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2015アッセンMotoGPレースまとめ(その1):ロッシ vs マルケス

いろいろ物議を醸しているアッセンのラストラップ最終シケイン。御大David Emmett氏も書いてます。
MotoMatters.comより。
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偉大なる最終コーナーというものが歴史を作る。あらゆるサーキットにそうした最終コーナーがあるべきなのだ。シケインでも高速コーナーでもタイトなコーナーでも、とにかくライダーが最後のチャンスをものにして勝利を手にしようと相手のインに飛び込むような、とんでもなく勇敢なライダーがアウトから抜きにかかるような、そうしたコーナーだ。そして真に偉大なコーナーは、アタックしたライダーがミスを犯したら逆に抜かれたライダーがリードを奪えるような、そういうシナリオも生み出すものなのだ。

アッセンの最終コーナーはそうした偉大なものの一つである。そしてアッセンにあるのは最終コナーナーだけではない。そこまでに至る一連の流れではライダーが自分で組み立てを作ることができる。そしてそのプランに入っていなかった予想もできなかったことに対処することも求められるという、素晴らしいレイアウトとなっている。土曜にはアッセンのGTシケイン、そしてデ・ブルトからラムズフークの出口に至るまでの複合コーナーではワクワクするような争いが見られた。そして最後にはMotoGPの歴史に刻まれるような戦いの場となったのだ。今後何年にもわたってみなが議論するような事件の現場となったのだ。ことによったら2015年の流れを決定づけたと言われることになるかもしれない。

主役の二人はお馴染みのヴァレンティーノ・ロッシとマルク・マルケスだ。ロッシが最終コーナーに先に入り、マルケスがものすごい勢いでそれを追う。次に起こったことはどちらの言い分を信じたいかによるだろう。二人の言い分は異なっているからだ。ロッシは先にシケインに入ったのは自分だと言う。そしてマルケスに当てられて仕方なくはらんでしまい、クラッシュを避けるためにアクセルを開けてグラベルを突っ切るしかなかったと主張しているのだ。一方のマルケスは自分はインにいてロッシに邪魔をされたと言う。こちらはロッシが勝つためにわざとショートカットしたと考えている。どちらの見方が真実なのだろうか?それについてはもう少し後の方でとりあげるとして、まずはレース序盤の状況から解きほぐしていこう。

ロッシの勝利の萌芽はバルセロナにあった。ロッシとチームが土曜の午前中にカタルニアで戦うための方向性をみつけていたのだ。そこでみつかった新たなセッティングはアッセンで投入された新型フレームでさらに改善される。ロッシは序盤から良いペースで走れるようになったのだ。予選でポールを獲得したのはこの5年間でわずか3回目。スタートから逃げるには最高のポジションだ。ライトが消えると彼はその優位性を最大限に活かすことになる。続いたのはアレイシ・エスパルガロだ。1コーナーをややカット気味に駆け抜けたおかげで彼は自分のポジションを守ることができた。そしてマルケスが3番手で続く。ストルッベンヘアピンでマルケスがエスパルガロのインに入り、そのまま加速しロッシを追いかけ始める。そしてトップ2台はどんどん逃げていった。

恐ろしいほど精密な走りで8番手から上げてきたホルヘ・ロレンソもそれを追いかける。半周もしないうちにマンデヴェーンでもう一人のエスパルガロであるポルのインをついて3番手に上がったのだ。ロレンソはトップの2台を追いかけようとするが、しかし彼らは速すぎた。結局ロレンソは追撃をあきらめ、3位を脅かされることもなく孤独な走りのまま表彰台を目指すことになった。

トップを走るロッシはまるで熱湯を浴びせられた猫のように走り続ける。そしてマルケスがそれを追う。マルケスのRC213Vは今年最高の出来のようだ。コーナー進入でのリアのスライドや蛇行はずいぶん収まっており、再びマルケスはマシンをコントロールできるようになっていた。タイヤがタレ初めてもマルケスはコントロールできたし、バルセロナやムジェロとは異なり、マシンが彼のコントロール下を飛び出すこともなかった。未だに予想もつかない動きをすることもあるが、マルケスは常にクリッピングを外すことなく正確な走りを続けられたのである。マシンは良くなったのか?「まだわからないですね。今週末だけの話ですから」とマルケスは記者会見で語っている。「でもまた楽しんでライディングできるようになりましたよ。もちろん進入でのスライドについては改善の余地がありますけどね。特にレース終盤ではね」。ロッシのペースに楽についていけた彼はレース終盤、いつでもいけるという状態になっていた。

