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深層探求:ブラッドリー・スミス、MotoGPの電子制御を語る(その1)

もてぎの感想とか書こうと思ってる内にこんな時期に!というわけで電子制御についてのMotoMatters.comの記事でも。スミス和尚が電子制御についてわかりやすく説明してくれてます。
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MotoGPの電子制御について語るとき、人は冷静ではいられないようだ。電子制御にはコストをこれまでになく押し上げたとかライダーからコントロールの権利を奪ってしまったといった非難が向けられている。だからこそドルナは統一電子制御システムを導入したわけだ。まずはマニエッティ・マレリ社製の電子制御ユニット、そしてこのユニットの下で機能する統一ソフトウェアだ。

電子制御の普及と統一ソフトウェアの導入はレースファンの間にもいささか混乱を引き起こしている。ソフトウェアには何ができるのか、ライダーはソフトウェアをどれくらいコントロールできるのか。そうしたことはMotoGPファンの眼にははっきりとはうつっていない。それどころか多くのメディアもよくわかっていないのである。

そのあたりをはっきりさせるために私はブルノでモンスター・テック3・ヤマハのライダー、ブラッドリー・スミスに20分間のインタビューを行い、電子制御とその使い方について説明してもらった。スミスは参戦ライダーの中でも最も知的なライダーの一人であり、複雑な話をわかりやすくシンプルに説明してくれるだろうと考えたのだ。2回に分けてお送りするインタビューの前半では、25歳の英国人スミスが彼のヤマハM1の電子制御がどんな役割を持っていて
、そして自分がどのようにそれをセッティングしているのかについて語ってくれている。

Q:まずはM1についているスイッチについて説明してもらえませんか?

スミス:じゃあ左手側から始めましょう。左側の一番上のボタンはローンチコントロールです。当たり前ですけどスタートの時しか使いません。赤ランプがダッシュで点滅しているのが、ローンチコントロールが機能しているサインです。ローンチコントロールは最初にスロットルを閉じた時点で自動的に停止します。だから1コーナーに入るときにスロットルを戻すまではストレートではずっと機能しているんです。それ以降は使いません。最初だけです。使うチャンスもないですし回転数を制限する必要もないですからね。

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基本的には回転数を制限しているんです。加速に必要なパワーのためのトルクの数値を決めて、それに合わせて回転数を設定します。それから1速と2速のマップに書き込むんです。3速に書き込むこともできますけど、そこまで必要なことは普通はないですね。ええ、1速で回転数を高めにするか低めにするか、2速についてはバタフライ(原注:バタフライバルブ:スロットルボディを通す空気の量を決定するパーツでスロットルと同じ機能)の方が重要で、そこでトルクを多くするか少なくするか決めている。例えばオーストリアは標高600mなんでパワーを多めにするんです。空気が薄いですからね。マレーシアみたいに暑いところでもパワーが出にくい。でもカタールみたいなところではむしろパワーを出ないように設定するんです。でないとウィリーがひどいことになりますから。


Q:1コーナーまでの距離が長すぎてローンチコントロールが邪魔になるってことはないんですか?

スミス:それはないですね。すぐにシフトアップしちゃいますから。だからすぐに2速に入るし、もっとパワーが必要だと感じたら3速に入れちゃえばいい。例えばムジェロでは1速から2速に入れて、今年は僕はいつもより早くに3速に入れてました。だからみんなを抜けたんです。みんな2速でがんばってましたけど、僕はすぐに3速に入れて、それでバタフライが全開になって、だから前に行けたんです。


Q:だからスタートで他のライダーを抜くことがよくあったんですか?

スミス:たいていのコースでは2速でひっぱるんでウィリーの可能性があるんです。だからスロットルコントロールとか体でバランスをとるとかリアブレーキをかけるとか、そういう対応をするんですけどね。


Q:今年は去年とどれくらい違うんですか?

スミス:ほんの少しですよ。基本的には去年僕らはフルスロットルでスタートできた。全開にしても何の心配もなかったんです。今年はいいバランスが見つからないんです。だからマシンをコントロールできるスロットルポジションにセットしてスタートです。でないとホイールスピンが凄いんですよ。そういう意味では去年より洗練度は低くなってますね。簡単に言うとそういうことです。


Q:自分ではクラッチはどれくらい使うんですか?

