« MotoGPのウィリー制御はどのように機能しているのか | トップページ | MotoGPのローンチコントロールはどのように機能しているのか »

MotoGPのエンジンブレーキ制御はどのように機能しているのか

Mat Oxley氏による電子制御解説の3回目はエンブレ制御です。Motor Sport Magazineより。
============
ハイパフォーマンスなMotoGPエンジンは過剰なバックトルクも生み出している。これを調整するのがエンジンブレーキ制御の役割だ。このシステムはバックトルクをどの程度リアホイールに伝えるかを決めているのだ。

もし990cc時代の初頭からMotoGPを観ているのならライダーがハードブレーキングでリアホイールを左右にうねらせながらコーナーに飛び込んでいくのを楽しく眺めたことを覚えているだろう。

エンブレ制御システムの黎明期の話だ。ハードウェアもソフトウェアも未熟で過剰なバックトルクをうまく削ることができなかった。その結果エンジンがリアホイールをロックさせたのだ。ライダーはそれに対応するために全力を尽くしていた。

その後数年でエンブレ制御ソフトが劇的に進化している。そもそもリアを左右にホッピングさせながら横向きでコーナーに入っていくのは最速のやり方ではないからだ。見応えがあったのは確かだが。どんなライダーでもコーナーに向けて減速するために多少のエンブレを必要としている。しかしどれくらいエンブレに依存しているかは完全に個人のライディングスタイルの差によって異なっている。ホルヘ・ロレンソは前後のホイールが完全にライン上にあるのが好みだが、一方でマルク・マルケスのようにリアホイールが1インチくらいラインの外側にある方が曲がりやすいというライダーもいる。しかし過剰なエンブレを要求するようなライディングスタイルのライダーなどいないのである。

エンブレ制御はシリンダー内の燃料をカットすると共にスロットルバタフライを動かしてライダーが要求する丁度良いバックトルクを生み出している。メーカー独自ソフトウェアの時代にはソフトウェアは実に精緻でひとつひとつのスロットルバタフライをコントロールしていた。しかしドルナ供給のマニエッティ・マレリ製統一ソフトウェアは基本的なことしかできないようになっている。

エンブレ制御にとって最も厳しかったのは2年ほど前だ。MotoGPのレギュレーションで使用できるガソリンの量が馬鹿馬鹿しいほど少ない20Lに制限されていた時代のことである。マシンをゴールさせるためにエンジニアはあらゆる場面で燃料を節約しなければならなかった。馬力を削るわけにはいかない。となればコーナー進入時に燃料を節約することになるのは必然だった。

最後の一滴までも節約しようという涙ぐましい努力の結果、ほとんどのシリンダーに対してガソリン供給がカットされ、その結果リアホイールは突然ロックしライダーを地面に叩きつけることになった。多くのマシンがスクラップと化し、折れた骨も数知れない。それもこれも燃料を数cc節約するためだった。去年のMotoGPの燃料制限は24Lまで緩和された。その結果エンジニアはこれまでほど燃費を気にする必要がなくなっている。

Motor_sport_blog_3_january_2017_e_2

上図は例によってMotoGPマシンのライダー支援システムの気狂いじみた七色の線である。これが示しているのは(誰だかはわからないが)ライダーがヘレスの5コーナー(シト・ポンスコーナー)に進入している様子だ。ラップ開始後30秒のところに引かれた縦の点線はライダーがブレーキをかけ始める瞬間で同時に3速にシフトダウンしている。ここで電子制御ユニットはエンブレモードに入り、マシンの減速にもエンジンを役立てている。

これまでと同様、このカラフルでのたくった線に惑わされないようにしよう。図中に記載した数字に合わせて下の解説をお読みいただけば理解していただけるだろう。

(1)最上段:赤い線はスロットル開度。青い線はギアポジション

ライダーはスロットルを閉じシフトダウンしているのを感知してシステムがエンブレモードに入る。


(2)2段目:白い線は回転数。緑の線はマシンのリーンアングル

ライダーが4速から3速にシフトダウンすると回転数が上がり、一方で左の4コーナーから立ち上がり5コーナーに向けてのブレーキングに向けてマシンは起きていく。


(3)3段目:赤と青の線はリアの荷重。赤い点線は荷重ゼロ

ライダーがフロントブレーキに10kg重/平方センチ(1,000kPa)の圧力をかけマシンはフロントタイヤ方面に傾き、リアタイヤの荷重が劇的に減少する。リアタイヤにかかる荷重は使えるグリップの多い差を意味しており、これに合わせてエンブレ制御システムがマシン減速のためにどこまでエンブレをかけるのかを決める。

