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データを扱うということ:マッテオ・フラミニへのインタビュー

さて、諸々落ち着いてきたところでヤマハ・レーシング公式が裏方さんを取り上げているので訳出。こういう記事はとても楽しいのでどんどん取り上げてほしいですね。
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MotoGpマシンが膨大な数のソフトウェアと電子部品を搭載しているのは周知の事実だ。こうしたソフト・ハードからデータがはき出されてくる。しかしチームはそれをどんな風に使っているのだろうか?データはどこに保存されるのだろうか?そして2016年にMotoGPクラスに導入される新ルールによりデータの扱い方はどんな風に変わるのだろうか?ヴァレンティーノ・ロッシのデータ・エンジニアであるマッテオ・フラミニに話をきてみた。ついでに彼の人となりも紹介しよう。

ヴァレンティーノはもう何年もMotoGPで戦っていますが、彼のデータはいつ頃まで遡ることができるんですか?

「ヴァレンティーノについては2004年からのデータがありますね。もの凄い量ですよ。通常はレース前に前年のデータを確認します。マシンの動態とか何をやっったかとか、そういうことですね。まずはそこから始めるのがベストなんです」


そこで使うのはヴァレンティーノのデータだけですか、それとも他のライダーのデータも使うんですか?

「今はヴァレンティーノのデータしか確認しませんね。彼に向けていいベースセッティングを提供しなきゃならないですから。ロレンソのデータも確認しますけど、それはプラクティスに入ってからですね。まずベースとしてはヴァレンティーノのデータ確認しかしません。ピットにでかいサーバがあってそこに全データが入ってるんです。すごい容量ですよ。メモリーの量がはんぱないんです。


どうやってデータを保存するんですか?

「マシンから全データをダウンロードするだけですよ。そしたら直接巨大なサーバに入っていくんです。基本的には巨大なデータ保存装置って感じですね。あとは必要なデータを分析するだけです」


もしそのコースのデータが今年マシンから得られるデータと異なっていたらどうするんですか?

「過去になにをしたか確認するのはとても訳に立つんですよ。前年に学んだことが入ってますからね。それがいい経験になるんです。ですから今年の状況に100%マッチしていなくても出発点としては使えるんです。ゼロからスタートするのに比べたら何かベースになるものがある方がいいですからね」


データからは何がわかるんですか?

「データがあればいろんなことがわかりますよ。マシンの動的状態がわかるいろんなセンサーがついてますからね。ブレーキングとか加速とかスロットル開度とかがわかるんです。その他にもエンジンのパフォーマンスがわかるセンサーもあるし、マシンの診断をするセンサーもある。基本的にマシンについてはなんでもわかるってことですね」


データを見ただけでどのサーキットかわかります?

「たぶんわかりますよ。ちょっと考える時間はいるかもですが、わかりますね」


サーキットのどの場所かも正確にわかるんですか?

「ええ、その方が楽ですね。どこのサーキットかわかればどのコーナーかはすぐにわかりますよ」


何人かのライダーのデータを見てどれが誰かはわかりますか?

「それもできるでしょうね。ヴァレンティーノことはよく知っていますし、ここ何年も彼とその時のチームメイトとの比較をしていますから。チェカ、エドワーズ、ロレンソってね。違うスタイルのライダーと比較することでヴァレンティーノがどんな乗り方をしているのかよくわかるようになってます」


他のライダーと比べたときの彼のライディングスタイルの特徴ってなんですか?

「例えばブレーキングですね。ちょっと特別なんです、すごくうまいんですよ。あと向き変えがすごく速いことですね。高速コーナーですごく速くて、リアブレーキとフロントブレーキのの両方を使ってるんです。マシンの動かし方も独特ですね。彼の独特なところっていろいろあるんですよ」


現行モデルと以前のモデルの違いはわかりますか?

「そこを見分けるのはちょっと分析しないと難しいですね。簡単じゃないです。エンジンが速いかどうかで見分けるのが一番楽でしょうね。スピードと加速を見ればわかりますから。でも新型シャーシかどうかを動態から見分けるのは相当な深い分析が必要ですね」


来年は電子制御開発が凍結されますが、これはどんな影響があるでしょう?

「今のソフトウェアに満足してたんですよね。すごく良かった。来年型は各メーカーのいいとこ取りだとは聴いているので、ソフト自体はちゃんとしてると願いたいでうね。ですからこれまでのデータ蓄積も無駄にならないと思ってます」


ソフトウェアの良し悪しって何で変わるんですか?