しかしなんというペースだったろう。ロッシのラップはすべてこれまでのラップレコードを上回るものだった。唯一の例外はマルケスにトップを奪われたときだけである。マルケスも同じだ。レコードタイムを下回ったのはロッシにアタックしたときだけだった。マルケスは19周にわたってロッシを注意深く観察し、彼が最終シケインで人工芝にはみ出してストレート加速が鈍った隙を逃さずアタックをかけた。マルケスは1コーナーをトップで抜ける。今度はロッシが追いかける番だ。

ロッシにはまだ引き出しがあった。残り3周、マンデヴェーンでインに入るとタイトなラインでトップを奪い返す。マルケスはダイカースロートで抜こうとするがロッシにブロックされる。これは伝統的なヤマハの走り方だ。その前の日にブラッドリー・スミスが「クリッピングについて『やあ!』って言うんだよ」と表現していたそのままである。

ロッシはとどめを刺す時がやってきたことを理解していた。そしてファステストラップを叩き出し、0.5秒のリードをつける。しかしマルケスもそれに反応すべきことはわかっていた。最終ラップ、マルケスはわずかずつではあるがコーナーごとに差を詰めてていく。そしてついにラムズフークでGTシケインでインにねじ込めるほどに近づいたのだ。アッセンを有名にしているまさにそのコーナーである。記者会見でマルケスはその動きをプラクティスでなんども練習したと語っている。こうした瞬間がきたときのためにだ。「僕の考えではシケインの一つ目でインに入って二個目でブロックする予定だったんです。そうすれば相手はスペースがなくなって、自分が前に行けるはずだったんです」

マルケスはロッシのインに入ろうとするが、彼のフロントホイールがヤマハの前に行くことはなかった。せいぜいM1のラジエターあたりにとどいたにすぎない。それではポジションを固めるには足りなかったのだ。ロッシはマルケスが近づいていることに気付いていた。しかし彼が言うにはタイヤしか見えなかったのである。そこでホンダをブロックした。トップを走っているライダーの当然の権利を行使したまでだ。しかしマルケスは突っ込みすぎており、ロッシのカウルに接触してしまう。そしてロッシはラインをはずれ、マルケスのRC213Vは大きく振られる。ロッシは瞬時に反応しマシンを起こすとアクセルを開けてグラベルを突っ切りフィニッシュラインを目指す。マルケスが彼のマシンのコントロールを取り戻して人工芝部分をショートカットしたが、結局怒りに震えながらフィニッシュラインを越えることとなった。

レース後ロッシは自分はコーナーに入って通常通りのラインを通っただけど、マルケスのせいでグラベルに出てしまったのだと言っている。しかしマルケスは違う考えのようだ。自分はインに入ったのだから優先権があると主張し、ロッシはコーナーをショートカットしたのだから優勝を取り消されるべきだと言っている。ホンダはすぐにレースコントロールに出向き苦情を訴えているが、レースディレクションは即座にあれはレーシングアクシデントだという裁定を下した。2台とも最終コーナーをショートカットしており、結果はそのままだということなのだ。ホンダはその裁定を受け入れ、レース後の記者会見終了後、ロッシとマルケスはレースディレクションに呼び出され、放映された以外の映像を含めて様々なアングルからのビデオを見させられることになった。

レース後には多くのジャーナリストがレースディレクターのマイク・ウェッブにインタビューを行っている。彼の説明はこうだ。「見たとたんに間違いなく確認が必要な状況だということはわかりました。最終ラップでしたから注目もしていたんです。だから何度もビデオを見返して議論をしました。最終的にはあれはレースアクシデントだという結論です。これはもうはっきりしてますよ。迷うような話では全くないですね。誰の目にも明らかですよ。ポイントは最終シケインでずっとヴァレンティーノが前にいたことですね。すごくいいヘリコプターからの映像があって、それを見ると彼がずっと前にいて、だからラインは彼に優先権にあったことがわかるんです。彼はコーナーに入って普通のラインを走っている。ちゃんとコーナーをクリアしようとしているんです。マルクがインから仕掛けたんですけど、これも当然ですね。最終ラップなんですから。そこで抜こうとした。その過程で彼はヴァレンティーノの前に出ることはなかった。ヘリコプターの映像でそれは明らかなんです。ヴァレンティーノは常に前にいた。そしてマルクがヴァレンティーノに接触したんです」

