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MotoGPレースディレクター、マイク・ウェッブへのインタビュー

レース・ディレクションっつーのはレースのお目付役みたいな感じで、ホワイトフラッグ(雨でフラッグ・トゥ・フラッグ:乗り替え可の印)を出したり、レッドフラッグ(レース中断)を出したり、危険な行為をしたライダーにペナルティ・ポイントを科したりと、なかなか厳しい決断を迫られる組織ですが、そのトップであるレース・ディレクターのマイク・ウェッブ氏へのインタビューがCRASH.netに掲載されていましたので訳出。
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今回のMotoGPのレースディレクターであるマイク・ウェッブへのインタビューは残り2戦となったセパンで行われたものである。

まず2016年に導入される全メーカーが統一電子制御システムを使うという新たなルールから始まり、ミシュランへのタイヤ変更、本来あるべきライディング、そしてジャックミラーのMotoGP飛び級等々、多岐に渡る内容について話してくれた。

CRASH.net:まずは2016年のルール改定から話をしたいのですが、2016年からはファクトリー・クラスもオープン・クラスもなくなって、全ライダーが同じ技術規定で走るということでよろしいんですよね?

マイク・ウェッブ:その通りです。この何年も、少なくとも2012年からずっと統一の技術規定を導入したかったんです。MotoGPクラスに複数のクラスがあるというのはあくまで暫定的なものだったんです。2016年に向けてまずはプライベートバイク(原注:CRT)をまずは導入して参戦台数を増やし、そして徐々にそのマシンをオープンクラスという戦闘力のあるものにしていって、最終的には全ライダーが同じルールで走るようにもってきたわけです。


CRASH.net:純粋なプライベーターが緩い燃料制限や、より柔らかいタイヤといった今年のオープンクラスのような優遇措置を受けるのはそんなに悪いことなんでしょうか?

マイク・ウェッブ:個人的にはパフォーマンスを一定レベルにするような措置に反対しているわけではありません。他のモータースポーツでも良くあることですしね。でも本来の理念に従うなら、同じレギュレーションにして、最高のパフォーマンスを発揮できる力のある者が、最高のパフォーマンスを発揮できるようにしなければならないんです。
 最終的にはプライベーターもワークスと同じ仕様で走れることが目的なんだと思っています。理想を言えばそこまでいきたいですよね。でも現実世界ではそうはいかない。サテライトマシンでも微妙に違いますからね。
 ルールがどうあろうとワークスが常にマシンを最適な状態にできて、常に改良し続けるというのは誰もがわかっていることではありますが、マシンに関しては皆が同じスタートラインに立てるようにしたいと考えているんです。
 振り返ってみれば2ストローク時代は市販マシンもあったわけです。ワークスマシンとほぼ同じマシンを買うことができた。ワークスが開発してチューニングしたものを使えるようにしてくれてたんです。ワークスとそれ以外の違いは、いいライダーを雇えるかどうかだった。それでワークスは勝てたんです。


CRASH.net:今はファクトリー、ドゥカティ用ファクトリー、オープンと3つのクラスがあるわけですが、2016年のレギュレーションはどれに一番近いんでしょうか?

マイク・ウェッブ:オープンとファクトリーの中間になるんですけど、ドゥカティとも違うものになりますね。電子制御はハード、ソフト共に2016年には全ライダーが同じものを使うことになっています。ドゥカティは今年は自社製ソフトを使っているので、そこは確実に違うことになるわけです。
 2016年のについてはまだMSMA(モータースポーツ製造者協会:メーカーの集まり)とドルナ/IRTA(国際レーシングチーム協会:チームの集まり)との間での最終的な合意ができているわけではなくて、調整が続いているところです。既に案はできていて、それについて議論しているところです。燃料制限とエンジン使用台数はファクトリーとオープンの間くらいに落ち着きそうだと思っています。そのあたりが丁度いい落としどころでしょうね。
(原注:現在のファクトリークラスの燃料制限は20L、一方、ドゥカティ/新規参戦メーカー、オープンクラスは24L。エンジン台数に関してはファクトリークラスが5基に対してドゥカティ/新規参戦メーカー、オープンクラスは12基となっている)


