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2015セパン MotoGP木曜まとめ:ロッシ対マルケス-巨人たちの戦い

うははは、おもしろくなってきましたね。マレーシアGPのプレスカンファレンス、ロッシが(冗談めかしながら目は笑っていないで)「マルケスはロレンソを手助けしたいんだろうね。オーストラリアGPでは僕を弄んだよ」と言えば、ロレンソが「最終ラップではずいぶん助けてくれましたね」と返し、さらにマルケスは記者会見後のぶら下がり取材で「ロッシに呼び出されて『なんであんなことするんだよ』って言われたんだ」と暴露し、久しぶりにコース外乱闘が華やかになっています(「気になるバイクニュース」さんが記者会見を全訳してくれてます)。ジャーナリストの皆さんも楽しくってしかたないらしく食いつきまくっていろんな記事が出ていますが、とりあえず安心と信頼のMotoMatters.comよりDavid Emmett氏の記事を翻訳。
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毎戦木曜に行われるプレスカンファレンスは面白さに毎回大きな差があるものだ。たいていはありきたりなおべんちゃらが行き交うものだ。ライダーもジャーナリストもせいいっぱい興味のあるような顔をしながらスマホいじりも我慢している。今回の記者会見については4日前の素晴らしいフィリップアイランドのレースに比べたらかなりつまらないものになるだろうと誰もが思っていた。せいぜいインドネシアの火災によるマレーシアの大気の状況が気になるくらいだったのだ。

しかしそれは大間違いだった。ヴァレンティーノ・ロッシとホルヘ・ロレンソのどちらがチャンピオンの可能性が高いかとか、ダニー・ケントは今回でMoto3チャンピオンを決めるのかについて盛り上がったのだ。しかしロッシがマルク・マルケスに対してロレンソのチャンピオン獲得を手助けしたいんだろうと非難すると興味はそこに集中することになった。そして記者会見が終わってもなおロッシは非難を続けたのだ。

話がここに及んだのは前回のレースの後にイアンノーネのフェイスブックとインスタグラムに非難の書き込みが大量に行われたことについてどう思うかとイアンノーネとロッシに対して質問が飛んだのに端を発する。イアンノーネがロッシの前でゴールしタイトル争いに重要なポイントを奪い取ったからだ。気にしていない、90%は応援コメントだったし、それ以外はただの外野の意見だというのがイアンノーネの答えだった。

ロッシはもっと強硬な発言をした。自分のファンだと自称する人たちに対してかなり厳しい口調で非難したのだ。「そういう人たちは僕の本当のファンとはとても言えないですね。すごくがっかりですよ。本当にバカな連中だ。SNSとかでみんなが自分の考えを広めることができるけど、中にはすごく頭の悪い意見もあるのが残念ですよね。他の人が自分よりちょっと運が良かったとか才能があるとか幸せだというだけで悪口を言う。うらやましいんですよ」。そしてロッシはイアンノーネについては自分を負かしたからといって恨んではいないと言った。「彼は自分のレースをしただけで、僕を負かそうとするのも当然ですよ」


ファンを怒らせない方がいい

これは常にバイクレース、そしてあらゆるメディアで問題になっていることだ。ファンは情熱のあまり、そしてネットの匿名性をいいことに他のファンとの激論に身を投じ、さらにはフォローしているスターとのやりとりをしようとする。彼らは回線の向こうにいるのが生身の血の通った人間だと言うことを忘れてしまう。本当は感情と情熱を持ち合わせた傷つきやすい人間だというのにだ。

これは相手がトップアスリートでも変わらない。あるMotoGPライダーが私に語ったことがある。いつでも非難のコメントが大量に飛んできて死にそうになるのでもうSNSに投稿するのはやめたそうだ。SNSはファンにアイドルとの交流の機会を提供してくれる。しかしそれを悪用してライダーやアスリート(作家やポップスターやその他なんでも有名人なら同じだ)を残念な気持ちにすることもできるのだ。そうなったら誰にもひとつもいいことはない。スターはファンとの交流に及び腰になり、SNSは自分の意見の増幅装置になってしまう。結局ファンは再びジャーナリストが介して発信する二次的情報に頼らざるを得なくなってしまうのだ。

