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ヴァレンシア:ピットレーンのホルヘ・ロレンソ

まずはこの写真と記事を見比べながらお読み下さい。Photo.GPより写真家Scott Jones氏のコラムです。
Jorgelorenzovalencia2014pitlanes

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ヴァレンシアGPの予選を見ていたのならこれからお話しする物語の一部についてはあなたもご存じなわけだ。チェッカーフラッグが振られた時点でホルヘ・ロレンソは3番手につけていた。ポールを獲ったのはロッシで、すばらしいラップを刻んだドゥカティのアンドレア・イアンノーネがそれに続いた。

しかしダニ・ペドロサがチェッカーフラッグ直前にフィニッシュラインを越えていたのだ。

私はその時ピットレーンにいて、パルクフェルメに駆けつけて予選上位を喜ぶライダーを撮って使い勝手の良い写真を手に入れるためのポジション争いに加わろうかどうしようか迷っていたところだった。そして私は大モニターを見てペドロサがもう1周トライしていることに気付いた。

群衆がピットレーンからパルクフェルメに移動していく。私はペドロサが予選上位に割って入るかどうかを見ている。このサイトを良くご覧いただいている方ならご存じだろうが、私は何人かのライダーについては中立ではいられない。そしてペドロサは私が堂々とひいきしているMotoGPライダーの一人だ。彼が何か凄いことをやってくれるのを期待しつつ、奇妙な気分に襲われた。最後の最後にフロントローがひっくり返るかもしれないのをモニターで見ているのは私だけのような気持ちになったのだ。

もちろんそんなことはない。熱心にモニターを見つめていた人は他にもいる。特にヤマハとドゥカティのピットではたくさんの目がモニターに注がれていたろう。

ペドロサが3位を確保したとき、ロレンソのチームは人生につきものの苦い結果をプロらしく受け入れ、ライダーとM1を迎え入れる準備をし始めた。セッション後のメンテナンスのためのワークテーブルを出し、彼らは待った。そして誰かがロレンソはパルクフェルメにいるのではないかと気付く。2人のスタッフがピットから駆けだしてロレンソがピットに戻ってくるのを手助けに行った。

私はパルクフェルメに行かないことにした。なぜなら位置取りをするにはもう遅すぎたからだ。何人もの写真家たちがパルクフェルメに向かっている。いい場所を確保するにはセッションが終わる4〜5分前にそこにいなければならないのだ。でなければたくさんの写真家の後ろで、人が横切る中で写真を撮るはめになる。

そこで私はロレンソをピットで待つことにした。がっかりする彼を撮ればいい画になるだろうという下心もあった。そして私はそれ以上の写真を撮ることになったのだ。

ペドロサが3位をかっさらった上、既にエンジンを切っていたことでロレンソはピットまでマシンを押して帰ることになった。そして彼が到着したとき、いささか不快なできごとが生じる。

説明しよう。もし私が何を言おうとしているのかわかっているなら少々我慢してほしい。ヴァレンシアのピットレーンは通常と異なり、ピット上に観客席があるのだ。VIPパスか何かが必要だろうと思うのだが、あなたもテレビや他の写真で見て知っているかもしれない。

先週末ピットレーンで仕事をしているとき、そして過去も含めてピット上の観客はマナーを守って楽しみ、バイクレースの価値を重んじながら観戦していた。ヴァレンシアのファンに嫌な思いをしたことは一度もない(アッセンとかザクセンリングとかヘレスとかムジェロとかフィリップアイランドとかではちょっと違う。他にもあるがこれくらいにしておこう)。

メカニックの2人、フアンとハヴィエルがロレンソと共にピットに戻ってきたとき、モヴィスター・ヤマハのピットの上から罵声が聞こえた。私はスペイン語は得意ではないが、「idiota(訳注:ばーか)」というのは英語を母国語とする人間にもわかる。他にどんな言葉がロレンソに向けて投げられたのかはわからなかったので、この話をするのにやや躊躇しないでもないが、罵声に含まれていた嘲弄するような感じと、それに対するライダーとチームの反応から推測したのだ。そして私は「idiota」という言葉がその罵声を象徴していると信じている。

