« 2016年10月 | トップページ | 2016年12月 »

勇気の人、カルクラッチロー

はぁ、なんだか今シーズンはいつの間にか終わっちゃった気がしてぼーっとしてますが、そんな中でも私の大好きなPECINO GPがカル・クラッチローについて書いています。

いいぞ。
============
彼のことが好きか嫌いかはさておき、彼のジョークを面白いと思うかつまらないと思うかはさておき、ファンかどうかはさておき、カル・クラッチローがMotoGPで最も心の強いライダーであることは間違いない。

そうは見えないかもしれないがMotoGPライダーも「普通の」人間だ。血と肉でできている。いつも目にする派手なクラッシュで地面にたたきつけられれば、彼らの筋肉も骨もあなたや私と同じように傷つくのである。しかもそうしたクラッシュが起こるのはジャンボジェットでも離陸するようなスピードだったりするのだ。しかもライダーは空に舞い上がったあとには地面に落ちてくるのである。

ちょっと想像してみよう。椅子に座って目を閉じてほしい。その椅子から26回振り落とされるしたらどうだろう。しかも毎回、1回目も2回目も3回目も4回目も5回目も6回目も7回目も8回目も9回目も、落とされる度に立ち上がって、また椅子に腰掛け、また落とされる。それが26回も続くのだ。うんざりするような話だ。

26回。それが2016年の18レースでカル・クラッチローが地面にたたきつけられた回数だ。LCRに所属するイギリス人ライダーの彼は、2016年の最多クラッシュというタイトルを手にすることになった。2015年年の倍以上の回数マシンから投げ出されているのだ。2011年にMotoGPに参戦して以降のシーズンあたりのクラッシュ数は12回、14回、14回、10回、12回…、そして今年の26回だ。

これほどまでに転倒した原因はなんだろうか?私は複数の要因がからんでいると考えている。まずはマシン自体の難しさだ。2016年のクラッシュの殿堂にホンダのライダーが3人も入っているのは偶然ではあり得ない。クラッチロー、ジャック・ミラー、マルク・マルケスだ。クラッチローの26回に加えてミラーが25回、そしてチャンピオンを獲ったマルケスでさえ17回も転倒しているのである。2015年の4倍以上の転倒だ。それでさえマルケスにとっては転倒の多い年だったのだ。

2016年型RCVは誰にとっても乗りにくいマシンだった。クラッチロー、ミラー、マルケスの転倒回数がそれを物語っている。ペドロサとラバトにとっても辛いシーズンだった。カルについて言えばそれだけの転倒にさえ屈することはなかった。彼はあきらめることなく前に進み続けた。10回、15回、20回と転倒を重ねるそのどこかで「もうたくさんだ!」と言っても良かったのに、クラッチローはリングにタオルを投げ入れることをよしとしなかったのである。

狂ってる?鈍感なだけ?全く違う。彼には根性があるのだ。そして何より勇気があるのだ。誰よりも肝っ玉が据わっているのである。MotoGPで最もテクニックのあるライダーがペドロサで、最も揺るがない決意を持っているのがマルケスで、最も緻密なのがロレンソで、最も頭のいいのがロッシで、きっとそれは誰もが認めるところだろうが、クラッチローが最も勇気があるライダーだというも異論はなかろう。彼に2度の勝利をもたらし、ホンダにとってのマルケス、ペドロサに並ぶ第3の男にまでのし上がることができたのも、その揺るがない気持ちがあるからこそだ。

もうひとつだけ想像してみてほしい。そうすれば2016年がライダーにとってどんなシーズンで、どれほど辛いものだったわかるだろう。2016年は9人のライダーが優勝しているが、彼らの転倒回数をライダーのアルファベット順に見ていこう。クラッチロー26回、ドヴィツィオーゾ6回、イアンノーネ13回、ロレンソ11回(2015年は3回しか転んでいない)、マルケス17回、ミラー25回、ペドロサ10回(彼も2015年は3回だけだ)ロッシ4回、ヴィニャーレス5回。

数字には心が通っていないかもしれないが、それでもまざまざと現実を見せつけてくれることもあるのだ。
============
ううう、椅子から落ちるって大したことないと思います?だったら座ろうとした椅子を意地悪に引かれてお尻からおっこちるのを26回やってみましょうか…。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

独占インタビュー:HRCのトップ、中本修平氏がMotoGPの8年間を語る

今年で定年退職となるHRCの中本副社長へのインタビューです。海外メディアには「金に飽かせて勝ちまくるホンダの象徴」くらいにも見られているのですが、どんなインタビューなんでしょうか。Bike Sport Newsより。============
ヴァレンシアGP。HRCの副社長、中本修平は彼の最後のMotoGPレースに立ち会っていた。彼は今年限りで8年間君臨したレース界から去っていくのだ。

彼の後任には3人の監督が着くことになる。それぞれひとつの分野のエキスパートだ。マーケティング担当の服部ナオキ、レーシングマネジャーで契約担当の桑田テツヒロ、テクニカルディレクターの国分信一の3人である。これはF1のテクニカルディレクターを7年間経験した後、2009年にレプソル・ホンダを率いることになった中本がどれほどの仕事をしてきたかの証左でもあろう。

先週の日曜が彼にとっての最後のMotoGPレースとなった。2017年4月までは彼は今の地位についていることになるが、モトクロスやダカールラリー、トライアルといった仕事が中心となる予定だ。そして60歳を機に引退することになる。それがホンダのルールなのだ。

私たちは彼にインタビューを行った。彼は自分が関わってきた年月に満足していると言っている。しかし日本人には珍しくMotoGPの現場から離れるのが残念だともはっきり言っている。中本はMotoGPに登場したその時からライガーやエンジニアやメディアが注目する人物だった。中本の下でホンダは2011年のケイシー・ストーナーを皮切りにマルク・マルケスが3回のタイトルを記録することになった。2016年は出だしこそ躓いたもののライダー、マニュファクチャラーの二つのタイトルを獲得しホンダの力を見せつけている。それだけではない。ホンダではどのメーカーより多い4人のライダーが勝っているのだ。

F1を離れてMotoGPに来たときにはどんなことを予想していたんですか?

「ホンダは最高峰クラスで様々な記録を打ち立ててきましたが、私が来たときにはそれほど強かったわけではありませんね。ニッキー・ヘイデンが2006年のチャンピオンになってましたけど、次の年はドゥカティがタイトルを獲って、次はヤマハだった。だから私の使命はホンダHRCチームをタイトルを狙えるレベルまでもっていくことだったんです。レースに勝つには3つの重要な要素があるんです。ライダーが一番大事で、あとはマシンとチームですね。つまりピットと日本ということです。勝てるようになるためにはその3つのどれも改善する必要がありました。そこで私はまずマシンと、そしてチームの組織改革に取り組んだんです。ライダーについては当時ダニ・ペドロサがいて、彼は速いライダーでしたし、マシンもエンジンはパワフルだった。でもブレーキングに関してはヤマハに負けてたんです」

その使命は果たされたとお考えですか?

「ええ。この8年間でタイトルも獲れましたし、今年はライダーとマニュファクチャラーの両方のタイトルを獲れましたから」

MotoGPに来てあなたはどんな風に変わりましたか?

「MotoGPは大都市とみたいなF1と比べると小さい村ですね。F1は私には大きすぎた。だからMotoGPで過ごした年月は楽しかったですね。本当に居心地が良かったです」

F1ドライバーやMotoGPライダーで印象に残っているのは誰ですか?

「本当に強いライダーといつも一緒にやれて幸せでしたね。だからどのライダーのことも愛していますよ。息子みたいなものですね」

マルク・マルケスとケイシー・ストーナーが一緒に走るところを一回でも見たかったとは思いません?