ファンがこうした熱狂的で非合理的な反応をするのは今に始まったことではない。古代ローマでは二輪戦車の戦士はそれぞれ違った色をまとっていた。コロシアムに集まった観客に区別がつくようにするためだ。ファンは赤やら白やら緑やら青やらにそまっていた。それぞれの戦士のファンがお互いを認識るようになるとファン同士のいさかいもよく起こっていた。そしてファンのグループがその世界で大きくなっていくとどんどんいさかいはひどくなっていったのだ。ローマ帝国の末期、ビザンチンではファンのいがみあいは最高潮に達し、ついには皇帝ユスティニアヌスを追放しかねないところまでいったのだ。軍が後ろ盾になった青派と緑派による暴動は3万人の死者を出すことになる。まあ、それに比べれば今のファンはましではある。


手榴弾を手渡して

記者会見が最も熱くなったのはロッシがフィリップアイランドのレースについてたずねられた時だ。またあんなスリリングなレースが観られるでしょうか、という質問が出た。そこからバトルが始まったのだ。まずはロッシが普段では言わないような非難を口にしたのだ。「そういうレースが観られるかどうかはマルケスに聴いた方がいいんじゃないですかね。レース中はわからなかったんですけど、あとからビデオを観ると間違いなく彼は僕らを弄んでましたね。彼はレースに勝つだけじゃなくてロレンソが前に逃げられるようにしてポイントを稼がせてあげようとしてたんですよ。だからフィリップアイランドではホルヘがマルクという新しい仲間を手に入れたってことですね。これはかなり状況を変えるでしょう。マルクは逃げる力が間違いなくあるのに、そうじゃないレースをするかもしれないんですから」

ロレンソもマルケスも驚きと混乱の入り交じった表情でロッシに顔を向けた。マルケスがロレンソを手助けしようとわざとそういう走りをしたと本当に言いたいのか?彼らも最初はそれを真に受けたようには見えなかった。マルケスが自分を助けてくれたのかと聞かれたロレンソはロッシが冗談を言っているのだと思って自分も冗談で答えていた。「ええもちろん!特に最終ラップではね」。最終ラップでマルケスはロレンソを抜いて優勝したのだ。

マルケスは最初はフィリップアイランドのレースの素晴らしさに関する質問に答えていたが、カンファレンスルームにいた中でもっとも勇気あるジャーナリストが彼をその話題に引き戻した。マルケスは自分がイアンノーネとロッシを弄んでロレンソにチャンピオンをとらそうとしたかどうかということについては明解な答えを返している。「そんなわけないですよ」・彼は自分のレースをしただけでタイヤのコンディションに応じて走っていたというのだ。ロッシの非難に一貫性のないことも指摘している。「もしロレンソの味方をするなら最終ラップで抜いたりしないですよ。それに限界で走ったりしない。そんなリスクを冒すはずないでしょ」

マルケスはレース後に言っていたことを正確に繰り返した。レース中盤、前をいくライダーにアタックをかけたとき、彼はフロントタイヤのオーバーヒートに苦労していたということだ。「レースの中盤で攻めながらギャップを広げようとしたんですができなかったんです」。彼は日曜の会見でこう続けた。「レース中に温度が上がってフロントの接地感がなくなったんです。でもそのうち状況が良くなってきてホルヘに追いついて抜こうとしたんです。攻めてはいたんですけどフロントがものすごく安定しなくて、しかたない、とりあえず温度を下げようと思って、最後まで様子を見ながら走ることにしたんですよ。でもフロントが終わりかけてて結構危ない場面もありました。それで最後の3周に集中することにしたんです」


