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近況

生きてますがバタバタしてます。

カタールの開幕戦までには諸々落ち着くことを希望。

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MotoGP技術ディレクターのコラード・チェッキネリへのインタビュー

鋭意開発中の統一電子制御ソフトですが、これについてMotoGP技術ディレクターのコラード・チェッキネリが語っています。CRASH.netによる独占インタビューより。
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CRASH.net:統一ソフトウェアはどんな開発段階にあるのですか?

チェッキネリ:どんどん新バージョンをリリースしているところです。ハードウェアはもう統一されていますがこちらは去年のものと変わりません。かなりの数のバージョンがもうメーカーにわたっていてますが、これからもそういうことが永遠に続くことになります。開発が終わったと言える状況は決して来ませんから。
 ソフトウェアには常に新しいものを盛り込むようにしているんです。こちら側の考えとメーカーの要望の両方を考慮しながら開発を続けていくんです。ですから現時点のバージョンというものはありますけど、これが開幕戦で使われるものでないことはみんなわかっています。開幕戦は新しいバージョンでいくのは間違いありません。


CRASH.net:開幕戦までには何が変わるんですか?

チェッキネリ:現時点ではいわゆる「フェイルセーフ機能」の改善を図っているところです。何か問題があったときにうまく対応できるようにソフトウェアを作っているということですね。パフォーマンスの観点ではないんです。開幕戦まではこれに取りかかりっきりになると思います。ですから「レース1」とでも呼べるバージョンはフェイルセーフ機能は改善されていますけど現バージョンより速くなるわけじゃないですね。
 そういう話とは別に、現時点での機能についてはもう合意されていることですが、昨シーズンにオープンクラスライダーが使っていたものとはそれほど違うものではありません。オープンクラス用ソフトウェアより速くなる理由がないってことですね。いろんな部分で良くはなっていますよ。オープンクラス用ソフトより多くのマシンで使えますしエンジン形式が違っていても対応できます。ニューマチックバルブにもうまく対応できますしドゥカティの排気バルブにも対応できる。それにフェイルセーフ機能も良くなっている。でも理論的には速くなるわけではありません。今のところパフォーマンス改善についてはほとんど手を着けてないんです。


CRASH.net:それでもパフォーマンス改善についてやったことについて例を挙げていただけますか?

チェッキネリ:そうですね、例えばいくつかのパラメーターを使ったマトリックスでいろいろ見てるわけですけど、いま私たちはそうしたマトリックスの次元を増やしてもっと精確に表現できるようにしているんです。
 例を挙げると、マシンの傾きによって変わるタイヤと路面の摩擦係数の違いを複数のパラメーターからなるマトリックスで読み取りますよね。もしこのマトリックスの刻みを細かくできて、しかも精確な数値をデータとして取得できればタイヤの挙動がより精確にわかるわけです。ですから機能が変わるというより、既にある機能を強化しているということなんですよ。
 今日の気温を知りたいと思ってデジタル温度計を見るときに、30度、35度、40度って刻みだったとしますよね。これが30、31、32ってなって、今は30.1、30.2、30.3ってなってるという感じです。精確さが増してるんですね。
 こうしたことを私たちがやっているのはメーカーといっしょにやっていて、メーカーならシステムにより良い数値をインプットできるからなんです。ただしちゃんとした数値を入力しないと良いものとはならないということは強調しておきたいですね。小さい独立チームにとっては複雑になるだけでいいことはないかもしれません。


CRASH.net:統一電子制御のひとつの目的は全ライダーが同じ電子機器を使用するということにあります。でもワークスチームの方がリソースが豊富で、さっきおっしゃった「ちゃんとした数値を入力する」ってことが巧くいくことになりますよね。それだけの能力がない小さいチームにとってどれくらい不利になるんでしょうか?

