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MotoGP2015:レースに集中しよう

たぶんこの件に関してはこれで終わり、かな。Cycle Worldより。
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私はダニ・ペドロサやその他の多くのみなさんと同様に今回のマルケス/ロッシ事件がMotoGPの価値を下げてしまうようなものだっと考えている。何より残念なのは多くの人がこの件を言い訳に、ここぞとばかりに汚い言葉を嬉々としてはき出していることだ。ものすごくがっかりする。

私たちには何が起こったのかはわからない。だから判決を下すことはできない。証拠を全て持っているわけではないのだ。ドルナの誰かはオンボードカメラの映像を持っているだろうが私たちにはみせてもらえない。その義務もないのだ。ドルナがもつ動画、静止画は法的には彼らのものだ。彼らが適切であると判断した場合にのみ後悔される。私たちはレースを愛する余りそれが「私たちのもの」だと勘違いしてしまう。しかし実際にはドルナの株主の所有物なのである。

コースサイドのカメラと空撮映像の両方を見たジャーナリストもいるが、多くはコースサイドの映像しか見ていないのは明らかだ。私が最初に見たコースサイドの映像ではロッシが2回マルケスを振り返っていた。しかし今観ているのは1回しか振り返っていないバージョンである。2回振り返っているバージョンでは一瞬ロッシの膝が動いていたように見えた(空撮ではまったく見えない)。しかし1回しか振り返っていないバージョンでは膝の動きはそれほど速くはない。ゆっくり膝を上げているだけだ。ディズニーから流出したアニメーションソフトが使われたのか?知られざる組織が私たちをからかっているのか?

こうした安定性のない、ことによったら改変されている「証拠」を目にしていると、スコットランドの裁判のように無罪でも有罪でもなく「証明されない」という判決を下したくなる。ロッシが何かやってマルケスを転倒させたのかどうかもわからないのだ。

フィリップアイランドでのマルク・マルケスは動機をもってヴァレンティーノ・ロッシのタイムを落とそうとした。ロッシはセパンのレース前プレスカンファレンスでそう告発している。これがペナルティに値するルール違反であればロッシは公式に抗議しただろう。しかしこうしたレーサー同士の争いは普通に起こっているのだ。1967年のカナダGPではマイク・ヘイルウッドが毎周ジャコモ・アゴスチーニを悩ませた。抜いたと思ったらわざと抜かせ、その繰り返しだ。彼はアゴに競い合いをさせたかったのだ。ことによったらリタイヤするような何かバカなことをさせたかったのかもしれない。ヘイルウッドが500ccチャンピオンになるにはそれしか道がなかったからだ。アゴはしかし頑固に自分の仕事に集中し、結局チャンピオンになった、一方のヘイルウッドはこのレースに勝っている。こうしたゲームに興じるライダーはほかにもたくさんいる。250ccクラスのルカ・カダローラのことも忘れられない。ライバルに期待を持たせるためにわざとゆっくり走り、そして突然圧倒的な速さで逃げていく。遊んでいたのだ。敵を欺く心理戦である。

これから何かルールができるかもしれない。しかしそうなったらレース結果は審査委員会があらゆる瞬間をビデオで精査して違反の有無について確認するまでレース結果がでないことになる。私たちが見たいのはレースだ。法服を着た官僚(全員起立!)が聴聞室の外で審議を終えるのを待ちたいわけではない。
そんなわけでロッシには見た通りのことに基づきペナルティが科せられることになった。彼はワイドなラインを走り、(少なくとも2回振り返りバージョンでは)ブレーキをかけマルケスのスピードをにぶらせた。その結果マルケスは転倒したのだ。他のライダーを転倒させるような無分別な走行をするのはルール違反なのである。
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タイトルの通りです。次はヴァレンシア、最終戦!

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2015 セパンMotoGPラウンドまとめ : 英雄たちのガラスの仮面

Motomatters.comより。
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7日前の私達は、2015年のMotoGPが一体どのような形で歴史に刻まれるのかと話し合ったものだった。オーストラリアGPは長く語り継がれるだろう今シーズンのハイライトとして煌めくはずだった。その1週間後、私達はシーズンの最悪の部分を目撃した。賞賛に値する素晴らしい走りが全カテゴリで見受けられたのは確かだ。ダニ・ペドロサは圧倒的な内容のシーズン2勝目で完全復活を証明した。腕上がりの手術は大成功で、もしホンダが「乗りこなせないほどパワフルなエンジン」を組む誘惑に抗することができれば、来年は彼も再びタイトル争いに戻ってくるはずだ。ヨハン・ザルコはMoto2における卓越した技量を改めて示した。レースの間ルティを追跡し続け、もはや決定的と思われた展開から自身の勝利をもぎ取るため、体力を限界まで振り絞って走りきった。そしてミゲール・オリヴェイラは、ダニー・ケントがMoto3シーズン前半でそうしたように、彼にシーズン後半を圧倒する能力があることを証明してみせた。ケントのタイトル獲得を妨げ、チャンピオンシップの決着をヴァレンシアへ持ち越したのだ。

しかし滅多にお目にかかれない酷いレースウィークとなったせいで、彼らの目の覚めるようなパフォーマンスが霞んでしまった。とてつもなく残念なことだ。身体的な悲劇でこそなかったかもしれないが、それでも確かに悲劇だった。このセパンで偉大なチャンピオン3人が、エゴや底意地の悪さや(彼らの成功の潜在要因でもある)狭量なライバル心を、滑り落ちた仮面の裏から覗かせてしまったのだ。そしてファン達は、気にくわない結末に対してのブーイングと誹謗中傷をそこに付け加えた。

仕方が無い。ダニ・ペドロサの勝利については、勝者に本来ふさわしい賞賛を浴びせることなく早送りで済ませることにしよう。ライバル達を抜き去り、ペドロサ以外の全員を抑えたホルヘ・ロレンソの目覚ましい走りも目をつぶろう。そのかわり、私達は3位争いに焦点を当てねばならない。バレンティーノ・ロッシとマルク・マルケスのぶつかり合いだ。彼らの目の覚めるような戦いは、マルケスの挑発と降伏を拒む意思を前にしてロッシが冷静さを失い、マルケスの突然の転倒を引き起こしたことで苦い結末を迎えたのだ。

元気溌剌小型ロケット

ペドロサはスタートから飛び出すと、1コーナーの時点で逃げを決めていたと言っていい。ロレンソが1周目から見せるような大差でこそなかったが、それでも誰も追いつけない速さだった。チームメイトのマルケスが挑んだものの、言うことを聞かないフロントエンドとフルタンク状態と格闘しながらでは、ペドロサと競り合えないことは最初から明白だった。バレンティーノ・ロッシはマルケスの背後につけていたが、相手を脅かすには至らない。モヴィスター・ヤマハのチームメイト、ロレンソは4コーナーで見事なドゥカティ2台抜きを披露しつつ前を目指していた。翌周回にはロレンソが1コーナーでロッシをとらえて3番手に立つ。ロッシもすぐに反撃を試みるが、ラインを確保したロレンソが抑え、そして突き放した。

猛追するロレンソ。ダニ・ペドロサと彼の間にはマルク・マルケスだけだ。ロレンソが後方から激しく迫りくる一方、マルケスはペドロサにすでに距離を開けられていた。4コーナー進入でマルケスがブレーキングミスを犯し、あわやオーバーラン。縁石の端をなぞり、グラベルに侵入しかける。ロレンソはあっさり2番手に滑り込み、ペドロサを追って走り去った。

狂乱の幕開けはここからだった。そこでは真実と陰謀論が判別不可能になってしまった。明白な事実は巨大で不格好な物語の1ピースとして埋もれてしまった。そして語られるすべてがどう真実と対応しているのか誰にもわからなくなってしまった。外からではわからないライダーの動機という余白もファンと観客が勝手に埋めていった。普段ならライダーがブレーキングポイントを外しても「ミスをした」それだけのこととしか思われない。しかし、セパンでは違った。

予想もつかない展開へ

もうひとつの物語は、木曜日にバレンティーノ・ロッシが声明文とタイムシートで武装して記者会見へ現れた時から幕を開けていた(和訳はこちら。彼はフィリップアイランドのレースを振り返って考えた結果、マルク・マルケスが意図的に2位争いに絡んだという結論に達したのだ。ロッシを抑えてロレンソを先行させ、ロレンソのタイトル獲得を助けるために。より正確には、バレンティーノ・ロッシのタイトル争い敗退を確実なものとするためにだ。私たちはその時までは、過去10年で最も盛り上がりを見せ、おそらくMotoGP史上最高とも数えられるだろうレースの栄光に皆で浸っていた。しかし今、疑惑の種は撒かれた。熟練の庭師であるロッシの手により、肥沃な土地へと埋め込まれたのだ。ロッシの理論はすぐに広範囲に拡散し、人々は「自分も最初からマルケスの走りを疑っていた」と主張しはじめる。興味深いことに、彼らが懸念が提起したのは、ロッシの意見表明より後に限られるのだが。

その瞬間から、マルク・マルケスのライディングは1m単位で全て疑惑の対象となった。バレンティーノ・ロッシがマルク・マルケスの近くを走行する度に、それは監視対象となった。プラクティスの走りにもあらゆる解釈が付け加えられた。何ひとつ残さず、あらゆる出来事が精査された。FP3で、そして短時間だがFP4でも二台の走りが偶然にでも交錯すれば、インターネットには「心理戦が繰り広げられている」という主張が溢れかえった。マルク・マルケスが最初にピットレーンを離れ、その後にホルヘ・ロレンソが続くと、今度は「見ろよ!マルケスがロレンソを引っ張ってやってる!」と声が上がった。他にもライダー数名が同じタイミングでマルケスを追っていた事実は無視された。引っ張ったせいでマルケスはひいき目に見ても平凡なラップタイムしか出せなかったということもどうでもよくなった。

マルケスが積極的にロッシの足を引っ張り、ロレンソのタイトル獲得を助けようとしたというロッシの主張に、耳を傾けるべき内容はあっただろうか?木曜日の私は否と考えていたし、今でもそう信じている。証拠に欠けていると思われるからだ。しかし「それがなかった」という証明は不可能だ。彼の訴えが間違いだと証明できない点ことについてはあきらめるしかない。確かなのは、ロッシが自らの主張を真実だと信じていることであり、その事実がセパンのレースで重要な役割を演じることとなる。


裏切り者と老獪なる者

ロレンソがレプソルホンダをあっさり抜けたのはマルケスが膨らんだためと見ていたロッシだが、彼は最悪の事態を想定しておくべきだった。すぐにマルクに追いついたものの、いざ抜くとなるとロレンソほど楽にはいかなかったのだ。これも同じく、のちのキーポイントなった。マルケスが週末を通じて苦手としていた4コーナーで相手を抜くまでに、ロッシは1周近くを費やした。マルケスもはいそうですかとロッシを行かせるつもりはない。カウンターアタックを企むものの、ホンダRC213Vへの要求が過ぎたのかリアがスライドし、望まぬタイミングで後退してしまう。狙った15コーナーで膨らんでしまい、1コーナーで前に出た際にもロッシの反撃を許してしまう。次に仕掛けたのは4コーナーだが、ここは彼が最も苦手とする箇所であり、無理なパッシングの対価として5コーナーで大きな隙をさらす。ロッシはそのまま前を奪い返した。

ここから先はてんやわんやだ。1周のうちに幾度も順位を入れ替えるロッシとマルケスに対し、観客は素直に熱狂した。2台は力を振り絞ってせめぎ合い、抜かれたと思えば即座に反撃、ありえないペースでパスを繰り返す。リスクをおかしていたのは間違いない。あわや転倒というマシンを立て直すロッシの脚は、フットレストから3回も離れた。 苛立ちを高めていくロッシがマルケスへと振り向き、手を振ってみせる場面もあった。まるで「いったい何してやがる?」と問うかのように。

7周目、とうとうロッシの堪忍袋の尾が切れた。9コーナー立ち上がりに続く区間でのきわどいパスの応酬ののち、長い右の13コーナーでイン側のラインをとったロッシは、14コーナーに進入しながら減速し、マルケスをアウト側へ押し出そうとした。この減速の試みは彼の挙動をぎこちなくさせた。ロッシはマシンを何度か起こしながら少しずつ曲がっていく。この動きでマルケスは完全に不意を打たれた。無理矢理にラインを外された状態で、彼はそれでもロッシが14コーナーへ切り込むだろうタイミングの判断を計り続ける。しかしそれは判断ミスだった。ロッシがさらに幅寄せしてきたのだ。マルケスのリーンインと同時にロッシがアウトへ動き、そして2台は衝突した。マルケスのヘルメットがロッシのニースライダーにぶつかり、その勢いでフットレストから外れたロッシの足がマルケスのハンドルバーに接触。マルケスは、ロッシがバーを蹴ったのが原因で彼のフロントがロックしたと主張する。ロッシはそれを否定し、マルケスのハンドルバーが自分の足に当たってきたと語る。レースディレクションは、どちらかの言い分を証明するような決定的な映像はないと言う。

映像に振り回されて

レースディレクションの言葉はインターネットが独自にふたつの正反対の結論にたどりつくのを妨げることはできなかった。数多くのビデオクリップがネット上を巡った。ロッシによるマルケスのハンドルバーへの蹴りを証明すると主張するもの、反対にマルケスがロッシの膝に頭突きを見舞った証明だと主張するもの。どちらの映像群も、こういった状況の検証を試みる際に誰もが直面する問題を抱えていた ---- 細部に目をやりすぎれば、大局的な見地が失われる。マルケスがロッシの足へ頭突きしていると思われるシーンが確かにはっきり見てとれる。ただしそれが頭突きだと認められるのは、そこより手前、コーナーに入ろうとする5秒間の映像を無視した場合のみだ。ロッシの足が浮き、マルケスのハンドルバーに触れようとするシーンも明瞭だ。だがここでも同様に、その手前の数秒間が欠けている。2台が横並びになり、ロッシの足がフットレストから弾かれ、そして彼のブーツがハンドルバー後方に引っかかる瞬間がだ。

マルク・マルケス側の視点からすれば、ロッシがハンドルバーを蹴ったと彼が信じるのも全くもっともなことだ。マルケスとしても予想外の状況だった。ロッシがマシンを起こし、こちらを見て、押し出してきた。その続きとして彼が知るのは、勢いよく通過するロッシのブーツ、そして地面に転がった自分自身だ。ロッシが彼のハンドルバーを蹴ったのはありえそうな話か? マルケスをコースアウトさせるのに集中していたことを考えれば、あえてそこまでする必要はないように思える。本人が認めたように、マルケスを減速させてラインを完全に外し、そこから相手を引き離しにかかるのがロッシの目論みだった。相手をグラベルに押し出そうとしているのなら、わざわざハンドルバーを蹴る必要性はない。マルケスの頭と衝突したという方が、よほど可能性は高い。

接触のきっかけとなったのはロッシか、それともマルケスか? 映像では、2台の接触の際にマルケスがロッシに向かってマシンを傾けていったように見える。もちろん、それは接触がマルケスの過失だという意味ではない。彼は完全に不意を打たれた状況だったし、ロッシに押し出されることは予想だにしていなかった。マルケスはコーナーに切り込む適切なタイミングを推し量っていたが、それ自体が無理な狙いだったのだ。すでに選択肢はなかった。もしロッシがマルケスを押し出すのではなくコーナーでの先行を狙っていたのなら、接触も起こらなかっただろうが。レースディレクションはロッシに非があると判断した。マルケスはロッシの非を主張した。ロッシはマルケスを押し出そうとしていたことは認めたが故意にマルケスを転倒させようとしていたわけではないと言っている。しかしながら、この転倒が彼の行為の避けがたい帰結だったことは確かなのだ。


重圧で入ったひび

何がロッシをそこまでさせたのか? ロッシはマルケスが自分の邪魔をしていたと訴えた。コーナーで減速したり、直線でスロットルを全開にしなかったという。もしマルケスが直線で全開にしていなかったとしたら、それはバックストレートに限ってのことに違いない。ラップチャートによれば、マルケスがロッシを先行していた周回で記録した最高速は、ダニ・ペドロサと遜色ないもの(326km/h~327km/h)であり、一方で同じ周回でのロッシの最高速は、接触転倒後のひとり旅の時と比べて時速数km及ばない321km/h~324km/hである。ラップタイムは間違いなく落ちていた。5周目は4周目と比べて1秒遅れ、6周目も戻したのはコンマ数秒のみ。これはマルケスがロッシを遅らせていたのか、それとも、1周のうちに幾度も順位が入れ替われば当然といえる結果だろうか?

ラップタイム、データ、サーキット中のあらゆるカメラアングルからの映像(TVで流さないものも含む)へのアクセス権を持つレースディレクションは、マルケスがロッシの邪魔をしていたことは認識し、彼が何もしなかったわけではないと考えている。「マルケスが故意にペースを落とし、自分のレースに影響を与えようとしていたというロッシの言い分にも、いくらかもっともな点はある」と、マイク・ウェッブ(MotoGPレースディレクター)は記者達に語った(和訳はこちら)。問題はマルケスの行為はルール違反ではないという点だ。はたから見れば、ロッシとマルケスが手に汗握るバトルに身を投じ、コーナーのたびに3位争いを演じていただけとも思える。双方がひとつの順位を巡って争う以上、グリッドに並ぶライダーなら誰でもそうする権利がある。すでにチャンピオンの目のないライダーはタイトル争いに絡むライダーに挑んではならないという規則など (少なくともルールブック上には)存在しない。タイトル争い中のライダーを危険な目にあわせない限りは、自分のポジションを守るために戦うのも自由だ。表彰台圏内という希少価値(ついでにボーナスの可能性)を考えれば、戦いが苛烈さを増すことも想定の範囲内だ。


歴史は繰り返す

これはなにもセパンで初めて起こったことではない。私の記憶の中で最も鮮明なのは1990年のフィリップアイランドだ。オランダ人のハンス・スパーンはトップのロリス・カピロッシとわずか2ポイント差のランキング2位で125cc最終戦の地にやってきた。ポールからスタートした彼はカピロッシの前でゴールすれば良かったのだが、イタリア人の一団にのみこまれてしまう。彼らは誰一人としてタイトルに残ってはいなっかたのだがカピロッシの勝利を助けるためにスパーンにバトルを挑んだのだ。このときの激しい争いは伝説となっている。ドリアノ・ロンボニ、ファウスト・グレジーニ、ブルーノ・カサノヴァが全員でスパーンをブロックし、パッシングにかこつけて彼をアウトに押し出した。最後にはスパーンはグレジーニに接近し彼にパンチをくらわそうとまでする。それほどいらだっていたのだ。最終的にイタリア人たちの企ては見事に成功し、スパーンは4位、カピロッシがルーキーイヤーでチャンピオンを獲得することとなった。見事なデビューだ。

スパーンがタイトルを奪われたのはこのイタリア人たちのせいだろうか?ルールブックには他のライダーを助けてはいけないとは書かれていないし、他のライダーを故意に遅く走らせようとしてはいけないとも書かかれてはいない。少なくとも安全性が確保されている限りは(安全性というのも様々な解釈があるが)。しかしこう考えることもできる。自分に襲いかかるライダーを振り切れるほどスパーンが速くはなかったのはカピロッシのせいなのか?コースで行われているのはレースである。どんな結果でも、そしてそれがどんな動機に基づくものでも結果は結果だ。レースの最終目標はライバルの前でゴールすることだ。しかし自分の順位より誰かの前でゴールしたいがために走ることもあるのだ。ルールブックには動機については何も書かれていないのである。

スパーンを見舞ったのはセパンでロッシを見舞ったのと同じ運命である。もしロレンソを3位に落とすだけの早さがロッシにあったならマルケスとからむことなどなかったろう。もしロッシがマルケスを置き去りにできるほど速かったらどうだったか。何周ものろのろと走らされることはなかったろう。彼にはそれだけの速さがなかったのだ。タイトルに手が届くほどのポイントを稼ぐことはそもそも無理な話だったのである。


弟子に追いつかれた導師

これこそがヴァレンティーノ・ロッシのいらだちの原因だったのではないだろうか。彼は今自分が最高の状態にいることがわかっているが、同時にこれが10回目のタイトル獲得の最後のチャンスだと言うこともわかっているはずだ。セパンに先立つ3レースで2回も彼は真っ向勝負に負けている。アラゴンではダニ・ペドロサが見事なパッシングでロッシを下し2位に入った。その2戦後のフィリップアイランドではマルク・マルケスとアンドレア・イアンノーネの二人に負かされ4位に沈んでしまった。せめてもの救いはマルケスが素晴らしいラップを刻みホルヘ・ロレンソを負かして優勝してくれたことだ。どちらのケースでもレース後ロッシは個人的に自分を負かしたライダーに話しに行き、なぜそんな風に挑んでくるのかと尋ねている。スペインの主要紙、エル・パイスによれば、のレース後ロッシはダニ・ペドロサになぜそんなことをするのかきいたとのことである。

セパンで再び彼は真っ向勝負での敗北の危機にさらされた。そしてバトルの相手がマルケスだったのも問題だ。相手はペドロサやロレンソやイアンノーネではなかったのだ。マルケスはかねてから自分がロッシのファンだと言っていた。そしてマルケスがロッシの真似をしながら学んだことの一つがカウンター・アタックだ。コーナーで抜かれるとロッシはかなりの確率ですぐに抜き返そうとする。それも次のコーナーか、ことによったら抜かれたコーナーの出口でだ。マルケスも同じことをした。しかし彼にはさらに武器があった。ロッシから学んだことにその武器を付け加えたのだ。マルケスがダートトラックでのトレーニングにかなりの時間を費やしている理由の一つは他のライダーに囲まれた状態に慣れたいということである。そしてその状態で一見不可能に見えるパッシングラインを見つける能力をつけたいのだ。マルク・マルケスはついに自分なりのやり方でロッシを越える道を見つけたのだ。そしてロッシはその最後に付け加えられた1ビットが気に入らなかったのである。

つまりロッシは自分のやり方で自分を倒してくるライバルに直面したということである。そしてそのライバルは木曜以降のロッシの発言にすっかりやる気になってしまっていた。ロッシはプレスカンファレンスでマルケスがロレンソを助けようとしていると非難したのだ。そんなことを言わなくてもマルケスは最初からやる気だったはずだ。アルゼンチンの結果はマルケスにはおもしろくないものだったし、アッセンでは激怒していた。マルケスは(とんでもない間違いと思い知らされるのだが)レース終了直前までアッセンで勝つのは自分だと信じていた。しかし彼がロッシをグラベルに押し出したことでロッシが優勝してしまったのだ。この2戦での出来事が遺恨となった。そしてロッシはさらにイタリアのメディアに対して火に油を注ぐようなことを語る。「マルケスはロッシのせいでタイトル争いから脱落したと信じている、ロッシのせいアルゼンチンではクラッシュしアッセンでは2位におわってしまった」とマルケスのマネジャーであるエミリオ・アルサモラから聞いたと言ったのだ。

セパンのプレスカンファレンスの席で「マルケスがロレンソを手助けしている」とロッシが非難したことでマルケスに与えた影響はただ一つ。彼をさらに激怒させたことだけだ。フィリップアイランドでのマルケスの走りに対するロッシの非難が真実かどうかにかかわらず、マルケスがセパンでそれをやってやろうと思うのは避けられないことだった。優勝できないならロッシを地獄に突き落とすために走るとマルケスは決意することになったのだ。


狂戦士

コース上で両者が激突するのは避けられないことだった。マルケスはペドロサについていけなかったし、ロッシはロレンソに離されてしまった。運命の様に彼らはコース上で相まみえ、そしてその瞬間から憎しみと怒りの炎が萌えがることになる。それが最後には歴史的な悲劇につながるのだ。二人とも冷静さをなくし本来なすべきことを見失っていた。ロッシは自分のタイトル争いには全く関係ない相手との戦いにこだわり、マルケスはつまらない遺恨と怒りに我を忘れていた。戦闘力のないホンダのマシンに対するフラストレーションのはけ口をそこに見つけたのだ。