追い打ち

ロッシが本気だったかどうか疑う人のために彼がイタリアのメディアのぶら下がり取材で言ったことを記しておこう。彼はメディアに対してフィリップアイランドのタイムシートの束を店ながら説明までしたのだ。彼の話した内容はMotoGPの公式サイトにアップされている。要約するとこういうことだ。マルケスは明らかに誰よりも速いペースで走っていた。しかしロッシとイアンノーネを邪魔するためにペースを落とした。それでロレンソは逃げてしまった。マルケスはストレートで自分を抜いていたがそれは僕がイアンノーネのドゥカティにも苦労しているのをしっていたからだ。マルケスは僕を邪魔するためにわざとやったんだ。

なぜマルケスはそんなことをしたのか?ロッシにはロッシの言い分がある。マルケスはロッシに対して怒っているというのだ。ロッシによればアルゼンチンとアッセンの復讐なのだそうだ。マルケスはアルゼンチンでロッシがわざと自分を押し出してクラッシュさせたと考えているとロッシは言う。そしてマルケスはアッセンで自分に勝利を盗まれたと考えているとも言っているのだ。接触してきたのはマルケスで、それで自分がコースをはずれたというのがロッシの言い分である。

さらにロッシが強調していたのはマルケスの自分勝手なモチベーションだ。今年タイトルを獲れなかったのでロッシにもタイトルを獲らせたくないと思っているというのがその主張だ。マルケスはロッシのタイトル記録を狙っていて、もしロッシが2015年にチャンピオンになれなければマルケスが将来記録を破るのが楽になるということである。その証拠として彼が揚げたのが2013年のラグナセカだ。マルケスがコークスクリューでインをカットして自分を抜いたのは自分が2008年にケイシー・ストーナーに対してやったことの真似だとロッシは言っている。


検察側の主張

ロッシがそんなことを主張するのには何か意味があるのだろうか?いつどこでロッシがマルケスがそういうことをしたのかについて正確にわからないと判断は難しい。ロッシと一緒にラップタイムやセクタータイム、そしてレースの分析をしながらロッシが何を考えていたのか教えてもらうチャンスはジャーナリストにはない。

私たちができるのはロッシの非難とマルケスの返答を分析することだけだ。マルケスのラップタイムは確かに奇妙なものである。ものすごく上下しているのだ。そのラップで最速のライダーから遅れたとき(6周目の1分30秒943がそれだが、このときはロッシとイアンノーネとドッグファイトを繰り広げていた)もあるのに1分29秒台前半で最終ラップにはファステストを出しているのだ。13周目〜マルケスはロレンソを追い始め、最終的に18周目で彼を抜いている。2周以上前を走った後に再びロレンソにトップを奪われる。マルケスのリズムはいつもとちがっていたのだ。彼はトップに立つと普通ならもっと安定したタイムが出せるのである。

マルケスによればタイムのばらつきはフロントタイヤのオーバーヒートが原因だとのことだ。「スタッフとデータを確認したんですけど、そもそもホンダはフロントに荷重がかかるマシンなんです。今回のレースで使ったのは一番ソフトなコンパウンドなんですけど、それしかレースで使えなかったんですよ」とマルケスは説明する。レース中盤でロレンソに追いつくために攻め続けたが、一旦追いつくとタイヤの挙動が大きくなったために彼はスロットルを緩めざるを得なかったのだ。


本当にタイヤの問題なのか?

