« 2018年2月 | トップページ | 2018年4月 »

カタールについて書き漏らしたこと:ロレンソのブレーキ、クラッチローのタイヤ、ストーブリーグの始まり

えー、本編としていつもの通り日曜まとめがあるんですが、基本的にレースの展開とプレカンがメインなので、今回はこちらから。こういう現地にいてこその情報は本当にありがたいです。MotoMatters.comより。
============
かつてMotoGPにはジャーナリストが楽に生きていける時代があった。1日が終わるとき、そしてレースが終わった後、どちらにせよ話を聞くべきライダーはせいぜい4人か5人。あとは場合に応じて話が面白かったり耳を傾けるべきだったりするライダーも追加される。その程度だ。残りのライダーについては無視しても問題はない。まあ彼らが幸運に恵まれたりトップライダーがその目の前でクラッシュしたりしたら話を聞けばいい。

ところがちょっとした変化のせいでその状況は一変した。ドルナがメーカーを甘言で釣ったおかげで、統一電子制御が導入され、さらにはサテライトチームに良いマシンが供給されるようになった。さらにはミシュランがブリヂストンに代わってオフィシャル・タイヤ・サプライヤとなりライダーにとってわかりやすいタイヤを供給する。そしてMoto3やMoto2から才能ある新世代のライダーがMotoGPに昇格してきた。

その結果、せいぜい3~4しかなかった毎レース語るべきネタが1ダース以上も転がっているという状況が出来したのである。ジャーナリストは12人のワークスライダーの内のできるだけ多くに話を聞かなければならない。その上、半ダースか、下手すると1ダースものサテライトライダーに話を聞くのだ。ワークスの広報が混乱に拍車をかける。やつらはライダーへの囲み取材を5分ほどの間しかおかずに設定するのだ。そもそもライダーの囲み取材には最低でも15分は掛かるというのに。優先順位が低いライダーでも話は本当に面白いのである。

死んだように眠るのは死んでから

別にMotoGPジャーナリストの人生の辛さを嘆き悲しんでいるわけではない。全く違う。私たちジャーナリストは世界中を飛び回り、チームから情報をもらい、間近でレーサーの人生、そしてレーサーという人間そのものを観察し、聡明なエンジニアやチーフメカと話をしたり、つまりはレース界で最高の頭脳に質問をしたり、MotoGPの歴史が始まって以来の最高の時代にレーシングスーツを着てM1やGP18やRC213Vにまたがる連中の次に近くでレースを観ることができる。4~5時間の睡眠が続く1週間を乗り切れるのであれば、これほど素晴らしい人生はない。

しかしそうした人生にも辛いことがある。毎週末、自分が書かなかったことについて思いを巡らせてしまうのだ。夜遅くに何かを書き上げたとたんに忘れてしまう事柄があるからだ。その時には気付かなくても、後から思い返せばどれほど大事なことだったかがわかったりもする。その時点ではより派手に見える話を優先してしまうこともある。そんなわけで、時々はレースウィークについて書き漏らしたことを思い出して、真の姿を描こうとするのである。

マルケスを読み切る

そうした話題にいく前に、もう一度あの最終コーナーについてまとめておく。アンドレア・ドヴィツィオーゾが最終コーナーのバトルでマルク・マルケスを破ったのは直近の9レースで3度目だ。素晴らしい記録である。しかしそこには二人の特徴が凝縮しているのだ。マルク・マルケスは2位に甘んじることなく勝利のために全てを賭けた。そしてなんとか最終コーナーでアンドレア・ドヴィツィオーゾを抜こうと彼のインにマシンをねじ込む。一方ドヴィツィオーゾはマルケスが来るとわかっていて敢えて彼をインに入れる。自分の方が良いラインをキープできるとわかっていたのだ。そしてチェッカーフラッグを先にくぐる。この一連の出来事はマルケスの大胆さとドヴィツィオーゾの自信の両方をまざまざと見せつけてくれた。

さて、日曜について私が書き漏らしたことで最も重要なことはホルヘ・ロレンソのクラッシュだろう。ワークス・ドゥカティの彼は予選結果がふるわなかった上にスタートで出遅れ最初の2コーナーの間に4つも順位を落としてしまい1周目は13番手でゴールラインを通過することになった。しかしラップを重ねるごとにロレンソはペースを上げ、トップにじわじわと近づいていく。レース折り返し点では彼は10番手まで上がってきた。

13周目、ロレンソにとって全てが悪夢となる。4コーナーに向けてブレーキを掛けたとき、フロントブレーキのパッドが落ちたのだ。ブレーキが使えない状態となりロレンソはコーナーを曲がりきれないと覚る。そして壁にぶつかるまえになんとかマシンを止めようとするものの、結局彼は時速160kmでグラベルに突っ込みマシンを倒すことにしたのだ。

レース後、ロレンソは数周前から問題が出始め、それがひどくなっていったのだと説明している。ブレーキレバーを握ると周を重ねるごとにハンドルに近くなっていったのだそうだ。「フロントブレーキレバーがどんどん指に近くなってきて、最後はブレーキが使えなくなったんです」とロレンソは言う。「数メーターほど突っ込み過ぎることになったんでフロントは少し控えめにしてリアブレーキを積極的に使うようにして、ラップ毎に状況が悪くなっていくのをなんとかしようと思ったんです」

わざと転かす

4コーナーでついにブレーキが完全に機能を停止し、ロレンソはグラベルでレースを終えることとなった。「運が悪いことにこの4コーナーに入って前半部分まではブレーキが大丈夫だったんです。そしたら突然ブレーキが全くきかなくなったんですよ」とロレンソは語る。「それでブレーキがきかないままかなりのスピードでグラベルを突っ切って壁に向かっていったんでマシンから飛び降りて壁にぶつからないようにしたんです」

ドゥカティはこの問題に関してははっきりした発言を控えているままだ。チームボスのダヴィデ・タルドッツィがロレンソは「フロントブレーキに問題を抱えていた」と語ったのみである。とは言えこれがパーツの問題だということはほのめかしている。「ブレンボと原因を探っているところです」とタルドッツィは教えてくれた。「誰かがやらかしたって話ではありません。うちがブレンボと探っているのは技術的な問題ですね」

後にロレンソはジャーナリストに対して問題の原因の手がかりを探しにグラベルに行ったと話している。そして何かを見つけたとのことだ。「ピットに戻ってきたマシンにはあるパーツが一つ欠けてたんです。メカニックが何人か4コーナーに行って探して、幸運にもみつけたんです。すごくたいへんでしたけど、とにかく見つけてくれた。マシンから飛んだパーツです。それがクラッシュの前なのか後なのかはわからないですけど。わかっているのはブレーキが全く機能しなかったってことだけです」