CRASH.net:つまり2016年の新ルールに関してはほぼでそろっていて、実質3クラスなのが1クラスになるということはもうわかっていて、メーカーが特にびっくりすような話は出てこないということですね。

マイク・ウェッブ:そこがポイントなんです。統一電子制御システムソフトとハードを使うオープンクラスを導入した時点では、それがワークスにまで導入されるかということについてずいぶん懐疑的に言われてきたわけですけどね。「プライベーターにはそれでいいだろうけど、うちとしてはそれではレースはできない」ってね。
 ホンダもヤマハもドゥカティもオープンクラスにマシンを出していて、電子制御システムは同じなわけです。で、「いいね、ちゃんと走れるね」ってなったんです。ですからあとは細かな点を詰めるだけですね。2016年から導入される統一電子制御システムでも、全チームが不満無くやれるだろうと信じていますよ。


CRASH.net:Moto2とMoto3ではエンジンを抽選で割り当てる(つまりMoto3ではメーカーはどのエンジンがどのライダーにいくかわからなくなるために、エンジンスペックが統一される)ということをやっていますが、それはMotoGPにも導入される可能性があるんでしょうか?

マイク・ウェッブ:Moto2やMoto3でやっているのはコストを抑えるためなんです。それと同時にパフォーマンスレベルもそろえたいというのもありますね。パフォーマンスを上げるためにお金をかけるようなことをしたくないんです。
 こうした抽選式のエンジン割り当てというのはMotoGPに導入するつもりはありません。MotoGPは最先端技術を試す場ですからね。Moto2とかMoto3はライダーやチームのトレーニングの場であって、レース事態が競争の激しいものでなければいけないんです。もちろMoto2やMoto3でも技術開発要素はあるわけですけど、MotoGPこそが技術開発の真のフィールドなんです。
 ですから抽選でエンジンを割り当てるつもりはありません。でもコスト抑制という観点からは、実は非公式ですけど販売価格やリース価格の目安というのはメーカーに対して示しているんです。つまり価格抑制という意味では、既に手を打っているし、それが機能しているんです。


CRASH.net:2016年のMotoGPマシンの目標価格というのはあるんですか?サテライトマシンの価格をオープンクラス並の年間100万ユーロ(邦貨換算1億5千万円)くらいまで下げるとか考えているんですか?

マイク・ウェッブ:まず、価格自体はドルナとメーカーとの同意事項なんで、ドルナがこれくらいの価格がチームにとって適正だというのを示すんです。技術規定やルールブックに記載されるわけじゃないんですけどね。
 価格に関して言えば、現状でも適正価格だと思いますよ。まあ調整は続いていますけどね。


CRASH.net:技術規定の変更という意味では2016年にタイヤサプライヤーがブリヂストンからミシュランに変わるのも大きなな変更ですね。その影響をいちばん受けるのはどういったところでしょうか?ミシュランがブリヂストンより多様なタイヤを提供するとか、全く違う種類のタイヤになるとかいうことはあるんですか?

マイク・ウェッブ:ルール自体は変わらないんですけど、ミシュランがMotoGPに参加するにあたっては、毎レース、より幅広い種類のタイヤをもっと数多く供給してくれることになっています。だから突然予想以上に寒くなったとしても、今より対応はしやすくなるでしょうね。そこが違いと言えば違いです。
 タイヤ割立てについては引き続きレースディレクションが管理することになります。公平さを担保して、スペシャルタイヤを使うようなライダーがいないように、ということです。ここは変わりませんね。


CRASH.net:今シーズンを振り返ってみて、ライダーの走り方については満足していますか?

