« ロリス・バズへのインタビュー | トップページ | 公式リリース>ヴァレンシアGP2014 »

バイクレース界最大の問題:お金が足りない!

しばらく前に「オピニオン記事:歴史は繰り返すーエナジードリンクはタバコ問題の再現」という記事を書いてレース界とお金の問題を取り上げたMotoMatters.comのDavid Emett氏がさらにこの問題を深く掘り下げていますので訳出。
============
バイクレース界が現在直面する最大の問題はなんだろうか?電子制御が力を発揮しすぎてレースがつまらなくなることか?ルールが厳しくなってバイクの開発が止められることで、つまりはGPレースの精神そのものが殺されてしまうことか?戦闘力のあるマシンが少ないためにワークスライダー以外は勝てなくなってしまうことか?それともトップ2のメーカーが支配することでコストが上昇し、他のメーカーが参戦をあきらめてしまうことか?

すべてが問題であると言うこともできるし、どれかひとつを取り上げることもできるだろう。しかし「お金」というバイク界最大の問題の前では、これらの問題はささいなことである。お金、というよりお金が足りないという方が正確だろう。バイクレース界で資金集めをできるものなどほとんどいないのである。MotoGPでもワールドスーパーバイクでも全ての問題はお金に帰結するのである。

その根本原因はよく知られている。かつてタバコの広告がテレビとラジオで禁止された時、タバコメーカーは潜在顧客にアピールするための他のフィールドを探し、法の抜け穴をみつたのだ。スポーツにとびついたのである。豪華でエキサイティングで危険と隣り合わせ、つまりはタバコからイメージされるすべてを備えたスポーツ、モータースポーツである。

世界中の政府はすぐにこの抜け穴に気付き、これもふさぐことにした。F1界の帝王、バーニー・エクレストンの見事な交渉により、それでもモータースポーツにおける広告は2006年まで例外とされたが、以降タバコ製品の目に見える宣伝は完全に禁止された。よき時代の終わりである。

タバコメーカーが撤退したことでバイクレース界が抱えることになった問題は一つではない。スポンサーマネーが消えたのも問題だったが、さらに大きな問題はタバコ会社によるレースの宣伝がなくなってしまったことだ。チームはプロモーションやスポンサー集めに関する経験がないまま放り出されてしまった。タバコ会社はチームに完全なパッケージを提供していたのだ。完璧なPRサービス、ブランディング、マーケティング、顧客扱い、その他諸々だ。チームはレースに専念すれば良く、スポンサーとの関係は主としてどこまで協力するかに限定されていた。タバコ会社はそれ以外の全てをやってくれたのだ。チームのカラーリングを決め、PRマネジャーを雇い、プレスリリースを書き、キャンペーンガールを雇い、ホスピタリティーユニットを運営する。タバコ会社はお金集めを受け持ち、チームはそのお金を使うことだけに集中できた。

タバコマネーが撤退するとチームはどうにもできなくなってしまった。お金集めのことなど気にしたことは無かったし、ほとんどのチームはどこから始めて良いのかすらわかっていなかった。そしてお金を出してくれそうな会社との最初の話し合いでさらなるショックを受けることになる。タバコ会社が気前よくレース界にお金を払ってくれていたために、みなレースというものがスポンサーにとって魅力的なものだと考えていたのだ。実際はタバコ会社がお金を使いまくっていたのは他に使う場所が無かったからなのである。チームマネジャーが特に規制がない産業のマーケティング責任者と交渉する度に、金を無心するだけではだめなことに気付かされることになる。スポンサーについてもらうというのはビジネスの話なのである。そして残念なことにこういうことができるチームはほとんどなかったのだ。

チームマネジャーが提案する内容には説得力の欠片もなかった。MotoGPは世界中に観客がおり、中でもスペインとイタリアでの人気は高いものの、他の地域ではそれほどではない。多くの人が知ってはいるものの決してメジャースポーツではないのだ。F1でもなければサッカーのチャンピオンズリーグでもないしテニスでもゴルフでもない。中心となるファン層を除けばMotoGPはどこかの会社が巨額の資金を投じることができるほどの多数の消費者にアピールできてはいないのである。そこでチームはスペインに目を着けた。まずはスペインの建設ブームに乗った成長中のリッチな会社である。しかし2008年の終わりにバブルがはじけるとまたチームは寒空の下に放り出されることになる。