「MotoGPファンなら誰もが夢見ることですね。私もファンの一人ですよ」

2017年についていですがマルク・マルケスとダニ・ペドロサはどんなことを要望してるんですか?

「マルクとダニはライディングスタイルが違うんですけど、要望は似てますね。どちらも加速をなんとかしてほしいと言ってます。つまりエッジグリップが問題だということですね。エンジンパワーをが活かしにくい部分で、どうマシンを起こして加速させるかにも関わってくるんです。ここについてはドゥカティの方がうまいんですよね」

ビッグバンエンジン導入を検討しようとはしなかったんですか?

「ビッグバンエンジンは違う感じでしょうけど、それで問題が解決するかどうかはわからないですから。もちろんいろんな解決策は考えていますけどまだどれが一番いいかはわかってないんです。ビッグバンエンジンもひとつの考えですけど、ここヴァレンシアでは別の解決策をエンジンに関してテストするつもりです」

4人ものライダーが勝ったのはホンダだけです。つまりRC213Vがグリッドで最高のマシンだと言ってもいいってことでしょうか?

今年は4メーカーのライダーが勝っています。つまりみんなレベルが高くて接近してるってことですね。ホンダが一番強いコースもありました。ザクセンリングとかですね。でもオーストリアではドゥカティの方が速かった。今年は電子制御ユニットが統一されてミシュランタイヤも導入された。だから去年までとは違ったんです。来シーズンのタイトルのためにはあらゆる分野で改善が必要ですね。コーナリングも加速も、すべてです」

電子制御についてはいかがですか?

「序盤戦ではかなり苦労しましたがシーズンが進むにつれて改善も進んでいきましたね。現時点ではソフトウェアの80%は使い切れています。つまりはまだ改善の余地があるってことですけど」

いろんな制約やルールがありますけど、技術開発の余地が小さくなったことでメーカーの興味が失われる可能性はあるとお考えですか?

「もしなんのルールもなければもっと電子制御についてもいろいろできるでしょうね。でも開発能力には限界があるんです。それに予算にも制限がありますから。ホンダだって何でもできるわけじゃないんです。もちろん制限はありますけど、まだ新技術を試す余地はあるんです」

クラッチローは2勝もしましたが、来年サポートが増えたりしますか?

「今シーズンの序盤のカルはダニと同じマシンでした。その後バルセロナでダニが違うフレームを試して、いいところと悪いところがあった。結局ダニは元のフレームを使うことになりました。でもカルの要求は違ったんでワークス用フレームを使っています。だからカルにしても他のサテライトのライダーにしてもサポートはしてるんです。1〜2戦すればワークスと同じ新しいパーツが使えるんですよ」
============
ほぉ、比較的いい感じのインタビューですね。そして中本サンもケイシーvs.マルクが見たかったのか!!

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2016年ヴァレンシアGP決勝まとめ:素晴らしいシーズンにふさわしい素晴らしい幕切れ

あー、終わっちゃいましたねえ。9人もの優勝者がいた割に去年に比べると穏やかなシーズンでした。それほどマルケスが安定していたってことなんですが。でも個々のレースは毎回毎クラスおもしろかったですね。
ってなわけでMotoMatters.comより最終戦のまとめを。
============
ヴァレンシアはいつでも気合いの入ったレースが展開されることになっている。シーズンの最終戦、大団円なのだ。ライダーにとっては栄光を求めて闘った一年の総まとめである。リカルド・トロモサーキットはスタジアム形式となっているおかげで観客の熱狂はどんどん高まっていく。そしてその気持ちに押されてレースも熱狂の度合いを増していくのだ。

今年のヴァレンシアは例年以上に気持ちが入るものだった。別れにつきものの感傷的な気分に染まっていたのだ。ここ何年もなかったほどの大規模なライダーの移籍が行われるのだ。ライダーとスタッフは同じ目的に向かってすすんでいる内に分かちがたく結びつくようになる。成功を祝い失敗を一緒に悲しむ。男も女もいくつもの苦難を一緒に乗り越え、その絆はますます強くなっていく。簡単に壊すことなどとてもできない強さだ。ライダーの移動距離はピット数個分かもしれないが、別れの辛さはそれとは比べものにならない。

ライダーはまるでその気持ちに突き動かされたように、自分と別れる人たちに良いパフォーマンスを見せようと懸命になる。がっかりさせたくはないのだ。Moto3とMoto2ではチームを去るチャンピオンが今年を象徴するような強さをみせた。ライバルたちは少しでもそのタイトルの輝きに傷をつけようとこれまた全力で闘ってみせた。MotoGPでは移籍するワークスライダーたちがそれ以上に自分らしさを見せつけ、驚くほどのパフォーマンスを発揮した。シーズン最後の週末、いつも以上に気持ちが入っていたおかげでヴァレンシアのレースはどれも素晴らしいものになったのだ。そしてその勝者は真に賞賛に値するライダーたちだ。

誰にも止められない?

ホルヘ・ロレンソがヴァレンシアにやってきたのはチームとそしてヤマハに勝利という形で感謝を示すためだ。プラクティスを通じて我々が目にしたのは復活したロレンソだ。ルマンで見せたマルク・マルケスの度重なるアタックをいとも簡単に退けたあのロレンソが帰ってきていた。スムーズで自信に満ちあふれ火傷するような速さ。これぞロレンソだ。彼の火を噴くようなペースに少しでも近づけたのはマルク・マルケスだけだった。予選でも彼の速さは手が付けられなかった。ポールレコードを更新し、チームメイトには3/4秒ほどの差をつけた。ヴァレンシアのロレンソには失うものが大きかったとも言える。

ウォームアップで不安が現実のものとなった。突然ロレンソはタイムシートの後方に沈み7番手に終わってしまったのだ。トップとの差はそれほど大きくはなかった。1/3秒程度だ。問題となるには充分な差でもある。あれほどプラクティスで速かったロレンソに何が起こったのだろう?原因は二つある。まずウォームアップが行われた午前中はこの週末なかったほどの寒さだったことだ。薄い雲のせいで11月の寒さをぬぐい去るほどの日照がなかったのである。

しかしもう一つの理由の方が大きいだろう。ロレンソはウォームアップで三味線を弾いていたのだ。そうなのだ。彼の最速ラップはマルケスから0.3秒遅れだったがウォームアップでの9周のタイムを比較してみるとそれは恐ろしいほど安定していたのだ。9周の内6周は最速ラップから0.2秒以内に収まっている。それほどの安定性を見せたのはマルク・マルケスだけだった。他のライダーは1周だけは速くてもタイムははるかにばらついていたのだ。

論より証拠。食べればわかる

ではロレンソの本当のペースはどれほどだったのか?プリンの味は食べればわかると昔から言われている。太陽が顔を出し路面温度が予選の時と同じくらい上がってくる。路面温度の高さこそがロレンソが求めていたものだ。それがあれば彼はタイヤを機能させて思い通りのラインにマシンを導くことができるのだ。ロレンソは真っ先に1コーナーに飛び込むとそのまま彼方に消えてしまう。彼は1周目終わりで後続に0.4秒の差をつけ、次の周ではそれを倍にしてみせる。3周目には既に1秒の差をつけ、6周目には2秒に9周目には8秒に、さらにその2周後には4秒以上の差をつけたのだ。レースの1/3を終えたところでホルヘ・ロレンソは他のライダーを遙か後方に置き去りにしたのである。