マルケスがロッシに当たったのか、それともロッシがマルケスに当たったのか?「明らかにマルクがヴァレンティーノに当たっていますね。ヘリコプターからの映像ではどっちが前にいたのかははっきりしています。真正面からの映像はありませんけど、比較的前から撮った映像があるんで2台の離れ具合と、どう近づいていったのかがわかります。ヴァレンティーノは本当に普通のラインを通っているんです。マルクがインから抜きにかかってヴァレンティーノに接触しているんですね。そこでヴァレンティーノはマシンを起こすことにしたんです。彼は自分が限界で走っていたといっています。限界でコーナーに入っていってインから当てられて、仕方なく起こしたとね。そこでグラベルに出てしまったということです。マルクもコースをはずれて人工芝に入ってしまった。だからルール上では2台ともコースを外れたってことなんですよ。2台ともコーナーに進入して、それをクリアした後コースを外れてしまった。その間に順位の変動はありません。どこでも順位は入れ替わってないんです。つまりどちらもコースをはずれて得をしているわけではないということですね。ヴァレンティーノがショートカットしたことでタイムを稼げたのは間違いないですけど、この場合それは関係ないんです。どっちが次のラップで得をするかは見る必要がない。前にいたライダーが前に残って2番手のライダーが2番手のままだったというだけですから。どちらもコースを外れてまた戻ってきた。それだけです。大事なのはどちらもコーナーをちゃんとクリアしようとしていたことなんです。どちらもグラベルに出ようなんて思っていなかった。どちらも相手をはじき飛ばそうなんて思っていなかった。接触が起こって2台ともコース外に出てしまったのはあくまで結果なんです。ですから話はシンプルですよ。レーシングアクシデントで、誰かが得をしたわけじゃないということなんです」

ウェッブはマルケスが最終コーナーでアタックをかけたことにも理解を示す。「マルクが抜きにいったのも当然です。別にヴァレンティーノに当たろうと思っていたわけじゃないこともわかっています。でも接触してしまった」。レースディレクションの設置目的はレースを安全に運営することである。しかしレースはレースだ。ラーダーが勝とうとするのは当然だし、最終ラップにリスクを冒すのも当然なのだ。次のチャンスはないのだから。

マルケスの抜き方の問題はなかったろうか?プラクティスからウォームアップと通じて、彼が何度も最終コーナーでラインを試していたのを目にした。問題があるとすればそれをプラクティス、すなわち他のライダーにラインを邪魔されない状態で試していたことかもしれない。しかしそういう意味ではマルケスらしいとも言える。自分が抜こうとしている他のライダーについてあまり考えることなく走るのがマルケスのトレードマークなのだから。誰と走っていても同じことをやっただろう。しかしこの件に関してはレースディレクションは違った見方をしている。「マルクは過去にもこうしたことをおこしていますよね。相手が誰かとか、どのクラスを走っていたかにかかわらずです。とても成功するとは思えないのに抜こうとしていて、わざと当たりにいっているような走りですね。そういうのはペナルティの対象になりますよ。今回は最終ラップの最終コーナーでのアタックで接触が起こったわけですが、これは仕方ないでしょう。幸い順位の入れ替えも起こりませんでしたしね。もしどちらか、または両方が転倒していたらそういう目で見る必要があったでしょうが、そうはなりませんでしたしね」とマイク・ウェッブはこの接触について語っている。

マルク・マルケスの失敗は相手がただの年取ったライダーではなかったということだ。相手はヴァレンティーノ・ロッシだったのである。ロッシは20年以上もアッセンを走っている。最初はヨーロッパ選手権で、そしてその後はGPで。彼はここで多くのレースを目にしてきた。そしてあらゆる可能性を学んだのだ。元チームメイトのコーリン・エドワーズが2006年に最終コーナーで転倒しニッキー・ヘイデンに優勝をさらわれたのも同じラインだった(訳注:参考映像はこちら)。ロッシはあそこで何が起こるか十分すぎるほど考えていたに違いない。そして本能的に正しい選択をしたのだ。そういう意味では2006年というのはマルケスがGP現れるはるか前の話である。