マルク・マルケスのライディングはフェアなものだったか?コース上で自分のポジションを上げるために戦うのは当然だ。しかしタイトル争いをしているライダーに対して真っ向勝負でない戦いを仕掛けるのはスポーツマンシップとはかけ離れた行為である。スポーツツマンシップについてはルールブックには何も書かれてはいない。安全性への言及があるだけだ。マルケスのパッシングはルールに則ったものだった。しかし20周あるレースのわずか5周目で、しかもたかが3位争いにしては彼らの走りは攻撃的過ぎたと言える。

しかし最終的に一線を踏み越えたのはヴァレンティーノ・ロッシだった。キャリアを通じてロッシは心理戦の達人だと思われてきた。彼は強い精神力を持っている。どんな過酷な運命に直面しようとも負けない強さがある。彼の木曜の発言のあと、しかし私たちは難攻不落の壁にひびが入ったのではないかと疑い始めていた。土曜の予選結果が良かったことで一旦はその疑いも晴らされたかに見えた。だが決勝になると私たちの見立てがまちがっていなかったことがわかってくる。アンドレア・ドヴィツィオーゾがわかりやすく表現してくれた。「彼はいつでも状況を最高に上手に支配できる。そして自分の感情もコントロールできる」。彼は少し間をおいてこう言った。「でも今日は何か大事なもののために戦っていた。10回目のタイトルでしょう。でもみんなロレンソの方が早いことも知っていた」。怒りといらだちはセパンの13コーナーで頂点に達する。そしてマルク・マルケスは地面にたたきつけられる。結果、マルケスとロッシの評判も地に落ちることとなった。


仮面をかなぐり捨てたヒーローたち

どちらにとってもいい結果にはならなかった。マルケスはささいな遺恨にこだわって自分には手が届かなかったタイトルを獲ろうとしているライダーの邪魔をするようなつまらない男になってしまった。ロッシもまた自分が弱い人間であると知らしめてしまった。そして真っ向勝負でロレンソに負けるのを怖れていることを、さらに自分の記録を遙か高みまで伸ばしたいという欲望も露呈してしまった。彼を陥れようとする汚いやり方に対しても常にジョークと笑顔でいなしてきた、そのテフロンコーティングの仮面がはがれてしまったのだ。これまで上手に隠していたことがすべてあらわになってしまったのである。それでも二人とも偉大なチャンピオンで、そして世代を代表する偉大なバイクレーサーであることに変わりはない。しかし日曜のセパンではトップアスリートによるスポーツの隠された部分、苦い、そして醜い部分が現れてしまったのだ。ロッシとマルケスは同じ野望を抱き、同じように容赦がなく、同じように自分に伍することのできる世界中のすべてのライバルを憎んでいる。もしそうした渇望を抱えていなかったとしたら、どちらもここまでの偉業は達成できなかっただろう。彼らはすべてのものを犠牲にする。友人、恋人、家族、時間。体重を落とすために飢えに耐え、疲れ果てるまでトレーニングをする。それもこれも自分の名前が刻まれたちっぽけな金属片(訳注:これ)とライバルに勝ったという満足のためなのだ。

ではこの時期にこれほどまでになってしまったの理由はなんだろう?ヴァレンティーノ・ロッシに「そこに座れと。タイトル争いにこれほど影響のある時期にマルケスに対する非難を公の場で口にすることがいいアイディアかどうか考え直せ」と言える者はいなかったのか?誰もロッシに対して「君のライバルは同じピットにいる相手でホンダじゃないとんだ」言ってやらなかったのだろうか?ロッシに責められたあとのマルケスをピットの片隅に呼んで「名誉を重んじるんだ、ロッシとレースがしたいならフェアに、クリーンに戦え」と誰も言ってあげなかったのか?ドルナの誰かが二人を同じ席に呼んで「自重しろ」と言わなかったのか?

誰もそうしたことはしなかった。本来はここが責任ある立場の人間の腕の見せ所のはずだ。しかし誰もそれをしなかった。ヤマハのボスであるリン・ジャーヴィスはフィリップアイランドのマルケスについてのロッシの考えを聞かされている。しかしロッシがプレスカンファレンスでそれを口にするとは思っていなかった。「ロッシのせいで自分がタイトル争いから脱落したとマルケスが言っていたと」アルサモラに教えられたというロッシの言い分が真実なら、HRCの誰かが状況を把握しマルケスと話をすべきだった。だがHRCはマネジャーのアルサモラにマルケスのケアをまかせていたようだ。しかしアルサモラの大事にしているのはホンダとは違うことだ。HRCはそれに気付いて今回の件を未然に防ぐべきだった。日曜の戦いの後、HRCとヤマハ、そしてドルナはこれまでライダーが築き上げてきたものがばらばらになってしまったのをひとつひとつ拾い集めて、混乱を収拾しなければならなくなったのだ。


裁判官と陪審員

二人のライダーはどちらも間違いを犯したが罰せられたのは一人である。レース後、ロッシとマルケスはレースディレクションに呼び出され、映像を確認しながら両者の言い分について聴取を受けた。それは不快なミーティングになった。お互いの間でののしりあいに近いことが行われたのである。「今日レースディレクションに対して彼が言った内容については話したくもないですね。彼のことはずっと尊敬してきたからこそ僕が何を言われたかについては語る気になれないです」とマルケスは言っている(訳注:リンク先はアドブロッカーを使ってると表示されません)。ロッシも席上でマルケスと会話したことを認めている。「僕は彼に対して彼のことをどう思っているか伝えているけど、個人的なことだからね」。間違いなくマルケスはロッシに向けて辛辣な言葉を放ったようだ。

結局二人は自分の考えを変えることはなかった。マルケスはロッシがハンドルを蹴ったと信じている。それどころかわざとステップから足を離しマルケスのハンドルとブレーキレバーを蹴ったのだと信じているのだ。ロッシはマルケスが彼を邪魔していたと言っている。そして彼はマルケスからのいやがらせにうんざりしたとも言った。そこでマルケスをアウトにはらませてスピードを鈍らせようとしたというのだ。ロッシはしかし彼を転倒させるつもりはなかったとも言っている。しかしマルケスと彼が接触した際にマルケスのハンドルバーが彼のひざに当たり、結果としてマルケスは転倒してしまった。それぞれの言い分についてはCRASH.netが詳しく報じている(ロッシの言い分マルケスの言い分)。

レースディレクションは蹴りを入れたという証拠はないがロッシの行為がマルケスを転倒させたと判断した。マイク・ウェッブはメディアに対してロッシがマルケスをアウトに押し出した結果クラッシュが起こったと語っている。つまり両者共に非難されるべき点はあるが、マルケスのパッシングには問題が無く接触もなかったと判断したということである。一方ロッシについてはマルケス挑発されたという事情は理解できるが、それに対する行為はルール違反であり、それが接触からマルケス転倒という結果をもたらしたと判断した。接触したとしてのライダーを転倒させたことが問題となったのである。意図の有無は問題とされていない。これがロッシにペナルティポイント与えられた理由だ。既にミザノで1ポイントのペナルティポイントを科せられていたため、彼は次戦で最後尾グリッドからのスタートとなった。

マイク・ウェッブはそれが3ポイントだった理由についても説明している。ロッシはマルケスに当てようとはしていたが転倒させるつもりは無かったと言っている。今シーズン序盤、カレル・ハニカがフアンフアン・ゲバラをヘレスのチェッカー後に転倒させた。ハニカはわざとゲバラを転倒させようとしたと告白し、その結果5ポイントを科せられている。これが参照すべき前例となった。意図していなかったということでレースディレクションはロッシに対してハニカ以上のポイントを与えることも失格にすることもできなかったのだ。つまりペナルティはロッシに対してもう二度としないと思わせる程度には重く、しかしハニカに対して与えたよりは少なくする必要があったのだ。ウェッブによる詳細な説明は、これもCRASH.netに掲載されている(和訳はこちら)。


モンスターを吊す

クラッシュの直後からペナルティの軽重についての議論が沸騰することになる。ライダーのマネジャーとして有名なカルロ・ペルナートはメディアに対してロッシはすぐさま失格にするかライドスルーを科すべきだったと話している。2011年のルマンでマルコ・シモンチェリがダニ・ペドロサを転倒したときには2周後にライドスルーを科せられた。では多くの人が指摘している通り即座に処罰を下すべきでレースが終わるのを待つべきではなかったということだろうか?

ウェッブの説明はこうだ。レースディレクションにはこれがタイトルの行方に重大な影響を与えるとてつもなく重大なアクシデントだとわかっていた。だからこそすべての事実を把握してから決定を下したかった。MotoGPレースが終わるまでは慎重な検討をするだけの余力がなかった。つまりレースが終わるまで待たざるを得ず、そのおかげで二人からも聴取ができたし、弁明の機会を与えられた。

すぐに裁定を下すより良かったのだろうか?ファンにとっては満足度が高い結果になったかもしれないが、そこでの裁定は取り返しがつかないものにである。もし詳細な調査の結果、そのペナルティが厳しすぎたとなったらどうだろう。それどころかペナルティを科すべき犯罪すらレースディレクションの幻想だった可能性だってあるのだ。レース中のペナルティは取り返しのつかないものになる。死刑が執行された後にわかる真実になんの意味もないのと同じなのだ。

一方、ライドスルーであればそれほど厳しいペナルティではなかったという見方もできる。事件は7周目に起こっているが、最速でペナルティを科したとしたらそれは10周目か11周目になっただろう。その3周後にピットスルーをしたとする。セパンのピットスルーは27秒のロスだ(これは2007年にアンソニー・ウェストがライドスルーを行ったときのタイムである)。この場合ロッシは12位で復帰することになるが、今回のレースでのタイムを考えると彼は6位争いができるところまでいける。6位ならば10ポイントだ。今回の16ポイントからは6ポイント少ない結果である。つまりヴァレンシアにはわずか1ポイントのリードで臨まなければならないということだ。しかしそれ以上のペナルティはない。セパンで16ポイントを獲得した上でグリッド最後尾からのスタートとなるよりはましだろう。


ブルータス、おまえもか?

プレスカンファレンスでホルヘ・ロレンソはロッシに対するペナルティの軽さについて腹を立てていると言った。3度目のチャンピオンを引き寄せるすばらしいライディングを披露した彼はしかしこのマルケスとロッシの間に起こった醜い事件について醜い反応をしてしまった。2005年に自分は同じようなアクシデントの結果出場停止になった。だからロッシに対するペナルティは理解できないと言うのだ。しかし当時の自分が荒っぽく危険なライディングで有名だったことは都合良く忘れたらしい。彼自身それを認めていたこともあったのだが。今回の裁定はフェアじゃないとロレンソは言った。彼は本当にむかついている様子だった。Moto3で同じことが起こったらもっと厳しい裁定を下すはずだ、それがロッシだからこれほど甘い裁定だったのだとロレンソは非難している。「彼はMotoGPにとって大事ですからね」とロレンソは言った。「もし他のライダーが今日のヴァレンティーノと同じことをしたら少なくともライドスルーか失格か出場停止になってたでしょうね。でもそうならなかった。がっかりしてます。ほんとうにがっかりだ」

ロレンソはロッシを失格にすべきだったと考えている。転倒させられたマルク・マルケスと同じノーポイントにすべきだということだ。ロッシをそのまま走らせたせいで自分はポイントを獲るために彼に追いつかれないよう攻め続けなければならなかった。そこで転倒するリスクもあったと主張している。つまりノーポイントに終わる可能性もあったということである。ヴァレンシアでの最後尾グリッドからのスタートも、実はそれほど厳しいものではないと考えているようだ。「ヴァレンティーノが最後尾スタートでも、例えば雨だったりすれば1ラップか2ラップ目には先頭に追いつくでしょう。ドライだったら苦労はするでしょうけど彼がタイトルを獲る可能性はある。今日のことを考えたらそれはフェアじゃない。だからもし彼がタイトルを獲っても本当のチャンピオンとは認めたくはないですね」

残念な発言だ。ヴァレンティーノ・ロッシを挑発した結果、自分が転倒してしまったマルク・マルケスの発言と同じように人間の小ささを露呈してしまっている。挑発に乗ってマルケスを押し出そうとして転倒させてしまったロッシと同じようにつまらない人間だと言っているようなものだ。これではチャンピオンの品位や価値が台無しだ。彼はその品位を守ろうとはせず、自分にチャンピオンをプレゼントしてくれなかったとレースディレクションを非難したのだ。せっかく表彰台を獲ったのにちっともうれしそうではなかった。ただ苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。とてもチャンピオンの手本になるような態度とは言えない。

彼が不機嫌だったのには理由があったことは彼の名誉のために書き添えておこう。マシンを降りた彼はすっかり疲れ切っていた。セパンの暑さで脱水症状になっていたのだ。表彰台では観衆からブーイングを受けた(この日で最も醜い場面だったのはこれだ。ただしそれもファンやSNSや掲示板にあふれかえったののしりに比べたらかわいいものだが)。意識を失いそうになったと言って彼は早々に表彰台を降りた。彼の発言は彼が思っている通りだろう。しかし誰かの前でゴールしたことを理由にブーイングを浴びるのはまったくもって元気にしてくれるようなことではない。表彰式の後には表彰台ライダーの義務であるテレビのインタビューがある。ロレンソとペドロサは小さなテレビルームでヴァレンティーノ・ロッシがレースディレクションから戻ってレース後記者会見に自分たちとともに応じるのを待っていた。埃まみれ汗まみれで疲れ切ったまま彼らは1時間近くも待っていた。それより何より彼らは退屈しきっていた。他人を待たせるのを当然だと思っている男にまた待たされたというだけではない。彼らが待っていたのはその時点でもっとも好ましくない人物だったのだ。結局ドルナはロッシ抜きでプレスカンファレンスを始めることにした。彼が現れる気配はなかったのだ。聖人でも怒り心頭になるような状況だ。つまりはイメージアップの機会でもあったとも言える。しかしロレンソはその機会を完全に無駄にしてしまった。


品位とはこういうことだ

唯一品位を保ってみせたのはダニ・ペドロサだ。素晴らしい走りをみせてくれただけではない。プレスカンファレンスでの彼のふるまいは思慮深く落ち着いていて、しかも正直だった。「まず最初にひと言、かなり奇妙な会見になっちゃいましたね」。彼はそんなふうに切り出した。状況を表現するには完璧な言葉だ。そして一緒に辛いシーズンを戦ってくれたチームに素晴らしい勝利をプレゼントできた嬉しさについて語った。腕上がりの手術のせいで勝てなかった時期が長かったのだ。

次に彼が語ったのはロッシとマルケスの間に起こった出来事についての明解で簡潔でよく練られた分析だ。見事にこの事件をとらえている。「いいことだとはおもいませんね。タイトル争いにとってもいいことじゃないし、誰にとってもいいことじゃない。ヴァレンティーノにとってもマルクにとってもホルヘにとっても僕にとってもいいことじゃないですね。僕が直接巻き込まれたわけじゃないですけど。タイトル争いも終盤になったことの時期に起こっていいことじゃないんです。
 僕の考えでは、バトルは1周目から始まっていて、そもそもプレスカンファレンスでもプラクティスでも二人は熱くなっていた。レースではすぐに一団になって序盤からバトルを始めた。あの事件が起きるまでは問題のあるような走りはなかったですね。ヴァレンティーノはもっと落ち着いたレースをしてホルヘに追いついて2位争いをしたかったでしょうし、マルクは表彰台に昇りたかった。それにいつでもマルクはバトルを仕掛けてきますからね。ファイティングスピリットにあふれていてマシンを上手に操れるし、だから抜き方も特殊なんです。
 でも最後の動きについて言えば、自分がインにいたら好きなだけアウトにいけるというのが僕の考えです。インにいる方が好きにできるんです。だから普通はアウトにいるライダーがあきらめる。でもあの時点でのスピードが極端に遅かったんで、それに気付いたマルクがスロットルを完全に閉じてヴァレンティーノが曲がっていくのを待ったんです。そしてヴァレンティーノの脚が動いてマルクがクラッシュする。もっと何度も見てみたいとは思いますけど、現時点ではなんで脚が動いたのか、なんでマルクが転倒したのかはわからないです。いずれにしてもいいことではない。それについてはすごく残念です」

ペドロサはこうも指摘している。ロッシはかつてはマルケスのやったようなことを擁護していたと。これは間違いなくマルコ・シモンチェリのことを思い出しているのだろう。シモンチェリが危ないライダーだと非難される度にロッシが彼を擁護していたとペドロサは言っている。「ヴァレンティーノはいつも言ってました。『これはレースなんだし、レースってこういうものだ、だから僕らはバトルするんだ』ってね。でも今は昔の僕みたいなことを言うようになってきた。でも前に言ってたこととはちょっと矛盾はしてますね」

ペドロサの態度は暗い1日における一筋の光明となった。彼はMotoGPタイトルを獲ったことはないが彼の態度はチャンピオンにふさわしいものだった。この2年ほどでペドロサは成熟し強くなった。人間味を増しつきあいやすくもなった。いまでも記者会見やインタビューは苦手なのは間違いないが、ちょっと意地悪なユーモアも持ち合わせているし、気が向けば起こったことやマシンに対して正確で詳細な分析を披露してくれることもある。残念なことにそうした機会はそうたくさんはないが私は彼の話を聞くのが大好きだ。


状況は見た目ほど悪くはない

暗くて嫌な物語だ。レースとそしてレーサーたちの不愉快な一面がさらされてしまった。私は今回の主役たちに対してかなり厳しい言葉を使っている。しかしこれは彼らの一面にすぎないということも言っておきたい。コースを離れればヴァレンティーノ・ロッシはいつでも魅力的だしウィットに富んでいる。いつでもファンに囲まれて迷惑を掛けられているにもかかわらず信じがたいほどの冷静さと品位を保っている。モーターホームから一歩出ればすぐさまファンに囲まれてしまうのに、いつでも喜んで、そして辛抱強く帽子やポスターやTシャツにサインをし、可能な限りたくさんの写真のためにポーズをとり続ける。レースの現場にいるにもかかわらずだ。もしすべてのファンに応じていたら彼はレースをする時間もなくなってしまうだろう。

ロッシは情熱をもってレースをし、そして自腹で次の世代の若いイタリア人レーサーの育成を行っている。こうした若いライダーには導師として、しかし同じライダーとして対峙している。若いライダーに対して傲慢になることは決してない。もちろん彼らがロッシのダートトラックで無謀にも彼を負かそうとしたら話は別だが。

マルク・マルケスも同じようにサインをし写真にポーズをとってみせる。彼はチャリティにも精力的だしウィットもあり魅力的でもあり知的である。メディアやファンに対してきつい言葉を投げつけることなどない。私たちが馬鹿げた質問をしたり挑発したりしてもだ。彼は自分のメカニックたちにも最大限の敬意を払っている。毎晩夕食を共にし、いつでも彼らとジョークの応酬で笑い合っている。

中では最も理解しにくいライダーであるホルヘ・ロレンソでさえ心の奥底では善良な人間である(彼が理解されにくいのは彼のせいではない。ロレンソが物心ついて自分で人生を選べるようになる前から父親が彼を世界チャンピオンにすると決めたせいで子供時代が奪われてしまったのだ)。彼もチャリティにかかわっている。金銭的な支援だけではない。時間も注ぎ込んでいるのだ。アナ・ヴィヴェスはダウン症のアーティストでスペインのダウン症コミュニティを代表する人物だが、ロレンソは彼女と一緒にプロジェクトを興している。単なる金銭的支援ではないこうしたプロジェクトは普通にできることではない。二人は協働してロレンソのヘルメットのデザインやゼッケンをデザインし、大義のために進んでいるのだ。

だから彼らを傷物の汚れた存在だと決めつけるのは正しいことではないし、彼らの複雑な人間性を全く理解していない見方だ。しかし一方で彼らの中では自分たちを駆り立てる成功への野心が煮えたぎっている。敗北を憎み、勝利のためにはなんでもやり、間違いなく自分たちが成功できると信じている。他のライダーが戦いを挑んでくれば容赦はしない。そもそもなぜ自分に挑むなどという無謀なことをするのか理解できないのだ。これは控えめに言っても理解しにくい考え方だ。しかしこれほどまでにレベルの高いレースで勝つためには必要不可欠な考え方でもある。普通はこうした、あまり愉快でない考え方は周囲の環境に埋もれて見えない。ライダーたちは普段は勇敢な人間としての仮面を着けている。今回のセパンが普通でなかったのは世界で最も偉大なライダーの内の3人もが同じ日にそのマスクをとってしまったことなのだ。


それでも大丈夫

セパンでの大混乱に直面してファンもメディアも「MotoGPは死んだ」だの「レースディレクションがMotoGPを殺した。ヴァレンティーノ・ロッシへのペナルティは重すぎる/軽すぎる」だのと決めつけている。堕ちたアイドルを見出しにし、粉々になった幻想や壊れた夢について語る。いくつもの比喩が援用されるが、それでもまだミルトンを引用するほどの大胆さはないようだ。天国から堕ちる前と後のルシファーになぞらえるのはなかなか勇気がいることではある。

今回の件は通俗的なドラマではあるが、しかしプロスポーツにはつきものの結果とも言える。ダーツ競技のプロモーターであるバリー・ハーンがかつて言っていた通り、男のための昼メロなのだ。誇張された感傷、つまらない出来事への過剰な反応。MotoGPファンのものすごい情熱はあらぬ方向に吹っ飛ばされてしまったが、マシンは再びサーキットにやってくる。そしてその時このレースのトラウマは過去のものとなる。大層な言葉が大きな情熱を持って語られている。しかしその同じ情熱があるからこそ私たちはレースに還っていくのだ。2015年のセパンは今後長く語り継がれるだろう。しかしそれはこれからも永遠に続くレースというスポーツの一場面に過ぎない。さあヴァレンシアが待っている。
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ペナルティ/罰というものについて:それはメッセージである

前口上

やや鎮火の兆しを見せているかもしれないとはいえ炎上案件にガソリン背負ってのこのこ乗りこんでいくようなものではあるのですが、思いついた、というか前々から考えていたことがあるので、それを自分のためにまとめる意味も含めてちょっと書き進めていきたいと思います。もうタイトルがすべてなんですけどお時間のある方は少々おつきあい下さいな。


マレーシアGPについてですよ

当然です。ただし主題はペナルティの軽重、ではなく、なぜペナルティが存在するのか、そしてそれはどういう意味を持つのかについてです。私は今回の裁定はぎりぎりこれしかないという落としどころだと思っていますが、その是非を問うにはまずペナルティとはなんであるか(と私は思っているか)という話から始めないとわかってもらえないなあというのが書き始めた動機。


ペナルティとは正義の鉄槌…なのか?

まあ私の周りはおだやかで、しかも長くGPを見ている皆さんが多いので、今回の件に関しても暖かい目で、ことによったら「いいぞもっとやれ!(怪我しない程度に)」ってなことまで言いそうな感じで楽しんでいるのかと思いますが(少なくとも私はそう)、海外サイトのコメント欄なんかはおそろしく炎上しています。ロッシファン、マルケスファンがそれぞれの意見を怒りとともに開陳し、さらにそのコメントに怒りに満ちた反論がつく。

なぜ怒る?