彼は自分の力だけでそこまでの差をつけたわけではない。ロレンソが逃げようとする一方で彼を追いかけるライダーが互いにバトルを繰り広げていたのだ。アンドレア・イアンノーネがまずその集団を引っ張るがタイムは安定しない上、後方から常につつかれていた。ヴァレンティーノ・ロッシがイアンノーネにぴったりついていたが、こちらはマルク・マルケスとマーヴェリック・ヴィニャーレスに背後につかれ、その後ろにはアンドレア・ドヴィツィオーゾが控えていた。

皆が思うほどヴァレンシアは抜きにくいコースというわけではない(こともある)

今回のレースではこの集団のバトルが最も見応えのあるものだった。表彰台の残りの2席に滑り込むためのバトルだ。イアンノーネが集団を引っ張るがロッシは彼の弱みに目ざとく気付いていた。彼は11コーナーでイアンノーネのドゥカティのインにねじ込んで前に出る。しかしそれもホームストレートまでだ。イアンノーネがデスモセディチのロケットのような加速を活かしてトップスピードだけに頼ってロッシの前に出る。

いつものパターンだ。ロッシはコーナーでチャンスを探っていた。11コーナーが一番得意だったが、6コーナーから8コーナーの間でも彼はアタックを仕掛ける。いつものイアンノーネならドゥカティのパワーに頼り切っているところだが、今回は12コーナーで抜き返してバカの一つ覚えだけではないことを証明してみせ、そのまま高速左の13コーナーに入っていく。

見事な抜き合いだった。ロッシも全力を尽くしていたのだ。「マジですごいバトルでしたね。でも接触はしてないんですよ」。そうロッシは語る。「彼は僕に対してかなり厳しく攻めてきたけど僕も負けなかったですからね」。ロッシはこのバトルを「ウルティモ・サング」と表した。正確な訳を思いつけないと言っていたが「最後の血の一滴まで」といった意味である。

若者も年寄りに負けていない

イタリア人同士の容赦ないバトルのおかげでマルクマルケスとマーヴェリック・ヴィニャーレスの二人はロッシとイアンノーネについていくことができた。マルケスにはやらねばならないことがたくさんあった。派手なウィリーでラインをはずしたせいで順位を落としてしまったのだ。一方ヴィニャーレスのスタートはもっとましだった。彼はイアンノーネの後ろにはりついてGSX-RRのトップスピードが本物であることをまた証明して見せた。それがスピードチャートにも表れている。トップスピード計測地点でのヴィニャーレスの速度は3番手。前には2台のワークスドゥカティがいるだけで、ホンダのマルク・マルケスを2km/h差で上回っている。

ロッシはヴィニャーレスの前に出てイアンノーネを追いかける。そしてマルケスが二人についてくる。そしてロッシとイアンノーネが集団のトップに立つためのバトルを繰り広げるのを20周にわたって観察した後、彼はロッシ、イアンノーネを続けざまに抜いていく。簡単なことではなかったとマルケスは語っている。「ヴァレンティーノとイアンノーネを抜くのにすごく時間がかかってしまいましたね。ヴァレンティーノが昨日言ってましたけど、ここはほんとに抜きにくいコースなんです」

2コーナーでマルケスに抜かれたイアンノーネは再びドゥカティのパワーを活かしてストレートで抜き返す。こんどはマルケスは14コーナーでアタック。しかしまたもやホームストレートで抜き返される。マルケスが最終的に2位の座を安泰にしたのは2コーナーでのハードな追い抜きの後だった。3コーナーまで粘った彼に対してポジションを守ろうとしたイアンノーネはわずかにアウトにはらんでしまう。そしてマルケスは猛チャージを開始する。

ゴールするまで終わりじゃない

ロレンソとのタイム差は覆すことは不可能に見えた。しかしマルケスは全く違う考えを持っていたのだ。ヤマハとの差は5.5秒ほど。残りは10周もない。しかしマルケスのペースは恐ろしいほどのものだった。一方ロレンソのペースは落ち始めていた。「最後の10周は本当にたいへんでした」とロレンソはプレスカンファレンスで語っている。フロントタイヤの右側が削れ始めていた。しかし最大の問題は左側の摩耗だった。ロレンソは言う。「リアの左側がたいへんでしたね。特に最終コーナーでスロットルを開けるとリアはすごく滑って序盤みたいには前に進まなくなったんです」

周を重ねるごとにマルケスが近づいてくる。ロレンソのリードはどんどん削られる。23週目時点でマルケスはその差を4.5秒まで縮めていた。3周後にはさらに1秒縮まる。マルケスには自分の前のロレンソがコーナーごとに近づいてくるのが見えている。しかし追いつくには残り周回数が足りなかった。ゴール時点でロレンソのリードはわずか1秒。そしてマルケスは彼より0.5秒早いラップを刻んでいた。つまりもう2周あればマルケスは勝てたかもしれないということだ。マルケスもそれを認めているが言い訳はしなかった。「レースは30ラップだったんです。そしてホルヘはすごいレースをしてみせた」。そうマルケスは語る。

さよなら、魚をありがとう

序盤で独走したことでロレンソは勝利を手にすることができた。これこそ彼が求めていたものだ。勝利を置き土産にヤマハを去っていく。長年がんばってくれたチームに感謝するために。そして自分を信じて経験も少ない彼と契約してくれたヤマハに感謝するためにだ。ヤマハがロッシの反対を押し切って彼と契約したのは2006年のラグナだった。しかもMotoGPに上がる2年前のことなのだ。

そしてそれ以上に自分のためにも勝ちたかったはずだ。大した結果を出せなかったこの数千の埋め合わせのために、そして自分がまだ勝てる力を持っていることを確かめ、そしてヤマハに彼らが手放したものの価値を思い知らせるためである。プレスカンファレンスでロレンソは2015年について2回言及している。この年彼はチャンピオンを獲ったにもかかわらずシーズンの印象は苦いものだった。2015年はヤマハのキャリアで最高の年で、彼のライダーとしてのパフォーマンスも最高だった。今回の勝利は、タイヤに自信をもてるかどうか、そう、マシンではなくタイヤがロレンソのパフォーマンスに最も影響を与えるという良い例である。

マルケスの後ろではイアンノーネとロッシのバトルが最終ラップまで続いていた。しかし前でゴールしたのはドゥカティのイアンノーネだ。ロッシはフロントタイヤが思い通りになっていなかったのだ。「タイヤには苦しめられましたね。特にフロントです。自分にあったタイヤがなかったんですよ」。そうロッシは語る。「ハードでレースを走ろうとしたんですけど左コーナーでグリップが足りなかったですね。でも今日は気温も高かったんでソフトでも苦労したでしょう」。気温はホルヘ・ロレンソの味方だった。フロントにハードを選んだロッシが得意のブレーキングテクニックを発揮する程には暖かくなかったのだ。

別れのわけ

イアンノーネはもロレンソと同様にドゥカティに表彰台をプレゼントできたことを喜んでいた。彼は信じられないほどのレースをしてみせたのだ。鋭く耐え難い背中の痛みに耐え続けながらバトルをしたのである。その褒美がシーズン7度目となるチームメイトのアンドレア・ドヴィツィオーゾの前でのゴールであり表彰台だったのだ。ここ4レースを怪我で欠場していたにもかかわらずだ。ロレンソに追い出されて他メーカーに移籍するのではなくドゥカティに残るべきだったのは自分だと言わんばかりの走りだった。現実はアルゼンチンの最終コーナー一つ前でチームメイトをはじき飛ばしたことがドゥカティのドヴィツィオーゾ選択の理由なのだが。

