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MotoGP2015:もてぎまとめ

バイク系テクニカルライターのKevin Cameron氏のまとめ。技術的側面からの分析が興味深いです。Cycle Worldより。
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雨の中、ダニ・ペドロサに次ぐ2位でフィニッシュしたランキングトップのヴァレンティーノ・ロッシは3位のホルヘ・ロレンソとの差をさらに4ポイント広げることとなった。ロレンソはレース終了後にこう言っている。「残りの3レースをすべて勝てて、そして他のライダーが僕とヴァレンティーノの間に入ればタイトルが獲れる」。マルク・マルケスはランキング3位だがトップとの差は86ポイント。つまりタイトル争いからは数字上も脱落したということだ。

日曜になるまではドライコンディションで、ロレンソが前セッションでトップタイムを記録している。驚くべきはロッシだ。いつになく予選で攻め続け、予選終了直前までロレンソを上回りトップに居続けたのだ。それでもロレンソは最後の最後でトップタイムを出してみせた。

しかし日曜のウォームアップは雨。ここまでのすべてはご破算だ。ここで番手に1/4秒差をつけてトップタイムを出したのはペドロサだった。

日本のもてぎは比較的短めのストレートをタイトなコーナーで繋いだストップ・アンド・ゴーのレイアウトとなっている。ブレーキング性能が要求されるということだ(ベン・スピーズが2012年いブレーキトラブルに見舞われたことでレースディレクションは340mmのディスクを義務づけるようになったほどだ)。もてぎのブレーキングはフロントにかなりの負担をかけるが、逆にエッジに依存する高速コーナーが少ないためにリアタイヤには優しいコースだ。

スタートは傍目にもモチベーションが高まっていたロッシがスタート王のロレンソに先んじて真っ先に1コーナーに飛び込んだ。しかしロレンソが彼を抜くにはコーナー二つばかりあれば充分だった(ちなみに全ライダーがフロントはハードレイン、ソフトリアをチョイスしていた)。ロレンソは6周目あたりからスピードが落ちてくる。この時点でのリードは3秒以上。しかし他のライダーもそもそも柔らかく作ってあるレインタイヤがタレてくるとタイムを落とし始める。レインタイヤ用のゴムは柔らかくなければ21℃程度の路面温度に対応できないのだ。しかしその分、保ちは悪くすぐだめになってしまう。

これが難しいところだ。ウェットレースはそれほど回数があるわけではなく、レインタイヤの保ちを把握し、その挙動も充分理解しているライダーなどいないのである。今回のプラクティスはすべてドライ。つまり日曜のウォームアップセッションだけが理解を深めるチャンスだったのだ。そしてレース中盤にはラインが乾き始める。つまり誰もどうなるか予測できなかったということだ。

戦略はライダー次第だった。タイトル争いから脱落してはいるものの自らの価値を示す必要があったペドロサは4位に終わってもおかしくなかった。しかし彼はコンディションがドライに転じることに希望を託し、それが見事に当たったのである。MotoGPタイトルの権利が残っているロレンソとロッシは両者共に守りに入る余裕はなかったはずだ。彼らが反撃できなかったのはタイヤのせいなのだろうか?

ペドロサはこう言っている。「レース序盤は思うように走れませんでしたね。最初は全然スピードを上げられなかったんです。なのでかなりハナされてしまいました。とりあえず4番手を守りながらいいリズムをキープしていればタイヤを他のライダーよりも温存できると思ってたんです」

数字を見るとこの小柄なスペイン人が12周目から前に追いつき始めたのがわかる。そして15周目からはさらに差を詰めてきている。そしてペドロサがロッシを抜くと今度はロッシがいっしょにトップを追いかけるためにペドロサに着いていく。

ロレンソの見解はこうだ。「雨でも僕はかなり速かったんですけど運が悪いことにコースが乾き始めて、序盤で攻めすぎたせいかタイヤがヴァレンティーノやダニよりタレてしまっていたんです。コースがほぼ完全に乾いてからはフロントが終わってしまってそれまでのように走れなかったんですよ」

ペドロサとロッシはそれぞれ1位と2位になりそのままフィニッシュした。

2016年にMotoGPのタイヤを供給するミシュランがインターミディエイトを復活させる予定であることを考え合わせると、今回の結果は実に興味深いものとなる。去年私がMotoGPの技術ディレクターのマイク・ウェッブになぜインターミディエイトが供給されないかたずねたときは彼はこんなことを言っていた。「誰もほしがっていないからですよ」。工具屋の店員に3インチの釘がないかとたずねたときの答えと同じだ。「いやぁ在庫してないんですよ。誰もほしがらないんでね」

レインタイヤの表面は動きやすく柔軟性がある多数のブロックで構成されている。そのおかげで熱を持ちやすいのだが性能を維持するには水で冷やす必要がある。インターミディエイトタイヤは基本的にはスリックで、ただ排水のための溝が掘ってあるだけだ。そのため柔軟性はなく発熱はしにくいのだが性能は維持しやすい。原稿のインターミディエイトなしというやり方はフラッグ・トゥ・フラッグが導入されたためにレースがドライレースかウェットレースかに二分されてしまったからではないかと私は考えている。しかい完全ウェットでも完全ドライでもないコンディションというものは実際にはあるのだ。

