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不思議の国のグランプリ

いやもう全世界30億人のダニファンとホルヘファンが狂喜乱舞することになった先日のスペインGPですが、いつもの年とは微妙に違って、必ずしも今年全体を占う物ではなかったというMat Oxley氏の記事です。Motor Sport Magazineより。
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2017年の4レース目、今年はかつてないほどレース結果の予想が難しくなっている。そしてその結果、MotoGP最高の頭脳を持つエンジニアたちでさえヘレスの結果に困惑している始末だ。

1991年のことだ。ウェイン・レイニーはヨーロッパラウンドの開幕を「地上戦」と呼んでいる。ヘレスでのGPが第一次湾岸戦争の直後だったからだ。

多くのライダーがヘレスこそが真のタイトル争いの開幕だと考えている。ヨーロッパ域外での開幕戦は普通のノリではないリズムを奏でることがあるからだ。ヴァレンティーノ・ロッシでさえその意見を否定できないでいる。「まあヘレスが本当のタイトル争いの始まりだとはいいたくはないですけど、でも…」。ヘレスで7回も勝っている彼は31回目のヘレス開催を前にそう言っているのだ。

レイニーがヨーロッパでの戦いを地上戦と称して他のGPとは別扱いをするのには理由がある。ヨーロッパのサーキットは他とは異なるのだ。チームが持ち込むのは空輸用ケースではなく装備満載のトラックだ。そしてライダーたちはパドックで生活することができる。

まあMotoGPライダーはそうだ。モーターホームでの豪奢な生活は目がつぶれるほどの輝きを放っている。一方Moto2やMoto3のライダーはパドック外からレンタカーで通勤している。ただし週末分として2500ユーロ(邦貨換算31万円)を払ってGP優勝経験もあり今はノリノリのDJであるフォンシ・ニエートが経営するトラックを改造したカプセルホテルに泊まることができれば話は別だ。

ヨーロッパのパドックは今でも特別な場所である。しかしそれは過去の幻影でもある。億万長者のモーターホームが貧乏ライダーの崩壊寸前のキャンピングカーと隣り合わせで駐まっているような雑多な人々の集うキャンプサイトは遠い昔の話だ。毎晩何十ものバーベキューパーティーの素敵なにおいが充満し、ライダーやその友人たちの賑やかな声がこだますることもない。勝利を祝うこともなければ悔し涙に溺れることもない。

すまない。少々懐かしさに浸りすぎてしまった。話がそれるにもほどがある。私が言いたかったのはこういうことだ。ヨーロッパ域外でのレース結果だけを観ていても間違うことがある。つまりヘレスこそが真の様相を判断するのにふさわしいレースだということだ。

しかし今年は違う。日曜のMotoGPはアリスが兎を追いかけて入り込んでしまった不思議の国さながらだったのである。論理をナンセンスが覆い隠し、そして希望が塵と消えたライダーが何人もいた。

レースというものはたいてい物理の法則に従って仕事をしている賢い人々がコントロールする論理的なものである。MotoGPのレースが終わるごとにエンジニアが短時間で教えてくれる。だからホンダは強かったとか、ここでヤマハが弱かったとか、そういった話だ。

しかし今回はそういうことにはならなかった。日曜の夕方、私は史上最も奇妙なレースとなったその理由を求めてピット裏をうろついてみた。しかし私が話をした(つまり立ち止まって私に話をしてくれた)エンジニアのだれ一人として今回の決勝を論理的に説明できなかったのである。

本当に奇妙なレースだった。去年1−2を飾ったワークスヤマハはどいこかに消えてしまった。そして去年は存在感のなかったワークスホンダが1−2を飾ったのだ。そしてドゥカティと言えば、例年ならここヘレスでひどい目に合っているのに今年は表彰台に上がっている。その立役者のロレンソの笑顔は彼のキャリアの中でも最もこぼれるような、そんな笑顔だった。ドゥカティがドライのヘレスでここまでの結果を出せたのは2009年まで遡る。ケイシー・ストーナー時代の話だ。

モンスター・テック3ヤマハのヨハン・ザルコのチーフメカ、かのギ・クーロンなら秘密を知っていると思うだろう。しかし彼ですらなぜ自分の所のライダーがワークスヤマハより速かったのかはっきりとは説明できないのだ。

「説明不能ですよ」とクーロンは肩をすくめて言った。その様子はなんだかアルベルト・アインシュタインが2+2の答えがわからないと告白しているようだった。「タイヤかもしれませんけど。ヨハンもヨナス(フォルガー)もフロントはミディアムだったんです。でも他のヤマハはハードでしたから。でもフレームの違い(テック3は2015/2016型、ワークスは2017年型)が原因だとは思いませんね。ディメンジョンはかなり似てるんであんまり違いを生み出さないと思うんですよ」