募る苛立ち

クラッシュしたロレンソは苛立っていた。土曜には気に入った方のマシンの燃料ポンプに問題が出ているのだ。彼は自分のお気に入りのコースでもっと良い成績が取れたはずだと考えている。「今日はなんでもあり得たんです」と彼は言う。「かなりの数のライダーが同じペースで走っていましたね。僕にとってはありがたいことに、序盤ではみんな僕より速かったけど、どんどんペースが落ちてきて、一方僕のペースはどんどん上がっていったんです。レース後半の方が前半より速いと感じたのはこれが初めてですね。でも残念なことにそれを証明できなかった。クラッシュしちゃいましたからね。ミラーをかなりの速さで抜いて、イアンノーネにどんどん近づいて、トップグループも見えてきてたんです」

こんな風に苛立ちが募るというのはドゥカティとロレンソの交渉に良い影響があるわけがない。ドゥカティとしてはロレンソ、ドヴィツィオーゾの両者とシーズン前に契約を結びたいと考えていた。少なくとも1月にボローニャで行われたチーム立ち上げお披露目会では私たちはそう聞いていた。レース前にドゥカティのボス、パオロ・チアバッティになぜどちらとも契約が済んでいないのかと私が尋ねると彼はこう答えた。「いろいろ複雑なんですよ。MotoGPではなんでもそうですけどね」

レース後、ダヴィデ・タルドッツィは事態を繕おうと、こう語っている。「我々がこれから何をしようとしているかに関係無く、両者と契約したいとは言い続けますよ。どちらに対しても満足していますしね。これからどうなるかはともかく、現時点ではまだどちらとも話をしていません。何もかも上手くいってますよ。うちとしてもホルヘを本来のポジションで走れるようにしたい。彼にふさわしいポジションをね」

パワーを出せば燃料を食う

KTMとアプリリアのどちらもカタールで印象を残すことはできなかった。開発状況はどちらにとっても憂慮すべきものである。アプリリアの新型エンジンはRS-GPにパワーをもたらしたが、その代償は大きかった。特に燃費に厳しいコースというわけでもないのにアレイシ・エスパルガロは燃料切れにみまわれたのだ。

「スタートはすごくよかったんですけど3周目を過ぎたら燃料警告が出たんです」とエスパルガロ兄は語る。「すごく薄い燃調でスタートしたんです。序盤で燃料を節約して終盤で予選用マップにする予定だったんですよ。だから警告を観たときにはマジ頭にきましたよ、だってフルスロットルにしてるのに、どこを走ってもまともにスピードが出ないんです」

とは言え彼は満足している。「そうは言っても今日はすごくいい感じでしたし、レースを通じて安定して走れました。コーナリングスピードは予選よりレースの方が速かったですしね。ライディングスタイルを変えたんです。おかげでミラーやイアンノーネにも楽に付いていけました。9位ででゴールできたはずなんですけど、マシンが最終ラップで止まっちゃったんですよね。予定通りの戦略が全うできればトップ5で戦うこともできたでしょうね」

アプリリアの最大の問題はリアのグリップ不足である。しかしエスパルガロとスコット・レディングの体験はかなり違っている。エスパルガロはかなり早い段階でグリップ不足に苦しめられたが、すぐに問題は消えた。一方のレディングはいつまでもグリップが回復しなかったという。「週末を通して悩まされた問題にレース中も悩まされましたね。リアのグリップが全然なくて減速でもコーナリングでも立ち上がりでもだめで、それが残り5周というところで突然良くなったんです。でも残り5周じゃ何もできませんでした」

2年目のジンクス

KTMにとってのカタールはさらに辛いものだった。去年の終盤、KTMはトップ10の常連になりつつあった。この調子でいけばシーズン終わりにはトップ5も狙えるところまで来ていたのだ。しかしカタールでのRC16はポイント獲得もままならない状況だった。

二人のライダーの内、ポル・エスパルガロはまだましだった。セパンテストでの派手なクラッシュのせいで背中を傷めていているにもかかわらず、いつも通りの走りを見せたのだ。しかしそれでも15位争いがやっとで、トップグループとは1周辺り1秒かそれ以上のラップタイム差だった。結局彼は電子制御トラブルでリタイヤし、チームメイトのブラッドリー・スミスはトップから31秒遅れの18位という始末だった。

ここまで貧弱なリザルトというのはKTMにとっては深刻な問題である。特にこのタイミングというのがまずい。MotoGPはストーブリーグの真っ只中で、ライダーはこれからの2年間の選択肢について真剣に状況をうかがっているところなのだ。本来であればKTMはトップレベルのライダーにとってリスト上位に来るチームとなるはずだ。しかしこのような結果ではKTMが呼び入れたいライダーも躊躇することになるだろう。

多くの噂話

KTMの候補として噂に上がっている一人がヨハン・ザルコである。彼はすでにワークスチームとの契約にしか興味はないとはっきり言っている。しかしワークスとは言え、戦闘力があるのは必須条件だ。レプソル・ホンダもザルコに興味を示していることを考慮すれば、KTMがザルコを惹きつけようとするのであれば18位というのは充分な成績とはとても言えないだろう。

カタールで駆け巡っていた噂はザルコのレプソル入りだけではない。ホルヘ・ロレンソがドゥカティ以外を考えているという話も出ていた。アンドレア・ドヴィツィオーゾがホンダとスズキからのオファーを検討しているというのもある。とはいえこちらについては、実際に両社のどちらかと契約しようと言うよりドゥカティとの交渉を有利に進めようということなのだろう。

サテライト・ヤマハの状況も解決に向けて一歩進んでいるようだ。2週間ほど前の段階では、マルクVDSはテック3が去った後のヤマハではなく、スズキのサテライトチームという案に傾いているようだった。しかしマルクVDSはカタールでヤマハと交渉を始めたと誰もが信じている。チーム広報が私に話してくれたところでは、現時点ではコメントはできないということだった。つまり交渉が佳境に入っているということである。だからといって必ずしも何らかの結論に達するとは限らないのだが。

ファースト・フランコ

こうした交渉の結果がどうなるかにかかわらず、マルクVDSには少なくとも良い知らせを手にすることになった。フランコ・モルビデリがルーキートップとなる12位でフィニッシュしたのだ。トップから16秒差だ。ハフィズ・シャリーンには3秒差、順位で二つ上回っている。しかもシャリーンは乗りやすいヤマハのマシンだ(とは言えシャリーンはモルビデリよりテスト回数が2回も少ないことを忘れてはならない)。さらにモルビデリはチームメイトのトム・ルティもLCRホンダ出光の中上貴晶にも大きく差をつけている。

テストを通じて速かったのは中上だった。しかし相変わらず彼は決勝では安定していない。彼の決勝結果は毎度のことながら予測不能である。こうしたことはモルビデリとは無縁だ。昨年の彼は8勝に加えて4回の表彰台を記録している。モルビデリは良い形でシーズンをスタートすることになった。シーズンが進めばさらに良い結果を残すことになるだろう。

シーズンが始まりMotoGPのパドックが自宅となる。次のレースに向けてトレーニングにも熱が入る。カタールとアルゼンチンは3週間空くが、ライダーたちは自由時間を身体作りとこれからのシーズンへの準備に費やすのだ。カタールが終われば7月までは2週間に一回ずつ休み無しのレースが続く。そしてザクセンリングとブルノの間も3週間しかない。つまり語るに値する休みなどないということだ。きついスケジュールが待っているのだ。
ーーーーーーーーーー
こうした長文のための情報収集には資金と時間が必要です。もし楽しんでいただけたのならMotomatters.comへのご支援をお願いします。サポーターになっていただくか、寄付をしていただくか、若しくはGoFundMe経由でご支援をいただければ幸いです。
============
ホルヘと中上がなー。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

