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MotoGPのトラクションコントロールはどのように機能しているのか?

昨年の記事なんですが、なかなか興味深い内容ですので訳出。全4回にわたって電子制御をMat Oxley氏が解説してくれてます。Motor Sport Magazineより。
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現代バイクレースの最大の謎のひとつ:どのようにトラクションコントロールは機能しているのだろうか。MotoGPに電子制御を供給するマニエッティ・マレリ社の協力を得ながら解説していこう。

昨シーズンまではMotoGPにおける電子的ライダー支援システムがどのように機能しているかは謎だった。メーカーがトップシークレット扱いとしていたからだ。しかし2016年からは統一ソフトウェアが導入されたおかげでその状況は一変することとなる。

この夏、私はマニエッティ・マレリのトラックを訪問しMotoGPにおけるトラクションコントロールやウィリー制御、エンジンブレーキ制御、そしてスタート制御がどのように機能しているかを理解するためにいくつかのデータを見せてもらった。マニエッティ・マレリのヴィンチェント・ペチュアン−ヴィラーとマウリツィオ・スリニャーリの二人が快く手伝ってくれたのだが、私は次から次へと素人臭い質問をして何時間も彼らの仕事の邪魔をしたので、その気持ちも消え失せてしまったかもしれない。

マニエッティの次はライダーの視点から見る必要があった。私が選んだのはブラッドリー・スミスだ。彼が英語を話せるというのも理由の一つだが、何より彼は自分の考えを整理して話すことが得意な、しかもそれに時間をかけることを厭わない数少ないライダーだからだ。

今回がこれら数週間にわたって連載する記事の一本目となる。一連の記事で各種のライダー支援システムがどのように機能しているかについて基礎的事項を解説する予定だ。こうした知識があればMotoGPをさらに楽しく観戦できるだろうと願っている。

下のグラフの(クリックで拡大)のたくった7色の線にパニックをおこさないでほしい。図中の数字と記事の数字を参照するだけで、その他のことは今のところ無視して構わない。それだけでも全てを理解できるはずだ。またこの図は実際に2016年のヘレスGPでのアタックラップを行った際のマニエッティ・マレリのデータだが、そのライダーが誰なのか、どのマシンなのかは教えてもらっていない。それはトップシークレットなのだ。

MotoGPの統一ソフトウェアについてまず最初に理解しておかなければならないのは2015年までのワークス電子制御と比べると遥かにローテクなものだということだ。ドルナの計画では電子制御にかかるコストを削減すると共にパフォーマンスを上げる効果も減らしたいのである。

そんなわけで以前と比べてライダーがバイクを操る部分が増えているのだ。スミスはこんな風に説明してくれた。「今では前よりたくさんのことをしなければならないですね。トラクションコントロールを使っていたときよりもスロットルでエンジンを抑えていかなければならなくなってます。統一ソフトウェアになるまでは電子制御の言うとおりにスロットルを開け閉めしてんたんですよ。自分にやらせてよ!って感じでしたね。今はちゃんとリアタイヤとつながっている感じがします。いいことですよ。電子制御ってのは安全のためのもので、そんなにパフォーマンスにかかわっちゃだめなんです」

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Jerez


ではグラフを読み取っていこう。これはヘレスの5コーナー、別名シト・ポンスコーナーだ。下りの中速右コーナーでバックストレッチにつながっている。このグラフの範囲はコースマップの黄色い部分をカバーしており、縦に引かれた点線は3速に入れた直後にやってくる130km/hのクリッピングに位置している。つまりライダーはスロットルを開けつつありホイールスピンが始まっている状態だ。次いで4速、5速とシフトアップし、ストレートを加速している。


(1)セクションA(1段目):緑の線はスロットル開度をパーセントで表示。水平の赤い点線が100%

 このライダーは段階的にスロットルを開けている:ガスをエンジンに送り込みながらリアタイヤのスピンを感じつつゆっくりと2〜10%程度ずつスロットルを開ける。タイヤがグリップを取り戻すとさらにスロットルを開け、再びゆっくりとスロットルを開ける。この繰り返しだ。去年のように進化したワークス製トラクションコントロールであればこのようなことをする必要はなかったのだが、今年はすべて自分でやっている。


(2)セクションB(2段目):赤い線は介入予定のスピン状況。黄色い線は現状のスピン。セクションCの白い線がリーンアングル

マシンがフルバンクから立ち上がっていくあたりではスピンが少なくても電子制御が介入するように設定されている:0〜2%(車体の速度より)速いあたりに設定されているが、これはライダーのパフォーマンスによって異なる。ライダーがマシンをコーナー脱出に向けて加速していくとスピンが多くならないと介入しない設定となってくる。これはリアタイヤもライダーもより多くのスピンに対応できるためである。ほとんどのライダーはコーナー出口でのトラクションコントロールの介入を12〜15%増(リアホイールの回転数が実際の車体の速度から予想されるより多い)あたりに設定している。


(3)セクションB(2段目):赤い線は介入予定のスピン状況。黄色い線は現状のスピン

リアホイールのスピンが一瞬突き出ている部分があるが、ここではライダーが思いきった加速をしてリアタイヤがライダーの想定以上にスピンしている。このような瞬間的変動にトラクションコントロールシステム(TCS)がどのように対応しているかは下記(5)(6)を参照されたい。