マイク・ウェッブ:ええ、満足していますよ。そんなに気狂いじみたことは起こらなかったですからね。もちろん各クラスの特徴を考慮すれば、ということですけど。
 Moto3は若い子たちがGPレーサーとしてのキャリアを始める場ですよね。だからMoto3には教育的な側面も必要とされますし、マシン自体も若いライダーがとにかく速く走るのに向いています。一方でMotoGPマシンは難しいし、ライダーにもそれなりの経験が必要です。ですからMotoGPではMoto3ほど問題は起こらないし、まあMoto2はその中間ですね。
 全般的には満足しているわけですが、それでもいくつか問題は起こっています。Moto3予選でのポジション取りとかが一例ですね。これに関してはペナルティを科すことにしました。
 より良いシステム、しかも介入しないで機能するシステムを常に模索しているんです。でもそれは本当に難しいんですよ。ゆっくり走ってるライダーは道を譲るべきなんですけど、でも誰かのあとについて走るのはルール違反ではないし、レーシングラインをはずしてゆくり走るのもルール違反ではない。でもライダーには正しく走って欲しい。まあここは今後の課題ですね。


CRASH.net:来年ジャック・ミラーがMoto3からMotoGPに昇格することになっていて、冬期テストもフルに参加することになっていますが、レース・ディレクターの立場として、若いライダーがMotoGPに参戦する資格があるとかないとかはどう判断するんでしょうか?

マイク・ウェッブ:もちろんどのクラスでも成功したライダーというのはものすごくレベルの大会ライダーなんです。ですからライディングの面からは私に言えることはないですね。私の立場からは、いかに大人になっているか、そしていかに相手を尊重できるかというとです。
 さっきも言いましたが、Moto2とかMoot3はMotoGPに比べれば楽なんですよ。パワーも少ないし、乗りこなせるライダーも多いし、コーナリングラインもたくさんあります。つまりうまくやれる余地はたくさんあるということです。
 でもMotoGPではミスをしたらその代償は大きいんです。そしてコーナーでできることもすごく限られている。ラインは一本しかないし、ブレーキングも詰めなければならない。つまりミスできる範囲がすごく小さくて、ライダーは無理をするとすごいしっぺ返しを受けるということなんです。
 スコット・レディングが良い例ですね。彼はMoto2では本当にすごく良いライダーでした。マシンを乗りこなしていた。マシンの限界よりライダーの限界が上にあったんです。だからいくらでも速く走れたし、マシンをコントロールできた。
 MotoGPでも、もちろん彼は素晴らしいライダーですし、今年は長足の進歩を遂げました。でも彼は相当がんばらなければならなかったし、集中もしなければならなかった。派手なライディングや、無茶な抜き方はMotoGPではできないんです。抑制的な走りでないといけないんですよ。
 ジャックにも同じことが起こるんじゃないでしょうか。Moto3では傑出したライダーで、その能力はマシンの能力を上待っていた。でもMotoGPマシンを学ばなければいけないんです。MotoGPマシンを操るための忍耐力を得て成熟すれば偉大なMotoGPライダーになれるでしょう。でもいきなり飛躍はできるわけではないでしょうし、Moto3みたいな乗り方をすることもできないでしょうね。


CRASH.net:今シーズンはジャックをレースディレクションに呼ぶことが何回かありましたね。加害者の時も被害者の時もありましたが。今シーズンは彼にとってそれほどすごいシーズンだったということだと思いますけど、去年は表彰台にも乗れずにタイトル争いもしてなかった彼はどこが変わったんでしょうか?

マイク・ウェッブ:ジャックは本当におもしろくって、キャラも立ってますよね。私は彼のことが好きなんですけど、彼は時々私のことが大嫌いだったりするんでしょうね。「こんなことはするな」とか言ってますから。
 ジャックはハートが強くて、その分、彼に対して何か苦言を呈すると、なかなか自分が間違っていると受け入れることができないし、それをはっきり言うんですよ。でもすぐに冷静になって、こちらの言うことを理解してレースに戻るんです。ひきずらないくらいには大人なんですね。「OK,もう終わったことだ。かんしゃくは起こしたけどレースに戻ろう」ってなれるんです。
 この2戦(日本・オーストラリア)でかなり彼は変わりましたね。期待したリザルトではなかったし、ポイント差も詰められていました。プレッシャーもかかっていたのは誰の目にも明らかだった。だからこそ彼がオーストラリアで反撃にでて、すばらしいレースをしたことに感銘を受けたんです。あんな風に成熟したレースができるならMotoGPでも相当いけるでしょうね。

[アレックス・マルケスのチームからジャック・ミラーとダニー・ケントに対する抗議をレースディレクションが退けた経緯はこちら(英語)](当ブログですと、こちらとかこちら

CRASH.net:今シーズンからインパネにフラッグの状況を知らせるシステムをつけることになりましたが、これはどういう風に機能しているんですか?