マーヴェリック・ヴィニャーレスも強さを発揮して5位に入った。彼もまたドライでチームメイトを破ってみせた。GSX-RRを降りても手強いライバルで居続けるという宣言である。彼はレース前半で素晴らしい速さを発揮し、後半ではどこかに消えてしまったが、これはレース用タイヤで15周以上走っていなかったせいだという。ヴィニャーレスはタイヤの摩耗の第一段階はクリアできたものの、20周目を過ぎた当たりからさらにタイヤがたれてくると3位争いから脱落してしまった。「すごく攻め続けたんです。2〜3回はクラッシュしそうになりましたね」。そうヴィニャーレスは語る。「それで5位の方がノーポイントよりましだと考えたんですよ」

兄弟の殺し合い

ヴィニャーレスの後ろで繰り広げられていた6位争いもある意味で2位争いと同じくらい見応えがあった。トップ争いから脱落したアンドレア・ドヴィツィオーゾがエスパルガロ兄弟にはさまれたのだ。ダニ・ペドロサはドヴィツィオーゾが遅れ始める前にクラッシュしており、カル・クラッチローもエスパルガロ兄弟に追いつこうとしてクラッシュしている。兄弟はレース開始直後から一緒に走っていた。アレイシは弟のポルをずっと抜けないでいる。

ポルは序盤でフロントタイヤに苦しんでおり、コーナリングスピードが稼げない。一方アレイシは許容可能なリスクの範囲ではポルを抜けない状態だ。「ポルはブレーキングがすごかったですね。でもずっとブレーキをひきずってました」とアレイシは語る。「最初の4〜5周はブレーキを掛けすぎてましたね。慎重になりすぎてたんです。僕はもう少し攻めてましたけど、それでも彼を抜けなかった。たぶん僕も慎重になりすぎてたんです。スズキでの最後のレースだし前にいるのは弟できたからね」

アレイシが気にしていたのは弟だけではなかったのだ。アレイシ・エスパルガロも弟のポルも今シーズンを限りに移籍することになっているアレイシはマシンを壊すことなくピットアウトしたときと同じ状態でメカニックに返したかったのだ。「7位とでも8位でも違いはありませんからね。クラッシュはしたくなかったんです。今日はマシンをピットに返してちゃんとスズキにお別れが言いたかったんですよ」

後に遺されたもの

アレイシは自分がスズキをここまでのレベルに引き上げたことを誇りに思っている。「僕が青いツナギを着たら全力を尽くしていたことをわかってくれてるんです。いつだって100%でした。スズキ史上最高のマシンの一つを作る手助けができたと自分でも思ってます」。そう彼は言う。どれほど自分がこのプロジェクトに力を入れているかを知って欲しくて飼い犬にスズキという名をつけたんだとも言っていた。

アレイシ・エスパルガロは弟のポルとドヴィツィオーゾに続いて8位でゴールしている。これは彼が望んでいた終わり方ではないにせよ、彼が全力を尽くしたことは間違いない。マシンは無傷。彼も無傷。そしてまたトップ10に入ったのだ。

エスパロガロ兄弟は二人とも感情をあらわにするタイプだ。口数が多く、そしてどちらもチームと深く関わることを求めている。二人はどちらもチームと固い絆を築いている。さらにアレイシには家族的な雰囲気も必要だ。我々ジャーナリストがスズキのチームトラックの間でアレイシの出待ちをしているとピットから讃え合う声が聞こえてきた。チームがアレイシを讃えてコールをし、そのお返しにアレイシも声を上げていたのだ。

サポートレースという以上に

MotoGPの決勝は確かに幕切れにふさわしいものだったが、2016年シーズンを締めくくるだけの輝きがあったとは言えないかもしれない。しかし他の2クラスのレースは実にエキサイティングだった。Moto2では今年レースを面白くしてくれた5人のライダーがまた素晴らしいバトルを繰り広げることになった。ヨハン・ザルコがフランコモルビデリアレックス・リンス、トム・ルティ、そして終盤で加わったサム・ロウズを退けて前に出る。

最終的にザルコについて行けたのはモルビデリだけだったが、結局彼も負けを認めることになった。ザルコはディフェンディングチャンピオンにふさわしいレースでシーズンを終えたのだ。そしていつも通りのバックフリップ。レースのたびに我々はメディアセンターで彼がタイヤウォールにのぼり、そしててっぺんからバックフリップをしてみせるのをハラハラしながら見守っていた。毎回彼が足首を傷めるのではないか、それでタイトル獲得が危なくなったりしないかと心配していたのだ。しかし毎回彼は無傷だった。つまりは彼は自分が何をしているのかちゃんとわかっているということなのだろう。

Moto3で勝ったのは新チャンピオンである。しかしその勝ち方は良い意味で驚くべきものだった。ブラッド・ビンダーがMoto3の中で最高のライダーであるのは間違いない。そしてヴァレンシアの決勝でそれを再び見せつけることになったのだ。彼の走りは頭一つ抜きんでていたのだ。序盤ではビンダーはメカニカルトラブルに悩まされていた。コーナー立ち上がりでスロットルを開けるとパワーが落ちたのである。マシンを観察しながら走ったせいで順位を大きく落としてしまい、22番手から追い上げることになった。

しかしビンダーはそれにめげることはなかった。再び前に出るために集中を切らすことなく走り続けたのだ。今年はヘレスでも似たようなことはやっているが、それでも簡単なことではなかったとビンダーは言っている。「ここの方がヘレスよりはるかに抜きにくいんです」。にもかかわらずビンダーの抜き方は実に冷静だった。前のライダーをクリーンに抜き去っていく。非難されるようなことは決してないクリーンさだ。ついにトップに追いついた彼はホアン・ミル、エネア・バスティアニーニ、アンドレア・ミーニョと歴史に残るバトルを繰り広げる。最終的にバスティアニーニが表彰台から滑り落ち、ミルが2番手でルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得、3位にミーニョが入ることになった。ゴールしたときの3人のタイム差は0.1秒もなかった。

こうして2016年が終わる。バイクレース史に残るシーズンだった。3クラスとも実に見応えがあった。セパンでドヴィツィオーゾが勝ったことで今シーズン3クラスを通じて25人の勝者が生まれたのだ。これについては議論の余地はないだろう。しかし火曜には多くのライダーがチームを移籍する2017年シーズンが始まる。いったいどんなことになるだろう。楽しみで仕方が無い。
ーーーーーーーーーー
こうした長文のための情報収集には資金が必要です。もし楽しんでいただけたのならMotomatters.comへのご支援をお願いします。サポーターになっていただくか、カレンダーをお買い求めいただくか、寄付をしていただくか、若しくはGoFundMe経由でご支援をいただければ幸いです。
============
「さよなら、魚をありがとう」ってのは名作SF「銀河ヒッチハイクガイド」で滅亡する地球から人類を置き去りにとっとと逃げ出すイルカたちが歌う歌のタイトルです。なんのこっちゃわからないという人は映画を是非観てください。大傑作。ちなみに私は蟹ネタがお気に入りです。

| | コメント (10) | トラックバック (0)

ダニ・ペドロサへのインタビュー:マスコミとの関係、そして990から800、1000への変化

なんか今シーズンは勝者が多かった割に穏やかなシーズンでしたねえ、というわけでもう最終戦です。
このタイミングでMotoMatters.comが(苦悩の人)ダニ・ペドロサへのインタビューを掲載しているので訳出。
============
ダニ・ペドロサは今年でMotoGPの11シーズン目となる。その間に彼は様々な変化を目にしてきた。990の最後の1年を走り、800時代を経験し、今は1000ccに戻っている。多種多様なマシンで彼より長くMotoGPクラスにいてレースをして、勝てる力を持ち続けているのはヴァレンティーノ・ロッシだけだ。