公式リリース>カタールGP2018

ドゥカティ(英語)ホンダヤマハスズキKTM(英語)アプリリア(英語)

| | コメント (4) | トラックバック (0)

公式プレビュー>カタールGP2018

ホンダヤマハドゥカティ(英語)、スズキ(英語)KTM(英語)、アプリリア。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

ストーブリーグ表2019(2018.0.20時点)

ストーブリーグ表が初めてこのblogに登場したのはたぶん2009年8月。まさか開幕前に作るなんて思ってもみなかったよ。
今年の見所はペドロサとロレンソがどこに行くかだとMotoMatters.comのEmmettさんがおっしゃってます(課金ユーザー限定記事)。

Stove2019_180314

「stove_2019_180314.pdf」をダウンロード
「stove_2019_180314.xlsx」をダウンロード

| | コメント (2) | トラックバック (0)

ラルフ・ヴァルトマン:1966-2018

ラルフ・ヴァルトマン(ウォルドマンとかワルドマンの方がなじみがいいかな)が亡くなりました。MatOxley氏による追悼文をMotor Sport Magazineより。
============
この数週間はバイク界にとって最悪のものとなった。最初はジャーナリストでテレビレポーターのヘンリー・ホープ=フロストの死だ。彼は先週火曜に交通事故で亡くなっている。彼は主に自動車業界で仕事をしていたが、しかしバイクの大ファンでもあった。「タイヤの数が半分になると熱狂は倍になる」。彼の言葉だ。いつでも輝いていている男だった。また会いたいと思わせる何かを持っていた。

世界GPで多くの優勝を重ねたラルフ・ヴァルトマンの死がそれに続いた。この土曜のことだ。51歳の彼の死因は心臓発作と推測されている。どちらも愛すべき男だった。二人とも穏やかな人物だった。

ヴァルディは17年間のGPキャリアで20勝を挙げたタフなレーサーだった。そして少なくとも一度はタイトルを獲っていてもいいライダーだった。しかしここぞというときに、いつも運に見放されてしまっていた。彼はユーモアに溢れ、感情豊かで、そして自分の思うことをいつでもありのままに語っていた。たいていは大声だった。細い体に似合わず大きな声を出せた。成功に溺れることもなかった。普通の人間でありつづけた。パドックにいるプリマドンナ的なライダーと違ってオーラを身に纏うこともなかった。

ヴァルディがGPにやってきたのは、まだ定職がある人間がプロになるような時代だった。彼もまた配管工という職に就いており、レースを始めたのは20になってからだ。最初に乗っていたのはボロボロのカワサキAR80だった。翌年には短期間しか行われなかった80ccクラスでGPデビューを果たしている。そして彼は1990年代の125cc、250ccクラスで名を揚げる。GP初勝利は1991年5月26日のホッケンハイムだ。同じホンダRS125に乗るロリス・カピロッシを0.3秒差で破っての勝利である。グランドスタンドを埋めた地元ドイツのファンにとっては最高の1日だったろう。1時間ほど後にはヘルムート・ブラドルが他のライダーをぶっちぎって250で勝ったのである。

1992年、ヴァルディは125ccのタイトルに向けて独走状態を築こうとしていた。最初の4戦で3勝、そして表彰台1回と絶好調だった。しかし全てがうまくいかなくなる。チームが自壊していったのだ。メカニックがピットレーンで殴り合いをするような状態だったのである。彼を支えるべきスタッフが諍いを繰り返している状態ではランキング3位がやっとだった。

1994年、彼は250に昇格する。マシンはドイツのHBが供給するタバコ・マネーのサポートを受けたワークスホンダNSR250。初勝利はムジェロだった。カピロッシと原田哲也の二人との激しいバトルを制しての優勝だった。そして3年後、彼はいよいよタイトルをつかみかける。この時のスポンサーはこれまたタバコブランドのマールボロだ。カタルニアではすばらしい勝利を挙げる。グラベルに飛び出したにもかかわらずマックス・ビアッジを破ったのだ。残り2戦を残してついに彼はランキングトップに立つことになる。しかし再び彼を悲劇が襲った。最終戦前のインドネシアで彼はタイヤチョイスを失敗したのだ。結局この年、彼は2ポイント差でビアッジにタイトルを譲ることとなった。その前年もわずか4ポイント差でビアッジにタイトルを獲られている(訳注:6ポイント差です)。この年は手首の骨折で初戦を欠場していたのだ。もしあの時…、もしこの時…。

1998年のヴァルディは500ccクラスをイギリスに本拠を置くチーム・ロバーツで戦っている。マシンは3気筒のモデナスだ。この年のハイライトはブルノだった。彼はろくに開発が進んでいないモデナスでフロントローを獲得し、NSR500に乗るミック・ドゥーハンとマックス・ビアッジの隣にマシンを並べてみせたのである。予選が終わるとチーム・ロバーツのピットではヴァルディとキング・ケニーが抱き合っていた。どちらもバイクレースを愛する声の大きい小柄な二人だった。

このあたりまでがヴァルトマンの輝ける日々だ。しかし彼のレースで最も印象に残っているのは2000年7月のドニントンだろう。彼はトップを走るオリヴィエ・ジャックから1マイルも離されていたのを、最終ラップの最終コーナー立ち上がりで抜き去って優勝したのだ。変わりやすい天候の中、ほとんどのライダーがインターミディエイトタイヤを選択した中、ヴァルトマンはフルウェットを選択するという賭けに出る。レースが始まって路面が乾き始めると彼はどんどん後ろに下がっていった。レース中盤辺りではほぼ最後尾。トップからは90秒も差をつけられている。タイヤ選択を失敗したとしか思えない状態だった。その時、雨が再び降り始める。最終ラップに入った時点で彼は3位に上がっていた。それでもまだトップはほとんど見えない状態だ。しかしトップのジャックが滑るスリックに苦しめられている中、ヴァルトマンは攻め続け、ついに0.3秒差で勝利をものにしたのである。

<訳注:ご参考>


レースが終わると彼はメディアから英雄に祭り上げられていた。しかし彼の対応はいつもの通りだった。「ウェットタイヤでの序盤はまあ自分がバカに思えましたね。でも雨が降り始めたおかげで勝ってヒーローになれた。英雄と馬鹿者は紙一重なんですよ」

素晴らしいパフォーマンスについて、プレスカンファレンスでホストのマイケル・スコットに「いかれてたってことです?」と聞かれた彼はにっこり笑ってこう答えている。「ええ、僕はいっちゃってるんです!」。そして彼はスコットを指さしてこう続けた。「あなたも同じようにいっちゃってますよね」。さらに彼は残りの全員も指さしながら「みんないっちゃってますよ」と言った。最後に彼は目をきらきらさせながらこう締めくくったのである。「みんないっちゃってるよね!」

