« 2016年7月 | トップページ | 2016年9月 »

公式リリース>チェコGP2016

ヤマハホンダドゥカティ(英語)スズキアプリリア(英語)

| | コメント (4) | トラックバック (0)

公式プレビュー>チェコGP2016

ヤマハホンダドゥカティ(英語)スズキ(英語)アプリリア(英語)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

俺の名はマニアック

先日のオーストリアGPでドゥカティにほぼ10年ぶりの勝利をもたらすMotoGPキャリア初優勝を飾ったイアンノーネ。乱暴者のイメージが強い彼を、だからこそ好きだと告白するMat Oxley氏の愛ある記事をMotor Sport Magazineより。
あ、マニアックってのは日本ではマニアが嵩じた人という意味で使われてますが英語では気狂いって意味です。
============
…生まれついての狂犬野郎。オーストリアGPの勝者であるアンドレア・イアンノーネは本当は何を考えているのか?

私はアンドレア・イアンノーネが好きだ。そうだ。はっきり言っておく。私が彼を好きなのは、彼がわかりやすい悪役だからだ。まるでピーターパンのフック船長のようだ。

彼が土曜にポールを獲得した後の様子はまさにそうだった。辺りを睥睨しながらパルクフェルメに戻ってくる。まるで彼がサーキットの王であるかのようだった。まあ実際それに近い状態だったのは事実だ。

イアンノーネの牙も爪も血まみれである。素晴らしい。もちろんアンドレア・ドヴィツィオーゾやホルヘ・ロレンソと違って自分が彼と一緒に走らなくて済むからそう言えるのだが。二人はそれぞれアルゼンチンとカタルニアで彼に撃墜されている。そしてユージーン・ラヴァティはオーストリアのプラクティスで危うくはじき飛ばされそうになっていた。そうそう他にも犠牲者はいる。去年のフィリップアイランドのカモメだ。

27歳になるイタリア人の彼はかつて一度たりともいい人の振りをしようとしたことはない。2週間ほど前、ソーシャルメディアで自分を邪魔する奴は誰でも殺してやると言っていた。その表現は比喩だと願うばかりだ。もし彼がこの記事を最後まで読んでくれるとしたらなおさらである。

イアンノーネは常に問題児だった。彼が最初に有名になったのは2009年のミサノでの事件だ。最終ラップの最終コーナーで気狂いじみた(驚きだ(棒))動きをし125ccのポイントリーダーだったポル・エスパルガロを道連れにリタイヤすることになったのだ。二人はグラベルでにらみあい、そしてイアンノーネは彼が道連れにしたその犠牲者に向かって追い打ちとなる頭突きをかましてみせたのである。そのとき彼はイタリアのテレビでこう言っている。「スペイン人はみんな大嫌いだから」。こうした不適切な行為の結果、彼は数千ユーロの罰金を科せられることとなった。

GPに参戦した頃のイアンノーネの眼はまるでナポリの裏通りをうろつく殺し屋のようだった。今でもそれは変わらない。参戦から何年もかかって彼は自身の悪名を高め続け、そして今では誰もが彼に対して用心深くなっている。「おい気を付けろ、イアンノーネが来たぜ」。レースの世界では別に目新しい話ではない。

「相手をびびらせることが一番大事なんだ」そう言ったのは最高峰クラスで5回もタイトルを獲得したミック・ドゥーハンだ。数年前のことである。「そうやって思い知らせておけば勝手に『やつは自分に優しくしてくれそうもないからスロットルを閉じるか』ってなってくれる」

ドルナの中でも議論が沸騰しているダッシュボードを使った通信システムについて誰かがジョークを言っていた。「IPW灯」をつけた方がいいというのだ。Iannnone Proximity Warnig、すなわちイアンノーネ接近警報である。奴が来た!安全を確保せよ!という意味だ。

Moto2開幕の年となる2010年、彼もMoto2にやってきた。そして彼は無茶苦茶な接近戦ばかりのMoto2クラスにぴったりマッチしていた。当初の2〜3年は肘と肘、カウルとカウルがぶつかり合う戦いが繰り広げられていたのだ。「接近戦の時ほど抜くのが楽しいんですよ」と彼は言う。「抜き去る瞬間ってほんとに息を呑むんです!」

2013年にはMotoGPに昇格。そしてMotoGPマシンも乗りこなせることを証明してみせた。とは言え、彼の走りは相も変わらず気狂いじみていた。彼のライバルの多くは彼が危険すぎると主張していたし、その主張には充分根拠があったと言えよう。

その昔、彼のツナギには「気狂いジョー」というニックネームが貼ってあった。スクーターで転びまくっていた彼に学生時代の友達がつけた名前だ。2年ほど前からはそれを「ザ・マニアック」と変えている。同じ意味に見える。しかしいつでも葉巻をくわえた黒づくめのマネジャー、カルロ・ペルナートが私に教えてくれたのだが、違うのだそうだ。

「乗り方がマニアックってことじゃないんですよ」とペルナートはまじめくさって言った。「彼自身がまじマニアックなんです」

私のイタリア語の辞書によればこの言い方は正しくない。「Maniaco」というのは何かに取り憑かれたとか何かに夢中という意味だ。私はその辞書の説明に納得していたが、それは素直すぎる考えだったようだ。

後になってやっとわかった。「マニアック」というのはスロットルを握る右手のことではない。彼の体の別の部位のことだったのだ。

しばらく前、私の仕事仲間がイアンノーネにシーズンオフに何をする予定なのか聞いたときのことだ。「トレーニングとファック」それが彼の答えだった。

イアンノーネは決して恥ずかしがり屋ではない。自分の筋骨隆々の裸や、プライベートジェットに乗り込みどこかの国でどこかの国の若い女と一緒に飲んでいる姿をツイートし続ける(訳注:むしろインスタグラム)。こうした派手な生活がたくさんの人をいらいらさせていることを彼もわかっているのは間違いない。彼はそれを楽しんでいるのだ。彼自分がいかに恵まれているかをリング上で見せびらかすために威張って歩くボクサーなのだ。

彼のウェブサイトもぜひ訪れて欲しい。実に楽しいのだ。他のレーサーのサイトとは全く違うものを眼にすることになる。

それは「みんな集まれ」と始まる。「俺の名前はアンドレア・イアンノーネ」

そしてこう続く。「俺にはタトゥーと指輪があるぜ。誰もが俺を目立ちたがりと呼びやがる。でもそのためにやってきた。ここまで俺はやってきた。兄貴のアンヘロ追っかけて俺はレースを始めたぜ。俺にはレーサーの血が流れてる。兄弟げんかをしてた頃には、親父はボクシンググローブを渡して俺らを部屋に閉じ込め、部屋が静かになったその時、親父はドアをそっと開け、疲れた俺らをベッドに寝かす。親父は俺を信じてくれた。親父がいたから今の俺がある。わかるかい?全てが親父のおかげなんだぜ」