ペドロサは次世代を担うライダーとしてMotoGPにやってきた。打倒ヴァレンティーノ・ロッシの最有力候補としてだ。そして昇格初年度から勝利を重ねるという見事なスタートを切り、力のあるところを見せつけた。しかし2年目、皆が注目したのは250cc時代のライバル、ケイシー・ストーナーだ。2007年、彼はワークスドゥカティを駆り、その結果に誰もが驚くこととなった。

2008年にはホルヘ・ロレンソがMotoGPの頂点の一人となる。「4人のエイリアン」という言葉もその頃からだ。ストーナーが2012年にヘルメットを置くと、こんどはマルク・マルケスがやってきて戦いのレベルを引き上げることになった。

これほどまでにレベルが上がったことでペドロサが成し遂げた驚くべき記録が霞んでしまったのだ。彼はMotoGPの11シーズンで29勝を挙げている。歴代8位の記録である。今シーズン、散々苦しんだ末にミザノで勝利をもぎ取ったことで、彼のモチベーションも力量もいささかも失われていないということが明らかになった。ペドロサは今でも優勝候補の一人なのである。

このインタビューはミザノで行ったものだ。これまでのMotoGPでの経験を振り返り、何が変わってきたのかを知りたかったのである。しかし結果は予想していたものとは少し異なるものとなった。会話の中でペドロサはマスコミとの関係、そしてそれがMotoGP時代の自分にどう影響したかを話してくれたのだ。彼は話しやすいライダーというわけではない。質問に対して、ただ首を縦に振ったり横に振ったりするだけで答えることもある。他のライダーだったら微に入り細にわたって説明してくれるようなことなのにだ。しかし彼が口を開くときは耳を傾ける価値があるのは間違いない。

Q:今年でMotoGPは11年目になりますがいろいろな変化を目にしてきたかと思います。最初にMotoGPに参戦したとき、予想通りのものでしたか?MotoGP初年度にはどんなことを感じたんでしょうか?

ペドロサ:250や125に比べるとメディアの力が桁違いに大きいって思ったのを覚えています。メディアの興味の大きさも違いますし、影響も違う。下のクラスでずっとトップにいたとしても全然違ってましたね。


Q:びっくりしました?

ペドロサ:ええ。悪い意味でね。メディアに対応する義務とかじゃなくて、気持ちの問題としてですけど。

Q:例えば批判とかですか?

ペドロサ:そうじゃないんです。バイクに乗りたいとか速く走りたいとかって情熱は125でもMotoGPでも変わらない。この場で自分を表現することの喜びは同じなんです。でも他の人に対してはそうじゃないんだってのにがっかりしたんです。みんな大きいクラスのことばかり気にしている。まあ仕方ないんですけどね。日曜の3レースの中ではいちばん目立つわけですし。

Q:125や250で成し遂げたことの価値が下がってしまったような気がしたんですか?

ペドロサ:そうじゃないですね。世界チャンピオンになれたってのはすごく大きいことだったし、1年に一人しかなれない。でも当時はみんなも同じようにかんがえているんだと思ってたんです。でもクラスを上がってみたらそうじゃないって感じたんです。
 125や250の時は僕が経験してきたメディアまわりのことって普通のことだって思ってたんです。でもMotoGPに上がってみたら、全然違っていた。対応範囲がものすごく広がったんです。そこで違いを認識したんです。自分がやってきたのはほんの数%分にすぎないってね。

Q:英語では「小さい池の大きな魚(訳注:井の中の蛙)」って言い方がありますが、自分がいたのが小さい池だったって突然気付いたということですか?それで気を散らされたりしました?そのせいでMotoGPへの適応に集中できなくなったとか?

ペドロサ:そんなことはないです。話す言葉のひと言づつに気を遣わなきゃいけないってのは楽じゃないですけど。発言をねじ曲げて伝えることで金を稼ごうとしている人はいつだっていますからね。最初はいろいろ失敗しますよ。人のことを疑わないですからね。

Q:つまり毎年少しずつメディアに対しての発言に気を付けるようになってきたってことですか?

ペドロサ:気を付けるっていうのとは少し違いますね。言いたいことを常に100%言えるわけじゃないってことですね。本当の気持ちとか真実がそこにあっても、その時点ですべてを誰かと共有できるわけではない。そういうことがだんだんわかってくるんです。

Q:そういうことにいらついたりはしませんか?確かに何か起こった後にインタビューすると「いや、本当はこうで、こういう理由でだからOKですよ」って言ってたのに、後になって「あの時は言えなかったけど本当はちょっと違ってたんです。でもシーズン途中だといろいろ影響するから言えなかったんですよ。シーズンが終わって振り返れば違うことも見えてくるし」って言うライダーもいますね。あなたもそうなんですか?気持ちをそのまま言えないことっていらっとしませんか?

ペドロサ:そういうこともありますね。状況によりますけど。でも確かにそういうこともあります。でもたいていは別に自分の気持ちや何かをわかってほしいと思ってるわけじゃないですから。だから実際は話せなくて苦労するってわけじゃないんです。

Q:話さなきゃならない方がいらいらすると。

ペドロサ:ですね!(笑)

Q:MotoGPでは990で走って、翌年は800になって、全然違うマシンになりました。たいへんでしたか?990から800、そして1000へと変化を体験してきていますし、今は統一電子制御となりました。それで苦労したのか、それとも楽できるようになったのかってことですが。

ペドロサ:もちろん苦労してますよ。990に乗り始めたときは本当にマシンがすごかった。またがってタイヤをはめてあとは走る。どうやって乗るかとかどうやって速く走るかとかは乗って学ぶしかなかった。
 でも突然すべてが変わったんです。MotoGPの経験がないというか、1年だけで、マシンの開発までしなきゃならなくなった。タイヤの開発もするし、しかも同時にレースもやらなきゃならない。それが2シーズン目なんです。全部がうまく開発できて、うまくはまればOKですけど、そうじゃなければまたいちからやり直しで問題を解決しなきゃならない。だから本当にたいへんなんです。もちろん990に乗り続けられれば最高でした。同じマシンで同じチームですから。それなら自分が一歩前に進むだけで済むんです。

Q:もう一回デビューするって感じだったんですか?

ペドロサ:当時ホンダは800をまともに走らせるのに苦労したましたからね。

Q:800は難しいマシンだったんですか?

ペドロサ:ええ。1年目と2年目はそうでしたね。

Q:ゼロからやり直す感じだったんですか?

ペドロサ:プロジェクトとしてはそうですね。

Q:おもしろさはどうでしたか?800は乗ってもつまらないマシンだったんですか?

ペドロサ:ちょっとつまらなかったですね。

Q:250みたいな感じだったんですか?それとも違う感じです?

ペドロサ:違いましたね。パワーは250とは比べものになりませんし、重さもかなりあった。まあはっきりしたことはわからないですけど、250とは違いましたね。

Q:今乗っている1000は前より排気量も大きくなってパワーも出るようになって、パワーの出方もスムーズです。そしてミシュランになりました。今の方が乗りやすいですか?800よりまた楽しくなってるんでしょうか?990に近いとか。それとも全然違います?

ペドロサ:いや、全然違いますね。今のマシンは全然違う。マシンの乗り方も変わっています。ほとんど全員ブリヂストンに慣れ親しんでいた時代は終わってしまいましたしね。だからタイヤもマシンもどちらもうまい方向にもっていきたい。
 ライダーもタイヤも僕がMotoGPに参戦した年の990とは全然変わっているし、ライディングスタイルも変わっています。990時代は序盤から攻めるなんてほとんどありませんでした。序盤は様子を見ながらタイヤを温めるんです。だから1周目はかなり慎重に走っていました。前には行きたい。ラインも確認したい、誰が速くて誰がそうでないかも観ておきたい。それがはっきりしたらブーン!って全開です。レース中盤か終盤でチャンスがあれば仕掛ける。でも最近、って言うか800になってからの戦略は「置いてきぼりはばーか」ですからね。

Q:ケイシー・ストーナーのせいだって言う人もいますが、ことによったらあなたのせいですか?