ヴァルディはいつでも愛想良くインタビューに応えてくれた。2002年、私はこんなタイトルの記事を書いた。「僕は負け犬だ。殺してくれ」。偉大なるベックの曲「ルーザー」の歌詞だ。ほんのちょっとでタイトルを逃してしまったまま、チャンピオンになれなかったライダーにインタビューするという企画だ。チャンピオンになれなかったという一生続きそうな後悔について知りたかったのである。

まずインタビューしたのはランディ・マモラだ。1980年代、4回ものランキング2位を記録している。次はアーロン・スライト。彼は1990年代にワールドスーパーバイクで2度ランキング2位となっている。最後にインタビューしたのがラルフ・ヴァルドマンだ。250ccでは2度のランキング2位、125では2度のランキング3位である。

2000年を最後に彼は引退する。しかし彼は穏やかな生活にはどうも慣れることができなかった。結局2年後にはアプリリアRS250でプライベート参戦するのだが、資金繰りには苦労していた。私が彼にインタビューしたのはアッセンである。彼が125でも250でも勝っている場所だ。しかしその時の彼にはモーターホームもチームのトラックもシャンペンもなかった。インタビューは彼のトランポの裏で行うことになった。彼が座るのはタイヤの山。私はドラム缶の上だ。

「いやいや、もう過去のことですよ」と彼は明るく言った。

タイトルを逃す原因となった不運について語っていたときの発言だ。

「原因を探せば、そりゃ見つかりますけどね」と彼は言うと、突然沈み込んでしまう。「1997年まではお金に困ることは無かったし、パーツも手に入ったんですよね。でもスポンサーを失って、ほんとにひどいことになったんです。お金が足りなくなったんですよ。予算はぎりぎりでマシンは1台しかない…マックスには2台あったのに」

私はヴァルディの声が少しだけ震えているのに気付いた。感情がこみ上げているようだった。私は申し訳ない気持ちになったが、しかし質問を続けた。じゃあ、まだ過去にはなってないんですね。

「ええ、少しね」。そう言いながら彼は肩をふるわせこみ上げてきた涙をぬぐった。「でももうそんなことは関係無いんです。本当に。だからもう大丈夫。その事実と一緒に生きていくか、そうじゃないかってだけですよ」

私は彼を抱きしめたくなったが、その代わりに少しだけ優しい言葉をかけることにした。ラルフ、君のキャリアは最高だよ!

「ヤー、ヤー、ヤー」

それに人気もあるしね。

「ヤー、ヤー、ヤー。それにレースを凄く楽しんでたしね」

私は心の底から彼を元気づけてインタビューを終えたかった。で、ラルフ、タイトルを獲れないけどいい奴でいるのと、タイトルを獲った最低野郎と、どっちがいい?

彼は突然笑い出した。

「ワハハハ!ヤー、ヤー、ヤー!チャンピオンに慣れなくてもいい奴なのがいいよ」と満面の笑みで腫れたまぶたをこすってみせた。

「ほんとうはわからないんです。タイトルを獲れるほどの幸運には恵まれなかった。でも戦う気持ちが足りなかったのかもしれないし。それとも僕が楽しい奴だったからか、力が足りなかったのか。レーサーだったら誰でもタイトルは欲しいですよね。でも良いレースもたくさんあったし20回も勝ってる。だからその記憶を大事にして、獲れなかったタイトルのことは忘れますよ。もちろんタイトルを1回でも獲れば最高ですけど、優勝の数々も同じように大事なんだと、そう思います」

完全に引退した後のヴァルディは、多くのレーサーがそうであるようにレースのスリルを失った生活に安住することはできなかったようだ。彼は結局レースから離れること無く、2009年にはドニントンで一度だけ250を走り、短命に終わったMZのMoto2チームにかかわり、2ストロークのチューニングに勤しみ、ドイツのユーロスポーツでも働いていた。

安らかに、ラルフ。ご家族と友人にお悔やみを。
============
私のヴァルトマンの思い出を少しだけ。1997年のアッセン。私はマダムと1コーナー手前のスタンドで観ていました。レースはヴァルトマンと原田哲也の一騎打ち。すぐ隣でドイツ人のおじさんがオランダ人に囲まれる四面楚歌の中で声を上げてヴァルトマンを応援してます。当然私たちは原田の味方で、観客席でも繰り広げられる熱い視線の応酬。結局最終ラップ最終コーナーで原田がヴァルトマンを差して勝利したんですが、傍目にもがっかりしているおじさんのところに行って、数少ない知ってるドイツ語の「フラインド(ともだち)」を繰り返して、なんとなく握手して分かれたのを良く覚えています。

笑顔のかわいいライダーでした。さよならラルフ。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2018カタールMotoGPテスト 土曜日まとめ:速かった者、遅かった者、クラッシュからの学び

わーわーわー!たいへーん!!来週末はもう開幕ですよ!!!
というわけでシーズン前最後のテスト最終日のまとめをMotoMatters.comより。
============
偽りの戦いはもう終わりだ。カタールテストも最終日を迎え、全てのMotoGPテストは終了した。次にみなが集まる時には真実があらわになる。勝者が生まれタイトルに向けて最初のポイントランキングが表示されるのだ。

テスト最終日になって2週間後の姿が少しははっきりしてきただろうか?今シーズンのテスト全てに言えることだが、やや混乱して見えるのは否めないとしても、かなりのことが見えてきていると言っても良いだろう。ヨハン・ザルコがとんでもない速さをみせたかと思えば同時にこの先が思いやられるほど遅いタイムを出したりしている。ダニオ・ペトルッチも全く同じだったが、その様子はザルコとは対照的だった、ヴァレンティーノ・ロッシはレースペースでも一発出しでも印象的なタイムを叩き出していたが、それでもレースディスタンスを走りきれるかどうかについては心配していた。マーヴェリック・ヴィニャーレスはテストが始まってから6時間後までは最悪の状況だったが、ほぼ1日半を棒に振った後、最後の40分で素晴らしい走りを見せた。

そして目に見えるドラマの裏ではプレシーズンテストの真の勝者の二人が地道に仕事に励んでいた。彼らのタイムは素晴らしいものだが息を呑むほどではない。しかしアンドレア・ドヴィツィオーゾとマルク・マルケスのレースペースは特筆すべきもの(リンク先:英語)だ。このおそろしく安定したタイムをひっさげて初戦に臨む彼らは間違いなくタイトル最有力である。他のライダーのタイムは落ち着きのない子猫の様に日々、そして時間毎に上下している一方、マルケスとドヴィツィオーゾは淡々と自分の仕事をこなしながら安定したタイムをだしていた。

他にも注目すべきライダーはいる。カル・クラッチローはHRCからの信頼に見事に応えてみせた。特に土曜に行ったロングランは特筆すべきである。アレックス・リンスは我々が当初期待していたとおり成長の兆しを見せている。そのチームメイトであるスズキのアンドレア・イアンノーネは(土曜は体調不良で欠席したが)さらにその上を行く速さを見せたが、リンスはどこで走っても常にトップ5に入る安定感を発揮している。

