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私はどのように翻訳しているか Part3:間違いから学ぶ

これまで2回ばかり私の翻訳方法について偉そうに講釈をたれたことがあるのですが、実は間違いもしているというお話です。今回はツイッターで@hige_penguinさんから御指摘いただいたところをまとめつつ、解説を入れましたのでご笑覧くださいな。(以前のものはこちら→その1その2
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さて、最初のネタはMat Oxley氏による最終戦の評論「2015MotoGP最終戦で何が本当に起こっていたのか
」です。原文はこちら。

その1:慣用句であることに気付かないまま知ってる単語をつなぎ合わせたことによる誤訳
原文:If both Repsol Hondas had managed to get past Lorenzo, then Rossi would have been champion. But they didn’t. Perhaps Marquez was riding shotgun to Lorenzo.(4枚目の写真のすぐ下)

当初の翻訳:もしレプソル・ホンダの2台がロレンソを抜いていたらロッシがチャンピオン
だった。しかしそうはならなかった。マルケスはロレンソを抜けたかもしれない。

hige_penguinさんによる指摘:Perhaps 以下は、もしかするとマルケスはロレンソを護っていたのかもしれない。とそのまま訳してよいのでは?

修正後:もしレプソル・ホンダの2台がロレンソを抜いていたらロッシがチャンピオンだった。しかしそうはならなかった。マルケスがロレンソを護っていた可能性はある。

解説:ここのポイントは「riding shotgun」です。私は「ショットガン」という単語からなんとなく「マルケスがロレンソを狙っている」的に訳したのですが、これは慣用句。西部劇なんかでショットガンを持つ男たちが駅馬車を護っている様子から「誰かを護っている」という意味だったのです。

教訓:なんとなくで訳さない。辞書を引けば出てくることもある。

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その2:その1の続きで文意が通るように無理矢理訳したことによる誤訳
原文:But if that’s true, why was he on the M1’s tail throughout the race,

当初の翻訳:ではどうして最後までM1の後ろでうろうろしていたのか?

hige_penguinさんによる指摘:前からの続きなので、上に続けると、もし、それが事実なら、なぜマルケスはずっとM1のすぐ後ろについていたのか?(on なので、くっついているという意味かと)

修正後:ではどうして最後までM1の後ろにぴったりくっついていたのか?

解説:ここは「その1」で訳した文章が正しいという前提で次の文章の意味が通るように訳してしまったために誤訳となっています。おそらく単体で訳していたらどちらでもテストでは○がもらえるかとは思いますが、「もしそれが真実なら」の「それ」の意味が180度逆に訳していたのでこの文章も逆に訳してしまっているのですね。

教訓:間違いに気付かないと傷が広がる。

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その3:さらに間違いが続く
原文:And why didn’t he give Lorenzo an easy time, following him around at a
respectful distance, rather than hassling him lap after lap?

当初の翻訳:なぜ彼はそれなりの距離をとってロレンソに楽をさせていたのか?毎周つついて
もよかったのではないか?

hige_penguinさんによる指摘:ここは、why didn't なので、

なぜ彼はそれなりの距離をとってロレンソに楽をさせなかったのか?毎周つつき続けるのではなく?

となるかと。

修正後:なぜ彼はそれなりの距離をとってロレンソに楽をさせなかったのか?なぜ毎周つつき続けたのか?

解説:文意から読み飛ばしていったので「why didn't」の「not」部分を見逃して訳すという大失態です。ちゃんと読んでここで気付けば遡ってリカバリも可能でした。

教訓:思い込みは人を盲目にする。

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その4:読み飛ばすとこういうことになる
原文:Rossi very nearly won the championship with four victories, including his win in the Silverstone rain(above), undoubtedly one of his greatest rides of all.(6枚目の写真の上の段落)

当初の翻訳:ロッシは雨のシルバーストンをはじめとして4勝を挙げ、もう少しでタイトルを獲得するところだった。彼は間違いなく最も偉大なライダーの一人だ。

hige_penguinさんによる指摘:one of his greatest rides なので、雨のシルバーストンについて、

間違いなく彼の最もすばらしいレースのひとつだった 

と形容していると思います

修正後:ロッシは雨のシルバーストン(彼の最高のレースのひとつだ)をはじめとして4勝を挙げ、もう少しでタイトルを獲得するところだった。

解説:前から訳していけば当然そうなるはずなのに、なんでこんな誤訳をしたのか自分でも意味がわかりませんね。おそらく「one of his greatest rides of all」を「one of a greatest riders of all」とか読み違えていたのかも。

教訓:文意が通じても安心してはいけません。ちゃんと読もう。

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そしてお次はDavid Emmett氏による最終戦の評論「2015ヴァレンシア日曜MotoGPまとめ:タイトル争いの勝者、敗者、そして破壊者」です。原文はこちら