いや、ファンはそういうものだというのはその通りだし、喜んだり怒ったり楽しんだり悲しんだりでいいんです。いいんですが、特に怒りにまかせた感情的なコメントには「正義の実現」という気持ちが透けて見えるような気がしてるんです。

ペナルティとはなんでしょうか?「悪人に報いを与える」。それもひとつの考え方です。誰かが悪さをする。みんなが怒る。そして悪人が罰を受ける。みんなが満足する。正義の鉄槌としてのペナルティというのはプリミティブな部分に訴えかけるだけに、とてもわかりやすいし、そうあってほしいと思う人たちを強く惹きつけるでしょう。

でももう一つ重要な役割があると私は考えます。それがタイトルです。メッセージとしてのペナルティ。誰かに私が罰を与えるとき、それはとてつもなく強いメッセージとなります。子供や部下や生徒を叱るその時に発する言葉や身振りや命令は相手の心に「私というもの」についての強いメッセージを発しています。しかし冷静に黙って与える罰というものも同じように強いメッセージを発していると思うのです。そしてそれと同じように今回のペナルティで(意図してかどうか、私は意図していたと思いますが)レースディレクションは「MotoGPとはどんなスポーツであるか」についてのメッセージを発したのだと思います。

罰というのは相手に痛みを与えます。それは肉体的なものだったり精神的なものだったり経済的なものだったり、今回のようにグリッドだったり、いずれも受け取る方は痛みを感じている。それだけに受け手の心に強く刻み込まれることになります。そしてその結果、将来の行動を変えることになるはずです。

もちろん受け手が変わるだけではありません。すべてのライダー、すべてのチーム、すべてのファン(失望した人も快哉を叫んだ人も)に対するメッセージにもなっているはずで、今回の件を目撃したすべての人々のこれからの行動になんらかの影響を与えることになります。

つまりペナルティとは「正義の鉄槌」ではなく、レースディレクションが「レースは/MotoGPはこうあってほしい」、「すべてのライダーにはこういう風に走ってほしい」というお願いだということです。ペナルティを科すことによってメッセージを発し「あらまほしき世界」を実現する。それこそがペナルティの持つ重要な意味なのではないでしょうか。そうやって考えるとちょっと違った見方ができそうです。

(ま、ぶっちゃけ自分の正義感を満足させるため「だけ」に罰を与えるってのは唾棄すべき行為で、集団リンチやISIS団による殺害なんかとその心性においては何ら変わるところがないなあと私は思っていますし)


今回のペナルティで発せられるメッセージとは?

さて、では今回のペナルティからどのようなメッセージが受け取れるでしょうか?というか私はどう受け取ったかということなんですが。

まず「危険な行為はやってはいけない」という当たり前のメッセージです。しかしそれがどの程度危険だったかと考えているかというと「グリッドを降格してチャンピオンの可能性を小さくすべき」くらいには危険だけど、「チャンピオンの可能性をなくすべき」というほどではないということ。ここは結構重要だと私は思っています。ロッシのチャンピオンの可能性を極めて小さくするようなペナルティ(例えば5ポイント与えてピットスタートにするとか、失格にしてポイントを剥奪するとか)は影響がひとりロッシにとどまらず、世界中のファン、スポンサー、ひるがえってドルナやMotoGPそのものに対する大きな罰となるからです。つまりそれほどのことではなかったという判断です。今シーズンを台無しにしてでも(だったら三輪車でレースでもしてればと言われかねないようなレベルでの)極度の安全性と厳格さを最優先するわけではない、というメッセージでもあるということです。

また、マルケスにはおとがめが無かったことについては「だめなことはだめだけど法治主義だから恣意的な運用はしたくない(書いてないことは罰さない)」というメッセージでしょう。逆に本当に危ないことはルールブックに書かれるべきということでもあります。このあたりがレースディレクターであるマイク・ウェッブのていねいな説明に反映されているのではないかと思っています。


レースディレクションの迫られた厳しい選択に思いを馳せてみる

今回のレースディレクションの裁定は「どんなメッセージを発するべきか」という観点からは実に難しいものだったと思います。彼らが考慮しなければならなかった要素はおそろしくたくさんあったでしょう。タイトル争い、スポンサー、安全性、そしてどんな裁定を下しても満足するはずのないたくさんのファンの顔。さらにはロッシとマルケスという二人の超人気者。ですからレース中にライドスルーを科すのもためらわれたでしょうし、その結果レース後のヒアリングという形を採らざるを得なかったことも理解できます。その日の内にきっちり結論を出せた早さ(&レースディレクションはレースディレクションの判断ですべてを決める、偉い人へのネゴは必要ないという組織)に実は私は感嘆しています。もちろん自分たちがそれが引き起こすすべて引き受けるという腹のくくり方も大したものです。

そんなこんなを考えていくと、実は今回の裁定は最初に書いたとおり絶妙かつぎりぎりの落としどころだったんじゃないでしょうか。ロッシにとっては痛いペナルティだけどタイトルが不可能になったわけではない。ついでにファンもレースが始まるまで何が起こるか想像して楽しむことができる。

私にはこんな判断をこのスピードで下す胆力も判断力もないので、もう頭が下がるばかりです。


おまけ:リン・ジャーヴィスのメッセージ

もう話は別のところにいっちゃいますが、ヤマハのマネージングディレクターであるリン・ジャーヴィスのメッセージも大したものでした。「チームのライダーなんだからことの是非はさておきまずは守る」でも「ロレンソの言い分も理解している」ということをきちんと伝えています。大人とはこうありたいものです(ライダーは概ねおこちゃまに見えますからなおさら)。

ま、人生で誰かを叱ったり誰かに罰を与えたりするときに限らず、あらゆる行動、発言は意識しようとしまいとに関わらずメッセージを発するので、何かするときには「それがどんなメッセージを発して、その結果なにが起こるか」をじっくり考えてからにしましょうね、という当たり前の結論に帰着したってことですね。

ふむ。自戒。

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セパンで起こったこと

Mr.Bikeの西村章さんの記事、MotoMatters.comのDavid Emmett氏の記事(こちらは長大すぎるので週末目標)と並んでこの人の書くものが読みたかった一人、Mat Oxley氏の記事も上がってきました。Motor Sport Magazineより。
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ハンター・S・トンプソン(訳注:ゴンゾー・ジャーナリズムと呼ばれる主観を交えた記事を堂々と書くジャーナリストの始祖)が生きていればと思うことはなんどもある。今回は特にそうだ。彼がセパンにいたらなんと書いただろうか。彼がいればMotoGPで最も奇妙な週末について誰よりもすばらしい記事を書いてくれただろうに。

トンプソンの最も有名な本、「ラスベガスをやっつけろ」では自らをモデルにしたラウル・デュークがラスベガス郊外で行われるミント400マイルレース(訳注:砂漠レースで1977年まで二輪車クラスもあった)を取材している。トンプソンは新聞記事も書いている。リチャード・ニクソン大統領を辞任に追いやったウォーターゲイト事件の公聴会の記事だ。

その記事を書いている間中、最後は拳銃自殺をとげるドラッグ中毒者であった彼はホテルのプールで日がな一日泳いでいた。そしてたまにプールサイドにおいたテレビを見る。そしてそのそばには常にバーボンのボトルがあった。公聴会は生中継だった。おもしろそうな場面にさしかかるとトンプソンは裁判所にいって自分の席に陣取り同業者を煙り臭い息で苦しめていた。

彼ならセパンについてどう書いたろう?彼なら相当喜んだに違いない。スピード、偏執狂、バトル、爆発(1分間に16,000回だ)。

私には彼がホテルのプールで泳いでいるのが見える。そして突然タオルを巻き付けると最初の記者会見に駆けつけて、それがすべてを変えてしまう様子を観察する。片手には葉巻、もう片一方の手にはバーボンのグラスがある。

彼はあそこにいるべきだった。テレビのスポットライトに目をしばたたかせながら口をぽっかり開けて年老いた悪魔がすぐそこに座っている小うるさい若者をつぶそうとしているのに耳を傾ける。

こいつは天才なのか気狂いなのか?こいつはマルケスをつぶそうとしているのか、それとも自分の足下を自分で崩そうとしているのか?

それは日曜までわからない。ハンターのスポーツ記事から引用するなら、ライダーたちは「開いた首の傷にいらつく犬のように神経質になっている。拳が白くなるまで握りしめ、目を見開き、胃液が喉に上がって来る。それは胆汁の苦さだ」

そしてファンは「日が天中にさしかかると誰もがあたりをはばからず泣き始めた。はっきりした理由は誰にもわからなかった。泣いていない者は手を固く握るか、さもなければソーダのびんを噛みしめていた。そうしなければ暴れ出しそうだったのだ。男子トイレでは幾多の殴り合いもあったという」

現地時間の午後3:11からの数分、私たちが見たのはロッシからマルケスへのあからさまな攻撃だ。セパンに来る前にマルケスがロッシの最大の敵になっていなかったなら彼は今でも生きていただろう。

木曜にロッシはマルケスがロレンソのためにフィリップアイランドで自分を邪魔したと非難した。事実かもしれない。しかしライダーが誰かを手助けすることを禁じるルールはない。レーサーなら対処すべきことのひとつに過ぎない。トップレーサーは巨大な自我をもっている。何かをしてはいけないと言ったが最後、彼らはその反対のことをしてみせる。

レース後ロッシはマルケスが自分のファンだったことがあるのかとまで言っている。しかし2008年にはじめて憧れのライダーに会うことができた15歳の少年の満面の笑みを誰が忘れられよう。マルケスはスペインのあるジャーナリストとカメラマンにロッシを紹介してくれるよう頼み込んだのだ。彼の手にはスロットルレーシングカーが握られていた。2月のセパンで私は22歳になった彼に今でもファンなのかと尋ねてみた。ええ、と彼は答えた。今でも地元の新聞屋に通って時々最新モデルのロッシのバイクのミニチュアモデルを買っていくのだそうだ。フィリップアイランドの1週間前、もてぎでも同じことをきいてみた。そこでも彼はまだファンだと断言していた。

もてぎでのコメントは外交辞令にすぎないと私は思っている。彼の地元の新聞屋ではロッシのマシンのミニチュアモデルは前ほど売れなくなっているに違いない。ロッシがセパンで言いたい放題言ったとしても(後に彼はそれを間違いだったと言っている)マルケスの気持ちにはなんの影響もなかった。単にアルゼンチンとアッセンでできた未だ癒えぬ傷に塩をすりこんだだけだった。どちらもレーシングアクシデントだと私は考えているがレーサーというものはいつでも正しいのは自分だと考えるものだ。

つまり日曜に起こったことは4月のアルゼンチンから始まる一連の流れの一つだということである。そして実はそれ以前からどちらもいつまでもファンとヒーローという関係を続けていくわけにはいかないこともわかっていたはずだ。彼らが最初に真っ向勝負をしたのは2013年のカタールでのことだ。二人は楽しそうにみえたかもしれない。だがマルケスにとって夢がかなったということはロッシにとって悪夢がやってきたということでもあった。また彼に対抗できる若者がやってきた。それともマルコ・メランドリがかつて言ったようにヴ、ァレンティーノは自分を負かさない相手としか友達でいてくれないということなのか。しかしそれも当然だ。それ以外の選択肢があるだろうか?

セパンのレースが示してくれたこと。それは木曜にロッシが口火を切った戦闘が彼の若いライバルを本気で怒らせたと言うことだ。そしてロッシは冷静さを失う。マルケスがレーサーの暗黙の了解を破ったからだ。自分が関係ないのならタイトル争いをしている相手に戦ってはいけない。しかしマルケスの中では紳士協定を破ったのはロッシである。歴史的なMotoGP3連覇の夢の崩壊の第一歩がアルゼンチンだったのだ。

そしてなによりもマルケスは勝つためにレースに参加している。そして契約金を払っているのはHRCだ。勝てないなら最善を尽くして前でゴールするのが仕事だ。ロッシに白旗を揚げたならヤマハの2台が表彰台に上がることになる。ホンダは1台だけだ。逆ではない。ホンダにしてみればそれは大きな違いである。

マルケスは命を賭けているかのごとく表彰台のために走り続けた。これはいつものことである。そしてロッシはそれに反撃した。これまたいつものことである。こちらもいつもの通り椅子から身を乗り出してスリルある戦いを見ているはずだった。そしていつもならルールは破られることはない。

7周目まではその通りだった。ロッシはマルケスが自分に敵対していると信じていた。おそらく彼は正しい。そして彼はこの若い天才に対してジェスチャーを送る。それがマルケスを怒らせた。ロッシの仕草はまるで小うるさい虫を追い払うかのようだったのだ。

こうした一連の流れが楽しくない結果を生んだのは当然だのことだ。そしてロッシはこれまでになかったことをしでかしてしまう。冷静さを失ってしまったのだ。多くの人がこれはマルケスのアタックのせいだと言ってかばっている。ジネディーヌ・ジダンが2006年のワールドカップ決勝で相手に頭突きをかましたように、デイヴィッド・ベッカムが1998年のワールドカップで相手を蹴ったように。しかしそれはやってはいけないことだった。

いや、やるのは自由だ。しかしその責めは負わなければならない。何億人もの人が見ていた。中には分厚いルールブックを持っている人もいる。それには耐えなければいけない。それに対してはどんなにむかついても復讐は後からだ。静かに、確実に、賢くやるべきなのだ。

二人が接触した理由についてはそれほど重要ではない。問題はマルケスがどうして転倒したかということだ。ロッシはマルケスを蹴ってはいないというのはマルケスがロッシに頭突きをかましていないというのと同程度には真実だ。真実を告げてくれそうな唯一のカメラアングルはヘリコプターからのものだけなのだ。

しかしスロットルを緩めてマルケスを確認したにもかかわらずぎりぎりで攻めていたはずだと主張するのはずうずうしいにもほどがある。いくら怒りに我を忘れていたとしてもだ。それではロッシがやっているのはレースではなく、ちょっとお話しするためにゆっくり走ってみせたことになってしまう。

MotoGPのレース・ディレクションは通常ならライバルにちょっとやりすぎてしまっても、コーナーに無理なスピードで突っ込んでも、接触しても許してくれる。ちょっとしたやりあいはレースの範囲内なのだ。しかし今回のそれは違う。「ちょっとした」どころではない。レースですらないと言っていい。

結果としてロッシは自分が木曜に撒いたいさかいの種の報いを受けることになった。罰はどれほど思い者ではない。ペナルティポイント3点加算で通算4点。つまり彼はヴァレンシアでは最後尾からのスタートとなる。

歴史を振り返ってみよう。ホルヘ・ロレンソが2005年のもてぎでアレックス・デ・アンジェリスを転倒させたことがあった。このとき彼は次戦出場停止となっている(ロレンソは何度もこの話を繰り返している)。マルコ・シモンチェリが2011年のルマンでダニ・ペドロサを押し出したとき、彼はライドスルー・ペナルティを科せられ5位に落ちている。そしてどちらも普通のレーシングアクシデントとさほど変わらないものだった。しかしこの日曜に起きたのはそれとは全く違うものだ。

残念なことにハンター・S・トンプソンはヴァレンシアには現れない。彼も楽しめたろうに。タイトル争いはまだ余談を許さない。しかし日曜のロッシがもっと冷静だったら彼に有利に展開していたはずだ。再び2台のホンダが鍵を握ることになる。最終戦では1-2フィニッシュを狙いにいくようにHRCがマルケスに言っているのは間違いない。HRCは誰が誰の味方をしているとかそうした議論にはうんざりしているはずだからだ。そしてマルケスは自らの評判を守るためにも2台のヤマハを倒しにかかるだろう。

しかしロレンソは手強い相手だ。彼は自分が2位以上になる必要があるとわかっている。でなければロッシは6位でタイトルを獲得してしまうからだ。たとえ最後尾からのスタートでも、そしてヴァレンシアが彼の得意なコースでは全くないとしてもその可能性はあるだろう。ロレンソのスタートは恐ろしくうまい。そしてまだ冷えたタイヤで彼についていけるライダーはいない。これは寒くなってきたヴァレンシアでは重要なことだ。その反面、危険な賭でもある。ロレンソが完璧なラップを最初の2周も重ねることができたらタイトルは彼のものになるだろう。その時の観衆の反応は想像もできないが。

セパンで何が起こったとしてもロッシが史上最も偉大なレーサーであることには変わりはないだろう。しかし午後3時16分のセパンで彼は大きな判断ミスをしたのも間違いない。彼やったことは犯罪である。しかし来週彼はその罰をきちんと受ける。さて私たちも先に進んでいこう。
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マルケスがロッシのバイクのミニチュアモデルを買ってるという下りで久しぶりに訳しながら泣きそうになったよ。

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MotoGPマレーシア:ロッシは間違ったことをしたがペナルティが厳しすぎる、とヤマハ

ヤマハのマネージング・ディレクター(チームのトップですね)のリン・ジャーヴィスも語ってくれてます。
CRASH.netより。
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セパンでマルク・マルケスと接触したヴァレンティーノ・ロッシに3ポイントのペナルティ・ポイントが科せられたことに対してヤマハが抗議を提出した理由をヤマハのマネージング・ディレクターであるリン・ジャーヴィスが語る。

2015年のタイトルの行方に大きな影響を与える今回の行為の結果、彼はヴァレンシアでグリッド最後尾からのスタートとなった。今シーズンのペナルティ・ポイントが通算4点となったのだ。

ロッシのチームメイトでタイトル争いのライバルであるホルヘ・ロレンソは今回の裁定は軽すぎると非難している。そう考えるライダーは他にもいる。にもかかわらずモヴィスター・ヤマハはチームとして抗議を提出したのである。

セパンのレース後、ジャーヴィスはこう語った。「ライダーの利益を守るのがチームの役目なんです」。そしてチームとしてはロッシへのペナルティが厳しすぎると考えているとも言った。その一方でロッシの行為は間違っていたとも言っている。

「チームとしてライダーの利益を守るのは当然のことなんです。ですからMotoGPでこうした行為をすべきでないということも充分わかった上でペナルティが厳しすぎると判断しました。そもそもヴァレンティーノは汚いことをするようなライダーではないんです。ほかの人に迷惑をかけるようなライダーじゃないんですよ。
 ですからレースコントロールの裁定の直後にチームとしてFIMに抗議を提出しました。FIMヴァレンティーノに対する聴取とレース・ディレクションにも話を聴いて、さらにマルク・マルケスとホンダからも話を聴いている。その上で期限となる45分後にFIMは決定を伝えてきました。結局却下されたんです。
 ヴァレンティーノへのペナルティポイント3点という結果はそのままでした。FIMの幹事が決定した段階ですべてが決まりです。もうこの件は終わりなんです。つまりヴァレンシアではヴァレンティーノはペナルティを科せられた状態でスタートするということになるんです」

ヤマハのチーム内の微妙な関係を気遣ってかジャーヴィスはロッシが失格となるべきだったというロレンソの意見も理解できると語っている。しかしそれ以上ではない。ひとつの意見としては受け止めるが、とジャーヴィスは言っている。この件について彼がそれ以上語ることはなかった。

ジャーヴィスが続けて話してくれたのは、この件がタイトルのかかったヴァレンシアへのロッシのモチベーションを上げることになるだろうということだ。しかしその結果がどうなるかはジャーヴィスにもまったく予想がつかないようだ。

「ヴァレンティーノのことを少しでも知っていたら、彼が再びモチベーションを上げてくるだろうってわかるでしょうね。記憶に残るようなシーズンにするためにね。まだタイトル争いは終わっていないんです。そこは忘れちゃ行けない。彼は7ポイントリードしている。スタートはとんでもなく不利なポジションからになりますけどレースでは何が起こるかわからないですから。
 彼がどれくらいポイントをかせげるかは誰にもわからない。あらゆる可能性があるんです。ヴァレンティーノが間違いなくチャンピオンになるだろうと確信してヴァレンシアにいったのにタイトルを獲れなかったこともありました(訳注:2006年の話)。何か得体の知れないことが起こったんです。
 MotoGPは本当に競争が激しいクラスでホルヘの方が勝つチャンスが多いとはいえ彼もまだ7ポイント差を追いかけている状態です。例えば二人とも転倒してゴールできなかったらタイトルはヴァレンティーノのものになるんです。まだ決まったとは全然言えないんですよ」

他の多くの人々と同様にジャーヴィスはマルケスについてロッシが木曜に語ったことへの「復讐」だったと考えいてる。「うーん…、彼のレースのやり方というか、明らかに全力でヴァレンティーノを邪魔しようとしていたことについてはどうかと思いますね」

しかし一方で彼はロッシの「まちがったやり方」がマルケスを転倒させたと悲しい気持ちになっているという。

「今日のレースはマルク・マルケスとヴァレンティーノ・ロッシの間で行われたこの2戦での激しい争いの結果ですね。フィリップアイランドを受けてヴァレンティーノはこないだのようにマルクを非難した。その結果今日はマルク・マルケスがヴァレンティーノのメディアへの発言に対して復讐したんです。
 レースを詳細に分析してマルクの動きを調べれば、彼がルール違反をしていないことはわかります。でも大局的に見れば彼のレースのやり方や全力でヴァレンティーノを邪魔しようとしていたのはどうかと思うんですよ。
 最終的にそれがヴァレンティーノを爆発させることになったんです。彼は動いてしまった。そのやり方は間違っていたとは思います。マルクをはじき出そうとしたんですからね。不幸にもマルクはインに切れ込んできてヴァレンティーノの足に当たって、それでマルクは転倒してしまったんです」

わざと蹴ったのではなく最初に接触したときにステップから足が外れてしまったというロッシの主張についてはジャーヴィスはこう考えている。「私が見ていないことだしヴァレンティーノはそう言っている。映像を見ればわかるとは思いますけどね。
 蹴るってのは普通前に向かってするものだし、彼の足は後ろにむかって動いている。ヴァレンティーノは接触してステップからポンって足がはずれてしまったと言っています。157kgもあるRCVを蹴ろうなんてまともな考えでするようなことじゃないですよ!行為自体は擁護しませんし、だから彼もペナルティを受け入れたんですけどね。レースの精神にそぐわないことをやったという裁定なんです」

ジャーヴィスはマイク・ウェブと彼が率いるレース・ディレクションが決定を下すタイミングについては正しいものだと考えている。レース中ではなかったのは問題ないということだ。タイトルの行方を左右する重大な決定打からだ。

最後に彼はロッシが木曜にマルケスに対して攻撃をしかけるような発言をするとは思わなかったと語ってくれた。

「オーストラリアのレースについての彼の考えについては知っていました。でもそれをああいう形で口にするとは思ってなかったですね。すべての事象をコントロールすることはできないんです。普通だったらライダーとのコミュニケーションは充分取れているものですし、予めいろいろ話し合っておくんです。でもヴァレンティーノはそこまで思い詰めてたってことですし、それは彼が決めたことですからね」

ロッシが厳しい非難を口にしたことの結果がこのレースとなったことについてはジャーヴィスはいささか哲学的なことを言っている「問題への対処の仕方はいろいろあるんですよ。それで何かすれば必ず何かが起こる。人生ってそういうものですよ」
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ジャーヴィスは冷静ですね。

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MotoGPマレーシア:ロッシとマルケスのラップタイム

世界中に大議論をまきおこしたり、古参ファンをげらげら笑わせてたりするマレーシアGPの決勝でしたが、これからいろいろ訳していきます。
まずはCRASH.netよりランディ・マモラのご意見をば。ちなみにご存じの無い方にご説明するとマモラは往年の名ライダーで、今はGPになるとタンデム仕様のドゥカティでピリオンシートに乗った勇気ある人たちを恐怖のどん底に突き落としてくれる人です。
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「みなさんがやるべきことと同じことをやってますよ。1周ごとのラップタイムを検証しているんです」そうアドバイスしてくれたのは伝説の500ccライダーランディ・マモラだ。彼はセパンのパドックで日曜にヴァレンティーノ・ロッシとマルク・マルケスとの間で繰り広げられたドラマチックなMotoGPレースについて語ってくれたのだ。

ここにロッシとマルケス、そして優勝したダニ・ペドロサと2位に入ったホルヘ・ロレンソのラップチャートがある。

簡単に言うとマルケスとロッシは5周目の激しい抜き合いのせいでタイムを落としてしまっている。これはおそらく6周目にも影響しているだろう。そして7周目にロッシと接触したマルケスは転倒しレースを終えてしまうこととなった。しかしマルケスがいなくてもロッシのタイムがロレンソを上回ったのは1周だけ、ペドロサのタイムは一度も上回っていない。

ロッシの主張、そしてレースディレクションの判定に従えばマルケスがわざとロッシの邪魔をして優勝とチャンピオンの可能性を閉じようとしたことになる。

これはフィリップアイランドのレースを分析したロッシが木曜のプレスカンファレンスで主張していたことでもある。

日曜のレース後、ロッシはこう言っている。「ブレーキングのたびに彼は僕を抜いて、そしてコーナーではスロータウンしていた。ストレートでもスロットルを開けていなっかと思いますね」

これに対するマルケスの反論はこうだ。「最初から飛ばそうとはしてたんです。2分00秒8とかでね。でも4コーナーでミスをしてしまったんですよ。あそこは今週ずっと苦労していたところなんです。それでも抜き合いをしてたときでも2分01秒9とかで走れてますね。
 最初に彼に抜かれたあと後ろを走っていたら彼より速く走れることがわかったんです。それで自分のレースをしようとした。
 もちろんヴァレンティーノも僕をブロックしたし僕もヴァレンティーノをブロックした。お互いに最速タイムで走れてなかったですからね。僕の前を走っている時も僕が転倒した後もヴァレンティーノはそれほどのペースで走れてない。2分01秒台の後半とか02秒台前半とかですよね。僕はもっと速いペースで走れた自身があります」

マモラはマルケスとロッシのペースは疑いをもたせるほど遅いわけではないという印象を受けている。

「お互いに抜きあっているときでも2分01秒9ですからね。レースペースとしては全然悪くないですよ。マルクとのバトルが無くてもヴァレンティーノがホルヘに追いつけたどうかって?それは誰にもわからないですね。
 マルクはわざとスローダウンしたかってことについては私はそうは思いませんね。明らかにヴァレンティーノが速いセクションとマルクに追いつかれるセクションがありましたからね。
 はっきりさせるにはF1と同じことをやるしかないですね。テレメトリーの分析ですよ。同じところでブレーキングしていたか?とかマシンをす露ダウンしたか?とかね」

マルケスとロッシは5襲名だけで9回の抜き合いをやっている。これは普通ではないことと言っていいだろうか?

