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鈴鹿8時間耐久 ヤマハR1−妥協の産物:220周のためのスピードvsスタミナ

再びMotoMatters.comよりSteve English氏の記事を。こちらはマシンについてのお話。なおリンク先はテックポルノ写真満載。閲覧注意の溶接痕とカーボン綾。
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1日が終わる。勝利は手にした。ヤマハが鈴鹿8時間耐久レースで三連覇を飾ったのだ。日本のメーカーが他のどのレースよりも勝ちたがっているレースである。ヤマハワークスのYZF-R1をじっくり観察してみよう。

良く言われていることだが、耐久レースはモータースポーツにおける自由な設計と自由な技術の最後の砦である。アウディが4輪で導入したディーゼルエンジンについても、今の2輪耐久レーサーについても、グリッドには革新的技術が溢れているのだ。

今週末の鈴鹿8時間にヤマハワークスが持ち込んだのは地球上でおそらく最も進化したYZF-R1である。電子制御に制限はなく、タイヤ戦争もあり、ルールブックにはあらゆる革新の種が落ちている。アレックス・ロウズとミハエル・ファン・デル・マルクがワールドスーパーバイクで通常乗っているマシンとはかなり違うものとなっているのだ。

「鈴鹿用マシンと僕らのワールドスーパーバイク用マシンを比べられたのはほんとによかったですね」というのがファン・デル・マルクの決勝前夜のコメントである。「一方でレースして、すぐにテストのために別のマシンに乗ると、それぞれのマシンの良さがどこにあるかよくわかりますし、スーパーバイク用マシンのどこに開発余地があるかもわかりますからね。
 エンジンも違いますよ。鈴鹿用マシンは8時間保たせないといけないですから。でも電子制御も全然違う。鈴鹿用マシンはすごくスムーズなんです。ちょっとした違いなんですけどマシンが乗りやすくなっている。スーパーバイク用マシンと特性は同じなんですけど、電子制御のおかげでパワーのコントロールがめちゃめちゃ楽になってるんです。あれ、僕のマシンにもほしいですよね!」

レースマシンに装着されるあらゆるパーツはすべて速さのためだ。しかし耐久レースでは同時にメンテナンスの速さにも気を遣ってパーツを作らなければならない。ホイールを素早く交換したりクラッシュで負ったダメージを修理したりといった場面でいかに時間を節約するかが死命を制するのだ。ピットで稼いだ1秒1秒が砂金のように積もり積もって大きな意味を持つことになる。そして効率的に作業をこなすことはあらゆるチームにとって賞賛に値する宝なのである。

あらゆるものがいかにスムーズに作業を進めるかを考慮して設計されている。ワールドスーパーバイクやMotoGPのマシンと比較すると、外しやすさと作業効率が最優先で作られているのだ。普通なら後回しになるチェーン交換や給油の速さ、さらにはメンテナンススタンドにいかにマシンを速く載せるかといったことまでが最優先で考えられているのである。スピードが最重要事項なのだ。しかし休み無しで8時間走りきるためのスタミナにもかなりの配慮がされていることも忘れてはならない。

誰もが勝ちたがっている8耐におけるヤマハの3連覇にはタイヤもマシンの一部として大事な貢献をしている。世界耐久選手権でヤマハが履くのはダンロップだが、ワークスヤマハは再びブリヂストンで8耐に挑んでいる。これが大きなアドバンテージになったのだ。この日本製のタイヤはこれまでも暑さに強いことで定評があった。そしてこれも耐久レースという挑戦のひとつの側面なのである。

このところ私たちは世界中をまわるMotoGPとワールドスーパーバイクでタイヤメーカーが1社に限定されていることとに慣れつつあるが、タイヤ戦争もレースの一部であるのをまた目にするのもいいものである。ライダーにとってはワールドスーパーバイクで使われるピレリとはずいぶん違った感触となるが、大事なのはパフォーマンスである。そしてブリヂストンはその期待に充分応えてみせたのだ。

これまでの鈴鹿8耐からのフィードバックは2015年まではMotoGPタイヤの開発にも役立てられていた。このため感触も実によく似ていたのである。極めて強靱なフロントの感触に加えて機能する範囲であれば豊富な安心感を与えてくれる。しかし一旦その範囲を外れるとひどいしっぺ返しを喰らう。その時こそダメージからいかに早く復活するかが意味を持つのである。