チェッキネリ:これについては広い視野で対応しないといけないんです。パフォーマンスとユーザーフレンドリーであることの妥協点を探るということです。ですからその最適な妥協点を探る中で現時点のソフトウェアは去年のオープン用のものより複雑になっていますし、将来的にはおそらくもっと複雑にナルト思っています。
 今の電子制御もかなりのポテンシャルがありますし、先ほど説明したとおりフェイルセーフ機能だけの開発でも、よりよく使いこなそうとしたらバイクの全てについてよくわかっていなければならないので、複雑になってしまうんですよ。「もしこれが起こったら自分はどうするか」ってことについてわかっていなければならない。さらにいくつかの機能については二重のフェイルセーフシステムとしています。
 例えばホイール1個当たり2つずつのホイールスピードセンサーを装着しています。つまり最初のフェイルセーフシステムは「主センサーが壊れたら副センサーを使う」ということです。そして「もし副センサーも壊れたらこうしろ」ってことになるわけです。つまり良いものにしようとしたら複雑にならざるを得ないということなんです。
 先ほどの質問に戻りましょう。今のバージョンはもう去年より複雑になってますけど、複雑さと性能の比でいったら以前より良くなっています。それに私たちの「最終顧客」は小チームではなくメーカーが中心になってきているので複雑さも許容できるようになっているんです。
 オープンカテゴリーがなくなったので「市場」全体が変わったってことですね。多かれ好く名から誰もがワークスマシンを使っていてるんです。新型か1年落ちか2年落ちかという違いはありますけれども。その結果、複雑になっても大丈夫なようになってきているんです。もちろんそうは言っても複雑なのはいいことではありませんから、可能な限りシンプルにはしようとしています。


CRASH.net:ワークス電子制御ユニットにできて新型統一電子制御にできないことはなんですか?例えばコースのコーナーごとにセッティングを変えたりレース中に状況に合わせてリアルタイムでセッティングを変えていくということはできるんですか?

チェッキネリ:いま私が正確に答えられるとしたら「わかりません」となります。これまでワークスソフトウェアが何をしてきたのか知ってる人はいませんからね。でもあなたの言っている通りではありますよ。つまりワークスソフトウェアはすべてある程度、まあどこまでかはわかりませんが、そういう風に状況変化に対応できる機能を持っていたということです。
 統一ソフトウェアにはそういう機能は全くありません。もちろんパフォーマンスが落ちるのは間違いないですが、現時点ではそういう機能を開発する予定もありません。
 状況変化に対応する機能には大きく2種類あります。ひとつは燃費コントロールですね。去年は大事な機能でしたけど、今年は22L(ワークスホンダとワークスヤマハにとっては2L増)になるので去年ほど問題にはならないでしょう。
 もうひとつはレースが進んでタイヤのグリップが落ちてくるのに合わせてトラクションコントロールを調整する機能ですね。現時点で私たちが開発しているのはすごく基本的なもので、ライダーが(ハンドルバーの)スイッチで違うマップを選択できるようにする機能です。
 これはリアルタイムの調整機能とは違います。ここで言う調整機能とはソフトウェアが同じ場所でスピンが大きくなったことを感知するとかでタイヤパフォーマンスの落ちを感知して自動で調整できる機能のことです。私はワークスがこうした機能をタイヤのタレや燃費のために使っていたと考えています。そうした機能は統一ソフトウェアにはありません。
 あとコーナーごとのセッティングについてですけど1周の中でのサーキットの位置に合わせて異なるセッティングをする機能は備えています。でもレースの進行に合わせて自動で調整する機能はありません。
 わかりやすいところでは、例えばコースの中で表面の摩擦が違う場合ソフトウェアはあるコーナーと別のコーナーについて違う対応をします。摩擦係数が異なりますから。でもこれは自動で対応しているわけではありません。サーキットのコーナーごとに事前にセッティングしてあるということなんです。
 自動調節はレースが進むにつれて起きる状況変化をコンピュータが常に感知して勝手に対応するものですからね。


CRASH.net:GPSはまで禁止されていると理解しているんですが、マシンがコースのどこにいるかはどうやって把握するシステムになっているんですか?

チェッキネリ:ええ、GPSはまだ禁止されてますね。どんなソフトウェアにとっても場所を特定するのは難しい話です。今のシステムはですね、どんなコースでも(公式計時のために)3か所か4か所で区切られていますけど、こうしたポイントでセクターの区切りを感知して、その後はホイールの回転数を積算していくんです。そうすればどれくらいの距離を走ったのかわかってコースのどこにいるかわかるというわけです。
 ただそうしたやり方だとセクターポイントから離れれば離れるほど誤差が大きくなります。リーンアングルなんかで距離の誤差が生じていくからです。ですからセクターポイントごとに距離計算をリセットするようになってます。つまり1周につき3〜4回はリセットされるわけです。
 つまりセクター通過直後が最も精確で、つぎにリセットされるまで誤差が増えていくということですね。
 問題はコースアウトすると誤差がものすごく大きくなるということです。次のセクターまでマシンがクソみたいな動きをしますからね。