マイク・ウェッブ:これについてはかなりうまくいったと思っています。全クラスの全マシンが着けているんですが、5種類のシグナルが出るようになっています。これはレースディレクションだけが操作できるんです。マーシャルからは発信できないんですね。5種類というのはレッドフラッグ(レース中断)、ブラックフラッグ(失格・即ピットイン)、黒地にオレンジボール(メカニカルトラブル)、ピットスルーとポジションを落とせという2種類のペナルティです。
 この5種類に限定したのはレインフラッグやイエローフラッグはコーナーのマーシャルの責任で掲示されるものだからです、例えばマーシャルが雨滴を感じたらすぐにレインフラッグを出せるんです。アクシデントも同じですね。イエローフラッグはアクシデントがあったらすぐ出さなければなりません。だからこうした旗に関してはインパネには入れてないんです。レースディレクションではコントロールできませんし、即時性も求められますからね。


CRASH.net:このシステムは今後どんな風に発展していくんでしょうか。来シーズンはこのままいくんですか?

マイク・ウェッブ:ええ来シーズンは同じですね。でも違う旗を追加していくことは考えています。イエローフラッグとかブルーフラッグ(後ろから速いライダーが来てるという意味)とかですね。マーシャルポストとの情報交換をどうするかといった技術開発要素がたくさんありますけどね。現時点ではこちらが要求するレベルに技術が到達していないんですが、開発は続けています。これがうまくいけば他のシグナルもインパネに装備できるでしょうね。


CRASH.net:ありがとうございました。

マイク・ウェッブ:どういたしまして。
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このインタビュー、けっこう凄いこと言ってますね。リース/販売価格に内部規定があるとか、ミシュランはブリヂストンよりタイヤの種類をたくさん出すとか。

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コメント

サテライトマシンの価格を1億5千万円くらいまで下げる、、、そんなにするんですか!
レーサーとはいえ、これバイクの値段なんですか!!
クラッシュシーンの映像なんて軽い気持ちで見てますが、チームやスポンサーからすればヒヤヒヤものですね。

インパネにフラッグ状況を知らせる機構があるのも知りませんでした。
これは安全上素晴らしいシステムですね。

そしてミシュランタイヤが、どんなものを出してくるか。
興味深い記事、ありがとうございました。

投稿: motobeatle | 2014/12/13 13:06

>motobeatleさん
 開発費込みの値段にしても凄まじいですねえ。これとは別にスタッフの給料とかライダーの契約金が乗ってくるので、とんでもないことです。スポンサーはいくら払っているんでしょうか・・・。まあ私にはがんばってモンスターエナジーを飲むくらいしかお手伝いできませんが。

投稿: とみなが | 2014/12/13 20:19

私はモンスターエナジーは高くてリポビタンDにしてしまい、手伝いもできてません(^-^;

投稿: motobeatle | 2014/12/14 19:58

確かシームレスミッションを外せば
1億くらい安くなるって中本さんは言っていたかな。
今のサテライトは3億くらいするはず。

そう考えると、グレシー二さんがホンダ・サテライトから
アプリリアに鞍替えした理由も分かるってもんですね。
アプリリアなら本社からの資金提供があるでしょうから。

投稿: ブラインドカーブ | 2014/12/14 20:10

>motobeatleさん
 リボDもどっかのスポンサーにつけばいいんですよ!

投稿: とみなが | 2014/12/16 20:55

>ブラインドカーブさん
 まあエナジードリンクメーカーはいくら出してるんだ?って感じですねえ。

投稿: とみなが | 2014/12/16 20:56

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