「野獣の俺とはおさらばしたんだ」とさらに続く。ザ・マニアックということだ。「でもレースがないときゃ野獣が現れ、俺はそいつを解き放つ。レースの俺はプロフェッショナル。精密機械だ信じてくれよ。信じないなら俺といっしょに、俺のやり方感じてくれよ、見てくれ俺のやり方を。くらわしてやる!」(リリックの全文は以下をご覧あれ)

こうした馬鹿げた虚勢や手に負えない自己愛や男根主義にもかかわらず、というかだからこそ私は彼が好きなのだ。彼は誰から見ても悪役で狂人だ。しかもコース上でもコース外でも同じなのだ。そしてバイクレースにはこうした狂人が必要なのである。

俺の半生
みんな集まれ
俺の名前はアンドレア・イアンノーネ
モーターサイクルレーサーだ。今はドゥカティ・ワークスチームでMotoGPを走ってる。
生まれはヴァスト、1989
8月9日が誕生日だぜ
俺にはタトゥーと指輪があるぜ。誰もが俺を、目立ちたがりと呼びやがる
でもそのためにやってきた。ここまで俺はやって来た
兄貴のアンヘロ追っかけて俺はレースを始めたぜ
俺にはレーサーの血が流れてる
兄弟げんかをしてた頃には、親父はボクシンググローブを 渡して俺らを部屋に閉じ込め
部屋が静かになると親父はドアをそっと開け、疲れた俺らをベッドに寝かす
親父は俺を信じてくれた
親父がいたから今の俺がある。わかるかい?全てが親父のおかげなんだぜ
小学校に上がった初日に親父は俺にこう言った。「もし殴られて帰ってきたら俺にもっと殴られるからな。忘れるんじゃない、相手には倍返しだぞ」
だから俺にちょっかい出した奴ら俺には必ずぶちのめされてた
必ず俺はキレていた
ある時親父は俺に言った。「おまえは何をしたいんだ。仲間と遊んで満足か?それとも何かになりたいのか?」と
そして親父は全てを売っ払い、俺をサポートしてくれたんだ
2004年に15になってイタリア・スペイン、レースの暮らし
スタート苦手で途中で追いつき残り2周で転ける日々。自分を抑えられなかった俺。でもどうしてもなんとかしたい
それがこの俺、限界知らず
ゲームは必ず勝ちたい気持ち。ルールなんかは知らなくてもな
負けたらでっかく叫んでやるぜ
信じないなら俺といっしょに
俺のやり方感じてくれよ、見てくれ俺のやり方を

俺は私学を退学になった
ダチの部屋をテレカで開けようとしたからだ
でも退学じゃなきゃ俺が逃げてた
お願いするより謝るのがマシ
なぜかは後から教えてやるよ
次のシーズン世界に出たぜ。125のチャンピオンシップ
初の勝利は2008年、5月4日の上海だった。人生最高の1日だった
今でもそれは同じだぜ
あのとき勝ったマシンは今でも俺のヴァストの納屋に入れてる
俺の人生全部そこにある
ヴァスコを聴いてクラブ・ドゴを聴く
俺の好きな歌詞「クリスタルグラスを割ってやったぜ、だってそれが得意技だから」
わかったかい?
自分の才能信じてやるんだ、そこがすべての始まりなんだ
2010から12年までMoto2クラスで走っていたぜ
MotoGPではプラマック・ドゥカティチームで2年走った
そこで学んだ3つのことがら、考えること耐えること、そしてゴールを目指すこと

人生大好き
服も好き
ヴァスト・マリナの俺の家も好き
シャワー室にはタイルで描いた夢見る少女
リビングルームにゃパワフルステレオ
モータホームも愛しているぜ、ドライブするのはアウディのRS6ビターボだ。最高パワフルマシンだぜ
シフトダウンの音も最高、爆竹みたいな音がするんだ
ダチとの遊びも大好きだけど、一緒にいくのはほんとのダチだけ
約束守るは男の基本
100回失敗してたとしても、101回目にホントにすると、俺が言ったら実現するぜ、そいつは信じてくれてもいいぜ
誰かを抜き去るときのアドレナリンとスピードが最高
べたべたするのは好きじゃない
朝寝は最高
食うのも遅くに
寝るのも遅くに
そしてトレーニング
俺のモットー聴かせてやるぜ「びびるな、いつでも思い切るんだ」
いつでも俺は振り切ってるぜ、そいつはチャンスをつかむため
失敗するかもしれないけどな、だから謝る方がマシって言ってる。誰かにお願いするのはやだね
気持ちを隠すつもりはないぜ。それで自分が傷ついてもな
野獣の俺とはおさらばしたんだ
でもレースがないときゃ野獣が現れ、俺はそいつを解き放つ。レースの俺はプロフェッショナル。
精密機械だ信じてくれよ。信じないなら俺といっしょに、俺のやり方感じてくれよ
見てくれ俺のやり方を
くらわしてやる!

俺の名前はアンドレア・イアンノーネ
モーターサイクルレーサーだ
============
おうふ、本文の倍かかったよ…。

ちなみにこのリリック的なものは本人じゃなく、Writeandrollsociety(おそらくヒップホップっぽい詩作集団?)のMoreno Pistoという人が書いていますのよ。

あと、イアンノーネの犠牲者カモメはこちらで。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016オーストリアGP決勝まとめ:最高の6人、その他

バトルは少ないMotoGPクラスでしたが、イアンノーネとドヴィツィオーゾがトップ争いをしていたことで、ある意味余計な緊張感に満ちあふれていたレースでしたね。そんなオーストリアGPのまとめをMotoMatters.comより。
============
午後7時30分、ついに雨が降り出した。私たちがサーキットを後にしようとしていたときのことだ。土曜の夜から日曜の午後2時にはオーストリアのレッドブルリングに雨が降ると言われていたのだ。現地時間のレース開始時である。ライダーたちはここでウェットレースになることを考えて不安になっていた。誰もが雨のせいでとんでもなく広いアスファルト製のランオフエリアがどんな影響を及ぼすかを心配していたのだが、中でも何人かは心から不安に思っていたようだ。過去2回、雨のレースで残念な結果しか記録していないホルヘ・ロレンソはここでなんとかタイトル争いに踏みとどまろうとしていた。気温が低く、さらにウェットとなるとこれまでロレンソは苦労し続けだったのだ。晴れればロレンソも輝くことができる。相手がドゥカティであってもだ。

彼の願いは叶えられた。ほぼ20年ぶりとなるオーストリアでの開催となる今回、95,000人と発表された大観衆が詰めかけ、久しぶりのGPを堪能しようと待ち構えている。その味はどんなだったか?最初のMoto3ではフィニッシュラインまで初優勝を狙うライダーと優勝常連ライダーが力のこもったスリリングな戦いを続けることになった。Moto2ではレースが決まる2/3あたりまでは激しいバトルが繰り広げられた。そしてMotoGPでは素晴らしく濃密な争いに観衆は息を呑むことになったのだ。スピールベルグのコースは伝統的なバイク用サーキットではない。しかしGPマシンはここで素晴らしいレースを演じてみせたのである。