ペドロサ:ですね!990のときはプラクティスでもチャンスがあれば機会を逃さず全力で走ってました。みんなが気がついたときには僕はもう前に行ってる!昔からそうだったんです。

Q:あなたが勝つと、最初の1周目半で差をつけることができたからだって文句を言う人もいました。最近はそういう走りが見られませんが?

ペドロサ:最後にそういう勝ち方をしたのはセパンですね。

Q:今はそういう走りをするのが難しくなっているんですか?何かが変わったんでしょうか?

ペドロサ:そうじゃないですね。今は追いつかれないようにしたり、いいポジションを確保するのがもう難しいんです。みんな最初から攻めていきますから。集団に飲み込まれたりしたら…

Q:レースは1コーナーで終わったようなものだってなるんですか?それで予選が大事になったと?

ペドロサ:ええ。でないとポジションを戻すだけでレースが終わっちゃうんです。
ーーーーーーーーーー
こうした長文のための情報収集には資金が必要です。もし楽しんでいただけたのならMotomatters.comへのご支援をお願いします。サポーターになっていただくか、カレンダーをお買い求めいただくか、寄付をしていただくか、若しくはGoFundMe経由でご支援をいただければ幸いです。
============
そっかー、ダニのロケットスタートがなくなったのは、みんながロケットスタートするからなのか。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

深層探求:ブラッドリー・スミス、MotoGPの電子制御を語る(その2)

さっきパート1はアップしましたが、気持ちが途切れない内にパート2も。MotoMatters.comより。
============
MotoGPにおける電子制御は実に複雑で、しかも魅力的な話題である。この電子制御に対する理解を深めるためにブラッドリー・スミスがモンスター・テック3・ヤマハM1に搭載する選ばなければならない電子制御の様々な選択肢について語ってもらった。

昨日掲載したパート1ではプラクティスやレースで使う様々な電子制御セッティングについて語ってもらった。このパート2ではスミス、そしてチームがチーフメカのギ・クーロンに導かれながら、どうやってセッティングを見つけるのかについて語ってもらう。彼が教えてくれたのは、どんなセッティングが可能なのか、そしてレースに向けてどのようにセッティングを決めていくのかについてだ。

Q:右側のボタンはピット用と停止用ですね?
Bradleysmithelectronics0010m

スミス:ピットとストップって書いてある通りですね。停止は停止ですしピットリミッターはピットリミッターです。ピットリミッターが効いているとそれがインパネに表示されます。回転数は自分で時速60km以上にならないようにセッティングされてます。もちろん回転数はギアによって違いますけどね。だからある程度セッティングしなきゃならないんです。レインタイヤとインターミディではタイヤの周長が違うんですよ。フラッグ・トゥ・フラッグでも大丈夫なように、一番スピードがでるところで制限しているんです。

それに週末を通して気を遣わなきゃいけないんですよ。制限を超えないようにね。だって時速1kmの違いでもホームストレート全体にしたらそれなりになりますからね。だから本当にぎりぎりになるようにしっかり管理してるんです。あとレーダーガンとか、その他のあれやこれやの誤差も考慮にいれないとならないんです。ルールのぎりぎりを突こうとはしてますけど、ストップ・アンド・ゴーペナルティはごめんですからね。だから制限範囲内で収めなきゃいけない。自分で行けると思った範囲でしか行けないってことですね。


Q:フラッグ・トゥ・フラッグ用の電子制御マップもあるんですか?

スミス:普通はそのための緊急用セッティングを入れますね。スイッチ3とかに入れとくんです。緊急用セッティングは、例えばスリックで走っている最中に雨になって、でも走り続けなきゃ行けない時用ですね。そういう時は本当に必要になるんで使うことになります。(2015年の)ミザノでも入れていたんですけど、結局使いませんでした。スリックセッティングであとは右手頼りで走ったんです。まあその時のコースによりますね。どれくらい自信があるのかってことです。ミザノでは緊急用セッティングのことなんて考えもしませんでした。今そこで起こってることに集中してたんですよ。全然頭に浮かばなかったですね。転ばないようにするので精一杯だったんです。その瞬間の気持ちによるんでしょう。フラッグ・トゥ・フラッグなら普通はスリックでスタートするかどうかはわかっていて、スリックでスタートしたならスペアマシンはレインタイヤなわけですから電子制御マップもレインなわけです。レイン用電子制御セッティングというのは基本的にドライと同じように作ってありますから、僕の場合はまずはTCS(トラクションコントロール)を最大にしてスタートして、だんだん緩めていくって感じですね。


Q:TCS最大というのはどういう意味ですか?

スミス:最大に干渉させるってことです。TCSの干渉の仕方には2種類あるんです。強く干渉するか、こまめに干渉するかですね。だから干渉させるには二つの方法あるってことです。長く点火を切るか、こまめにたくさん切るかですね。一回ばつんと長く切ってもいいし、短時間、そのかわり何度も切るんでもいい。どちらにするかはライダーの好みやグリップやエンジンの特性にもよるんです。何をした以下によりますね。僕の場合は、TCSを最大に働かせるときには一回で長く点火をカットしてスライドを止める感じです。

そういう風にまずは強いところから初めて弱くしていくんです。そうすれば安全なセッティングでスタートしてグリップを確かめながら、これなら行けるとか判断しながら干渉を弱めていけますから。エンジンブレーキでも一番強いところから始めて、だんだん弱めていきます。スピードがのってきてコーナーでもどんどん傾けられるようになってきたときにエンブレが効いてスライドし始めたら最悪ですからね。

そこまでいったらあとはリーン角度とバンク角度ですね(訳注:ヘルプ!違いがわかりません!!)。ここでこの数値ならエンブレはこうで、もうすこし緩やかにして、この傾きならもう少し弱めにとか、この角度ならもっと強めにとかやっていくんです。本当に科学の世界なんです。


Q:そういういろんな要素が一つの電子制御マップに集約されて、その上でセッティングによってマップを変えていくんですか?

スミス:そうです。だからセッションの後は大忙しなんです。ヴァレンティーノですらこれまでより忙しそうにしてるのはマッテオ(フラミニ:ロッシのデータエンジニア)のインスタグラムを見てもわかるでしょ。こういう話をずっとしてるんです。僕らがやってるのはこういうことなんです。セッティングについてなんて語ってるんじゃないんですよ。電制制御の数値設定の話をしてるんです。このレベルになるとそれが結果を分けるんです。

フレームとかそういったものは今でもチーフメカやエンジニアで差がつくんですけど、電子制御についてはライダーの能力も大事なんです。ややシステムが退化したとは言えね。というか電子制御が退化したせいで、逆にライダーやエンジニアの重要性が増えたんだと思いますね。システムがすごく進化していたときはむしろ楽だったんです。今年から簡単なシステムになって、より時間がかかるようになったし、精確さも求められるようになった。ピンポイントでセッティングしなきゃならないんですよ。

だからこそワークスチームが今年は優位性を発揮してるんだと思います。対応できる人材がたくさんいるんですから。ライダーとして僕にできるのは、走って、スタッフに説明して、あとはスタッフが1人で3人分働くんです。全部をシステムにぶちこんで、でも要求が多すぎてうまくいかないこともあったりね。

Q:マップの切り替えについて戻りますけど、ピットサインでマップを切り替えるように指示されることとかあるんですか?