おそらくロッシは接触したときにどうするかも考えてコーナーに入っていたのだろう。ブラッドリー・スミスがこの接触について明確に語っている。「ヴァレンティーノは何もかもをうまく利用したんですよ。マルクが当たって着ることは予想していて、だからグラベルに向かったんですね。でも誰も文句は言えないでしょ。そういうことなんですよ。あれは経験の賜ですね。彼はブロックラインを通って、マルクがそこに入って自分をはじき出すタイミングを計っていたんですそうしたら誰も何にも言えないですからね。ヴァレンティーノは言ってるでしょ。『イャー、僕はコーナーをクリアしようとしたんだだけだよ』ってね。実際彼がコーナーを回り切れたかどうかは別にして、彼は『僕がまっすぐ言っちゃったのはマルクに当てられたからで、シケインでは前にいたんだし、別に得したわけじゃないから勝ったのは僕だね』って言えるんですよ」

本当にロッシはマルケスに当てさせたのか?それはなさそうに思える。しかし彼がそこまで考慮に入れていたのは間違いないだろう。マルケスにとって、今回のロッシは初めて現れた自分を脅かすライダーとも言えよう。これまで効果を発揮してきたフィジカルコンタクトが機能しなかったのだ。ホルヘ・ロレンソも2013年にのセパンでマルケスの脅しに屈しないことを示し、マルケスに対してお返しをすることになった。しかし今回のロッシはそれ以上のものを見せたのだ。マルケスの接触をものともしないスタイルを見事に切り返してみせたのである。

他のライダーのことを考えておらず、安全も考慮していない上にコース上での優先権も全く気にしていないという非難がマルケスに対してはあった。ロレンソは1レースばかり出場停止にしなければマルケスの走りは変わらないだろうと言っている。2005年のもてぎでのロレンソの走りに対して下された裁定と同じようにだ。しかしロッシがマルケスに与えた苦い薬はそれより効果的かもしれない。出場停止もマルケスには痛いだろうが自分の戦術のせいで勝利が逃げていったという事実の方が彼にとってはショックだったろう。次にマルケスが勝利のためにロッシのラインに無理矢理ねじこもうとする際には2015年のアッセンのことが頭をよぎるだろう。ベテランであるロッシを倒すための唯一のやり方は確実に彼を抜き去るしかないことに思い至るのだ。つまりフィジカルコンタクトで脅すのではなく、確実に前に出て、そして前を走り続けるしかないということなのだ。

これがマルケスにとって苦い経験になったというのはレース後記者会見からも明らかだ。なかなか気まずい会見だった。ロッシとマルケスのあいだのいつもの軽口や仲の良さは全く見られなかった。ジョークはとびかっていた。ちなみに最高のジョークは驚いたことにロレンソの口から発せられたものだった。彼は自分のパフォーマンスの悪さに言い訳することもなく、うまいことを言ってみせたのである。しかし当事者二人はどちらも自分の意見を変えようとはしていなかった。勝者のロッシは肩の荷が下りたかのような気楽さで、そして歴史的な勝利を記録したことに喜んでいた。一方のマルケスは自分が悪くないと一貫して文句を言っていた。「僕の考えでは自分は完璧に最終シケインに入っていったと思っていますよ。だって僕がインにいたんだしちゃんとマシンをと減速できたんだし、それでシケインの2個目ではちゃんとヴァレンティーノをクロスラインで抜けるはずだったんです」。そしてその後こう言っている。「シケインは完璧でした。昨日考えた通りだったんです」。さらにこうも言っている。「自分では間違ったことはしていないと思ってます。だって僕はコースを外れませんでしたからね。さっき言った通り、最終ラップは完璧だったし最終コーナーも完璧だった。これは予定通りだったんです。でもマシンを完璧に減速してインにラインをみつけたら接触してしまった。でもあのシケインはかなりタイトだってお互いわかってるはずですよね。だから僕は間違ってないと思いますよ」

