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なぜホンダは決して楽な道を選ばないのか

セパンテストではかなり苦労していた様子のホンダですが、その根本原因かもしれないホンダマインドについてMat Oxley氏が書いています。Motor Sport Magazineより。
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ホンダRC213Vのエンジンは獰猛である。しかしホンダにとってこうした問題は珍しいことではない。その理由とは…

プレシーズンテストでいちばん大事なのはラップタイムだと多くの人が言っている。いわゆる専門家と呼ばれる連中がラップタイムを分析し、来るべきシーズンがどんなものになるのか予想しようとしている。それはまるで狂人がカップの底に残った紅茶の葉を見て未来を予言しようとしているのにそっくりだ。

こんなことをしても何の意味もないはもちろんである。シーズン前の個別のラップタイムは無意味なのだ。もし意味があるなら去年マルク・マルケスはMotoGPタイトルを獲得していたことになる。

ここ何年もの間、私はプレシーズンテストで何が起こっているのか理解するもっと良い方法を駆使している。セパンサーキットからすぐ近くの空港ホテルのレストランで静かにビールを飲みながらどのチームがディナーに一番乗りするか待つのだ。

今週のセパンで最初にテーブルに着くのはたいていワークスヤマハのチームだった。一方ホンダのメカニックたちはいつまで経ってもやってこなかった。彼らは暑苦しいピットボックスでまだ苦闘していたのである。グランプリ68年目となる2016シーズンに向けてRC213Vを仕上げようと努力していたのだ。

3日間の最後のラップタイムはHRCの満足のいくようなものではなかった。彼らのスターライダー、マルク・マルケスは5番手、ヤマハのチャンピオン、ホルヘ・ロレンソからは1.2秒というとんでもない差をつけられてしまった。ロレンソは蝶のように舞い蜂のように刺すという感じの走りで、ミシュランタイヤとWindows95(またはそれ的な)電子制御に対応してみせた。バターのように滑らかな彼のライディングスタイルはタイヤのグリップが少なく電子制御のライダー支援が少ない状態でむしろより輝いているように見えたほどだ。ヴァレンティーノ・ロッシですらロレンソからは1秒近く遅れている。しかし特筆すべきはホンダが苦労しているという点である。

ホンダはどうも苦労するのがすきなように見える。彼らの主なライバルであるドゥカティとヤマハは昔から優しいMotoGPエンジンを作っている。「ビッグバン」とか「ロングバン」とか「ツインパルス」と呼ばれる点火タイミングのエンジンだ。しかしホンダは自分たちのライダーをいわゆるスクリーマーにのせてきた。最大馬力を目指していたのだ。コースサイドに立てばロングバンとスクリーマーがマシンのハンドルを握るライダーたちにとってどんな違いがあるのかすぐわかる。M1やGP16が去っていく。このときの音はカスタムしたストリートバイクのようにくぐもっている。そしてRCVがやってくる。甲高い音で歯をむき出しライダーをワープさせる。RCVの排気音は内燃機関気狂いに獲っては天国の奏でる音楽だ。まあ少し恐ろしいものではあるが。

ホンダが使っているのは90度V4である。これは振動によるパワーの減衰がないからだ。90度V4の凄まじいパワーは乗りやすさの犠牲の上に成り立っているのだ。

ホンダの問題はここにある。マシンはストレートではとんでもなく速いがコーナー進入と脱出では手に余るものとなってしまう。近年のホンダは魔法のような電子制御でこれをなんとかしていた。宇宙時代の電子制御のおかげでエンジンとシャーシが完璧にマッチしたマシンが実現したのである。こんなことをしたのはおそらくホンダが最初であり、そして今彼らはこれまでのすべての成果を捨ててWindows4の勉強をしなければならないはめに陥っている。

「統一ソフトウェアはうちが10年前に使っていたようなものですね」HRCの副社長、中本修平はセパンでこうこぼしていた。彼のいらだちはよくわかる。中本はずっと前モデルよりいいバイクを作るという仕事をしてきたのに、今は過去に引き戻され2016年型ではなく2006年型に最適であろう電子制御から最高のセッティングを引き出さなければならないからだ。

つまりこういうことだ。なぜホンダは他のメーカーと同じように優しいビッグバンエンジンを作らないのか?そもそもホンダこそがビッグバンエンジンを1992年型NSR500で初めて持ち込んだのではなかったか?