タイヤの生だという弁明は信用してもいいのだろうか?確かにホンダRC213Vはフロントタイヤへの荷重が他のマシンよりかなり大きいのは確かである。エンジンブレーキが弱いのだ。そもそもエンジンがアグレッシブでエンブレを調整できないのである。そのためマシンを減速するにはフロントタイヤに頼らざるを得ないのだ。その結果フロントはどんどん摩耗していくことにある。とは言えシーズン後半にナルトこの状況は比べものにならないほど改善されている。前半ではホンダのライダーは左に右に、そして直立状態でさえも転倒していたのだ。熱を持ちすぎたフロントタイヤが根を上げていたのである。

フィリップアイランドではタイヤと温度がうまくホンダにマッチしなかった。ブリヂストンが用意した左右非対称のフロントタイヤは複雑な問題の解決策としては素晴らしいものだ。温度変化が激しく、高速左コーナーが極端に多いコースでグリップを確保するために導入されたものだ。こうした状況から、そして昨年の痛い経験からブリヂストンはタイヤの真ん中と右側にはエクストラソフト、左側にはそれより一段固いソフトコンパウンドを配した灰屋を供給している。これで左高速コーナーでの荷重に耐えつつフィリップアイランドの素晴らしいストレートでも右コーナーでタイヤ表面の温度を下げないで済むようになった。

真ん中のエクストラソフト部分がしかしマルケスにとっては問題となってしまったのである。極端なホンダコーナーやMGコーナー、そしてストレートの後に控えている恐るべき右コーナーのドゥーハンコーナー進入でのレイトブレーキングのせいで、そうしたエクストラソフト部分を使いすぎることになってしまったのだ。もし気温が1℃か2℃低ければ、もし風がもう少し強ければタイヤはこれほどまっでに熱を持つことなく、充分コントロールできる範囲に留まったろう。もし気温がもう少し暖かければホンダは左右対称のソフトタイヤの使用も考えたろう。そうすればブレーキングでここまで辛い思いをすることはなかったはずだ。

ではオーバーヒートしたタイヤが元の性能を取り戻すことがあるのだろうか?温度が上がりすぎなければ実はそれはあり得る話だ。ブラッドリースミスが8月のブルノで同じことをやっている。サフと側のタイヤで攻めすぎた彼は2周ほどタイムを落として、再び攻め始めている。タイヤが元通りになったからだ。


動機はあるか?

ここまでの陳述はレースで起こった話に基づくものだ。では動機についてはどうだろう?今年のマルケスがロッシに牙を剥いているということに関してはロッシの指摘の通りだ。かつての師弟関係は敵対関係に変わろうとしている。ロッシが関係解消に向けて動き始めたのはアルゼンチンからである。傍目にはわかりにくいものだったが。そしてアッセンではそれがはっきりしてきた。プラクティスでロッシを引き離しにかかったマルケスだが、決勝で二人がGTシケインに入っていったときのことだ。程勝利を手中に収めたとマルケスは思ったのにそうはならなかったのである。自分がうまくやれなかったことに納得もいかず、シケインをカットしたロッシには罰が与えられるべきだと彼は思ったのだ。

マルケスの野心についてもロッシの指摘は当たっている。マルケスは記録について問われると常にそれは眼中にないとは言っているし、大事なのは勝ってタイトルを獲得することだと言ってはいるが。

マルケスがロレンソを勝たせようと思っているというロッシの非難はまったくあたらないということである。マルク・マルケスは勝利を愛している。より正確に言うなら負けることが我慢できないのである。敗北を避けるためならなんでもすると言ってもいいだろう。マルケスは負けたときでもにこやかである。誰が勝っても素晴らしいレースだったと賞賛できる。しかし本心はそれとは全く違うのだ。誰かの後ろでゴールするのは耐えられないのである。

マルケスがどれほど勝利を愛しているかを証明する良いエピソードがある。去年のはじめにバルセロナで行われた最初のスーパープレスティジオでのことだ。マルケスは勝つ気まんまんだった。アメリカ人のダートトラックチャンピオンのブラッド・ベイカーを招待して、二人で練習を重ね、そして二人は仲良くなった。そして決勝レースは二人の対決になった。しかしマルケスにはベイカーほどの経験がなく、ついていけずに結局転倒してしまう。表彰台では二人とも笑ってはいた。マルケスはがっかりしたけれどもバトルができて楽しかったと言っている。