その1:andが何と何をつなげているかを見誤ったことによる誤訳
原文:Most importantly, Kent has absolute faith in what Bom is doing for him, and Bom has faith in the talent of Kent, and the ability to convince Kent of the Englishman's own talent.(第3節「You've got to have faith:信じる気持ち」の最初の文)

当初の翻訳:最も重要なのはボムがケントのためにしてくれるすべてについてケントが信頼をおいていたことだ。そしてケントはボムが自分の才能を信じてくれていること、ボムと一緒なら自分の才能が開花することも信じていた。

hige_penguinさんによる指摘:この後半は、原文の主語がBomなので、全部Kentを主語として訳すのはやりすぎな気が。(意図的にそうされた気配がありますが)

そしてボムはケントの才能を信じ、ケントに自身の才能を確信させた。

いずれにせよ、ライダーとチーフメカとの相互信頼関係による心理的なサポート
が鍵だったという主旨に変りはないので、好みの問題ですね。

修正後:最も重要なのはボムがケントのためにしてくれるすべてについてケントが信頼をおいていたことだ。そしてボムもケントの才能を信じ、そしてそのことでケントが自分の才能に自信を持てたということだ。

解説:文章の中の二つのandが何と何をつなげているかということですが、私が1つめのandを「what Bom is doing for him」 と「Bom has faith in 〜」をつなげてると思ったのが間違い。その原因はconvince Kent of the English man's own talentで、なんとなくbe convinced と読んでしまって、Kent of the Englishmanを「英国人ケント」とややもって回った言い方に解釈しちゃったことにあります。そこまで修辞的ではなかった。1つめのandの前にあえて「,」がついているのがポイントとでしたね。この「,」によって一旦文章が切れている=主語が変わるということに気付くべきでした。

教訓:句読点もおろそかにしてはいけません。

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その2:筆者の対象に対するスタンスへの理解不足
原文:Kent may have deprived Oliveira of the Moto3 title, but the Portuguese rider put himself on the map this year with the Red Bull KTM team.(その1のすぐ下の段落)

当初の翻訳:ケントはオリヴェイラにMoto3のタイトルを奪われる可能性もあった。しかし今年のオリヴェイラの成績はレッドブル・KTMチーム次第だった面もある。

hige_penguinさんによる指摘:ここは、Someone *may* do something, *but* ... の構文と、epriveの主語がKentであること、put someone/something on the map の慣用句に注意すると、オリベイラについてよりポジティブになって

ケントがオリベイラからMoto3のタイトルを奪いはしたが、オリベイラは今年レッドブル・KTMチームと共に名を遂げた。

となります。(直訳調...)

修正後:ケントはオリヴェイラからMoto3のタイトルを奪うことができたが、今年レッドブル・KTMチームで走ったオリヴェイラは素晴らしい成績を残すことができた。

解説:ここは「put on the map」をどう訳すかがポイントです。実は辞書で引いた上で当初訳「〜次第」としたんですが、明らかに指摘通りの訳の方が正しいです。なんでこんなことに…。

教訓:状況を理解しながら訳さないといけません。今年のオリヴェイラは褒め尽くしていいくらいの活躍だったんだから、褒める文脈になるべき。

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その3:英和より英英
原文:The Moto2 race itself was a close-run affair,(さらにすぐ下の文章)

当初の翻訳:Moto2のレースはいまひとつではあった。

hige_penguinさんによる指摘:直訳すると、

Moto2のレース自体は接戦だった。

となり、否定的ニュアンスは感じないのですが... (短縮レースになったことは確かですが)

修正後:Moto2のレースは接戦だった。

解説:「close-run」をweblioで引くとhttp://ejje.weblio.jp/content/close+run「いま一歩」としか出てきません。そこでそのまま訳しちゃったんですが、そのページの例文を読むと「-- life or death, and a close run.":生きるか死ぬかのきわどい航海なんですよ」とあります。さらに同じページの「Wikitionary英語版」では「Hotly contested; won or achieved only by a small margin.」とあります。「熱い闘い:わずかの差で勝利すること」となるのですね。おそらくweblioの訳が間違いです。

教訓:英和辞書より英英辞典を信用しよう。

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その4:接続詞ひとつで意味が変わる
原文:and as at Phillip Island and Sepang, a tense and thrilling battle was ruined by the events which surrounded the race afterwards.(第4節「All is not what it seems:見えること/見えないこと」の最初の文)

当初の翻訳:フィリップアイランドとセパンではレース後のごたごたで素晴らしい戦いが台無しになってしまった。

hige_penguinさんによる指摘:as の見落としで意味が違っています。

フィリップアイランドとセパン同様、緊迫した素晴らしい戦いがレース後のごたごたで台無しになってしまった。

修正後:今回もフィリップアイランドとセパンと同様にレース後のごたごたで素晴らしい戦いが台無しになってしまった。

解説:これは解説不要。しかしこの誤訳の原因をasの見落としと見破っているhige_penguinさん!

