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マルク・マルケスへのインタビュー:ロッシは僕のヒーローだった。だから彼と戦えるのは嬉しい

ペドロサがヘレス欠場を決めたり、マルケスがダートトラックで練習中に小指を骨折して手術したり(最新情報では回復の状況はよろしくて、ヘレスにはとりあえず出場できそうですね)と、なんか祟られてる感のあるホンダですが、とりあえずそのヘレスの前に、怪我をする直前に行われたマルケスへのインタビューを訳出。インタビューしたのはイギリスの一般紙(ゴシップ満載のタブロイド紙ではない、という意味)のザ・ガーディアン紙です。まあ朝日新聞くらいの位置づけだと思って頂ければ。
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バルセロナにほど近いカルデデウという村。早朝にもかかわらずマルケスは絶好調だった。MotoGPチャンピオンの彼は、かつてのアイドルであり現在はライバルであるヴァレンティーノ・ロッシと今年スポーツ界で最高と称されることになるかもしれない争いの真っ最中である。MotoGPに昇格した年から2年連続でチャンピオンを獲得したマルケスと、6度のMotoGPタイトルを獲得しているロッシはの二人は、どちらもその輝き、カリスマ性、議論を巻き起こす走り、そしてドラマ性で並び立っている。

去年のマルケスはロッシに35ポイントの差をつけてシーズンを終えた。しかも彼は開幕から10連勝を飾ったのである。しかし今シーズンは様子が違う。22歳の天才スペイン人である彼は、今年は36歳のザ・ドクター、ロッシに30ポイントの差をつけられてしまっているのだ。ここまでの3戦でロッシは2勝、マルケスは1勝。先のアルゼンチンGPではラスト2ラップというところで両者接触の末、マルケスが転倒している。この日曜に行われるスペインGPで同じ魂を持つ二人のバトルはさらに激しさを増すに違いないと思われていた。

ところがである。先週の土曜、このインタビューの翌日にマルケスは左手の小指をダートトラック・トレーニングの最中に骨折してしまっている。チタンプレートを埋め込む小手術を行ったおかげでヘレス出場の可能性も出てきた。左手の小指であればライディングにはそれほど支障はないとマルケスは主張しており、レースで戦える力は充分あると考えているようだ。

カルデデウに現れたマルケスはおもしろくなるほど小さな100ccのマシンから飛び降りるとグローブとヘルメットをはずし、自分がクールに見えることを確かめるかのように髪をかき上げてみせた。そして駆け寄るファンににっこりと微笑みかける。若い女性や中年の男性が自撮りをしているのをかきわける。

彼らのヒーローと一緒にカートコースを走る権利を勝ち得た者もいた。マルケスは毎レース後ろからスタートして、トップを走るアマチュアに追いつくと、必ずその一般人にチェッカーフラッグを譲っていた。もうバイクに乗るのではなく杖をついて歩いた方が良いだろうという年老いたバイカーまでもが若い娘がするように写真をねだる。マルケスはいつものように彼らの肩に片腕をまわし、もう一方の腕で親指を立てて、そして輝くように微笑んでくれる。フェンスの向こうでファンが彼の名前をコールすると、マルケスは彼らの元に駆け寄り、フェンスにのぼってファンの方に身を乗り出し、彼らの携帯写真に写ってあげる。

我々は結局ルーフテラスに逃げ込むことになった。私がマルケスにそれを提案すると、彼はまたしてもにっこり笑った。心の奥底では見知らぬ人の熱狂的や自撮りに疲れ切っていたに違いない。まるでアイドルグループから脱退したかのようにほっとした表情を見せた彼はしかし知性に満ちている。それは彼のその時の答えを聞けば明らかだ。「もちろん注目を集めすぎるのは本当に辛いですけど、みんなが応援してくれるのも感じることができて、それは最高なんですよ。スペインにいたらそういうことになるんでんです。みんな熱狂的だし、情熱を傾けてくれる。イタリアでもフランスでもアルゼンチンでもそうですけどね。ファンがいるから速く走れるんです。そこはわかってますよ」