負けるなんて我慢できない

しかしその裏では全く違うストーリーが進行していたのだ。このイベントにかかわったある人が教えてくれたのだが、表彰式前、マルケスは観衆の目が届かないところまでマシンを乗り入れると怒りを爆発させたというのだ。ミスを犯した自分に激怒していたのである。そしてそれ以上に負けたことに怒っていた。自分が主催するイベントで、みんなが自分が勝つのを見に来てくれたにもかかわらずである。

彼はこの敗北に真剣に対応した。トレーニングwのやり方を変え、マシンをいじり、そして翌年のスーパープレスティジオでは自分が招待したアメリカ人より速く走ってみせた。もちろんブラッド・婦負カーが予選でクラッシュして怪我をしたことにも助けられてはいる。それでもジャレッド・ミーズを負かしたのだ。彼はもう二度と負けるもりはなかったのだ。

アラゴンでクラッシュしたマルケスの映像を覚えているだろうか?マシンのyほこに立ち尽くし怒りもあらわに叫んでいた。またフロント周りのせいで転倒したのだ。マルケスはロレンソに勝てると思っていた。しかしクラッシュしてしまったのだ。

マルケスが誰かに勝たせてやるということがありえるだろうか?「相手がチームメイトなら手助けしますよ」と彼はプレスカンファレンスで言っている。「でもチームメイトじゃなかったら自分の勝利のために走りますね」

フィリップアイランドの最終ラップでで彼がやったのはまさしくそれだ。マルケスはまだ何か隠しているということを証明しているのだろうか?その通りだとも言える。しかしマルケスが隠しているのは勝つかクラッシュかの賭をしたいという渇望なのである。マルケスはあの最終ラップを「予選みたいだった」と言っている。本当にその通りだった。全力で攻めていた。そして我々はその素晴らしい勝利をたたえることになった。もしクラッシュしていたらどうだろう?その可能性も高かった。特にヘアピンからヘイシェッドに向かうところではマシンがかなり暴れていた。マルケスのメカニックがお歩くフェル目ですぐにリアタイヤにカバーをかけたのは、他のチームみ観られたくなかったからだ。何か目を惹くようなことが起こっていたのかもしれない。


過去の行い

その通り。私はマルク・マルケスが誰かが勝つよう手助けするなどということがあるとは全く思っていない。もしそれができたとしてもだ。しかしそもそも現在のMotoGPのレベルはとんでもなく高いのである。4人、ことによったら5人のライダーがこれまで見たこともないほど高いレベルで戦っているのだ。そして二人の差も極めて小さい。つまりレース中に他のライダーを弄んで邪魔ができるほど余裕のあるライダーがいるとはとても信じられないのということなのだ。それはとんでもなくリスクが高い戦略だし、そもそも成功の見込みもまったく見えないのである。

ロッシは間違いなく過去の自分を思い出しているのだろう。レースを始めた頃の彼は実際それができたのだ。MotoGPの初期、彼がどれほど余裕を持っていたのかは2003年のフィリップアイランドを見ればよくわかる。イエローフラッグを無視して追い抜きを行ったために10秒のペナルティを科せられた彼はすぐさまタイムを1分32秒台から31秒台まで落とし後ろを走っていたロリス・カピロッシより1秒速いタイムで安定したラップを重ねた。彼はカピロッシに対して10秒以上差をつけなければ優勝できなかったのだ。レースが終わったときの彼のリードは15秒。キャリア最高のレースのひとつだろう。しかしこれはいかに彼が当時のレースで飛び抜けていたかを示すものでもある。だからこそ翌年ヤマハに移籍しても最初のレースで勝った上に、マシン乗り替え初年度でタイトルまでとれたのだ。