テスト限定世界チャンピオン

もちろんテストはあくまでテストに過ぎないし、シーズンがどうなるかを完璧に反映しているわけでもない。2017年のプレシーズンテスト世界チャンピオンであるマーヴェリック・ヴィニャーレスに尋ねてみればいい。だからこそ日曜にレースをするのである。ニッキー・ヘイデンの不朽の明言を思いだそう。「何が起こるかなんて誰にもわからない」

とは言えなんとなく全体像は見えてきているのも確かだ。最も大きな変化がそのひとつだ。以前はMotoGPには四人のエイリアンと呼ばれるライダーがいて、(もちろん誰か一人が欠けたり、病気になったり、怪我をしたり、間違ったチームに行ったりということはあったが)全ての勝利をその4人で分け合い、タイトル争いも4人だけで行っていた。そんな日々は既にかつてのものとなっている。

チャンピオン獲得を明確に狙える位置で開幕を迎えられるのはその4人のうちでマルク・マルケスだけになってしまった。しかしマルケスのタイトル獲得への道は山あり谷ありの険しいものになるはずだ。最大の障壁はアンドレア・ドヴィツィオーゾである。彼は去年より速く、そして好調なように見える。そしてヴァレンティーノ・ロッシもいる。彼はこの数年と同様、相変わらず高い戦闘力を維持している。マーヴェリック・ヴィニャーレスは冷静さを保つことができて、そして入れ込みすぎる性格をコントロールできれば強敵になる。ヨハン・ザルコは既に次の段階に脱皮しつつある。それがどんなマシンでもだ。ダニ・ペドロサはタイヤに熱を入れられることができれば、という条件付きだが、相変わらず勝つだけの速さを持っている。

カル・クラッチローはどうだろう。彼もまた勝てる速さがあり、そしてマシンもサポートも充分だ。ホルヘ・ロレンソもサーキットによっては手が着けられない速さだ。しかし不得意なコースでは大した速さをみせることはない。アレックス・リンスも速さを取り戻したスズキを得て、次の段階に進もうとしている。ダニオ・ペトルッチはワークスのシートを熱望しながらあらゆる努力を惜しまない。アンドレア・イアンノーネは底知れない才能に見合うだけのやる気が発揮できれば優勝候補だ。ジャック・ミラーもまた(公私問わずの)イメージ通りに引っかき回す役割を担うだろう。

速いのに遅い

ヨハン・ザルコは最速タイムでテストを終えている。1分53秒台に突入しようというとんでもないタイムを出したのだ。彼のベストタイムは1分54秒029。これはホルヘ・ロレンソが2008年に1周しか保たない予選用タイヤで叩き出したとんでもないポールタイムからわずか0.1秒遅れである。ザルコはヴァレンティーノ・ロッシの2番手タイムに1/4秒もの差をつけている。しかもこのタイムは一発出しではない。ザルコはトップタイムを出した3周のアタックの内もう一周では1分54秒306を記録しているのだ。それでさえロッシとアンドレア・ドヴィツィオーゾの間に割って入る3番手タイムである。

とは言えロングランではザルコのペースはかなり遅いものだった。1分56秒代後半がやっとというところである。レースシミュレーションを試した他のライダーからは1秒以上遅れているタイムだ。「レースペースを探ろうとすると遅くなってましたね。レースとなるとかなり戦闘的な気持ちで戦いに臨むんですよね。最後のロングランではちょっと疲れてたし、思ったんです。まずは6周だけしようって。で、6周走ってかなりいい感じで、もうちょっとやってみようってなって…、結局17週連続で走ったんですが、でも1日集中して走ったあとで疲れてたんですよね」。それがザルコの言い分だ。確かにその通りかもしれない。しかし金曜も同じように1分56秒代を連発していたのだ。どれが本当の彼のタイムなのかは2週間後にここカタールに戻ってきたときに判明するだろう。

山あり谷あり

ヴァレンティーノ・ロッシはレースペースでも一発出しでも速さを見せている。嬉しい驚きだ。これまでのプレシーズンテストではモヴィスター・ヤマハのパフォーマンスは実に不安定だったからだ。「このオフシーズンはとんでもなくアップダウンが激しかったですからね」とロッシはコメントしている(リンク先はイタリア語)。「つまりコースによって違うってことですね。あとマシンが変わるとタイムも変わるんです。うちがいちばん不得意なコースでもそういうことのないようにしないとね」

2位に入った彼は嬉しそうだった。「マレーシアでは速かったけど7番手にしかなれませんでしたからね」と彼は言うが、それでも気になることはあるようだ。レースディスタンスでのタイヤの保ちが問題なのだ。前後ともである。「ヤマハもがんばってくれてます。特に電子制御には力を入れてますね」とヤマハが抱える問題についてロッシは説明する。「レース後半でどうなるかがポイントなんです。最速ライダーと同じレベルでいられるかどうかですね」

ロッシのペースを上回ったのはカル・クラッチローだけだ。LCRホンダの彼は12周のロングランを行い10周で1分55秒台前半を記録している。そして1周は1分54秒台後半だ。このロングランについては彼も満足しているが、マルク・マルケスと同様にフロントタイヤに苦しめられたようだ。クラッチローはレイト・ブレーキングを得意とするライダーでフロントにはかなりの荷重を掛けるタイプだ。ブレーキングのことを考えればハードが最適だが、それだとコーナー中盤での旋回力に欠ける。ハードでなければ旋回力は出るがブレーキングではソフトすぎる。とは言えクラッチローが記録したペースを考えれば、致命的な問題というわけではないのだろう。

速さへの渇望

クラッチローは自分が直面している問題を理解しているという点では恵まれている。なぜ自分のマシンが思い通りになったり思い通りにならなかったりするのかわからなくて困惑しているのがマーヴェリック・ヴィニャーレスだ。「最後の40分までは50%の力しか出せなかったんです。それ以上攻められなかった。攻めた走りをするたびにコースアウトしてたんです」。モヴィスター・ヤマハが最後になって問題を解決できたのは木曜以来試してきた諸々を投げ捨てて初日のセッティングに戻したからだ。

「結局初日と同じマシンに戻ったってことです。それで1分54秒4が出せたんです」。そうヴィニャーレスはレポーターに向かって語っている。「だから思ったんです。昨日このマシンがあったら今日はもう少し違うタイムが出せたろうって。かなり良いタイムがね。だってフロント周りにもっと集中できたはずですからね。ずっとフロントを信頼できないまま走ってたんです。その前の2回のスティントですごく違和感を感じていて全力でプッシュできなかったんです」

ヴィニャーレスが頭にきているという事実こそが問題解決の鍵になるのかもしれない。勝利にこだわりすぎるをもう少しなんとかした方が良いということだ。「なんかめっちゃ変なんですよ。マシンは全然変わってないんです。初日と全く同じなんです。結局1日まるまるって言うか、いろいろ試した1日半を無駄にしちゃった感じです。何が違ってたのか良く良く考えないといけないですね。マシン自体は何も変わってなくって、初日と同じ。2日目は別のことを試して1日無駄にした。だから気持ちの中ではプッシュでいなかったんです、今でももっといけたのにって思いはありますよ。まだ全力で走ってないんです。だからレースでは全力で走りたいですね。100%でね。そしたら良い結果を出してみせますよ」