「じゃあマルクはラインからどいてヴァレンティーノを行かせるべきだったかってことですか?両者共にいろんなことを言われたと思いますよ。ああしろこうしろってね。私はそう思ってます」

マモラはマルケスがロレンソに抜かれてしまったことについても単純なミスだと考えている。

「リアが滑ってるんですよね。こういう風にクラッシュしそうになるマルクは今シーズンなんども見ているでしょ?だからダニについて4コーナーに入っていったときにクラッシュしかけたってことだと思いますね。
 レース序盤ではダニについていこうとしたけどミスをしていた。みんな『ダニをいかせようとしているように見えた』って言うでしょうけどね。でも縁石に乗り上げて芝生に飛び出しそうだった。ホルヘは遅いライダーじゃないんですよ。そのチャンスは逃さないに決まってます。彼は序盤で逃げるいつものスタイルに持ち込みたかったはずんなんです」

マモラの結論はこうだ。「誰も今日の結果には満足なんてできないでしょうね。オーストラリアのレースが素晴らしかっただけになおさらみんな怒ってるんです」

ロッシはペナルティポイントを3点科せられた。レース・ディレクターのマイク・ウェッブはこう言っている。「ロッシが挑発されたのも事実です。でも彼にも言ったんですけど挑発の内容は問題じゃないんです。それに対して他のライダーを転倒させるなんてことをやっちゃいけないんです」

既にミザノで1点のペナルティポイントを科せられているためロッシはタイトルのかかったヴァレンシアでグリッド最後尾からのスタートとなる。彼がチームメイトのロレンソにつけている差は7ポイントだ。
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マモラはいい人だなあ。

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公式リリース>マレーシアGP2015

ヤマハホンダドゥカティ(英語)スズキアプリリア(英語)

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ロッシへのペナルティについてレースディレクターが説明

MotoGP公式より。
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MotoGPのレースディレクター、マイク・ウェッブがマレーシアGPでのロッシとマルケスのバトルについて説明する。

シェル・マレーシアグランプリでのヴァレンティーノ・ロッシとマルク・マルケスのバトルの結果、マルクスが転倒することとなった。MotoGPのレースディレクターであるマイク・ウェッブがレースディレクションの裁定について説明する。


この一件に関するレースディレクションの裁定と、その考え方について教えて下さい。

裁定はヴァレンティーノ・ロッシにペナルティポイントを3点科すというものです。彼のライディングは自分勝手過ぎました。わざと接触したんです。他のライダーのラインを邪魔するためにわざとコーナーではらんだということです。その結果が転倒です。つまりその自分勝手なライディングが転倒を引き起こした。だからロッシには3ポイントのペナルティを科すことにしたんです。

いいレースになるはずでした。なのに議論を巻き起こすような結果になってしまった。とても残念なことです。この裁定に対してモヴィスター・ヤマハがチームとして抗議してきたのでFIMがヒアリングを行っています(訳注:結果としてFIMもその抗議を退けました)。


ライダーはレースディレクションに対してなんと言っていましたか?

ライダーの発言ではなく私の感触しか言えないんです。非公開のヒアリングですからね。マルクは普通に走りながらタイヤの感触が良くなるのを待っていて、それでいけると思ったときには速く走って、無理だと思ったときにはスローダウンしていたと言っています。

ヴァレンティーノはマルクがわざとペースを落として、それは正しいやり方ではないと考えています。両者から話を聴いた結果、私たちはどちらにも問題はあったとの結論に達しました。ただしルール上はマルケスから接触したわけではありませんし、ルールを破ってもいない。ただ私たちとしてはマルケスの行為はロッシに対する挑発だとも考えています。問題はロッシがルールを破るような対応をしてしまったということです。


モヴィスター・ヤマハが抗議をしていますが、抗議が受理される、または却下された場合はどうなるんでしょう?

FIMの審議委員会が抗議について聴取します。抗議の提出は30分以内と決められていますが、すでにこれはクリアしています。抗議は現在審議中で次の30分以内に聴取が行われるというルールになっています。
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ほぉ、レースディレクションはマルケスにも非があると言ってるんですね。


<追記>
CRASH.netにはこの話の続きが掲載されていたので、追加します。
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レース中に裁定が下されなかったことについては両者の話を聴いてビデオもじっくり観ておきたかったからだとウェッブは言っている。

ロッシがマルケスを蹴って転倒させたという主張に対しての彼の説明はこうだ。

「接触のせいで足がステップから外れたとロッシが言っている件についてはビデオにその映像がちゃんと映っていないんです。だから足が滑ったのか、わざと蹴ったのかはわからないんです。だからみなさんが求めるようなはっきりした証拠は私たちにもないんですよ」

ロッシは既にペナルティポイントを1ポイント科せられているため、最終戦はグリッド最後尾からのスタートとなる。

ロッシへのペナルティポイントがなぜ3点なのかについてウェッブはこう語っている。

「先例があるんです。今年のヘレスでハニカがゲバラに対してわざと危険な動きをしてクラッシュさせた。この時は5ポイントが科せられています。ハニカ自身がわざとやったと言っていたからですね。そして今回と同様に相手の挑発的なライディングにいらいらさせらていました。
 今回の件についてはヴァレンティーノは故意にやったことは否定しています。しかしあらゆる証拠を集めて状況を見てみると、彼がアウトにはらんだのは故意だと判断すべきですし、その結果マルケスをコース外に追いやる接触につながったんです」

ロッシがセパンで5ポイントを科せられたとしてもヴァレンシアで最後尾スタートとなることには変わらない。ここで6点以上のペナルティポイントとなると(ミザノでのポイントと合算した結果)罰則は一段上のものになる。ピットスタートだ。

ロッシはロレンソに7ポイント差をつけて最終戦に臨むことになる。

ロレンソはロッシへのペナルティは「不公正」だと言っている。もっと厳しい罰を科すべきだということだ。一方のロッシは今回の裁定に対して「失望した」と語っている。

木曜のプレスカンファレンスでロッシがマルケスについて「フィリップアイランドでロレンソを助けたと」非難したことから二人の敵対関係は決定的なものとなった。

「フィリップアイランドのマルケスの走りについては考慮の対象外です。マルケスはフロントタイヤに問題を抱えていたと言ってますし、問題が解決したら全力で走って勝っているわけですから」とウェッブは言う。「ですからあれがわざとロッシを遅らせるためにやったことだとは考えにくいですね。レースディレクションとしてもそういう風には考えていません。
 今日のレースについては違いますよ。マルケスは正しくそういうことをしたと思います。でもどのクラスのどのライダーも同じようなことをやっていますし、でもそれはルールの範囲内でやっていることなんです」
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合理的な判断でしょうね。それに、裁定を甘くすれば「相手がロッシだから」と非難され、これ以上の厳しい裁定だとヴァレンシアを待たずして実質ロレンソにチャンピオンが決定してしまう。その狭間でこれしか選びようがなかったとも思います。お疲れ様。

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2015セパン MotoGP木曜まとめ:ロッシ対マルケス-巨人たちの戦い

うははは、おもしろくなってきましたね。マレーシアGPのプレスカンファレンス、ロッシが(冗談めかしながら目は笑っていないで)「マルケスはロレンソを手助けしたいんだろうね。オーストラリアGPでは僕を弄んだよ」と言えば、ロレンソが「最終ラップではずいぶん助けてくれましたね」と返し、さらにマルケスは記者会見後のぶら下がり取材で「ロッシに呼び出されて『なんであんなことするんだよ』って言われたんだ」と暴露し、久しぶりにコース外乱闘が華やかになっています(「気になるバイクニュース」さんが記者会見を全訳してくれてます)。ジャーナリストの皆さんも楽しくってしかたないらしく食いつきまくっていろんな記事が出ていますが、とりあえず安心と信頼のMotoMatters.comよりDavid Emmett氏の記事を翻訳。
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毎戦木曜に行われるプレスカンファレンスは面白さに毎回大きな差があるものだ。たいていはありきたりなおべんちゃらが行き交うものだ。ライダーもジャーナリストもせいいっぱい興味のあるような顔をしながらスマホいじりも我慢している。今回の記者会見については4日前の素晴らしいフィリップアイランドのレースに比べたらかなりつまらないものになるだろうと誰もが思っていた。せいぜいインドネシアの火災によるマレーシアの大気の状況が気になるくらいだったのだ。

しかしそれは大間違いだった。ヴァレンティーノ・ロッシとホルヘ・ロレンソのどちらがチャンピオンの可能性が高いかとか、ダニー・ケントは今回でMoto3チャンピオンを決めるのかについて盛り上がったのだ。しかしロッシがマルク・マルケスに対してロレンソのチャンピオン獲得を手助けしたいんだろうと非難すると興味はそこに集中することになった。そして記者会見が終わってもなおロッシは非難を続けたのだ。

話がここに及んだのは前回のレースの後にイアンノーネのフェイスブックとインスタグラムに非難の書き込みが大量に行われたことについてどう思うかとイアンノーネとロッシに対して質問が飛んだのに端を発する。イアンノーネがロッシの前でゴールしタイトル争いに重要なポイントを奪い取ったからだ。気にしていない、90%は応援コメントだったし、それ以外はただの外野の意見だというのがイアンノーネの答えだった。

ロッシはもっと強硬な発言をした。自分のファンだと自称する人たちに対してかなり厳しい口調で非難したのだ。「そういう人たちは僕の本当のファンとはとても言えないですね。すごくがっかりですよ。本当にバカな連中だ。SNSとかでみんなが自分の考えを広めることができるけど、中にはすごく頭の悪い意見もあるのが残念ですよね。他の人が自分よりちょっと運が良かったとか才能があるとか幸せだというだけで悪口を言う。うらやましいんですよ」。そしてロッシはイアンノーネについては自分を負かしたからといって恨んではいないと言った。「彼は自分のレースをしただけで、僕を負かそうとするのも当然ですよ」


ファンを怒らせない方がいい

これは常にバイクレース、そしてあらゆるメディアで問題になっていることだ。ファンは情熱のあまり、そしてネットの匿名性をいいことに他のファンとの激論に身を投じ、さらにはフォローしているスターとのやりとりをしようとする。彼らは回線の向こうにいるのが生身の血の通った人間だと言うことを忘れてしまう。本当は感情と情熱を持ち合わせた傷つきやすい人間だというのにだ。

これは相手がトップアスリートでも変わらない。あるMotoGPライダーが私に語ったことがある。いつでも非難のコメントが大量に飛んできて死にそうになるのでもうSNSに投稿するのはやめたそうだ。SNSはファンにアイドルとの交流の機会を提供してくれる。しかしそれを悪用してライダーやアスリート(作家やポップスターやその他なんでも有名人なら同じだ)を残念な気持ちにすることもできるのだ。そうなったら誰にもひとつもいいことはない。スターはファンとの交流に及び腰になり、SNSは自分の意見の増幅装置になってしまう。結局ファンは再びジャーナリストが介して発信する二次的情報に頼らざるを得なくなってしまうのだ。

ファンがこうした熱狂的で非合理的な反応をするのは今に始まったことではない。古代ローマでは二輪戦車の戦士はそれぞれ違った色をまとっていた。コロシアムに集まった観客に区別がつくようにするためだ。ファンは赤やら白やら緑やら青やらにそまっていた。それぞれの戦士のファンがお互いを認識るようになるとファン同士のいさかいもよく起こっていた。そしてファンのグループがその世界で大きくなっていくとどんどんいさかいはひどくなっていったのだ。ローマ帝国の末期、ビザンチンではファンのいがみあいは最高潮に達し、ついには皇帝ユスティニアヌスを追放しかねないところまでいったのだ。軍が後ろ盾になった青派と緑派による暴動は3万人の死者を出すことになる。まあ、それに比べれば今のファンはましではある。


手榴弾を手渡して

記者会見が最も熱くなったのはロッシがフィリップアイランドのレースについてたずねられた時だ。またあんなスリリングなレースが観られるでしょうか、という質問が出た。そこからバトルが始まったのだ。まずはロッシが普段では言わないような非難を口にしたのだ。「そういうレースが観られるかどうかはマルケスに聴いた方がいいんじゃないですかね。レース中はわからなかったんですけど、あとからビデオを観ると間違いなく彼は僕らを弄んでましたね。彼はレースに勝つだけじゃなくてロレンソが前に逃げられるようにしてポイントを稼がせてあげようとしてたんですよ。だからフィリップアイランドではホルヘがマルクという新しい仲間を手に入れたってことですね。これはかなり状況を変えるでしょう。マルクは逃げる力が間違いなくあるのに、そうじゃないレースをするかもしれないんですから」

ロレンソもマルケスも驚きと混乱の入り交じった表情でロッシに顔を向けた。マルケスがロレンソを手助けしようとわざとそういう走りをしたと本当に言いたいのか?彼らも最初はそれを真に受けたようには見えなかった。マルケスが自分を助けてくれたのかと聞かれたロレンソはロッシが冗談を言っているのだと思って自分も冗談で答えていた。「ええもちろん!特に最終ラップではね」。最終ラップでマルケスはロレンソを抜いて優勝したのだ。

マルケスは最初はフィリップアイランドのレースの素晴らしさに関する質問に答えていたが、カンファレンスルームにいた中でもっとも勇気あるジャーナリストが彼をその話題に引き戻した。マルケスは自分がイアンノーネとロッシを弄んでロレンソにチャンピオンをとらそうとしたかどうかということについては明解な答えを返している。「そんなわけないですよ」・彼は自分のレースをしただけでタイヤのコンディションに応じて走っていたというのだ。ロッシの非難に一貫性のないことも指摘している。「もしロレンソの味方をするなら最終ラップで抜いたりしないですよ。それに限界で走ったりしない。そんなリスクを冒すはずないでしょ」

マルケスはレース後に言っていたことを正確に繰り返した。レース中盤、前をいくライダーにアタックをかけたとき、彼はフロントタイヤのオーバーヒートに苦労していたということだ。「レースの中盤で攻めながらギャップを広げようとしたんですができなかったんです」。彼は日曜の会見でこう続けた。「レース中に温度が上がってフロントの接地感がなくなったんです。でもそのうち状況が良くなってきてホルヘに追いついて抜こうとしたんです。攻めてはいたんですけどフロントがものすごく安定しなくて、しかたない、とりあえず温度を下げようと思って、最後まで様子を見ながら走ることにしたんですよ。でもフロントが終わりかけてて結構危ない場面もありました。それで最後の3周に集中することにしたんです」


追い打ち

ロッシが本気だったかどうか疑う人のために彼がイタリアのメディアのぶら下がり取材で言ったことを記しておこう。彼はメディアに対してフィリップアイランドのタイムシートの束を店ながら説明までしたのだ。彼の話した内容はMotoGPの公式サイトにアップされている。要約するとこういうことだ。マルケスは明らかに誰よりも速いペースで走っていた。しかしロッシとイアンノーネを邪魔するためにペースを落とした。それでロレンソは逃げてしまった。マルケスはストレートで自分を抜いていたがそれは僕がイアンノーネのドゥカティにも苦労しているのをしっていたからだ。マルケスは僕を邪魔するためにわざとやったんだ。

なぜマルケスはそんなことをしたのか?ロッシにはロッシの言い分がある。マルケスはロッシに対して怒っているというのだ。ロッシによればアルゼンチンとアッセンの復讐なのだそうだ。マルケスはアルゼンチンでロッシがわざと自分を押し出してクラッシュさせたと考えているとロッシは言う。そしてマルケスはアッセンで自分に勝利を盗まれたと考えているとも言っているのだ。接触してきたのはマルケスで、それで自分がコースをはずれたというのがロッシの言い分である。

さらにロッシが強調していたのはマルケスの自分勝手なモチベーションだ。今年タイトルを獲れなかったのでロッシにもタイトルを獲らせたくないと思っているというのがその主張だ。マルケスはロッシのタイトル記録を狙っていて、もしロッシが2015年にチャンピオンになれなければマルケスが将来記録を破るのが楽になるということである。その証拠として彼が揚げたのが2013年のラグナセカだ。マルケスがコークスクリューでインをカットして自分を抜いたのは自分が2008年にケイシー・ストーナーに対してやったことの真似だとロッシは言っている。


検察側の主張

ロッシがそんなことを主張するのには何か意味があるのだろうか?いつどこでロッシがマルケスがそういうことをしたのかについて正確にわからないと判断は難しい。ロッシと一緒にラップタイムやセクタータイム、そしてレースの分析をしながらロッシが何を考えていたのか教えてもらうチャンスはジャーナリストにはない。

私たちができるのはロッシの非難とマルケスの返答を分析することだけだ。マルケスのラップタイムは確かに奇妙なものである。ものすごく上下しているのだ。そのラップで最速のライダーから遅れたとき(6周目の1分30秒943がそれだが、このときはロッシとイアンノーネとドッグファイトを繰り広げていた)もあるのに1分29秒台前半で最終ラップにはファステストを出しているのだ。13周目〜マルケスはロレンソを追い始め、最終的に18周目で彼を抜いている。2周以上前を走った後に再びロレンソにトップを奪われる。マルケスのリズムはいつもとちがっていたのだ。彼はトップに立つと普通ならもっと安定したタイムが出せるのである。

マルケスによればタイムのばらつきはフロントタイヤのオーバーヒートが原因だとのことだ。「スタッフとデータを確認したんですけど、そもそもホンダはフロントに荷重がかかるマシンなんです。今回のレースで使ったのは一番ソフトなコンパウンドなんですけど、それしかレースで使えなかったんですよ」とマルケスは説明する。レース中盤でロレンソに追いつくために攻め続けたが、一旦追いつくとタイヤの挙動が大きくなったために彼はスロットルを緩めざるを得なかったのだ。


本当にタイヤの問題なのか?

タイヤの生だという弁明は信用してもいいのだろうか?確かにホンダRC213Vはフロントタイヤへの荷重が他のマシンよりかなり大きいのは確かである。エンジンブレーキが弱いのだ。そもそもエンジンがアグレッシブでエンブレを調整できないのである。そのためマシンを減速するにはフロントタイヤに頼らざるを得ないのだ。その結果フロントはどんどん摩耗していくことにある。とは言えシーズン後半にナルトこの状況は比べものにならないほど改善されている。前半ではホンダのライダーは左に右に、そして直立状態でさえも転倒していたのだ。熱を持ちすぎたフロントタイヤが根を上げていたのである。

フィリップアイランドではタイヤと温度がうまくホンダにマッチしなかった。ブリヂストンが用意した左右非対称のフロントタイヤは複雑な問題の解決策としては素晴らしいものだ。温度変化が激しく、高速左コーナーが極端に多いコースでグリップを確保するために導入されたものだ。こうした状況から、そして昨年の痛い経験からブリヂストンはタイヤの真ん中と右側にはエクストラソフト、左側にはそれより一段固いソフトコンパウンドを配した灰屋を供給している。これで左高速コーナーでの荷重に耐えつつフィリップアイランドの素晴らしいストレートでも右コーナーでタイヤ表面の温度を下げないで済むようになった。

真ん中のエクストラソフト部分がしかしマルケスにとっては問題となってしまったのである。極端なホンダコーナーやMGコーナー、そしてストレートの後に控えている恐るべき右コーナーのドゥーハンコーナー進入でのレイトブレーキングのせいで、そうしたエクストラソフト部分を使いすぎることになってしまったのだ。もし気温が1℃か2℃低ければ、もし風がもう少し強ければタイヤはこれほどまっでに熱を持つことなく、充分コントロールできる範囲に留まったろう。もし気温がもう少し暖かければホンダは左右対称のソフトタイヤの使用も考えたろう。そうすればブレーキングでここまで辛い思いをすることはなかったはずだ。

ではオーバーヒートしたタイヤが元の性能を取り戻すことがあるのだろうか?温度が上がりすぎなければ実はそれはあり得る話だ。ブラッドリースミスが8月のブルノで同じことをやっている。サフと側のタイヤで攻めすぎた彼は2周ほどタイムを落として、再び攻め始めている。タイヤが元通りになったからだ。


動機はあるか?