カル・クラッチローのLCRのチーフメカ、クリスチャン・ブーギニョンも頭をぐらぐらさせている。「普通ならヤマハのコースなのにホンダが牛耳った理由?ちゃんとした答えなんてないですよ。ウォームアップではマーヴェリック・ヴィニャーレスがすごく速くて、彼を負かすのはかなりきついなってみんな思ったのに、レースでは苦労していましたしね」

とは言えブーギニョンには2つほど思い当たる理由があるようだ。「ここは観客が凄く多いんでコースに塵がたくさんあるって言う人もいますけど、私はそれはないと思いますよ。私が考える理由は、距離の短いサーキットだとよくあることなんですけど、Moto2レースでもラップ数が多いんで、どのコーナーでもラバーの層ができてしまう。それでグリップが失われるんです。もう一つの理由は路面温度ですね。プラクティスや予選と比べてかなり高かったんです」

レース序盤でRC213Vに乗るダニ・ペドロサとマルク・マルケスの2人が遙か前方に消えてしまった一方でヴィニャーレスは自分のマシンのフロントグリップを全く感じられず、チームメイトのヴァレンティーノ・ロッシは左コーナーでのリアのトラクション不足に苦しんでいた。

つまりヘレスの謎は謎ではなかったということだ。MotoGPが陥ったのは兎の穴ではなくゴムの罠だったのだ。

ヘレスはいつだって普通ではないサーキットだったし、そして路面温度で全く違うコースに様変わりしていたのだ。ライダーが冬にテストで訪れるとそれまでのラップタイムをぶち破り、そして夏に戻ってきた彼らはこないだの自分のタイムに及ぶべく無駄な努力を積み重ねることになる。

MotoGPのレース中のレコードタイムはいまだに2015年にホルヘ・ロレンソがブリヂストンで記録したものだ。このときのレースタイムはこの日曜のペドロサのタイムより29秒も速く、去年のロッシより31秒も短かった。しかし2年前の路面温度は今年より11度も低かったのである。

日曜、多くのライダーがフロントにはハード、リアには左右非対称のミディアムを選択していた。ペドロサ、ロッシ、ヴィニャーレスといったライダーだ。その中で、なぜかペドロサのRCVはリアのグリップをきちんと引き出すことができ、一方のロッシは左コーナーで「転ばなかったのは運が良かったからだ」というほどのホイールスピンに悩まされている。

そしてリアタイヤの選択に関してはロッシの仲間は一人もいなかった。ハード側は硬すぎで、ミディアムのはずの左側も硬すぎだったのだ。しかしソフトはソフト過ぎだった。彼のスタッフはシャーシバランスやトラクションコントロールの組み合わせで問題を少しでも軽くしようと努力はしなた、しかし今回ばかりはさすがのロッシも手品のように帽子から兎を引っ張り出すことはできなかったのである。それがアリスの不思議の国で起こっていたことだ。ロッシは深刻な状況に置かれているということだ。

ヴィニャーレスの決勝レースはさらにわけのわからないものだった。彼はウォームアップではトップタイムを出せたのにフロントのグリップ不足のせいで蚊帳の外に追いやられてしまったのだ。

「フロントの感触が全然なかったんです」と彼は言う。「普段ならヤマハは高速コーナーで速いのに、11コーナー(高速右の最後から3つめとなるアレックス・クリヴィーレコーナー)ではクラッシュしそうになってました」

何が起こっていたのだろうか?ヘレスは路面温度で様変わりするということは既に記したが、それ以上のことが日曜に起こっていたのだ。

レースタイヤというものはサーキットによって、そして日によって発揮できるパフォーマンスが変わってしまうものだが、ミシュランはその傾向が強いどころの話ではないのだ。ロッシが日曜の夕方に話していたとおり、「違うサーキットに行けば違う展開になる状況」なのである。

エンジニアにとっては悪夢である。そしてタイヤパフォーマンスは安定していてほしいと考えるライダーにとっても悪夢である。コースが変わる度にエンジニアは新たなマシンのセッティングを創り出し、ライダーは新たなライディングテクニックを発明しなおさなければならないのだ。

「ミシュランだと毎週乗り切るのがたいへんなんですよ」とアンドレア・ドヴィツィオーゾは言っている。「毎週違うんですよ。状況が一定したことがない。だから毎回頭を使って状況をコントロールしないといけないんです。去年に比べればだいぶマシになってますけど基本的な性格ってのはそのままですからね。週末のたびにうまく合わせこんで、何が起こってるのか理解しなきゃならない。簡単じゃないですけど、みんな同じ目に合ってるわけですから」

