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ロレンソの心の中へ

割と「自己啓発系」なツイートが好きなロレンソ。私なんかはちょっと心配しちゃったりしてますけど、心配してるかどうかはともかく、彼の「心の平安」に関する記事をMat Oxley氏が書いてます。Motor Sport Magazineより。
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MotoGP現場でのインタビューには通常15分の枠しか与えられてないのだが、その中でライダーについて様々なことを見抜くのはなかなかたいへんだ。もっとも何か面白いハプニングでもあれば別だが。

ホルヘ・ロレンソにインタビューをするようになった頃のことだ。一緒にいたのは短い時間だったが、自動ドアが故障していたおかげでそれはなかなかおもしろいものになった。

インタビューをしたのは、その故障したドアのすぐ横にあったヤマハのホスピタリティトラックのラウンジだった。

最初はまるで宇宙船エンタープライズ号のようにシュッという音と共に開いたり閉まったりしていたそのドアの調子が悪くなって、いつまでも治らないまま何度も開閉を繰り返すうちにロレンソは目に見えていらだち始めた。そして最後は頭から湯気が出るほど怒っていたのだ。

私たちが話していたのは、彼が心の平安を得るために瞑想に興味を持っているということだった。特に彼が興味を持っていたのはソフロロジーと呼ばれるやり方で、精神と筋肉をリラックスさせることで集中力とモチベーションを高めると信者たちは主張しているものだ。

故障したドアのエピソードもそうだし、ヘルメットの中で時々かんしゃくを爆発させるという話もそうだが、ロレンソがその手のリラクゼーション手法に興味を持つというのはありそうなことである。ライダーにはよくあることだが、煮えたぎるマグマを常に抱えている火山のような人間なのだ。5度の500ccチャンピオンに輝いたミック・ドゥーハンもそうだった。彼はそんなマグマのエネルギーをマシンに乗るためにとっておける希有なライダーだった。

(ベジタリアンだったので瞑想方面には簡単に行きそうだったとは言え)厳密な意味で瞑想していたわけではない。しかしドゥーハンは一旦ピットレーンを出たら常に99.99%の能力を発揮するための集中方法を身に付けていた。ここまで最大限のパフォーマンスを発揮し続けることのできるスポーツマンは本当に、本当に一握りだ。

いささか言葉にしにくいこうした心理状態を心理学者は「フロー」と呼ぶ。しかし一般的には「ゾーン」の方が通りがいいだろう。Wikipediaによればフローは「並外れた集中力であることに没頭したときに訪れる心理状態のこと。気持ちが行動と同期して究極の体験を味わえる状態を表現しているものと考えられる」と説明されている。

ドゥーハンとは違ってロレンソはゾーンに入ることもあれば、そうでないこともある。だからこそ彼の成績は浮き沈みを繰り返しているのだし、だからこそ問題をなんとかするために彼は日に一度はマントラを唱えるのである。今年は去年と同様にゾーンに入るまでに数レースを費やすことになってしまった。

去年の彼は序盤の5戦で1回しか表彰台に上がれなかった。今年は3レースで表彰台を逃すという残念な結果に終わった後に見事な3連勝を飾っている。自分の中のスイッチが入ったかのようだ。先月のヘレスでスタートシグナルが消えて以降、誰にも抜かれていないのだ。トータル78周の間トップを走り続けているということである。

ロレンソにとってはトップを走ることこそが気持ちいいのだそうだ。そうでないライダーもいるが、ロレンソは誰もいないサーキットでこそ進化を発揮できるタイプなのである。自分より速く走ろうというライダーが左右にいることでより力が発揮されるタイプではないのだ。むしろそれは彼の禅的な平安には邪魔なだきえなのだ。「6番手とかで走ってるとだめなんですよ。スムーズに走れなくなるんです」と彼は去年語っている。

ロレンソの好調は心理面に由来するだけではないのはもちろんだ。マシンもかなり良くなっている。去年のヤマハはユーザーフレンドリーではあったがホンダほどいいマシンではなかった。今年のM1は乗りやすさはそのままに、より良いマシンとなっている。シームレスギアボックスがシフトダウンに対応したことも大きいだろう。ロレンソの乗り方に合っているのだ。彼のチームメイトにとってはそれほどの効果はなかったようだが。

