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2015アルゼンチンGPまとめ:ロッシ vs マルケス、なぜ「専門家」を信じてはいけないかについて

ことによったらここ10年くらいのMotoGPベストバウトかもしれないアルゼンチンGP。誰もがいろいろ語りたくなっているらしく、MotoMatters.comも長文です。がんばって訳すよ。

あ、あんまり長いんで最後まで読んでもらえかもしれないかもですから、ここで忘れないように書いておきますが、現在MotoMatters.comは資金集めをしています。資金集めサイトはこちら。右の「Donate Now」ボタンをクリックして、金額(現在レートで1ユーロ130円くらいです)、名前、e-mail、国、郵便番号、クレジットカード番号、有効期限、セキュリティコードを入力するだけです。皆さま是非!
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プロの専門家など決して信じるべきではない。我々のようなライターやレポーター、予想屋、コメンテーターはことあるごとに自分の専門分野についての見解を述べようとする。努力して集めた豊富なデータのせいで専門分野のことならなんでもわかってると思い込んでいる。だからこそ我々(ここで言う「我々」とは私一人のことではなく我々全員がということだ)は読者にあらゆることを語ってみせる。曰く「ケイシー・ストーナーはドゥカティでレース復帰することになっている」。曰く「ヴァレンティーノ・ロッシがレプソルホンダに加入が決まる」。曰く「ケイシー・ストーナーは引退しない」。曰く「ダニ・ペドロサが引退するだろう」・・・。

あなたが読んでいるこの記事を書いている私も同じだ。2013年、ヤマハに戻ったばかりのヴァレンティーノ・ロッシについて私は彼はもう終わりだと書いた。彼は34歳で、運動神経はすでに下り坂で、せいぜい世界で4番目くらいのライダーだと断じてみせたのだ。コンディションや周りの状況に助けられでもしない限りもう彼がレースに勝つことはないだろう。そう確信を込めて書いた。彼が終わりだと書いたのは私だけではない。そしてロッシは去年のミザノでそう書いた全員が間違っていたということを証明してみせた。そして迎えた2015年シーズン。3戦が終わって2勝したのはロッシである。そしてランキングトップもロッシである。

アルゼンチンのレースの後、専門家を称する連中は誰もがしめしめと思っていた。「ヴァレンティーノ・ロッシとマルク・マルケスについて分析して、彼らが何を考えていたか推測して、さも知っているかのように彼らの考えを描き出してみよう」。ロッシに抜かれたマルケスが、彼を抜き返そうと思っていたことは間違いないとか、マルケスはルーキーじみたミスを犯したとか、ロッシはついにマルケスの心を支配したとか、まあ自分なりの説を開陳してみせるのだ。何を書いてもそれが否定されたりチェックされたりすることはない。それができる世界でたった二人の男は他にやることがたくさんあるのだ。生きるためにレースをするとかMotoGPのタイトルを目指して戦うとか、まあそういうことなのだが。

何が起こったのかまとめてみよう。2人のライダーが残り2ラップというところで接触した。ファンの記憶に残る一瞬である。しかしそこに至るまでの過程こそが語るべき物語なのだ。その物語は金曜から始まっていた。ブリヂストンが持ち込んだ新型タイヤにライダーが順応しようとしてたときの話だ。昨年初開催となったテルマス・デ・リオ・オンダの常識外れのタイヤへの攻撃性に耐えられなかったことを反省して、ブリヂストンはタイヤの組み合わせを変えてきたのである。ホンダとヤマハ用に左サイドにより固いコンパウンドが採用された新型エクストラハードを用意したのだ。序盤でのフィーリングは劣るものの、レースディスタンスを通じて高い耐久性を持っているタイヤだ。

さらに重要なことは、ライダーがレースを走りきれる2種類のタイヤを選べるようになったことである。たいていは選択肢は明らかであり、誰もが同じタイヤをチョイスすることになる。これを問題視する向きもあるが、実際にはブリヂストンがサーキットにマッチするタイヤをきちんと用意しているということなのだ。ブリヂストンに対する良くある苦言はこうだ。「いい製品にもほどがある」。おかげでライダーにもマシンにもとてつもない能力が要求されてしまうということである。

