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マジック・マルクの綱渡り

もうね、あんな勝ち方をされたら、抜かれたペトルッチだけじゃなくて後ろで見ていたドヴィツィオーゾも「うげっ」ってなるような完璧さ。何がすごいって、ペトルッチを抜くときに全く危なげがなかったことですよ。つまり圧倒的な力の差を見せつけたってことです。「ちょっと無理すれば抜けるから、ちょっと無理してみよう」じゃなくて、間合いを測って測って、そして測りきったところで抜いて、突き放す。完璧すぎる勝ち方でした。そのマルケスについてMat Oxley氏の記事をMotor Sport Magazineより。
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雨に見舞われたサンマリノGPの日曜。83人のライダーが出走し、80回ものクラッシュを数えることになった。いったいマルケスは(優勝したのはさておき)どうやってこんなコンディションの中を走りきることができたのだろうか。

日曜のレースを見ながら私はこんな様子を想像しないわけにはいかなった。マルク・マルケスの頭の中でまるでゴクリ(訳注:「指輪物語」に登場する、かつて人だった何か。映画ではゴラムでした)のようにリスクを冒そうとする彼とリスクを避けようとする(もしそんな要素があればだが)彼が言い争いを繰り広げるのだ。

しかしマルケスの中のリスクを避けようとする小さな人が28周のほとんどを支配することになった。彼は賢明にもホルヘ・ロレンソは先に行かせダニオ・ペトルッチにペースを作らせながら彼の後ろに留まることにしたのだ。その間ずっと彼の中のリスクを冒そうとする野獣は外に出ようともがいていた。

「だしておくれよお!」
「ダメだ!20ポイントの方がゼロよりましだ!」
「だしてくれよぉ、あのしとを追いかけるんだよぉ。25ポイントの方が20ポイントよりいいに決まってるよぉ」

こんな会話がレース中盤までは続いていたはずだ。マルケスには今日タイトルを確定することはできないこと、そして今日タイトルを手放す可能性はあることがよくわかっていたのだ。もしクラッシュすればアラゴンのレースはアンドレア・ドヴィツィオーゾに29ポイント差をつけられた状態で臨むことになる。

にもかかわらずマルケスの中の野獣は解き放たれることになった。それも瞬時に切り替わったのだ。彼の動きを見ればそれは明らかだった。彼のレプソル・ホンダは少しだけ暴れはじめ、ペトルッチのリードもわずかずつだが削り取られていく。マルケスは計算尽くで5ポイントを稼ぐために綱渡りをすることにしたのだ。

チャンピオン候補が直面しなければならない神経をすり減らすような状況である。リスクを冒せばクラッシするかもしれない。リスクを怖れるあまり獲れたはずの何ポイントかを逃すかもしれない。

雨が降ればリスクは大きくなる。そしてミザノではいつも以上にリスクがあった。路面はありえないほど滑りやすく決勝日としては史上最多の80回の転倒を数えている。こんなコンディションでは限界ぎりぎりで、なおかつ限界を超えないよう走るのは実に困難な仕事となる。だからこそ多くのライダーが自分がミスをしたと気付くまもなく転倒していったのだ。

当然マルケスは誰よりも多くの危ない瞬間に見舞われることになった。モンスター級のフロントエンドのスライドに見舞われたのだ。神ならぬ身であれば普通なら転倒するようなスライドだ。少なくともスロットルを緩めてチェッカーフラッグまではツーリングモードに徹することになるはずである。なのになぜマルケスはこうした警告に耳を貸さなかったのだろうか?

いや、彼は耳を貸していたのだ。当たり前だ。しかしやり方が違ったのだ。いつだってマルケスはこんな走り方をするのだ。それがドライだろうがウェットだろうが、それどころかスケートリンクの上でも変わらないだろう。ダートトラックでわずかなグリップを求めて走りまくったそのおかげである。彼にとってはマシンは暴れ回っていて欲しいのだ。そうやって彼はバイクと会話をするのである。マシンが右へ左へと降られるたびにその声が聞こえるのだ。何か大事なことを語ってくれる。たいていは「ここが限界、もうぎりぎりだ」と教えてくれる。しかしだからといって彼がスピードを緩めることはない。それどころか違う角度から試して限界を遠ざけるのである。