ドライのQ2で2回転倒したブラッドリー・スミスの言葉も興味深い。「最初の転倒は5コーナーでフロントをロックさせてしまったからなんですけど、サスが底付きしちゃったんですよ」

ホンダはフロントに全荷重がのっても底付きしないようフロントサスを固めている。このときかかる荷重はバイクのものだけではない。ライダー、そして燃料の重さもすべてフロントにかかってしまうのだ。マルケスが全速力で走っている時にリアホイールが浮いているのを見たことがあるだろう。しかしスミスのテック3ヤマハのサスがフルボトムしてホイールがロックしたということはサスが柔らかいということを示唆している。ヤマハのライダーが得意とするコーナリング重視のライディングスタイルに筆よなメカニカルグリップを稼いぐためだろう。

ウェットレースではこうした違いは陰を潜めることになる。グリップが低いと誰もがスプリングもダンピングも柔らかい方に振ってくるのだ。柔らかいレインタイヤを巧くコントロールしてスムーズに走るためだ。

ロッシがどれほど苦労したかに思いを馳せると尊敬の念を禁じ得ない。彼がドゥカティに移籍したときは何もうまくいかなかった。そしてヤマハ似戻ってくるとマシンが進化していただけでなく要求されるライディングスタイルも変わっていたことで彼の乗り方は時代遅れになってしまっていた。とりあえずトップグループについていくことはできたがバトルをすることはできなかったのだ。そこで彼は自ら最新のライディングスタイルを学習していった。ノーベル物理学賞を受賞したハンス・ベーテが80歳を超えてから「ひも理論」を学び始めたようなものだ(彼は当時こう言っている。「僕はまだやれると思いますよ」)。しかしロッシに最新ライディングを教えてくれる教師はいなかった。さらにレースタイヤを装着したレースマシンでのテストも禁止されていたのだ。テストは実質的にレースウィーク中のプラクティスと決勝で行わざるを得なかったということである。タイヤとシャーシが進化する中多くのライダーが取り残されていった。ライディングスタイルが進化についていけなかったのだ。しかしロッシは違った。彼は最新ひも理論をマスターしてみせたのである。そして36歳になった2015年、MotoGPクラスのランキングトップは彼なのだ。

ロッシが一人だけ燃費問題に苦しんでいたのも興味深い。小柄なライバルに比べて身長の高い彼はマシンにフィットしていないのである。空気抵抗も大きく体重も重いことで燃費は悪くなる。最後までガソリンが保つようにするにはあらゆる場面で可能な限り燃調を薄くしなければならない。一般的にブレーキングで完全に燃料をカットするというのはしたくないはずである。一旦燃料をカットするとインテークダクトが乾いてしまいコーナー立ち上がりでスロットルを開けたときに噴射される燃料はまずダクトを湿らせるために使われてしまうのだ(エンジンに流れ込むガソリンには「気化した状態」「液滴状態」「ダクト壁を流れていく液体」という3種類の状態がある)。ダクト壁をガソリンで湿らせるには時間が要するのだが、これはつまりエンジンが濃い混合気を要求しているにもかかわらず薄いままの時間が発生するということなのだ。にもかかわらずどうしてロッシは速いのか。いつか彼に尋ねてみたいと考えている。

今回一番目立ったのは勝利をおさめたペドロサだ。他のライダーがみせたのは一瞬の輝きだが、ペドロサはうまいこと自分のペースを保ち続け、そして勝った。これもまた尊敬すべきことである。
(以下プレスリリースのライダーコメントの引用なので略)
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まさか「ひも理論が」がでてくるとは!ちなみにこれは「超弦理論」とか「M理論」とかとも言われる(正確にはこれらの理論の元になった理論ですが)「物質を構成する素粒子は11次元のひもだか膜だかでできている」という理論で、相対性理論と素粒子論を統合する万物理論につながる可能性のある(ことによったら万物理論そのものかもな)理論なんですが、いかんせん人間が理解するには複雑すぎて、さらに検証には銀河系ほどの巨大な加速器が必要とも言われている、謎(notトンデモ)理論です。いや、レースとは関係ない話ですが…。

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コメント

ヤマハのあの乱流をおこしそうな短翼は、やっぱり不足がちなメカニカル・グリップを補うためなんでしょうね...

投稿: ひさすえ | 2015/10/15 16:46

>ひさすえさん
 ちゃんとトヨタあたりの風洞実験室で確認済みならいいんですけど…。

投稿: とみなが | 2015/10/15 23:25

トヨタがホンダF1第3期の空力を担った童夢の風洞を買う話があったので(FIA-F4等相当関係が深まってます)ドイツじゃなく日本でも使えるようになりそうですが...ヤマハが使えるのかどうか...

投稿: ひさすえ | 2015/10/16 00:32

>ひさすえさん
 まあ子会社じゃないので難しいかもですねえ。

投稿: とみなが | 2015/10/16 22:51

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