アルゼンチンでブリヂストンがやってみせたのはその評価/苦情を倍にするということだ。2種類のタイヤがどちらも良かったのである。ハードタイヤはレースディスタンスをこなすことができる上、序盤にかなりの速さを出すことができるが、それでも後半はたれてくるというものだった。そしてエクストラハードは序盤のグリップとフィーリングを犠牲にしてはいるが、レース後半になってもペースが落ちないというものだった。結果、マシンとタイヤの相性の違いが選択の違いに直結することとなった。コーナリングスピードを重視するヤマハはタイヤエッジの耐久性を重視してエクストラハードを選択し、一方のホンダはマシンを早めに起こすことでグリップを確保しているためハードタイヤでいいタイムを出せたのだ。ホンダとしてはエッジグリップはそれほど重要な要素ではなかったのである。

パズルの最後のピースは路面温度だった。路面温度が高ければホンダもエクストラハードを使ったろう。そして路面温度が低ければハードタイヤが正しい選択となる。レース当日、スタートとなる16時時点でも路面温度は刻々と変わっていた。低かった路面温度が上がっていったのだ。誰もがマルク・マルケスに注目していた。どんなタイヤを選択するのか。サイティングラップではエクストラハードを履いていた。しかしこれはライバルを惑わせるためだったろう。グリッドにマシンが戻るとホイールが交換された。しかしタイヤウォーマーに覆われたタイヤがどちらなのかはスタートの1分前にウォーマーがはずされるまではわからないままだ。

マルケスの策略に惑わされたライダーもいたかもしれないが、ヴァレンティーノ・ロッシには全く影響がなかった。彼も彼のスタッフもエクストラハードしか選択肢が無いことをわかっていたのだ。他のライダーが何をしようが関係ない。レース後のロッシはこう言っている。「マルケスのことを全く気に賭けていなかったのがポイントでしたね。自分のことしか考えてなかったんです。レースディスタンスを通じてタイム落ちが少ないタイヤを使うことしか考えてなかったんですよ」。中盤に沈んでしまった予選結果を考えるとスタートも大事だった。そしてロッシのスタートダッシュは見事だった。しかしドゥカティのアンドレア・イアンノーネに1コーナーではじき飛ばされ8番手にまで落ちてしまう。

その後の展開はライダーのタイヤ選択通りになった。マルク・マルケスは明らかにトップスピードで劣るスズキのアレイシ・エスパルガロをバックストレートで抜き去ってトップに立つ。カル。クラッチローがそれに続く。彼の戦略はハードタイヤで稼げるだけのアドバンテージを稼ごうというものだ。モヴィスター・ヤマハのホルヘ・ロレンソとヴァレンティーノ・ロッシはエクストラハードのアドバンテージが発揮できるまでは耐えるしかない。ロレンソは理想的なスタートを切って2番手につけたが、しかし赤いラインが入ったハードタイヤを履くホンダとドゥカティの軍団に飲み込まれてしまう。

その後は凋落の一途だった。序盤ではチームメイトがすぐ後ろにつけているだけで、他のライダーははるか後ろにいたのだから、なにがあっても順位を一つ落とす程度だったはずだったのだ。しかし彼はトップのペース、そしてロッシのペースについていけなかった。ロレンソはタイヤを使いこなせなかったという以外の明確な説明はしていない。「ホイールスピンしたらどうすべきか全くわからないんです。ヴァレンティーノみたいに乗れないんですよ。彼は本当に信じられないようなレースをしてみせましたね」。ロレンソの目標ははっきりしている。「また速くはしれるように学習しないといけないんです。また速く走れるようになれば表彰台争いもできるだろうし、優勝も視野に入ってきますから」とロレンソはスペインのメディアに語っている。

