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2016バルセロナ土曜まとめ:危険との折り合い、データに基づく設計、そして文句を言う権利

サロムの死亡事故を受けてF1レイアウトに変更されて行われた予選ですが、「変更に関して意見を言いたかった」とロッシやロレンソが発言したことに対して多くのライダーが「だって君ら安全委員会に出席しなかったじゃん」と返してやや炎上気味。そんなこんなの土曜日まとめをMotoMatters.comより。
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ライダーが死亡した後のMotoGPのパドックはどんなことになるのだろうか?いつも通りだ。正確には、ほぼいつも通りと言うべきだろう。マシンがコースを周り、ライダーは競い合う。しかし会話の声はいつもより静かで雰囲気は沈鬱だ。パドック中がいつもより静かだ。いつもと変わらないのは4ストロークのレーシングエンジンの爆音だけである。

冷淡に過ぎるように見えるだろうか?そう言ってしまうのはややひどすぎる。これは適応のメカニズムなのだ。悲劇に絡め取られて危険性に目が向きすぎるのを避けるために、いつものように仕事に没頭する。しかもそれがルイス・サロムの家族とチームの希望でもあるのだ。ドルナのCEO、カルメロ・エスペレータが彼らの希望をたずねたとき、レースを続けるように要望されたのである。

その願いは叶えられた。しかしパドックの誰もがそれを望んでいたわけではない。ダニオ・ペトルッチはイタリアのメディアに対して、本当は荷物をまとめてうちに帰りたかったと語っている。そう思っていたのは彼一人ではない。「昨日は弟と一緒にずっと泣いてました。あんなに若いのに死んじゃったんですよよ」とアレイシ・エスパルガロは私たちに言った。「ほんとうにひどい話だ。ポルも僕もいちばんいいのはレースをしないってことだと思ってました。僕は空っぽの気分なんです」。私たちも空っぽの気分だった。それは今でも変わらない。

まだ2日ある

状況を複雑にしているのは、最近のGPでの死亡事故はレース中に起こっていたのに今回はプラクティス中だということだ。富沢祥也が2010年にMotoGPレースでクラッシュしすぐに病院に搬送されたが、彼の死亡が宣告されたのはMotoGPレースのスタート後だった。2003年の鈴鹿の事故で昏睡状態となった加藤大治郎が死亡したのは2週間後だ。2011年のマルコ・シモンチェリの死亡事故はMotoGPレース中に発生し、そしてレースはキャンセルとなっている。

ルイス・サロムが死亡したのはプラクティス初日だ。レース中にライダーが死亡したのであれば、それを受けて何かをするような時間はない。レースは続けられるかキャンセルされるかだ。そして全員が家に帰り、愛する人の死を受け入れるための時間をもつことができる。金曜、ライダーが帰るのはモーターホームやホテルだ。チームメンバーやメディアも同じ。そしてそこで座り込んで考えにふけるのである。

しかしライダーは再びコースに戻ってこなければならない。しかも新たに設定されたレイアウトで走るのだ。危険は変わらず存在している。しかしライダーはそれをモータースポーツについてまわるものとして受け入れるのである。「それについては考えないようにしてるんです」とポル・エスパルガロは言った。「なんでみんなバイクレースが好きなんでしょうか?僕らがストレートを350km/h以上のスピードで駆け抜けるからなんです。コーナーを200km/hもの速さで回っていくからなんです。危険で、だから僕らの走りを見ることで、自分では手に入れられない興奮を味わうことができるから好きだって人もいますしね」

死そして危険と折り合いをつける

しかしどうやって危険と折り合いをつけているのだろうか?私は彼にたずねてみた。死ぬかもしれないってわかっているのに、それとどう折り合いをつけてるんですか?「頭では理解してるんですよ。でもはっきりと意識することはないんです」。エスパロガロはそう正直に答えてくれた。「彼女とそんなことを何度も話したことはありますよ。で、彼女は言うんです。『やめて、そんなことは言わないで!』ってね。そういう感じなんですよ」。危険性を知っていてもポル・エスパルガロは何かを変えるつもりはないとも言った。「いつかクラッシュして怪我をして、ことによったら死ぬかもしれない。もしあと3年以内くらいに死んじゃったら、また人生をやり直して同じことをするでしょうね。それが僕らの生き方なんです。ルイスも絶対同じだと思いますよ」

