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チームオーダーではなくチームスピリットの問題

さて、さきほどアップしたMotoMatters.comのEmmett氏の文章はニュートラルややロレンソ寄りかも、でしたが、こちらはめっちゃロレンソに厳しいMat Oxley氏の記事です。Motor Sport Magazineより。
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最終戦ヴァレンシアをもって素晴らしいシーズンに幕が下ろされた。さてそろそろ決着させよう。ホルヘ・ロレンソがチームメイトの手助けをしなかったのは正しかったのか、それとも間違っていたのだろうか?

チームオーダーはむかつくだろうって?本当にその通りだ。しかしチームオーダーというものは必ずしも君が考えるようなものではないこともある。君がプロのレーサーでMotoGPのワークスチームで走っているとしよう。少なくとも100人が君のために働いている。君はスターかもしれないし、雇われている中ではたぶん一番お金をもらっている。テレビに映るのは君だし、女性たちが追いかけるのも君だ。しかし君がレースで走れるのはみんなのおかげだ。彼らがいなければ君は何物にもなれないのだ。この事実をわかっていないライダーはMotoGPのグリッドには一人もいない。

日曜、ドゥカティにはまだMotoGPのタイトルを獲得するチャンスが残されていた。ごく僅かなチャンスだが、チャンスはチャンスだ。この数か月、ホルヘ・ロレンソは最後の2戦になれば喜んでチームメイトのアンドレア・ドヴィツィオーゾを手助けすると我々に明言していた。彼はもっともらしくこう言い続け、そして先月のセパンでは実際にドヴィツィオーゾに譲っている。そして同じことをヴァレンシアでもするだろうと誰もが思い込んでいた。

しかし彼はそうしなかった。周回を重ねても彼はドヴィツィオーゾを後ろに従えたままヨハン・ザルコとマルク・マルケス、そしてダニ・ペドロサを追いかけ続けたのだ。ドゥカティのピットがうろたえているのは傍目にも明らかだった。ロレンソは何が起こっているかは正確に把握していた。しかし彼は合理的な判断ができるチームメイトなら誰でもするだろうことをしなかったのだ。まともなチームメイトならチームオーダーがあろうがなかろうがチャンピオン候補に道を譲って、自分自身で運命を切り拓くように後は任せるはずだろう。

もっともありそうな結果はドヴィツィオーゾがタイトルを逃すことである。レースに勝って、そしてマルケスかホンダが派手なミスをするのを待つしかない。つまり可能性は極めて低いということだ。彼は週末を通じて終始リラックスしていたが、それは彼のタイトル獲得の可能性が極めて小さいことをわかっていただからだろう。しかしそこがポイントではない。ロレンソはドヴィツィオーゾに任せるべきだったのだ。チームオーダーに従うべきだという話ではない。そうではなくてチームスピリットを大事にすべきだったということなのだ。

何年もの間私はなんとかホルヘのことを好きになろうとがんばってきた。ライダーを好きになろうが嫌いになろうが、それは私の仕事には関係の無い話だ。私の仕事はレースについて書くことなのだ。しかしレーサーも人間だ。リザルトに印刷されたただの名前ではないのだ。私は良いライダーもひどいライダーもたくさん知っている。しかし彼らがライディングの才能を持っているのであれば、人間として尊敬されなくてもレーサーとしては尊敬されるべきだ。そしてややひねくれた話ではあるが、私はある種のめんどくさいタイプのライダーと過ごすのが好きなのだ。彼らは血に飢えていて、だからこそレーサーとしての適性を持っているのだ。

もちろん私が好こうが嫌おうがホルヘは気にも留めないはずだ。私以外の誰でも同じだろう。彼はポップスターではなくレーサーである。彼の仕事はレースに勝つことであって、レコード売り上げやらテレビの視聴率やらを稼ぐことではないのだ。

しかし私は彼が日曜にやったことは間違いだったと考えている。4位と5位を入れ替えるのにさほどの重みは無い。なのになぜ彼はそうしなかったのだろうか?そうすれば(特にイタリアを中心とした)様々なジャーナリストからの攻撃を受けることもなかったはずだし、私もこのブログを書くこともなかっただろう。