今のロレンソは自信を喪失しているようだ。身体的にはいい状態で、マシンも速い。かつての速さを一瞬見せることもある。ヘレスかルマン、つまり彼が得意なサーキットで良い結果を出せればまた復活するだろう。アルゼンチンではタイヤ選択が状況を複雑にしていた。ロレンソも、そしてスミスも、ハードでもエクストラハードでも使えるという状況が迷いの元になったと謂っている。ロッシは選択を終えてレースに臨んでいた。タイヤ選択を早めに終えたことでいい結果が出せたのだ。ロレンソも同じようにしていたら結果は違っていたかもしれない。

レース中盤にはタイヤ選択の結果は明らかになったように見えた。マルケスは安全圏に逃げ、あとはギャップを調整しながら走るだけで良いというところまで差を広げていた。そうなってからやっとロッシのタイヤが機能し始めたのだ。タイヤが滑るようになるとロッシはいい感じで走れるようになった。スタートで出遅れると、彼の目標は2位を確保してチャンピオンシップのためにできる限りのポイントを稼ぐことになったのだが、アンドレア・ドヴィツィオーゾに1秒の差をつけ、しかも4秒あったマルケスとの差が思いの外早くつまり始めたのに気付くと、違う展開が見えてきた。

「アルゼンチンではマルク・マルケスは最初これくらいにしか小さく見えなかったんですけど、どんどん、どんどん彼の後ろ姿が大きくなってきて、ことによったら最終ラップで追いつけるんじゃないかと思い始めたんですよ」とロッシは言っている。彼の予想は外れた。ロッシがマルケスに追いついた時点でまだ3周も残っていたのだ。そしてロッシは最初のアタックを開始する。ロッシは常にマルケスのお手本だった。マルケスはロッシから多くのことを学んだと常に言っている。マルケスが学んだことのひとつに「もし誰かが自分を抜いたら、絶対すぐに抜き返せ。そうすれば相手のリズムは崩れるし、相手の自信も粉々に打ち砕ける」ということがある。良い流れを自分に引き寄せること、自信を持つこと。それがレースのすべてである。そして自分の思うように流れを作ることができればレースを支配することができる。

ロッシがマルケスを抜くと、すぐにマルケスは抜き返す。彼はロッシを1周は抑えたが、ロッシが再び抜き返すのは時間の問題だった。それでも耐えたマルケスは、しかしストレートエンドではらんでしまい、右の5コーナーへの進入でロッシにブレーキングで抜かれてしまった。そしてヘアピンの後半でロッシのインに強引にねじ込むが、ロッシのラインの方が有利だったせいで、結局マルケスは遅れを採ってしまう。そして左6コーナーの倒し込みがやってくる。

その後に起こったことはややわかりにくい。これが別のライダーの間で起こったことなら、それともマルケスかロッシのどちらかが別のライダーだったら、この接触転倒事件は別の展開を見せることになっただろう。しかしマルケスもロッシもオーバーテイクの達人で、そう簡単には抜けないライダーで、そしてどちらも他のライダーでは思いもしないようなリスクを冒すことができる。マルケスの方が問題視はされていた。Moto2時代の他のライダーをはじき飛ばす彼のやり方には悪評がつきまとっていた。MotoGPに昇格してからはずいぶんおとなしくはなったが、それでもリスクを冒す誘惑には抗しきれないことが何度もあった。

ロッシも議論を巻き起こすような走りを何度もしているが、それでもまだマルケスよりはましだと思われている。もちろん隙を見つけたらそれを逃すことはないし、あえてリスクを冒すのも厭わない。接触も怖れてはいないのはこれまでの彼の走りからも明らかだ。ヘレスでのセテ・ジベルノー、もてぎでのホルヘ・ロレンソ、ラグナ・セカでのケイシー・ストーナー。彼らは皆、ロッシに煮え湯を飲まされている。しかしマルケスに比べたら、わずかとは言えロッシの方が無謀ではないと言えるだろう。燃え落ちた車の横にマッチを持って立っているのがマルケスなら、ロッシは自分が車を燃やしたかどうかは別として、放火が発覚したときに火のついたマッチを持っているが自分ではないように周到に立ち回るタイプなのである。