ディープインパクト

3クラスとも決勝の結果はタイトル争いに大きな影響を及ぼすことになった。どのクラスもランキングトップのライダーがその地位を固めることになったのである。Moto3では素晴らしい走りにもかかわらずホルヘ・ナヴァッロが転倒リタイヤとなったことで安定のブラッド・ビンダーがリードを強固なものにした。ロマーノ・フェナティはそもそも決勝を走っていなかった。彼はスタッフに対する横暴な態度のせいでSky VR46チームから出場を停止されていたのである。

Moto2ではヨハン・ザルコが支配力をますます強めることとなる。彼の走りは王者のものだった。それでも彼が防戦一方だったバトルを余裕の勝利につなげるまでレースの2/3を費やしてはいることは覚えておこう。そしてMotoGPだ。マルク・マルケスはモヴィスター・ヤマハの2人の後ろでゴールできたおかげでホルヘ・ロレンソに詰められた差をわずか5ポイントに収めたのだ。マルケスはレプロル・ホンダにとって相性最悪のコースを2016年のタイトルに手を掛けたまま終えることができた。残り8レースで全てが2位でも彼はチャンピオンになれるのである。

最高の6人

オーストリアGPが素晴らしいものになったのはしかしタイトル争いのおかげではない。レースそのもの、そしてその結果のおかげである。ヴァレンティーノ・ロッシが土曜に予言した通り、世界最高の6人のライダーが一歩も引くことなくバトルを繰り広げたのだ。レース結果自体は彼らの強さとマシンの強さに応じたものとなったが、レースの3/4あたりまでは誰が勝ってもおかしくない状況だった。2台のワークスドゥカティと2台のモヴィスター・ヤマハの戦いの決着はなかなかつかなかった。早々にドゥカティが独走してしまうという戦前の予想は杞憂に終わったのである。

しかしすべてはドゥカティのシナリオ通りだったのだ。彼らはシーズン最速のサーキットで大事なのは燃費とタイヤの保ちだということを理解していた。コースのほぼ半分でスロットルが全開となるのだ。そこでドゥカティはその対策を打つことにした。自分たちのマシンの加速力があれば前半は十分に戦えることをわかった上で、終盤に向けて燃料をセーブしたのである。彼らがその制限をはずしたとたん、モヴィスター・ヤマハの2台は脱落したのだ。これがドゥカティの完璧な勝利の裏側である。しかしこれは戦略あってこそだった。単にエンジンパワーで勝ったわけではないということだ。

すべては戦略

燃料をセーブするために最初は力を抜いていたのかという我々の質問に対して満足そうなジジ・ダリーニャはひと言こう答えた。「ええ」。アンドレア・イアンノーネの説明の方がもう少しわかりやすい。「燃料をセーブするために前半はあまり使わないようにしたんです。そして電子制御のマップを変えてバイクがもう少しだけ走るようになったんです」。喜びに満ちた彼はプレスカンファレンスでそう答えた。「うまくレースを進めたかったんです。だから全力で攻めることはしなかった。ソフトタイヤで走ったんでタイヤの保ちもコントロールして使い切らなきゃならないようにしないといけなかったし。空転させないように、スライドさせないようにってね。この戦略は素晴らしかったですね」

素晴らしかっただけではない。歴史的な結果でもあるのだ。イアンノーネの勝利はドゥカティにとってはケイシー・ストーナーが2010年にフィリップアイランドで優勝して以来、つまりほぼ6年ぶりということになる。アンドレア・イアンノーネが2位に入っているが、ドゥカティの1-2フィニッシュは2007年にフィリップアイランドでストーナーとロリス・カピロッシが記録して以来のことである。2011年のムジェロから2016年のバルセロナまでの89レースで優勝したのはわずか5人。ホルヘ・ロレンソ、マルク・マルケス、ダニ・ペドロサ、ヴァレンティーノ・ロッシ、ケイシー・ストーナーだけだ。そして最近の3戦の勝者はジャック・ミラー、マルク・マルケス、アンドレア・イアンノーネとなっている。

彼はやるときはやる

イアンノーネの勝利は中でも印象深いものだ。彼とチームメイトのドヴィツィオーゾ、それにロレンソを加えた3人が序盤で激しく順位を入れ替え、その後ドヴィツィオーゾがレースをコントロールし始める。彼はチームメイトの前を走り、一方ロレンソはロッシとバトルを繰り広げる。この時点でドヴィツィオーゾが勝利を手中にしたように見えた。イアンノーネは肋骨を痛めており、それが終盤で影響するに違いないと思われていたからなおさらだ。しかし勝利のにおいは最高の痛み止めである。そしてイアンノーネはチャンスの静かな足音を聞きつけたのだ。彼がドヴィツィオーゾに襲いかかったのは21周目だ。9コーナー立ち上がりから10コーナーへの進入、ぎりぎりのコントロールでドヴィツィオーゾのインに入る。そして彼の走りに火がついた。そのままドヴィツィオーゾをゴールまで従えて、わずかな差で優勝を飾ったのだ。実に見事な勝利だった。

ケイシー・ストーナー以来のドゥカティの勝利がチームが手放すことにしたライダーによってなされたのは皮肉なことだ。勝ったのはホルヘ・ロレンソと2017年に走るライダーではないのだ。しかしイアンノーネの速さは、だからこそドゥカティが彼のチームメイトを選んだ理由でもある。今回のような走りをすればイアンノーネは誰にも勝てないライダーになる。しかしたいていはこんな風に乗れないのだ。いつもでも彼のライディングはワイルドで注意力に欠け思慮がなくチームメイト(アルゼンチンで)、そしてライバル(バルセロナで)をはじき飛ばしてしまう。アンドレア・イアンノーネは潜在的にはタイトル争いをできる力を持っているが、それは集中力と冷静さを維持できることが前提だ。しかし彼にはそれができないし、やろうともしなかった。

アンフォレア・ドヴィツィオーゾについては今回の2位が彼のこれまでのキャリアを象徴していると言えよう。ドヴィツィオーゾはイアンノーネの対極に位置するライダーだ。注意深く思慮深く、そして良くものを考えている。彼もまた優勝できる才能を持っているし、タイトル争いをすることもできる力がある。しかし彼の知性と思慮深さが彼の大成を妨げているのだ。もう少しだけワイルドで、勝利が視野に入ったらもう少しリスクを冒すことができれば、ドヴィツィオーゾにもチャンピオンの可能性があるだろう。しかし彼は行動する前に考えてしまうのだ。