今ではこんな偉業を達成することはできないだろう。独走レースもあるがそれは特殊な状況の下でしかないことなのだ。今年のドライレースでの1位と2位の差は常に6秒以内。そしてそのすべてでロッシかロレンソ、つまりヤマハのライダーが勝っている。

ロッシがこの話を持ち出した理由はなんだろう?彼があえてそうしたのは明らかだ。プレスカンファレンスにタイムシートの束を持ち込んでいたということは最初の機会を逃さずこの件を話題にしたかったということである。プレスカンファレンスの後も彼はまずイタリア人記者に、そしてテレビの取材で同じ説明を繰り返しているのだ。マルケスはルール違反はしていないがスポーツマンらしくない彼のやり方にがっかりしていると言うためにかなりの努力をしているということだ。


神経戦:では誰の神経が標的なのか?

彼は何をしたかったのか?それは誰にもわからない。マルケスでさえわからないと言っている。「理解できないですね」とマルケスはスペインメディアに語っている。「いつものヴァレンティーノだったらこんな直截的な言い方じゃなくて、でも誰に向かって言ってるかはすぐわかるように話すでしょ。でも今回はよくわからないですね。いつもはプレスカンファレンスでも対応が上手だし何を言ってるか自分でも完璧に理解している。でも今回は僕にプレッシャーをかけようとしている。でも彼が負かさなきゃならないのはホルヘでしょ。だから全然意味がわからないんですよ」

マルケスは自分がロレンソを手助けしているとロッシが信じ込んでいることは既にわかっていた。ロッシはフィリップアイランドのレース後にマルケスに同じ話をしているのだ。マルケスは驚いたという。リスクを冒して最終ラップにロレンソを抜いているのだ。

なざロッシはマルケスにプレッシャーをかけようとしているのか?プレッシャーをかけてマルケスがレースに勝つよう仕向けているのか?しかしマルケスはそういうことがあろうがなかろうが関係のないライダーの筆頭である。すでに書いたようにマルケスは敗北を憎んでいる。勝つためにリスクを冒すことも全く厭わない。クラッシュするよりスロットルを緩めて4位になってもいいと思っているくらいなら今頃彼はまだタイトル争いに参加していただろう。しかし彼にはそれができないのだ。川を渡るサソリとカエルの逸話の通り、彼は自分の本能に逆らえないのだ。勝つためにはリスクを冒してしまうのである。

ではこれはロレンソに対する遠回しの攻撃だろうか?しかしそれがどうやってロレンソに到達するのかは想像もできない。ロレンソは何より予想外の展開にとまどっているようだった。マルケスが自分を勝たせたがっているからといって自分のレースへの臨み方が変わるとはとても思えないと言っているのだ。彼は自分がやるべきことはロッシからポイントを奪うことで、そもそもタイトル争いは彼の自力ではどうにもならないこともわかっている。つまり彼はプレッシャーなしに走れるということだ。ミザノでばかばかしいミスのせいでポイントを失ってからは既にプレッシャーから解放されているのだ。「勝つしかないんですよ。負けるわけにはいかないんです」

皮肉なことにプレッシャーはタイトル争いをリードしているロッシにかかっているのだ。残り2レースで11ポイント差。つまりロッシは守るべき立場にいるのである。同時に11ポイント差というのは全く安心できる数字ではない。Moto3のタイトル争いを40ポイント差でリードしているダニー・ケントはプレスカンファレンスで、これまでの2戦でひどいウォブルに見舞われたと言っている。ジュリアン・ライダーがSuperbike Planetに書いている通り、これまでのロッシのタイトル獲得は常に圧倒的なポイント差で決まっていた。前回ロッシが最終戦までもつれこむタイトル争いをしたときには彼は最終戦ヴァレンシアでクラッシュしている。その結果ニッキー・ヘイデンがチャンピオンになった。その悪夢もロッシをさいなんでいるかもしれない。


