« マルケス、ザクセンリングを語る | トップページ | マルク・マルケス:シーズン中盤の告白「惑わされないで、僕は相変わらずマルク・マルケスだよ」 »

危険を冒す者だけが勝利を手にする

Mat Oxley氏がドイツGPのタイヤについて書いていますのでMotor Sport Magazineより翻訳。ありがたいありがたい。
============
日曜は単にマルケスのタイヤギャンブルがうまくいき、ロッシのそれが間違いだったというだけなのか?それとももっと深い話なのか?

「さあ、プールに行って、ビーチに行って、友達とパーティーだ」。日曜の午後、歓喜の絶頂でマルケスはそう言った。

23歳の彼の笑顔はいつも以上にうれしそうだった。自分でも今回のザクセンリングでの勝利がどれほどのものかわかっていたのだ。2016年を振り返ったときに最も重要な勝利となるかもしれないのである。

これ以上はないほど予測不可能で複雑なコンディションの中、彼はいつもの通りのことをやってのけた。限界まで攻めて、そして限界を超えたのだ。最初は時速130kmでのダートトラックを演じ、そしてコース上で最も失うものが多いにもかかわらず、運を天に任せて賭けに出たのである。

マルケスが誰よりも早くスリックに換えたのは実に示唆的だ。それだけではない。とんでもなく勇気のある選択だった。冷たい濡れたアスファルトでタイヤに熱を入れ損なってスリップでもすれば大馬鹿者と言われかねなかったのである。ドイツのGPスター、ラルフ・ヴァルドマンがこうしたコンディションについてこう言っている。「愚者と勇者は紙一重だ

実を言うと、スリックで走るという他のライダーからしてみれば気狂い沙汰としか思えないような賭けにマルケスが出たのは単なる直感ではない。

彼がこれほど早くマシンを交換するという決断をしたのは彼独特のアグレッシブなライディングテクニックのせいでエクストラソフトレインのフロントが終わっていたからというのが主な理由だったのだ。つまり彼はその時点でスリックを履いた2台目に交換せざるを得なかったのだ。これ以上走れる状態ではなかったのである。

そのせいで彼はまだ濡れたコースに、しかも温まるのに時間がかかる新品のスリックで出て行くという恐ろしい状況に陥ることになった。その2ラップ前にマシンを換えていたロリス・バズはフロントがインターミディエイト、リアがスリックという組み合わせだったが、それでもアウトラップで怖い思いをし、結局すぐにピットに戻ってリアをインターミディエイトにするよう懇願するはめになっている。スリックでは危険すぎたのである。

もちろんマルケスにとってもコースコンディションは同じだった。ただしそれを除けば彼は全く違うことをやってのける。まるでケイシー・ストーナーのようだった。ピットを出た彼は全力でアタックを開始したのだ。コーナーにはフルブレーキで入り、全開で立ち上がる。冷えたタイヤでありがちなことだが予告無しにマシンが体の下からいなくなる可能性もあったのに、それを顧みることもなかった。

あちらを立てればこちらが立たず。レーサーにとっての悪夢である。路面は「さあ行こうぜ!最高だよ!」と歌ってくれる状況ではない。冷えたコースと冷えたタイヤというのは、そんな状況から最も遠いところにあるのだ。気味が悪くて暗い迷宮に入り込んだようなものである。タイヤがグリップするほどの熱を持つにはスピードを上げなければならないのに、タイヤがグリップしない状況でいったいどうやってタイヤに熱を持たせるほど速く走れるというのだ?

その迷宮から抜け出す方法はたったひとつだ。ミノタウロスの角をその手でつかみ、素早く相手の弱点に蹴りを入れ、そしてあとは幸運に賭けるのである。それこそがマルケスのやったことだった。ブレーキをがつんと掛け、右手を一杯にひねる。一歩間違えれば大惨事となる崖っぷちで、常に大きなリスクを冒しながら彼は走り続けたのだ。

彼は懸命にタイヤに荷重を掛け続け、そしてタイヤは摩擦により熱を持っていく。そうやって彼は23周目の6番手から残り2周というところで18周の差をつけてトップに立ったのである。彼は全てを失うリスクを冒しながら自らのすべての才能を注ぎ込み、崖っぷちで生き残ってみせたのだ。勇気だけでは不十分だった。あれほどの才能があるマルケスでなければ崖から落ちてしまうことになっただろう。

普通のライダーではこうした矛盾する状況から抜け出すことはできない。時速270kmで場所によってはわずか十数センチしかないドライのライン上を縫って走るというならなおさらだ。コーナーに入ろうとすればフロントは切れ込み、スロットルに触れただけでリアは空転する。

マルケスが何かを少しでも気にしているとしたら、それは濡れた部分のグリップの少なさだったろう。レインタイヤで8コーナーをハイスピードで曲がる際にいちどウェットラインを通ってそれは身にしみている。わずか数時間前のウォームアップでは同じ場所で大クラッシュを喫している。

それを除けばマルケスは踊りながら綱渡りをやってのけたと行ってもいいだろう。彼の「悪魔?誰それ?」と言わんばかりの走りは、開いた口がふさがらないほどの才能の現れであり、そして彼自身がその才能を信じていることの証でもあった。

では綱渡りをするほど大胆ではなかったライダーはどうだったろうか?そして綱渡りに挑戦して落ちていったライダーは誰だったろう?