すべてはマシンのせい、すくなくともある部分については

ドヴィツィオーゾの2勝目の可能性があるとしたらここスピールベルグのはずだった。ドゥカティはこのサーキットでは完璧だった。もともとの特性にあっているのだ(日曜の夕方ドゥカティのCEO、クラウディオ・ドメニカリがプレスリリースで優雅に表現している通りである)。しかしドヴィツィオーゾは注意深く安全策をとってハード側リアタイヤを使うことにした。一方のイアンノーネはミディアムリアに賭け、そして勝ったのだ。

「ブレーキングではイアンノーネより良かったんです」とドヴィツィオーゾはプレスカンファレンスで語っている。「だからそこがレース終盤で鍵になるはずだと思ったんです。二人ともすごくいい戦略だったと思います。どちらも燃費に関してはリスクを冒したくなかったしタイヤも持たせたかった。だからどちらも序盤から攻めるようなことはしなかったんです。電子制御マップもいつもと違うものでしたし、トップスピードも抑えていた。でもそれは安全策の一環で、時がくるのを待っていたんです。レースでは何が起こるかわかりませんからね。でもタイヤについてはイアンノーネがグリッドで賭けに出た部分ですね。全力だと6周くらいしか保たないだろうと思っていたんです。右コーナーではグリップが足りなくて辛かったですね。彼についていくことも抜くこともできなかったんですから。すごくがっかりしてますけど、それは自分にがっかりしてるってことです。だってこれは自分たちで決めたことですから」

リスクを冒す者だけが勝利する…

そういう意味ではリスク・マネジメントこそがヴァレンティーノ・ロッシが表彰台に昇れなかった原因だと言えよう。彼は週末を通して非常に良いペースで走れていたしレースでも良いペースで走ることができた。しかしそのペースはロレンソに及ばず、無理して抜こうとしたらとんでもない結果に終わっていただろう。「何度か抜こうとはしましたし、表彰台にのぼるためにバトルしようとも考えたんですけど残念なことにレースのコンディションが誰にとっても難しいものだったんです」とロッシはレース後に語っている。「ブレーキングで巧く減速できなかったしコーナー立ち上がりもうまくいかなかった。だから僕にとっては100%コントロールできる状態じゃなかったんです。もし抜こうとしたらとんでもないリスクを冒すことになったはずです。近づこうとするために何かミスをして、結局4位ということで終わったわけです」。表彰台の可能性もあったが、そのために走ることはリスクが大きすぎたということである。

ホルヘ・ロレンソのレースマネジメントはそれより遥かに賢いものだった。彼は未だに雨の2戦での思い出に悩まされているが、それでもそこから学ぶこともあったようだ。「キャリアの危機と呼べるようなものはこれまで5〜6回ありました」とロレンソは言う。「そのたびに同じレベルか、もっと強くなって戻ってきてます。時間があれば解決できるんです。そして努力し続ければ解決できるんです。もし環境が整ったりチャンスがやっていたりすればまた元に戻れる。それが今日やったことです」

今回は危機というほどのものではなかった。いつもの通りのホルヘ・ロレンソだ。最高の状態に戻ってきたのである。スピードを手中にし、とんでもないタイムでラップを重ね、誰もついていけないペースで走り続ける。どこからこの変化がやってきたのだろうか?全ては温度の問題だ。ミシュランが適応可能な温度幅はブリヂストンのそれより狭いのである。適応範囲内ならミシュランはロレンソが必要とするグリップ力を発揮できる。温度が適応範囲外だと、機能はするがロレンソにとっては十分ではなくなってしまう。気温が低すぎると彼は迷子になってしまう。チャンピオンにとっては苦しい戦いを強いられることになっているのだ。

「ブリヂストンだと全然問題はなかったんですよ」とロレンソはレース後のプレスカンファレンスで語っている。「もしすごく寒くても温度範囲がとんでもなく広かったんです。だから寒くても暑くてもどんなコンディションでも戦えた。ミシュランだと僕にはもっと厳しい状況ですね。こういう状況でどうやったらもう少しうまくやれるか理解しなきゃいけない。でも自分の中では普通の状況が戻ってくればまたやれるってわかっていたんです。今回は優勝争いができるって示せました。まあ今日は無理っぽかったですけど。でも何か普通じゃないことがドゥカティに起こらないとも限らないわけですし。何も起こらなかったから、3位というのは現実的な位置ですね」。これからブルノ、シルバーストン、ミサノの3戦となる。そして3戦の内、2戦については好天の予報だ。フライアウェイラウンド(訳注:ヨーロッパを離れてアジア、オーストラリアを回るラウンド)前にロレンソはシーズンの調子を取り戻すだろう。

ミディアム?まじ?

ヴァレンティーノ・ロッシのプレス囲み取材についても書き留めておきたい。取材も終わり頃のことだ。タイヤについて聞かれた彼は、誰もが同じリアタイヤで走っていたといっていた。メディアが「アンドレア・イアンノーネがただ一人ミディアムリアを使っていて優勝した」ことを指摘するとロッシはそんなはずはない、ハードで走っていたはずだと重ねて主張した。こちらも混乱してミシュランに確認すると、イアンノーネは確かにミディアム、すなわち2種類用意されたリアのソフト側を使ったと返答してきた。

イアンノーネはぎりぎりまで決断を遅らせたのだ。彼がリアを換えたのはグリッドでのことだったのである。イアンノーネのタイヤチョイスが正しいものだったかについてたずねられたジジ・ダリーニャはそれを肯定している。午前中のウォームアップの段階でダリーニャはレースではハードではなくミディアムをレースで使うことになるだろうといっていた。「昨日の時点でそれが最適な選択だと考えていりました」とドゥカティの最高指揮官はいっている。「昨日の時点ではどちらのライダーにもソフトを使わせるつもりでいました。でもウォームアップでハードを使ってみることにしたらそれでもいけることがわかったんです。だから選択はライダーに任せることにしました。でも昨日の時点ではどちらにもソフトをつかってほしいと思ってましたね」

分別ある若者

ドゥカティとヤマハが速かったレースでランキングトップのマルク・マルケスはどうだったのだろう?彼はRC213Vからすべてを引き出してみせたがレース中盤までについていくのは無理だと気付いている。「レース中は苦労しっぱなしでした」とマルケスは言っている。加速力の欠如が最大の要因だそうだ。「序盤は前にいてバトルもできたし攻める走りができた。でもこのままだと完走か転倒かが半々の確率だって思ったんです。それで少しペースを落としました」

とは言えマルケスのリザルトは今年になってからの彼の進化を示している。表彰台や勝利のためにリスクを冒すよりも下唇を噛みながらもつまらない順位を受け入れることができるようになったのだ。ドライで5位というのは2015年カタール以来の悪い成績である。そしてRC213Vが問題を抱えていることが誰の目にも明らかなレースだった。しかし今回の彼はその結果を喜んで受け止めている。ロッシには2ポイント、ロレンソには5ポイント詰められただけで済んだのだ。リアのグリップがなかったということで彼も戦える状態でなかったことはわかっていたのだ。しかしドゥカティのおかげで失点は最小に抑えられたのだ。