ここまでの陳述はレースで起こった話に基づくものだ。では動機についてはどうだろう?今年のマルケスがロッシに牙を剥いているということに関してはロッシの指摘の通りだ。かつての師弟関係は敵対関係に変わろうとしている。ロッシが関係解消に向けて動き始めたのはアルゼンチンからである。傍目にはわかりにくいものだったが。そしてアッセンではそれがはっきりしてきた。プラクティスでロッシを引き離しにかかったマルケスだが、決勝で二人がGTシケインに入っていったときのことだ。程勝利を手中に収めたとマルケスは思ったのにそうはならなかったのである。自分がうまくやれなかったことに納得もいかず、シケインをカットしたロッシには罰が与えられるべきだと彼は思ったのだ。

マルケスの野心についてもロッシの指摘は当たっている。マルケスは記録について問われると常にそれは眼中にないとは言っているし、大事なのは勝ってタイトルを獲得することだと言ってはいるが。

マルケスがロレンソを勝たせようと思っているというロッシの非難はまったくあたらないということである。マルク・マルケスは勝利を愛している。より正確に言うなら負けることが我慢できないのである。敗北を避けるためならなんでもすると言ってもいいだろう。マルケスは負けたときでもにこやかである。誰が勝っても素晴らしいレースだったと賞賛できる。しかし本心はそれとは全く違うのだ。誰かの後ろでゴールするのは耐えられないのである。

マルケスがどれほど勝利を愛しているかを証明する良いエピソードがある。去年のはじめにバルセロナで行われた最初のスーパープレスティジオでのことだ。マルケスは勝つ気まんまんだった。アメリカ人のダートトラックチャンピオンのブラッド・ベイカーを招待して、二人で練習を重ね、そして二人は仲良くなった。そして決勝レースは二人の対決になった。しかしマルケスにはベイカーほどの経験がなく、ついていけずに結局転倒してしまう。表彰台では二人とも笑ってはいた。マルケスはがっかりしたけれどもバトルができて楽しかったと言っている。


負けるなんて我慢できない

しかしその裏では全く違うストーリーが進行していたのだ。このイベントにかかわったある人が教えてくれたのだが、表彰式前、マルケスは観衆の目が届かないところまでマシンを乗り入れると怒りを爆発させたというのだ。ミスを犯した自分に激怒していたのである。そしてそれ以上に負けたことに怒っていた。自分が主催するイベントで、みんなが自分が勝つのを見に来てくれたにもかかわらずである。

彼はこの敗北に真剣に対応した。トレーニングwのやり方を変え、マシンをいじり、そして翌年のスーパープレスティジオでは自分が招待したアメリカ人より速く走ってみせた。もちろんブラッド・婦負カーが予選でクラッシュして怪我をしたことにも助けられてはいる。それでもジャレッド・ミーズを負かしたのだ。彼はもう二度と負けるもりはなかったのだ。

アラゴンでクラッシュしたマルケスの映像を覚えているだろうか?マシンのyほこに立ち尽くし怒りもあらわに叫んでいた。またフロント周りのせいで転倒したのだ。マルケスはロレンソに勝てると思っていた。しかしクラッシュしてしまったのだ。

マルケスが誰かに勝たせてやるということがありえるだろうか?「相手がチームメイトなら手助けしますよ」と彼はプレスカンファレンスで言っている。「でもチームメイトじゃなかったら自分の勝利のために走りますね」

フィリップアイランドの最終ラップでで彼がやったのはまさしくそれだ。マルケスはまだ何か隠しているということを証明しているのだろうか?その通りだとも言える。しかしマルケスが隠しているのは勝つかクラッシュかの賭をしたいという渇望なのである。マルケスはあの最終ラップを「予選みたいだった」と言っている。本当にその通りだった。全力で攻めていた。そして我々はその素晴らしい勝利をたたえることになった。もしクラッシュしていたらどうだろう?その可能性も高かった。特にヘアピンからヘイシェッドに向かうところではマシンがかなり暴れていた。マルケスのメカニックがお歩くフェル目ですぐにリアタイヤにカバーをかけたのは、他のチームみ観られたくなかったからだ。何か目を惹くようなことが起こっていたのかもしれない。


過去の行い

その通り。私はマルク・マルケスが誰かが勝つよう手助けするなどということがあるとは全く思っていない。もしそれができたとしてもだ。しかしそもそも現在のMotoGPのレベルはとんでもなく高いのである。4人、ことによったら5人のライダーがこれまで見たこともないほど高いレベルで戦っているのだ。そして二人の差も極めて小さい。つまりレース中に他のライダーを弄んで邪魔ができるほど余裕のあるライダーがいるとはとても信じられないのということなのだ。それはとんでもなくリスクが高い戦略だし、そもそも成功の見込みもまったく見えないのである。

ロッシは間違いなく過去の自分を思い出しているのだろう。レースを始めた頃の彼は実際それができたのだ。MotoGPの初期、彼がどれほど余裕を持っていたのかは2003年のフィリップアイランドを見ればよくわかる。イエローフラッグを無視して追い抜きを行ったために10秒のペナルティを科せられた彼はすぐさまタイムを1分32秒台から31秒台まで落とし後ろを走っていたロリス・カピロッシより1秒速いタイムで安定したラップを重ねた。彼はカピロッシに対して10秒以上差をつけなければ優勝できなかったのだ。レースが終わったときの彼のリードは15秒。キャリア最高のレースのひとつだろう。しかしこれはいかに彼が当時のレースで飛び抜けていたかを示すものでもある。だからこそ翌年ヤマハに移籍しても最初のレースで勝った上に、マシン乗り替え初年度でタイトルまでとれたのだ。

今ではこんな偉業を達成することはできないだろう。独走レースもあるがそれは特殊な状況の下でしかないことなのだ。今年のドライレースでの1位と2位の差は常に6秒以内。そしてそのすべてでロッシかロレンソ、つまりヤマハのライダーが勝っている。

ロッシがこの話を持ち出した理由はなんだろう?彼があえてそうしたのは明らかだ。プレスカンファレンスにタイムシートの束を持ち込んでいたということは最初の機会を逃さずこの件を話題にしたかったということである。プレスカンファレンスの後も彼はまずイタリア人記者に、そしてテレビの取材で同じ説明を繰り返しているのだ。マルケスはルール違反はしていないがスポーツマンらしくない彼のやり方にがっかりしていると言うためにかなりの努力をしているということだ。


神経戦:では誰の神経が標的なのか?

彼は何をしたかったのか?それは誰にもわからない。マルケスでさえわからないと言っている。「理解できないですね」とマルケスはスペインメディアに語っている。「いつものヴァレンティーノだったらこんな直截的な言い方じゃなくて、でも誰に向かって言ってるかはすぐわかるように話すでしょ。でも今回はよくわからないですね。いつもはプレスカンファレンスでも対応が上手だし何を言ってるか自分でも完璧に理解している。でも今回は僕にプレッシャーをかけようとしている。でも彼が負かさなきゃならないのはホルヘでしょ。だから全然意味がわからないんですよ」

マルケスは自分がロレンソを手助けしているとロッシが信じ込んでいることは既にわかっていた。ロッシはフィリップアイランドのレース後にマルケスに同じ話をしているのだ。マルケスは驚いたという。リスクを冒して最終ラップにロレンソを抜いているのだ。

なざロッシはマルケスにプレッシャーをかけようとしているのか?プレッシャーをかけてマルケスがレースに勝つよう仕向けているのか?しかしマルケスはそういうことがあろうがなかろうが関係のないライダーの筆頭である。すでに書いたようにマルケスは敗北を憎んでいる。勝つためにリスクを冒すことも全く厭わない。クラッシュするよりスロットルを緩めて4位になってもいいと思っているくらいなら今頃彼はまだタイトル争いに参加していただろう。しかし彼にはそれができないのだ。川を渡るサソリとカエルの逸話の通り、彼は自分の本能に逆らえないのだ。勝つためにはリスクを冒してしまうのである。

ではこれはロレンソに対する遠回しの攻撃だろうか?しかしそれがどうやってロレンソに到達するのかは想像もできない。ロレンソは何より予想外の展開にとまどっているようだった。マルケスが自分を勝たせたがっているからといって自分のレースへの臨み方が変わるとはとても思えないと言っているのだ。彼は自分がやるべきことはロッシからポイントを奪うことで、そもそもタイトル争いは彼の自力ではどうにもならないこともわかっている。つまり彼はプレッシャーなしに走れるということだ。ミザノでばかばかしいミスのせいでポイントを失ってからは既にプレッシャーから解放されているのだ。「勝つしかないんですよ。負けるわけにはいかないんです」

皮肉なことにプレッシャーはタイトル争いをリードしているロッシにかかっているのだ。残り2レースで11ポイント差。つまりロッシは守るべき立場にいるのである。同時に11ポイント差というのは全く安心できる数字ではない。Moto3のタイトル争いを40ポイント差でリードしているダニー・ケントはプレスカンファレンスで、これまでの2戦でひどいウォブルに見舞われたと言っている。ジュリアン・ライダーがSuperbike Planetに書いている通り、これまでのロッシのタイトル獲得は常に圧倒的なポイント差で決まっていた。前回ロッシが最終戦までもつれこむタイトル争いをしたときには彼は最終戦ヴァレンシアでクラッシュしている。その結果ニッキー・ヘイデンがチャンピオンになった。その悪夢もロッシをさいなんでいるかもしれない。


最後の力を振り絞って

ロッシはプレッシャーに押しつぶされそうになっているのか?彼の精神的強さ、そしてライバルへのプレッシャーのかけかたの巧さには定評がある。遠回しの彼のもの言い(まあ時には遠回しでないこともあるが)が彼のライバルの心に小さな穴を開ける。そのやり方は既に伝説の域に達している。そしてその穴に埋めた小さな疑いの種はライバルの心の中で巨大な樫の木に育っていくのだ。ロッシが後ろからやってくる爆音が聞こえたとき、ライバルの心が折れるのである。

しかし彼自身の強さ、耐える力、攻め続ける力についてはそれほど知られてはいない。ドゥカティ時代に彼がみせた気高さは記憶に値するものだった。2年間の長きにわたる辛い時期、彼は少なくとも週に一度は同じ質問を受けていた。「ケイシーはこれで勝てたのになんであなたにはできないのか?」。ロッシが冷静さを失ったことは一度もないし、質問者に言い返したこともない。毎回彼は静かにこう答えていた。「ケイシーの乗り方は特殊だったんですよ。僕にはその乗り方はできないんです」

当時のロッシがレーサーとしても人間としても最高だったと私は思っている。耐えて、集中し、なんとか物事を理解しようと努力し、厳しい運命の矢に苦しみ、シェークスピアの言葉を借りるなら「さらに強くなって帰ってくる」。その結果が今日の彼の素がタラ。再びタイトル争いをしている。36歳になっているにもかかわらずだ。彼が戦っているのは自分のポスターを部屋に貼っていた自分より下の2世代にわたる時代のライダーたちだ。若いライダーは自分がチャンピオンになるにはロッシを倒さなければならないと知っている。これを偉大と言わずして何と言う。これを不屈の精神と言わずして何と言う。

しかし同時にこれが彼を疲れさせてもいるのだろう。今シーズンはは長いシーズンだ。MotoGPの話だけではない。ロッシがここに来るまでに対続けた日々の話だ。彼は走り、バイクに乗り、ライディングスタイルの改革に取り組んできた。シーズンオフの間中仕事を続け、開幕に備えてきた。毎レース全力で戦い、前を追い続けてきた。彼のポイントリードの浮き沈みを見てみよう。常にタイトル獲得を目指しながらも安心できるポイント差には決してなっていない。ルマンまでにかせいだ序盤の15ポイントのリードは2戦後のバルセロナでは1ポイント差まで詰まっている。ザクセンリングでは再び13ポイントまでリードを広げるが、それも2レース後のブルノでは消えてしまう。次の2レースでは23ポイントの差をロレンソに対してつけ、そのミザノの時点で流れは彼に完全に傾いたかと思われた。

アラゴンではダニ・ペドロサと熾烈なバトルを繰り広げ、結局3位になってしまったことで9ポイントを献上してしまう。もてぎではロレンソから4ポイントを取り戻すも、フィリップアイランドでは再び7ポイントを削られてしまう。ここでのレースは今年2回目の激しいバトルだった。相手はアントレア・イアンノーネだ。そして彼は飛行機に乗りホテルに入る。この2週間休み無しで追い立てられ、14日間で3レース目となるマレーシアGPにやってきた。これもまた精神的に厳しい話である。GP関係者すべてにとってそうなのだが、タイトル争いをしている二人にとってはなおさらだろう。ただでさえストレスの多いフライアウェイラウンドにタイトル争いの重荷がかかっているのだ。並大抵のことではない。

年齢のこともある。ロッシは未だに素晴らしいフィジカルコンディションを維持し、そしてこれまでで最高のライディングをみせている。しかしこれから獲得できるタイトルの数が限られていることは彼も充分承知しているはずだ。チャンスが来たらそれを逃すわけにはいかないのだ。2006年、2007年とタイトルを逃したときは挽回のチャンスがあると彼はわかっていた。契約は2016年までとはいえ、来年もタイトルを獲得するのはおそろしく難しいだろう。来シーズンはホンダが戦闘力のあるマシンを投入するはずだ。マルケスがさらに手強くなるということである。ロレンソは今年以上にやる気になるだろう。トレーニングを重ね再びタイトルを獲得しにくるはずだ。ドゥカティGP16は進化しアンドレア・イアンノーネもタイトル争いに参加してくるに違いない。スズキが良くなってくればマーヴェリック・ヴィニャーレスも脅威になるだろう。2016年が終わればアレックス・リンスがやってくる。ファビオ・クァルタラロや他のライダーも驚くような走りをするかもしれない。

ロッシの10回目のタイトルは今年が最大のチャンスなのだ。ロッシがこれまで果たした偉業を振り返り、そしてこれがことによったら最後のタイトルのチャンスだということに思いを馳せてみよう。なんという重荷だろうか。この重荷でひびが入り始めているのが見えてきたのだ。
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腹黒いロッシというイメージが強いので何か深謀遠慮の末の発言かと思われそうですが、昨日の予選後に「すっきりしたからよく寝られるよ」とか言ってるので、本当にぶちまけたかっただけな可能性が大きいですね。

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公式リリース>マレーシアGP2015

ヤマハホンダドゥカティ(英語)スズキ(英語)アプリリア(英語)

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ロッシとロレンソのピットで何が起こっているか

シーズンも最終盤にさしかかってきて、近年まれに見る激しいタイトル争いが繰り広げられていますが、「友達ではないけど憎み合ってもいないよ」と双方ともに語っていたロッシとロレンソのピットの間でどんなことが起こっているかというお話。Motor Sport MagazineよりMat Oxley氏の記事を訳出。
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ロッシ対ロレンソのタイトル争いが佳境にさしかかった今、傍目にもわかるほどモヴィスター・ヤマハのピットではひどいことが起こっている。それについて語ろうと思う。

上の写真はロッシのスタッフであるゲイリー・コールマン(左)とアレックス・ブリッグス(右)がホルヘ・ロレンソのメカニックであるイアン・ギルピンを襲っているところだ。ギルピンは二人のオージーになすすべもなくやられている。

ピットでも同じことが起こっている。スタッフたちもタイトル争いをしているのだ。彼らはお互いを鵜の目鷹の目で観察しつつ、破壊行為をたくらんだり間違った情報を流そうとしたりしているのだ…。

だめだ、もうやめよう。タブロイド紙じみた煽りネタはやめて現実にもどることとしよう。

「僕らの間には何も起こってないですね」とギルピンは言う。いかにもサン(訳注:イギリスのタブロイド紙。ちなみにタブロイド紙ってのは煽り記事で部数を稼ぐのが定番です)風の記事を書いて一儲けしようというわたしの企画は完全に潰えてしまった。「もちろんどちらも勝ちたいと思っていますよ。でもみんないい人ばかりなんです。みんなプロフェッショナルだし同じチームだし、みんなで楽しくやってるんです。だからドラマみたいなことは全然ないですね」

ギルピンは最近ロレンソのチームに加わったばかりだ。その前はベン・スピーズのワークスヤマハチームで、さらにその前はスズキで、そしてチームロバーツではヤマハ、モデナス、プロトンを手がけている。

「もちろんおたがいにからかい合ったりはしてますよ。そんなバトルはよくありますね。でもレースが終わればお互いをたたえ合ってマシンの整備をするかパッキングを始めるかです。ヴァレンティーノが勝ったりホルヘがクラッシュしたりってミサノみたいなことがあると、まあ1時間くらいは腹立たしい気分になってますけど、それも気にならなくなる。別に世界が終わるわけじゃない、ただのバイクのレースだよってね」

困難な仕事をうまく進めるにはユーモアは不可欠だ。彼らは巨大な責任を背負っている。マシンを正しくセッティングするだけではないのだ。同時にマシンの安全も確保しなければならないのである。ブリッグスの最初の仕事は80人もの命を預かるバスのメカニックだったのと比べることもできるのだが。

彼は言う。「この仕事を始めてからはユーモアが絶対必要になりましたね。でないとストレスに対処できないんです。ストレスが最高潮になったときでも誰かがジョークでそれを和ませる。おかげで気が楽になってなんとかやっていけるんですよ。ドゥカティにいるときなんかユーモアの洪水でしたね。誰かが『トンネルの先に光が見えたっ』て言うと誰かが『ありゃ出口の光じゃなくて列車のライトだっつうの』って返す。毎週そんなことを言い合って笑い飛ばしてたんですよ」

とは言えチームの中ではストレスも緊張感も高まってはいる。誰もが言うようにライダーの最大の敵はチームメイトなのだ。それはスタッフにとっても同じである。

ブリッグスはこうも言っている。「同じバイクのチームに負けるのは別のメーカーのチームに負けるよりきついのは事実ですね。別のメーカー相手なら言い訳もできますから。ホンダに負けたんだったら、だってねえ…って言うこともできる」

ロッシとロレンソのセッティングは異なる(例えばロッシはライディングがアグレッシブなのでサスは固めにセッティングしている)が、どちらも相手のセッティングについてはわかっている。

ギルピンは言う。「秘密は全くないですよ。僕らはお互いのピットを行き来しながらどんなセッティングで走ってるかも話してますし、向こうが何を使っているかも教えくれますし。ほんとにオープンなんです」

信じがたい話ではあるがチーフメカはお互いのセッティングをしっていて情報は共有されているのだ。

ブリッグスは言う。「何も隠してないんです。ほんとですよ」。彼はミック・ドゥーハンのスタッフを経験した後に199年までロッシのスタッフとして働いている彼がGPに入ったのは1993年にはロスマンズ・ホンダでダリル・ビーティーのメカとしてだ。「ライダーは隠し事があると思ってますね。ミックやアレックス・クリヴィエ(1994-1999年のHRCライダー)の時代でもセッションで良いタイムを出すとミックは『他の奴には何をやってるか教えるなよ』って言ってましたね。だから『わかった、わかった』って答えてました。でも日本人のエンジニアはえこひいきをしないので違いは無かったんです。それにセッティングに失敗するとミクでも誰でも『でクリヴィエはどうやってるの?』ってきいてましたからね。まあそんなもんですよ」

実際には両者のピットの間ではそれ以上のことが行われている。

こんどはコールマンに語ってもらおう。彼は1993年にチーム・ロバーツに参加し、2000年からはロッシのスタッフとなっている。「何か問題があると向こうに話をもちかけるんです。だから一方のメカニックが例えばこれまでのやり方だとハーネスが干渉していたけどボルトの下じゃなくて上側を通せばうまくいくってわかったら、相手のピットでも同じことをやれてるか確認するんですよ」

ブリッグスはこう言っている。「もうこれ以上難しくできないくらい難しい仕事なんですよ。両方のスタッフの間に壁がないってわかるのはライダーがクラッシュしたときですね。クラッシュしなかった方のチームがマシン整備を終えたら、まず相手のピットにいってマシン修復を手伝うんです」

そうした助け合いはグリッド上でも行われている。

コールマンは言う。「レース前は僕とイアンがピットに入ってセカンドバイクを整備するんです。他のスタッフがグリッドでハリウッドばりに派手な仕事をしているときにね。ホイールの交換をしてるイアンを僕が手伝うこともあるし、彼が僕を手伝ってくれることもある。ライダーがグリッドにいるときでも僕らは助け合ってるんです」

グリッド上でもそれ以上のことが起こっているとブリッグスは言う。「グリッドでスターターの不良でどこかのマシンのエンジンがかからなかったら、それがどこのチームだろうと自分のとこのスターターをそのマシンのリアホイールに差し込むんですよ。よくある話です。『ははは、うちが助けてあげなかったんでスタートもきれないでやんの』なんてことはやっちゃいけないんです。バトルはコースの上でするものなんですよ」

残り2戦のうちの1戦が次の日曜に行われるというのにこうした善意による相互扶助が行われていることを知ってしまってちょとげんなりするかもしれない。しかしフィリップアイランドの結果を思い起こしてみよう。彼らが身を置いているのは実に非情な世界なのだ。これまでもずっとそうだったし、これからもずっとそうだろう。

ロッシとロレンソのタイム差はレースタイムの0.03%しかないのに獲得したポイント差は35%も違う。厳しいゲームなのだ。他のライダーの前でゴールするしか勝つ方法はないのだ。誰かに前を行かれたら負けなのである。
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いい話だー。

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2015フィリップアイランド日曜まとめ:時代を象徴するレースか?

「誰がレースの勝者かって?観ていた私たちだ。これからこのレースは長く語り継がれることになるだろう」との名言をツイートしていたDavid Emmett氏によるレースまとめをMotoMatters.comより。
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これこそ私たちが待ち望んでいたレースだ。いつかはこの日がやってくると信じていた。しかしこれまでは「これがレースだ!」と思っても3周もすればその気持ちは薄れていき、結局いつものパターンになってしまっていたものだ。しかし今回は違った。スタートからフィニッシュまで世界最高の4人のレーサー(3人はこれまでも最高だった。そして残りの一人がその仲間に入ろうとしている)が勝利を目指して接近戦を繰り広げたのだ。そしてこの結果が今後のタイトル争いに大きな影響を及ぼすことになるというのも嬉しい話である。独走するライダーはいない。誰かが誰かをもてあそぶこともない。最終ラップまで待つこともない。完全な戦争状態であう。スタートシグナルが消えてからチェッカーフラッグが振られるまでそれが続いたのだ。

今回のレースがそれほどまでに手に汗握るものとなったのは皮肉なことだ。ブルノで、ミサノで、そしてもてぎで、これまで何度も私たちはスリリングなレースを期待していた。予選結果がそれほど接近していたのである。しかしその希望はチェッカーフラッグ時点ではとうに潰えてしまっていた。フィリップアイランドの予選結果を見て土曜に私たちが考えていたのは、マルク・マルケスが何秒差で勝つかということだけだった。そして2位争いについても2周ももてばいいだろうと思っていた。とんでもない間違いだ。そしてそれが間違いであったことに私たちはどれほど喜んだことか。

ホルヘロレンソが最もおそれていたことがスタートで現実となった。土曜の予選でまんまと彼を利用して2番グリッドを獲得したアンドレア・イアンノーネのことだ。イアンノーネは彼のスリップを使い、そしてその後は脱兎のごとく逃げて見せたのだ。ロレンソはそれを追う。半周もするとこのレースがいつもとは異なることが見えてきた。ロレンソがパッシングポイントではまったくないヘイシェッド(8コーナー)で大胆かつ見事な抜き方で前に出たのだ。こうした抜き合いがその後も続いた。そしてこれを上回る素晴らしい追い抜きがいくつも展開される。これこそが楽しいレースというものだ。


後ろ後ろ!
ロレンソがリードを保てたのはちょうど4コーナー分。彼は逃げをうとうとするが後ろにいたのは不幸にもドゥカティだった。デスモセディチの圧倒的なトップスピードを最大限に活かしてイアンノーネはロレンソをパスする。しかもGP15はハンドリングもかなり良くなっていた。勇気が必要な高速コーナー、ドゥーハンコーナー(1コーナー)で彼はその強みを発揮してみせる。イアンノーネは攻め続けた。今度はロレンソが後ろから追い続けたのだ。一方ロレンソのすぐ後ろにはマルク・マルケスが狙っている。さらに続くのはダニ・ペドロサ、カル・クラッチロー、ヴァン連ティーのロッシ、アレイシ・エスパルガロだ。

ルーキーハイツ(9コーナー)を一団となって越えたとき、イアンノーネに予期しない障害が表れた。コースのど真ん中で羽を休めていたカモメだ。大集団がやってくるのに気付いたカモメはしかし逃げるにはあまりにのんびりと飛び立とうとした。最初にこれに行き当たったのがイアンノーネだったのだ。彼は衝突にそなえて首をすくめる。シールドにぶつかって顔面を怪我するよりはヘルメットの頭頂部にあたる方がましだ。彼は幸運だった。カモメはフロントカウルの、しかもスクリーンとハンドルの間に当たってくれたのだ。残念なことにカモメは即死。だがイアンノーネはブレーキングポイントをはずしただけで済んだ。MGコーナー(10コーナー)でインにつけていたロレンソはその機会を逃すことなくトップを奪い返すが、平静をとりもどしたイアンノーネも彼の後ろにぴったりつける。