ライダーは危険というものを心の片隅に押しやって、そこに目を向けないようにしている。ではこんなに危険があらわになったあと、彼らはどんな風に走っているのだろうか?「簡単ですよ。ライダーというのはコース上で起こる悪いことについては考えすぎないようにしてるんです」。アンドレア・ドヴィツィオーゾはそう説明する。「起こりえるあらゆる可能性のことを考えながら毎回乗るなんてできないんです。だってそんなことを考えてる余裕がある周回なんてないですからね。ずっと限界で走り続けてるわけですし」。毎ラップ限界まで攻める、少しでも早く走ろうとする、そしてリスクは無視する。「本当に速く、そしてもっともっと速く走るためにはそれにに集中しないといけないんです。そうやってプラクティスではいつも上に行こうとするんです」

ライダーが行動するのはサロムのような辛い事故とが起きたときだけだともドヴィツィオーゾは言う。2014年にライダーたちがF1用の10コーナーをテストしているが、その提案を却下しているのだ。「あのときは、つまらないし遅いってのが何人かのライダーの意見でしたね。だから何か悪いことが起きるまでは安全性が最優先事項にならないってことなんです」

何が起こったのか?

では何がルイス・サロムに起こったのだろうか?ドルナのCEO、カルメロ・エスペレータとFIM安全委員のフランコ・ウンチーニがそれを説明するため、そしてなぜライダーがコース変更を決定したのかについての記者会見を行っている。サロムは11コーナー立ち上がりでマシンのコントロールを失い転倒、マシンはエアフェンスに真っ直ぐ向かい跳ね返ってサロムを直撃。その衝撃が内蔵にダメージを与え心停止に陥ったということだ。

クラッシュがどのように起こったのかはかなりの難問である。サロムがクラッシュした場所がそもそも通常の場所ではないのだ。彼が路面に残した跡はコーナーの外側、それも普通のレーシングラインのかなり外側だったのだ。サロムはアウトラップでかなり攻めていたが、なぜそんな場所でクラッシュしたかについてはまだ解明されていない。普通ではない場所でクラッシュしたことが命取りになった。サロムが奇妙なラインを走っていたことで、真っ直ぐ壁に向かってしまったのだ。そしてそこはF1がF1用シケインをはずれた場合に壁に当たる前にブレーキングできるように舗装されたランオフだったのだが、比較的奥行きがないのである。

エアフェンスと舗装されたランオフエリアの組み合わせが致命的な事故を起こすことになってしまった。もしサロム自身がエアフェンスに当たっていたなら死ぬことはなかったろう。エアフェンスは2年前のニッコロ・アントネッリの事故を受けて設置されたものだが、もしエアフェンスがなければサロムは壁を直撃し、かなり深刻なことになっていたと思われる。一方、マシンが別の方向に跳ね返っていればサロムを直撃することはなかったろう。アスファルトのせいでサロムとマシンは同じ方向に進んでしまっていた。グラベルであればサロムとマシンの摩擦の違いで方向は変わっていたろうし、そうなれば両者が激突することもなかっただろう。

不和の種

12コーナーが危険だとわかっていたかどうかが新たな争いの種となっている。記者会見ではカルメロ・エスペレータは安全委員会に対してグラベルにするようにという要望はきていないと言っている。またフランコ・ウンチーニは12コーナーを危険だと指摘したライダーはいなかったとも言っている。

