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MotoGPクラッシュ統計の分析

シーズンも終わってややのんびりモードですが、ちょっとおもしろそうな記事なので訳します。Motor Sport MagazineよりMat Oxley氏の分析です。
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病気と呼ばれようが性格が歪んでると言われようが、ここのところ私は大好きな書類を読んで楽しんでいる。MotoGPのクラッシュレポートだ。別に冬の間はぬくぬくとしながら人の不幸を楽しむのが好きだというわけではない。クラッシュの一覧を見るとシーズン中に何が起こっていたのか手に取るようにわかるからなのだ。

ライダーにとって勝利が最高のご褒美であるなら、クラッシュは最悪の罰である。500ccでの勝利経験もありワールドスーパーバイクのチャンピオンでもあるカルロス・チェカほどこれを巧く表現した者はいないだろう。

「クラッシュはライダーにとってクソだ。バイクにとってもクソだ。メカニックにとってもクソだ。セッティングにとってもクソだ」。彼はしばらく前に私にそう話してくれた。「自分が間違った方向でやってるっていうシグナルなんだ。勝ちたいけどクラッシュしたら絶対勝てない。イギリスに行こうと思ってるのにフランスにいるような漢字だね。で、クラッシュするってのはスペインにまで行っちゃうようなもんなんだ。そんなことをやってたらいつまでたってもイギリスには行けないよね」

ありがとうカルロス。その通りだ。

MotoGPクラッシュレポートはドルナのフリン・ヴェィーリャの労作だ。どのライダーが最もクラッシュが多かったか、どのコーナーでのクラッシュが最も多かったのか、レースごとのクラッシュ数は何回か等々のデータが満載である。

しかしまずは2015年のMotoGPクラッシュリーグのチャンピオンの話からはじめなければいけない。紹介しよう,】最近レッドブル・KTMをクビになったカレル・ハニカだ。24回、つまり1ラウンドあたり1.3回のクラッシュを喫している。トップ争いというのはいつでも厳しいものである。今回のハニカもMoto2のレックス・ポンスをわずか1回差で上回ったに過ぎない。そしてその後ろには2回分の中に8人のライダーがひしめき合っている。サム・ロウズ、アレックス・マルケス、アレックス・デ・アンジェリスが19回、ルイ・ロッシ、ジャック・ミラー、尾野弘樹、シャヴィエル・シメオン、鈴木竜生が18回で続いているのだ。

もちろんこれをどう分析するかが重要なのは言うまでもない。一般的にクラッシュしないライダーはマシンに気持ちよく乗れていて限界もわかっているため、何も気にすることなく毎ラップ限界ぎりぎりで走ることができる。一方クラッシュが多いライダーは正確に限界近くでバイクを走らせることができず、その結果、限界を超えてしまう。

最高峰クラスのトップには最近にはないできの悪さのRC213Vに悩まされたマルク・マルケスが君臨している。カーボンファイバーをゴミ箱行きにしたのは13回(去年は11回で済んでいた)。一方、タイトルを獲得したホルヘ・ロレンソはこれまでになく巧みな、そして正確なライディングを見せた。転倒はわずか3回だったのだ。ロレンソは8年間のMotoGPキャリアで36回の転倒を喫しているが、マルケスは3年で39回も転倒している。

ヴァレンティーノ・ロッシにとってはキャリアで2番目に転倒の少ないシーズンとなった。現役最長のキャリアを誇る彼がいかに気持ちよくYZR-M1に乗っていたかは、彼が2回しか転倒しなかったことからも明らかだ。最も転倒が少なかったのは2003年の1回だ。この時は3度目の最高峰クラスタイトルを獲得している。圧倒的な強さだったRC211Vに乗っていたときだ。その反対に2011年、ドゥカティの悪魔的なデスモセディチでの1年目は12回も転倒している。

2015年に最も転倒の多かったラウンドはシルバーストンとルマンだ。それぞれ79回、78回の転倒があった。25回だったアルゼンチンの3倍以上だ。イギリスとフランスでは気温も低く雨も降っていたことを思えばそれほど驚くようなことではない。

今シーズン最も転倒の多かったコーナーはミザノの10コーナー(非常に重要となるバックストレートに向かうトラモントと呼ばれる右コーナー)で20回の転倒が起こっている。ただし多くはウェットでの話だ。これに次ぐのがカタルニアの10コーナー(バンピーで逆バンクとなっている上、通常はオーバーテイクの最後のチャンスとなる)、そしてヘレスの2コーナーで、それぞれ16回だ。

全クラスを通じて2014年はそれまでの記録を塗り替える981回(きゅうひゃく・はちじゅう・いっかい!)のクラッシュがあった。そもそもクラッシュの数は増加傾向にあるのだ。これにはレースが接戦になっていること、サーキットの安全性が高まっていることなど様々な要因がある。そして今シーズンにはついに1000回を超えるかと思われたが、実際には976回、1ラウンドあたり54回におさまっている。

それでもかなり数字である。しかしさらに重要なのは深刻な怪我につながるようなクラッシュがなかったことだ。MotoGPが依然として危険ではある。最近でも2010年に富沢祥也が、2011年にマルコ・シモンチェリが亡くなっている。しかしますますタイムが縮んでいることを考えれば、驚くほど安全になっていると言えるだろう。