リアグリップの欠如はマーヴェリック・ヴィニャーレスにも起こっていたことだ。スズキGSX-RRにとってはお馴染みの現象である。スズキのマシンは気温が上がり始めるとリアグリップを失う傾向にある。とは言えヴィニャーレスの反応は冷淡なものである。リアグリップが足りなくなるのは今回が初めてではないし、これからも起こるだろう。しかし残り8レースでスズキを去る彼にとってはそれが直ろうが直るまいがそれほど関係はないことだ。スズキにいる間に彼は自分の能力を、MotoGPの4人のエイリアンに割ってはいる実力があることを示せばいい。来年、戦闘力のあるヤマハに乗ったら、こんどはそれを証明する番だ。

フライング

MotoGPのレースは出だしで躓いてしまった。多くのライダーがフライングを犯してしまったのだ。カル・クラッチロー、ヘクトル・バルベラ、アルヴァロ・バウティスタ、ステファン・ブラドル、ヨニー・エルナンデスの5人もがやってしまったのだ。しかしクラッチローはペナルティが厳しすぎると考えている。フライングで得をしているどころか順位を落としてしまったからだ。ペナルティを科せられた5人の内、2人がライドスルーペナルティに関して大きな間違いを犯している。バルベラはライドスルーをおこなわずブラックフラッグが出るまで走り続けてしまった。ブラドルはピットロードに入り、ピット前で停止してしまった。ルールの厳密な解釈上はこれはライドスルーではないということでまた彼はライドスルーを科せられたのである。そして2度目は停止することなく走り抜けた。

ブラドルとバルベラのミスはダッシュボードにメッセージを表示しようという動きにも関係のあるテーマである。ふたつのチームがダッシュボードの装着ミスのせいでライダーにメッセージを届けることができなかった。バルベラはメッセージを完全に無視し、ブラドルはエンジンに問題があると勘違いしてしまった。ライトが点滅しダッシュボードの下半分が消えてしまったからだ。どちらもレースディレクションがピット出口前に表示するサインボードを無視し、ダッシュボードしか見ていなかったのである。

望みを口にするときには気を付けなさい

「公式見解としてはフライングやブラックフラッグやとにかくその他のことについてもサインボードで出した情報が公式なものなんです」とレースディレクターのマイク・ウェッブは語っている。「ダッシュボードに表示されるサインはあくまで補助的なものですし、それ以外の意味はありません。ダッシュボード自体は公式なサインじゃないんです。信号を受信して、それがレースディレクションからの信号で、それにライダーが従うなら、それでいいですけど、ペナルティの決め手になるのはピットレーン終わりのところで表示されるピットボードなんです」

ダッシュボード問題はダッシュボードのセッティングの問題でもある。それに比べればどうやってメッセージを送るかは大した問題ではない。「こういうことが起こったのは今回が初めてで、でもいい経験になりましたね」。マイク・ウェッブは言う。「こちらが信号を発信してライダーがタイミングループを通過するとトランスポンダーから受信したという信号がこちらに送られてくるんです。それでこちらも受信したからOKだなってなるんですよ。問題はマシンとダッシュボードの間で信号が流れなかったってことなんです。それに関してはチームの問題で私たちにはどうすることもできない。だからこういうことが起こったという事実が大事なんですよ。つまりダッシュボードに100%頼ることができないってことで、補助的に使うしかないってことなんです。ダッシュボードが機能不全に陥る可能性はあるわけだし、それが今日起こったことなんです」。レース・ディレクションと技術ディレクターのダニー・アルドリッジは既にアヴィンティア及びアプリリアと会合を行っており、ダッシュボードを正しくセッティングする方法について提案もしている。

今回発生した問題は、現在トランスポンダーを使用してブラックフラッグやライドスルーペナルティについて信号を送っているシステムを利用してチームからライダーにメッセージを送ろうという議論を進める際の良い経験になった。もしダッシュボードに問題があればさらなる混乱を招き安全性にも影響を及ぼしかねないのだ。送信するメッセージ、そしてそれを支えるシステムが複雑になればなるほどエラーとセッティング不良の可能性は増加する。そしてそれが引き起こすのはオーストリアでバルベラとブラドルに起こったことと同等か、ことによったらもっとひどいことになるかもしれないのだ。チームからライダーへのコミュニケーション手段を増やしたいという希望のせいで、とんでもない問題が起こるかもしれない。今回の件は関係者全てに対する警告でもあるのだ。

単なるサポートレースではなく

MotoGPがメインレースとは言うもののMoto2とMoto3も見応えのあるものだった。Moto2ではヨハン・ザルコがMoto2初の2連覇の可能性を示して見せた。彼は実に冷静に、そして考え抜いてレースを完遂してみせた。5人のライダーとのバトルの結果ポイントリードを広げたのである。彼がトップに立った時点で彼の勝利は間違いないと思わせる走りだった。このレースで25ポイントを稼いだことでタイトル獲得も相当楽になっている。アレックス・リンスも予選9番手からのスタートで3位を獲得するという頑張りをみせたが、しかしザルコを止めることはできなかった。サム・ロウズは2戦連続の転倒に終わってしまっている。フロントから転倒してしまったのだ。その結果彼はザルコから55ポイントも離されることになってしまった。

Moto3の決勝はいつもの通りアドレナリン全開だった。ホアン・ミル、ファビオ・クァルタラロ、エネア・バスティアニーニ、フィリップ・エッテルとのバトルを強いられたもののブラッド・ビンダーはいつもの通りレースをコントロールしているように見えた。スロットルの問題のせいでコーナーをきれいに立ち上がることができず、最終的にホアン・ミルがランキングトップのビンダーの前でゴールしている。ミルの勝利はルーキーイヤーであることを考えたら素晴らしいものである。しかも彼は今回ポールまで獲得しているのだ。レース後にミルは、サマーブレイク中はモチベーションを高めるためにトレーニングを続けていたと言っている。常勝だったスペイン選手権からGPに移って、結果はいつも18位とか、もっと悪いというのはそうとう堪えたのだという。ここでモチベーションをかき立てたことでトップ争いができるようになった。それどころではない。優勝まで手にしたのである。

私たちがサーキット後にするころ、パドックは片付けられ、そして雹が降り出した。MotoGPチームは月曜にはブルノに向かう。Moto3とMoto2チームのいくつかはオーストリアに留まってテストをする予定だ。しかしブルノが始まるまでは1週間もない。もちろんライダーにとっては今年のミスをカバーするチャンスがすぐにやってくるのではあるが。
============
いい終わり方。

とは言え、ピット-ライダー間コミュニケーションをピットボード以外に広げることに反対する理由に機械的ミスの可能性をもってくるのは無理筋感はあります。それよりも理念的な理由、つまりライダーは孤独であり、それこそがツーリスト・トロフィーの魂であり、つまりはGPの原点であり魅力である、ということで私は反対したいなあ(フラッグ・トゥ・フラッグ:マシン乗り替えルール導入の時も同じこと言ったけど)。

| | コメント (10) | トラックバック (0)

公式リリース>オーストリアGP2016

ヤマハホンダドゥカティ(英語)スズキアプリリア(英語)

ヤマハの翻訳の質が戻ってきて嬉しいです!