戦いの代償

彼らが再びストレートに戻ってくるとロレンソを待っていたのはストレートで遅いヤマハの不利を思い知らされる事態だった。片側からはイアンノーネ、もう一方からはマルケスに抜かれて3位になってしまった彼は他の場所で相手を抜くしかない。マルケスはイアンノーネをホンダヘアピン(4コーナー)でなんとか縫おうとするがアウトにはらんでしまいロレンソにも抜かれてしまう。ヘイシェッドからルーキーハイツまではイアンノーネが前。しかしMGをうまく回ったロレンソが11コーナーでイアンノーネの前に立ってストレートに戻ってくる。イアンノーネは再びストレートで抜き返しドゥーハンコーナーで前に立つが、ロレンソが再び大胆なパッシングをみせる。こんどはアウトからサザンループ(2コーナー)に向かい、クリッピングでインを閉めたのだ。

トップ争いが激しくなったおかげで6番手から徐々に順位を上げてきたヴァレンティーノ・ロッシも前の3台に追いつくことになる。マルケスがヘアピンでイアンノーネを抜いて2位に上がるそのとき、ロッシはくらいつくカル・クラッチローと4位争いをしていた。しかし1周後にはイアンノーネを後ろをつつきはじめる。ヘアピンはうまく回れなかった者のルーキーハイツでは見応えのあるパッシングでドゥカティをインから差して抜いていく。クラッチローもロッシについていくがホームストレートでおいて行かれてしまう。彼のLCRホンダはイアンノーネのドゥカティ以上にホイールスピンに苦しんでいたのだ。

後ろでこうした争いが繰り広げられることでホルヘ・ロレンソがギャップを広げ始めるかに思えた。3ラップ目には1.4秒の差をつける。いつものパターンだ。ロレンソがレースをコントロールし、他のライダーが後ろでバトルするということだ。


予想ははずれる

しかし今回のは違った。予測は幻だったのだ。レース中、もう決まったなと思わせることが何度かあった。ロレンソやマルケスが逃げようとしてギャップを広げていったときだ。しかしそのたびにギャップは広がりきることはなく、再び集団につかれてしまう。この時点でトップ争いをしている4台、ロレンソ、マルケス、ロッシ、イアンノーネが1本のロープにつながって山を登っているかのようだった。誰かがグループから抜け出そうとするとロープがピンと張って全員がトップについていく。

レースが落ち着くことはなかった。ロレンソとマルケスがトップを入れ替えている中、トップ4の差が4秒以上に広がることはなかった。誰がトップに立ってもその後ろでは熾烈な戦いが繰り広げられ、抜き合いは止まることはなかった。イアンノーネとマルケスはトップスピードを活かしてストレートでヤマハを抜くと、ロッシとロレンソはMGコーナーやルーキーハイツ、ヘイシェッドでおそろしく精密なライン取りをみせ抜き返す。周回が進むにつれバトルはますます熾烈になっていった。誰もが譲らず接触も辞さない、しかし危険を感じさせることも許容できないほどの領域に入ることもなかった。


完走最優先

最も長い時間トップを走っていたのはロレンソだ。しかし最終ラップのフィニッシュラインを真っ先に駆け抜けたのは彼ではなかった。ラストラップで彼が2位のイアンノーネにつけていた差は0.6秒。接近戦が続いたここまでの展開を考えれば余裕の勝利が待っているかに見えた。しかし彼はマルケスの速さと本気を見誤っていたのだ。アグレッシブすぎるホンダRC213Vのせいで厳しいシーズンを送っているがそれでも彼のやる気はいささかも削がれていなかった。1コーナーでわずかにはらんだイアンノーネを抜き去ってまずは2位に上がる。

そこからマルケスの生涯最高のラップが始まる。「まるで予選のアタックラップみたいでしたね」とマルケスは語っている。「アンドレアを抜いたときから100%で攻めていたんです。特に4コーナーではほんとにほんとに深く突っ込んで、そこでかなりロレンソとの差を詰められましたね」。その時点で彼はロレンソに追いついて優勝を狙えるとわかったようだ。2台がルーキーハイツの頂点にかかったときにマルケスがアタックをかけることを決意する。「そうは言っても絶対行けると思ったらって感じでしたけどね」とマルケスは言っている。無理な追い抜きでロレンソをはじき飛ばしてタイトル争いに水を差すのははばかられたのだ。しかしチャンスがきた。ロレンソも同じことを考えていたのだ。自分とマルケスがからんでしまう可能性がある。11コーナーでトップに立つとマルケスはフィリップアイランドでの初勝利、そしてMotoGPクラスでのフィリップアイランド発完走を果たすこととなった。これで彼が勝っていないのはもてぎだけとなる。

マルケスの最終ラップはどれほどすごかったのか?パルクフェルメに彼が戻るとチームが真っ先にやったのはリアタイヤをカバーすることだった。ライバルにどれほどリアタイヤを使ったのか、どんな摩耗パターンが出ているのか観られたくなかったのだ。経験を積んだスタッフならタイヤの摩耗具合をみるだけでパワー特性やシャーシのジオメトリーが推測できるのである。マルケスとチームがフィリップアイランドで速く走るための何かを見つけたのは間違いない。そしてそれはどうしても隠しておきたいことなのだろう。

ホルヘ・ロレンソは2位に終わったが後ろではアンドレア・イアンノーネが最後の最後に素晴らし追い抜きをみせてヴァレンティーノ・ロッシの前でゴールした。スライドしながらルーキーハイツでインを差しMGコーナーでタイトなラインをとって3位に滑り込んだのだ。ロッシはがっかりすると同時に驚きもしている。「すごかったですね!こういうレースがしたかったんです!」と彼は冗談めかして言った。「まじめな話をするとイアンノーネにやられたときには嬉しい気持ちなんかなかったですよ。逆ならよかたですね」。彼にとっては表彰台を逃したことは残念だったろうがバトルはスリリングだった。これでロレンソはロッシから7ポイントを削り取って、差は11ポイントとなった。残るは2レースである。もっと悪い結果もあり得た。もしロレンソが勝っていたらどうだったろう。実際そうなりそうだったのだ。この場合ロッシのリードはわずか6ポイントになってしまっていた。トップの座は変わらないが、もてぎ終了後に比べてかなり危ない状況ということになる。


これまでにこんなハードなバトルがあったろうか?

生涯で最も厳しいバトルだったか?表彰台の3人はこう答えている。間違いない、というのがロレンソの答えだ。レース序盤から彼は自分の引き出しにあるすべての技術を駆使して走らざるをえなかった。イアンノーネがドゥカティのエンジンパワーを発揮して自分を抜かないようにギャップを広げたかったのだ。マルケスは午前中のMoto3レースを見ていた。おもしろいものが観たかったのだ。しかしそれが自分の走るMotoGPで起こるとは思っていなかったという。人生最高のレースのひとつだったそうだ。イアンノーネはマルケスともっと厳しいバトルをしたことがあると言っていたがそれはMoto2時代の話で、しかもアラゴン以外ではなかったと言っている。

これは長く覚えているべきレースとなった。私がMotoGPについて記事を書き始めたのは2006年のことだが、今年はそれを彷彿させた。足りなかったのは複数のライダーによるバトルだ。しかし今回のフィリップアイランドでその不満も解消された。4台にyほるトップ争い、そしてゴールは1秒以内。しかもその中にはタイトル争いをしている二人が含まれている。栄光と歓喜をかけた戦いだ。2006年のザクセンリングやムジェロに匹敵するレースだった。勝者が見えないトップ争い。ライダーは全力を出し切って戦う。2006年以降、素晴らしいレースはいくつもあった。しかし今回ほどのレースは無かったと言える。2015年のオーストラリアGPの真の勝者は観ていた私たちだ。これから何度も観たくなるレースだったのだ。

4人のライダー、3つのメーカー。どうしてこんな素晴らしいレースが実現したのだろう?まず言えるのはライダーとマシンの力がいずれも拮抗しているということだ。ダニ・ペドロサが巧く説明してくれている。「このコースだとヴァレンティーノやイアンノーネやホルヘやマルクやクラッチローやヴィニャーレスや、他のライダーも同じようなラップタイムを出せるんですよ。ここはマシンの性能差が出にくいんです。でタイヤも同じだし、みんな同じようにホイールスピンをさせてるんでマシンの差を出しにくいってのもありますね」。そうなると細かく差をつけていくしかない。ミスをしないとか自分のできることをうまく引き出すとかだ。しかしそうやってつけた差は小さすぎて一瞬にして失われてしまう。

マルク・マルケスはフロントタイヤをオーバーヒートさせてレース後半に後ろに下がってしまった。結局タイヤの温度が下がるまでは攻めることができなかった。ホルヘ・ロレンソはレースウィークを通じてリアタイヤのグリップ不足に苦しんでいた。おかげで脱出加速がほとんどかせげなかった。ヴァレンティーノ・ロッシはウォームアップで何かをみつけたようだが土曜日は完全に沼にはまっており、グリッドは沈んでしまっていた。おかげで前に出るために精力を使い果たしてしまうことになった。アンドレア・イアンノーネのレースはすばらしいものだったがストレートでのマシンの速さにかなり助けられていたのも確かだ。ドゥカティのおかげで他のライダーを抜くのはずいぶんシンプルなやり方で済んだということだ。彼がみせたストレート以外でのパッシングはマシンのスピードだけが彼の武器ではないことを示している。しかしマシンがパワフルなのも事実ではある。


ドゥカティの秘密(ってほどではない)

ドゥカティはなぜこれほど速いのか?一番の要素はデスモセディチのエンジンがとにかくトップエンドで速いことだろう。デスモドロミックバルブのおかげだ。開方向・閉方向の両方を強制開閉することで、バルブを下げる際のバルブスプリングの抵抗を最小限に抑えることができる上、カムプロファイルも思い切ったものにすることができる。バルブサージングのおそれがないからだ。さらにドゥカティを有利にしているのは他のワークスマシンが使える燃料が20Lなのに対して22Lを使えると言うことだ。つまり燃料をたくさん燃やせると言うことである。これは特にフィリップアイランドのような燃費に厳しくないサーキットで有利に働いているはずだ。

しかしそれ以上人ドゥカティがシーズン12基のエンジンを使えるというのも大きいはずだ。信頼性を犠牲にしてでも性能をつめられるということである。マルケス、ロッシ、ロレンソは既に5基目のエンジンに手を着けており、これもかなりの距離を走っている。それに対してイアンノーネは9基目のエンジンをフィリップアイランドで使い始めたばかりである。残りはまだ2戦もある。新しいエンジンは速い。そしてイアンノーネはその優位性を最大限に発揮しているのだ。さらにマシンのリアグリップも増している。これはおそらくウイングによりフロントの安定性が増したおかげだろう。

イアンノーネのパフォーマンスの良さはしかしエンジンだけに起因するわけではない。彼はゴールするまで世界最高のライダーたちと一緒に走れたこと、そしてその中でもいい結果を出せたことが嬉しかったと言っている。エンジンも助けに派なったはずだがフィリップアイランドのコーナーを見事に駆け抜けたのは彼の力だ。イアンノーネに才能があることは誰もが認めるところだったが、速いだけのライダーから偉大なライダーに脱皮するために必要なほど成熟し知性を獲得しているかについては疑問に思っていた。。今シーズンの彼を見れば私が間違っていたことは明らかだ。そして今回のレースでその疑問は完全にぬぐい去られた。ドゥカティに必要なのは勝てるマシンにするための「エイリアン」である。おそらく、いまはおそらくとしか言えないがついに彼らはそのエイリアンを手に入れたのだろう。


新たなエイリアン

エイリアンの可能性のあるライダーは他にもいる。スズキGSX-RRを駆るマーヴェリック・ヴィニャーレスのライディングは最高だった。彼はダニ・ペドロサ、カル・クラッチローの二人と5位争いを繰り広げたのだ。パワーと加速で劣る(とはいえ不思議なことにトップスピードはそれほど落ちていない)にもかかわらずレースでは最後まで互角に渡り合い、クラッチローの前、6位でゴールしている。チームがもてぎでmiiただした新たなセッティングのおかげでヴィニャーレスは速く走れるようになった。おそらくパワーが少ないせいだろうがグリップはホンダ以上である。スズキがグリップしているところでペドロサとクラッチローのホンダはホイールスピンを起こしていた。それでヴィニャーレスは戦えたのである。ストレートでは2台に抜かれるものの、高速コーナーでは挽回する。チームメイトに対して完璧に勝ってみせただけではない。トップとの差もわずか6秒しかなかったのだ。当初チームが予想していたのは22秒差。アレイシ・エスパルガロはトップと20秒差でゴールしている。

2015年の残りは2戦。タイトル争いの行方はさらにわからなくなってきた。数字の上ではセパンではヴァレンティーノ・ロッシの方がホルヘ・ロレンソより有利であり、ヴァレンシアではロレンソの方がロッシより良い結果を残している。しかし数字上ではフィリップアイランドはロッシ有利のはずだったのだ。さらに数字だけなら予選のマルク・マルケスのタイムを見れば決勝は彼の独走になったはずだ。2015年シーズンから我々が学ぶべきは、あらゆる推測はあてにならないということである。残りの2戦で起こりそうだと私たちが思っていることは起こらない可能性が高い。きっとびっくりして声も出せない結果が待っているだろう。

今シーズンは忘れられないシーズンになるだろう。いろんな理由がある。再び黄金期が巡っていたのだ。いつか振り返ってみて、このシーズンに立ち会えたことを感謝することになるだろう。フィリップアイランドはタイトル争いにふさわしい、そして誰が勝つのか最後までわからない最高のレースをみせてくれた。今MotoGPのファンであるというのは最高のことなのだ。
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こうした長文のための情報収集には資金が必要です。もし楽しんでいただけたのならMotomatters.comへのご支援をお願いします。サポーターになっていただくか、カレンダーをお買い求めいただくか、寄付をしていただくか、若しくはGoFundMe経由でご支援をいただければ幸いです。
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偉大なサーキットは偉大なレースを演出するってことで、もてぎもオーバルを使わないなら、大改修して楽しいコースにしてくれないかしらん。そのためなら1年くらい日本ラウンドがなくっても耐えますよ。

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公式リリース>オーストラリアGP2015

ヤマハホンダドゥカティ(英語)スズキアプリリア(英語)

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ストーブリーグ表2016(2015.10.17時点)

薄ぼんやりしている間にいろいろ固まったらしいので慌てて更新。ほぼ決まりでしょうか。とりあえず去年と同じでアブラハムをドロップしていますが、どうなることやら。

Stove_2016_151017_3

「stove_2016_151017.pdf」をダウンロード

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公式プレビュー>オーストラリアGP2015

ヤマハホンダドゥカティ(英語)スズキ(英語)アプリリア(英語)

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アルヴァロ・バウティスタとアプリリアMotoGPプロジェクト:苦難の道のり

MotoGPに復帰したものの泣かずとばずのアプリリアですが、まあ元々2016年が本格復帰の年であるのを無理して1年前倒し参戦しているので当然と言えば当然の結果ではあります。そんなアプリリアで苦労しながら走っているアルヴァロ・バウティスタへのインタビューをSport Rider Magazineより。
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アルヴァロ・バウティスタの最高峰クラス100戦目はアラゴンGPだった。これとは別にMotoGP以外のクラスで115戦も走っている。30歳になった今、彼は既にベテランと言ってもいいだろう。MotoGPではスズキワークス、ホンダを経験し、そして今シーズンはアプリリアのMotoGP復帰プロジェクトのテストライダーを務めている。2015年シーズンの倍ティスタはレースをしているというより単に参戦しているだけという状況だ。彼はこう言っている。「確かにそうですね。今年は普通の年ではないですから。自分が望めるグリッドを争える状況では全くないです」

アプリリアが彼を雇ったのはMotoGPマシンの開発のためだ。そういう意味では今シーズンバウティスタにはかなりの仕事が求められているはずだ。ここでアプリリアのMotoGPにおける将来が決まるのだから。繰り返そう。バウティスタがやっているのは来シーズン以降アプリリアのMotoGPマシンの特性を決めるという仕事なのだ。

「今シーズン僕らが作っているマシンは他のオープンクラスのアプリリアとは全然違うものがベースとなってるんです。シーズン当初からそうでしたね。何かの改良型じゃなくて完全に新型マシンを開発するためのいわば実験室なんです。『来年はここを改良したいよね』とか、そういう話じゃ全然ないんですよ。いま走らせているのはテスト用マシンなんです。いろんな部品を試しながらそれが機能するかどうか確認してるんです。そうやってデータを集めてこれから作るワークスマシンの使用を決めていくという作業なんです。それこそが戦うためのマシンになるんです。こういうやり方なんで今シーズンは最後まで速くはならないでしょうね」


今年は戦う年ではない

間違いなく普通はないようなやり方だろう。アプリリアが最初に最高峰クラスに参戦した時も事前テストをMotoGPのレースそのものでこなすということはしていなかった。スズキは参戦復帰前の2年間近くを使ってテストパーツを装着したマシンを何千キロも走らせたのだ。アプリリアはこうした手順を踏んでいないように見えるがバウティスタに言わせればそうではないということだ。「別にステップを飛ばしているということじゃないですよ。やると言ったことをやってるだけなです。もちろん本来はスズキのようにレース外でやるべきことだって言うこともできますけどね。MotoGPで戦うために必要なものをきかれて、軽いエンジンって答えて、他に何が必要かきかれて、ここがこうして、あそこがこうしてって答えて、マシンを作って、それでそこから開発していく、みたいな感じですかね。でもアプリリアではそういうやり方はしてないんです。まずはマシンを持ち込んでレースで開発していく。まだテスト用マシンなんですよ。いいバイクを作るための途上なんです」

テストバイクということは戦闘力は全く期待できないし、そもそも戦闘力を期待して作るものでもない。そういう意味ではレース現場というのはテストの場所としてはいささか奇妙なところではある。

「さっき言ったように今の目標は部品ごとにちゃんとしたデータを集めることなんです。フレームはうまくできているかとか、そういうことですね。エンジンが一番基本なんですけど現段階では公道用エンジンがベースなんです。だから大きいですしね。例えばホンダのエンジンなんかはうちのより小さいですから搭載位置もいろいろ試せるんですよ。重心位置とかね。でもうちのはそういうわけにはいかないんです」

公道用エンジンがベースということはサイズが大きくフレームのどこに搭載するかの選択肢も極めて限定されるということである。複数の搭載位置を試したり重量配分を変えたりということはほとんどできないはずだ。「そうですね。そういう意味ではできることはかなり限られています。でも本当の始まりは当初の予定通り来年なんです。来年はエンジンが新しくなりますからね。そうなればかなり小さくて軽くてパワフルなエンジンが手に入ります。そうしたらいろんなことができますし、そこに今年テストしたいろんなパーツをつけていけるんです」

もちろんちゃんとしたレースできるようになるにはノアーレにあるアプリリア本社でやるべきことは山積みだ。とはいえ少なくとも電子制御に関してはアプリリアはどこよりも早く導入しているし、一定レベルに到達しているだろうと考えていたが、バウティスタによればそうでもないらしい。「そうですねえ、アプリリアは電子制御では先を行ってましたけどもうMotoGPから離れて何年も経ちますから遅れをとっていて…、まあホンダと比べたらずいぶん先を行かれてますよね。スーパーバイクでは長いこと走ってますけど、あれは別の世界ですし、こちらでは太刀打ちできないですね」


ポジティブなバウティスタ

こういう発言には全く批判する調子がなかったことは言っておくべきだろう。アプリリアと2016年までの契約(いい取引だったに違いない)をした段階で彼は自分がどういう立場にあるかは充分わかっていたのだ。スズキでも同じような立場にあった。ただスズキの場合は少し違った状況だったが。「ですね、スズキでの経験は今とは違ってましたね。あのときは僕自身250ccから上がってきて、まずはマシンを理解する必要があったんです。スズキではマシンの改良が主な目標で、レースに参戦するのは改良が終わってからだった。つまり傍目にはマシンが進化しているのがわかりやすかったということです。今年はこうした経験で蓄積したことも利用していくということですね。ライダーとしてはいろんなシチュエーションに対応できるような経験を積んでますから」

彼はなにもかもがうまくいかなかった時代について測ってくれた。GPで216戦も走っていればこそ忍耐力もつき、そしてトップクラスの実力を維持することもできるのだろう。「グラスの水はまだ半分って思うようにしてるんです。その時々で良い面を見るようにしてるんですよ。常に平静でいて、あらゆることを冷静に分析して、やり方を変えるべきかどうか考える。今の僕は結果を出せてませんけど、ライダーとしては前より成熟しているし前より進化していると思います。状況に左右されなくなったのは間違いないですね。たぶんそのおかげでマシンの戦闘力がなくてもいらいらしないし、だからこそ勝利を引き寄せられるんだと思います。今年はすごくうまくいっているし完璧とも言っていいですけど、うまくいってなくても誰かが僕に『もっと上のレベルに向けて努力しろ』って言ってくれるわけじゃないですからね」

2015年のバウティスタはテストライダーということなのだ。しかし決勝のスタートでレッドライトが消えた瞬間にスロットルを開けるのが戦うためでないということはどういう心持ちなのかは想像しがたいことだ。慢心がなんであれ他のマシンに囲まれてグリッドにいるのだ。テストライダーとしての役割を忘れても無理はないだろう。「当然ですよ!」。そう彼は笑ってみせた。「プラクティスの最終ラップやテストが終わったときや、あと何かついてそれがいいのか悪いのか考えているときは自分がGPでプラクティスを走ってることを忘れちゃんですけどね。新しいパーツのこととかしか考えてないんで。でもやれるだけのことをやって、それでレースが始まったらもうあとは戦うために走るんです」

「ドイツGPまでは彼らも自分たちが何をやってるか理解できてなかったと思いますね」。アプリリアのエンジニアがやるべきことをわかっていたかとたずねると、バウティスタはここまでと同様に真摯に答えてくれた。「なんか情報が多すぎてうまくハンドリングできない感じだったんです。でもドイツGPからはちょっと考え方も変わってきて、どっちの方向に進むべきかとか、そのために何をすべきかがわかってきた感じですね。ここんとこアプリリアのエンジニアがエンジニアがやってきたことはちょっとしたことなんですけど、すごくいい方向に進んでいるんです。最初の頃は自分たちが何について話しているのかもわかってなかったんですよね」

2016年のバウティスタと彼のチームそしてアプリリアの目標は良いマシン、そして戦えるマシンであるのは間違いない。2016年はレギュレーションが大幅に変わる年だ。統一電子制御とタイヤメーカーの変更がある。つまりマシンのレベルが接近するだろうということだ。「あんまり教えてはくれないんですよ」。来年型のRSV-GPについて探りをいれるとバウティスタはこう答えた。「僕もなんどもきいてるんですけど、とにかくやってるし、新しいエンジンを設計してるからって言われるだけなんです。まあ新型パーツも届き初めてはいるんですけど、最終戦後のヴァレンシアテストで試せるかってきいても、セパンで試せるかってきいたときと同じで答えはノーなんですよ」
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バウティスタの根性の入り具合に泣けてきたよ。

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MotoGP2015:もてぎまとめ

バイク系テクニカルライターのKevin Cameron氏のまとめ。技術的側面からの分析が興味深いです。Cycle Worldより。
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雨の中、ダニ・ペドロサに次ぐ2位でフィニッシュしたランキングトップのヴァレンティーノ・ロッシは3位のホルヘ・ロレンソとの差をさらに4ポイント広げることとなった。ロレンソはレース終了後にこう言っている。「残りの3レースをすべて勝てて、そして他のライダーが僕とヴァレンティーノの間に入ればタイトルが獲れる」。マルク・マルケスはランキング3位だがトップとの差は86ポイント。つまりタイトル争いからは数字上も脱落したということだ。

日曜になるまではドライコンディションで、ロレンソが前セッションでトップタイムを記録している。驚くべきはロッシだ。いつになく予選で攻め続け、予選終了直前までロレンソを上回りトップに居続けたのだ。それでもロレンソは最後の最後でトップタイムを出してみせた。

しかし日曜のウォームアップは雨。ここまでのすべてはご破算だ。ここで番手に1/4秒差をつけてトップタイムを出したのはペドロサだった。

日本のもてぎは比較的短めのストレートをタイトなコーナーで繋いだストップ・アンド・ゴーのレイアウトとなっている。ブレーキング性能が要求されるということだ(ベン・スピーズが2012年いブレーキトラブルに見舞われたことでレースディレクションは340mmのディスクを義務づけるようになったほどだ)。もてぎのブレーキングはフロントにかなりの負担をかけるが、逆にエッジに依存する高速コーナーが少ないためにリアタイヤには優しいコースだ。

スタートは傍目にもモチベーションが高まっていたロッシがスタート王のロレンソに先んじて真っ先に1コーナーに飛び込んだ。しかしロレンソが彼を抜くにはコーナー二つばかりあれば充分だった(ちなみに全ライダーがフロントはハードレイン、ソフトリアをチョイスしていた)。ロレンソは6周目あたりからスピードが落ちてくる。この時点でのリードは3秒以上。しかし他のライダーもそもそも柔らかく作ってあるレインタイヤがタレてくるとタイムを落とし始める。レインタイヤ用のゴムは柔らかくなければ21℃程度の路面温度に対応できないのだ。しかしその分、保ちは悪くすぐだめになってしまう。

これが難しいところだ。ウェットレースはそれほど回数があるわけではなく、レインタイヤの保ちを把握し、その挙動も充分理解しているライダーなどいないのである。今回のプラクティスはすべてドライ。つまり日曜のウォームアップセッションだけが理解を深めるチャンスだったのだ。そしてレース中盤にはラインが乾き始める。つまり誰もどうなるか予測できなかったということだ。

戦略はライダー次第だった。タイトル争いから脱落してはいるものの自らの価値を示す必要があったペドロサは4位に終わってもおかしくなかった。しかし彼はコンディションがドライに転じることに希望を託し、それが見事に当たったのである。MotoGPタイトルの権利が残っているロレンソとロッシは両者共に守りに入る余裕はなかったはずだ。彼らが反撃できなかったのはタイヤのせいなのだろうか?