今シーズン最悪のクラッシュはアレックス・デ・アンジェリスの頭部の怪我だ。彼はもてぎのそのクラッシュで脊椎と肋骨を3本骨折している。そしてドミニク・エガーターがアラゴンで脊椎を4か所と肋骨、右手首を骨折し肺挫傷を負っている。

その他に今シーズンは合計すると手の指が6本、足の指が4本、鎖骨が3本、手首が2本、腕が一本、軽い脳震盪と脱臼、捻挫がいくつかとなっている。もちろんそれがどれくらい痛いかは私にはわからない。MotoGPライダーがクラッシュしてテレビのキャプションに「ライダーOK」とでるが、それは「ライダーはとんでもない痛みに見舞われているが奴はとんでもなくすごいのでレースには出る」という意味である。

もちろん今問題となっているのは、MotoGPに導入される統一ソフトウェアがクラッシュを増やすか減らすかということである。

理論的には電子制御によるライダー支援はクラッシュを減らすことになる。しかし現実は少々異なっている。バイクの電子制御技術はまだ揺籃期なのだ。つまりまだ開発余地があるということなのである。故障やらバグやらのせいでクラッシュが起こることもありえるのだ。

MotoGPクラッシュレポートが教えてくれるのは最高峰クラスでは2006年からクラッシュが倍増(98回から215回)しているということだ。もちろんその責を全て電子制御に負わせるのは早計ではある。

しかしトラクションコントロールやエンジンブレーキコントロールが予想外の挙動をしたら、どんなライダーでも地面に投げ出されることになるだろう。同じようjに1960年代や70年代初頭は2ストロークの技術が未熟だったために多くのライダーが怪我をしたり死んだりしていた。その犠牲の上に冶金や潤滑方法が発達し、多くのライダーがその恩恵を受けることになったのだ。今日のMotoGPライダーも電子制御のためのクラッシュテスト用ダミーなのである。

MotoGPクラスのクラッシュは急激に増加しているが小排気量クラスではそれほどではない。ここ数年はほどんと増加していないのだ。どういうことだろう?その理由は数え切れないほどある。

マニエッティ・マレリ社がドルナの技術ディレクター、コラード・チェッキネリの協力の下で作製したソフトウェアとハードウェアの話に戻ろう。全てのマシンが既製品ソフトウェアを使わなければならないということはMotoGP黎明期からすごい早さで開発が続けられてきたワークス特注ソフトウェアほどの性能は出せないということである。

ドルナ製電子制御キットの初のフルテストとなったヴァレンシアではトップライダーのほとんどがその退化に驚くこととなった。2008年か2009年くらいに戻ったのではというのがロッシの意見だ。しかし彼はそれほど否定的ではない。

「最初は頭にきてf**kって言いたくなりますね。すごく乗りにくくなりましたからね。でもレースは面白くなるでしょうね。ラップタイムを安定させるのが難しいんです。だからバトルも激しくなるし、楽しくなるでしょう」

ロッシはおそらく正しいだろう。しかし彼を担当するワークスからきた電子制御エンジニアが次の3月までがんばってソフトウェアの性能を最大限に引き出すことの方がありそうだ。

対照的にワークスドゥカティのアンドレア・イアンノーネとアンドレア・ドヴィツィオーゾは新型ソフトウェアを大歓迎している。これはたまたまドゥカティにマッチしていたという話ではない。マニエッティはMotoGPでもスーパーバイクでもドゥカティと長年一緒にやっているのだ。当然ドルナのマニエッティ製ソフトはドゥカティがこれまで使っていたものに近いものとなっている。ヤマハもマニエッティとやっていたがドゥカティほど長くはないのだ。

ドルナの電子制御キットに最も不満なのはマルケスをはじめとするホンダのライダーだ。彼は先週のヘレスでひどいハイサイドを喰らっている。トラクションコントロールが予想と違う動きをしたのだ。

「電子制御はスムーズとはとても言えないですね。電子制御が介入しすぎてマシンが暴れるんです。スライドし過ぎると極端に介入してくるんですよ。しかもそのタイミングが遅すぎるんです。それでスロットルを緩めなきゃならなくなる。ほんとうに乗りにくいですね」

ホンダはミシュランとマッチしているようには見えるが、MotoGPの新たな電子制御時代の到来のせいでかなりの不利を被ることになるだろう。これまでずっと電子制御はハードもソフトも内製していたからだ。これまでマニエッティのような電子制御を使ったことがないのだ。朝霞のHRC本社のシーズンオフは徹夜が続くことになるだろう。
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おもしろいシーズンになりそう!

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コメント

マルケスは確かに転倒が多いですよね。
一昨年のムジェロでの転倒はぞっとするものでした。
一方で彼は反射神経が良いから、これまで大きな怪我を回避してこれているという話があったと思います。
確かに自分もそう感じますが、これがいつもそうなるとは限らないと思います。

とある雑誌でウェインレイニーが記事として乗ってました。
カリフォルニアの彼の自宅でのものです。
正直、自分的には車椅子に乗ったレイニーを見るのはきつい部分はありました。
やっぱり、ああいうことは有るよりも無い方が絶対に良い筈です。
来シーズン、タイヤとソフトが変わり、ライダーが如何に対応してくるか?
それも楽しみではありますが、その中でアクシデントというものが無いことを祈りたいです。

投稿: motobeatle | 2015/12/12 23:43

>motobeatleさん
 転倒は少ないに越したことはないですよね。少なくとも大けががありませんよう。

投稿: とみなが | 2015/12/20 21:02

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