ライディング的にはスムーズに乗れること、そして気持ちは平静であることがロレンソにとっては大事なのである。だからこそフルシームレスギアボックスによってもたらされたスムーズなコーナー進入が助けになっているのだし、ヴァレンティーノ・ロッシの得意とする部分、すなわちブレーキングでも追いつけるようになった一因なのだ。

ロレンソの才能はマルケスのそれとはずいぶん異なっている。彼の走りはスムーズで穏やかだ。そのため彼がマルケスより速く走っていてもとてもそうは見えないのである。これは鏡のようにスムーズだと称されたエディー・ローソンにも匹敵するだろう。そのときのローソンのライバルは対照的な走りのワイン・ガードナーだった。数年前ローソンは私にこう言ったことがある。「みんなに『おまえはずいぶん遅く見えるよ』って言われてたんですけど、まあそれは仕方ないとは思ってましたよ。でも僕が優勝しても同じこと言うなら負けた連中にはなんて言うんでしょうねえ」

マシンが仕上がって、ライダーもゾーンに入り完璧な状態で走っている一方でライバルは問題を抱えている。ロレンソは順風満帆だ。

ロッシについて言えば、土曜日をうまくまとめられない限り10回目のチャンピオンは遠いだろう。いつも彼は日曜日のヒーローなのだ。表彰台争いの集団にいる。しかしそれではチャンピオンにはなれないのだ。なんとかして日曜の45分間のすばらしい走りを土曜午後の1分か2分に持っていかない限り、いつまでもスターティンググリッドは後ろのままだろう。

ロッシが素晴らしい1ラップを決めるのに苦労しているのは今に始まったことではない。15分の一発勝負の予選方式が導入されてからはなおさら苦労している状態だ。彼は走りのスタイルを見事に変えてきているが、それでもこの点に関しては克服が難しいようだ。もちろんそこさえ克服できる可能性もあるのだが。

去年のいまごろ、私は好不調の並がライダーの自信に及ぼす影響についての記事を書いた。その時はロレンソがひどい不調に苦しみ、マルク・マルケスは絶好調だった。信じられないことだが二人は今、まったく逆の立場に立っている。ロレンソが自信を取り戻し波に乗っている一方で、マルケスはこれまでにないほど深い穴に落ち込んでいる。

ロレンソは自分がなぜ今ここにいるのかもわかっている。「何もかもがうまくいっているときはいいライディングができるし、安心して乗れるんです」と今年の初めに彼は私に語ってくれた。「何か問題があると緊張するし、それでさらにうまく乗れなくなるんですよね」

マルケスの不調の原因は彼が求めているマシンを作れないホンダにある。チャンピオンのマルケスをさらに速く走らせるためにHRCは何でもするだろう。去年からずっとホンダは誰にも似ていないマルケスのライディングスタイルにぴったり合ったエンジン、フレーム、電子制御等々を作ろうとしてきた。しかし出来上がったものはマルケスのスタイルに合っていないものになってしまったのだ。ヤマハとドゥカティがここまで仕上がってこなかったらそれでもホンダは勝てたかもしれない。

2015年シーズンが始まってからの6レース、最速のホンダライダーでもレースディスタンスでは去年の平均から1.6秒遅いという結果なのだが、ヤマハは去年と比較して11.06秒、ドゥカティにいたっては17.8秒も縮めているのだ。

レース用マシンの開発に終わりはない。だからこそ時には間違うこともある。ここ何年かはホンダの支配が続いており、今年もHRCが勝つのではないかと思われていた(2012年の途中でフロントタイヤの供給パターンが変わると言うことがなかったらホンダは4年連続でMotoGPタイトルを獲得していただろうことは忘れてはならない)。