ライダーであれば誰でもこうした会話をマシンと交わしている。それこそがバイクに乗るということであり、バイクでレースをするということなのだ。マシンが自分の入力に反応するのを感じ、そしてその反応に対して自分が反応する。マルケスとマシンの間で行われているのも同じことである。ただしレベルは全く違う。使っている言語が違うのではないかというほどのレベルの差である。彼にはマシンの言葉がわかる。そしてそれに対して他のライダーにはとてもできないような速さで反応するのだ。それこそが彼を特別たらしめているのである。

マルケスがGPに参戦して10年になる。しかしいまだに多くの人が、コントロールを超えて暴れるマシンで彼が勝てたのは運が良かったからだと信じているようだ。前戦イギリスGPで誰かがアンドレア・ドヴィツィオーゾに正しくそのことについて尋ねている。どうやって彼はコントロールを失っても大丈夫なのか?

ドヴィツィオーゾはひとつため息をついてからその質問に答えている。間違いなく今更そんなことを説明しなければならないことに驚いていたのだ。「みなさんマルクがコントロールを失ってるっておっしゃいますけど、そうじゃない乗り方をしているのを見たことなんかないでしょ?マルクの強さのひとつがそこなんです。彼は限界を弄ぶことができる。そんなことができるライダーはそんなにはいません。確かに彼は何度も限界を超えてミスを犯しています。でもタイトルもたくさん獲っている。つまり彼は状況をコントロールできてるってことなんですよ。実際マルクは限界を弄ぶのを我慢できないんです。彼にとってはそれが普通のことで、だからこそ限界で遊べるんです」

ミザノでのマルケスはプラクティス、予選、ウォームアップで3回の転倒を喫している。誰よりも多い転倒回数だ。しかし彼はレースには勝った。プラクティスで転倒しなかった多くのライダーが転倒したレースでだ。さて、どちらがより賢いのだろうか?

もちろん転倒は危険である。しかし現代のサーキットと最新のライディングギアのおかげで以前よりかなり危険は減っている。マルケスは自分が何をしているか完璧に理解しているのだ。彼はプラクティスやウォームアップを使って限界を見極め、レースでどこまでやれるか探っているのである。彼のやり方は数字が説明してくれる。ここまでの4年間、85回のMotoGPラウンドで76回転倒しているが、33回の優勝と3度のタイトルを獲得している。そして彼はまだ24歳だ。

ミザノでの勝利は様々な意味で偉大なものだった。非常に困難なコンディションで、失うものも多く、そして最終コーナーでは前後のタイヤが身もだえしていた。ことによったら彼自身にとっても最高の勝利だったのかもしれない。

マルケスも自分がすごいことをやってのけたという自覚はあった。彼は笑ってこう言ったのだ。「ゴールしたとき、ほんとにヘルメットにマイクがなくて良かったですよ」

後から振り返ってみて「あれが鍵だったな」と思うようなことは最終戦までまだいろいろあるだろう。しかし彼がこの日曜に上げた勝利は、今シーズン最高に価値のあるものだったということになってもおかしくはないだろう。
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いやはや、どうなることやら。ますますもてぎが楽しみですね!

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コメント

もちろんテクニカルな視点での説明はつくのだろうけれど、もうそれだけじゃないような気がするここんとこのマルク。
もしコリン・ウィルソンが生きてたら、研究対象になったんじゃないだろか・・・

投稿: りゅ | 2017/09/13 22:28

『あのしと』笑

投稿: りゅ | 2017/09/13 22:32

コーナー出口の加速でペトルッチのドカにおいて行かれてるけど、それをブレーキングで詰めてましたからね。
あの転倒者が続出したウェット路面でマルケスは!
確かにマシンとの対話の仕方が他の選手とは違うと思います。

心配は、やはり記事にもあるけど転倒の多さ。
いつまでも怪我をしないで済むと彼も思ってはいないだろうけど、転倒してもハンドルをなかなか離さないこともあります。
それすらコントロールしてる様にも見えますけどね。
あとマシンが彼でないと乗りこなせない物になっている様な気も。
ちょっと今回のダニを見ると、そう考えたくもなるんですよねぇ。

投稿: motobeatle | 2017/09/14 19:15

>りゅさん
 わかっていただけて嬉しいです。

投稿: とみなが | 2017/09/18 21:03

>motobeatleさん
 いやはや、あのウェットでコントロールしてるマルケスは人間じゃないですね。ことによったらホンダは「マルケス向き」マシンを作ってるんじゃなくて、単にダメなマシンをマルケスがとんでもない速さで走らせてるだけなのかもですが。

投稿: とみなが | 2017/09/18 21:05

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