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バイクレースについて、そして危険性と死

ルイス・サロムの事故を受けてMotoMatters.comよりDavid Emmett氏の記事を。
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「モータースポーツには危険が伴います」。私のメディアパスの裏にはそう書いてある。プラスチックのカード。いつも首から下げていて、そのおかげでパドックやメディアセンターに入ることのできるカードだ。同じ言葉がサーキット中に満ちあふれている。ライダーのパス、チケットの裏、サーキットを囲むフェンスの看板。

何度も目にする決まり文句で、当然のように意味を失っていく。そしてある時、現実が突然目の前に立ちはだかり、その陳腐な言葉の裏にある真実を皆が思い知ることになるのだ。

金曜、それが最悪の形で私たちの心に刻み込まれてしまった。Moto2クラスの午後のフリープラクティスで、ルイス・サロムが11コーナーを立ち上がって12コーナーに向けて加速していく。コーナー直前、170km/hに達したところで彼は高速右の12コーナーのためにフロントブレーキに触れる。その時点でサロムはマシンコントロールを失い、転倒。彼とマシンは壁からライダーを守っているエアフェンスに向かっていく。マシンと人間は、4輪がコースアウトしたときに備えて舗装された部分を滑っていき、まずサロムのマシンがエアフェンスと壁に衝突し、そこから跳ね返ってサロムに当たり、致命傷を負わせることになった。

サロムはコーナーでそのまま治療を受け、地元の病院に搬送された。医師団は彼の命を救うために全力をつくしたが、悲しいことにそれは徒労に終わってしまう。ルイス・サロムは2016年6月3日、午後4時55分に死亡した。24歳だった。

モータースポーツには危険が伴う。命を奪うことすらあるのだ。幸いなことに、少なくともショートサーキットでのレースでは最近死亡事故はほとんどなくなっている。世界選手権では2013年のモスクワ・レースウェイでのワールドスーパースポーツでアンドレア・アントネッリが死亡して以来、死亡事故は起こっていなかった。その前は2011年のセパンのMotoGPレースの1周目のマルコ・シモンチェリの事故となる。そしてその前年にはミザノのMoto2レースで富沢祥也が亡くなっている。

ルイス・サロムの死で我々はあえて目を背けていたバイクレーサーが直面する危険性というものについて再び考えさせられることとなった。サロムの事故の後、パドックを恐怖が駆け抜けた。悪いことが起こったのは誰もが理解していたが、しかしそれでも皆がそれぞれのやり方で、それぞれの神や祈るべき対象にすがっていた。転倒したライダーに運命が微笑みますようにと。

私たちはいつものようにライダーのコメントをとっていた。しかし状況の深刻さがわかってくるにつれて、インタビューの雰囲気は急速に変化していった。質問は短く、返答は簡単に、要点だけに。ライダーもチームもジャーナリストも、誰もが心配で仕方ない様子をあらわにしていた。

ドルナが記者会見を開くという情報を聞いて、我々の気持ちはさらに沈んでしまった。希望も願いも祈りも無駄だったのだ。その時点でルイス・サロムが亡くなったことを知ったのである。そのすぐ後、プレスリリースでその事実が裏付けられた。記者会見は記者会見とは呼べないものだった。MotoGPのメディカル・ディレクターがサロムの死についての公式発表を読み上げただけだったのだ。記者には質問禁止の旨が伝えられていた。それを聞いた私は憤慨したが、すぐに怒っても意味も無いことに気付いてしまった。何を聞いたらいいのかもわからないし、記者会見の場にいる誰も状況を精確に把握してもいないのだ。それには時間が足りなかったのだ。

棺を覆う布がパドックに降ろされたかのようだった。あるレギュラーライダーはこの様子を「薄気味悪い」と言っていた。まさにその通りだ。パドックはあり得ないほど静まりかえっていたのだ。いつもならコースからマシンが消えると、パドックが賑わい始める。スピーカーからは音楽が鳴り響き、ホスピタリティでは成績が良かろうが悪かろうがそれを祝うためのパーティーが始まる。どこもかしこもざわついているのは、今日のアドレナリンを開放すべく、さまざまなイベントやおしゃべりに花が咲くからだ。あちこちで会話が飛び交い、広大なパドックで誰もがゴシップや挨拶や悪口を大声で話している。

金曜、こうしたすべてが消えてしまっていた。静かな立ち話。誰もがうつむいている。誰かがやってきても、無言のうなずきとちょっとした手振りで出迎えるだけだ。誰も叫んだりはしない。悲しみがパドック中を覆っていたが、泣いている者は少なかったし、表だって悲しみを口にする者もほとんどいなかった。