ライダーはそれを否定している。ヴァレンティーノ・ロッシは過去6年の間、特にアントネッリのクラッシュの後に何回か12コーナーについて指摘していると言った。そのせいでフロントロー記者会見には不穏な空気が流れることになった。イタリアのスポーツ新聞ガゼッタ・デロ・スポルトの記者、パオロ・イアネリがホルヘ・ロレンソに誰が嘘をついているのか、エスペレータなのかライダーなのかたずねている。記者会見に出席していたヨハン・ザルコがそこで口をはさみ、本当は解決策を探るべきなのにジャーナリストは問題を作り出そうとしていると発言した。質問が不適切だったのか?私は良い質問だったと思う。タイミングは最低だったし、質問の仕方は真実を明るみに出そうというより論争を巻き起こそうとしているようには聞こえたが。ジャーナリストの仕事というのは時に醜いことがある。誰もが聞きたがらない質問を誰もしゃべりたくないタイミングでしなければならないこともあるからだ。しかしザルコの反応も当然だし反撃に出るのも人間らしいふるまいだ。彼はサロムのことを良く知っており、今回の事故で個人的に衝撃を受けているのだ。

最終的にこの質問を上手にあしらったのはマルク・マルケスだった。どちらも嘘をついているわけではないが、安全委員会のライダーとレースディレクションとサーキットオーナーの間でエアフェンスを設置すれば充分安全性は確保できると合意したのだと答えている。サロムの奇妙なクラッシュで、その判断が間違っていることが明らかとなったが、しかし予想できないような普通ではあり得ない事故だったのである。

行動する時がきた

しかし一旦事故が起これば何か対策が必要になる。そこからの動きの速さのせいでアレイシ・エスパルガロは困惑しているようだ。「いちばん悲しいのは僕らがどんどん過去を忘れていくことですね」と彼は言う。「昨日の午後4時にすべてが起こって、6時には次のセッションのためにコースを変更するためにコースに出ていた。それが悲しいんです。この世界はそういうものなんですけどね。どのコースでも安全性を高めていかなきゃならない。安全委員会でもっとがんばっていかなきゃならないんです」

安全委員会はライダーとドルナ・レースディレクションの協議が行われるために公式に設定された場で、金曜の午後5時30分からパドックに設置されたドルナのオフィスで毎レース行われることになっている。通常ライダーはファイトクラブと同様に安全委員会の中で起こったことについては話してはいけないと厳命されている。それが安全委員会の第一のルールだ。安全委員会で話されたことについては誰も話してはいけない。これはライダーが自由に何を慮ることもなく議論するためである。ポル・エスパルガロは安全委員会を気に入っている。「バーみたいなものなんですよ。こんな話をしてるんですよ。『ばっかだなー、なんであんなとこに行っちゃったの?』って感じですよ」

非常事態が起こったバルセロナでの安全委員会何が起こっていたのか、そして10コーナーがヘアピンに、12コーナーが曲率の小さい右からシケインになるF1レイアウトに変更するまでの経緯についてブラッドリー・スミスが詳しく説明してくれた。10人のライダーが安全委員会に出席している。ポルとアレイシのエスパルガロ兄弟、ブラッドリー・スミス、カル・クラッチロー、マルク・マルケス、アンドレア・イアンノーネ、ジャック・ミラー、アルヴァロ・バイティスタ、アンドレア・ドヴィツィオーゾ、ティト・ラバトだ。

安全委員会で

「最初に部屋に入ったのは僕でした」とスミスは語る。「僕にとってとにかく出席することが重要だったんです。今日出なくていつ出るんだってね。それに責任もありましたし。MotoGPライダーとしての責任じゃなくて、安全アドバイザーとか、そういう意味での責任です。だから僕には、あそこに出席した全員が自分の責任をわかっていたってことになりますね。出席しなかったライダーについてはちょっとがっかりしています。だってみんな安全委員会が何時にどこで始まるか知ってるんですからね。
 最初に決めるべきはまずレースを続けるのかってことでした。ルイス・サロムのチームと家族がそれを決めるべきだし、それはもう決まっていたので、最初の話題は、もし続けるなら何ができるだろう?ってことになったんです。
 まず12コーナーに砂利を敷く話になりました。ルイスの事故は普通のレーシングライン上じゃなかったんで普通では起こらないようなことですけどね。だからあそこのランオフのアスファルトを確認して、ライダーが転倒したときの普通の軌跡ではないことを把握しました。でもレースを続けるならあそこのコーナーの問題はなんとかしておかなきゃならない。そのためには舗装の上に砂利を敷くしかないってことですね。ザクセンリングでも似たようなことをやってます。アスファルトの上に砂利を敷いて、坂を作ってスピードを落とすんです。それが最初の計画でした。