ロッシの答えはシンプルだった。「今じゃなくて後から映像を見た方がいいですね」。そして彼らはその通りのことをした。記者会見のnotに、レースコントロールでレースディレクションの面々と映像を確認することになったのだ。英国スーパーバイク選手権のディレクターであるスチュアート・ヒッグスが二人がビデオを見ているところの写真を投稿している。二人のライダーの顔がそれぞれの気持ちを雄弁に物語っている。マルケスは結局冗談で紛らすことにしたようだ。アッセンでのロッシから何を学んだかと聞かれた彼はこう即答している。「モトクロスは重要ってことですよ。それだけですね」

もしロッシの立場だったらどうしたかと聞かれたマルケスがくらい声でこう答えたのは皮肉と言うほかないだろう。「わかりませんけどね、でも今回のような経験をしたらやるべきことをするだけですよ」。これは2013年のヘレスでマルケスに採取医コーナーで押し出されたロレンソが言ったことと全く同じだ。「これから何が起こるか楽しみですね」というのがロレンソの答えだったのだ。

マイク・ウェッブはやんわりとしたマルケスの脅しには驚く様子も見せてない。「こうしたことは何度もありましたしね。何かやられたと思っているライダーはこれまで何人もいましたし、彼らはみんな『これがありなら自分もやるよ』って言ってますから。まあ脅迫みたいなもんですね。でも彼らには済まないんだけどもうそういうせりふは聞き飽きてるんですよ。コメントする価値もないってのが正直なところですね」。こうした熱い闘いの仲ではライダーはいろいろなことを言うものだ。しかし言ったことがそのまま実行されることもほとんどないというのが事実なのだ。

記者会見での勝者がいるとすればそれはホルヘ・ロレンソだろう。どちらの味方をするかと問われた彼は実に見事に答えを避け、記者たちを笑わせたのだ。どちらのライダーに味方するとも言わず、しかも質問した記者が自縄自縛に陥るような答えを返したのである。その後ロッシとマルケスがバトルすることで自分が有利になるかと問われた彼はこう自分を皮肉った。「まあ二人がクラッシュしたら有利にはなるでしょうけどね…」。二人についていけなかったレースを終えたロレンソは記者会見で力を取り戻したようだ。いい会見だったし、うまい答えだった。

アッセンでの接触はロッシとマルケスの関係を変えることになるだろうか?どちらもそれは否定している。当然だ。しかし間違いなく関係は変わるだろう。チャンピオンが見えてきたらロッシのライバルに対する態度は厳しいものになっていくだろう。確実に距離を取るようになっていくはずだ。マルケスがMotoGPクラスに上がってきたとき、ドゥカティの2年間の後で復帰したヤマハへの対応に苦しんでいた。当時のロッシはマルケスを自分の後継者だと考えていたのかもしれない。だからこそ好意を持って接していたのだ。それは二人が勝利をめぐって争うようになった去年も同じだった。今年もロッシはにこやかで友好的だし、マルケスのジョークには笑ってみせる。しかし二人の間で交わされるジョークはとげとげしくなってきた。もちろんお互い尊敬しあってはいるが、以前より毒が感じられるようになったのだ。

再びロッシは心理戦を開始したのだろうか?実を言うと私は彼が自分で意識して心理戦を仕掛けたことはないと考えているし、それがうまくいったこともないと思っている。ロッシがライバルと戦うとき、その真価はコース上で発揮されるのだ。コース外の彼の発言はそれほどのものでもない。彼がマルケスとの間に距離を置いているように見えるのはチャンピオンが視野に入ってきており、しかもマルケスがそれを邪魔するだろうからだ。チャンピオン争いの相手にはならないだろうが、レースでポイントを奪われることは大いにあり得るのだ。ヴァレンティーノ・ロッシはいつもでおもしろい男で、常に楽しませてくれる。しかしそれーはレースに関係のない場面での話だ。レースは彼にとって真剣な仕事であり、勝利することはそれ以上のものなのだ。

2015年のアッセンは2008年のラグナセカと同じ位置づけとなるのだろうか?私はそうは思わない。アッセンでロッシに負けた相手は既にチャンピオン争いから脱落したライダーだ。2008年のロッシの相手はケイシー・ストーナーだった。血が凍るほどの、しかしわくわくするような真っ向勝負だった。レースの歴史に燦然と輝いている。ラグナセカでの勝利でロッシはストーナーからタイトル争いの勢いを奪ったのである。アッセンでロッシはマルケスを完膚無きまでに叩きのめし、自分の立場を思い知らせることになった。これでホルヘ・ロレンソとの差を10ポイントまで広げたが、それでも2位に落とされたのがマルケスだということを考えるとチャンピオン争いには大した影響はないだろう。まあマルケスのランキング3位が危うくなってきた程度だ。