CRASH.net:バイクが「迷子」になってコースの別の場所のセッティングになっちゃうという話は時々耳にしますが…。

チェッキネリ:ここのフェイルセーフがいちばん難しいんです。コースアウトしたらとか、マシンのスイッチが切れてまた入ったらとか、マーシャルが押したらとか、セクターポイントをはずしたらとかですね。本当にいろんなことが起こりえるんです。
 ここにも多重のフェイルセーフシステムを入れなければならないということでもありますね。ですからこんな風に考えていくんです。「セクターポイントを外した場合はどうするか?OK、ホイール回転数を積算し続けることにしよう」、「次のセクターポイントもはずしたら?OK、そのまま積算していこう」、「でも何かあって全てのポイントを外したらそのまま積算し続ける、そしたらデフォルトセッティングにするのか、それとも最後のセッティングを適用し続けるのか?」
 こういうフェイルセーフ機能はどんどんより良いものになっていきます。


CRASH.net:つまり2016年型の電子制御ではレース中に「調整」できるのはライダーがマニュアルで変更できる部分だけだということですか?

チェッキネリ:現時点ではその通りです。


CRASH.net:セッティングで燃費はどのように変えられるんですか?

チェッキネリ:燃費のために燃料噴射を調整する機能はありません。あるのは燃費に関する表示だけで、それを見て22Lで走りきれないと思ったら手動で燃料噴射を調整するようになっています。


CRASH.net:でもレースの前にセッティングしておかなければならないんですよね?

チェッキネリ:そうです。キャブレターのジェットをセッティングしておくようなものですね。一回決めたらそれっきりです。
 メカニックに燃費を知らせる表示があるので、それを見てレースディスタンスを走りきるためにどれくらいガソリンが必要かわかるわけです。必要量が22Lを超えていたら何かした方がいいってことですね!


CRASH.net:そういえば土曜のプライベートテストでドゥカティがミケーレ・ピッロにガス欠するまで走るよう指示していましたが…。

チェッキネリ:それはいろんな理由でやるべきテストですね。いちばんわかり易い理由は、エンジンが停止した時点でタンクにどれくらいガソリンが残っているか確認することです。残念ながらその量がゼロになることは絶対ないんですよ!つまり使用可能な燃料のうちどこまで使い切れるかということなんです。タンクの設計が悪かったら2L残ってしまうかもなんですよ!
 それから燃料系が正しい数値を表示しているか確認するというのもあります。データ上は15L使ったことになっているけど本当にどれくらい使ったのか?正確に15なのかマシンによって補正しなければならないのかということなんですね。


CRASH.net:あと、土曜にドゥカティ復帰初日のケイシー・ストーナーと話したんですが、彼は統一ソフトウェアは「かなり進化したもの」で、今までとの差をはっきり打ち出したかったら2006年とか2007年のレベルに戻すべきだと言っていました。電子制御はどれくらい進化されるべきだとお考えですか?それともそれはメーカー次第なんでしょうか?

チェッキネリ:この仕事に携わるエンジニアの立場で言えば共通ソフトウェアはできるだけいいものにしたいですね。つまり技術的にはすごく挑戦しがいのあるプロジェクトですし、でもそれはワークスソフトウェアぐらいのパフォーマンスまで進化されるべきだとということでは決してないですよ。
 みんなが使えなきゃならないからですし、今では自分のところのパフォーマンスを上げるためだけに働いている人はいない。考え方が変わったということです。
 ですからさっき話していた自動調整機能についても、自分のところのワークスソフトウェアを使っていたら無くてはならないものでしたけど、今年の開幕戦は全員それなしで走ることになるわけです。だからたへんなことというわけでもない。これも統一ソフトウェアならではの話ですね。
 統一ソフトウェアというのはこれまでとは違った視点からできているんです。最高のレースバイクを作るというより最高のストリートバイクを作るというのに近いですね。ストリートバイクはレースマシンより遅いですけど技術的なチャレンジとしてはレースマシンよりハードルが高い。ストリートバイクは北極でも南アフリカでも雨でも2人乗りでも荷物を積んでも、とにかく走らなきゃならない。環境が違っても走れなきゃいけないんです。
 ですから私たちのプロジェクトはパフォーマンスが低いものを作っているとはいえ巨大なプロジェクトですし、ワークスソフトを作るより大きいんです。


CRASH.net:ドゥカティが他のメーカーよりうまく新型ソフトウェアに適応しているようですが、それはドゥカティがオープンクラス用ソフトウェアにいろいろ関与していたからだという話もありますが?