 で、そう言ったら他のライダーたちがF1レイアウトはどうだ?って提案したんです。バックストレートエンドの10コーナーのF1レイアウトは2年前にテストしていることを思い出したんです。それでそのシケインを使うことについて議論したんです。

 だからみんなで見に行ったんですよ。それはみなさんも目撃したでしょ?僕らができる最高の選択肢を検討していたんです。だから新たにコースにラインを引いたりしてるんです。僕らがF1の普通のレーシングラインを走ったとすると、ラインが壁に近すぎることがわかったんで、ライダーに実際に見てもらって、それであのアイディアに至ったんです。それが一番大事なことでしたね。そっちの方向に持っていくのがね」

なぜ10コーナーまで?

ブラッドリー・スミスは同時になぜ安全委員会が事故の起こっていない10コーナーまでF1レイアウトを使うことにしたのかも教えてくれた。「もしF1レイアウトにしたらどうなるかを考えたんです。ビデオを観ればよくわかりますけど、本当にたくさんのライダーがバックストレートエンドの10コーナーでコースオフして壁に接近していたんです。それで12コーナーも見直すなら全部見直そうってなったんですよ。レースを続けるにはそれが唯一の方法だったんです。でないと続けるわけにはいかなかった。基本的にあの事故を観た後で続けるにはそれしかないってことに全ライダーが同意しています」

安全は不可能

こうした一連の出来事を見ると、サーキットはどこまで安全にできるのかという疑問が沸いてくる。レース界はどこまでお金と努力を注ぎ込めばいいのだろうか?「1日の終わり、このスポーツはパスの裏に書かれている通り危険を伴うんだってことをわかった上でグリッドに全員が整列するんです。僕らは一人一人が自分が何をやろうとしているかわかってるんですよ」とブラッドリー・スミスは語る。「完璧な状況なんて手にすることはできないんです。完璧な状況を作り出そうとするなんてやるべきじゃないんです。モータースポーツは安全になんかならないし、毎週全員が無事に家に帰るなんてことはできないんです。そういうことを目指しているわけじゃない」

ヴァレンティーノ・ロッシも完璧に安全なコースを作ることは不可能だと言っている。説明できない事故は起こるものなのだ。彼は2007年の事故を引き合いに出している。ヘレスで行われたシーズン前のIRTAテストのことだ。「数年前のヘレスでロベルト・ロカテッリが10コーナーで飛び出したのを思い出しますね。ステアリングが左に固定されてしまって、そのまま左の壁に向かって行ってしまった。あそこはストレートだったのにね」。マシンが技術的トラブルでマシンが曲がっていってしまったのだが、その手の予測不可能なクラッシュまで考慮に入れるのは現実的ではないとロッシは言う。「ストレートに沿って100mのランオフエリアを設置するなんて不可能ですよね。そうしたいなら砂漠でレースをするしかない。カタールでしかできないってことですよ。今年はマルケスがフロントをロックさせて左にいってしまったりしてる。そういう意味では100%の安全性なんて本当に難しいことなんです。残念だけどそれはどうにもできないんですよ」

ブラッドリー・スミスもそれに同意する。安全委員会の役割は、そうした状況を予測して、深刻な怪我を防止するために可能であれば対策をすることだというのが彼の考えだ。「ライダーとして僕らは起こりえるあらゆる可能性を考えるんです。だから12コーナーにエアフェンスが設置された。以前はエアフェンスはなかったんです。逆に言うとアントネッリみたいな事故がないと、そういうことはわからない。どんなことでも起こせるようなバイク用シミュレータなんて、おそらくどこにもないんですから、仕方がないんです」