ロレンソがマシンから降りると、その「ファン」は彼を笑い続け、何かをわめき続けた。私にわかる範囲では、ロレンソがパルクフェルメに行ったのを嘲笑していたようだ。ヤマハのチームスタッフのマルク・カネラとアルベルト・ゴメスは耳栓もなく、ヘルメットもかぶっていなかったのだから、その内容がよくわかったことだろう。

内容は把握できないとしてもロレンソがその罵声に気付いたのは間違いない。しかし見る限り、彼は自分が何を言われているかはわかっていたようだ。

やじり倒されるには辛い状況だ。ロレンソはランキングでチームメイトを上回る2位を確保したいと考えていた。予選3位を獲れたと思ったのに4番手とわかってがっかりしていたはずだ。自分がパルクフェルメにいる資格が無いとわかった時点で彼は辛い思いをしているし、恥ずかしさも感じていただろう。その上、ピットまでの長い道のりをいらいらするほど遅いスピードで帰ってこなければならなかったのだ。

嘲弄の主が元チャンピオンを馬鹿にし始めたとき、ピットレーンは何を言われているか理解できないという雰囲気だった。ロレンソはミスをしただけなのだ。3位を確保したと思ったのはセッションは終わり、ペドロサがアタックラップに入っていることに気付いていなかったからだ。最悪なのはペドロサが彼の3番手タイムに届くとは思っていなかったということだが、私はロレンソがそう思ったとは考えていない。ペドロサはチェッカーフラッグ時点ではかなり下位にいて、最後の最後でフロントローを確保するタイムを叩き出したからだ。

もし彼のミスが彼自身の傲慢な考えに起因するものだとしても、観客からこのような嘲笑を受けるいわれがあるだろうか?そんなことはない。小学2年生の時に、そういうことをするのはいけないと教わったはずだ。悲しいことに教わらなかった人もいるらしい。

しかし最も私をいらいらさせたのは、マナーの悪さもそうだが、それ以上に上の安全な場所から嘲笑が飛んできたことだ。声の主は20前後の若い男で、しかしそれはロレンソの面前で行われたことではない。彼はすぐ近くにいたが、それでもロレンソもヤマハのスタッフも彼をにらみつけることしかできない位置から野次っていたのである。彼は絶対に殴られることなどない、完全に分離された場所にいたのだ。

もし彼がピットレーンのロレンソの面前にいたら、まあそれでもそんなことを叫ぶのは良いことではないとしても、それほど卑怯者には見えなかったろう。

そしてたとえそうだとしてもロレンソにできることはほとんどなかったはずだ。彼の顔にパンチをくらわせれば、それはそれで問題となるのだ。プロのアスリートでタイトルを何度も獲得しているロレンソは、その地位にふさわしい忍耐を見せなければならない。心ないファンが心ない言葉をインターネットや面前で話すのを受け入れなければならないのだ。トップアスリートというものはどの世界でも同じような試練に晒され、そして王道を行くことを求められるのだ。

ロレンソは名誉を守った。それでも彼がスタンドの馬鹿者に投げつけた視線は厳しいものだった。彼はその方向に向かって何かジェスチャーをしたわけではない。ピットに入り、それで終わりだ。

そして私は考えた。ホルヘ・ロレンソのような一人の人間が観衆の前だけでなくテレビの何百万人もの視聴者の前で最高の仕事をすることについてだ。最低の失敗も同じシチュエーションで起こる。そして見ている何百万人もが勝手にそれを批判するのだ。

チャンピオンを獲るための戦いの中で、熱狂的なファンもつくが同時に熱狂的な敵も作るのである。その両方を受け入れなければならない。だからこそ彼らは高額な契約金を得る資格があるのだと私は思う。