(4)セクションC(3段目):白い線はリーンアングル

瞬間的にホイールスピンが大きくなった結果、リーンアングルの回復が止まっているのに注目したい。スライド対応に対応するためにライダーはマシンを起こすのを一瞬だけやめているのだ。


(5)セクションD(4段目):白い線はライダーがスロットル開度に合わせて要求しているトルク。緑の線はTCSがスピンに合わせて供給しているトルク。赤い線はTCSが減らしたトルク

白い線はライダーがスロットルを通じて要求しているトルクであり、これが(3)で述べた瞬間的なスピンの増大を招いている。ここでTCSが緊急的に作動しリアタイヤにかかるトルクを減らしている。緑の線は白い線から赤い線を引いた分で、実際に供給されるトルクとなっている。ここでライダーはスロットルを閉じていないことに注目したい。既にマシンは起きておりTCSが助けてくれるのをわかっているからだ。TCSはいくつかの変数に基づき、スロットルバタフライを閉じる、点火を遅らせる、1つか複数のシリンダーの点火をカットするという3種類の方法の組み合わせでホイールスピンを減少させている。TCSが最も介入するのはリーンアングルが60〜40°の範囲にあるときだ。


(6)セクションD(5段目):白い線は一方のスロットルバタフライ。緑の線はもう一方のスロットルバタフライ

ライダーが4速にシフトアップし2秒後に5速に上げている。回転数はシフトアップに応じて僅かに下がっている。


ブラッドリー・スミスがTCSについて語る

「今年のTCSは去年より基本的な部分に限定されていて、デフォルト設定値や決められてしまっている変数が増えてるんです。ですからTCSをコーナー毎介入度合いを変えるといったピンポイントの設定ができなくなりましたね。例えば去年だったらスロットルの最初の開け始めのところでいろいろできたんです。TCSの介入を5m遅らせることでスロットルを開けた瞬間リアタイヤを軸にマシンを曲げたりできたんですよ。今のTCSではそういう細かい設定ができないんです。スロットル開度30%〜全開という前の段階でTCSがすごく良くできていたんでいろんな問題を解決できてたってことです。今はもし全開にして最大トルクを引き出したりしたら横滑りしてしまう。TCSはやりすぎたときにだけ介入して転倒から救ってくれるんです。だからこのグラフのスロットルの線を見ればわかるようにライダーがトルクを引き出して、タイヤがスピンして、そこでスロットルを保持して、グリップが戻ってきたことを感じたらまたスロットルを開けるとなってるんです。つまり今はライダーがコントロールしていて、自分の技量でやってるんです。だからTCSは主に安全のために機能していて、パフォーマンスのためじゃないんですね」

グラフ作成:ダン・ヒリャール
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スミスって、時々速いけど主に中盤のライダーなんですよ。その彼にして解説の中にあるようなスロットルコントロールをやってるんです。そしてグラフのライダーもものすごい細かい、でも瞬時の反応をしていて、まあ天上の戦いですなあ。

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コメント

元記事じっくり読んでたのですが、なにしろニュアンスがピンとこない部分が多くて困ってました。
コメント欄まで目を通してたんですけど、エレクトロニクス方面が困難な私めにはなかなか厳しくてですね・・・
なので翻訳ホントにありがたいです。感謝感激!

投稿: りゅ | 2017/03/18 19:15

ヤマハのエンジニアが、この共通ソフトを「10年前くらいのもの」と言ってましたが、かなり苦労したようですね。
他方、ライダー自身でコントロールする領域が増えるのは良いことなんでしょうね。
なんでも機械やコンピューターまかせでは良くない。
ただ、やはりホンダの中本さんも言ってましたけど「共通ソフトのを理解するのが大変」だったと。
これは良くないことだったと思います。
各チームに公平に与えられるソフトであれば仕組みや設定、動作条件など、ここでスミスが語っている事柄を十分に伝えられなければならなかった筈。
どうも、それがなかったように見受けられます。
おそらく各メーカーが共通ソフトを解析理解してマシンにマッチングさせる労力は多大なものだったろうし、そのコストも同様だったかもです。
勝手な想像ですけど、昨年のウィングレットをホンダが反対したというのは、もしかして仕返しだった!なんて考えるのは大袈裟ですかね?

投稿: motobeatle | 2017/03/19 00:17

>りゅさん
 今回は割と日本語を補足して翻訳してますね。結構考えながら訳してます!

投稿: とみなが | 2017/03/19 15:22

>motobeatleさん
 あー、ドゥカとマレリはきっとつながってましたよね。でもまあそれを跳ね返してタイトルを獲るんですからホンダも大したものですね。

投稿: とみなが | 2017/03/19 15:23

ドゥカティはマニエッティのエンジニアを
リクルートして、自チームのスタッフに
加えています。
実際、プログラム組んだ本人がいれば
ソフトの使いこなしで圧倒的に有利ですよね。
ソフトの構造、階層がどうなっているか
知っているんだから。

投稿: ブラインドカーブ | 2017/03/21 14:22

>ブランドカーブさん
ですよねー。いかにもイタリア的。それを日本メーカーがまさか、とか思うのなら、塩野七生をまず読めと…w。

投稿: とみなが | 2017/03/22 02:21

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