データを使って安全なコースを設計する

スミスはそういうシミュレータが存在することは知らないようだ。サーキット設計会社のスタジオ・ドローモhttp://www.studiodromo.it/のヤルノ・ザフェッリは様々な状況を精確にモデリングできる複雑なシミュレーションソフトウェアを持っているのだ。彼のオフィスを訪れて、そのソフトウェアに何ができるかを見た私はソフトウェアの性能に驚くことになった。クラッシュテスト用ダミーと安全装備に守られた実際のライダーによるテストで集めた現実世界のデータに基づいてザフェッリは特定の場所でのクラッシュの可能性を把握し、クラッシュ後の軌跡まで再現できるのである。

彼はアルゼンチンサーキットのレイアウト変更にそのソフトウェアを使っている。フィリップアイランドに次ぐシーズン2番目の高速コースだがクラッシュは極めて少なく、怪我も非常に少ないのだ。彼はそのソフトウェアを救急用待機所をどこにおくべきかをクラッシュの確率に基づき設定するのにも使っている。

こうした専門性は何物にも代え難い。さらにデータに基づくアプローチはリスクを減らすための最高のやり方でもある。データを使うのでなければヘルマン・ティルケのやり方にならうしかない。広大なランオフエリアをコース中に作るのだ。そうなれば観衆はコースから遠く離れ、せっかくサーキットに来たのにがっかりすることになる。しかもランオフを広くとったからといってそれが常に効果的とは限らない。おかげでムジェロやヘレスやフィリップアイランドやアッセンと行った多くのクラシックコースが息の根を止められることになる。そしてカタールのようなおもしろくもないサーキットが増えるのだ。MotoGPの18戦の中でカタールはあり得ないほどつまらないのである。

危険、危険、あちこち危険

サロムがクラッシュした12コーナーは危険な場所だと特定されていたわけではなかった。とは言え、アレイシ・エスパルガロは1週間前の自転車長距離レースでここを走って何か気付いてはいたようだ。「10日前に自転車レースで走って何周もしたんですけど、壁が凄い近いんですよね」とエスパルガロは言及する。何度も自転車でそこを通ることでコーナーを良く観察できたのだ。そこで彼は自分が思っていたほど安全ではないことに気付いたのである。「砂利を敷いてもあんまり余裕がないんです。だから安全委員会では現場を見るよに提案して、実際に見てもらったらみんなわかってくれたんです。たぶん20mくらいしかないと思います。精確なところはわからないですけど、とにかく壁が近すぎるんです。3速で200km/hのコーナーなんです。かなりの高速コーナーですね。だから低速コーナーにするのが最善だったんです」

自転車でコーナーを走ったおかげでエスパルガロは気付くことができたのだが、ヴァレンティーノ・ロッシは報道陣に対してこうしたコーナーはいくらでもあると語っている。シーズン全体を眺めてみれば世界中に似たような問題を抱えているコーナーは10を超えるというのが彼の考えだ。「ちょっと考えれば10個ぐらいすぐ思いつきますよ。他のレースでもそうですけど、僕らはいつでもランオフエリアを広げるように要望してるんです。でもそれが不可能なこともありますね。でも単にやらないだけってところもあるんです。エアフェンスを増設したりはするけどランオフエリアを広げるのは無理だって言われるんですけどね」

ロッシはそうしたコーナーの具体名を挙げてみせた。「ヘレスでもありますね。最終コーナーからの立ち上がりです。あともてぎの4コーナーは毎年もっとランオフを広げるように要望しています。あらゆる状況を考えるともてぎはブリッジがあるんで等の歩は広げられないんですよね」。危険を認識するには悪い出来事が起こらなければならないということである。「それが現実ですね。残念だけどすごく悪いことが起こって、そこでこのスポーツの危険性を認識するんです。クラッシュが起こったり問題が起こったりしないといけない。何か起こったらスペースが足りない場所はいくつもあるんですよ」

耐え難いこと

ロッシとホルヘ・ロレンソはどちらも今回の変更、12コーナーもそうだが特に10コーナーについて批判している。二人のヤマハライダーは変更の結果に苦しんでいるのだ。低速コーナーに置き換わったせいで、高速の流れるような旧レイアウトで発揮されていたヤマハのアドバンテージがなくなってしまったのである。