最後の力を振り絞って

ロッシはプレッシャーに押しつぶされそうになっているのか?彼の精神的強さ、そしてライバルへのプレッシャーのかけかたの巧さには定評がある。遠回しの彼のもの言い(まあ時には遠回しでないこともあるが)が彼のライバルの心に小さな穴を開ける。そのやり方は既に伝説の域に達している。そしてその穴に埋めた小さな疑いの種はライバルの心の中で巨大な樫の木に育っていくのだ。ロッシが後ろからやってくる爆音が聞こえたとき、ライバルの心が折れるのである。

しかし彼自身の強さ、耐える力、攻め続ける力についてはそれほど知られてはいない。ドゥカティ時代に彼がみせた気高さは記憶に値するものだった。2年間の長きにわたる辛い時期、彼は少なくとも週に一度は同じ質問を受けていた。「ケイシーはこれで勝てたのになんであなたにはできないのか?」。ロッシが冷静さを失ったことは一度もないし、質問者に言い返したこともない。毎回彼は静かにこう答えていた。「ケイシーの乗り方は特殊だったんですよ。僕にはその乗り方はできないんです」

当時のロッシがレーサーとしても人間としても最高だったと私は思っている。耐えて、集中し、なんとか物事を理解しようと努力し、厳しい運命の矢に苦しみ、シェークスピアの言葉を借りるなら「さらに強くなって帰ってくる」。その結果が今日の彼の素がタラ。再びタイトル争いをしている。36歳になっているにもかかわらずだ。彼が戦っているのは自分のポスターを部屋に貼っていた自分より下の2世代にわたる時代のライダーたちだ。若いライダーは自分がチャンピオンになるにはロッシを倒さなければならないと知っている。これを偉大と言わずして何と言う。これを不屈の精神と言わずして何と言う。

しかし同時にこれが彼を疲れさせてもいるのだろう。今シーズンはは長いシーズンだ。MotoGPの話だけではない。ロッシがここに来るまでに対続けた日々の話だ。彼は走り、バイクに乗り、ライディングスタイルの改革に取り組んできた。シーズンオフの間中仕事を続け、開幕に備えてきた。毎レース全力で戦い、前を追い続けてきた。彼のポイントリードの浮き沈みを見てみよう。常にタイトル獲得を目指しながらも安心できるポイント差には決してなっていない。ルマンまでにかせいだ序盤の15ポイントのリードは2戦後のバルセロナでは1ポイント差まで詰まっている。ザクセンリングでは再び13ポイントまでリードを広げるが、それも2レース後のブルノでは消えてしまう。次の2レースでは23ポイントの差をロレンソに対してつけ、そのミザノの時点で流れは彼に完全に傾いたかと思われた。

アラゴンではダニ・ペドロサと熾烈なバトルを繰り広げ、結局3位になってしまったことで9ポイントを献上してしまう。もてぎではロレンソから4ポイントを取り戻すも、フィリップアイランドでは再び7ポイントを削られてしまう。ここでのレースは今年2回目の激しいバトルだった。相手はアントレア・イアンノーネだ。そして彼は飛行機に乗りホテルに入る。この2週間休み無しで追い立てられ、14日間で3レース目となるマレーシアGPにやってきた。これもまた精神的に厳しい話である。GP関係者すべてにとってそうなのだが、タイトル争いをしている二人にとってはなおさらだろう。ただでさえストレスの多いフライアウェイラウンドにタイトル争いの重荷がかかっているのだ。並大抵のことではない。

年齢のこともある。ロッシは未だに素晴らしいフィジカルコンディションを維持し、そしてこれまでで最高のライディングをみせている。しかしこれから獲得できるタイトルの数が限られていることは彼も充分承知しているはずだ。チャンスが来たらそれを逃すわけにはいかないのだ。2006年、2007年とタイトルを逃したときは挽回のチャンスがあると彼はわかっていた。契約は2016年までとはいえ、来年もタイトルを獲得するのはおそろしく難しいだろう。来シーズンはホンダが戦闘力のあるマシンを投入するはずだ。マルケスがさらに手強くなるということである。ロレンソは今年以上にやる気になるだろう。トレーニングを重ね再びタイトルを獲得しにくるはずだ。ドゥカティGP16は進化しアンドレア・イアンノーネもタイトル争いに参加してくるに違いない。スズキが良くなってくればマーヴェリック・ヴィニャーレスも脅威になるだろう。2016年が終わればアレックス・リンスがやってくる。ファビオ・クァルタラロや他のライダーも驚くような走りをするかもしれない。