ダッシュボードのメッセージとピットボードと、そしておそらく自らの良心の声までも無視するという彼の決断はこの数日大議論を巻き起こしている。イタリアのカジノという名の(もしくは彼らがそう呼んでいる)メディアへの返答を通じてロレンソとドゥカティは騒ぎを沈静化させようとしていた。ドヴィツィオーゾも同じだ。彼はそういう男だからだ。彼はチーム内での論争が誰の助けにもならないことを理解しているのだ、だからこそ彼は超然としていられるのだし自分の人生と折り合いをつけられるのだ。

ロレンソはこう言って自分の立場を主張している。ドヴィツィオーゾをザルコ、ポイントリーダーのマルケス、そのチームメイトのペドロサの3人からなるトップグループに追いつかせようとしていたのだと。自分はドヴィツィオーゾより速かったのだから、それで説明がつくと言っているのだ。

ただしそれは事実ではない。ドヴィツィオーゾのファステストラップは少しだけロレンソを上回っているのだ。そして3周目から18周目までのほとんどの周回でドヴィツィオーゾはロレンソを上回っている。より正確に言えば16周の内9周だ。そして何度か彼はロレンソのリアタイヤの直後にまで接近しているのである。

さらに言うならロレンソはペドロサとの差を着実に詰めていったというわけでもない。7周目、彼と前を行くホンダとの差は0.4秒。それが11周目には0.7秒近くまで広がっているのだ。そしてその差は0.8秒を超え、17周目までには1秒を超えることになる。ペドロサが少し遅くなった場合のみ二人の間が縮まっただけである。ロレンソは自分がドヴィツィオーゾより速かったと言っているが、自分が前にいるのにどうしてそれがわかったのだろうか?ドヴィツィオーゾは常にロレンソの0.2~0.3秒後ろにつけていたのである。

こうしたことがドヴィツィオーゾの冷静さにどんな影響を与えただろう?31歳の彼はバイクレーサーとしてはあり得ない程穏やかで合理的な判断をする。しかしその彼もチームメイトの頑迷さに冷静さを失ったはずだ。ロレンソが自分を引っ張っているのと同じようにペドロサに引っ張らせるチャンスもあったのだ。

もしドヴィツィオーゾがペドロサの後ろで4位になったらレースの様相も変わっていた可能性がある。ドヴィツィオーゾは何かで新たな可能性をみつけられたかもしれないのだ。こうしたひらめきもバイクレースでは重要な役割を果たすことがある。もちろんその場合でもタイトル争いの振り子を戻すには何か予想もしなかったことが起こる必要があった。しかしその予想もしなかったことが実際起こりかけたのだ。つまり試してみる価値はあったということである。どんなことでも試す価値はあったのだ。しかもロレンソには失うものはなかったのだ。

これは実際のチームオーダーとは何の関係も無い話である。これはチームとして一緒にやること、仲間を助けること、同じ方向に向かって努力すること、そういう話だ。これはチームスピリットの話なのだ。それこそがチーム競技であるバイクレースにとって重要なことなのだ。サッカーと同じなのだ。

ライダーなら良いチームに恵まれたいと思うはずだ。そしてすべてのスタッフに好きになってもらう、愛してもらうことが大事なのだ。だからこそ彼らは君のためにもう一頑張りしてくれるのだ。ライダーなら自分のために働く全ての人に目標達成の手伝いをしてもらいたいはずだ。1月の寒い夜、深夜1時を越えてもまだ会社にいて計算を続けながらなんとかプログラムを解析しようとしてるデータエンジニアに、あきらめて家に帰るのではなくもう少し頑張ってもらいたいはずだ。この日曜の午後、間違いなくドゥカティのスタッフの中にはロレンソへの愛を失った人がいるはずだ。