ロッシは発言の機会を自ら失っていることについては正直に言及している。「正直なんで何も起こっていないコーナーを変更したのかは理解できないですね。理由がはっきりしないし僕にもわからない。でも僕は安全委員会に出なったですしね。だから決定は受け入れますし、それでレースをやるしかないですね」

ホルヘ・ロレンソは安全委員会でこうした大きな変更に関する特別な決定をするのであれば全員を招集すべきだったと考えている。彼は記者会見でこう言っている。「昨日の事故を受けて安全委員会は一部のライダーとともにコースを変更することにしたわけですけど、本当はそこにいたかったんです。ランキングトップだし去年のチャンピオンでもあるわけですから。でも何もきいていなかった。なんでこんな大事な決定に24人のライダー全員が呼ばれなかったのか理解できないですね。金曜が終わってコースを変更するんですよ。こんなやり方にはがっかりです。でもこれでうまくやらなきゃならないですし、明日は最善の結果を手に入れられるようにがんばりますよ」

後から文句を言うのはなし

コース変更を批判した二人のモヴィスター・ヤマハのライダーはそろって安全委員会に出席したライダーから軽蔑されることになってしまった。「何時から始まるか知ってたんですよね」とカル・クラッチローはややオブラートにくるんで言った。「どこでやるかもわかっていたんだし。まあ来なかった人が決まったことに文句を言うってのは良くあることですから」。モヴィスター・テック3・ヤマハの二人はそれほど優しい言い方はしてくれない。「ヴァレンティーノは安全委員会に一回も出たことがないんですよ。まあ自分の義務だとおもってないんでしょうね。シーズン1回も義務を果たしてないんですよ。コメントする権利なんてないですね」とブラッドリー・スミスはきっぱりと言った。

スミスもポル・エスパルガロもロッシとロレンソは自分たちの豊富な経験を活かして安全委員会に貢献すべきだったのにその義務を放棄したのだと考えている。「マレーシアからこっち一回もヴァレンティーノは安全委員会に出たことがないのになんでそんなことを言うんでしょうね?」とポル・エスパルガロは切り捨てる。「ヴァレンティーノは必要とされてたんですよ。彼の意見も経験も必要だった。それにホルヘも必要だったんです。来なかったですけどね」

エスパルガロはロッシとロレンソは安全委員会を軽視しているのだと感じている。そしてロッシが他のコースにも多くの危険なコーナーがあると言ったことで状況を悪くしたとも考えているのだ。「ほんとうにばかな発言だし、昨日安全委員会に出たライダーをバカにしてますよね」とエスパルガロは言う。「危ないってわかってるコーナーがあるのに、それを指摘するための安全委員会にはでないってどういうことでしょう。来年誰かがそのコーナーでクラッシュして死んだらどうするつもりなんでしょう?ファック、危ないってわかってたんだぜ、とでも言うんですかね?」。MotoGPライダーは全員安全委員会に出席することができるし、それは義務でもある。出席できないMoto2やMoto3ライダーの利害を代弁するためにも出席すべきだとエスパルガロは言っている。

再びセパン

スミスもロッシに対してはかなり厳しい見方をしている。「昨日は彼が自分の責任を果たすべき日だったんです。彼は今年は一回も出席してないし、だから決定に対して何かを言う理由もない」。スミスもエスパルガロもロッシが安全委員会に出ない理由はセパンにあると指摘している。「今年は一回も安全委員会にでてないですね。マレーシアから出てないんです。ようするに子供っぽくかんしゃくを起こしてるだけなんですよ」とスミスは言う。安全委員会に出ていないのだから文句を言う権利はないということだ。「自分じゃ何にもしてないのになんでかんしゃくを起こすんですかね?意味がわからないですよ!」

ロッシは自分の気持ちを一旦脇に置いてレースのために貢献すべきだとスミスは言う。「彼が何を問題にして安全委員会に出なくなったかは別にして、自分のプライドを守りたい気持ちを飲み込んで出席してMotoGPライダーとしての仕事をすべきなんです。安全性を高めるという仕事をね。でも彼は出席しなかった。だったら黙れ、ですよ。変更が必要だったんです。彼が何を言おうと関係ないですね」