そしてアプリリアのリリース、ライダーコメントがないのが全てを物語ってるかも(ブラドルが最初にライドスルーをしなかったのはダッシュボードにライドスルーのサインが出なかったという人為的ミスの由)。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

ありがとうございます!

Amazonのほしいものリストからモンスターエナジーをいただきました!間瀬さん、ありがとうございます!

ここんとこ暑くて更新をサボりがちでしたが、エネルギー補給してガシガシ翻訳していきます。

Monene


| | コメント (0) | トラックバック (0)

公式プレビュー>オーストリアGP2016

ヤマハホンダドゥカティ(英語)スズキ(英語)アプリリア(英語)

| | コメント (2) | トラックバック (0)

「ツイッターやらサングラスやら、そういうくだらないことは全て忘れて」

Moto2ランキング、151ポイントでトップのザルコに次ぐ126ポイントでタイトル争いの渦中にあるアレックス・リンス。チームオーナーであるシト・ポンスが彼について語っています。PecinoGPより。
============
アレックス・リンスにとって8月14日からオーストリアGPで始まるシーズン後半は自分のライダーとしての実力を再確認する良い機会となるだろう。リンスはMoto3のタイトルを逃したが2017年にはMotoGPに上がることになっている。そしてこれからの9戦はフランス人ヨハン・ザルコとのMoto2タイトルを賭けた戦いとなるのだ。

アレックス・リンスが若手GPライダーの中で最も将来を約束されている一人だということはレースを知っている者なら誰もが認めるところだろう。マーヴェリック・ヴィニャーレスが青いスズキを離れて青と白に彩られたワークスヤマハに移籍することを受けて、チーム・スズキ・エクスターのマネジャーであるダヴィデ・ブリヴィオはためらいなくリンスに契約を持ちかけている。

ライダーとしてのリンスを最も良く知る人物の一人がシト・ポンスである。ポンスはこの2年間リンスが走っているチームのオーナーであり、それはまたヴィニャーレスがMotoGPに入る前の2014年に走っていたチームでもある。さらにポルとアレイシのエスパルガロ兄弟やティト・ラバトも彼のチームで走っていた。「どちらも本当に良いライダーですよ」と彼は言う。数週間前のドイツGPでリンスと元所属ライダーのヴィニャーレスについてたずねたときのことだ。その通り。どちらも素晴らしいライダーだ。どちらも結果を残している。しかしどちらの方がより良いライダーなのか?そして二人はどう違うのだろうか?

ポンスはしばらく間をおいてから答えた。何度か言葉を発しようとして、言い直している。ヴィニャーレスはもう自分のところのライダーではない、しかしリンスは自分のライダーなのだ。「どちらも本当に良いライダーですよ…、まあマーヴェリックの方が自然にいろいろできるんですけどね。アレックスはそれなりに努力を必要としているんです。マーヴェリックはピットアウトするとすぐに滑らかに走ることができて、ピットに戻ってきても全然がんばったようには見えなかったですね。アレックスもマーヴェリックと同じレベルのパフォーマンスは発揮できるんです。同じように速く走れるんです。でも努力しないとそこまでいけない。自分のやることに集中しないといけないんです」

「リンスには集中が必要だ」という最後の言葉は、まだまだこなせていない彼の課題だというのがポンスの意見だ。特にヨハン・ザルコとのタイトル争いが佳境に入るシーズン後半では大事なことである。ドイツでのレース前の段階でザルコとリンスは同ポイントで並んでいた。そしてポンスはリンスを前に率直に意見を言ったという。

「状況をはっきりさせておきたかったんです。これ以降はヨハン・ザルコだけがタイトル争いのライバルになる。そしてザルコのことだけが重要なんだと。だから彼にはツイッターとかサングラスとか、そういうくだらないことは全て忘れてザルコだけに集中しろ!って言ったんですよ。朝眼が覚めたらザルコのことしか眼中にない、トレーニングの時はザルコのことしか考えない、鏡を見たときにそこに見えるのは自分じゃない、チャンピオンになりたければそうならないといけないんだってね。それ以外にチャンピオンになる道はないって言ったんですよ。そうやってチャンピオンは手にするものなんです。アレックスはザルコ以外のことは考えられないってならないといけない…。そういうところはヴィニャーレスの方がわかってましたね。彼は自分がなんのためにサーキットに来ているのか良くわかっていた。彼は自分の仕事をやり遂げることしか考えていなかったんです」

ポンスこういったことを他の話題より大きな声でまくしたてた。その様を想像しながら読んでほしい。彼は断固たる様子でこう言ったのだ。「それしかないんです!アレックスは自分がここになんのために来ているのか、その目的が一つしかないと心に刻まなければいけないんです。世界選手権でどんな役割を演じたいのかってことです。この機会を逃してはいけない。来年はMotoGPに上がるんです。そこでタイトルを獲るのは本当に、本当に簡単なことではない。でも彼は今そのチャンスをつかみかけている。世界チャンピオンをつかみかけてる。それは彼次第なんです」

リンスはそれまでの3戦でザルコに31ポイントを献上していた。モントメロではザルコとのバトルに敗れ、ザクセンリングではポンスが彼により高いレベルでゲームを行うことでサマーブレイク前にザルコの自信を失わせておけと発破をかけた。「精神的には優位に立っていると感じているだろうし、実際その通りだ。だから彼の自信を打ち砕け。戦いがこういうレベルにきたら、しかも闘っている二人がアレックスとザルコという高いレベルなら、違いは精神的な強さだ」と彼は自分の頭を指さしながら強い口調で語ったのだ。

しかしポンスが臨んだとおりにことは運ばなかった。ドイツGPの決勝日、リンスはチェッカーまで残り3周というところで転倒し、一方ライバルのザルコはこの4戦中で3勝目ということになった。つまりリンスはシーズン後半を25ポイント差で迎えることになったのである。後半戦で225ポイント分が残っていることを考えれば手が届かないというわけではない差だ。つまりポンスが言うとおりザルコのアドバンテージは何より精神的なものに頼らざるを得ないということである。