それだけではない。チームメイトにも愛されたいはずだ。ことによったら来年はロレンソがドヴィツィオーゾの助けを必要とするかもしれない。ドヴィツィオーゾは紳士だし過ぎ去ったことにいつまでもこだわる男ではない。しかし先のことはわかならい。正しいことをしそこなうという失態はいつの日にか自分に跳ね返ってくるかもしれないのだ。トム・サイクスとロリス・バスにピットでの良い関係がどれほど重要か聞いたことがある。彼らの関係のせいでサイクスはおそらく2014年のワールドスーパーバイクのタイトルを逃しているのだ。この件についてはロレンソとヴァレンティーノ・ロッシの関係を思い出してみてもいいだろう。

ロレンソにあらゆる手段でメッセージを送りタイトル獲得の希望を潰さないように頼んだにもかかわらずドゥカティは月曜には違う話を作り上げた。彼らはレースの状況を見誤ったと言うのだ。これは単にイメージ戦略の一環に過ぎない。組織を理性的かつ穏やかに保つためだ。しかし密室ではジジ・ダリーニャとロレンソがかなり率直に意見交換をしているのではないかと私は疑っている。

ロレンソでもドヴィツィオーゾでもいい。私はドゥカティがMotoGPタイトルを獲得するのが見たいと思っている。しかし日曜にロレンソがやったことは独善的なガキのやることだと思っているのだ。
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まあペドロサとの差とかも、実は17周目をピークにその後は着実に縮めていってるんですよね。そしてペドロサにロレンソが近づくにつれてロレンソとドヴィの差が広がっていってます。あとドヴィツィオーゾのタイムはロレンソに比べると安定していないので、数字があるからといって何かが証明されるとは限らないですけどね(というロレンソ好きの意見)。

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コメント

いつもご苦労様です! シーズン最後まで楽しく読ませていただきました。 最終レース、ホルヘがまた議論を巻き起こしてくれましたね。 この手の事象、たとえば2015年のフィリップアイランド、セパンもそうですが、結果として、その瞬間に感じたことに真実があると思っています。 ホルヘファンの人には悪いですが、レースを見ている際、やはりホルヘは邪魔でした。 レース観戦中、すーっと、ホルヘは何をしたいんだろう? 思っていました。 後で分析すると、いや、実はドヴィを引っ張っていたとかいう可能性を、データから追及は出来ますが、何よりも!!! ホルヘがドヴィの立場であれば、1000%激怒しています。これが全てです。 結果としてわずかにホルヘが先行することによりタイムが上がったとしても、やはり、あそこはドヴィにトライをさせるべきです。 いやさせなければいけません。 コースの一部を除き、ドヴィは、ホルヘを抜くところまで接近できなかった。しかし!! その一方、コースの一部では、明らかにドヴィは速かった。 3 times world champion のプライドなのか? それとも、繰り返しますが、もしホルヘがドヴィの立場にいれば、これまでのホルヘの言動からして激怒していたことは明らかです。 それが全てです。 ホルヘは、言動が基本的に理にかなっているので、わかりやすい批判がしにくいのは事実ですが、理屈ではなく、その瞬間起きてる事象から判断すると、やはり。。。 まあ、結果が変わったとは思えませんので、今回のことは、それほど大きな話ではないのかもしれませんが、チャンピオンになるということは、すなわちこういうことなんですね。 2010年、ヴァレがホルヘに茂木でつっかかています。 ホルヘからすると 「なんでやねん!」となるとは思いますが、あの時のヴァレのホルヘの関係性を見ればわからなくもない。。。それに対し、こんかいは何? ドヴィがホルヘを不快にさせた?? ひょっとしてセパンのパルクフェルメで目を合わせなかったドヴィへの怒り? いや違います。 So, why??

長くなりましたが、ホルヘには昔から、上げられたり下げられたり。。 今回、ドヴィに譲っても誰にも利害は発生しなかった。 Except for the pride of Jorge.

投稿: ken | 2017/11/20 19:09

>kenさん
 私も最初の感覚を引きずってるんですが、Kenさんとは逆に「あ、ホルヘ引っ張ってる!」って思ったんですよ。なのでやっぱり人それぞれな感じですね。そこもまた楽しいところです!