これがタバコマネー時代の負の遺産である。タバコ会社が撤退すると(フィリップモリスは残ったが)、同時にマーケティングやプロモ−ションやPRやセールスのための専門知識も失われてしまった。尊敬すべきわずかな例外を除けば、チームはとまどいのなかにさまよい歩き、結局レースを津津駆るためにはドルナからの資金に頼るしかなかった。プロのバイクレースチームにとってマーケティングやスポンサー集めは二の次だったのである。スポンサー集めとマーケティングのための有能で献身的なマネジャーを雇ったチームはごくわずかである。それ以外のチームはスポンサー集めの責任をチームマネジャーや他のチームメンバーに押しつけていた。彼らには他にメインの仕事があったにもかかわらずだ。結果、スポンサーとチームをくっつけようというハイエナどもにつけいる隙を与えてしまった。そうしてできあがった契約はどちらにとっても富をもたらすものでも効果的なものでもなかった。仲立ちとなったハイエナたちはどちらの側にも思い入れがなかったのだ。

スポンサーを集め長期的にそれをつなぎ止めておくためのきちんとした専門スタッフを雇わなかったことがいかに不合理かは特に考えるまでもない。バイクレースのチームはあたう限りの最高のメカニック、最高のデータエンジニア、最高のサスペンションメカ、最高のチーフメカ、そして最高のライダーを手に入れようとする。にもかかわらずスポンサー集めのための最高の人材を手に入れようとしないのか?レースにはお金が必要だ。それも多額のお金である。そしてそれを集めようというのは簡単なことではない。専門家が必要なのである。スポンサーのニーズを理解し、チームが提供できるものを理解し、両者に有益な関係をどう築くかを理解してなければならない。(私は本当によくわかっている。MotoMatters.comが良く読まれ、尊敬までされているレーシングWEBサイトにもかかわらず、私がマーケティングと宣伝に関して専門家ではないために、相変わらず収入の問題を抱えているのだ。本来ならもっと稼げるポテンシャルがあるにもかかわらずだ。)

スポンサー集めの専門家がいないことの最大の問題はスポンサー料が低下のスパイラルに入っていることである。チームは待ちきれなくて交渉もなしに、他のスポンサーからもっとお金を集められるかもしれないのに、目の前のお金に飛びついてしまうのだ。このためメインスポンサーの払う金額はチーム運営に必要な額をどんどん下回るようになっている。パドックの関係者は誰もがドゥカティ以外のメーカーがどこもスポンサー料を安売りしているとこぼしている。安いスポンサーシップを受け入れることで、全員にとってのスポンサーシップの価値を下げていることにチームは気付いていないのである。スポンサー側も噂話を活用し、ライバルがもっと安くスポンサーについていると主張しながら値切ろうとする。チームががまんできなければ雀の涙ほどの額で契約することになり、さらにスポンサー料は低下してしまう。才能と経験に恵まれた専門家はこうしたことを良く理解しており、彼らはスポンサーのニーズとチームの要求をうまく合致させることができるのである。

ではドルナは何をしているのか?この件については残念ながらほとんど存在感がない。MotoGPとワールドスーパーバイクの興行権を持っているドルナがまずすべきことは世界最高のロードレースである両者を宣伝し、できるだけお金を稼ぐことのはずだ。レース自体は完璧に運営され、問題もなく安全なのだ。コスト削減にも力を入れているし、観客に素晴らしいスペクタクルを提供し、世界中のテレビ視聴者を熱狂させている。

しかしそのすばらしいショーから投資を回収できているかという件に関しては、ドルナは失敗していると言わざるを得ない。バイクレースの世界での人気を考えると、年間2億ユーロ(邦貨換算285億円)しか稼げていないというのは問題である。比較してみよう。F1の収入は13億ユーロ(1856億円)で、3億ユーロ(428億円)という収支はドルナの年間収入を上回っている。F1は本当にMotoGPとワールドスーパーバイクを合わせたより6倍も人気があるのか?もっと大事なことは6倍も稼げるものなのか?ということである。

2010年にカルメロ・エスペレータにインタビュー
したときに、収入をどうやって増やすかという話を振ってみた。エスペレータもこれが問題だと認めている。「収入を増やすのはとても難しいですね」と彼は言っていた。しかしその道を探るのではなく、彼はコストカットに目を向けている。「結局同じことですよね。南ヨーロッパでは家を作りすぎて売れなくなっている。どうやったら家をたくさん売れるか?それは価格を下げればいいんです」。2012年と比べれば世界経済はずいぶん回復しているにもかかわらず、ドルナは相変わらずコストカットに夢中だ。新たな収益源を作り出そうとはしていないのである。