この物語はテレビには映らなかったが、それでも多くの人がピットで目撃している。バイクレースの最高峰でロレンソが経験したひとつの出来事に過ぎない。彼はうまくこの場をこなしたと思う。しかし彼がしたようにその場を立ち去るのは決して簡単なことではないだろう。
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トップアスリートでいることの試練、でしょうか。

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コメント

いつもありがとうございます。
いつもながら面白い記事を紹介いただきありがとうございます。 まるで新聞の「社説」のような内容に感服しました。 間違ってパルクフェルメに来てしまったホルヘをテレビで見ていましたが、まさかその後こんなことが起きていたとは思いもしませんでした。 バレンシアはホルヘのホームレースでもある訳ですし、ピットの上に陣取るような熱狂的なファンがそんな下劣な野次を飛ばすとは驚きです。

ホルヘは、その言動が活字化された瞬間にいつも批判の的になります。 言い訳がましいとか、男らしくないとか・・ 自分はいつも英語のインタビューを見ていますが、記事の内容や、それに対するファンの反応にすごく違和感を感じます。 インタビューで伝わってくるニュアンスと違うからなんですが、今回ご紹介いただいた記事を見ると、同様の事がスペインでも起こっているのかな?と勘ぐってしまいます。、マルクが同じことをしたら、同じように野次が飛ぶんだろうか? と。 ゴシップも楽しみの一つで、有名人たるものの有名税の様なものかもしれませんが、ホルヘの人間性ではなく、周りによって作り上げられた彼のイメージが今回の件に影響しているような気がしてなりません。 この記事の主旨は「マナー」なのかもしれませんが、当事者がホルヘだけに考えさせられました。 綺麗事かもしれませんけど、やはり敬意を払いたいですね・・ 


投稿: ken | 2014/11/14 23:26

>kenさん
 ホルヘって、愛すべきキャラクターなんですけど、ヒールっぽく見えるのかもしれませんね。なんか、そのあたりも含めて好きです。

投稿: とみなが | 2014/11/14 23:44

管理人さんと全く同感で、ホルヘのそんな部分が好きです。 時折見せるKYぶりは最高です^^

でも一部のホルヘファンは、作り上げられたホルヘのキャラを逆に好きなケースが多いんですよね・・ つまり誤解されるのと同じ部分を逆に好き!みたいな方も多いかと思います。 ただ正直なだけだと思うんですけど。

投稿: ken | 2014/11/15 00:38

>kenさん
 私は彼のまじめなところと、自分のまじめさをなんとか克服しようとイタくなっちゃうところと、合わせて好きです(笑)。

投稿: とみなが | 2014/11/15 19:50

素晴らしい記事ですね。
そうでしたか、、、。
ホルヘを含め彼等には、そういった走ること以外の試練があるのでしょうね。
確かにその上で彼等トップアスリートの多くは、一般人を遥かに上回る報酬得ているのかもしれません。
ここ日本の他のサイトでも、海外記事を訳したとしながらも心が痛むものがあり残念に感じたことがありました。

我々ファン、好きな選手、逆に嫌いな選手はもちろんいるでしょう。
でも、少なくとも自分は相手にダメージを与えるような愚かな行いをするような事は慎むべきだと肝に命じています。
少なくとも彼等は我々にはできない素晴らしいものを危険を冒して見せてくれているのですから。

投稿: motobeatle | 2014/11/15 19:54

>motobeatleさん
 基本、私が好きな海外サイトはどこもライダーへの敬意を忘れていませんね。その点、安心安心。

投稿: とみなが | 2014/11/15 21:04

これからも素晴らしい記事の紹介をお願いします!
応援してます。
ありがとうございました。

投稿: motobeatle | 2014/11/16 07:47

>motobeatleさん
 ありがとうございます!これからもぼちぼち続けていきます!

投稿: とみなが | 2014/11/16 16:32

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