ルイス・サロムの死はこうして迎えられたのだ。富沢祥也がミザノで無くなったときのことを思いだした。死がパドックに忍び寄る。いつものことだ。そして私たちは死がそこにいないかのように振る舞うのだ。ライダーは自分には関係ないと自分に言い聞かせながら、自分を危険に晒していることに思いを馳せないままリスクを冒す。ジャーナリストは深刻な怪我をするリスクを無視しながら危険に挑戦する彼らの姿を百万字を費やして賞賛する。

チームはマシンをとにかく速く、そしてとにかく完璧に作り上げる。レースディレクションやマーシャルやサーキットの医療スタッフやクリニカ・モビーレのスタッフはコースとレースを安全なように、そしてリスクを最小限に抑えるように全力を尽くす。コース設計者やヘルメットメーカーや安全装備のメーカーは、転倒したライダーのダメージを少しでも減らすべく安全性を向上させるための新しいやり方、それも天才的なやり方を開発しようと日夜努力を続けている。

ありがたいことにそうした致命的な怪我はどんどん減っているとは言え、クラッシュしたらライダーが深刻な傷を負う可能性については誰もが理解している。そしてそれが死につながる危険を内包していることもしっている。しかし誰もが安全性を高めるために努力を続けていても、以前よりましになったということに過ぎないのだ。リスクはゼロではないのである。ゼロにすることは不可能なのだ。だからこそ私たちはそのことを考えないようにしているのだし、さらにリスクを減らすために努力を続けているのだ。そして幸運を祈り続けるのである。

様々なことが計り知れないほど改善されている。FIMのMotoGPリザルトガイドをひもとけば、1950年代から60年代までは毎シーズン全クラスで何らかの注釈がついているのが目に留まるだろう。ある注釈にはこう書いてある。プラクティス中の事故で死亡。別の注釈にはこうある。レース中の事故で死亡。これがすべてを網羅しているわけではない。シーズン中にポイントを獲得したライダーについてしか書かれていないからだ。しかもこれは公式記録に載っていることだけである。昔は毎レース誰かしらが死んでいた。そして毎週のように葬儀が執り行われていた。

当時からライダーもジャーナリストもチームも、現代と同じように死の危険に対応していた。死について考えすぎないようにする。もし考えすぎたら動けなくなってしまい、生活の糧を、そして情熱の行き場を別の世界で探さなければならなくなってしまうからだ。

バイクレースの根幹につきまとう矛盾がこれだ。なぜバイクレースをやろうと思ったのかとライダーにたずねれば、彼らはスリルと危険、刃の上でリスクを感じながら速く走ることの喜びについて語るだろう。そして同じライダーが金曜にドルナのブースに大挙して駆け込んで安全委員会に面会を求め、そしてコースの危険性について苦情を申し立てる。危険が魅力で彼らはレースを始め、そして同時に彼らはその危険を怖れてもいる。ファンが楽しみにしているのも危険を顧みないショウだ。しかし危険があらわになるとファンは衝撃を受け、悲しみに沈むことになる。

なぜ今回のクラッシュは起きたのか?現時点では不確定な要素が多すぎるし、わかっていないことも多い。路面、レイアウト、壁の設置場所、グラベルではなく舗装だったことなど、やろうと思えば問題はいくらでも指摘できる、しかしまだはっきりしたことはわからない。すべてが把握されているわけではないし、まだ調査中である。まだ私は関係者の誰にも話をきいていないし、データも誰も観ていない。要するに何が起こったか誰もわかっていないということだ。どんな要素がどれほどの割合でルイス・サロムの死を招いた悲劇的なクラッシュに影響しているかは誰も知らないのである。その内、すこしずつわかってくるだろうし、何が悪かったのかも見えてくるだろう。しかしそれは今ではない。

とは言え、わかっていることを振り返っておこう。

コースは信じられないほど滑りやすかった。ここ何年も舗装改修が行われていないのだ。サロムのクラッシュの前から全クラスのライダーが路面状態を問題視していた。

12コーナーの外側は舗装されている。エアフェンスまでアスファルト舗装なのだ。非常に狭くなっているため、4輪が壁に激突しないようハードブレーキングをできるようにしているのだ。ここはライダーが転倒するような場所ではないということもある(一番記憶に残るのは2014年のニッコロ・アントネッリだが、コーナーのかなり奥で転倒したにもかかわらず滑っていった彼は壁に当たる前に止まっている)。本来ならサロムとマシンの滑る速度を落とせるようになっているべきだったが、そもそもここでのクラッシュは想定されていなかったのだ。