ペドロサはこう言っている。「レース序盤は思うように走れませんでしたね。最初は全然スピードを上げられなかったんです。なのでかなりハナされてしまいました。とりあえず4番手を守りながらいいリズムをキープしていればタイヤを他のライダーよりも温存できると思ってたんです」

数字を見るとこの小柄なスペイン人が12周目から前に追いつき始めたのがわかる。そして15周目からはさらに差を詰めてきている。そしてペドロサがロッシを抜くと今度はロッシがいっしょにトップを追いかけるためにペドロサに着いていく。

ロレンソの見解はこうだ。「雨でも僕はかなり速かったんですけど運が悪いことにコースが乾き始めて、序盤で攻めすぎたせいかタイヤがヴァレンティーノやダニよりタレてしまっていたんです。コースがほぼ完全に乾いてからはフロントが終わってしまってそれまでのように走れなかったんですよ」

ペドロサとロッシはそれぞれ1位と2位になりそのままフィニッシュした。

2016年にMotoGPのタイヤを供給するミシュランがインターミディエイトを復活させる予定であることを考え合わせると、今回の結果は実に興味深いものとなる。去年私がMotoGPの技術ディレクターのマイク・ウェッブになぜインターミディエイトが供給されないかたずねたときは彼はこんなことを言っていた。「誰もほしがっていないからですよ」。工具屋の店員に3インチの釘がないかとたずねたときの答えと同じだ。「いやぁ在庫してないんですよ。誰もほしがらないんでね」

レインタイヤの表面は動きやすく柔軟性がある多数のブロックで構成されている。そのおかげで熱を持ちやすいのだが性能を維持するには水で冷やす必要がある。インターミディエイトタイヤは基本的にはスリックで、ただ排水のための溝が掘ってあるだけだ。そのため柔軟性はなく発熱はしにくいのだが性能は維持しやすい。原稿のインターミディエイトなしというやり方はフラッグ・トゥ・フラッグが導入されたためにレースがドライレースかウェットレースかに二分されてしまったからではないかと私は考えている。しかい完全ウェットでも完全ドライでもないコンディションというものは実際にはあるのだ。

ドライのQ2で2回転倒したブラッドリー・スミスの言葉も興味深い。「最初の転倒は5コーナーでフロントをロックさせてしまったからなんですけど、サスが底付きしちゃったんですよ」

ホンダはフロントに全荷重がのっても底付きしないようフロントサスを固めている。このときかかる荷重はバイクのものだけではない。ライダー、そして燃料の重さもすべてフロントにかかってしまうのだ。マルケスが全速力で走っている時にリアホイールが浮いているのを見たことがあるだろう。しかしスミスのテック3ヤマハのサスがフルボトムしてホイールがロックしたということはサスが柔らかいということを示唆している。ヤマハのライダーが得意とするコーナリング重視のライディングスタイルに筆よなメカニカルグリップを稼いぐためだろう。

ウェットレースではこうした違いは陰を潜めることになる。グリップが低いと誰もがスプリングもダンピングも柔らかい方に振ってくるのだ。柔らかいレインタイヤを巧くコントロールしてスムーズに走るためだ。

ロッシがどれほど苦労したかに思いを馳せると尊敬の念を禁じ得ない。彼がドゥカティに移籍したときは何もうまくいかなかった。そしてヤマハ似戻ってくるとマシンが進化していただけでなく要求されるライディングスタイルも変わっていたことで彼の乗り方は時代遅れになってしまっていた。とりあえずトップグループについていくことはできたがバトルをすることはできなかったのだ。そこで彼は自ら最新のライディングスタイルを学習していった。ノーベル物理学賞を受賞したハンス・ベーテが80歳を超えてから「ひも理論」を学び始めたようなものだ(彼は当時こう言っている。「僕はまだやれると思いますよ」)。しかしロッシに最新ライディングを教えてくれる教師はいなかった。さらにレースタイヤを装着したレースマシンでのテストも禁止されていたのだ。テストは実質的にレースウィーク中のプラクティスと決勝で行わざるを得なかったということである。タイヤとシャーシが進化する中多くのライダーが取り残されていった。ライディングスタイルが進化についていけなかったのだ。しかしロッシは違った。彼は最新ひも理論をマスターしてみせたのである。そして36歳になった2015年、MotoGPクラスのランキングトップは彼なのだ。

ロッシが一人だけ燃費問題に苦しんでいたのも興味深い。小柄なライバルに比べて身長の高い彼はマシンにフィットしていないのである。空気抵抗も大きく体重も重いことで燃費は悪くなる。最後までガソリンが保つようにするにはあらゆる場面で可能な限り燃調を薄くしなければならない。一般的にブレーキングで完全に燃料をカットするというのはしたくないはずである。一旦燃料をカットするとインテークダクトが乾いてしまいコーナー立ち上がりでスロットルを開けたときに噴射される燃料はまずダクトを湿らせるために使われてしまうのだ(エンジンに流れ込むガソリンには「気化した状態」「液滴状態」「ダクト壁を流れていく液体」という3種類の状態がある)。ダクト壁をガソリンで湿らせるには時間が要するのだが、これはつまりエンジンが濃い混合気を要求しているにもかかわらず薄いままの時間が発生するということなのだ。にもかかわらずどうしてロッシは速いのか。いつか彼に尋ねてみたいと考えている。

今回一番目立ったのは勝利をおさめたペドロサだ。他のライダーがみせたのは一瞬の輝きだが、ペドロサはうまいこと自分のペースを保ち続け、そして勝った。これもまた尊敬すべきことである。
(以下プレスリリースのライダーコメントの引用なので略)
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まさか「ひも理論が」がでてくるとは!ちなみにこれは「超弦理論」とか「M理論」とかとも言われる(正確にはこれらの理論の元になった理論ですが)「物質を構成する素粒子は11次元のひもだか膜だかでできている」という理論で、相対性理論と素粒子論を統合する万物理論につながる可能性のある(ことによったら万物理論そのものかもな)理論なんですが、いかんせん人間が理解するには複雑すぎて、さらに検証には銀河系ほどの巨大な加速器が必要とも言われている、謎(notトンデモ)理論です。いや、レースとは関係ない話ですが…。

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オーストラリアGP&マレーシアGP観戦会のお知らせ

来る10月18日(日)及び10月25日(日)にうちでMotoGP観戦会を開催します。スケジュールは以下の通り。

10/18(日)オーストラリアGP:11:00~

10/25(日)マレーシアGP:13:30~

例によって持ち込み品レシートは一旦うちで買取り、総額を割り勘方式。アルコール類についてはキャッシュオンディリバリーとなります。

こちらでご用意するメニューはこれから考えますが、今のところ参加者の多い方にパンプディングがサーブされる予定。

参加ご希望の方はご連絡くださいな。

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2015もてぎ日曜まとめパート1:ペドロサ、ロッシ、ロレンソ−歓喜、消耗、いらだち

雨に祟られましたがそのせいでなかなか緊張感のあるレースとなった今年の日本GP。それにしてもすごいのはまるでこの展開を予言していたかのようなMotoMatters.comの記事ですね。
というわけでそのDavid Emmett氏によるレビューを訳出。
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土曜のもてぎの予選結果は我々が待ち望むとおりの熾烈な争いを予感させるものとなった。ヴァレンティーノがこれまでとはうって変わって予選で好調。その結果ホルヘ・ロレンソの隣のグリッドを確保したのである。二人は予選タイムもレースシミュレーションのタイムも同レベル。チャンピオンシップポイントは14ポイント差。両者のこのレースにかける意気込みは凄まじいものがあった。ロッシとロレンソが最高の場所を目指してタイトル争いの流れを引き寄せようと激しい戦いを繰り広げるのが見られるに違いないと誰もが思っていた。

しかし世の中よくあるようにファンの希望は決勝当日にはしぼんでしまうこととなった。雨のせいでタイトル争いの主役二人による真正面からのバトルは期待できないものになったのだ。決勝日のスケジュールは混乱し、その結果ガチバトルのはずが戦略の争いになってしまったのである。

期待していた形ではなかったとはいえ、それでもレースは見応えのあるものだった。中盤まではホルヘ・ロレンソがレースの勝者に見えたが次第に乾きつつあるコースのせいで優勝の行方が見えなくなる。トップ争いに関しては直接のバトルはほとんどなかったが、ラインが乾くにつれてレースの様相は激変していく。緊張感があり、驚きがあり、そしておきまりのストーリーは吹っ飛んでしまった。タイトル争いは次の段階にコマを進め、それが生み出す緊張感が両者をむしばみはじめている。どちらがチャンピオンになるにせよたいへんな1年だったということになるだろう。


使命を背負った男

ヴァレンティーノ・ロッシの予選の戦略はスピードをのせるために他のライダーを利用し、そして自分のタイムアタックを行うというものだ。今回はこれが最初から功を奏した。そして決勝で最初に1コーナーに飛び込んでいったのはホルヘ・ロレンソではなくそのチームメイトだったのだ。コース外側のロレンソはいつもよりゆっくりと慎重なラインを選んでいた。そのせいでロッシにインから抜かれてしまったのだ。しかしロッシのリードはコーナー二つ分で終わってしまう(最初の右コーナーを正確に二つのコーナーとして数えての話だ)。ロレンソが3コーナーでロッシを凄い勢いで抜き返したのだ。

ロレンソはいつもの通りオープニングラップからリードを広げようとスロットルを開ける。彼はフルウェットならドライと同じように素晴らしい速さで走れるからだ。ウェットでは遅くなると言われていたのに刺激を受けたロレンソは自分の速さを見せつけるかのようにチームメイトに対して3秒の差をつけてみせる。6ラップ目にはロレンソの勝利はゆるがないものになったかのようだった。ウィルコ・ツィーレンベルクは真実だったのだ。「コースのグリップが予測可能ならフルウェットだろうがドライだろうが彼より速いライダーはいないんですよ」。


ペースが変わる

しかしツィーレンベルクの言葉がその通りだったのは8周目までだった。コースが乾き始めるとロレンソの前半でのがんばりがタイヤの消耗という形で返ってきたのである。ロレンソはわずかにスピードを緩めざるを得なかった。ペースが頭打ちになる。しかしロッシとの差は変わらない。だがその後ろではダニ・ペドロサのタイヤが性能を発揮し始めていた。ハードレインかソフトレインかについてグリッド上では口を濁していたがサイティングラップでハードリアのフィーリングに違和感を感じた彼はグリッドでソフトに交換していたのである。序盤ではソフトタイヤのフィーリングもかんばしくなかったために2周ほどはかなり慎重に走り、結果としてトップ集団からの差は大きくなってしまう。しかもドゥカティのアンドレア・ドヴィツィオーゾに3位の座を奪われてしまっていた。

だがその慎重さと彼の軽い体重がレースが進むに従って効果を発揮し始める。「序盤はすごく慎重に走りました。攻めようにも攻められなかったんです」とペドロサは記者会見で語っている。「終盤になればそれがきいてくるとわかっていたんです。1速や2速でかなり加速しなければならないところが多くて、しかもうちのマシンはエンジンがアグレッシブですからうまく婚とロースしなきゃいけないんですよ」。彼のラップタイムも落ちてきてトップとの差は9秒にも広がった。彼自身も4位であきらめなければならないと思っていた。しかしギャップは縮まり始めていたのだ。

ペドロサのラップタイムは1分55秒台中盤で安定している一方で、前にいるライダーたちはかなり苦闘していたのである。ヤマハやドゥカティのフロントタイヤがタレ始めていたのに対してペドロサのタイヤは安定していたのだ。ラップタイムの落ちは前のライダーに比べればわずかだったた。アンドレア・ドヴィツィオーゾのラップタイムは崖を転がり落ちるように遅くなり、そこを逃さずペドロサは3位に挙がる。その時点でペドロサと2台のヤマハのラップタイムの差が顕著になってきた。12周目にはロッシ、ロレンソの2台より0.5秒も速かったのだ。さらにその2周後には1秒以上、次には2秒以上速いラップタイムを記録する。

ペドロサの最初の犠牲者はロッシである。彼にとっては悪夢にも等しい状況だ。ロレンソの後ろで2位に終わるだけでも貴重な5ポイントが削られる、すなわち現在の14ポイント差が9ポイント差になってしまうのに、ペドロサが彼とロレンソの間に入ればわずか5ポイント差まで詰められてしまうのだ。もてぎが終われば残り3レース。つまり実質的にタイトル争いは振り出しに戻ることになるのである。ロッシはペドロサになんとか着いていこうとするがそれも半周ももたなかった。ペドロサの後ろで走っても結局ロレンソとの差は0.3秒しかつまらなかったのだ。

ロッシは実際ポイントについてはかなり心配していたようだ。ロッシは言う。「ダニが追いついてきたときには相当心配になりましたね。だって彼が僕を抜いた後にロレンソも抜けるかどうかはわからなかったですからね。アラゴンみたいに9ポイントも詰められたらタイトル争いはそうとうきつくなりますよ」。しかしロッシの心配も長くは続かなかった。ペドロサがロッシ相手のときと同じように簡単に、しかし慎重にロレンソを抜き去ったのだ。これが18周目である。その時点でロッシが失うのは4ポイント。まだ10ポイントの差が残る。だがここまでにタイヤは完璧にだめになってしまい、モヴィスター・ヤマハの2台はどんどんラップタイムを落としていった。


そして4ポイント

ペドロサのペースは落ちなかった。まるでヤマハが止まっているように見えたほどだ。彼はこれでGP50勝目を獲得する。フィル・リードの52勝、ミック・ドゥーハンの54勝に次ぐ記録だ。この勝利で彼はほっとしただけではない。かなりの喜びももたらされた。勝利から1年以上も遠ざかっていたのだ。前回勝ったのは2014年のブルノ。しかもこのときは腕上がりに苦しんで不調のどん底だったので喜ぶには程遠かったでのである。「ブルノのレースに関しては喜ぶどころではなかったですね。バイクに乗るのが本当に辛かったんですよ」とペドロサは語っている。しかし今回は違った。「今日の勝利はただの勝利じゃないですね。レース自体を楽しめたんです。フィーリングも最高だったし、だからMotoGPは楽しいんですよ。前回のヴァレンティーノとのバトルとかもですね」。ライディングを楽しみバトルを楽しむペドロサは危険なペドロサだ。もちろん濡れた路面はドライコンディションほど腕に負担をかけないというのもあるだろうが、ペドロサは前回のアラゴン同様実に強かった。再びダニ・ペドロサが脅威になったのである。

ペドロサがライディングを楽しめているのは彼の乗り方、そして勝利の祝い方からも明らかだった。しかしその後ろのチームは楽しみとは程遠い状況にあった。二人のライダーはライディングの緊張感、そしてタイヤマネジメントの緊張感にさらされていたのだ。ホルヘ・ロレンソの方が苦労していた。彼のフロントタイヤは完全に終わっていたのだ。問題は彼が3コーナーでマシンを止められないことに気付いたのがまだ19周目だということだった。コーナーではらみコースを飛び出しそうになる。そこを差を詰めてきたロッシが抜いていく。1周目にロレンソがロッシを抜いたまさにその場所だ。これでロッシは2位に上がる。

ロレンソはバランスをとりながら縁石の内側に残るのがやっとだった。ロッシに2位を奪われたがもっと悪い状況にもなり得たということだ。ここでクラッシュするかグラベルに飛び出していたらポイント差は今回の4ポイントではなくもっと広がることになっていたろう。

この時点でレースの結果が決まった。ロッシは完全に終わってしまったタイヤとのバトルの末2位、ロレンソは息も絶え絶えに3位でゴールした。ピとに戻ってきたロレンソはかなりいらだっていた。レースを支配しタイトル争いの流れをチームメイトでもありライバルでもあるロッシから奪い返すチャンスだったのだ。マシンから降りたロレンソはまずフロントタイヤを確認した。エッジは完全に摩耗していたがそれだけではない。センターも摩耗が激しかったのである。これではブレーキングが相当辛かったはずだ。それに比べるとロッシのフロントタイヤもひどいことになってはいたしエッジは両サイドともロレンソのものと似たような状況だったがセンター部分に関してはまだ形を保っていた。対照的なのはダニ・ペドロサのタイヤで、非常にいい状態に見えた。こちらも摩耗は激しかったが2台のヤマハとは比べものにならないくらい原型を保っていたのだ。


マネジメント技術

ではどうしてペドロサのタイヤは2台のヤマハよりましな状態だったのだろうか。まう彼が序盤かなり慎重に走ったことが理由として挙げられる。その時点ではリアタイヤのフィーリングが悪かったのだ。レースがすすむにつれて彼の体重の軽さがタイヤ表面へのストレスを軽減していたのもあるだろう。タイヤへの荷重が他のライダーより少ないのだ。ドライではこれはかなりの不利となる。ペドロサはいつでもタイヤの空転やウィリーを防ぐためのグリップを見つけようと苦労している。乾きつつある路面ではペドロサの体重がいい方に作用したのだろう。

しかしペドロサはロッシと同様にタイヤを冷やすのにも気を遣っていた。機会を逃さずラインをはずして売れた路面を走り水でタイヤ表面を冷やしていたのだ。ロッシも同じようなことはしていたがヤマハのマシンはきれいな曲線でコーナーを曲がる必要があるためなかなかそれがうまくできなかったのである。対照的にロレンソは常にドライなラインを走っていた。そのためタイヤがオーバーヒートし表面が削れてグリップが失われていったのだ。ドライではロレンソの正確なライディングは強みの一つである。彼は毎ラップ正確に同じラインを正確にタイヤの最大パフォーマンスを引き出しながら走ることができる。今回のウェット路面ではそれが裏目に出た。

負ける可能性が高いと思っていたサーキットでライバルとのポイント差を広げることができてロッシは喜んでいるだろうが、それを表に出すことはできなかった。パルクフェルメでM1から降りた彼はすっかり疲れ切っていた。ましんを起こして走り続けたことで彼の体力はすべて奪われていたのだ。プレスカンファレンスになってもマシンとそしてコンディションとのバトルがロッシの気力を奪っていることがはっきりわかるほどだった。ロッシはこう語っている。「すごくきついレースでした。精神的にもストレスが大きかったですからね。特に終盤はきつかったです。マシンのコントロールにかなり苦労しましたから。コースが乾いてくるとタイヤのタレがひどくなって、周を重ねるごとにどんどん難しくなっていったんです」

しかしその努力は報われた。ロッシとロレンソの差は18ポイント。残り3レースということはロレンソの自力チャンピオンはなくなったということだ。フィリップアイランド、セパン、ヴァレンシアの3戦で勝てたとしても(難しいが不可能ではない)、誰かが彼とロッシの間に1回は入らないとチャンピオンになれないのだ。一方ロッシは常にロレンソの直後でゴールしていればチャンピオンになれる。

ロッシはこうした考え方はしないとプレスカンファレンスで言っている。「それは無理ですよ。ここから最終戦まで僕とホルヘがいつも1位と2位なんてかなり難しい。だってホンダの二人は凄く強いですからね。3戦とも全然違うコンディションですし、コース特性も全然違う。だからその手の計算は絶対しませんよ。99%あり得ないですから」。ロッシはロレンソの後ろにつくだけというのとは違う戦略を考えている。「まずはフィリップアイランドに集中してホルヘの前でゴールしたいですね。これが目標です。後ろについて計算しながらってことは考えてませんよ」。


最速ライダーが速いとは限らないという事実

この状況下でロレンソはいらだちを隠すことができなかった。運と状況が彼を苦しめていると考えているようだ。彼はプレスカンファレンスでこう語っている。「今年の他のレースと同じで状況に恵まれませんでしたね。カタールではヘルメットにトラブルがあったし、他のレースでもドライでも雨でも最速だったのにドライでの速さを出し切ることができなかったのが2〜3レースありますし。今日は奴隷でもウェットでも最速タイムが出せたのに、序盤のウェットから完全にドライになってしまって勝てるはずのレースで勝てなかった。もちろんまだチャンピオンになれると信じていますし、まあ大体において僕が最速ですから。マシンもいいし、速さも集中力もアルし。でも状況が味方をしてくれない。次のレースではいい方に転ぶかもしれませんけど」

ロレンソが負けるのは本当に運のせいだろうか?ヘルメットの内装がゆるんで視界をさえぎったのは準備不足のせいだ。もちろんロレンソのせいではないが。オースティンへの途上で肺炎にかかってしまったのも彼のせいではないが、それでまともに戦える状態ではなくなっている。天気もロレンソにはどうにもできないことだ。しかし少なくとも天気は誰にとっても同じである。ドライで最速でもレースがドライでなければ意味がないし、今年は雨が多いというのも考慮しなければならない。速さを求めるのも重要だが、変化する状況に対処するのもレースの要素のひとつであることは間違いない。失ったポイントを天気が味方してくれなかったせいにするならドライで勝ってもそれは天気が味方してくれたことになってしまう。

とは言え彼のいらだちも理解できる。ロレンソはほぼ全てのレースでプラクティスは最速、そして予選でもポールを何度も獲っている。今年の15戦のうちポールが4回、フロントローを12回も記録し、6勝をあげている。1コーナーに最初にとびこみあとは自分のペースで走り続けたおかげで勝てているのだ。もてぎのようなレースは彼を大いに傷つけることになるだろう。ドライ路面では最初のプラクティスから常にトップタイムで、ウェットのウォームアップでもいいペース走り、そして決勝でもウェット路面ではレースを支配してみせた。にもかかわらうラインが乾き始めるとタイヤがチューンガムになってしまいライバルが抜き去っていく。それをどうすることもできない。しかしおそらくロレンソの失敗は天気が変わらないと判断していつもの通りスタートからレースを支配しようとしたことだ。タイヤのことを忘れていたのである。天気は気まぐれな女主人であり、男にかしづくことなどしてくれるわけがないのだ。わがままな夫のようにロレンソは彼女を尊重しなかったのだ。当然の報いとも言えよう。