とは言え、ドルナもこの分野に目を向けたこともある。2007年にはスポンサーシップ・カンファレンスを開催し、主要なメンバーによるワークショップまで行っている。私が出席者から聞いた感想はどれも同じだった。「良い試みだが時間の無駄だった」。結論が全てを物語っている。相変わらずスポンサーは探しには苦労するし、チームはレース界に投資してくれるような新スポンサーをみつけられないでいる。

ドルナが開催したスポンサーシップ・カンファレンスで何も得られなかったというのは驚くには値しない。ドルナの収益源は主に3つ、テレビ放映権、レース開催料、そしてスポンサー料がそれぞれほぼ同額である。つまりドルナは年間6千万ユーロをスポンサーから毎年得ているのだが、これはF1チームにひとつのスポンサーが投じる額より少なかったりするのである。もしバイクレースに入るお金を増やそうと思うなら、まずドルナが最初に努力してチームを引っ張るべきなのである。

ドルナも強固なパートナーシップを企業と結んでいる。これが将来のヒントになるかもしれない。BMWがMotoGPに協力しているのも好例だろう。彼らはセーフティーカーに代表される車両の提供の他、VIPユニットのスポンサーシップも勝っているのだ。最上の顧客やディーラーやビジネスパートナーをここに招待するのである。BMWがドルナにお金を払うのはもちろんブランド露出のためであるが、それ以外にパドックでビジネスを展開するという特権のためでもある。ドルナとBMWがパートナーで居続けるのは将来の成功の鍵ではないだろうか。

ここに未来があるのではないか。フィリップモリスの看板はどこにも掲げられないにもかかわらず彼らが未だに巨額の金(年間2千万ユーロ、他のメインスポンサーの2倍は払っていると言われている)をドゥカティに払っているのはそのためだろう。フィリップモリスが設営する巨大なホスピタリティユニットと彼らを結びつけるのは内部に置かれた灰皿だけである。そこに血縁者が集まってくるのだ。中にも外にもドゥカティの看板だけで、フィリップモリスを思わせるものはない。しかしパドックのベテランたちはそれを「マールボロ・ホスピタリティ」と呼んでいるのだ。

消費者にアピールできないにもかかわらずフィリップモリスは何のためにお金を出しているのだろうか?パートナーとのビジネス、ゲストの招待、政治家との密談等々のためでらう。セレブリティーを招待することで豪華さを演出し、雰囲気を良くし、商売をスムーズに進める。すばらしい食事、素晴らしいワイン、素晴らしい会社。これがスリリングで危険でエキサイティングなバイクレースと相まって最高のビジネスシーンを演出する。フィリップモリスは真剣にここでのビジネスをとらえているのである。

ドゥカティだけではない。LCRとマルクVDSもスポンサーがレースに投資する理由を良く理解しており、スパンサーが投資を回収する手伝いをしている。LCRはこれをうまくやっている好例だ。彼らはスポンサー集めのための有能なマネジャーを抱え、そのマネジャーも結果を出している。LCRはスポンサーに対して何を提供するかという提案をすることはない。代わりにどのように協働するのか、そしてその結果両者にどんなメリットがあるのかを説明するのだ。マルクVDSもそれを参考にしている。スポンサーの言葉に耳を傾け、彼らのビジネスの手伝いをするのだ。バイクにステッカーを貼る代わりにお金をぶんどるのとは違うのである。

これがパドックに蔓延する勘違いだ。バイクに貼るステッカーの大きさが常に交渉の最大の関心事になってしまっている。マシンは動く広告塔に見えるかもしれないが、そう考えると大して良いものではない。表面積は小さいしリーンしている時間は長いし、結局スポンサーのステッカーは見えなくなってしまう。にもかかわらずスポンサーが金を注ぎ込まないのは別に理由がある。

なざ企業はチームのスポンサーになるのか?何かの理由でビジネスの助けになると考えているからだ。マシンのカラーリングやステッカーというのはその一部に過ぎない。そうでないと考えるのはこれまた、他にエンドユーザーに到達する手段が無かったタバコスポンサーの時代の負の遺産である。スポンサーに対してビジネスパートナーを招待するための場を提供し、パドックでのビジネスの機会を与え、スポンサーが見える形で投資へのリターンを与える。結局企業がビジネスを円滑に進められるようにし投資した以上の額を改修できるようにするための環境作りが必要だということである。スポンサーが招待したゲストにGPの全てを体験させる、ピットを見せ、プラクティスとレースを一緒に見る。何が行われているかを説明し、より細かいところまで見せ、レースを味わってもらい、また来たいと思わせる。あるチームが私に教えてくれたのだが、スポンサーがディーラーを案内するのを手伝っただけで3万ユーロを1レースでもらったことがあったそうだ。一種のビジネスクラブのようなものならもっと稼げるかもしれない。チームスポンサーが全員集まれるような施設だ。MotoGPレース自体がスポンサーとメーカーににチャンスを与える。米国のディーラーはこれをうまく生かしている。自社モデルのショーケースにバイクファインを集めるのだ。ドゥカティブースはアメリカラウンドでものすごい人を集めている。