マルケスは「傲慢」だとか「鼻持ちならない」とか言われることもある。若く金持ちで、とんでもなく才能豊かだからだ。しかしインタビューを受けてくれた彼は終始魅力的でしかも実に深く考えている人物だった。しかも彼はMotoGPよりも人気のあるスポーツはサッカーだけであるスペインで、税金逃れをしていると彼を非難する人々に対してもまっすぐに対峙している。そうした人々の思い込みによる非難に彼が辛い思いをしているということも言っておこう。

イタリアにおけるロッシの立場は少し違う。同じように批判も受けているし絶頂期に税金逃れで多額の追徴を受けているものの、イタリアでは誰もが彼を愛している。まあそうした複雑な話題に立ち入る前に、まずはマルケスがロッシに憧れていた時の話をしよう。

マルケスは語る。「僕が小さかった頃、ヴァレンティーノ・ロッシのマシンの模型を部屋中に飾ってたんです。大ファンだったんでうしょ。バイクに乗っている姿も好きだったし、降りてもかっこよかった。ヴァレンティーノみたいになりたかったんです。僕のヒーローで、だから彼と戦えるなんて本当にうれしいんですよ」

マルケスとロッシはレースのスリルと同じくらいにどちらもバトルが好きだ。「ほんとうにそうですね」とマルケスは言った。「ヴァレンティーノと僕は同じメンタリティを持ってるんです。バトルしてるとレースが楽しくなるんですよ。バイクに乗っていて一番素敵なのは誰かを抜くことなんです。そして勝つこと。だから今年は面白いシーズンになると思いますよ。ヴァレンティーノもいい状態だし、僕もいい状態でシーズンを迎えられた。それにドゥカティも上り調子ですしね」

マルケスの才能が底なしなのは間違いない。しかし彼がMotoGPで勝ちまくっているのはホンダのおかげではないかと疑う者もいる。ヤマハが差を詰めてきた今シーズンがマルケスの正念場となるだろう。アルゼンチンではマルケスが序盤に稼いだ大きなリードを着々と縮めていくロッシの魔法に相当なプレッシャーを感じていたはずだ。彼らは2回ほどポジションを入れ替え、そしてヘアピンで左コーナーに向けてマシンを右に振ったロッシのリアにマルケスが接触してしまう。そしてかなりのスピードで転倒した彼は、結局ロッシに勝利を譲ってしまったのである。

「ソフト側タイヤについての戦略が違ってたんですよ」と言ってマルケスは肩をすくめた。彼は自らが間違っていたことを認めたのである。いろんな理由があるんですけどうちのマシンはハード側タイヤではうまく走れないんです。ハード側だとせいぜい表彰台狙いって感じだったんです。それで僕の考えは変わらなかったんですよ。勝ちたかったんです。だからソフト側でいくことにしたんです。残り2周まではそれでいけたんですけどね…。でもヴァレンティーノは僕より速かったんですよね、結局。それでも彼に勝とうとしたんです」

マルケスは両腕を広げて微笑んだ。その様子はまるでいたずらを見つかってしまった子供のようだった。「僕はいつでも勝ちたいんです。『2位でいいや』なんて絶対思わない。でもいろいろ替えていくべきところはあるし、それができると思ってるし、そうすればレースでもうまく対応できるはずです」

マルケスがこんなことを言うのは初めてではなかろうか。表彰台を確保する方が無謀な勝利を目指すことより良いということである。これまで彼は何度も勝利に対して無謀な挑戦をしてきたし、実際その挑戦は何度も報われてきたし、これからもそういうことは起こるだろう。しかし生まれ変わったロッシがその前に立ちはだかっているのだ。ヘレスではそのプレッシャーに耐えられるのだろうか?

「それほどプレッシャーは感じてないですね。30ポイントも離されちゃってるんで、あとはより速く走ってとにかく勝つだけですから。30ポイントだろうが80ポイントだろうが離されてることには変わりないですからね。勝たなきゃならないってことなんですよ」

タイトル争いが白熱してきたら、現時点では良好なロッシと彼の仲は冷えていくのだろうか?「いや、そうはならないと思いますよ。そうならないといいと心から思ってますし。でももちろんタイトル争いを最後までするようになったら、もっと緊張感が出てくるでしょうね。でも去年はヴァレンティーノの私設コースに行ってますし、僕らは仲良しですよ」

他のライダーとの関係はそれほど良好ではなさそうだ。ヘレスと言えば彼の最初のホームグランプリでのホルヘ・ロレンソとの接触を思い出さずにはいられない。しかもその接触はロレンソコーナーと名付けられた場所で起こったものだ。史上最年少のMotoGPタイトルを目指すマルケスに対して、ロレンソは2010年と20112年のチャンピオン。マルケスより5歳歳上の彼はリスクを怖れない新参者とレースをするのを嫌がっていた・実際ロレンソはマルケスを嫌っているのだろうか?