アレックス・リンスがどういった状態でサマーブレイクから戻ってくるか非常に興味深い。彼は既にMoto3のタイトル争いに2回も敗れている。2013年はマーヴェリック・ヴィニャーレスに、次の2014年はアレックス・マルケスにチャンピオンを奪われたのだ。Moto2年目の今年、もしタイトルが獲れなければ相当よろしくないことになるだろう…。つまずき?…失敗?…それともちょっとした間違いと言われるのか?
============
プーチもそうですが、スペイン人メンターって生活指導の先生っぽいですよね。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

マルク・マルケス:シーズン中盤の告白(後編)「バカ呼ばわりされることになるかもだけどロッシの握手は信じてる」

マルケスのインタビューの後編をPecinoGPより。前編はこちら
============
生まれ変わったマルクのレースのやり方については理解した。新型電子制御といろいろ言われている2016年型RCVについても語った。まだ話していないことは何だろう?その通り、ミシュランタイヤについてだ。あらゆるブレーキングポイントでブリヂストンのフロントタイヤの性能を最大限に引き出していたブレーキングスペシャリストとして知られているマルケスだが、どこからやり直さなければならなかったのだろう?彼の答えは実に興味深いものだった。おそらくそこにもレースへの彼の新たなやり方が隠れている。

「相当でしたよ。相当自分を訓練しなおしたんです。ほとんどは開幕前にやりましたね。現時点ではフロントはかなりブリヂストンに近くなってきてます。理論的には同じじゃないけど、同じように自信を持ってブレーキングを遅らせられるし、でもまだちょっと理解できない部分もあるんです。例えばオランダのフリープラクティスでストレートで加速してるときの話ですけど、あそこでフロントが切れ込むなんて普通はないんですよ。まあいろいろ普通に起こるんですけど、あれは普通じゃない感じでした。でも好きか嫌いとは関係なく、あんなことがあるとタイヤへの信頼感はなくなりますよね。特に誰かを抜こうとしてるときとかね。だってブリヂストンなら「おお、もうちょっといけるな、タイヤもいけそうだしってなるんですけど、ミシュランだともうちょっと、なんて言うか…、限界付近の許容範囲が小さいって言うか狭いって言うか。ブリヂストンだとやばい場面があるんだけどなんとかできる。これがミシュランだと、ヤベってなると90%はクラッシュするんですよ」

マルクへのインタビューの目的は主にレース展開とマシンについてで、それ以外のネタにはあまり興味がなかった。しかしそれでも確かめておきたい話題が二つあった。ひとつはダニ・ペドロサがマルクのエンジン選択が間違っていたと非難したと報道された件、もうひとつは理論上はバルセロナでのヴァレンティーノ・ロッシと和解したように見えるという件だ。

「それについてはあんまり気にしてないですね」とマルケスはチームメイトの発言について話してくれた。「ホンダはヘレスで僕ら二人に新型をテストさせてくれたんですしね。最終的にフィーリングはそれぞれ違うでしょうけどホンダの決め手になったのはラップタイムなんです。ヘレスで僕の最速タイムも彼の最速タイムも新型エンジンで出したものだった。確かに新型は少し重いしちょっと乗りにくい。体力的にも少し厳しいし、彼のライディングスタイルには別のエンジンの方がマッチしてるかもしれないですね。でも繰り返しますけど、ライダーが2人いて、そのどちらもが別のマシンより速いタイムを出しているんです。それに僕の方が彼より速かった。速い方のライダーの意見の方が重みを持つものですしね。で、あの時点で速かったのは僕なんです。だから僕の意見の方が尊重されたんです」

ではなぜペドロサは爆発したのか?「そこはよくわからないです。彼も良いレースをしてると思いますし。でもうまくやって100%でがんばっているけど結果がついてきていない。追い詰められた気がして、本心でもなくあんな言わなくてもいいことを言ったのかもですね」

「ええ、あれについては信じてますよ」。それがモントメロでのレース後にヴァレンティーノ・ロッシが心から和解を求めて握手してきたのかどうかについての彼の答えだ。「あのときのモントメロは誰もが気持ちを取り繕うことなんてできなかったし、レース後、僕を負かした彼と眼があって、そこで体が動いたんです。まあその件についてはいつかバカ呼ばわりされるかもしれないし、そんなことはないかもしれない(笑)。でも今は信じてますよ。もっと早くそうしていればよかったんですけど、あれこそがその時だったんです。MotoGPにとってもいいことでしょうね。もちろん友達同士だなんて言うつもりはないですよ。でも少なくともプロとしての関係は築くことができてますし、それは最低限必要ですしね。ヴァレンティーノについてだけじゃなく、他のライダーについも同じですね。
 まああんまり心地良い状況じゃなかったですね。僕ら二人にとってじゃなくて、記者のみなさんにとってね。今はいい感じでしょ?1日が終わってピットに戻る。彼は彼のピットに戻る。何も変わってないんです。でも僕らはみんなライダーでコース上で闘っている。だから心から良い関係を作るべきなんです。まあレースが終わってからの話ですけどね。コース上では真っ向からバトルしますから!」
============
つまりうわべだけは取り繕うくらいに関係は良くなったと。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

マルク・マルケス:シーズン中盤の告白「惑わされないで、僕は相変わらずマルク・マルケスだよ」

8耐も終わりましたがまだシーズン開催までは少し間がありますね。
というわけで少し古い記事ですがマルケスのインタビューをPecinoGPより。まずは前編。
============
スペインのスターライダーである彼が乗っているのはMotoGPの中で最も戦闘力が低いと見なされるマシンである。にもかかわらずランキングトップの座を固めてサマーブレイクを迎えることができたのはどうしてだろう?誰もが知りたい疑問である。あなたも知りたいでしょ?だったら是非読み進めていただきたい。この疑問にマルク本人以上にうまく答えられる者はいないはずだ。

僅か3か月ほど前、シーズンがスタートする時点でマルク・マルケスがシーズン中盤をランキングトップで迎えられることに賭けることができたのは彼の熱狂的なファンと彼の家族くらいなものだった。マシン自体の素性に問題があるせいで重大な技術的問題を抱えているにもかかわらず、マルケスはそのダメージを最小にすることができた上、ライバルを圧倒している。そのおかげで彼はサマーブレイクトップの座で迎えることができたのだ。

"トップ”というのは単に2位のホルヘ・ロレンソに48ポイント、3位のヴァレンティーノ・ロッシに59ポイントの差をつけているランキングだけの話ではない。レースに臨む姿勢がとんでもなく成熟してきてもいるのだ。もちろん後半のレースには200ポイントも残っている。現時点のポイント差は決定的なものではないということだ。しかしそれでもずいぶんなポイント差である。

彼が中々良いポジションにいるというのがサマーブレイク前のインタビューの最初の話題だった。「そうですねぇ、マシンに問題を抱えているのにランキングトップに立っている理由はひとつではないんですよね。レースで勝ちまくってるわけでもないし、全セッションで最速タイムを出しているわけでもない。でも一番安定しているというのがひとつの理由かもしれませんね。いままでこんなことはなかったんでしょ!でもそうですね、安定性がでたおかげで今ランキングトップでいられるんだと思います」