ホンダがビッグバンを作らないのは群れて走るのが嫌いだからだ。コピーが柄井だからだ。ホンダのGPヒストリーは独自の未知を歩むことによって作られてきている。時には失敗することもあったが、それ以上に成功を収めているのだ。

ホンダは今でもレースについてスポーツやマーケティングのためだけではなく、走る実験室だと考えている。学ぶためにレースをしているのだ。勝つことだけが目的ではない。学び、そして勝つことができれば理想的だ。しかし本田宗一郎がかつて言っている。「勝つことより負けることで学ぶことの方が多い」。問題を抱えたときのホンダは一番楽で合理的な道ではなく別の道を探すのだ。そういう時でなければ考えつきもしなかったような技術を試すのである。

これを天の邪鬼と呼ぶこともできる。ホンダは1960年代からずっとそうだった。スズキとヤマハが登場したばかりの2ストローク(東ドイツのMZから盗んだものだ)で世界タイトルを獲得していたときにホンダは本田さんの作り上げた4ストロークにこだわり続けた。彼は非常に速い「臭いバイク」組に入ることを拒み、そして伝説的な4ストマシンを作り上げた。もう二度と見ることはできないだろう6気筒250ccや5気筒125cc、2気筒50ccなどだ。こうしたマシンは毎分20,000回転以上も回すことができた。RC115という50ccマシンは22,000回転、そしてリッターあたり280馬力を叩き出した。

これは現代のMotoGPマシン以上のパワーだ。そしてそれは1966年のことだ。ほぼ半世紀前である!

それから10年後もまだホンダは2ストロークの情け容赦ない猛攻に降参することを拒否していた。彼らはオーバルピストンに1気筒8バルブ、ツインコンロッドでツインプラグの500cc4ストロークマシンを巨費を投じて作り上げたのだ。NR500は有名な大失敗に終わったが、それでも世界中がこのドンキホーテ的マシンには驚くことになった。しかもNRを作り直すのにたった80人時間しかかからなかったのだ!

「決して完成しない」とまで言われたNRで不面目な敗北を味わって初めてホンダは苦い敗北を認め「臭いマシン」の軍門に下る決意をすることとなった。1980年代のGPの500ccは4気筒のヤマハと4気筒のスズキが席巻していた。これらのマシンはロータリーバルブ吸気でアルミシャーシだった。ホンダが最も合理的な道を選ぶのであれば(しかもそれはNRでの恥ずべき敗北の直後である)勝利を重ねている会社が使う試行錯誤を重ねた上で信頼できるようになった技術を使うことになったろう。

しかし彼らはそんなことはしなかった!ホンダは1981年にエンジニアをヨーロッパに派遣しキング・ケニー・ロバーツやランディ・マモラ、バリーシーンといったライダーで勝利したGPマシンを観察させた。そこで到達した結論はかなり大胆なものに見えた。ロータリーバルブ4気筒のアルミフレームマシンは作るな。3気筒エンジン、リードバルブ吸気、そして鉄フレームのマシンを作れ。

NRを笑いものにした人たちがNS500も笑いものにしたのは当然だ。いったいどうしたら3気筒が4気筒より速くなるというのだ?しかし実際にはNSこそが初の現代的GPマシンだったのだ。マシンのパッケージを重視していたのだ。エンジンをフレームに載せただけのマシンではなかったのだ。NSはデビューシーズンで勝利し。そしてフレディ・スペンサーに1983年の500cc世界タイトルをもたらした。NSは大きく扱いにくいヤマハやスズキよりコースでは速かったのだ。

3気筒のパワーでは足りなくなるとホンダは1984年に4気筒マシンを作った。しかしまたしても独自の道を歩んでみせた。スズキやヤマハのような2本クランクのエンジンではなく1本クランクのNSRを作ったのだ。しかし1本クランクの呪いと呼ばれた問題に悩まされることになる。1本クランクのトルクリアクションのせいでマシンはワイドにはらんでしまったのだ。そこで彼らはクランクの回転方向を反対にすることで対応していた。