「タイトル争いをしていたわけだし、緊張関係はありましたよ」とマルケスは語る。「まあ友達とは言えないですね。一緒に食べたり呑んだりはしないですし。良い関係とは言えませんよ。でもそれでいいんです。僕らはプロですから」

マルケスが苦渋を味わったのは2011年まで遡る。Moto2参戦初年度となったその年、マシンの性能は拮抗しており、彼は1ポイント差でタイトルを逃したのである。「きつかったですけど、6レース終了時点で僕は83ポイント差をつけられていて、それでもタイトル争いに持ち込めたんです。でもマレーシアでひどいクラッシュをしてしまった。ありえないクラッシュでしたね。プラクティス初日だったんですよ。1コーナーの進入で、そこだけウェットだったんです。普通ならフラッグが出てるはずだったんですけど、4台も転倒したんです。
 その後5か月、ずっとものが二重に見えていた。辛かったですよ。お医者さんは『できる限りのことはするけど、mレースを続けられるかどうかわからない』って言い続けてたんですから。本当に心配になったし、へんな気分でしたね。痛みは全然なかったんです。でも眼を開けるとものが二重に見える。それでリスクがあることはわかってたけど手術をすることにしたんです。それでうまくいったんですけどね」

マルケスのMotoGPマシンの乗りこなし方は誰にも似ていない。バイクジャーナリストのマット・オクスレイの記事を是非ご覧いただきたい。オクスレイはマルケスについてこう書いている。「マシンを暴れさせ、フロントタイヤもリアタイヤも路面にくっきり跡をつける。まるでSOSのモールス信号のようだ。トップに立つと腕、足、背中の筋肉は収縮・弛緩を繰り返し、上体はは右から左へとめまぐるしく移動する。繊細な、しかし猛獣のような動きである。マルケスはバレエダンサーとレスラーの間のどこか中間にいるのである」

現在は影で欠場中の彼のチームメイト、ダニ・ペドロサはマルケスを評してこう言っている。「マルクはいつでも限界で走ってるんです。すぐにでもクラッシュしそうな走りを続けているのにクラッシュしないんですよ」

マルケスはその微妙なバランスを取るために膝だけでなく肘まで使っている。びっくりするような話だが、彼が使っているのはプラスチックではなくマグネシウム製のエルボースライダーだ。「みんな相当驚いたみたいですね」とマルケスは言う。「僕がやり始めるまでは誰も肘を使ってなかったですからね。いまじゃあみんなやってますけど。信じられないですけど、サーキットに行くと子供も肘を擦ってたりするんです。あと7年もすれば方やヘルメットまで擦り始めるかもですよ!レースを楽しんでるときは上手くバランスが取れるんですよね」

さすがの彼でも、自分がアンドラに移住するのはスペインの重税を逃れるためだと非難された上に、彼への支援を止めるようにと5万人が署名した嘆願書がスポンサーに提出されたのはこたえたようだ。「辛かったですし、何より最悪だったのはみんなが何も知らないまま言いたいことを言ってたことですね。僕のことを悪く言ってたけど、単にアンドラに家を買って、ちゃんと手続きをしたってだけなんです。この4年間シーズンオフにコンディションを整えるためにアンドラに行ってるんですよ。それまではホテル暮らしだったんですけど、家を買うことにした。それだけなんです」

アンドラに定住するという話は嘘だということだろうか?「嘘ですよ。今でもスペインに住んでるんだし、それは変わらない。まだ税金も払ってますよ。もちろん将来はどうなるかはわからないですけどね。5年前に今の自分の状況なんて想像でもできなかったわけですし」