エスパルガロはさらに厳しく表現している。「マレーシアで何がありました?」と彼は言った。「ファック、彼は忘れられないんですよ。そういうことは自分にもあったし、まあ理解はできますよ。でもこれはとても大事なことなんです。一人の仲間が死んだんです。昨日の安全委員会は本当に出席しなきゃいけなかった。何を大事にするかってことなんです。僕は全ライダーと議論したかったんです」

個人的理由

なぜヴァレンティーノ・ロッシは安全委員会に出席しなかったのか?「安全委員会については知ってますけど忙しかったんですよ」と彼は土曜に報道陣に言っている。しかし彼が言わなかったこともある。彼が毎レース金曜午後5時30分に忙しくなったのはセパンの決定的な事件以来だということだ。それ以降、2015年のタイトルを彼から奪うよう画策したマルク・マルケスと同じ部屋に入ることは彼にとって耐え難いこととなっている。過去にもロッシが忌み嫌うライバルは存在した。しかしそれは敵愾心と言うより軽蔑心というのがふさわしかった。マルケスに対しては純粋な敵愾心である。二人の関係は完全に破壊されてしまっている。おそらく永遠に修復できないだろう。

もちろんいなかったのはロッシだけではない。ホルヘ・ロレンソも欠席していた。彼は理由を明らかにしてはいないが、ロッシより以前から安全委員会には顔を出していない。ロッシはマルク・マルケスとの激烈なバトルがあった去年の10月までは積極的に出席していたのだ。ロレンソはここ数年出席していないのだが、これは彼が何人かのライダー、特にマルコ・シモンチェリを危険だと非難したにもかかわらず、それが考慮されることもなく、一笑に付されて以降である。

ヴァレンティーノ・ロッシとホルヘ・ロレンソが安全委員会に出席しなかったことのどこがそれほど問題なのだろうか?去年のチャンピオンであるホルヘ・ロレンソの意見は重みが違う。パドックで最も重要な人物(カルメロ・エスペレータを除いた中で、という可能性はあるが)であるヴァレンティーノ・ロッシなら様々なことを実行に移せる力がある。ブラッドリー・スミスが安全委員会に変更の必要性を訴えれば、それは検討してもらえるだろう。もしヴァレンティーノ・ロッシが変更が必要だと言えば、1年後にMotoGPが戻ってくるまでには変更されるだろう。公平とは言えないがそれが世の中なのだ。

最終セクターの変更は現時点ではホンダが得をしているようだ。とは言えレプソルのマシンは良いセッティングもみつけたようだ。マルク・マルケスには誰も追いつけないようで、ブラッドリー・スミスが旧レイアウトを走るようなスピードで新レイアウトを駆け抜けている。新レイアウトは理論的には2〜3秒速いことになるようではあるのだが。ハードブレーキング区間と低速コーナーがホンダに有利に働き、ヤマハには不利になっている様子である。ヤマハは元来流れるような高速コースを得意としているのに第4セクションではそれが失われてしまったのだ。これがモヴィスター・ヤマハをいらいらさせている真の原因である。しかしチャンスはあったのだ。提案に反対すればよかったのである。
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スミス、いいですねえ。

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コメント

とりあえず無事に(ロレンゾは大丈夫?)にレースが終わってほっとしてます。
彼等の精神力は凄いですね。
でも、本当に今回はマシンに乗り込むのも大変だったろうと思います。
ポディウムで天を見上げるマルケスにグッときました。
改めてルイス・サロム選手のご冥福を祈ります。

投稿: motobeatle | 2016/06/05 22:09

スミスの気持ちが届いたかな。
偉大なチャンピオンには大きな責任が伴う。
サロムありがとう。

投稿: とんかりん | 2016/06/06 10:33

>motobeatleさん
 みんなかっこよかったです!

投稿: とみなが | 2016/06/06 21:56

>とんからりんさん
 スミスの非難はきいたっぽいですね。でもそれで反省できるのがすごいです!!

投稿: とみなが | 2016/06/06 21:57

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