ロッシの10回目のタイトルは今年が最大のチャンスなのだ。ロッシがこれまで果たした偉業を振り返り、そしてこれがことによったら最後のタイトルのチャンスだということに思いを馳せてみよう。なんという重荷だろうか。この重荷でひびが入り始めているのが見えてきたのだ。
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腹黒いロッシというイメージが強いので何か深謀遠慮の末の発言かと思われそうですが、昨日の予選後に「すっきりしたからよく寝られるよ」とか言ってるので、本当にぶちまけたかっただけな可能性が大きいですね。

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コメント

フィリップアイランドのタイムシートを持ち込んでたんですか。
、、、。
でも、やっぱりああいう発言は聞きたくなかったです。
夢が壊れるといいますか。
ロッシとマルケスって、実は似た者同士かなって思います。
恐ろしく負けず嫌いで、そして二人とも笑顔とは裏腹の凄い事をやる感じで。
言葉には出てなかったけど、ダニを入れるといわゆる四強の三人がスペイン人ということも、ロッシに取っては気掛かりとなってるのでは?と想像しました。

FPでもロッシとマルケス、かなり牽制し合ってたようですが、レースは安全に気持ち良く走ってもらいたいです。


投稿: motobeatle | 2015/10/25 05:18

 私は単に怒りからのホンネだと思いますねw

まぁぶら下がりの方では言わずともよいことまでぶちまけてるなぁ・・・という残念感は否めませんね。
あそこまで言われちゃうとマルクの立つ瀬もないです。
追い詰めるけれど退路は残すというのがヴァレの流儀だったように思うんですが、今回はその退路まで断つような感じ。
私は走ってる本人たちが、必要以上にコメントにまで気を使う必要はないと思うので、ヴァレのコメントも『肉声』ということで捉えればいいと思います。
ファンもああいうことを言ってしまうヴァレを好きみたいですしねw

 マルクに他意はないと思います。
「早く僕をパスしないと、ホルヘが逃げちゃうかもよw」くらいは思ったでしょうけど、故意なスローダウンではないんじゃないでしょうかね?w
まぁ詮索・憶測は上限ないでしょうけど、マルクのDNAは純粋にサラブレッドの競走馬ですからww
まぁPIの彼の走りが最終的に自分が勝つことを確信した上での翻弄だとしたら、マルクはもうすでに『マスターオブマインドストラテジー』を凌駕してる?
いやいや、それはまだないでしょうwww

投稿: りゅ | 2015/10/25 05:54

>motobeatleさん
 確かに似た者同士ですね。今日の結果もそんな感じでした。でも老獪なロッシというイメージが崩れるのも残念ですね…。

投稿: とみなが | 2015/10/25 23:55

>りゅさん
 レースディレクションは今日の決勝のマルクの走りについては「ちょっとよろしくない」と思っているようで、ことによったら「フィリップアイランドではわざとじゃなかったんだけど、あんたがわざとだって言うならわざとやってやるよ」ってなってたのかもですね。

投稿: とみなが | 2015/10/25 23:57

>とみながさん
 私もその意見に激しく同意します。
 でなければあそこまで執拗な絡み方は説明できない気がするので。

投稿: ハスラム | 2015/10/26 18:16

>ハスラムさん
 マルケスはなんかほんとに純真バカじゃないかとも…。

投稿: とみなが | 2015/10/27 21:16

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