チェッキネリ:ドゥカティが先を行っているかどうかはわからないですけど、だとしてもそれは他のメーカーより時間を掛けてたからだと思いますね。彼らが何かうまいことをやっていたわけではありません。彼らはタイトル争いをしているのかってくらいの時間を掛けていたんです。
 去年のドゥカティはオープンクラスのライダーにかなりの時間を割いていたんです。だからオープンソフトウェアの機能を相当わかってるんでしょうね。それにワークスライダーも新型ソフトウェアをテストしていましたし技術者も他のメーカーより速くダイノで統一ソフトウェアを走らせていた。
 他のメーカーに先んじて次のシーズンに向けて違うことをやっていたんです。これが一番の理由ですね。でもドゥカティが先に行ってるかどうかは私にはわかりませんよね。でもだとしたらこれが理由でしょう。


CRASH.net:去年真剣にオープンクラス用ソフトの開発に取り組んでいたのはドゥカティだけだったということですか?

チェッキネリ:書類上は全メーカーが関与しているんですが…、私が見ていたところではドゥカティだけが去年オープンクラスのライダーにワークス的関与をしていたんですよ。だから機能についてよくわかっている。統一ソフトウェアについても同じことが言えるんです。
 でも初めてドゥカティに乗るスコット・レディングのようなライダーのパフォーマンスがどうなるかは興味深いですね。今シーズンからはソフトウェアもタイヤも変わって、その影響は昨シーズンとそれ以外の変化がないライダーでもっと顕著になるだろうと思っているんです。
 何が言いたいかというと、Moto2から上がってきたティト・ラバトにミシュランや統一ソフトウェアについて質問しても何を言われてるかわからないだろうってことです。スコットもマシンもタイヤもチームも替わってるんで、だからソフトウェアについては気にも留めないだろうってことですね。
 レースでは慣れが重要です。同じものを使っていれば予測ができるし、そうすれば限界までいける。
 2スト500ccから4スト1000ccに移行したときのことを覚えてるでしょ?トップライダーが口をそろえて「このマシンはクソだ。絶対2スト500より速くなるなんてないね」って言ってましたよね。大きな変化が起きるとまずみんな悪く言うところから始めるんですよ。


CRASH.net:ありがとうコラード。

チェッキネリ:どういたしまして。
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ほう、コースアウトするとたいへんなことになりそうですね。

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なぜホンダは決して楽な道を選ばないのか

セパンテストではかなり苦労していた様子のホンダですが、その根本原因かもしれないホンダマインドについてMat Oxley氏が書いています。Motor Sport Magazineより。
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ホンダRC213Vのエンジンは獰猛である。しかしホンダにとってこうした問題は珍しいことではない。その理由とは…

プレシーズンテストでいちばん大事なのはラップタイムだと多くの人が言っている。いわゆる専門家と呼ばれる連中がラップタイムを分析し、来るべきシーズンがどんなものになるのか予想しようとしている。それはまるで狂人がカップの底に残った紅茶の葉を見て未来を予言しようとしているのにそっくりだ。

こんなことをしても何の意味もないはもちろんである。シーズン前の個別のラップタイムは無意味なのだ。もし意味があるなら去年マルク・マルケスはMotoGPタイトルを獲得していたことになる。

ここ何年もの間、私はプレシーズンテストで何が起こっているのか理解するもっと良い方法を駆使している。セパンサーキットからすぐ近くの空港ホテルのレストランで静かにビールを飲みながらどのチームがディナーに一番乗りするか待つのだ。

今週のセパンで最初にテーブルに着くのはたいていワークスヤマハのチームだった。一方ホンダのメカニックたちはいつまで経ってもやってこなかった。彼らは暑苦しいピットボックスでまだ苦闘していたのである。グランプリ68年目となる2016シーズンに向けてRC213Vを仕上げようと努力していたのだ。

3日間の最後のラップタイムはHRCの満足のいくようなものではなかった。彼らのスターライダー、マルク・マルケスは5番手、ヤマハのチャンピオン、ホルヘ・ロレンソからは1.2秒というとんでもない差をつけられてしまった。ロレンソは蝶のように舞い蜂のように刺すという感じの走りで、ミシュランタイヤとWindows95(またはそれ的な)電子制御に対応してみせた。バターのように滑らかな彼のライディングスタイルはタイヤのグリップが少なく電子制御のライダー支援が少ない状態でむしろより輝いているように見えたほどだ。ヴァレンティーノ・ロッシですらロレンソからは1秒近く遅れている。しかし特筆すべきはホンダが苦労しているという点である。