こうした環境を構築するというのはパドックを越えた波及効果があるだろう。今のところドルナはMotoGPのレースの冠スポンサーについてだけ扱っているが、地元の存在を無視してしまっていkる。例えばアッセンのTTサーキットはオランダのビール大企業であるバヴァリアと協働したがっている。バヴァリアのマーケティング部門はスポンサーシップだけでなくイベント開催まで手がけているのだ。もしバヴァリアがからめば、レース開催の資金をドルナに提供してくれるだけでなく、アッセンの町を挙げてのパーティーとイベントを企画してくれるだろう。国中にレースを宣伝し、その結果、町に、そしてサーキットにやってくる観客は増えることになる。そしてチケット売り上げも増え地元も潤い、税収も増える。最終的にはサーキットがドルナに払う開催料も増えるというわけだ。そしてそれはチームにも還元去ることになる。

MotoGPのチームが真に必要としているのは、どうお金を集めるかである。スポンサーのことを考え、スポンサー集めの専門家と一緒に動き、スポンサーの声に耳を傾け、スポンサーをビジネスパートナーとして扱う。そうすればバイクレースにもお金が流れ込んでくるだろう。そうすれば技術規定もコストカットではなく安全面を重視したものとできるし、もっと多くの参戦メーカーや関連企業を集めることもできるだろう。予算が増えレbあチームがもっと多くのサテライトマシンを作ることもできるし、メーカーは自社の資金をレースマシンに注ぎ込まなくて済むことになる。メーカーがスポンサーの資金でコストをまかなえるようになれば、自社の役員会にレースの宣伝効果や研究開発への効果について説明する時間も節約できる。つまりは自由を獲得できるし、全く違う観点からレースの意義を見ることもできる。レースは金食い虫の地位から脱却して、魅力的な一部門となるのだ。

もちろん部外者の私が勝手にこうしてチームが間違っていると書くのは簡単なことだ。私の言うとおりなら今頃チームは札束にまみれているに違いないし、私は今頃2台目のブガッティ・ヴェイロンの色が決められなくていらいらしていることだろう(まあもう少し現実的なことを言うなら、4台目のRC213V-RSのためにガレージを拡張するといったところだろうが)。しかし重要なのはこれが数百万ドル規模の産業で、プロが運営する世界だということである。チームマネジャーもエンジニアもメカニックもライダーもみなトップレベルである。しかしビジネスの観点からはからきしだ。バイクレースがまずはビジネスで、それがあってこそのスポーツであるということに気付かない限り、お金不足で破滅することになるだろう。そうなればライダーに持ち込み資金を要求することになり、部品供給メーカーやスタッフが無料で長時間働き続けることになる。

バイクレースというのはもっと価値があるはずだ。しかしその価値に見合ったお金を稼ぐ必要があることを理解しなければならない。
ーーーーーー
こうした長文のための情報収集には資金が必要です。もし楽しんでいただけたのならMotomatters.comへのご支援をお願いします。サポーターになっていただくか、カレンダーをお買い求めいただくか、寄付をしていただければ幸いです。
============
日本のチームにも是非考えてほしいですね。出光とか大丈夫なんだろうか???

あ、ついでに私は1円も費やしてませんが、努力はしてるので、こちらとかこちらとかもよろしくお願いします。

|

« ロリス・バズへのインタビュー | トップページ | 公式リリース>ヴァレンシアGP2014 »

コメント

記事セレクトの渋さに唸ってしまいます
(*^ー゚)bグッジョブ!!

あの時代の再来をもう望むべきではないでしょうが、
「魅せる」演出はピカイチだったタバコ業界が、それぞれ覇を競っていたあの時代は確かに華があったと言わざるを得ませんね。

投稿: さわら | 2014/11/11 17:59

>さわらさん
 お褒めいただきありがとうございます!
 なんか確かに「憧れ」ってだいじですよね。全日本もそうですが、親しみやすく、かつ憧れられるようにって難しいです。

投稿: とみなが | 2014/11/11 23:34

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/69409/60623838

この記事へのトラックバック一覧です: バイクレース界最大の問題:お金が足りない!:

« ロリス・バズへのインタビュー | トップページ | 公式リリース>ヴァレンシアGP2014 »