ヴィニャーレスはヨハン・ザルコのメモ帳から学ぶべきなのだろう。またはアンドレア・ドヴィツィオーゾのメモ帳でもいい。まずは自分の持っているものをすべて引き出すための努力をすべきである。マシンをよくするために捨てたパーツやセッティングやディメンジョンについて考えるのはその後だ。しかしヴィニャーレスは速く走るためになんでもしようとしていて、どうもそれがうまく行っているようには見えないのだ。

奇妙な日々

コース毎に異なるコンディションのおかげでヴィニャーレスの悩みはさらに深くなっているようだ。「今年は本当に変ですね」とマルク・マルケスはレポーターに語っている。「同じコースを同じ火に走っても時間が違うと、例えば午後の3時と4時と5時で、誰かが凄く速かったりして、でも気温が下がるとヤマハがちょっと良くなったりする。つまりよくわかなんないってことなんですけどね」

マルケスによれば、解決策は冷静さを保ち全体像を把握することだという。「ピットで集中力を保てればOKですよ。だってお日様の下だろうと夜だろうと、コースに出ればそれなりのタイムが出せてますからね。昨日言った通りコンスタントにトップ5には入れる。トップ3とは言わないです。トップ5くらい。だって厳しいレースもあるでしょうからね。それが鍵になりますね」

マルケスはレースペースを探るために土曜日の一発出しを犠牲にしている。「ペースをつかんで良いリズムで走るためにいろいろやりましたね。昨日はそこがうまくいかなかったんで。そこをなんとかしたかったんです。安定して走れるようにね。おかげで本気のタイムアタックはあまりできなかったかもですが、リズムはつかめたし、それが一番大事ですからね。このサーキットではいつも苦労してますし。それに1分55秒台前半で走れましたから。1分55秒台中盤でも良いリズムですからね」

プレシーズンテストの良かった点と悪かった点を具体的に問われてマルケスはエンジンが良かった点、問題は加速だと言っている。「多分エンジンが一番良かった点じゃないですかね。トップスピードも改善できましたから。弱点は相変わらずですし、その解決を目指してるんですけど、ウィリーをなんとかしたいですね。ウィリーすると加速が鈍る。そこで遅れをとるんです。だからこの部分では仕事が残ってるんです。でもシーズンが進めば解決できるかもですね。えーっと、エンジンだとシーズン中はどうにもできないでしょ。でもウィリーは主にディメンジョンの問題でシャーシの話ですからね」

マルケス式(グラベル突入を含む)

ホンダの乗り方を学ぶのはかなりたいへんなことである。それがルーキーのフランコ・モルビデリが学んだことだ。彼は自身の進歩に満足しているが、それは簡単ではなかったようだ。いちばん苦労したことを問われて彼はこうジョークで答えている。「ブレーキングとコーナー中盤とコーナー脱出ですね。あ、あとストレートも!」。マルクVDSの彼が手にしたのはレプソル・ホンダチームからのお下がりだ。2017年型RC213Vである。幸いにもバイクだけではなくマルク・マルケスとダニ・ペドロサが去年収集したデータが一緒についてきている。「このデータって、神様からの祝福ですね」とモルビデリは厳かに言っている。「あの二人から学べるなんてバイクレース界の聖書を読むようなものですから」

聖書と同様、彼らのデータから学ぶのには痛みを伴うことがあるようだ。グラベルトラップへの突入である。モルビデリは言う。「基本的に僕はクラッシュが嫌いですよ。Moto2の時もクラッシュは少なかったですし。でもこのマシンを理解するためには限界をわかってないといけないって気付いたんです。攻めて攻めて限界までいかないといけない。そうやって限界を探ってるとクラッシュするのは簡単ですよね。でもマルクが教えてくれたんです。クラッシュも手段の内だって。無理してぎりぎりまでいかなくてもいいんでしょうけど、手早く学ぶためには攻めまくって、そうなるとクラッシュは普通になるんです」

ミスター理路整然

アンドレア・ドヴィツィオーゾは対照的なアプローチをとっていた。ワークス・ドゥカティの彼は転倒とは程遠いライダーだ。2017年、彼より転倒が少なかったのはヴァレンティーノ・ロッシだけである。しかし彼は自分なりのアプローチで2018年のプレシーズンテストで充分な成果を得ている。土曜のテストを終えた彼はテストで良い結果を得たこと、そして2週間後の開幕に向けて良い状態に持って行けたことに満足していた。

ドヴィツィオーゾはひとりよがりにならないように気を付けていた。完璧なようには見えるが、あくまでも「自分にとって」ということだと強調していた。「そう見えますよね。もちろんなにもかもを完璧に仕上げることはできません。でも心から満足してますよ。ことによったら過去最高のテストかもしれませんね。本当に満足してるんです。まあそうは言っても僕はマシンの特性も良く知ってるし、カタールでの自分のライディングスタイルもわかってる。だからなにが良かったのか、そしてなんで良かったのかはよくわかってますし、逆にコースによっては速さが見せられないだろうこともわかってるんです」

自分がなぜ速いかを理解していると同時に、全く油断できる状況でないことも彼は重々承知している。「いつものことですけど、僕は舞い上がったりしませんよ。3日間で良い結果は出せましたけど、マシンの限界は去年から伸びてないんです。去年よりは良い状況ですからそこはありがたいですし、テストで試したパーツにも満足してますし、オフシーズンの自分たちのがんばりにも満足してます。でも本番になれば話は違うんですよ」

夜のウェット、ライダーの反応

土曜のテストはその前の2日間より1時間早く終了している。コースに水を撒いて強力な照明の下でのウェットテストを行うためだ。カタールではこれまで二度ほど雨の危機があった。その内一度は去年の話だ。そこでドルナは夜間のウェット状態を試す必要があると考えたのである。そこでテスト最終日の夜はウェットを試すことにしたのだ。

結論としてはかなり好印象だったようだ。良否についてははっきりした結論は出ていないが、ほとんどのライダーがウェットでもレースが可能だと考えている。いくつかのコーナーは難しかったようだが視界もほとんど問題はなかったと多くのライダーが言っている。最大の問題は、おそらく誰も予想していなかったことだが、コース上に残った砂と埃だった。そのおかげで前を走るライダーが上げる水しぶきで前が見えなくなるというのだ。テストでは何人かずつ一団で走らされたのだが、そのおかげで埃が問題になるということがわかったのである。

もちろんその他にも課題は残る。そもそもこのテストはどれくらい実際の状態を反映しているのだろうか?散水車を走らせてコースをウェットにするというのは実際の雨とはずいぶん違うものだ。雨が降ればコース上の埃は洗い流されるだろう。雨が降ったらどのように水が巻き上げられるかも本当のことはわからない。実際に雨の中を走ってみるまではライダーにも本当のところはわからないのである。そしてもし雨が降ったところで乾燥した砂漠の真ん中ではすぐに路面は乾いてしまうだろう。