投稿: とみなが | 2017/11/20 22:24

「ロレンソがドヴィを前に行かせても、誰も大した損はしなかった」
「ドヴィが前に出てもチャンピオンは取れなかった」
この辺は誰が見ても思う事なのかなと思います。

確かにロレンソはドヴィを前に行かせて「あとは自分で頑張れ」とすれば、それはそれで丸く収まったのかもしれない。
ロレンソ自身、メディアの攻撃の矢面に立つ事は無かったでしょう。

でも、あえてそうしなかったのは本当に心からチームの為に尽力したかったんじゃないかなと見えました。
レース中ロレンソが知っていたのは、
「ドヴィは金曜日からずっと苦戦していた」「ドヴィがすぐ背後にいる」「ピットからチームオーダーが出てる」と言う事です。
もしかしたら事前に「あまりペースが上げられない」とドヴィから相談されてたかもしれません。

そしたらドヴィが後ろに着く事でドヴィが少しでも走りやすくなり、タイヤの負担も軽減出来るのかなと、自分が風よけを買って出たんじゃないかなと。
チームオーダーがドヴィから直接出てれば話は違いのでしょうが、同じマシンに乗ってる身。
「Ducatiのマシンの限界」も感じていたでしょう。
ドヴィもいっぱいいっぱいで着いてくるのがやっと、前に出してもペースは上げられないって感じていたかもしれません。

ならば限界まで自分が風よけを買って出たのかな。
だから、マルケスがコースアウトした後、千載一遇のチャンスにかけてトップまでドヴィを引っ張ろうとペースアップしようとして転んだのかななんて見てました。


まぁ自分がロレンソの立場だったら「面倒な事に巻き込まれない為に、ドヴィを前に出して、後の事は知らん」としたと思います。
でも、それってチームの為的には、ある意味無責任なのかなと。
責任感が強すぎての、今回の行動なのかなとも感じます。


ちなみに私はロッシファンなので、ロレンソはあまり好きではありません。
彼は一言多いと言うか、ちょっと解り難い部分があるので・・・
でも、今回は彼なりにチームとドヴィを最優先に考えた結果なんだと見えました。

私は逆に今回の件でロレンソをちょっと見直しました。

投稿: 14B | 2017/11/24 14:46

賛否両論あるようですが、私はドヴィツィオーゾの「ホルヘに引っ張ってもらった、彼はコンスタントにペースが良かった」というコメントが全てだと思っています。
しかも「あれ以上は無理、限界だった」と明言しているのです。
例えチームオーダーが出た時点でホルヘがドヴィに譲ったとしても、すぐホルヘはドヴィにつっかえることになったでしょう。
実際、転倒直前ホルヘはダニにかなり接近していましたし、ドヴィは少し置いていかれるような形になっていました。
もっと言えば、ドヴィにチャンピオンの可能性がないのであれば、ホルヘにも優勝を目指す権利はあったのです。彼だってレースをしているし、自分の為に戦っているのですから。
周りから見れば疑問符のつく内容だったのかもしれません。でも、当事者の二人が同様の見解を述べ、且つ納得しているのであれば、それ以上の真実など存在しないという気がします。

常にバッシングを浴びながらも、グチ一つこぼさず、チームメイトを称え、もがき苦しんでようやく這い上がってきた、勇敢で不器用で男気溢れるホルヘ・ロレンソに大きな拍手を送りたい。

投稿: たけちよ | 2017/11/27 12:55

>14Bさん
 確かにドヴィを前に出す方がわかりやすいですよね。敢えて茨の道ってのもかっこいいです。

投稿: とみなが | 2017/12/02 18:28

>たけちよさん
 そして来年こそ!

投稿: とみなが | 2017/12/02 18:29

YAMAHA+BS時代のホルヘのキレッキレの美しい走りまた見たいよ!ドゥカでも頑張れ!でもチームの指示には従え!

投稿: ホップ | 2018/01/05 00:56

>ホップさん
 ふふふ、チームの指示はあくまで「お願いですからね」。無視は無視でおもしろいです。でも美しい、そして独走が見たいですね。

投稿: とみなが | 2018/01/08 22:27

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