ホンダはどうも苦労するのがすきなように見える。彼らの主なライバルであるドゥカティとヤマハは昔から優しいMotoGPエンジンを作っている。「ビッグバン」とか「ロングバン」とか「ツインパルス」と呼ばれる点火タイミングのエンジンだ。しかしホンダは自分たちのライダーをいわゆるスクリーマーにのせてきた。最大馬力を目指していたのだ。コースサイドに立てばロングバンとスクリーマーがマシンのハンドルを握るライダーたちにとってどんな違いがあるのかすぐわかる。M1やGP16が去っていく。このときの音はカスタムしたストリートバイクのようにくぐもっている。そしてRCVがやってくる。甲高い音で歯をむき出しライダーをワープさせる。RCVの排気音は内燃機関気狂いに獲っては天国の奏でる音楽だ。まあ少し恐ろしいものではあるが。

ホンダが使っているのは90度V4である。これは振動によるパワーの減衰がないからだ。90度V4の凄まじいパワーは乗りやすさの犠牲の上に成り立っているのだ。

ホンダの問題はここにある。マシンはストレートではとんでもなく速いがコーナー進入と脱出では手に余るものとなってしまう。近年のホンダは魔法のような電子制御でこれをなんとかしていた。宇宙時代の電子制御のおかげでエンジンとシャーシが完璧にマッチしたマシンが実現したのである。こんなことをしたのはおそらくホンダが最初であり、そして今彼らはこれまでのすべての成果を捨ててWindows4の勉強をしなければならないはめに陥っている。

「統一ソフトウェアはうちが10年前に使っていたようなものですね」HRCの副社長、中本修平はセパンでこうこぼしていた。彼のいらだちはよくわかる。中本はずっと前モデルよりいいバイクを作るという仕事をしてきたのに、今は過去に引き戻され2016年型ではなく2006年型に最適であろう電子制御から最高のセッティングを引き出さなければならないからだ。

つまりこういうことだ。なぜホンダは他のメーカーと同じように優しいビッグバンエンジンを作らないのか?そもそもホンダこそがビッグバンエンジンを1992年型NSR500で初めて持ち込んだのではなかったか?

ホンダがビッグバンを作らないのは群れて走るのが嫌いだからだ。コピーが柄井だからだ。ホンダのGPヒストリーは独自の未知を歩むことによって作られてきている。時には失敗することもあったが、それ以上に成功を収めているのだ。

ホンダは今でもレースについてスポーツやマーケティングのためだけではなく、走る実験室だと考えている。学ぶためにレースをしているのだ。勝つことだけが目的ではない。学び、そして勝つことができれば理想的だ。しかし本田宗一郎がかつて言っている。「勝つことより負けることで学ぶことの方が多い」。問題を抱えたときのホンダは一番楽で合理的な道ではなく別の道を探すのだ。そういう時でなければ考えつきもしなかったような技術を試すのである。

これを天の邪鬼と呼ぶこともできる。ホンダは1960年代からずっとそうだった。スズキとヤマハが登場したばかりの2ストローク(東ドイツのMZから盗んだものだ)で世界タイトルを獲得していたときにホンダは本田さんの作り上げた4ストロークにこだわり続けた。彼は非常に速い「臭いバイク」組に入ることを拒み、そして伝説的な4ストマシンを作り上げた。もう二度と見ることはできないだろう6気筒250ccや5気筒125cc、2気筒50ccなどだ。こうしたマシンは毎分20,000回転以上も回すことができた。RC115という50ccマシンは22,000回転、そしてリッターあたり280馬力を叩き出した。

これは現代のMotoGPマシン以上のパワーだ。そしてそれは1966年のことだ。ほぼ半世紀前である!

それから10年後もまだホンダは2ストロークの情け容赦ない猛攻に降参することを拒否していた。彼らはオーバルピストンに1気筒8バルブ、ツインコンロッドでツインプラグの500cc4ストロークマシンを巨費を投じて作り上げたのだ。NR500は有名な大失敗に終わったが、それでも世界中がこのドンキホーテ的マシンには驚くことになった。しかもNRを作り直すのにたった80人時間しかかからなかったのだ!