今回のウェットテストでわかったのは2018年の開幕戦で何が起こってもライダーが対応でできるだろうということだ。雨が降ろうが太陽が輝こうが(ここで輝くのは月なのだが)、彼らは今すぐにでもレースができる状態だ。テストはもう終わった。彼らにこれ以上できることはない。エンジンは決まり、カウルも選択した。今年の開幕戦に向けて全てが決まったのだ。今日から後はレースモードに入るのである。

予想?不可能だ

さて、ファンは2018年のMotoGPがどんなシーズンになるか予想できるだろうか?テストを見る限り「予想外のことが起こるかも」としか言えないだろう。マルク・マルケスがチャンピオン最有力なのはもちろんだ。しかし彼が楽にタイトルを獲得できるなどとは誰も思っていない。彼からタイトルを奪う可能性のあるライダーも3〜4人はいるのだ。そしてその他にも表彰台を狙いながらことによったら優勝するかもしれないライダーが4〜5人は彼の前に立ちはだかっている。

2018年について私が自信を持って言えるのは、シーズンが終わってから、ランキング2位のライダーがトップから0.1秒だか14秒だか遅れでゴールした一つか二つのレースについて、それがタイトルの分かれ目になったと後付けで指摘することになるだろうということくらいだ。要するにとても楽しみなシーズンになるということである。
ーーーーーーーーーー
こうした長文のための情報収集には資金が必要です。もし楽しんでいただけたのならMotomatters.comへのご支援をお願いします。サポーターになっていただくか、カレンダーをお買い求めいただくか、寄付をしていただくか、若しくはGoFundMe経由でご支援をいただければ幸いです。
============
わーい、楽しみだー!

| | コメント (2) | トラックバック (0)

誰が「パーティー代」を払ってるの?

私も割とよくわかってないお金の話。PecinoGPが記事にしてくれてるのでご紹介。
============
世界GPのパドックがどうやってお金を集めているのかという質問に答えるのは不可能なことだ。「お金」という言葉が出たとたんに誰もが口をつぐんでしまう。しかし誰かがこの「パーティー」のためにお金を払っているのは確かである。

どの世界でも富者と貧者が存在しているものだが、それはMotoGPにおいても例外ではない。そんなわけでモーターサイクルレースのトップカテゴリーにおいても「大きな」チームと「小さな」チームの間の違いはかなりのものである。欧州域外の7レースを含む19レースで構成される世界GPに参加するチームの半数は800万ユーロ(邦貨換算10億円)ほどで戦っている一方、ワークスチームは3千万ユーロ(39億円)くらいというのが普通の予算だ。3千万ユーロかそれ以上と行った方が正しいだろう。しかも「それ以上」と行った場合に金額が3倍近くに跳ね上がることもあり得るのだ。

比較のためにライダーを確保するための費用について考えてみよう。MotoGPライダーには例えばNBA(米国のプロバスケリーグ)のようなサラリーキャップはないのだが、しかしそれでも実質的には上限があると考えて良いだろう。例えばドゥカティでは今のところ自主的に1千5百万ユーロ(20億円)という上限を設定している。これがドゥカティが去年二人のライダーに払った費用の総額だ。ヤマハもホンダも似たような額のはずである。これがMotoGPのトップライダーにかかる費用だ。

小チーム/大チームと区別して言う場合、潤沢な資金を抱えているからというだけで大チームと呼んでいるわけではない。大チームは1年間の間に供給すべきパーツの製造もになっいるのだ。例えばアヴィンティアのようなチームが考えなければならないのは自分たちが年間に使う分のパーツだけなのに対して、メーカーはワークスマシンとサテライトの両者のためのエンジンやスペアパーツやその他のパーツの製造にかかる費用を払っているのだ。

ワークスチームは人についてもかなりの人数を動かしている。プレシーズンテストでセカンドチームが動かしているのが20人前後なのに対してワークスチームであれば30人は下らない。さらにヨーロッパでのレースであればここにホスピタリティのスタッフが1ダース以上加わることになる。

レースのための資材、移動、人材、情報発信、イベント開催、広報、宣伝、接待…すべてに費用がかかり、つまりはだれかがMotoGPに参戦するためのこうした費用を負担しているということなのである。さて、どうやってこういったパーティーの費用がまかなわれているのか解き明かしていこう。

ワークスチームとそれ以外では資金に対する考え方が異なっている。ワークスチームはまず「いくら掛かるか」を考える一方、サテライトは「いくら入ってくるか」によって全てを決めるのである。つまりワークスチームのパトロンは自分自身だということなのだ。経済的支援は自分たちの会社から与えられるのである。ホンダ、ヤマハ、スズキ、KTM…、そのレース部門がチームの予算をまかなっているのだ。これは数百万ドルにもなる投資だということだ。レース結果を得るためだけではない。研究開発やおそろしく厳しい環境での技術者養成、最高の技術を持つブランドであると印象づけて世界中の市場にアピールすることも投資の目的である。

こういったわけで6メーカーがMotoGPで1年間に何百万ユーロも使っているとのである。ここにスポンサーからの資金援助も加わることになる。ただし巨大ワークス(つまり日本メーカー)にとってはスポンサーからの援助は経済的に必要というよりマーケティングツールとして重要なのである。さらに言うならワークスのスポンサーはチーム運営に口を出さないことが必須条件である。

スポンサーには直接お金を払ってくれる会社もあるが、モーターサイクル業界に何らかの形でかかわる会社から部品などの供給を受けるというテクニカルスポンサーと呼ばれる形もある。

このほかドルナも2台以上を参戦させているワークスチームに1台当たりいくらという形で資金を提供している。

ワークスでないチームについては全く異なるやり方を採っている。こうしたチームの目的はワークスとは全く違うのだ。技術開発も研究もないが、プラマックのようにメーカーの広報を一翼を担うことはある。しかしほとんどのチームは端的に言ってしまえば収益を得るための会社組織である。唯一の例外はマルク・ファン・デル・ストラッテンである。彼は幸運にも経済的に実に恵まれた環境に生まれ、そして純粋にトップクラスでレースを楽しむためにMotoGPチームを立ち上げている。

プライベートチームの資金源というのは複雑だ。費用はかかる上にワークスチームとの戦闘力の差のせいでパーティー費用をフルにまかなってくれるスポンサーを探すのが難しいのだ。この予算をカバーするのが難しいという問題は何年も悩みの種だったが、ドルナがワークス以外のチームに資金援助をするという決定を下したことで少しは息がつけるようになっている。基本的にはマシン代をカバーすることになっているが、これは予算のほぼ50%に相当する。

メインスポンサー

チーム・レプソル・ホンダ
・ホンダ:バイクメーカー(日本)
・レプソル:石油会社(スペイン)
・レッドブル:エナジードリンク(オーストリア)

スペインの石油会社であるレプソルとホンダの関係は1995年から続いている。HRCがやはり石油会社であるエルフからレプソルに乗り換えて以来、両者はMotoGPにおける単なるスポンサーを越えた関係となっている。一方レッドブルは2015年からHRCのカウルを飾っている。