ロッシの本当のライバルはモヴィスター・ヤマハのチームメイトであるロレンソだ。アッセンでは圧倒的な差で勝ったものの、心理的なダメージは与えていない。ロレンソはエッジグリップが感じられないことでペースを上げられずロッシについていけなかった。この4戦、ロッシがしてくれたことへの恩返し程度だということだ。アッセンはチャンピオン争いのターニングポイントということになるかもしれないが、まだチームメイトの心を折るには至っていない。本当の戦いはこれからなのだ。間違いなくそれはやってくる。

4000語近い原稿で語れたのはたった一回の追い抜きについてだ。まだまだ語りたいことがある。今年のアッセンはひとつの記事だけでは語り尽くせないのだ。スズキの物語、アンドレアイアンノーネの成熟した慎重な走り、アンドレア・ドヴィツィオーゾの壊れたシートカウル、5位争い、ペドロサのマシンのブレーキ問題、MotoGPクラスの新基準、Moto2のヨハン・ザルコの快進撃、そしていつもの素晴らしいMoto3レース。ここではダニー・ケントがさらにポイントリードを積み重ねている。これらは別の記事にしようと思う。明日さらにいろいろお伝えできるだろう。
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この記事にはジェレミー・マックウィリアムズ(元GPライダー)から「接触への単なる反応をここまで書くとは陰謀論のタネは尽きまじ」みたいなツイートが飛んでいますが、Mat Oxley氏がこれに「昨日私が話をしたあるトップライダーは、ロッシがプラクティスでグラベル走行の練習をしてるのを見たって言ってましたよ。練習は大事」とか返していて、いろいろ味わい深し。

ちなみに4000ワードを日本語にすると約1万字ですね。

<追記>
記者会見でのホルヘの発言については「気になるバイクニュース」さんが全文翻訳されてました!こちらも是非!

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コメント

長文和訳お疲れ様でした。
前から感じてたんですが、レースディレクターのマイクウェブ氏は非常に理路整然として見識も高い人ですね。
今回のこの件についても適切な判断と見解がなされていると思います。
憂慮するのは、やはりマルケスの他者との接触を厭わない走りではないか?という気に見解を見て私もなってきました。
当人は自分に非がないと思っているようですし、いずれマイクのような立ち位置の人が彼を諭す時が必要なのではないかと。
あと、追加で紹介してくれたホルヘの記者とのやりとり最高ですねw
こんなユーモアがある人とは思いませんでした。

投稿: motobeatle | 2015/06/30 17:43

自分が知りたいことが全てカバーされている素晴らしい記事でした。 2006年のニッキーとコーリンのビデオ、これは素晴らしいreferenceと思いました。 バレがあそこでかぶせて接触してなければ・・という what if 的な質問に見事にこたえていますね! そして面白いのは、結局アウトにいてシケインをカットしたニッキーが優勝しているということも面白い。コーリンのラインもマルクによく似てますよね。 記事内の見解には全て賛成です。 いやーありがとうございます。

投稿: ken | 2015/07/01 12:52

個人的には今年のアッセンの
ソフォーグルとクルーゼルの接触の方が
悪質だったと思うけどなぁ。
ソフォーグル完全に引っ掛けるようなラインで
走っていたし。
クルーゼル怒ってたしね。

それに比べれば、今回のはまだマシかと。

投稿: ブラインドカーブ | 2015/07/01 17:31

>motobeatleさん
 確かに今回の裁定はただしい感じです。そして「気になるバイクニュース」さんはとても素晴らしいですよね!

投稿: とみなが | 2015/07/02 22:54

>kenさん
 やっぱジャーナリストはこうでなくっちゃ!って感じですね。本当に尊敬します。

投稿: とみなが | 2015/07/02 22:55

>ブラインドカーブさん
 んー、そこ、全然覚えてないです(汗)。
 まあ、アッセンはいろいろありますよねえ。

投稿: とみなが | 2015/07/02 22:56

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