつつあった。この調子でいけばシーズン終わりにはトップ5も狙えるところまで来ていたのだ。しかしカタールでのRC16はポイント獲得もままならない状況だった。

二人のライダーの内、ポル・エスパルガロはまだましだった。セパンテストでの派手なクラッシュのせいで背中を傷めていているにもかかわらず、いつも通りの走りを見せたのだ。しかしそれでも15位争いがやっとで、トップグループとは1周辺り1秒かそれ以上のラップタイム差だった。結局彼は電子制御トラブルでリタイヤし、チームメイトのブラッドリー・スミスはトップから31秒遅れの18位という始末だった。

ここまで貧弱なリザルトというのはKTMにとっては深刻な問題である。特にこのタイミングというのがまずい。MotoGPはストーブリーグの真っ只中で、ライダーはこれからの2年間の選択肢について真剣に状況をうかがっているところなのだ。本来であればKTMはトップレベルのライダーにとってリスト上位に来るチームとなるはずだ。しかしこのような結果ではKTMが呼び入れたいライダーも躊躇することになるだろう。

多くの噂話

KTMの候補として噂に上がっている一人がヨハン・ザルコである。彼はすでにワークスチームとの契約にしか興味はないとはっきり言っている。しかしワークスとは言え、戦闘力があるのは必須条件だ。レプソル・ホンダもザルコに興味を示していることを考慮すれば、KTMがザルコを惹きつけようとするのであれば18位というのは充分な成績とはとても言えないだろう。

カタールで駆け巡っていた噂はザルコのレプソル入りだけではない。ホルヘ・ロレンソがドゥカティ以外を考えているという話も出ていた。アンドレア・ドヴィツィオーゾがホンダとスズキからのオファーを検討しているというのもある。とはいえこちらについては、実際に両社のどちらかと契約しようと言うよりドゥカティとの交渉を有利に進めようということなのだろう。

サテライト・ヤマハの状況も解決に向けて一歩進んでいるようだ。2週間ほど前の段階では、マルクVDSはテック3が去った後のヤマハではなく、スズキのサテライトチームという案に傾いているようだった。しかしマルクVDSはカタールでヤマハと交渉を始めたと誰もが信じている。チーム広報が私に話してくれたところでは、現時点ではコメントはできないということだった。つまり交渉が佳境に入っているということである。だからといって必ずしも何らかの結論に達するとは限らないのだが。

ファースト・フランコ

こうした交渉の結果がどうなるかにかかわらず、マルクVDSには少なくとも良い知らせを手にすることになった。フランコ・モルビデリがルーキートップとなる12位でフィニッシュしたのだ。トップから16秒差だ。ハフィズ・シャリーンには3秒差、順位で二つ上回っている。しかもシャリーンは乗りやすいヤマハのマシンだ(とは言えシャリーンはモルビデリよりテスト回数が2回も少ないことを忘れてはならない)。さらにモルビデリはチームメイトのトム・ルティもLCRホンダ出光の中上貴晶にも大きく差をつけている。

テストを通じて速かったのは中上だった。しかし相変わらず彼は決勝では安定していない。彼の決勝結果は毎度のことながら予測不能である。こうしたことはモルビデリとは無縁だ。昨年の彼は8勝に加えて4回の表彰台を記録している。モルビデリは良い形でシーズンをスタートすることになった。シーズンが進めばさらに良い結果を残すことになるだろう。

シーズンが始まりMotoGPのパドックが自宅となる。次のレースに向けてトレーニングにも熱が入る。カタールとアルゼンチンは3週間空くが、ライダーたちは自由時間を身体作りとこれからのシーズンへの準備に費やすのだ。カタールが終われば7月までは2週間に一回ずつ休み無しのレースが続く。そしてザクセンリングとブルノの間も3週間しかない。つまり語るに値する休みなどないということだ。きついスケジュールが待っているのだ。
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ホルヘと中上がなー。

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コメント

あのアイルトンセナの手記に「レーサーたるもの、この恐怖というものに折り合いをつけていかなければ生きていけない」
という件があるんですが、ホルヘもそうしなければならないでしょうね。
それだけでも彼等は凄いです。

まだ緒戦だけどモリビデリのあの安定感は可能性を感じます。ザルコと同様の存在になると思います。
中上選手も、まだまだこれから。
とりあえず怪我をしないよう、特に序盤は乗り切ってほしいと思います。

投稿: motobeatle | 2018/03/25 13:20

>motobeatleさん
 アルゼンチンではホルヘもドヴィも苦労していて、大丈夫なんでしょうか…。
 そしてモルビデリは楽しみですね!

投稿: とみなが | 2018/04/07 16:03

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