つまり何が起こったかについては推測の域を出ないということだ。5コーナーを立ち上がったロッシは左にマシンを切り返し、6コーナーに向けてマシンを走らせる。そしてマルケスが来るだろうと予測するかのように一瞬後ろを振り向く。マシンを左に倒し込みコースを横切ると、マルケスのフロントホイールと接触する。マルケスのRC213Vのフロントは地面から離れ、直後にマシンはマルケスを置き去りに路面を滑っていった。マルケスはすぐに立ち上がるとマシンにもの凄い勢いで駆け寄り、レースに復帰しようとするが時既に遅し。エンジンは止まってしまっており、結局マルケスはキルスイッチに手を触れることになる。

ロッシはマルケスを見ていたのか?それを知るのはロッシだけだ。プレスカンファレンスでは見ていなかったように言っていた。ロッシはわざとマルケスのラインを邪魔したのか。前を走っているロッシがそうしたところで非難される筋合いはない。後ろにいるバイクが安全のために避けるのは当然だ。ロッシはもちろんマルケスが次のコーナーで仕掛けてくることはわかっていたはずだ。自分も抜かれたときに反撃しないことはないからだ。おそらく彼はマルケスがブレーキングでインにねじ込んでくると予想したのだろう。プレスカンファレンスでロッシはこう言っている。「スロットルを開けて加速したんです。次のブレーキングで少しでも差をつけておきたかったんですよ」

5コーナーからのロッシの立ち上がりラインは通常のラインではなかったのだろうか?そうとも言えない。序盤ではホルヘ・ロレンソが全く同じラインを走っている。6コーナーに向けて切り返すラインがそうなっていたのだ。クラッシュの直前のラップでもロッシは同じラインを走っている。6コーナーの進入がわずかにワイドになっていたのだ。さらに言うなら、マルケスと最初に接触した時、ロッシのマシンはかなり振られているのだ。つまり自分のラインで走っていたときほど自由度が無かったとも言えるのである。

ではあのクラッシュはマルケスの失敗だったということなのか?これについては二つの側面から語るべきだろう。長期的、つまり1レースの話ではなくチャンピオン争いという意味では、その通りかもしれない。マルケスは無理をしなければ2位に入って20ポイントを確実に手にしていたはずだ。しかしそれはマルケスの性格を考慮すればあり得ないことだろう。「マルクは優勝か転倒かというライダーなんですよね」とロッシは指摘している。そして今回は転倒に終わってしまっている。とは言え、マルケスがこれほどまでにリスクを冒すライダーでなかったら、2回もチャンピオンになっていないだろうし、記録に残るライダーにもなっていなかっただろう。

一方短期的な視点、つまりレースに勝つことだけを考えれば、これはいつものマルケスのやり方であり、彼が5コーナーでロッシにプレッシャーをかけながらロッシの後ろについて、6コーナーから7コーナーで仕掛けるという手もあったはずだ。マルケスは最後の2周、ロッシについていけると考えていたはずで、つまりは戦えると考えていたということだ。「最後の2ラップはいいペースで走れると思っていたんですよ。だからタイムを上げていったんです」とマルケスはスペインのメディアに対して語っている。ラップタイムがその言葉を裏付けている。21周目、マルケスは1分39秒3で走るロッシに互して1分39秒4で走っているのだ。そして23周目のロッシのタイムが1分39秒2だったのに対してマルケスはやはり1分39秒4で走っている。残り2ラップ。接近戦であることを考えればマルケスが勝てる可能性もあったのだ。

とは言え客観的に見ればマルケスが間違った判断をしたということになるだろう。5コーナーで仕掛けたせいで、マルケスはロッシの死角に入らざるを得なかった。ロッシの右後ろについてしまったのだ。ロッシが走りそうなライン上に行ってしまったのである。そしてトップを守りたいがために、その後の反撃で挽回するという選択肢を捨ててしまったのだ。マルケスのフロントホイールは必然的にロッシのリアホイールが来るべきところに行ってしまう。つまりマルケスは負けざるを得なかったと言うことである。サイコロを振ったのはマルケスであり、出目が1のぞろ目だったことについて彼が文句を言う筋合いではないのだ。