チーム・ヤマハ
・ヤマハ:バイクメーカー(日本)
・モヴィスター:通信(スペイン)
・モンスター:エナジードリンク(米国)

一時期ホンダと組んだ後に世界GPからホンダを裏切る形で撤退したものの、こんどはヤマハと組むために2014年*にモヴィスターは戻ってきた。同社が新たに導入したペイ・パー・ビュープログラムの宣伝のためである。モンスターはホンダにとってのレッドブルに相当する。最初はヴァレンティーノ・ロッシとホルヘ・ロレンソのツナギからはじめて、ついにはカウルにまでたどり着いている。
(*訳注:原文ではxxxとなってるので、後から調べるつもりだった模様。かわりに私が調べたよ。)

チーム・エクスター・スズキ
・スズキ:バイクメーカー(日本)
・エクスター:潤滑油(日本)

「スポンサーを呼ぶのは強くなってから(=マーケティング的においしくなってから)式」に従って浜松に本拠を置くスズキはMotoGPプロジェクトのすべての予算を負担している。という話は別にしてGSX-RRのカウルに同じ分野から二つのメーカーのロゴがあることに驚くかもしれない。エクスターとモチュールのことだ。理由は簡単。両者は兄弟会社なのだ。

チーム・ドゥカティ
・ドゥカティ:バイクメーカー(イタリア)
・フィリップモリス:煙草(多国籍)
・シェル:石油会社(オランダ)

ドゥカティと、その「旅の友」との関係はオランダのシェルに関して言うと、ほとんどその始まりから続いている。1999年からの両者の関係は単なるスポンサーを越えて技術的な面でも完璧に協業している。見た目の上ではほとんど存在しないが(逆に、はっきり存在しているとも言える)世界最強の煙草会社であるフィリップモリスはドゥカティのMotoGPプロジェクトが産声を上げた瞬間から関わりを持っている。フィリップモリスのブランドであるL&Mのロゴがベン・ボストロムのスーパーバイクマシンに踊っていた頃からの関係ということだ。…うう、時の過ぎるのはなんと早いことか。

チーム・KTM
・KTM:バイクメーカー(オーストリア)
・レッドブル:エナジードリンク(オーストリア)
・モトレックス:潤滑油(スイス)

「KTMとレッドブルは一心同体」というのが世界最大のエナジードリンクメーカーとの関係について尋ねられたときのKTMの答えだ。このコンビにスイスのモトレックスが加わった。今後はKTMのマッティホーフェンの工場から出荷されるマシンへの潤滑油の供給に加えて、彼らが使うあらゆるものにモトレックスの名前が入ることになるだろう。KTM、レッドブル、モトレックスの三者は固い絆で結ばれている。

チーム・アプリリア
・アプリリア:バイクメーカー(イタリア)
・NOW TV:スカイTVチャンネル(イタリア)
・トリブル・マスターカード:信販(多国籍)

アプリリアのバックには強大なピアッジオグループ(訳注:所有するブランドではベスパ有名)がついている。Netflixのスカイ版であるNow TVがこの2シーズンついていて、さらに去年の終わりからMotoGPプロジェクトにトリブル・マスターカードが加わっている。

チームLCR
カル・クラッチロー
・GIVI:バイク用品(イタリア)
・カストロール:潤滑油(英国)
・リゾマ:バイクパーツ(イタリア)
中上貴晶
・出光:石油会社(日本)

ルーチョ・チェッキネロのチームは特殊なケースと言える。スポンサー獲得は綱渡りのようなもので、チームは毎レースGPの開催地に合わせてカウルのペイントを変えているのだ。今シーズンからチームに加わったセカンドライダーについては石油会社の出光が唯一のスポンサーのようだ。とは言えこれはMotoGPに日本のスポンサーをどうしても入れたいという思惑がホンダの庇護の下に実現したということだろう。
(訳注:LCRは綱渡りをしないために毎戦スポンサーを変えているっぽいですね→ご参考:2009年8月の記事「LCRの冴えたやり方」

チーム・マルクVDS
・マルクVDS:個人資金(ベルギー)
・エストレア・ガルシア・セルヴェセラ:ビール(スペイン)
・トタル:石油会社(フランス)

マルク・ファン・デル・ストラッテンによる特異なプロジェクト。ベルギーのビール会社の起業家である彼は生まれたときから億万長者で、自腹でMotoGPチームの予算をまかなえるほどである。おもしろいことにメインスポンサーはエミリオ・アルサモラとマルク・マルケスが引っ張ってきたスペインのガリシアのビール醸造会社である。スペインでペイ・パー・ビューが導入されたことで視聴者数が減少しているためチームに加入した時点の条件のままスポンサーを継続することについてエストレア・ガルシアが真剣に検討し直そうとしているのは周知の事実である。いずれにしてもファン・デル・ストラッテンのプロジェクトは実にまれなケースと言える。
(訳注:マルクVDSさんの会社ってアンハイザー・ブッシュ・インベブですからね。ちなみにベルギーのジュピラーはクラフト系じゃないベルギービールとしては私が一番好きなやつ。うっすら蜂蜜の香りがするのです)

チーム・プラマック
・プラマック:発電機(イタリア)
・アルマ:人材派遣(イタリア)
・FIAMM:蓄電池(イタリア)

ドゥカティの「ジュニア・チーム」はプライベートチームとしては唯一メーカーが運営しており、単に別の名前をつけているだけである。

チーム・レアーレ/アヴィンティア
・レアーレ・セグロス:保険会社(スペイン)
・アヴィンティア:建設会社(スペイン)
・クロワジ・ヨーロッパ:旅行会社(ベルギー)

チームの共同所有権を持つガリシアの建設会社、アヴィンティアの後を受けて、イタリアのゼネラリ保険会社の子会社レアーレ・セグロスがメインスポンサーとなっている。今シーズンは河川クルーズの専門会社であるベルギーのクロワジ・ヨーロッパもついている。シャヴィエル・シメオンのおかげだ。ティト・ラバトも自分が使う2017年型デスモセディチのためにチームにかなりのお金をもたらしている。

チーム・ニエート
・プル&ベア:衣料品(スペイン)
・ガヴィオタ:日よけ(スペイン)
・?

チーム・アスパー改めチーム・ニエートは現在第3のスポンサーとの契約寸前までこぎ着けている。これで2018年の予算はまかなえそうだ。近日中に相手は発表されるだろう。元チーム・アスパーのこのチームは持参金付きライダーからも資金を得ていた。セカンドライダーのカレル・アブラハムである。

チーム・テック3
・モンスター:エナジードリンク(米国)
・デワルト:電動工具(米国)
・モチュール:潤滑油(フランス)

ここはプライベートチームの中でも最も堅実なチームである。チームオーナーのエルヴェ・ポンシャラルによる実にプロフェッショナルなマネジメントのおかげでスポンサーとの関係も長続きしている。スズキやKTM、アプリリアがサテライトチームを持つことにしたら、真っ先に声を掛けるのがここだろう。(訳注:この記事は2月20日のものなので)。
============
お金は大事。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2018年2月 | トップページ | 2018年4月 »