「いろいろありますよ、例えばコーナーごとにトラクションコントロールのプログラムを変えられるとか、アンチ・ウィリーのセッティングを変えられるとかですね。いろんなセッティングができるんですけど、正確に、かつたくさんのインプットをすればアンチ・ウィリーのアウトプットもちゃんとする。ですからできの悪いソフトウェアはアンチ・ウィリーもちゃんとできないですけど、いいソフトならマシンを完璧にまっすぐ、しかも速く走らせることができるし、自分がしたいときだけスライドさせることができるんです」


レースを見てるときって普通に見てるんですか?

「いいえ。『マトリックス』って映画を観たことあります?マシンの挙動を見ると数字やらグラフやら線やらが見えちゃうんです。信じられないですよね!」


他のレースを見ていてもそんな感じなんですか?

「多かれ少なかれそんな感じですね。電子制御ユニットの中を走る数字やらセッティングやら二進数やらが見えちゃうんです。どこにでも数字が見えるんですよ」


楽しむためだけにレースを見るってことはあるんですか?レース中はリラックスできます?

「ええ。楽しんでますよ。レースが始まってしまえば私の仕事は終わりで、何もできることはないんですよ。だからやった結果が形になってライダーが優勝しようと戦ってるのを楽しんでいます。見てるときに数字や燃費が見えちゃうってだけでね」


レースの週末に入って最初にすることは何ですか?

「まず木曜に去年のデータをチェックします。去年何をしたか、ベースとなるセッティングはどうすればいいかを考えるんです。例えば去年はコースがすごく滑りやすかったんでトラクションコントロールを使いまくったし、今年も舗装はそのままだから同じ問題が出るだろうとかね。去年のギア比とかも確認しますし、そうやって基本となるセッティングがあれば今年も去年とそれほど違わないだろうって考えられるんです。去年のデータをちゃんと見るのはとても大事なんですよ」


ヴァレンティーノの安定性ってどうなんですか?

「すごいですよ。ほんとうに正確なんです。マシンがOKなら何周も同じタイムを出せる。信じがたいことですよ」


彼からのフィードバックはどれくらい正確なんですか?

「そこが彼の最高にすごいとこなんですよ。おかげで助かってます。チェックしなきゃならないデータがどれほどあるか想像がつきます?ありがたいことに彼はどのラップのどこコーナーの話か正確に伝えてくれるんです。だからそのデータを見れば良くって、すぐに問題を見つけられるんです」


ヴァレンティーノのような生きる伝説と仕事をしたい人のために教えてほしいんですが、どうやってこの仕事を手に入れたんですか?

「ヴァレンティーノがチームに入った時には私はもうここにいたんですよ。1999年の11月からヤマハでやってるんです。マックス・ビアッジがヤマハに乗っていて、私に声を掛けてくれたんです。で、ヤマハで働くことにした。まだ覚えてますけどアルゼンチンGPのときでした。それでマックス・ビアッジのデータ・レコーディング・エンジニアとして2000年の契約書にサインしたんです。そこからずっとヤマハで働いてます」


マックスとはどこで知り合ったんですか?

「彼を担当していた理学療法士が私の近くに住んでいたんです。で彼も私がヤマハで働いてることを知っていて、私もイタリア人だし当時チームは英語をしゃべる人しかいかなった。それでイタリア人が必要になって私に声を掛けてくれたってわけです」


モータースポーツ界で仕事をしていなかったら何をしていましたか?

「自転車会社で働いていたんじゃないでしょうか。すごくサイクリングが好きなんです。自転車が大好きだし、いろいろ電子機器を自転車に載せるのも好きなんですよ」


自分のことを「ヤマハ人」だと思いますか?

「ええ。それに前よりその思いは強くなってますね。2年間ドゥカティでやってたことがあるんですけど幸いにも戻ることができた。あの頃のことを思うと、ヤマハって家族なんですよ。故郷みたいなものなんです。もう他には行きたくないですね。ここにずっといたい。とても居心地がいいんです」


自分のいいところを三つ挙げて下さい。

「人見知りしないことと、うーん、他の人に聞いてもらった方がいいかな、自分を褒めるのは難しいですよね。あとは自分にも一緒に働いている人にもに正直なことと、スキルがちゃんとあることですかね。経験もあるし、何をやるべきかわかっている」


一緒に働いている人の中で誰と一番長くやってますか?

「(ヴァレンティーノのメカニックの)ブレントですね。1999年にはもう一緒にやってたと思います。私がチームに入った時にはもういましたから」


GPの合間には何をして楽しんだりリラックスしたりしてるんですか?

「読書と映画とあとはずっと音楽を聴いてますね。音楽好きなんです。マイオとか他の連中と走りにいくこともありますね。ハーフマラソンもやるんです」


自分に挑戦するためにですか?

「ええ。挑戦なんです。でもみんなで集まってだらしゃべるのも楽しいんです。ハーフマラソンは楽しいし終わった後が気持ちいい。好きですね」


音楽はなんでも好きだということですが、映画は何がお好きなんですか?