マルケスはどちらのせいでもないという慎重な立場をとっている。しかし彼がスペインのメディアに語ったところでは、ロッシに責任はないと考えているわけでもないようだ。何が起こったのかという質問に対してマルケスはこう答えている。「テレビで見た通りですよ。見ればわかるでしょう。ヴァレンティーノは本当にヴァレンティーノなんです。彼はいつでも僕のお手本で、いつでもいろいろ教えられてますよ」。ロッシが悪いのかどうか聞かれたマルケスはそれをはっきりと否定している。「いや、そんなことはないですね。まあこういうことはレースで起こるものですしね。何かを学んで次のステージに行くんですよ。レースでバトルしてれば起こることです。いつでも勝てるというわけじゃない」

では悪いのは誰か?マルク・マルケスなのかヴァレンティーノ・ロッシなのか?実際にはどちらでもない。接触するようなところにマシンをもっていったのがマルケスだとしてもだ。レースディレクションがこの件を審議してるが、結局レーシングアクシデントだっという判断をしている。我々のような立場だとドルナの提供する映像(それでも前、後ろ、ヘリコプターという3つのアングルから撮っているという素晴らしいものだが)から判断するしかないのだが、レースディレクションは他にも使える映像を確認しているのだ。サーキットの固定カメラや、焦点が合わなかったり一瞬しかとらえていなかったりドルナの他のカメラがあるのだ。マルケスもロッシも聴聞に呼ばれることもなく、ペナルティポイントも科せられなかったことがすべてを物語っているとも言えよう。

かつてのライバルを打ちのめしてきたように、ロッシはマルケスも打ちのめしたのか?それはないだろう。ロッシが心理戦の名手だというのは過大評価なのだ。彼はコース上ではもの凄い才能を発揮するし、だからこそライバルの心を折ることができるのである。付け加えて言うなら、マルケスをこれほどまでのライダーにしたのは彼自身の心の強さでもあるのだ。彼のメンタルの強さを疑うのであれば2013年のフィリップアイランドを思い出すべきだ。スタッフのミスでピットストップを余儀なくされて、結局失格に終わったにもかかわらず、1時間後にはいつも通りの心理状態に戻り、最終的に初のタイトルを獲得したのである。これで足りなければ2011年のセパンのクラッシュで負った眼の怪我のせいで引退直前まで追い込まれたことも思い出してみよう。これに比べれば1回の転倒など些細なことにすぎない。

ロッシとマルケスの間で起こったクラッシュはチャンピオン争いにはいいスパイスとなった。誰もがもう終わりだと思ったヴァレンティーノ・ロッシが3戦中2勝を挙げてランキングトップに立ち、勝てなかった1戦でも表彰台に立っている。10度目のタイトルも視野に入る勢いだ。トップスピードには劣っていてもヤマハが勝てるマシンであることを証明した。ヨーロッパラウンドに入ればロッシが得意なサーキットがたくさん待っている。シーズン中盤までにリードを確固たるものにする自信もあるだろう。シーズン前にチャンピオン候補に挙げられていたホルヘ・ロレンソとマルク・マルケスの二人はロッシにそれおれ29ポイント、30ポイントという大きな差をつけられてしまった。ロレンソに至っては未だに表彰台に昇っていないというありさまで、マルケスは2回のレースで2回の大きなミスを犯している。流れは間違いなくヴァレンティーノ・ロッシに傾いている。

ロッシを脅かす最大の存在がアンドレア・ドヴィツィオーゾだというのも中々味わい深い。ドヴィツィオーゾは開幕からの3戦ですべて2位に入っており、ロッシの66ポイントに対して60ポイントを稼いでいるのだ。去年、ジジ・ダリーニャの努力によって開発が進んだドゥカティを見事に花開かせている。そしてGP15自体も今年は開幕から驚くほどの戦闘力を見せているのだ。そのエンジンパワーはホンダに匹敵し、ハンドリングはヤマハと堂々なのだ。もしドゥカティがエクストラハードタイヤを使うことになったらドヴィツィオーゾとイアンノーネの順位は違ったものになるかもしれない。ヤマハやホンダと互角に戦うためにドゥカティに与えられた優遇措置が優遇措置ではなくなり始めている可能性はある。とは言えドゥカティの内部スタッフは大して気にしていないだろうと私は考えている。彼らは成功を待ち望んでいるのだ。

