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「だから私は中指を立てたんですよ」

安全性とかの話ではなく「不作法」に対しても非難されるようになってきた昨今のMotoGPについてMat Oxley氏が書いてます。Motor Sport Magazineより。
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MotoGPサーカスは来週日本に向かう。おそらく世界中で最も礼儀正しい国である。だとすればライダー間で礼儀を欠いた振る舞いが最近になってペナルティ対象にされるようになったことについて考えてみるのも良いタイミングだろう。

ライダーが卑猥なジェスチャーをすることに対して新たなルールができたわけではない。しかしMotoGPの倫理規定にはどのようなことにも対応できる項目が含まれているのだ。

「FIMにはライダー、チーム関係者、オフィシャル、興業主/プロモータを含む関係者全て(関係の深さを問わない)に対してペナルティを科す権限がある。ペナルティの対象にはあらゆる種類の腐敗、不正行為、GPを貶めるあらゆる行為が含まれる」

「GPを貶める行為」を理由にペナルティを科せられた最初のライダーはニッコロ・ブレガだ。彼はアラゴンでMoto3のプラクティス中にホルヘ・マルティンに対して中指を立てたことで300ユーロ(邦貨換算3万5千円)の罰金となっている。

ブレガにペナルティが与えられたのを受けて、私はFIMの常任MotoGP担当幹事であるビル・カンボウをアラゴンのレースコントロールにたずねることにした。私がまずやったのは彼に向けて拳を突き上げること。そして次に中指を立ててみた。彼が言うには前者はOKで後者は問題があるとのことだった。

次に私は2017年のFIMレギュレーションには世界中のあらゆる卑猥なジェスチャーを網羅し、さらにその意味と対応するペナルティが書かれることになるのかとたずねてみた。「いいえ」と彼は笑顔で答えた。「みんな私たちがどこで線を引きたいかはわかってくれるでしょうからね」

本当だろうか?実際この議論には二つの側面があるのだ。私はバイクレースには意地の悪さや、ずるさや、そして悪意が付きものだと知っている。その結果誰かの頭に血が上って中指が立ち上がる。そうしたジェスチャーのせいでイメージが悪くなりスポンサーが離れていったり子供に悪影響を与えていると考える人たちは18世紀の世界にでも住んでいるのだろう。まあその頃の方が21世紀の今よりはるかに野蛮で猥褻な時代だったのではあるが。

現代社会において子供たちは何を見ても危険な暴力シーンにさらされることになっている。イーズトエンダーズ(訳注:英国BBCで1985年から今に至るまで放映されている割とご家庭話な連ドラ。「渡る世間は鬼ばかり」みたいなもの?)を1回観ればMotoGPの1シーズンより多くの不快なものを眼にすることになるはずだ(もちろんひとつだけ例外はあるが*)。さらにサッカーのピッチとサーキットで行われている対戦相手同士のジェスチャーの応酬の何が違うのかとも思う。指を1〜2本立てる姿より敵同士の怒りと憎しみに満ちた表情の方が攻撃性を誘発するのではないか。サーキットならそうした罪深い表情のほとんどはスモークシールドのおかげで見えないで済むのだ。

さらに言うならレースでは取るに足らないなどと見過ごすわけにはいかない危険な状況も多い。公道でバイクに乗ったことがあるなら、自分をはじき出そうとした4輪に怒りを感じたことがあるだろう。顔の真ん前に銃を突きつけられるようなものだからだ。それと同じでライダーもコース上で頭にきているのだ。怒りに我を忘れたときには、その怒りはどこからかはき出さなければならない。そんなわけでたまに出される(本当にたまにしか出されないということも言っておこう)Vサインや中指について私は全く気にしていないのである。

MotoGPレースディレクターのマイク・ウェッブも同じ考えだ。「心配するなら他にももっと大事なことがたくさんありますよね。私がいつもライダーに、拳を振り上げようが何をしようが気にしないが、もし他のライダーに接触でもしたらその時は相当の処罰になるって言ってるんですよ。でもこの新しい方向性はFIMがこちらに強制してきたんですよね…」

これまでバイクレースを浄化したいと考えているのはFIMだけではないし、別に新しい動きでもない。何年も前のことだが私はチームロバーツのプレスリリースの執筆担当だった。ある日のことキング・ケニー(ロバーツ)が私にこう言ったことがあった。「ヤマハからブツが届いたよ。新型シリンダーとかエキゾーストとか…」。プレスリリースはその日の内に発行されたがスポンサーの代理人は嬉しそうではなかった。「おい、ケニーに『ブツ』なんて言わせるとは何事だ!」

この手の広告屋にしてみればロバーツ様にはこう言って欲しかったのだろう。「ヤマハから新型ハードウェアを供給して頂いて我々はみな嬉しく思っています。最高のリザルトを手にするためにますます努力してきます」。つまりあらゆることから本当っぽさをぬぐい取れということなのだ。