しかしそれはどういうことなのだろうか?安定性のなさ、予想のしにくさのおかげで良いレースが実現している。もしひとつかふたつのチームだけが他のチームよりうまくタイヤに合わせることができたとしたら、去年9人もの優勝者が誕生することはなかっただろう。タイヤが替わり続け、マシンが変わり続け、ライダーも自分を変え続け、おかげで結果も変わり続ける。

今年のミシュランはマシになったが、ある程度不安定であることがレースの面白さに貢献しているのは変わりはない。ライダーもチームも素早く決断し、現下の状況に対応しなければならない。レースが素晴らしい結果に終わっても、気持ち良く荷物をまとめるというわけにはいかないのだ。次のレースになったら一からやり直しだということをよくわかっているからだ。

大事なのは皆同じタイヤを使っているという事実を忘れないことだ。セッティングをピンポイントで決めないと最高のパフォーマンスは発揮できないかもしれないが、どのチームもそのセッティングを見つけることが可能なのである。今週はあるチームがそのセッティングを見つけて、次の週は別のチームがうまくセッティングを出す。これはファンにとっては素晴らしいことだ。エンジニアとライダーは決して気を抜くことはできないし、そしてファンも結果を予想することができないのである。
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そしてエンジニアは兎のように「時間がない時間がない時間がない」ってなるんですよ。

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コメント

本当に不思議でしたよね。
ロッシやマーベリックは、本来タイヤや路面状況をいとわない選手な筈ですから。
クリスチャン・ブーギニョン氏の指摘通りだと思います。
あと今年型のM1は、ちょっと外的要因に影響されやすいマシンなのかな?なんて感じました。
もしくは、ファクトリーのエンジニアが結果的に何か誤った設定等をしてしまったとか。

対照的に路面状況に左右されやすいドカのホルヘが、今回は文句の一つも出ませんでした。
こりゃ、苦手な雨でもけっこう行けるかもw

しかし、相対的にいかなる状況でも安定して結果を出してくる人。
Mマルケスの足音が今年も大きくなってきたような気がします。

投稿: motobeatle | 2017/05/12 08:52

>motobeatleさん
 今年のワークスヤマハのだめっぷりは、あのハリスフレームを借りちゃったころを思い出させますよね。それはそれで楽しいですが。
 そして、あれですよ、その後ろから足音もなくダニがぶち抜いていくんですよ、ポイント的にも!

投稿: とみなが | 2017/05/13 14:13

今年のワークスヤマハのだめっぷりは、あのハリスフレームを借りちゃったころを思い出させますよね。それはそれで楽しいですが。

⇒どうして、そういう感想になるんでしょう?
 今回の問題はミシュランが持ち込んだタイヤが温度に
 対してピーキーすぎたということですよね。
 ヤマハだけじゃなくスズキもまったく同じ状態に
 陥ってましたし、ホンダワークスは事前テストを
 ここで行っているので、それを避けるセッティングが
 できただけ。
 実際、ビニャーレスはヘレスの事後テストで
 決勝と同じコンディションでトップタイムですよ。
 タイヤの温度上昇に問題があるとわかればちゃんと
 対処してきます。
 むしろ、ワンメイクサプライヤーなのに
 そんだけ温度にピーキーなタイヤを持ってくる
 ミシュランに疑問を呈しますが。

投稿: ブラインドカーブ | 2017/05/16 08:49

>ブラインドカーブさん
 えー、だめですかー(´・ω・`)。

 マジレスすると、ピーキーさに対応できない可能性もあって、そのあたり昨年型フレームの方が懐が深い可能性もあるかなーって思わないでもないんですよ。
 今後の状況を見ながら、ですね。

投稿: とみなが | 2017/05/17 21:59

ほら、ルマンの予選はヤマハ1-2になったでしょ。

ピーキーさに対応できないのは
どのメーカーも一緒なんですよ。
それがガラガラポンを回して宝くじ的に
当たったチームが勝ちみたいなのが、今年のタイヤなんすよ。
おまけに路面温度が上がるとさらにマッチングが
変化するって状態で、もう全力で速さを競うより
タイヤを大事にゆっくる走ったもんが勝つみたいな
レースになりつつある。

投稿: ブラインドカーブ | 2017/05/21 13:02

>ブラインドカーブさん
 今回は路面温度が比較的低かったのもあって態度は保留〜って思ってたんですけど、またタイヤ変わるんですよね…。

投稿: とみなが | 2017/05/22 20:13

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