ではドヴィツィオーゾはロッシとタイトル争いができるだろうか?マシンにはまだ改良の余地はあるが、不可能な話ではないだろう。ロッシに注目が集まっている隙にドヴィツィオーゾは努力を続け、考え、チャンピオンを獲るための走りをするだろう。彼がこれまで積み上げてきたことに思いを馳せれば、勝利はそう遠くないものだと言えそうだ。

誰もがトップ争いに眼を奪われていたせいで、テレビには素晴らしい3位争いが映らなかったのは残念だ。激烈な接近戦の上、カル・クラッチローがアンドレア・イアンノーネを下して表彰台に昇ったのだ。LCRホンダに移籍して3戦目で表彰台を獲得した彼は意気軒昂である。3年で3メーカーを渡り歩き、しかも昨年のドゥカティでは辛酸をなめたことを考えればこの結果は賞賛に値する。彼と一緒に表彰台に昇ったのが元チームメイトのアンドレア・ドヴィツィオーゾであり、そしてクラッチローがわたり歩いたホンダ、ヤマハは、ドゥカティのすべてで表彰台に昇ったことのあるヴァレンティーノ・ロッシだというのはやや皮肉なことでもある。

4位にに押し出されてしまったイアンノーネだが、ドゥカティで実によく戦ったと言えるだろう。そして今回の表彰台争いは彼の頭の良さを印象づけるものであった。「気狂いジョー」というあだ名がついたほどの彼だが、もう猟奇殺人鬼の面影は全くない。ずいぶん大人になったものである。

残念な結果に終わったロレンソの後ろでゴールしたのはブラッドリー・スミスだ。堅実に走りきり、チームメイトの前でゴールしている。ただ、チームメイトのポル・エスパルガロも同じ問題を抱えていたが、エクストラハードタイヤでは上手く走れなかったようだ。ロレンソと同様、ロッシほどにはグリップを引き出せなかったのである。

7位にはスズキのアレイシ・エスパルガロが入っている。今シーズンの最高位だ。彼のチーフメカであるトム・オケインに言わせれば「自分が一緒にやったなかで一番過小評価されているライダー」である。エスパルガロはアプリリアでもヤマハのオープンマシンでもスズキのワークスマシンでも、常にマシン以上の走りを見せてきた。「いつだって彼はコースに出れば100%の力を発揮するんだよ」とオケインは言う。現時点でのスズキの問題点は二つ。解決に時間はかかるだろうがパワー不足の解消と、こちらは短期的に解決できそうなチャタリングである。ヘレスにはチャタリング対策の新型パーツが来るだろうが、パワー不足の解消にはそれなりの時間がかかりそうだ。ヘレスのようなタイトなコースならエスパルガロにも他のワークスマシンとバトルを繰り広げるチャンスがあるだろう。チャタリングさえなくなればヘレスでは4メーカーの戦いが見られるかもしれない。

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さてここまでお読みになっていかがだったろうか。アルゼンチンについての私、すなわちプロの専門家の見解である。もちろんすべてを鵜呑みにする必要はない。むしろ眉に唾をつけて読むくらいで丁度いいだろう。できる限りの情報は集めているし、何度もビデオを見返しているし、最高に冷静になって情報を検証している。私は間違っていないか?たぶん間違いはあるし、謙虚さに欠けるせいで間違ったことは何度もある。自分が見たと考えているもだって間違っているかもしれない。視力が1.0だって保証はないのだ。専門家と呼ばれることもある私だからこそ間違っている可能性が高いのである。
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そう!この謙虚さがあるから信頼しているのですよ!