ヴァレンティーノ・ロッシはロレンソが運を口にしたことについて批判的な態度をとっている。「運のせいにするのは僕をずいぶんバカにしてると思いますよ」とロッシはイタリアのメディアに語っている。タイヤの保ちについて聞かれるとこうチームメイトを当てこすった。「僕の方が知性があったって言ってもいいですけど、まあ僕の方が運が良かったってことでしょうね」。モヴィスター・ヤマハの今年のピットはずいぶん暖かい雰囲気だったが、タイトル争いが終盤を迎えた今、そろそろぎすぎすしだしているようだ。

もちろんもてぎで走っていたのは3人だけではない。しかしタイトル争いが天王山を迎えた今、ホロへ・ロレンソとヴァレンティーノ・ロッシとの間に何が起こるかが最も注目すべきことである。表彰台争いの後ろで起こっていたことにも語るべき物語がたくさんある。しかしそれは明日でいいだろう。タイトル争いだけで一本の記事を書く価値は充分あるのだ。

2015年のタイトル争いにもてぎはどんな意味を持つのだろうか?ヴァレンティーノ・ロッシは争いをきっちりコントロールしている。しかし最後のアリアを歌う太った歌手はまだ着替え中だ。オペラはまだ終わらない。残り3戦、どちらにも何かは起こりえるし、1回でもミスをすればタイトル争いの流れは変わってしまうだろう。シーズンが終わるまでにホルヘ・ロレンソは1勝かはするだろうし、ことによったらもっと勝つかもしれない。しかしその重要性はどんどん小さくなっているように思える。マット・オクスレイがロッシがタイトルを獲るには「もうひとつ何か」が必要だと書いていた。もてぎが終わった今、ロッシには外からの助けは必要なくなった。10回目のタイトルは手が届くところまで来ている。しかしこの老獪な雄鳥はまだ生まれてもいない雛を数える気はないようだ。
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運を言い訳に使うのはそろそろヤバい感じってのは私も思ってたんだよなー。

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公式リリース>日本2015

ヤマハホンダドゥカティ(英語)スズキアプリリア(英語)

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2015もてぎプレビュー:佳境に入ったタイトル争いに向けての長距離移動

さてタイムラインも盛り上がる今日この頃、皆様方にはいかがお過ごしでしょうか?私は今年こそはと金曜朝入りを目論んでおりましたが諸般の事情により例年通り土曜朝からの観戦となりました。

というわけで日本GP前の最後の更新になるかと思いますが、ここはひとつMotoMatters.comより日本GPのプレビューをば。
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ついにシーズンで最も重要な時期がやってきた。もちろんどのレースも同じように大事だと主張するのも自由だが、それでも環太平洋フライアウェイラウンドはタイトル争いにいつも重要な役割を果たしているのも事実である。もてぎ、フィリップアイランド、セパンの3連戦前にタイトルを決めていなければこの3戦が鍵を握ることになるのだ。程度の差はあれ厳しい3週間が待っている。タイトル争いのプレッシャーで当然ミスも起きやすくなるからだ。

ライダーたちがまず直面するのは次のレースまでのきつい移動である。ヨーロッパから東京までは少なくとも18時間。さらにもてぎに着くまでに2時間。サーキットホテルに宿泊できるほどのサラリーをもらっていなければレースに間に合うように毎日サーキットまで50分かけて通わなければならない。そして日曜の夜か月曜朝には東京に戻って10時間(直行便が取れていなければそれ以上)かけてメルボルンに向かいフィリップアイランドまでのドライブが待っている。その1週間後にはマレーシアのクアラルンプールに8時間かけて向かうのである。セパンが終われば再び17時間以上のフライトでヨーロッパの自宅にもどり、1週間の休みを挟んでやっとヴァレンシアの最終戦に臨むことになる。雨が降ったり湿気が多かったりするもてぎから初春の凍えるフィリップアイランドへ、そして汗ばむ熱帯の陽気が待つセパンへの移動なのだ。

バイクレーサーの活動量はいつでもハンパ無い。1日でもっとも良い時間に彼らを静かに座らせておくなどできない相談だ。日本のメーカー(日本に拠点を置くブリヂストンもそのひとつだ)はアジアに向けて自分たちが最高のライダーを抱えていることを発信したくて仕方がない。そこでライダーを工場や本社や、あわよくばインドネシアやタイといった重要な市場にも連れて行こうと強行ツアーが組まれることになる。カル・クラッチローやニッキー・ヘイデンといったライダーは毎日トレーニングに3時間の自転車を組み入れているが、それもできなくなってしまうのだ。ヴァレンティーノ・ロッシやマルク・マルケスのようなバイクでのトレーニングが好きなライダーにとっても状況は同じだ。少しはジムにも入れるかもしれないが、ひどい時差ボケに悩まされている上、言葉はほとんど理解できず、さらには慣れない食べ物も口にしなければならないとのだから、集中力を維持していくのは極めて難しいのである。そしてそんな時こそ細かいことに気を回せる注意力が必要とされるのだ。ちょっとしたミスが命取りとなってしまう。だからこそこうしたフライアウェイラウンドでタイトル争いが混乱する可能性も高いのである。

厳密には3クラスともタイトル争いは終わっていないが、それぞれのクラスでかなり様相は異なっている。Moto2はほぼ決まりだろう。もてぎでヨハン・ザルコがティト・ラバトに3ポイント差以内でゴールすればタイトルはザルコのものとなる。残り3戦を残して75ポイント差となるのだ。数字上はラバトに追いつく余地が残されてはいるが2位の回数でザルコが勝るのである。

Moto3はもう少し微妙である。ダニー・ケントがもてぎでタイトルを決めるのはエネア・バスティアニーニの成績次第なのだ。ケントがバスティアニーニに対して75ポイントのリードをするにはもてぎで20ポイント以上の差をつけてゴールしなければならないのである。つまりケントは最低でも1位か2位、そして2位ならバスティアニーニがリタイアしなければタイトル争いは持ち越しである。たぶんフィリップアイランドでは決まらないだろうが、55ポイントあればほぼタイトルを手中に収めてヨーロッパに戻ることになるだろう。

最もわからないのはMotoGPクラスである。モヴィスター・ヤマハのヴァレンティーノ・ロッシのリードは14ポイント。相手はチームメイトのホルヘ・ロレンソだ。残り4戦で100ポイントがかかっている。マルク・マルケスはタイトル争いを混乱させたいと言っているし、アラゴンではダニ・ペドロサもその仲間に喜んで参加するつもりであることを示している。そしてロッシとロレンソが過去にもてぎで繰り広げた戦いもこの熾烈なタイトル争いをおもしろくする要素である。

2010年のことだ。ロッシは素晴らしいバトルの末にロレンソをうっちゃってみせた。接触しながらの3位争いは二人の仲の悪さの象徴だった。そのときロッシはヤマハを去ることが決まっていた。結局ドゥカティで失意の2年間を過ごすこととなったのだが、その時点でロッシに失うものは何もなかった。自分からエースの座を奪ったロレンソのタイトル争いを助ける気など毛頭ない。その年のロッシは怪我の影響で苦しんでいた。カタール戦後のトレーニングで方を傷め、それがシーズン全体に影響していた上に、ムジェロでは大クラッシュの結果、脚を骨折しキャリア初の欠場まで経験していたのだ。脚の回復は早かったが方については2010年が終わるまで癒えることはなかった。

しかしもてぎでは肩の怪我の影響もみられなかった。ロッシは限界までロレンソを追い立て、ヤマハの幹部からかなり厳しいお説教をくらうほどだった。次のシーズンのロッシはロレンソを悩ませるほどの位置で走ることはできなかったが、去年は再び速さをみせた。2014年終盤にかけて輝きを取り戻しつつあったロッシは序盤でロレンソを苦しめることができたのだ。結果的にはロレンソが優勝しマルケスにも前を行かれてしまったが、彼は表彰台に立っている。

今年はヤマハM1も速くなっており、ロッシ自身もキャリア最高の状態だろう。つまりロレンソを相当苦しめることができるということだ。二人の間の仲違いは陰を潜めたが、しかし状況は2010年の比ではない。タイトル争いをする二人なのだ。そしてもてぎはヴァレンシアと同様にロレンソの得意とするコースである。ロッシのもてぎでの目標は失点を最小限に抑えることで、もしロレンソの前でゴールできたら完璧なレースと言えるだろう。

それは決して簡単なことではない。ロレンソはもてぎで連勝中であり、その前2年間はペドロサに次いで2回連続2位となっている。2009年にも優勝しているのでもてぎでロッシと戦った7回のうちロレンソが後塵を拝したのは2回だけということになる。強さを見せたアラゴンでの勝利を見ればロレンソが再び自分を取り戻したことがはっきりとわかる。だれもついていけないラップを刻めるようになったのだ。

しかしこれは先週までの予想だ。ロレンソはミニバイクでのトレーニング中に大クラッシュし肩を捻挫しているのである。怪我自体は大したことはないと診断されており、実際日本でのイベントでも腕をつっていることはなかった。今、彼の心の中にあるのは2010年のレースだろう。ロッシは肩の怪我を抱えながら自分を打ち破った。ロレンソが考えているのはこの日曜にそのお返しをすることに違いない。

怪我をしたのはロレンソだけではない。マルク・マルケスもトレーニング中に怪我をしている。マウンテンバイクで転倒して左手の第5中手骨を骨折しているのだ。さらにアンドレア・イアンノーネは左肩の怪我が完治いていないほか、怪我人リストには多くのライダーが載っている。もちろんその中にはロッシもいる。彼はアラゴンでのミシュランタイヤのテスト中に転倒し腕にひどい擦り傷を負ったのだ。シーズンを通してもっともブレーキングがタメされるサーキットのひとつであるもてぎは340mmディスクの使用が義務づけられている唯一のコースである。怪我を抱えたライダーにはレースが進むにつれ厳しいものになるだろう。しかしそれでも2010年のロッシは速さを維持できた。今年も多くのライダーが怪我に耐えきるに違いない。

すべてのライダーに影響するのは雨だろう。9月10月はもてぎで最も雨の多い時期である。熱帯低気圧や台風がやってくるのだ。台風が近くを通り過ぎるためにすでに強風が吹き始めている。その台風は雨ももたらす可能性がある。雨がいつどれくらい降るかが鍵になるだろう。ウェットではロレンソよりロッシに分があるようだが、実際には走ってみなければわからないだろう。

ロレンソのマネジャーであるウィルコ・ツィーレンベルクにアラゴンで尋ねたところ、ロレンソはグリップが予測できる状態なら速いということだった。ドライで誰よりも速いのはあらゆる場所のグリップを正確に把握し、それを最大限に活かしているからなのだそうだ。しかしウェットでグリップが予測できなくなるとその強みは消え去ってしまうと言う。特にハーフウェット状態やコースの一部だけ雨が降っていて他はドライな状態が苦手だということである。インディアナポリスのようなコーナーごとに極端にグリップが違うコースでも彼は苦労していることは良く知られている。

こういう状況でのロッシは逆に強い。ロッシはその場その場でグリップを判断できるのだ。変化するコンディションでロレンソがおそるおそる走っている横をロッシは限界まで攻めながら走り去っていく。状況に合わせて走りを変えられるロッシの強みが発揮されるのだ。雨が強くなるししかし再びロレンソが速くなる。ツィーレンベルグによれば完全にウェットなコースはむしろ完全にドライなコースに似ているのだという。コースのどこでもグリップが予測できるのだ。そしてプラクティスでもウェットを体験していればロレンソは最速タイムを出せるのだ。

現時点での日曜の天気予報は強雨。朝から午後まで降り続くとのことである。しかし別の天気予報では午前中は雨が降るものの午後はドライ。逆に午前ドライで午後は雨という予報もあれば、土曜まで雨という予報もある。モヴィスター・ヤマハの二人は週末中空を見続けることになるだろう。

誰もがロッシ対ロレンソの争いに注目する中では別の要素は忘れられがちだ。実は最大の脅威はダニ・ペドロサという可能性もあるのだ。彼はマシンが完璧ならすばらしい成績を残す実力を持っている。2011年と2012年の2回優勝し213年には表彰台に上がっているのだ。去年は腕上がりに苦しんでいたがそれもやっと治ったようである。アラゴンですばらしいレースをみせてくれたことを考えれば完全復活といっていいだろう。やる気も高まっている。もう勝利から1年以上遠ざかっており、ペドロサとしても優勝は喉から手が出るほどほしいはずだ。ホンダのホームコースにもかかわらずこの2年はヤマハが勝っているもてぎで優勝するのはペドロサにとっても素晴らしいことに違いない。

彼のチームメイトであるマルケスはつい先日手にプレートを入れたばかりだ。しかも2位は2回あるとはいえ、もてぎはMotoGPでマルケスが勝っていない数少ないコースである。今年のマルケスはかなり苦しんでいる。実はこれは去年から続いていることであり、ここ最近の20レースで8回、つまり40%もリタイヤしているのである。問題は常に同じ。ブレーキングではリアにかかるエンジンブレーキが少ないためにフロントに頼らざるを得ないのだ。そうなるとフロントタイヤはすぐに根を上げてしまうことになる。ハードブレーキングを要求するコースではマルケスのチャンスはわずかだろう。ことによったら手の怪我がかえって良い結果をもたらすかもしれない。いつものようなブレーキングでの信じられないほどのフロント荷重が封じられるからだ。

さてドゥカティはどうだろう?過去もてぎでのデスモセディチの強さは圧倒的だった。皮肉なことにGP15の大幅な進化のために捨てたものが彼らを苦しめることになるかもしれない。今年のドゥカティはコーナーで速いが、そのためにジジ・ダリーニャと彼のスタッフはGP14.2の得意分野であったブレーキングでの安定性をあきらめたのだ。バックストレートからのブレーキングやコースのそこかしこにあるヘアピン、そしてタイトコーナーではこれが不利に働くだろう。1、3、5,9,10そして11コーナーでは去年より苦労するはずだ。

二人のアンドレアのうちドヴィツィオーゾの方がブレーキングの安定性の欠如に苦労しているようだ。イアンノーネにとってはそれほどではないらしい。肩の怪我のせいでアプローチが慎重になっているせいかもしれない。怪我が彼を速くしたと言ってもいいかもしれない。もてぎではイアンノーネに注目しよう。アラゴンでも4位に入って見せた彼は日本に向けて好調を維持しているのだ。

理論上はスズキにとってもてぎは悪夢のような場所になるだろう。GSX-RRの良さは機動性を行かしたタイトなコーナリングである。加速ではたいてい苦労しているし、もてぎのようなストップ・アンド・ゴーのコースではアレイシ・エスパルガロもマーヴェリック・ヴィニャーレスも苦労することになるだろう。もてぎでは新型エンジンが導入されるという噂が前々から流れている。しかもこれまでにない大改良を施しているという。アラゴンではアレイシ・エスパルガロとスタッフがリアグリップの向上に成功しているので思ったほど悪い結果にはならないかもしれない。ヴィニャーレスもグリップに苦労しているがエスパルガロサイドから情報が得られれば少しはおもしろいことになるだろう。

いずれにせよ今週末はみるべきところがたくさんある。下位クラスではタイトルが決まる可能性があるのだ。しかしもっとも注目すべきはMotoGPだろう。チャンピオン争いの渦中にある二人はどうプレッシャーに対処するのか。ここで勝てればフライアウェイの残りの2戦の流れをぐっと引き寄せることもできる。もてぎではいくつもの夢が打ち砕かれ、そして新たな夢が生まれることになるだろう。すべてを賭けた戦いが始まるのだ。
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天気なー。

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公式プレビュー>日本2015

ヤマハホンダドゥカティ(英語)スズキ(英語)アプリリア(英語)

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ストーブリーグ表2016(2015.10.5時点)

ラバトがMARC VDSで確定。ヘルナンデスはアスパル確定。ラヴァティはアスパルほぼ確定。で、アスパルのマシンはドゥカティで。

Stove_2016_151005

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ロッシにはもうひとつ何かが必要

お久しぶりです。ここんとこ背部痛だのやる気不足だの夏休みだのでさぼっていましたが日本GPを前に気持ちが盛り上がってきました。というわけでMotor Sport MagazineよりMat Oxley氏のコラムを訳出。9月30日の記事ですがライバルのロレンソは先日のトレーニング中に左肩を捻挫。それを見越したような内容。いつもの通り読み応えありです。
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さて、ここで映画「ジョーズ」のテーマをかけることとしよう。ホルヘ・ロレンソがヴァレンティーノ・ロッシに迫ってきたのだ。ロッシのリードをアラゴンで9ポイント差まで削ったロレンソは、このペースで行けばフィリップアイランドでランキングトップに立つことになる。そして残りはセパンとヴァレンシアの2戦だ。

ロッシはしかしこの時がくるのを覚悟していた。これが初めてのことではないのだ。2009年、ロッシはロレンソとケイシー・ストーナーを鮫になぞらえていた。いつでも襲いかかろうと彼の周りを泳ぎ回っていると。

「僕をじっくり見ながら、ちょっとでも血のにおいを嗅ぎつけると『いまだな』ってね。僕が弱みを見せたら一発で噛みちぎられるでしょうね」

それから6シーズンと少したって再び彼は同じ立場にいる。ではロレンソの巻き返しをはねのけるには何が必要になるだろうか?

ロッシはこれまで何度も復活を遂げ、そのたびに見事に環境に適応してみせた。つまりまだ終わったわけではないということだ。残りコンマ数秒を縮めるための彼の努力が終わることはない。

アラゴンでの週末、ロッシはこう語っている。「チャンピオン争いは重要な局面にきてますね。」いつでも自分のライディングスタイルを改善しようとしてるんです。マシンのどこに乗るかとかブレーキングのやり方とか、とにかく何もかもね。ここ最近MotoGPではこうしたことがすごく変わってきてるんですよ。ホルヘもマルク(マルケス)もレベルをどんどん上げてきているからそれに遅れをとらないようにしないとね。でないと取り戻すのに相当苦労することになりますから」

日曜のレースではマルケスが早々にリタイヤしたためロッシはロレンソだけに集中することができるのだが、この2レースの展開は彼の思うとおりにはなっていない。「ここんとこホルヘはまた一段階上に行きましたよね。技術的にはあんまり変わってないけどモチベーションも集中力もすごくなってる。ほぼ100%の集中力を出せてるんじゃないでしょうか。だからいつも強いし速いんです。
 セッティング能力も上がってますね。だからプラクティスや予選でもトップ争いができる。だから僕に必要なのはスピードを上げることと、それとプラクティスでのセッティングを良くしていくことでしょうね。そうすれば最前列からスタートできますから。そしたらあとはレースだけですしね。けっこうたいへんですね。もちろん心配してますよ」

この2戦、ロレンソの何が変わったというのだろうか?ロレンソは言う。「前はわからなかった速く走るためのあることがわかったんですよ。今はちゃんとわかるようになったんです」

それはなんだろうか?私はあえてたずねてみた。

「いい質問ですね!でも答えませんよ」

ではなぜ彼はそれがみつけられたのか?ロレンソはかなりの時間を父チコとのトレーニングに費やしてきた。そして父子は静止したマシンの上でのライディングポジションをわずかに変更したのだ。もっと重要なのは精神的な部分を少しだけ変更したことだ。これこそトップシークレットだろう。

ロッシはロレンソが速くなったと言っている。そう言わざるを得ない状況だったのだ。ロッシはこの2戦ほど天の恵み、例えばシルバーストンやミサノのような雨や、レプソルホンダの2台、予想もしなかった混乱といったことを期待せざるを得ないところまで追い込まれているのだ。誰もいないコースでのロレンソの速さはそれほど圧倒的なのだ。10回目の世界チャンピオンを獲るには「何か」を待つしかないのである。

とんでもない何か偶然が起こらない限りこのバトルは続くだろう。そしてその結果はおそらくロレンソがトップでシーズンを終えることになると私は考えている。崖に立ってつま先立ちで回るバレエダンサーのようにだ。ロッシはあとコンマ数秒をなんとかしようとしながらその後ろからのろのろやってくることになるのだ。

次の戦いはもてきが。2010年には二人がチームメイトとして過ごした7年間で最高のバトルを繰り広げた。初のMotoGPタイトルがかかったせで失うものが多かったロレンソに、ムジェロでの骨折でチャンピオン争いから脱落し失うものが何もない状態のロッシが挑んだのだ。ホンダのホームコースで行われたきわどい接触を繰り返しながらの戦いの勝者はロッシだった。彼はロレンソのコーナリングスピードをブロックラインで抑えきったのである。

ロレンソはそのロッシのライディングにかなり怒っていた。5回もチャンピオンをもたらしてくれたロッシだがさすがのヤマハも彼に苦言を呈したほどである。後にロッシは言っている。「もっと慎重に走るようにヤマハに言われたんだよね。だからいつもより慎重に走ったよ。ロレンソを負かすためにね!」

おそらくロッシと彼のチームは何か驚くようなことをやってみせるだろう。彼らは再びロレンソと肘を当てあうような戦いをするつもりなのだ。ロッシのチーフメカであるシルヴァーノ・ガルブゼラがロッシ好みの素晴らしいセッティングを発見するかもしれないし、データ担当のマッテオ・フラミニが才能を発揮して新たなアルゴリズムを見つけるかもしれない。ことによったらロッシ担当のオーリンスのメカであるマイク・ノートンがどこかを何ノッチかいじってみせるかもしれない。

しかし日本GPが天候に恵まれてなんの事故もなければロッシのチャンスは小さいだろう。まずもてぎがストップ&ゴーのレイアウトで燃費にもっともきついサーキットであることを思い出そう。ロッシはロレンソより背が高く体重も重い。さらにスロットル操作もアグレッシブだ。つまり燃費に厳しいのである。そうなるとヤマハは燃調を薄目にするだろうし結果として馬力もコーナー中盤でのスロットルレスポンスも犠牲にすることになるだろう。

もし来年だったらロッシはこうした問題に頭を悩ませることもなかったはずだ。燃料は現在のあり得ないほど少ない20Lから24Lまで増量されすのである。4Lも増量されればタイトルはロッシのものになるはずだ。

かつてあったようにマルケスやダニ・ペドロサがロレンソの超スムーズなコーナリングラインを邪魔してロッシの味方になるというのも考えにくい。ヤマハはホンダのアドバンテージを打ち消してしまっているからだ。M1のスタートはすばらしい。既にRCVのローンチコントロールより良い制御をしているのだ。おかげでロレンソはこれまでの6勝すべてでホールショットを奪っているのである。さらにM1のブレーキングもRCVを上回っている。ブレーキングでのリアのグリップが優秀なのだ。そのためマルケスがヤマハについていくためはフロントに加重せざるを得なくなっているのである。

しかしロッシがどうやってか、なぜかチームメイトであるロレンソについていけたとしたら、ポイント差を広げるチャンスとなるだろう。バトルになればロッシのライディングテクニックと固いサスがでロレンソのスムーズなライディングとソフトなサスセッティングを打ち負かすことができる可能性もあるのだ。

しかしロッシに本当に必要なのはちょっとした奇跡である。もてぎに小さな台風がくるとか、直球勝負でなくなるとか、とにかく何かロッシに有利になるようなことだ。これまでのもてぎの結果を見るとロレンソが有利に見える。彼らが同じマシンで戦った5回のうち(つまりロッシのドゥカティ時代を除くと)ロレンソが前でゴールしたのは3回、ロッシは2回である。

しかし2014年の最後の3戦だけみると話が違ってくる。もてぎではロレンソはロッシの前でゴールしたがフィリップアイランド、セパン、そしてヴァレンシアではロッシがロレンソを上回っているのである。
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ああ!台風まで予言しなくても…。

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