リア荷重の線が2種類あるのはそれぞれ異なる方法で測定されているからだ。ほとんどのエンジニアは大きい方を採用している。この場合は最小で30kg程度だ。他の全てのことと同様にどこまでリアに荷重を掛けたいかはライダーによって異なっている。例えばマルケスのようにホイールが浮くようなブレーキングテクニックであれば荷重はブレーキング中のある時点でゼロまで減少する。


(4)3段目:黄色い線はフロントブレーキにかかる圧力。緑の線はリアブレーキにかかる圧力

こbのライダーはかなり強くフロントブレーキをかけている一方リアブレーキは徐々に強くしている。線が細かく震えているのは振動のせいだ。このため電子制御エンジニアはそれぞれの線について平均をとったよりスムーズな曲線を使用することになる。このライダーはマシンがフルバンクに達してもフロントブレーキを使っているのが興味深い。


(5)最下段:白い線はエンブレモード

白い線は、システムがエンブレ制御モードに入った後にライダーがスロットルを開け始めるとモードが終了していることを表示している。


(6)最下段:赤い線と緑の線はそれぞれのスロットルボディのバタフライ開度

ライダーが完全にスロットルを閉じるとどちらのスロットルボディもバタフライが閉じてリアホイールへの荷重を初めとする数値から導き出されたバックトルクを生み出す。ライダーはスロットルを完全に閉じてはいるがどちらのスロットルボディのバタフライも完全には閉じていない。こうやってリアホイールを回し続けることで完全にロックするのを防いでいるのだ。ブレーキングが緩くなってリアホイールにかかる荷重が増えればさらにバタフライは閉じていき、エンブレモードの最終段階ではほぼ完全に閉じられることになる。こうした制御はすべてライダーの好みに応じてセッティングを施される。マルケスのホンダのスロットルボディはおそらくロレンソのヤマハより閉じているだろう。マルケスがバックトルクを積極的に使うためであるが、これはMoto2(エンブレ制御がない)で学んだことだろう。一方ロレンソはホイールが抵抗なく回るのが好みなのだが、これは彼が2スト250に乗っていたときのやり方である。


(7)最下段:赤いセント緑の線はスロットルボディ開度。黄色、青、オレンジ、紫は各シリンダーの燃焼効率

エンブレモードの間、4本の線の内3本はフルバンクに達するまで同じ波形である(各シリンダーの空燃比から計算した燃焼効率)。別の言い方をするならこの3つのシリンダーには燃料が供給されておらず燃焼していないということである。つまりエンジンはほぼ停止してバックトルクを生み出しているということだ。一つのシリンダーは燃焼を続けリアホイールがロックするのを防いでいる。しかしこのシリンダーの燃焼はリアホイールの加重が増えるにつれてさらなるエンブレを生み出すため薄く(弱く)なっていく。ライダーがスロットルをひねり始めると「死んでいた」3本のシリンダーは順番に目を醒ましていく。3本同時に目を醒ますとリアタイヤへのトルクが一気に増えすぎるためである。


ブラッドリー・スミスがエンブレ制御について語る

統一ソフトウェア導入前はあらゆる変数をいじれたんです。4つのバタフライを別々にセッティングできたんで、6速から2速までそれぞれのシフトダウンについて個々のバタフライをひとついひとつどう閉じるか設定できたんです。統一ソフトウェアだと2個1セットでバタフライを動かさなきゃならない。それにいじれる数字もかなり簡略になっている。だからマシンのエンブレ制御は前ほど精密ではなくなってます。まあ他のすべてと同じ感じですね。前よりライダーがマシンをコントロールしなきゃならないんです。

グラフ作成:ダン・ヒリャール
============
私は割とエンブレに頼る派でしたね。コーナー進入で駆動が切れるのって怖かったので…。

|

« MotoGPのウィリー制御はどのように機能しているのか | トップページ | MotoGPのローンチコントロールはどのように機能しているのか »

コメント

確かに、あのマルケスの走りだとエンブレが効こうとも意に介さない感じですよね。
一方で「Mrスムーズ」の異名を取るロレンソにはよろしくないかと。
そういえば、この共通ソフトは参加メーカーの意見を募りアップデートされていくものだったと思いますけど、今年のものはどうなったのか?気になるところです。

投稿: motobeatle | 2017/03/20 09:02

>motobeatleさん
 そういう意味ではロレンソの走りって電子制御に頼る部分もあったのかもですね。それがドゥカティに行ってどうなるか楽しみでもあり不安でもあり。

投稿: とみなが | 2017/03/20 13:38

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/69409/65035791

この記事へのトラックバック一覧です: MotoGPのエンジンブレーキ制御はどのように機能しているのか:

« MotoGPのウィリー制御はどのように機能しているのか | トップページ | MotoGPのローンチコントロールはどのように機能しているのか »