本来は薄汚い、しかも主流でないスポーツであるバイクレースを洗練された主流の、そしてお金になるものに転換させようという圧力は常にあったのだ。ドンペリセット付き夏のパーティーツアーの一つにしようということである。強はウインブルドン、そしてマンハッタン・ポロ・クラシック(訳注:上流階級向けポロイベント)、次はサン・トロペ(訳注:フランスの高級リゾートで行われるヨットレース)からムジェロへ…。

おもしろいことに今バリー・シーンの伝記映画が作られているところである。予告編ではシーンがケニーロバーツにVサインを出す有名なシーンが登場している。1979年のシルバーストンでの歴史的バトルだ。

レースはBBCで生中継されていたが、このときBBCのアナウンサー、マーレイ・ウォーカーはこう叫んでいた。「見てください!シーンがケニー・ロバーツにサインを出してます!」。何の非難もなく、特に何か処置がなされるわけでもなく、世界は回り続けていた。

実際シーンはその前にロバーツが出したジェスチャーに返事をしただけだったのだ。そこにはラップタイムが意味するのと同様に何の害意もなかった。この時、レースが接近戦になってどちらも前に行きたがらなかったせいでオランダ人のウィル・ハルトゲが追いついてきていた。

「だからバリーに『ケツに火がついてきたぞ、追いつかれちまう』って知らせたんですよ」とロバーツは当時のことを語っている。「バリーが中指を立てたのを見て笑っちゃいましたね。みんな僕が彼に『ファック!急ごうぜ!』ってサインを出したのを見てなかったからなおさらですね」

このシーンが今でも賞賛されているという事実は、FIMがどうでもいいつまらないことを気に掛け過ぎていることを物語っている。

そして品行方正でないというのはバイクレースでは普通のことでもあったのだ。群れのトップのオスばかりでこうせいされた社会では無礼な振る舞いが幅をきかせるものなのである。比較的穏やかだったと言われている1950〜60年代を思い出してみよう。ライダーが被っているのはお椀ヘルメットで顔はむき出しだったその時代、ライバルに対するジェスチャーは今よりもっとひどいものだった。中指を立てるのではない。ヘアピンまで待って顔に唾を吐きかけるのだ。今との違いはただ一つ。そうした犯罪的行為が世界中にテレビ放映された上にあらゆる角度からスローモーション再生されることがなかったというだけである。

何年もの間FIMは金持ち共の手から道徳を守るための守護者をもって自らを任じていた(とは言えもちろんFIMこそがGPを莫大な金を生むまでに育てたのだが)。

2001年の鈴鹿ではヴァレンティーノ・ロッシがマックス・ビアッジに中指を立てている。そしてこのときFIM総裁のフランチェスコ・ゼルビは二人に公開書簡を出しているが、その目的は「二人に叱責を与え行動を自重してもらうため、しかし闘争本能は奪うことのないよう、そして真のチャンピオンの尊厳をもってこのスポーツのすばらしさ世界に示してもらうため」だった。

その通りだった。2週間後、ロッシとビアッジは闘争本能を発揮してカタルニアGPの直後に殴り合いを演じている。

現在のFIM総裁は哲学科出身のヴィト・イッポリートである。彼の父親のアンドレアはヴェネズエラのヤマハ輸入業者であるヴェネモトの創始者で、カルロス・ラヴァードとジョニー・チェコットという二人のGPチャンピオンを輩出している。ヴィトは当時チームマネジャーで、彼の父はライダーを走らせることに関しては決して道徳的だったとは言えない人物であった。

1978年3月、ヴェネモトが首都カラカス郊外のサンカルロスで行われたヴェネズエラGPで若手のホープであるラヴァードをデビューさせた。そこで彼らは優勝するつもりだったのだ。

しかし当然のことながら戦いは激しかった。中でも最大の脅威は250ccフル参戦初年度で意気込むカワサキだった。こうした中、イッポリートは目標を下げざるを得なかったのである。

カワサキのメカニックだったスチュアート・シェントンが話してくれた。「カラカス空港の保税倉庫に荷物を取りに行ったらこう言われたんですよ。『すみませんがそちらのバイクはここにはないんです』。まだ到着もしてない様子でした。電話をしたりテレックスを打ったりもしてね。で、マシンは飛行機のなかだったんです。カワサキが地元のガイドを雇っていて、彼が運転もしてくれたんですけど、彼が、もしマシンがここになければ誰かが持っていったんだし、それが誰か自分は知ってるって言うんですよ。
 それで車に戻ると彼はシートの下から銃を出して弾が入っていることを確認するとダッシュボードに置いて言ったんです。じゃあマシンを取り返しに行きましょうってね。銃撃戦になるのか?ってきいたら、ええ、その可能性もあるかもしれませんねって答えられました。映画みたいでしたね。彼はカラカスの裏通りまで車で僕らを連れて行ってホーンを鳴らしながら窓から銃を出して振ってみせたんです。彼が肝が据わった男でラッキーだったんでしょうね。そこはイッポリートの土地だったんですよ。そして思った通りでした。片隅に隠されてうちの荷物が…」

道徳の守護者であることについての話は今日はここまで…。
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FIMにはオリンピックあたりが視野に入っているんですかねえ…。

(*:解釈できず。どなたかヘルプ!)

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