« ミラーとマルケスによるスリリングな最終戦 | トップページ | カル・クラッチローへのインタビュー »

チームオーダー:バイクレースはチームスポーツなのか?

ワールドスーパーバイクの最終戦決勝がカタールにて第1レースが日本時間11/3の1:00(11/2の25時です)、第2レースが4:00に開催されますが、その前戦、フランスではアプリリアのシルヴァン・ギュントーリを勝たせるためにあからさまなチームオーダーがマルコ・メランドリに出されて物議を醸しました。さてカタールではどうなるでしょうか?というわけでチームオーダーに関する記事をMotoMatters.comにDavid Emmett氏が書いていますので訳出。
============
もう何時間か後には2014年のワールドスーパーバイクのチャンピオンが決定する。現時点ではトム・サイクスがシルヴァン・ギュントーリを12ポイント差でリードし、カタールでの最後の2戦に臨むこととなった。残りは50ポイント分。つまりまだタイトル争いは決着を見ておらず、ここまでの接戦となった今年のワールドスーパーバイクのような状況ではどんなことでも起こりえるだろう。

サイクスとギュントーリはどちらもチームメイトの助けを必要としている。特にギュントーリはそうだ。彼がチャンピオンになるには誰かに助けてもらわなければならない。例えばアプリリアのチームメイトのマルコ・メランドリである。メランドリが少なくとも1回はカワサキのサイクスの前(そしてギュントーリの後ろ)でゴールしなければならない。一方のサイクスは2レースとも勝てればもちろんチャンピオンだ。勝てなくてもギュントーリの前でゴールすれば十分だ。もしギュントーリに前を行かれるようなことがあればチームメイトのロリス・バズの助けもあり得る。

忠誠心にあふれたチームメイトという役割をメランドリ、そしてバズが果たすことができるだろうか?前戦マニクールでは全面的に忠誠心が発揮されたわけではなかった。レース1ではメランドリが大げさな身振りでギュントーリを前に行かせ、勝利を譲ったことをあからさまに示して見せた。そして勝利を譲る心の広さも見せたのである。遙か後方ではバズが同じことをサイクスにやっていた。メランドリが示したほど主張にあふれた譲り方ではなかったが。

レース2はしかし違う展開となった。レース1と同様にメランドリがトップを走り、もし彼にその気があればギュントーリに勝利を譲ることもできた。しかし彼はおかまいなしに勝ってしまう。ピットボードにはチームの気持ちがはっきり表れていたにもかかわらず(訳注:こんな感じ)、メランドリはギュントーリから貴重な5ポイントを奪ってしまった。メランドリがチームオーダーに従っていればギュントーリとサイクスの差は12ポイントではなく7ポイントまで縮まっていたのである。つまりギュントーリの自力チャンピオンも可能だったのだ。今回のカタールで2勝すればサイクスの順位にかかわらずタイトルを獲得できたのだ。しかし今ギュントーリは助けを必要としている。サイクスと自分の間に誰か別のライダーが入らなければならないのだ。チームメイトは今回助けてくれるだろうか?アプリリアのWSBKチームは再びチームオーダーを出して、メランドリにギュントーリのタイトル獲得の手助けをさせるのだろうか?

この疑問の根底にはもっと大きな問題が隠されている。バイクレースはチームスポーツなのか?ということである。

答えを出すのは簡単ではない。もちろんレーサーは自分だけで勝てるわけではない。支援してくれる多くの人がいて初めて勝つことができるのだ。正しいセッティングをしてくれるチーフメカ、マシンがきちんと走るように整備してくれるメカニックたち、ショウをなりたたせるためのお金を集めてくるチームマネジャー、そういった人たちがいなければライダーの成功はない。ライダーをグリッドに送り、勝てるレースのための用意をするというのは正しくチームプレーである。

そしてライダーに関して言えばたいていの場合チームメイトがいる。同じ色のツナギを着て、同じ旗の下に走る。2人は協力することを求められる。マシン開発やセットアップのための情報共有と行った場面だ。その他にもPRイベントでは一緒にチームを宣伝しスポンサーの興味を惹くことも求められる。

しかしレッドシグナルが消えたとたん、ライダーは自分一人のことしか考えなくなる。レースはサッカーやバスケットボールとは違うのだ。一人だけでライバルと戦うのである。バイクレースでは自転車競技とは違って一緒に戦ったりはしない。トップの選手を風から守って体力を温存させるために集団になったりはしないのである。バイクレースではとにかく誰よりも前でゴールしようとする。相手がライバルだろうがチームメイトだろうが関係ない。