「決して完成しない」とまで言われたNRで不面目な敗北を味わって初めてホンダは苦い敗北を認め「臭いマシン」の軍門に下る決意をすることとなった。1980年代のGPの500ccは4気筒のヤマハと4気筒のスズキが席巻していた。これらのマシンはロータリーバルブ吸気でアルミシャーシだった。ホンダが最も合理的な道を選ぶのであれば(しかもそれはNRでの恥ずべき敗北の直後である)勝利を重ねている会社が使う試行錯誤を重ねた上で信頼できるようになった技術を使うことになったろう。

しかし彼らはそんなことはしなかった!ホンダは1981年にエンジニアをヨーロッパに派遣しキング・ケニー・ロバーツやランディ・マモラ、バリーシーンといったライダーで勝利したGPマシンを観察させた。そこで到達した結論はかなり大胆なものに見えた。ロータリーバルブ4気筒のアルミフレームマシンは作るな。3気筒エンジン、リードバルブ吸気、そして鉄フレームのマシンを作れ。

NRを笑いものにした人たちがNS500も笑いものにしたのは当然だ。いったいどうしたら3気筒が4気筒より速くなるというのだ?しかし実際にはNSこそが初の現代的GPマシンだったのだ。マシンのパッケージを重視していたのだ。エンジンをフレームに載せただけのマシンではなかったのだ。NSはデビューシーズンで勝利し。そしてフレディ・スペンサーに1983年の500cc世界タイトルをもたらした。NSは大きく扱いにくいヤマハやスズキよりコースでは速かったのだ。

3気筒のパワーでは足りなくなるとホンダは1984年に4気筒マシンを作った。しかしまたしても独自の道を歩んでみせた。スズキやヤマハのような2本クランクのエンジンではなく1本クランクのNSRを作ったのだ。しかし1本クランクの呪いと呼ばれた問題に悩まされることになる。1本クランクのトルクリアクションのせいでマシンはワイドにはらんでしまったのだ。そこで彼らはクランクの回転方向を反対にすることで対応していた。

シャーシも普通のものではなかった。燃料タンクをエンジン下に置き、チャンバーがエンジン上を通っている。当時これは意味のあることだった。特に重心の低さが速さに直結すると知っていた4輪エンジニアにとっては当然のことだったのだ。しかしバイクでそれは通用しなかった。慣性の法則はバイクの世界では違う形で働いていたのだ。「上下逆さま」のNSRは彼らの失敗のひとつに数えられることになる。

しかしHRCは転んでもただでは起きなかった。彼らはまた学んだのである。1985年型はシャーシを変え、1992年には点火タイミングを変えることでライダーに優しいビッグバンエンジンのNSRを導入する。これは500ccの革命となり、再びヨーロッパ人が500ccに乗れるようになった。そして500cc最後の10年間で7回のタイトルを獲得することになった。人が通らない道を歩むことで真似をしたバイクよりも遥かに素晴らしいバイクを作ったのだ。

これはNSRの後継車であるMotoGPマシン、素晴らしいRC211Vでも変わらない。V5マシンはグリッドに並ぶ他のV4や直4エンジンのマシンとは全く別物だった。そして他のマシンより性能が高くMotoGPの最初の32レースで27回の勝利を重ねている。

現行RC213Vの形態について語るならホンダの歴史と哲学を忘れてはならないということだ。

マルケスが2連覇したのは2013年型と2014年型RC213Vでのことだ。去年はホンダが「勝利病」にかかっていたという人もいる。勝利に酔いすぎたというのだ。

MotoGP界で最も強力で最も獰猛なエンジンを持っているにもかかわらずホンダが問題を抱えているのは、どんどん厳しくなるMotoGPの技術ルールのせいで彼らの豊富な経験をもない解決に充分活かすことができないからである。最近のいわゆるコストカットルールのせいでMotoGPというスポーツをわかりやすくしているという主張はまったくもって正しい。テレビ受けするエンターテイメントが最優先で技術開発は二の次である。しかしこれはMotoGP世界選手権だ。つまりホンダがやるべきはこうしたルールの下でこれまで以上に工夫を凝らし勝利することである。

MotoGPエンジンがカタールGP前日に封印されるまでにHRCに残された時間はあと6週間。マルケスや他のライダーにM1と同じようにライダーに優しいエンジンを渡すことができるようななにか魔法の技術が出てくるだろうか?それともこれからの40日間、夜を徹して全く違うものを作り上げるのだろうか?

ホンダのことだ。何かをやってこないとは決して言えない。
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どうなるか楽しみ!

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