スミス:すごく使いますよ!すごく気を遣ってます。だからみんなスタートが違うんですよ。完全に自動化されてたらみんなが同じようなスタートになっちゃうでしょ。でももし丁度いい感じでできればすごくうまくいくんです。一番気を遣うのはパワーの出し方とウィリーのバランスですね。最初はそこが肝心です。クラッチを完全につないだらすぐ2速です。だからスタートから時速100マイル(160km)までは自分とクラッチが頼りだって言っていいと思います。


Q:クラッチのフィーリングはシームレスギアボックスの登場で変わりましたか?普通のものとシフトアップがシームレスになったものと、シフトダウンまでシームレスになったものでは違いはあるんでしょうか?

スミス:ないですね。2速や3速に入れるときにエンジンの点火カットが少ないってだけです。だから基本的には2速と3速の加速で差がつくだけですね。ウィリーしないで前に進むんです。加速が途切れないんですよ。


Q:1周目はどんな制御マップを使っているんですか?

スミス:コースコンディションとタイヤの保ちで決めるところですね。普通は予選用マップは使いません。もう1段階強めのTCS(訳注:トラクションコントロール)を使うんです。タイヤにも気を遣わなきゃならないですからね。最初の2〜3周で使い切るわけにはいきませんから。だからこのボタンがあるんです。ACCボタンとDECボタンなんですけど、ACCには3種類のマップ、DECにも3種類あります。どのマップを使っているかはダッシュに表示されます。ACCとDECがそれぞれ1なのか2なのか3なのか。ACCは加速で、DECは減速ですね。

Bradleysmithelectronics0011m

これがあればパワーもTCSも変えられます。だからホイールスピンを減らすためにパワーを減らしたいとか、逆にオーストリアみたいな場所やホイールスピンがおさまってパワーがほしいと思ったときに選択肢は2種類あるんです。タイヤが終わってしまって空転しているのでパワーをカットするのか、オーストリアのようにタイヤのサイドでだけ空転しているのかですね。そういうことならパワーは必要なんで、パワーは同じままTCSを効かせるんです。そうすればホイールスピンは減るし、でもちゃんと前には進むんですよ。


Q:でもそこまで自分でやることはできなくて、レース中は決まったマップを選択するだけですよね。つまりどのタイミングでマップを変更すればいいのか判断するのが仕事ってことになるんですか?

スミス:基本的にはピットではチームと話し合いながら、「OK、スイッチ1はこんな感じで2はこんな感じ、3はこうして」って決めて、それに何を指示したのかを覚えてないといけないんですけどね。だからライディング中は僕が決めることになりますよ。今スイッチ2にしようとか、3にするなら今だなとかね。

レースによってはそこまでじゃないこともありますけど、スイッチ4が欲しいってこともありますね。左右だけじゃなくてセンターも摩耗しますしね。オーストリアでもたぶん最後の5周くらいでACCもDECも3版まで使い切っちゃったんですよ。タイヤがたれるときって、普通は1段階だけ下がるかんじなんですけど、1段大きくたれたあとにまた1段大きくたれることがあるんです。最初からスイッチ1が使えないこともありますしね。Moto2が走ったせいや暑さのせいでコースコンディションが変わっちゃうと、スタート前にスイッチ2にしちゃうこともあるんです。ピットアウトして走って気がついて、うう、スイッチ2にしなきゃってなるんです。そうなると残りはスイッチ3しかない。かなり辛い状況ですね。

だからスタッフと一緒にどれだけやったかが重要なんです。あと何を重視するかもすごく大事ですね。タイヤの保ちを重視すべきだと言われたりパフォーマンス重視でいくべきだと言われたりね。何がどう関連してどんなグリップになるかによるんですよ。


Q:加速マップと減速マップを同時にスイッチすることもあるんですか?

スミス:レースではありますね。でも予選やプラクティスではないですよ。予選やプラクティスでは一つずつ試すんです。基本的にすごく広い範囲の選択肢があって、それを狭めていく必要がありますからね。

だから最初はいろいろな可能性があって、まずは減速を決めてしまおうとか、加速を試してみようとかやるんです。で、それぞれがまた枝分かれしていく。でもひとつの方向でだめで、こっちもだめで、あっちもだめでってやっていけばひとつの道が見えてくるんです。そうすればもしタイヤがたれてきても、ああしようとかこうしようとかできるんですよ。