シャーシも普通のものではなかった。燃料タンクをエンジン下に置き、チャンバーがエンジン上を通っている。当時これは意味のあることだった。特に重心の低さが速さに直結すると知っていた4輪エンジニアにとっては当然のことだったのだ。しかしバイクでそれは通用しなかった。慣性の法則はバイクの世界では違う形で働いていたのだ。「上下逆さま」のNSRは彼らの失敗のひとつに数えられることになる。

しかしHRCは転んでもただでは起きなかった。彼らはまた学んだのである。1985年型はシャーシを変え、1992年には点火タイミングを変えることでライダーに優しいビッグバンエンジンのNSRを導入する。これは500ccの革命となり、再びヨーロッパ人が500ccに乗れるようになった。そして500cc最後の10年間で7回のタイトルを獲得することになった。人が通らない道を歩むことで真似をしたバイクよりも遥かに素晴らしいバイクを作ったのだ。

これはNSRの後継車であるMotoGPマシン、素晴らしいRC211Vでも変わらない。V5マシンはグリッドに並ぶ他のV4や直4エンジンのマシンとは全く別物だった。そして他のマシンより性能が高くMotoGPの最初の32レースで27回の勝利を重ねている。

現行RC213Vの形態について語るならホンダの歴史と哲学を忘れてはならないということだ。

マルケスが2連覇したのは2013年型と2014年型RC213Vでのことだ。去年はホンダが「勝利病」にかかっていたという人もいる。勝利に酔いすぎたというのだ。

MotoGP界で最も強力で最も獰猛なエンジンを持っているにもかかわらずホンダが問題を抱えているのは、どんどん厳しくなるMotoGPの技術ルールのせいで彼らの豊富な経験をもない解決に充分活かすことができないからである。最近のいわゆるコストカットルールのせいでMotoGPというスポーツをわかりやすくしているという主張はまったくもって正しい。テレビ受けするエンターテイメントが最優先で技術開発は二の次である。しかしこれはMotoGP世界選手権だ。つまりホンダがやるべきはこうしたルールの下でこれまで以上に工夫を凝らし勝利することである。

MotoGPエンジンがカタールGP前日に封印されるまでにHRCに残された時間はあと6週間。マルケスや他のライダーにM1と同じようにライダーに優しいエンジンを渡すことができるようななにか魔法の技術が出てくるだろうか?それともこれからの40日間、夜を徹して全く違うものを作り上げるのだろうか?

ホンダのことだ。何かをやってこないとは決して言えない。
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どうなるか楽しみ!

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コメント

外国語を解せない自分のような人間が頼りきっているサイトにたいしてこのようなこと書くのは心苦しいが、昨今のホンダが自ら犯した失態とのバランスをとるためにホンダサマを崇める誇張された賛美歌を聞かされるのは不快だ。


投稿: Gyu | 2016/02/08 22:18

最近気がついたんですが、昨年のホンダの失敗はエンジンが強力過ぎた為と多方で報じられてました。
マルクとダニも乗りにくいマシンと評してた筈です。
でも最近、中本さんはマルクのブレーキングの仕方が変わり、そこから不調になった様な主旨のインタビューを見たんです。
あれっ?と思いました。
乗り手と造り手の意見のズレというか。
これって昔もあったような。
とてつもない技術集団だけど、時にその意欲が乗り手の意思を上回ることがホンダは往々にしてあると思います。
乗り手の言う事ばかり聞いても駄目なんでしょうけど。

投稿: motobeatle | 2016/02/09 02:33

 スーパーリザルトを生み出す技術革新が頭打ちされるのは勝負の世界の常かもしれませんが・・・。
 本田宗一郎氏の理念よろしくホンダは常にトライ&エラーを繰り返しながら素晴らしいフィードバックを勝ち得てきましたが、その止まらぬ歩みがいつのまにかカテゴリの枠を『突き抜け』てしまい、技術が独特のエグゾーストノートのように一人歩きしてしまっている印象を受けます。
素晴らしい技術も、ライダーや勝負を置き去りにしてしまってはなんの意味もないわけで・・・
(ど素人のイメージ感想なのでご容赦をw)
今年は特にマルクにとって特別なシーズンになると思います。マルクイチ推しではないのですが、去年の悔しさをバネにしてがんばってほしい。
頼みますよ。ホンダチーム。