新型マルク・マルケス

安定性…、どのレースも自分の最後のレースであるかのように走っていた「一か八か」のライダーが安定性を確保したということは、間違いなくマルクが自分自身を変えようとして多大な努力を払ったということである。彼が勝利以外の何かを考えて走っているなど数か月前は想像もできなかったことだ。しかし昨シーズンは転倒続きでシーズン序盤にタイトルの望みを失ったことで、マルクは「注意深く」走ることを学んだようだ。「いや注意深いというわけじゃないんです」。私が自分の考えについてたずねてみると彼はそう答えた。「いま実際に起こっていることとはちょっとニュアンスが違う言葉ですね。例えばオランダではかなりのリスクを冒してます。レースを通じてリスクを冒したわけじゃないけど、危ない瞬間もいくつかありました。そこでクラッシュしていたら、雨が降ってたから簡単にクラッシュしてた可能性もありましたし、そうなったらすべてがおじゃんになってましたね」

マルケスは今シーズン何度か「気持ちだけではなく"頭を使って"レースをするのは自分にとって簡単なことではない」と言っている。実際彼がタイトル争いを忘れた「楽しむため」だけにレースをしたのはムジェロだけだ。そのレースで彼はロレンソとフィニッシュラインまで熾烈なバトルを繰り広げたのだ。「ええ、ムジェロは今年一番リスクを冒したレースでしたね。モントメロも最後の2周まではそうでしたね。そこで僕は『わかったもう充分だ!こんな風に走ってたらクラッシュする』って思ったんです。でもモントメロではけっこうヤバい瞬間が何度もあったんですよ。あの2レース、ムジェロとモントメロで自分がどれくらいリスクを冒せるかわかりましたし、オランダでもドライなら結構リスクを冒せることがわかった。でも決勝日はあんなコンディションでしたからね」

タイトル争いのことを考えながらレースをするのは勝利を目指して走るほどは楽しくない。マルケスはレースが「決して終わらないように見える、とにかくゴールが遠い」と言っている。例えばアッセンのオランダGPでは自分のレースDNAに逆らって、ジャック・ミラーとの優勝争いから自発的に身を引いている。だからこそ彼は2位になったのを優勝したように喜ぶことができたのだ。彼は自分の本能を制御してみせたのである。

「ええ、その通りです。かなり辛いレースでしたからね。ドライでは注意すべきポイントが3か所あるんですが、雨だとコースのどこもかしこも気を付けて走らないといけないんです。あらゆるコーナーで最大限に注意を払わないといけない、本当に疲れるんですよ。、ドライでも疲れますけど、それって体力的な話出、でも雨だと精神的に疲れ切ってしまうんです。アッセンの決勝日の夜はすごく早寝でしたよ、精神的に本当に疲れるレースでしたからね。

2016年型RCVの難しさ

マルケスが変化せざるを得なかったのはHRCが投入した2016年型RCVのせいである。マルクが2016年の開幕前に選択したエンジンは今シーズンから導入された統一電子制御ユニットとのマッチングが今ひとつだったのだ。シーズン当初は昨年のシステムと比較して今シーズンのシステムは30%程度の能力しかかなったと彼はインタビューで教えてくれた。30%である!

「ええ、でも今はそれほど悪くはないですよ。もうかなり去年のものに近くなってきてます。85〜90%くらいまで来てるんじゃないでしょうか。問題は他のメーカーは100%使いこなしてるってことですね。特にドゥカティはそうですよね。ドゥカティの後ろにつくと、前と同じことが起こってる。加速でおいて行かれるんです。でもこれはエンジンだけの問題じゃないと思ってます。電子制御の問題でもあるんです。去年も加速では負けてましたけど、今年は新型電子制御のせいでさらに差がついてますね」

30%から85%!マルクが序盤に使っていた電子制御の性能を考えれば、現時点で彼がランキングトップにいるというのは実に驚くべきことである。ロッシやロレンソという強力なライバルと戦いながらここまで開発を進めてきたのだ。

「ええ、本当はシーズン前に開発しなきゃいけないんですけど、でも今年のプレシーズンテストでは、フィリップアイランドでトップタイムが出せてましたしね。でもあそこは電子制御があんまり関係ないコースでもあるんです。3速とか4速の高速コーナーが主体ですからね。もちろん電子制御は関係しますよ。どこでもそれは同じです。でも他のコースほど影響はしないんです。例えばトラクションコントロールもそれほどエンジンパワーを切ってこない。でも11月にヘレスで電子制御をテストしたときにはレディングやペトルッチやバルベラなんかに前に行かれてしまった。2月のマレーシアでは8番手か9番手だった。今でもまだ出遅れてるんです」

つまりは新型電子制御とホンダが新たに導入した逆回転クランクシャフトのエンジンの相性が悪かったというか、今でも悪いということなである。昨シーズンまではHRCのエンジンは唯一順回転のクランクシャフトだった。エンジンはパワーは出るが、引き替えにRCVは曲がりにくくウィリー制御も難しいところを、ホンダのとんでもなく洗練された電子制御で手なずけていたのである。しかしそれも今シーズンから使えなくなってしまった。

「新しいタイプのエンジンでうちのエンジニアはウィリーを減らして加速を改善しようとしててたんです」とマルケスは去年型からの違いを説明してくれた。「理論的にはウィリーが減るはずなんですが、でも実際にはそれほど変わらなかったですね。高速コーナーでも理論的には速くなるはずでした。ムジェロやモントメロ、カタール、フィリップアイランドとかではいつも苦労してましたからね。高速コーナーではかなり他のメーカーに近づいてきてますよ。でも逆にマシンがうまく減速できなくなったんです。前のモデルはあるサーキットではとんでもなくすごくて、別のコースではとんでもなく難しいってタイプだったんですが、今年のマシンでも苦労はしてますけどコースによる違いが小さいんですよ」

楽観的な見方をするなら、サーキットによる違いが少ないのであれば新しいサーキットでは楽に走れるということだろうか?…大間違いだ!「そこは同じですね。結局もっと速くって気持ちは同じなんですから。どのコースでも最速なら楽に走れるでしょうけど、実際にはそうじゃないわけですし。どのコースでも最速というわけじゃないんだし、でも最速になりたいんですからね」。マルクはライダーとして「成長した」かもしれないが、でもそういう気持ちはあるわけだ。それどろか勝利への渇望をかけらも失っているわけではないということである。その口調はあたかもこう言っているかのようだった。「惑わされないで下さいね。僕は今でもマルク・マルケスですよ」
============
夕ご飯の買い物してきたら後編を訳します。「いつかバカ呼ばわりされることになるかもしれないですけど、それでもモントメロでのロッシの握手は信じてますよ」というネタ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2016年7月 | トップページ | 2016年9月 »