でも同時にどういう場面でタイヤが機能しないかも大事なんです。コースによってはエンブレでは全然問題ないとか、コーナー進入では問題ないとか、レース最後まで保っちゃったりとか、全然問題ないこともあるんです。でも別のサーキットではすぐにタイヤがだめになることもある。またオーストリアの例を出しますけど、あそこでは加速と減速が同時にだめになった。実際には加速側より減速側の方がさきにきたんです。コーナー進入でロックしやすいんです。6速から1速に減速するコーナーがあるんですよ。バックトルクも大きいし、それで減速側にダメージが来た。でそのあと加速側がだめになりました。でもそういうことはコースによりけりなんです。同時にスイッチを変えなきゃならないこともあるし、全然違うタイミングということもあるんです。


Q:あらかじめ何周目にマップを変えるか戦略を立ててるんですか?それともその時の感覚で?

スミス:感覚ですね。フィリップアイランドみたいにとにかく前に出たいんで最初からフルパワーで行きたいコースもありますよ。そうすれば後ろからついて行かないで済む。フィリップアイランドみたいにグリップのいいコースだと、安全側のスイッチでいくと最初の5周で置いて行かれて3つとか4つとかポジションを下げることになるんです。

だから戦略を立てることもありますよ。タイヤが多少たれてもいいからまずはフルパワーでいくとかね。そうすれば前の4人とかについていけますらね。そうしないと後ろの4人に抜かれてしまう。前に出ようとがんばるんじゃなくて、前にいて後ろのライダーをコントロールするんです。抜いていくんじゃなくて、後ろにライダーを従えて前を走る方が好きなんですよ。攻撃するより守りのレースの方が僕には向いているんです。アタックするってことは限界を超えなきゃいけないけど、守るのは自分のコントロールの範囲内でできる。冷静さを保っていればね。


Q:攻撃より守りの方が好きだというのは生まれついてのものなんですか?マルケスなんかは逆に見えますけど。マルケスは攻撃が好きで、ロレンソは守りが好きなんでしょうか?

スミス:マシンの差だと思いますよ。ヤマハは他のメーカーのマシン、ホンダとかドゥカティとかにアタックをかけるのが得意じゃないんです。僕がスコット(レディング)の後ろを走っていたときも、すぐに同じことに気付きました。抜くのが難しいんです。こっちが近づける場所で、相手はブレーキングをする。そうなるとこっちの優位性が発揮できないんです。全然強さが出せないんですよ。

ホンダはとにかくあちこちでインを差してくる。で、なんとかコーナーを立ち上がれるんです。左でも右でも真ん中からでもやってくる。その時ヤマハは、なんていうか、限界ぎりぎりなんです。だから前にいたいんですよ。それでブレーキを早めにリリースしてコーナーに飛び込んでいきたい。そうやって差をつけたい。マルクとかを相手にブレーキングで勝つとか考えたくないですよ。だからライダーの性格じゃなくてマシンの問題でしょうね。
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勉強になる!!

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コメント

ブラッドリー先生、とみなが先生ありがとう!

投稿: りゅ | 2016/11/04 12:45

現代の電子制御のGPマシンの実態が分かる貴重な記事だと思います。
これは永久保存版じゃないでしょうか?w
にしても、非常に複雑ですね。一度読んだくらいでは全てを理解するのは難しいし、それはマシンに乗り込み操作するライダーも同様かと。
疲労が増すにつれて思考力が落ち操作するべきところで、それが出来ないミスなども発生してくるのではないかと想像しました。
そしてチームスタッフの能力。
昔のキャブのスペシャリストどころの騒ぎじゃないですね。

もはや良い車体とエンジン&良いタイヤ。
それを優れたライダーが操れば勝てるというわけではないということですね。
しかし、あまり複雑になり過ぎると何か違うな!と正直感じます。

PSマルケス、チャンピオン獲得おめでとう!
まさかモテギで決まるとは思ってなかったけど、痛快でもありました。
これぞモータースポーツ!
モテギで本当は勝てたんじゃないの?と思っていたドヴィさんも遂に勝ちました!これでおおいに覚醒してくれると良いんですが。
今年も、残り一戦!ファイト!もう一発!!w

投稿: motobeatle | 2016/11/04 17:13

>りゅさん
ほんとにスミスの解説、うまいですねぇ。

投稿: とみなが | 2016/11/13 18:02

>motobeatleさん
意外とライダーの関与するところが多い上に複雑なのがおもしろかったですね。そして最終戦になってしまいました。あぁ。

投稿: とみなが | 2016/11/13 18:03

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