スミス:プラクティスでライダーが忘れちゃって、思い出させなきゃってなればありますけどね。あとはピット側がどうしても試したくてライダーに絶対やってくれってなったときくらいですね。そういう時だけですよ。ピットではマシンがどういう感じなのかはわからないんだし、それはライダーにまかされてます。ホイールスピンをわざとさせたいことだってあるんです。そうやって前に進めることもあるんですよ。前を走るライダーのインにねじこみたくて空転させることもありますし。

あと忘れちゃいけないのは、やりすぎると限界で走ってしまうってことですね。ぎりぎりまで傾けてるとスロットルをちょっとひねっただけでTCSが干渉してくるんです。そうなるとマシンを曲げられなくなるし、何もできなくなる。マシンを起こすとやっとパワーが出てくるってことになるんです。だから右手は本当にがっつり固定しなきゃならないんですよ。


Q:つまりスピードはマシンに制限されていて、それ以上ライダーは何かできないってことなんですか?

スミス:そうなんです。自分のリズムを作れてるときは問題ないんですけどね。速いリズムで走ってるならいいんです。でもバトルになって、誰かのインにもぐりこみたいときに思うようにできないんです。普段より動きが制限されてる。バイクの言うとおりにしかできないんです。そこで相手が加速して逃げようとしても自分でできることがないんです。ライダーとしては同じラップタイムを刻んでいたとしても、自分で何かできることは必要ですよね。


Q:他にもボタンはあるんですか?

スミス:以前はライト用のボタンがありましたけど、大事なものなので、今はレイン用マップを電子制御ユニットが検知したら自動的にライトが点くようになってますね。


Q:このライトはなんなんですか?

スミス:これはシフトライトですね。あとこれはIRTA(国際レーシングチーム協会:チームの集まり)が設定したものです。赤旗(レース中断)とか黒旗(ピットインせよ)とか、そういうIRTAが出すものはここでわかるようになってます。今はそれだけですね。旗の色はLEDの色の違いでわかります。遅ければ青くなるってことですね(訳注:周遅れのライダーがトップに追いつかれると青旗がでます)。黒いライトはないですけど、代わりにオレンジに光ります。黒旗かオレンジボール(マシンに問題があるのでピットインせよ)を意味します。すごく良くできているというか、まあ実際に走る立場からすると個人的にはもっと少なくしてくれ!って思いますけどね。じゃないと混乱するばかりですから。
Bradleysmithelectronics0013m

でも赤旗はマジで大事ですよ。オーストリア(のFP1)でのダニのクラッシュみたいに本当に必要な時がある。区間タイムの問題じゃない。IRTAは4区間どころじゃなく細かく区切って管理してるんです。次のコーナーのこともわかるレベルなんです。次のコーナーで旗が出てるってわかるんですよ。だから赤旗が出るような事故が起こったら、それがわかるようにするのは本当に大事なことなんです。
ーーーーーーーーーー
こうした長文のための情報収集には資金が必要です。もし楽しんでいただけたのならMotomatters.comへのご支援をお願いします。サポーターになっていただくか、カレンダーをお買い求めいただくか、寄付をしていただくか、若しくはGoFundMe経由でご支援をいただければ幸いです。
============
へぇー、走ってるとスイッチを忘れたりするんですね。おもしろい。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

深層探求:ブラッドリー・スミス、MotoGPの電子制御を語る(その1)

もてぎの感想とか書こうと思ってる内にこんな時期に!というわけで電子制御についてのMotoMatters.comの記事でも。スミス和尚が電子制御についてわかりやすく説明してくれてます。
============
MotoGPの電子制御について語るとき、人は冷静ではいられないようだ。電子制御にはコストをこれまでになく押し上げたとかライダーからコントロールの権利を奪ってしまったといった非難が向けられている。だからこそドルナは統一電子制御システムを導入したわけだ。まずはマニエッティ・マレリ社製の電子制御ユニット、そしてこのユニットの下で機能する統一ソフトウェアだ。

電子制御の普及と統一ソフトウェアの導入はレースファンの間にもいささか混乱を引き起こしている。ソフトウェアには何ができるのか、ライダーはソフトウェアをどれくらいコントロールできるのか。そうしたことはMotoGPファンの眼にははっきりとはうつっていない。それどころか多くのメディアもよくわかっていないのである。

そのあたりをはっきりさせるために私はブルノでモンスター・テック3・ヤマハのライダー、ブラッドリー・スミスに20分間のインタビューを行い、電子制御とその使い方について説明してもらった。スミスは参戦ライダーの中でも最も知的なライダーの一人であり、複雑な話をわかりやすくシンプルに説明してくれるだろうと考えたのだ。2回に分けてお送りするインタビューの前半では、25歳の英国人スミスが彼のヤマハM1の電子制御がどんな役割を持っていて
、そして自分がどのようにそれをセッティングしているのかについて語ってくれている。

Q:まずはM1についているスイッチについて説明してもらえませんか?

スミス:じゃあ左手側から始めましょう。左側の一番上のボタンはローンチコントロールです。当たり前ですけどスタートの時しか使いません。赤ランプがダッシュで点滅しているのが、ローンチコントロールが機能しているサインです。ローンチコントロールは最初にスロットルを閉じた時点で自動的に停止します。だから1コーナーに入るときにスロットルを戻すまではストレートではずっと機能しているんです。それ以降は使いません。最初だけです。使うチャンスもないですし回転数を制限する必要もないですからね。

Bradleysmithelectronics0008m

基本的には回転数を制限しているんです。加速に必要なパワーのためのトルクの数値を決めて、それに合わせて回転数を設定します。それから1速と2速のマップに書き込むんです。3速に書き込むこともできますけど、そこまで必要なことは普通はないですね。ええ、1速で回転数を高めにするか低めにするか、2速についてはバタフライ(原注:バタフライバルブ:スロットルボディを通す空気の量を決定するパーツでスロットルと同じ機能)の方が重要で、そこでトルクを多くするか少なくするか決めている。例えばオーストリアは標高600mなんでパワーを多めにするんです。空気が薄いですからね。マレーシアみたいに暑いところでもパワーが出にくい。でもカタールみたいなところではむしろパワーを出ないように設定するんです。でないとウィリーがひどいことになりますから。


Q:1コーナーまでの距離が長すぎてローンチコントロールが邪魔になるってことはないんですか?

スミス:それはないですね。すぐにシフトアップしちゃいますから。だからすぐに2速に入るし、もっとパワーが必要だと感じたら3速に入れちゃえばいい。例えばムジェロでは1速から2速に入れて、今年は僕はいつもより早くに3速に入れてました。だからみんなを抜けたんです。みんな2速でがんばってましたけど、僕はすぐに3速に入れて、それでバタフライが全開になって、だから前に行けたんです。


Q:だからスタートで他のライダーを抜くことがよくあったんですか?

スミス:たいていのコースでは2速でひっぱるんでウィリーの可能性があるんです。だからスロットルコントロールとか体でバランスをとるとかリアブレーキをかけるとか、そういう対応をするんですけどね。


Q:今年は去年とどれくらい違うんですか?

スミス:ほんの少しですよ。基本的には去年僕らはフルスロットルでスタートできた。全開にしても何の心配もなかったんです。今年はいいバランスが見つからないんです。だからマシンをコントロールできるスロットルポジションにセットしてスタートです。でないとホイールスピンが凄いんですよ。そういう意味では去年より洗練度は低くなってますね。簡単に言うとそういうことです。


Q:自分ではクラッチはどれくらい使うんですか?