マルケスがより速く、より自由に乗れるようになるかと思いきや、2015年型RC213Vは逆の結果をもたらすこととなった。コンパクトな割にアグレッシブなRCVも、そしてナンバー1ライダーであるマルケスも、ある意味ぎりぎりの綱渡りをしていたのだ。そして綱から落ちてしまったのが今シーズンなのである。問題は簡単には解決しそうもない。エンジンだけの問題でもフレームだけの問題でも電子制御だけの問題でもなく、それらすべてが組み合わさって複雑な問題を形作っているのだ。

ムジェロでのマルケスはコーバーでは、特に1コーナーでは大きくはらみ、結局それが転倒の原因となってしまった。残り6周というところで2コーナーではらんでしまったせいで3コーナーに正しいラインで進入できず、最終的にマシンを寝かしすぎてしまい、当然のように転んでしまったのである。

マルケスは他の誰より大きくフロントに荷重を掛ける。しかしエンジン、フレーム、電子制御のバランスのバランスの問題で、コーナー進入で過剰にフロント荷重がかかってしまうのである。特にリアのグリップがない状態でのフロント荷重にはかなりの問題があるようだ。そしてリア荷重がなくなると去年のようにきれいなドリフトに持ち込めず、マルケスですら制御でkないほどの突然スライドしてしまう。これは800cc時代初期のRCVと全く同じ状況だ。

今年の初め、マルケスが苦労していたのはコーナー脱出だったがHRCはこれを解決してみせた。今ごろ朝霞の本社では彼のホームGPとなるカタルニアに間に合うようにコーナー進入の問題を解決しようと夜を徹した作業が行われているだろう。チャンピオン獲得の希望を取り戻すには遅すぎたということになるかもしれない。去年の10連勝のようなとんでもないパフォーマンスをみせないといけないだろう。しかしマルケスのチャレンジを見られると思うと、それも楽しみではないか。
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ソフロロジーですが、英語版Wikipediaによると、1960年にスペインの神経精神医学者が、鬱やトラウマの治療のために生み出した、催眠療法や現象学(哲学の一種)や西洋的リラクゼーション法や自律トレーニング手法を取り入れた治療法だそうです。後にフランスでヨガやら禅やら何やらの東洋風味がふりかけられて今に至るという感じ。そのWikipediaの記事には全く学術論文への参照がなく、どうもたぶん信者によって書かれている様子なのを見ても、まあ遠巻きに眺めながら、友達や知り合いが「興味があるんだけど」って相談してきたら、「やめといた方がいいよ」って私なら答えるたぐいのものですね。

うーん、やっぱりそういうのが好きってことなのかー(-"-)。

あと「だからこそ彼は日に一度はマントラを唱えるのである」というのは「and why he has tried to fix this problem by saying Om at least once a day」の訳なんですがあってる?

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コメント

やっぱりホルヘはああいった系が好きでしたか・・・
ま、人それぞれだからいいんですけど、私も「友達」には「やめとけ」と言う類の系統ですね。

「だからこそ彼は日に一度はマントラを唱えるのである」
筆者が「Om」を使ったのは、普通の「お祈り」とか「お経」とかとは違うってことを強調したかったからだと思うので、日本語訳では「マントラ」が一番近い感じかなぁ。

そういえば、ダニは「蜂に刺されて免疫高める」みたいなのをやってましたが、今年からあのロゴがツナギから消えたような。さすがに止めたのかな(^^;;)

投稿: bamboo41 | 2015/06/04 04:39

状況が的確に伝わるいい記事でごんすな

ロレたんには是非ともヤマハV3レジェンドの仲間入りしてもらいたいけど、時々大ポカやズルズル大後退やらかすから独走3連勝とはいっても全然安心できないわ(その理由の一端が記事で垣間見えた)
でも調子に乗らないよう慎重なコメントをしているようだからその点はいいかな

本田+マルクは絶対巻き返してくるだろうし、ヴァレもなんか“策略”練ってそうだしね

投稿: さわら | 2015/06/04 08:29

Omって、ヨガで呟くものではないですか?
ヨガならその辺の若い女性でもやるでしょうが、ヒンズーの呟きとは受け取り方がかなり異なりますね。
ヨルヘさんがどうなのかはわかりませんが。