ヴァレンティーノ・ロッシはピットに入るのが遅れた上に、交換したマシンが履いていたのがインターミディエイトだったせいで、重要な一戦を落としてしまった。乾いた路面では十分な速さを発揮できなかったのである。

しかしそれは彼がとんでもない判断ミスをしたということではない。寒い状況で行われた金曜のプラクティスで、ロッシはフロントタイヤに熱を入れられないことを悟っていたのだ。「2台目にはインターミディエイトを履かせることに決めていたんです。いちばんソフトなコンパウンドでもフロントに熱を入れられなかったんでね」と彼は言っている。4コーナーから10コーナーまで25秒にわたって続く左コーナーの連続のあとのやっかいな右の11コーナーがポイントだったのだ。「机上の議論ではスリックの方が速かったのかもしれませんけど、そしたら序盤のラップでかなりタイムを落としていたでしょうね。フロントの感触が全然なかったんです」

だからロッシはインターミディエイトを選択したのである。つまりこれは彼のミスでもチームのミスでもなかったということだ。

ホルヘ・ロレンソは明らかにもっと悪い状況に陥っていた。どうして世界が逆さまになってしまったのかわからないとでも言うように、15位あたりをふらふらしていたのである。金曜、土曜と彼は3回の転倒を喫していた。去年18レースを通じて喫した転倒と同じ回数だ。彼の問題はロッシと同じだったが、さらに悪かった。路面温度が低い状況でやはりフロントタイヤに熱を入れられなかったのだが、これはヨーロッパ北部で開催された過去2レースと同じ状況である。

ロレンソがロッシよりかなり苦しんだのはM1の乗り方やセッティングが違うせいでもある。ロレンソのライディングはおそろしくスムーズで、コーナー進入でも立ち上がりでも前後のピッチングがほどんどないのだ。つまり彼はロッシほどタイヤに荷重を掛けていないため、摩擦力もグリップも稼げないということなのである。

ヤマハは冷えた路面や濡れた路面でこうした問題が起こることは理解しており、彼らとしてもなんとかして長く低いM1でホンダと同じようにグリップを作り出さなければならないこともわかっている。皮肉なことに今年はじめの段階ではHRCがミシュランのグリップの少ないフロントスリックのことを心配していた。そのせいでマルケスのいつものコーナー進入のうまさが失われる可能性があったのだ。しかし実際にはマルケスのとんdねもなくアグレッシブなライディングスタイルがミシュランにマッチしていたようだ。そのせいでフロントタイヤが熱を持つことができたのである。フロントタイヤが熱を持ちすぎて問題になるようなコースに行くまでその優位性は保たれるだろう。しかしそうなれば今度はホンダが苦しみヤマハが逃げることになる。

ヤマハはミシュランを責めてもいいのだろうか?そんなことはない。タイヤは全メーカー同じものを使っているのだ。メーカーはタイヤに合わせてマシンを造らなければならない。統一タイヤというのはそういうものだ。タイヤブランドとメーカーの相性があるのは仕方がないことなのである。

日曜午後のロレンソはマルケスとは対照的だった。「これからゆっくり休んで、復活に向けてここ数戦のことは忘れるようにしますよ」

次の疑問はもちろんオーストリアGPについてだ。ヤマハとしては夏らしい暑い日が訪れることを望んでいるだろう。レッドブル・リングはコースに二つしかない左コーナーの前は1分近く右コーナーが続くというレイアウトなのだ。
============
うむ。今回はホンダの戦略勝ちな部分もあるんですけど、マルケスの天才があるからこそなんですね。

|

« マルケス、ザクセンリングを語る | トップページ | マルク・マルケス:シーズン中盤の告白「惑わされないで、僕は相変わらずマルク・マルケスだよ」 »

コメント

なんかカテゴリーは違いますが、今回のレースはF1で全盛期のセナやシューマッハを思い出しました。
ウォームアップで派手目の転倒してうずくまっていたのにレースでは、ああいう走りをするんですもんね。
ライディング能力、そして勇気。
まさに何年かに一度の逸材、マルクマルケスは天才なのでしょう。

そういえばウォームアップでトップタイムを出していたダニに淡い期待を持っていましたが残念でした。

ヤマハは夏休み返上で改善作業に追われるかもしれませんね。

投稿: motobeatle | 2016/07/20 20:16

>motobeatleさん
 なんか、確かにシューマッハの凄さがありますね。
 そしてダニ…。

投稿: とみなが | 2016/08/06 17:00

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/69409/63938535

この記事へのトラックバック一覧です: 危険を冒す者だけが勝利を手にする:

« マルケス、ザクセンリングを語る | トップページ | マルク・マルケス:シーズン中盤の告白「惑わされないで、僕は相変わらずマルク・マルケスだよ」 »