マルケスが移住する可能性もあるのかもしれない。他の多くのライダーが税金の安いスイスに住んでいる。とは言えこの話についてはマルケスは記者会見で涙を流しているということも忘れるべきではないだろう。「あの時はものが二重に見えていた時のことを思い出しちゃって、移住ネタも本当に辛かったですけど、怪我のことを考えたら耐えきれなかったんです。走り方もまだ学んでいますけど、人生もまだまだま学ばなければならないことがありますね。まだ22歳だってことも思い出さなきゃですよ。人生まだまだ勉強ですよ」

会ったこともない人にいろいろ推測された上に評価されることにも慣れなければならないようだ。「もう少し違う状況だといいなと思うことはありますよ。でも今の状況には満足してるんです。子供の頃に夢見ていたことですからね。サーキットでのことは夢見ていたとおりです。でもサーキットの外で何が起こるかはわかってなかったですね。昔の友達とは相変わらずですけど、人生はずいぶん変わってしまいましたね」

そう言ってマルケスは若い男の子らしい笑顔をもう一度見せてくれた。しかしロッシを破って三連覇ができるかと尋ねると彼は即答した。「もちろんですよ」と言ってからしばらく考えた後、こう言ったのだ。「ポイント上で不可能になるまでそう信じ続けるでしょうね。でもヴァレンティーノは相当覚悟してるはずです。これが彼の最後のチャンスかもってね。だから最後まで彼と戦い続けることになるでしょう」
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いいインタビュー!インタビュアーによって何が引き出されるかが違うって好例ですね。

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コメント

マルケスは、非常に若いにも関わらず聡明な頭脳の持ち主なのは間違いないですね。
マシンを降りたら性格も良さそう。
身体も鍛え抜かれて滅茶マッチョだったはず。
完璧無比かもしれませんが、でも少しくらいドジだったり影のあった方が、親しみを持ち易い気がすると考えるのは妬みですかねw
三戦終了したといっても、長いシーズンまだまだ序盤。
確実に彼は上がってくるでしょう。
しかし今年チャンプ獲ったら三連覇ですか。
凄すぎます。

投稿: motobeatle | 2015/05/02 11:46

>motobeatleさん
 ほんとに子供っぽさがないですし、まあ天才、って感じですねえ。
 ロッシのデビュー当時はもっと無邪気な感じでしたし。
 マルケスの追い上げにも期待しましょう!

投稿: とみなが | 2015/05/02 16:44

いつもありがとうございます。 
アルゼンチンのマルクとロッシの接触で、二人の関係が変わったのでは? とか、ロッシは故意にぶつけた? だとかマルクは、もっと自重すべきだ! みたいな意見が世間を賑わせていましたが、へレスのプレカン、そしてこの記事を見て、あーなんも変わっていないんだなぁ と安心しました。 アルゼンチンの事を聞かれた二人は、どちらから謝る事もなく、責める事もなく、何故あの接触が発生したのか?を二人とも理解していること、そして、レースではありうること。 と淡々と語っていました。大抵は、2013年のへレスのホルヘVSマルク、そして2008年のラグナセカのロッシVSケイシーの様に波紋を残し、そしてそれに対して、「This is racing」と二人ともいつも淡々と言っていたもんですが、今回は、当事者同士になっているのが面白かった。

マルクは確かに22歳ですが、日本でも22歳で落ち着いた人間はいくらでもいます。 但し、いくら大人びていても、精神年齢が高いとしても、22歳としての無邪気さであるとか、やんちゃさは必ず残っていますよね。 マルクにもそんな所があるんだろうな?と勝手に妄想しています。 

年齢がばれますが、どうしてもロッシの全盛期と比較してしまいます。 あわよくば、今回のへレスで、最終ラップの最終コーナーで二人が絡んだらどうなったか見てみたかったです。 2013年のマルクは、

「最終ラップの最終コーナーでスペースがあったからインに入り接触してしまった」

ロッシはセテとの接触について、
「最終ラップの最終コーナー、(実際にスペースはなかったが)、スペースがある振りをして飛び込んだ」

と言っていたそうです。 最終的には、常に全力のマルク、少し腹黒いロッシ の構図は変わらないようです(笑)

投稿: ken | 2015/05/04 14:03

>kenさん
 意外と二人の関係が変わってなくって、実はわたしはちょっと残念です(←ギスギスした表彰台好きw)。
 でもいい感じでいろいろ楽しめそうでいいですね!!

投稿: とみなが | 2015/05/05 21:22

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