いつも記事ありがとうございます。

投稿: び | 2015/06/04 09:00

初めてコメントさせて頂きます。りゅーと申します。
いつも興味深く拝見しております。
ヘレスやルマンのホルヘはまさにフローインしているように見えましたね。
マシンのリズムとホルヘ自身の呼吸・血流が見事にシンクロしているようでした。
フローインしたリズムは例えていうなら自然界の中に流れるエナジーのようなもので、しなやかでなおかつ強い。
ホルヘのライディングはまさにそのオーガニックなリズムの権化といっても過言ではないと思います。
 『フロー』『ゾーン』は下手すると宗教的・超人的な意味合いで語られてしまうことすらありますが、実際は心理・人体科学的見地で語られるべき状態です。
そこに至るためにはフィジカル、メンタル、パフォーマンスのアッパーラインを上げることが不可欠ですが、そのバックグラウンドにあるのは精神面のリラクゼーションであることはとても重要な事実です。
ホルヘが意識的にフローインしたがっているかどうかは定かではありませんが、そこに至ることが自分のベストパフォーマンスにつながることを本能的に知っているのでしょうね。それがソフロロジーやマントラへとつながるということなんでしょう。
 どうも上記のようなことを語ると「イタイヒト」wwwと思われがちなのですが、アスリートにとっては普通のことだと思いますよwww
なので「そっち系」と思わずに見守ってあげて下さいな(´∀`)
・・・・あっすごく長くなってしもた・・・(´Д`;)ヾ 

投稿: りゅ | 2015/06/04 13:36

こんにちは。凡人な僕の理解では、マリオカートの自分のゴーストとの闘いですね。
いつもプレッシャーに負けちゃうんだけど。
そんで対戦でオレンジ色の甲羅がドリフトして迫って来たら混戦になっていくら速くても沈んでしまうやつですね。これを避けるのはロケットスタートでトップ独走してオレンジの甲羅が届かない距離を取るのが最高の作戦です。観戦者はつまらないけど、本人は最高ですね。

投稿: とんからりん | 2015/06/04 15:20

素晴らしい記事です!
翻訳ありがとうございます。
ホルヘがそのような事をしているとは知りませんでした。
追いすがる者を突きはなし、マシンや路面 風と対話しながら己の境地にいるという感じなのでしょうか。
ただレースは競う相手という者がいて、ホルヘが毎回このようにいくとは限りません。
もしかしたら今年はロッシとの一騎打ちになるかもしれません。
そうなった時の接近戦、肉弾戦になった場合、未だロッシに分がある気もします。
というかロッシは、この点が異常に強い。
ホルヘにしてみれば、その形に持ち込まない様にしたいのでは?
まあ、想像が過ぎましたが、今シーズンは楽しいです。

投稿: motobeatle | 2015/06/04 15:45

>bamboo41さん
 あー、蜂ってそういうことだったんですね・・・。

>さわらさん
 ロッシの策略がいちばんロレンソのハートにはききそうで、恐ろしいですねぇ。

>ぴさん
 なるほどありがとうございます!>ヨガ。でも訳しにくいんですよね、専門用語的なのは。とりあえずマントラでいっかーということで。

>りゅさん
 アスリートがセルフコントロールの方法を模索するのは当然ですからね。でも「いかにも」なネタにひっかかるのはどーかなーって思って、わざわざ注釈を入れてみたんです。まあ「自分はうまくいった」からそれを信じるのならいいんですけど、ソフロロジーみたいに科学でございって顔してやっている流派についてはちゃんと書いておいた方がいいかと思ったんです。

>とんからりんさん
 マリオwww。でもその通りかもですね。ホルヘは独走でいいんです!

>motobeatleさん
 ロッシにも例の儀式はありますけど、あれがなくても全然平気なんだろうなあって思わせる強さがありますからね。

バルセロナではマルケスも新型エキゾーストがそれなりにきいているみたいなんで油断なりませんしね。

投稿: とみなが | 2015/06/12 21:59

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