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コメント

超訳ありがたく。個々のライダーのキャラと持っている運が絡み合い正に小説よりきなり。ルパンや陽気な肘使いカーロスや皮肉やのニュータイプアムロがバトルするの楽しみにしています。

投稿: とんからりん | 2015/04/24 08:44

そうなんですよね。
アクシデントでかすんでいるけど、エクストラハードを
生かしたセッティングをチームとともに進めて
最後で帳尻を合わせたドクター・ロッシの
手腕をもっと評価するべきだと思う。

まるで困難な手術をあざやかなメスさばきで
こなしたドクターのように。

投稿: ブラインドカーブ | 2015/04/24 08:58

まだアルゼンチン戦を観てないのでより楽しみになりましたよ


>燃え落ちた車の横にマッチを持って立っているのがマルケスなら、ロッシは自分が車を燃やしたかどうかは別として、放火が発覚したときに火のついたマッチを持っているが自分ではないように周到に立ち回るタイプなのである。

この例えはすごい発想だなぁと(笑)

投稿: サブLH | 2015/04/24 10:57

最高に面白い記事だった。

投稿: えでい | 2015/04/24 16:41

>とんからりんさん
 楽しんで頂けて幸いです。いいバトルを期待したいですね!

投稿: とみなが | 2015/04/24 22:38

>ブラインドカーブさん
 ですねえ。しかしちゃんとそこに着目しているMotoMatters.comに対しても尊敬の念が積もるばかりです。

投稿: とみなが | 2015/04/24 22:39

>サブさん
 私も訳しながら笑っちゃいました。でもそんな感じ。マルケスは純真だけどロッシは腹黒いですよね(笑)。

投稿: とみなが | 2015/04/24 22:40

>えでいさん
 いい記事ですよね〜。記事冒頭のMotoMatters.comの資金集めにも是非ご協力ください!!

投稿: とみなが | 2015/04/24 22:41

長文和訳ご苦労様でした。
それにしてもロッシの本格的な復活は脅威的です。
ある種、違和感すら感じるほどと表現したら言い過ぎでしょうか。
あのアクシデントはレースアクシデントだと思います。
マルケスは、まだ残りがあったのだから慎重に行けば勝てたと思います。

あとドカティにストーナー復帰の文。
これは現実味があるかもと思いました。
勝利を手にするとなるとドカは彼に触手を伸ばすのではないでしょうか?

投稿: motobeatle | 2015/04/25 10:07

ロッシの心理戦の強さについての記述がありましたが、全く同感です。 心理戦は、ロッシに速さがあってこそ初めて効果が出ると思いますし、実際に2011~2014年の4年間は勝てていなかったわけですし。(過去二年で3勝はしましたが、無論チャンピオン時代とは全く違うものでしたので)

今回の勝利については・・やはり感服です。 正直終わったライダーと言うのが誰もが感じていた事実ですし、ロッシ自身も引退を真剣に考えるところまで来ていたかと思います。 本当にすごいですね。 ジベルナウと争っていた時のロッシは、本当に憎らしい程強く、Unbeatableに見えたものです。その時、ドゥーハンがいたら? なんていう what if storyを皆考えていた訳ですが、今は、昨年憎たらしい程強かったマルクに対して、自信を取り戻したロッシが挑む・・最高のシチュエーションですよね。 ロッシもいつかは引退をするとは思いますが、もしここでもう一度チャンピオンを取ったら・・自分が死ぬまでこれほど面白く、偉大なライダーは出ないだろうな・・と思います。

マルクについては、本当に面白いライダーで、世間で批判される彼のスタイルと彼の強さは、これも記事の通り表裏一体と思います。以前のロッシの腹黒さと同様ですよね。若く、強いアンビシャスを持ち、技術も持つマルクが偉大なチャンピオンのロッシと今シーズンを通して争ってくれれば最高ですよね。 両者ともに 「勝てる理由」を持っている。 スピード、スピリッツ共。 

投稿: ken | 2015/04/25 18:05

>motobeatleさん
 ほんとにロッシの復活はすごいですよねえ。あの勝利への執念はおそろしいほどです。実はあんまりロッシのことは好きではないのですが、ここまできたら頭を下げざるを得ないですね。

投稿: とみなが | 2015/04/29 22:52

>kenさん
 気持ちの強さと、それに裏打ちされた心理戦のうまさ、でしょうか。本当に凄いし、これからいつまで勝てるのかもちょっと見続けなければですね。

投稿: とみなが | 2015/04/29 22:53

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