教訓:落ち着け!

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その5:意味のわからない誤訳
原文:For me, if you check the races of Marc Marquez in the last two years(「On the outside looking in:外から推し量る」の3段落目)


当初の翻訳:前の2レースでマルク・マルケスがやったこと思い出せば

hige_penguinさんによる指摘:この2年間のマルク・マルケスのレースを確認すれば

修正後:この2年間マルク・マルケスがやってたこと思い出せば

解説:last twoしか読んでなかったですね。

教訓:だーかーらー、ちゃんと読め。

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その6:事実確認を怠ったことによる誤訳
原文:If Lorenzo had not got suckered in trying to follow Scott Redding at Misano on slicks fresh out of the pits,(「If you ain't got the speed …:速さがないなら…」の最後の段落)

当初の翻訳:もしロレンソがスリックでピットから出てきたばかりのスコット・レディングを追おうなどと思わなければ

hige_penguinさんによる指摘:原文でも at Misano on slicks fresh out of the pits が to follow と Scott Redding のどちらに係るのか不明確ですが、ピットから出てきたばかりだったのは、ロレンソの方でした。

もしロレンソが、ミザノでピットから出てきたばかりのスリックでスコット・レディングを追おうなどと思わなければ

修正後:もしスリックでピットから出てきたばかりのロレンソがスコット・レディングを追おうなどと思わなければ

解説:ここは本文だけ読んでミザノのラップチャートを確認しなかった私のミスです。こういうのは文章からだけではわからないので、誤訳が気付かれにくいのですが、翻訳という作業はこういうチェックも含めて重要ということですね。

教訓:文章の解釈に起因するのではない「誤訳」というものある。

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その他、解釈というか趣味の違いについてもちょっと興味深いネタもあるのでちょっとばかり。

その7:正確さと文章の勢いのどちらを採るか?
原文:Once again, there are no winners here, and that is very sad indeed.(「All is not what it seems:見えること/見えないこと」の1段落目最後の文章)

当初の翻訳:もういちど言っておこう。勝者はいな。それが本当に悲しいのだ。

hige_penguinさんによる指摘:タイポ以外に、here を省略せずに、

この点において勝者はいない。

と限定する方がよさそう。

修正後:もういちど言っておこう。勝者はいない。それが本当に悲しいのだ。

解説:ここは難しいところです。私は文章の勢いを優先しつつ「very sad indeed」への流れを優先して「here」をあえて訳しませんでした。英語のテストでは御指摘の通りにした方が良いはずなのですが、なんとなくEmmet氏の気持ちを(勝手に)推し量ってこうしてます。

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その8:読者とどれくらい前提を共有しているか?
原文:If he had not been suckered into battling with Márquez – clearly Márquez' plan,(「If you ain't got the speed …:速さがないなら…」の2段落目)

当初の翻訳:もしマルケスの計画通りバトルに巻き込まれなかったとしても

hige_penguinさんによる指摘:「計画通り」が「巻き込まれなかった」を修飾するように読めしまうので、修飾関係を明確にするために、

もしマルケスの計画通りのバトルに巻き込まれなかったとしても

「の」が連続してしまいますが。

修正後:もしマルケスの計画にはまって彼とのバトルに巻き込まれなかったとしても

解説:「ひとつの文章だけで誤解がないようにする」か「読み手の一定の知識を前提に流れを重視するか」がポイントです。このレースを観た方は「マルケスがロッシをバトルに巻き込もうとしていた」ことを前提として読めるので修正前でもOKですが、そうでない方には御指摘のような誤解が生まれてしまうかもです。でも文章の流れは重視したい。そのせめぎ合いはいつでもあります。というわけで折衷案が修正後の文章となるわけです。
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まあ罠はあちこちに潜んでいるのですよ。

hige_penguinさん、これからもよろしくお願いします!

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コメント

 たとえば同じ小説でも翻訳家が違うと全然ニュアンスが変わったりしますものね。
最近になって知り合った方と、H・D・ソローの『森の生活』が共通の愛読書であることがわかったのですが、その際も「誰の翻訳が一番キタかで盛り上がりました。
 今年一年お疲れ様でした。
来年もお邪魔させて下さいませ。
よいお年を!

投稿: りゅ | 2015/12/31 21:19

>りゅさん
 今年もよろしくお願いします!

投稿: とみなが | 2016/01/01 13:25

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