10コーナーから12コーナーにかけての2輪用専用のレイアウトはFIMの認証を受けたもので、高速の流れるようなものとなっている。高速コーナーが緩い曲率でつながっているのだ。FIAが認証したF1用のレイアウトは10コーナーがきついヘアピンとなっており、マシンのスピードを落とすようなコーナーがそれに続いている。12コーナーは採取コーナーに向けてきつい右から始まるシケインとなっているのだ。

土曜日以降はこのレイアウトを使うことになる。何人かのMotoGPライダーは2014年のレース後テストでこのレイアウトを走ったことがあるが、これを気に入ったのはマルク・マルケスだけだった。他のライダーは安全性についてはみとめていたものの、全く気に入らないと言っていた。せっかくの高速コースが台無しだというのだ。結局彼らはこのレイアウトを使うことを拒否し、サロムの死につながった2輪専用レイアウトに固執したのである。

後になってみれば何でも言えるということだ。もし安全委員会がコースの再舗装を要求していればもっとグリップがあったろう。もしFIMの安全委員がサロムがクラッシュしたまさにその場所でクラッシュが起こりえることを指摘していたら(またはクラッシュの確率を予測できるモデルを使っていたら)、舗装したランオフエリアの改修を要求していたろう。

サーキットのオーナーは壁が近すぎると認識し、壁を後方に下げる工事をしてランオフエリアを広げることもできたろう。FIMの安全委員はレイアウトが危険だと指摘してMotoGPもF1と同じレイアウトとするよう決定することもできたろう。

できたはず、やるべきだった、そうなるべきだった。でもそうはならなかった。そして一人のライダーが死んだ。彼らは責めを負うべきだろうか?いや、まだどこにどれくらい責任があったかを決めるには早すぎる。まだそんな段階ではない。

ルイス・サロム自身もモータースポーツに危険が伴うことはよくわかっていた。だからこそ彼はモータースポーツに身を投じたのだ。彼はこうしたリスクを考えないようにしていたはずだし、自分にそれが襲いかかってくるとも思っていなかったろうだろう。しかしサロムには運がなかった。

明日、私たちはこの出来事を過去にしてバイクレースという仕事を再び開始する。誰もが、ライダーも、チームも、ジャーナリストも、ファンも、自分たちを取り巻く危険を少しは気にするようになるだろうが、しかし時間が経てば再びスリルに取り憑かれ、予選の興奮、そしてレースのスリル揃って身を投じることになる。ルイス・サロムの悲劇を忘れ、そしてカタルニアGPでは誰が勝つか、そしてそれが2016年のタイトル争いにどう影響するのかに思いを馳せるのだ。

それこそがルイス・サロムの望んでいたことだ。彼の家族はGPが少々変更はあるもののいつもと同じように行われることを祝福している。日曜、私たちはコース上のバトルに酔いしれる。若者が命と肉体を危険にさらして誰が一番速くバイクを走らせるのかを競っている。今日の悲劇を忘れショウを楽しむ。そうやって私たちは死者の栄誉をたたえるのだ。私たちはレースを観る。その時私たちは命を失ったライダーたちの思い出も同時に目にしているのである。彼らは私たちの心と記憶に生きているのだ。
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R.I.P.

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コメント

朝、オフィシャルサイトを見て知りました。
監視カメラの映像を見るに、バリアー衝突まで全くスピードが落ちていないように見えます。
ちょっとライダーのミスには見えません。
昨年八耐のストーナーの様にスロットルがスタックしたか、もしくはブレーキトラブルではないかと感じました。
マシンから飛び降りたにも関わらず、本当に残念な結果となってしまいました。
原因は必ず究明しなくてはいけないと思います。

コースレイアウト変更は良い事でしょう。
とにもかくにも、このレースウィークがこれ以上なに事も無く無事に終わることを願います。
他のライダーの心理状態も心配です。
正直、レースそのものをキャンセルしても良いのではないか?とも思うのですが、、。

ルイス・サロム選手のご冥福をお祈りします。

投稿: motobeatle | 2016/06/04 16:12

>motobeatleさん
 なんか大治郎の事故を思い出すような映像でした。

投稿: とみなが | 2016/06/04 16:34

レイアウト変更は以前から指摘されていたように思うのですが…アスファルトのエスケープゾーンだったことも不運でした…

さよならメヒカノ。淋しいよ。

投稿: りゅ | 2016/06/04 20:41

>りゅさん
 結局バンプにのっちゃったという不運だったんですね…。

投稿: とみなが | 2016/06/06 21:54

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