3人のライダーが1台のマシンに乗るということは、誰にとっても完璧でないマシンになるということだ。たいへんなのは3人ともに満足するマシンに仕上げることである。今年についてはヤマハの課題はロウズや中須賀と比べて身長の高いファン・デル・マルクも許容できるライダーポジションだった。ロウズと中須賀の二人は三人に合わせた際のベストを作るために自分たちの要求を変更しなければならなかったのだ。

2015年、3連覇の最初の勝利の際、ブラッドリー・スミスは「第3ライダー」だった。この時のチームメイトは中須賀とポル・エスパルガロである。つまらない役割では決してない。それどころか他の2人と同様に重要な役割である。しかし彼によれば違う役割が求められていたのだという。

「ライダーは3人いて、だからそれほど乗れないんですよ。スーパーポール(訳注:トップ10トライアル)も走れなかったし、それを平気で我慢できるライダーなんていないですよね。でも僕は第3ライダーで、それは週末の間ずっと変わらなかった。まあそのまま受け取るべきものでもないし、恨みに思うべきものでもないんですけどね。チームのとして結果を出すために参加してるんだし、別に自分一人のためにやってるわけじゃないんですから。
 テストや決勝前の予選とかではタイヤをいろいろ試してどれがいいのか決める仕事をしていました。20〜30分はいいんだけど1時間保たないタイヤとかもあるんです。そうやってタイヤについてはどっちの方向で行くべきかをチームに進言する。そしてそっちの方向に向けてセッティングを変えていくんです。僕がそっちの方がいいと確信していて、結局それが正しかった。安定性が一番大事なんですよ」

耐久レースというのはひとつの循環サイクルである。リスク分析とスタミナが純粋なスピードより必要だ。ゆっくり走り過ぎたり慎重になり過ぎたりすると速さを失い表彰台から遠ざかってしまう。しかしリスクを冒しすぎればピットクルーが効率的にマシンを修復するのに頼らざるを得なくなる。すべてはどこでどう妥協するかなのだ。耐久マシンは妥協の産物なのである。220周、すなわち数千キロにわたって最高でいられるための妥協なのだ。
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そういえばスミスは去年出場しなかったことを相当後悔してたみたいでしたね。

ついでに写真のキャプションも訳しておきます。
2枚目(仕事場:ライダー視点)
3枚目・4枚目(シンプルなスイッチに騙されそうになるが電子制御は複雑だ)
5枚目(違いはタイヤだけではない。鈴鹿仕様のR1はカヤバのサス)
6枚目(フリーサイズでご用意:ステップ、シート、ハンドルは3人全員に合うように設定)

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コメント

6枚目のキャプションですが、(ワンサイズのみご用意:ステップ、シート、ハンドルは3人が妥協できる位置となる)の方がニュアンスが近いのではないでしょうか。

投稿: 毎回感謝 | 2017/08/02 05:12

>毎回感謝さん
 ご指摘ありがとうございます。少し変えてみました。One size fits allは日本語で言うところのフリーサイズの意味なので、それはちょっと活かしたかったのです)

投稿: とみなが | 2017/08/02 12:47

本命ファクトリーR1三連覇ですね。
現行R1って、それまでの公道を意識した造りから脱却して完全サーキット仕様のバイクだと聞いてます。
その為か細部の造り込みまで本当にキレイですね!
後付けや、チューニングした感が殆ど感じられません。
でも、頭が古くなってきてるのか、そういった部分が無くて、なんとくツルンとしているな?などと思ってしまったりw
ともあれ、おめでとうございます!

投稿: motobeatle | 2017/08/02 17:00

今回得たものをWSBに持ち帰ってカワサキとドゥカティに割って入ってもらいたいですね。

投稿: Jacque | 2017/08/03 15:08

>motobeatleさん
 逆に言うと公道版ってのが相当やばいのでしょうか…。まあホンダとヤマハはさすがのクオリティですよね。

投稿: とみなが | 2017/08/03 23:02

>Jaquesさん
 ですね!全然違うとは言えそれなりに得るものはあったようですし!

投稿: とみなが | 2017/08/03 23:03

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