投稿: りゅ | 2016/02/09 14:28

こんにちは。開幕が待ち遠しいこの頃です。
光の当て方によりホンダの見え方が綺麗に映ってますね。
もっと大きく別の角度からモトGP、レース活動、広報活動に光を当てて見直すと見え方が違って来ます。
ホンダはトップメーカーとしてレース活動を走る実験室としか考えていないのでしょうか。
モト2のマシン供給を継続してほしいものです。

投稿: とんかりん | 2016/02/09 19:28

Oxleyさんの記事は面白いものも多いのですが、技術的な観点からは正直微妙な記事も結構まじってるように思います。
この記事でも、360度クランクの4st90度V4をスクリーマーと呼び、213Vエンジンのアグレッシブさの理由としてたりする辺りが引っかかりますね。
360度クランク90度V4の点火間隔は普通に考えて90-270-90-270になっているはずで、むしろ本家ビッグバンである92NSR500の2st112度V4の
68-292-68-292(2気筒ずつ同爆)に近いです。
実際VFR750R(RC30)の360度クランク90度V4などは、VFR750Fの180度クランク90度V4に対してbig-bang crankと呼ばれる事もあるくらいです。
ついでに言えば、180度クランク90度V4の点火間隔は180-90-180-270で、これはヤマハ式I4クロスプレーン、つまり現在もM1で使用されていると
考えられている物と同じです。

点火間隔がエンジンのコントロール性に何らかの影響を及ぼすと言うのは事実なのだろうと思いますが、213Vエンジンのアグレッシブさを
根拠無しに点火間隔のせいだとしてしまうのはナイーブすぎでしょう。
個人的には、定義が曖昧なままスクリーマーやらビッグバンやらの単語が出てくる記事はマユツバで読むべきだと思っています。

> どのチームがディナーに一番乗りするか待つのだ。

などは凄く面白い視点だと思うのですけどね…。

投稿: nobody | 2016/02/10 12:09

>Gyuさん
 あらあら、それはすまなかったですねえ。
ライブドア・ニュースみたいに、
・ホンダの昨シーズンからの苦闘についてその理由を分析している
・これはホンダの「誰もやったことのないことをあえてやる」という企業風土が原因だと著者は語る
・さらにホンダはことによったら大逆転の策をくりだしてくるかもと言っている
とかまとめれば、本文を読む前にそっ閉じしていただけたかもですね(誤字も見直す気力もないので、そんなまとめを文頭につけられる気力が残るわけはないのですが)。

投稿: とみなが | 2016/02/10 22:18

>motobeatleさん
 まあ中本さんの見立てがいちばんでしょうけど、彼は彼で中の人ですからね。外野はいろんな違う意見を楽しめばいいかと、と思ってます。ホンダはちょっとやりすぎちゃうところはあるってのはそのとおりだとBEAT(原チャの方)を懐かしく思いながらしみじみと。

投稿: とみなが | 2016/02/10 22:21

>とんかりんさん
 Oxlayさんはわりと暖かい見方をしますね。これがDenis Noyes氏とかだともっと厳しくて、それはそれでおもしろいです。
 で、ホンダは実験室というか、やっぱ自分の技術的なメリットがないと続けないのかな、とも思いますね。確かにMoto2がどうなるかは気になりますが、あっちは市販エンジン+プロトタイプフレームでエンジンの統一しばりをなくしちゃえば、とか私は思ってます。

投稿: とみなが | 2016/02/10 22:23

>nobodyさん
 わたしもそこは気になってました。RC213Vはぜんぜんスクリーマーではないですよね。カワサキとかアプリリアのCUBEとかのいい音が懐かしいです、ってそこじゃないですが。

投稿: とみなが | 2016/02/10 22:26

>りゅさん
実は技術が先走っちゃって使い物にならない変態マシンも大好きなんですが、今年はダニのことを考えると、ここはひとつ自重してほしいです。

投稿: とみなが | 2016/02/11 10:59

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