スミス:すごく使いますよ!すごく気を遣ってます。だからみんなスタートが違うんですよ。完全に自動化されてたらみんなが同じようなスタートになっちゃうでしょ。でももし丁度いい感じでできればすごくうまくいくんです。一番気を遣うのはパワーの出し方とウィリーのバランスですね。最初はそこが肝心です。クラッチを完全につないだらすぐ2速です。だからスタートから時速100マイル(160km)までは自分とクラッチが頼りだって言っていいと思います。


Q:クラッチのフィーリングはシームレスギアボックスの登場で変わりましたか?普通のものとシフトアップがシームレスになったものと、シフトダウンまでシームレスになったものでは違いはあるんでしょうか?

スミス:ないですね。2速や3速に入れるときにエンジンの点火カットが少ないってだけです。だから基本的には2速と3速の加速で差がつくだけですね。ウィリーしないで前に進むんです。加速が途切れないんですよ。


Q:1周目はどんな制御マップを使っているんですか?

スミス:コースコンディションとタイヤの保ちで決めるところですね。普通は予選用マップは使いません。もう1段階強めのTCS(訳注:トラクションコントロール)を使うんです。タイヤにも気を遣わなきゃならないですからね。最初の2〜3周で使い切るわけにはいきませんから。だからこのボタンがあるんです。ACCボタンとDECボタンなんですけど、ACCには3種類のマップ、DECにも3種類あります。どのマップを使っているかはダッシュに表示されます。ACCとDECがそれぞれ1なのか2なのか3なのか。ACCは加速で、DECは減速ですね。

Bradleysmithelectronics0011m

これがあればパワーもTCSも変えられます。だからホイールスピンを減らすためにパワーを減らしたいとか、逆にオーストリアみたいな場所やホイールスピンがおさまってパワーがほしいと思ったときに選択肢は2種類あるんです。タイヤが終わってしまって空転しているのでパワーをカットするのか、オーストリアのようにタイヤのサイドでだけ空転しているのかですね。そういうことならパワーは必要なんで、パワーは同じままTCSを効かせるんです。そうすればホイールスピンは減るし、でもちゃんと前には進むんですよ。


Q:でもそこまで自分でやることはできなくて、レース中は決まったマップを選択するだけですよね。つまりどのタイミングでマップを変更すればいいのか判断するのが仕事ってことになるんですか?

スミス:基本的にはピットではチームと話し合いながら、「OK、スイッチ1はこんな感じで2はこんな感じ、3はこうして」って決めて、それに何を指示したのかを覚えてないといけないんですけどね。だからライディング中は僕が決めることになりますよ。今スイッチ2にしようとか、3にするなら今だなとかね。

レースによってはそこまでじゃないこともありますけど、スイッチ4が欲しいってこともありますね。左右だけじゃなくてセンターも摩耗しますしね。オーストリアでもたぶん最後の5周くらいでACCもDECも3版まで使い切っちゃったんですよ。タイヤがたれるときって、普通は1段階だけ下がるかんじなんですけど、1段大きくたれたあとにまた1段大きくたれることがあるんです。最初からスイッチ1が使えないこともありますしね。Moto2が走ったせいや暑さのせいでコースコンディションが変わっちゃうと、スタート前にスイッチ2にしちゃうこともあるんです。ピットアウトして走って気がついて、うう、スイッチ2にしなきゃってなるんです。そうなると残りはスイッチ3しかない。かなり辛い状況ですね。

だからスタッフと一緒にどれだけやったかが重要なんです。あと何を重視するかもすごく大事ですね。タイヤの保ちを重視すべきだと言われたりパフォーマンス重視でいくべきだと言われたりね。何がどう関連してどんなグリップになるかによるんですよ。


Q:加速マップと減速マップを同時にスイッチすることもあるんですか?

スミス:レースではありますね。でも予選やプラクティスではないですよ。予選やプラクティスでは一つずつ試すんです。基本的にすごく広い範囲の選択肢があって、それを狭めていく必要がありますからね。

だから最初はいろいろな可能性があって、まずは減速を決めてしまおうとか、加速を試してみようとかやるんです。で、それぞれがまた枝分かれしていく。でもひとつの方向でだめで、こっちもだめで、あっちもだめでってやっていけばひとつの道が見えてくるんです。そうすればもしタイヤがたれてきても、ああしようとかこうしようとかできるんですよ。

でも同時にどういう場面でタイヤが機能しないかも大事なんです。コースによってはエンブレでは全然問題ないとか、コーナー進入では問題ないとか、レース最後まで保っちゃったりとか、全然問題ないこともあるんです。でも別のサーキットではすぐにタイヤがだめになることもある。またオーストリアの例を出しますけど、あそこでは加速と減速が同時にだめになった。実際には加速側より減速側の方がさきにきたんです。コーナー進入でロックしやすいんです。6速から1速に減速するコーナーがあるんですよ。バックトルクも大きいし、それで減速側にダメージが来た。でそのあと加速側がだめになりました。でもそういうことはコースによりけりなんです。同時にスイッチを変えなきゃならないこともあるし、全然違うタイミングということもあるんです。


Q:あらかじめ何周目にマップを変えるか戦略を立ててるんですか?それともその時の感覚で?

スミス:感覚ですね。フィリップアイランドみたいにとにかく前に出たいんで最初からフルパワーで行きたいコースもありますよ。そうすれば後ろからついて行かないで済む。フィリップアイランドみたいにグリップのいいコースだと、安全側のスイッチでいくと最初の5周で置いて行かれて3つとか4つとかポジションを下げることになるんです。

だから戦略を立てることもありますよ。タイヤが多少たれてもいいからまずはフルパワーでいくとかね。そうすれば前の4人とかについていけますらね。そうしないと後ろの4人に抜かれてしまう。前に出ようとがんばるんじゃなくて、前にいて後ろのライダーをコントロールするんです。抜いていくんじゃなくて、後ろにライダーを従えて前を走る方が好きなんですよ。攻撃するより守りのレースの方が僕には向いているんです。アタックするってことは限界を超えなきゃいけないけど、守るのは自分のコントロールの範囲内でできる。冷静さを保っていればね。


Q:攻撃より守りの方が好きだというのは生まれついてのものなんですか?マルケスなんかは逆に見えますけど。マルケスは攻撃が好きで、ロレンソは守りが好きなんでしょうか?

スミス:マシンの差だと思いますよ。ヤマハは他のメーカーのマシン、ホンダとかドゥカティとかにアタックをかけるのが得意じゃないんです。僕がスコット(レディング)の後ろを走っていたときも、すぐに同じことに気付きました。抜くのが難しいんです。こっちが近づける場所で、相手はブレーキングをする。そうなるとこっちの優位性が発揮できないんです。全然強さが出せないんですよ。

ホンダはとにかくあちこちでインを差してくる。で、なんとかコーナーを立ち上がれるんです。左でも右でも真ん中からでもやってくる。その時ヤマハは、なんていうか、限界ぎりぎりなんです。だから前にいたいんですよ。それでブレーキを早めにリリースしてコーナーに飛び込んでいきたい。そうやって差をつけたい。マルクとかを相手にブレーキングで勝つとか考えたくないですよ。だからライダーの性格じゃなくてマシンの問題でしょうね。
ーーーーーーーーーー
こうした長文のための情報収集には資金が必要です。もし楽しんでいただけたのならMotomatters.comへのご支援をお願いします。サポーターになっていただくか、カレンダーをお買い求めいただくか、寄付をしていただくか、若しくはGoFundMe経由でご支援をいただければ幸いです。
============
勉強になる!!

| | コメント (4) | トラックバック (0)

« 2016年10月 | トップページ | 2016年12月 »