「『マトリックス』とかそういうやつですね。未来的で電子的な感じな映画が好きなんです。本だとキャシー・ライクス(訳注:犯罪ドラマ「ボーンズ」の原作者)とか、連続殺人ものとかが好きですね。あとはジェフリー・ディーヴァーが好きです。あとジョン・グリシャムもね(訳注:どちらも犯罪物)。犯罪者を追い詰めるやり方が好きなんですよ。思考の方法とか、細かい証拠から分析していく感じが好きなんです。私の仕事もそんな感じで理解するために分析していくんです。彼らも同じように何が起こっているかを理解するために分析する。。だから好きなんでしょうね!」


GPには必ず持ってくるものを三つ挙げて下さい。

「iPodかiPhoneは音楽のために必ず持ってますね。もちろん本も。あとはサイクリングとランニングのための道具ですね」


シーズンを通じていちばんお気に入りの場所はどこですか?

「いろいろいい場所はありますけどミザノが好きですね。雰囲気がいいんです。ミザノはホリデーシーズンに開催されるんでGPのために行くんだけど仕事な感じがしないんですよ。外に出ればたくさんの人が、たくさんの観光客がいる。それに私の家からもそう遠くはないですし。車で1時間ぐらいなんで帰ってきた気持ちになれるんです。ムジェロも同じですね。仕事のために行ってるのに里帰りした気持ちになれる。あとはアメリカも好きです。行くたびに何か新しい発見がある。いつも何か新しいことをするんです。例えば今年オースチンに行ったときには2〜3人で素晴らしいサイクリングをしました。ほんとに楽しかった。知らない場所で、すごく素敵だったんですよ。インディではホテルの近くの川沿いがランニングに最高で、本当にリラックスできてストレス解消になりました。生まれ変わったみたいですたよ!もうラグナに行けないのは残念ですね。あそこも素晴らしい。でもまあどこの場所もすごくいいんですよ。自分は運が良かったと想いますよ。仕事を楽しめるんですから」


誰も知らないご自分の秘密ってありますか?

「タトゥーが12か所あります。でも全部シャツの下の見えないところですけどね。小さいけど自分の人生の思い出を刻み込んでるんです。心に残った特別なことなんです。あと私はすごく細いんですけど象みたいに食べるんですよ!健康的に食べなきゃとは思ってるんですけど、チョコやアイスを食べまくることがあるんです。アイスには目がないんです!今日も2個食べて、夜も1個か、ことによったら2個食べるかもです!」
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ドゥカティの2年間はスタッフにとっても暗黒だったということでしょうか。この記事を見ると確かにそんな感じかも…。

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コメント

電子制御はGPマシンには不可欠なんですね。
もはや我々が乗っている市販車とは、全く違うものですよぬ。
ただ、いろいろアシストしてくれるにせよバルクフェルメに戻ってきたライダーを見ると、以前より疲れているように見えます。
マシンだけでなく、ライダーも体力的な性能を上げていかなきゃならないのかなと感じました。

投稿: motobeatle | 2015/11/18 08:02

こういう技術屋さんのインタビューって、伝わってこなくなってしまったから、私も楽しく読ませていただきました。ありがとうございます。

映画『マトリックス』ですか!マッテオ・フラミニさんから見たMotoGPは“ネオ”のように違って見えているんですね。

フラミニさん逆三角形のあごひげがトレードマークの方ですね。覚えておきます。

投稿: mac | 2015/11/19 22:57

こういう記事って面白いですねぇ。
たとえばピアノの調律師に聴けばピアニストがわかるし、アルペンのスキー競技もワックスでスキーヤーの状態がわかる。
それが数字で表されるものだともっとリアルに迫ってくる。
興味深いですねw

・・・でも私この記事はちょっと深読みしてしまいました。
ふーんそうかぁそうなのかぁ・・・と。
もともとこういう企画があったんでしょうけれども、ヤマハがこの記事をこのタイミングでリリースしたってとこが・・・
こんなこと考えるのはひねくれ者の私だけですかね?ww

投稿: りゅ | 2015/11/22 12:28

>motobeatleさん
 なんかそこは技術と人間の追いかけっこで、技術が進化するのはあり得るんですけど、人間までちゃんとそれについていけるのが驚きですね。

投稿: とみなが | 2015/11/23 22:05

>macさん
 なんか航空管制官みたいに世界が見えてるんでしょうねえ。それでも楽しめるというのがおもしろいです。

投稿: とみなが | 2015/11/23 22:06

>りゅさん
 ふふふ、ホンダのテレメトリーネタと合わせると(期せずして)味わい深くなっちゃってますねw。

投稿: とみなが | 2015/11/23 22:08

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