チームメイトを助けるためにライダーができることは2つくらいしかない。ひとつはマニクールのレース1でのマルコ・メランドリだ。彼はチームメイトが自分を抜けるように脇に動いて道を譲った。そして二つ目はどれほどあからさまではないが、2006年ヴァレンシアでのダニ・ペドロサや2013年ヴァレンシアでのヴァレンティーノ・ロッシや、先日のセパンでのダニー・ケントのようなやり方である。チームメイトのライバルの間に割っては入り、全力を尽くして集団についていき、チームメイトが逃げるのを助けるのだ。

しかしどちらも最後の手段である。他の手段が無くなったときにチームは初めてライダーにチームメイトを助けるように要請するのだ。タイトル争いをコントロールできなくなって初めて出される伝家の宝刀なのである。

そしてチームオーダーというのはライダーの意志に反するものであり、そもそもバイクレースの本質にはなじまないものだ。チームメイトに関してピットがサインを出すのは、たいていサインを出されたライダーがチームメイトを打ち負かしたと安心させるためである。ライダーの契約はパフォーマンス、つまりリザルトに関する条項でいっぱいだ。しかしチームメイトに関する条項などどこにもない。チームマネジャーがライダーに出すオーダーなど、普通は「お互いにぶつかってリタイアするな」という程度である。

しかし時にはチームがライダーの個人としての利害を超えたオーダーを出すこともある。一人がタイトル争いをしていればもう一方はそれを手助けすることが期待される。チームマネジャーはライダーに対してチームの意志をはっきり伝え、野心はひとまずひっこめてチームに貢献するように頼むのである。

そんなことを喜んで聞くライダーはそうはいない。バイクレーサーにとっては個人対個人の戦いなのだ。週末を通して何人ものエンジニアがマシンを完璧にして戦闘力を高めるというたった一つのために働き続ける。彼らは一人のライダーのために時間を費やしているのだ。彼らの運命はライダーの手の中にある。チームスタッフがグリッドから退去したらあとはライダーのものだ。すべての仕事はこの一瞬のために注ぎ込まれている。グリッドにはライダーとマシンが残される。そしてその他はすべて敵である。他に邪魔するものはいない。その一瞬のためにバイクレーサーは生きている。速さを見せろ。敵を倒せ。

トップアスリートというのは多かれ少なかれ自己中心的なものだ。そうでなければいけないし、だからこそ頂点に立つためにすべてを犠牲にできるのだ。しかしその自己中心主義は別のスポーツでは別の側面を見せる。サッカーやバスケットボールでは個人が集団となって戦い、チームを勝たせるという大きな栄光のためには自分を犠牲にすることもある。逆に走り幅跳びのような個人競技ではアスリートは一人で練習し、自分の成績のためだけに戦う。

バイクレーサーというのはバスケットボールの選手より走り幅跳びの選手に近いだろう。ヘルメットのシールドを降ろしメカニックが去れば自分一人だ。頼りにできるのは自分のマシンだけで、周りには倒すべきライバルしかいない。ライダーが所属するチームは彼らがいい走りをすれば多額の金を手にできるだろう。ライダーはそのためにチームメイトを助けることもできるだろう。しかしシールドを降ろせばライダーが考えることはひとつだけだ。自身の成功である。

バイクレースのパラドックスは「個人」がチームの中にいることである。その「個人」とはもちろんライダーのことである。
============
さてさて、来シーズンはアプリリアワークスで走るとも報道されているメランドリがどんな走りをするか楽しみですね!
ちなみにスカパー!J Sports3では11/3(月)2:15(11/2 26:15ということです)から無料放送

|

« ミラーとマルケスによるスリリングな最終戦 | トップページ | カル・クラッチローへのインタビュー »

コメント

終わってみればメランドリィは関係なく
カワサキは来期、フォワードに行ってしまう
ロリス・バズがオーダー無視で2位入賞。
彼が来季もカワサキ残留なら違っていたか。

第2レースでは来年カワサキに行くと言われている
レイがサイクスに譲らず2位。

ということで逆転でギュントーリタイトル獲得の
運びとなりましたね。
彼が自力でダブルウィンってのは嬉しい誤算でした。
コングラッチュレイション!!

投稿: ブラインドカーブ | 2014/11/03 12:34

>ブライドカーブさん
 なかなか味わい深いレースでしたね。そんなわけでこれからバズのインタビューを訳します。

投稿: とみなが | 2014/11/06 22:41

ギュントーリがタイトル獲得の白いスペシャルメットを
被っているのを見て
多分、日の目を見なかったサイクスのスペシャルメットは
御蔵入りだなぁと思ったり・・・。
同じシャークだし。

投稿: ブラインドカーブ | 2014/11/07 00:52

>ブラインドカーブさん
 そんなメットやTシャツがどれだけあることか・・・w。

投稿: とみなが | 2014/11/09 16:25

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/69409/60580390

この記事へのトラックバック一覧です: チームオーダー:バイクレースはチームスポーツなのか?:

« ミラーとマルケスによるスリリングな最終戦 | トップページ | カル・クラッチローへのインタビュー »