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ミラーとマルケスによるスリリングな最終戦

MotoMatters.comでお馴染みのDavid Emmett氏がBT Sportに記事を寄稿していますので訳出。先日のこの記事と合わせてお読みいただくと、さらに味わい深いです。
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誰かがミック・ドゥーハンの打ち立てたシーズン12勝という素晴らしい記録に並んだというのは普通の状況であればGPのトップ記事になるはずだ。

しかしマルク・マルケスの灼熱のセパンでの見事なペースでの勝利は、日曜夜には別の話題に取って代わられてしまった。Moto3でのジャック・ミラー対アレックス・マルケスの戦いである。Moto3でタイトル争いを繰り広げる二人の争いはセパンでは全面戦争の様相を呈し、久しぶりに私もわくわくしている。

バイクレースで何が許されるかを限界まで試すかのようにミラーは合法すれすれのラフファイトをマルケスに仕掛け、結局自分とマルケスの間に2台を挟むことによって20ポイントの差を11ポイント差まで縮めることに成功したのだ。おかげで並々ならぬ努力の成果としてMoto2チャンピオンを手にしたティト・ラバトの影まで薄くなってしまった。

しかしまずはマルケスの記録の話から始めよう。レプソルホンダに乗る彼にとってこの数週はかなり厳しいものだった。ミサノとアラゴンではクラッシュし、もてぎでは慎重な走りで2位に入りチャンピオンを手にしたものの、フィリップアイランドではブリヂストンが新たに導入した左右非対称フロントタイヤで再び転倒することになった。セパンでの勝利は必須であり、そして見事にそれを手にしたのである。

まず彼はレースウィークで初めて2分を切ったライダーとなった。この数年のテストでは何人もが1分59秒台に入れていたにもかかわらずだ。そして彼は新記録となるシーズン13回目のポールポジションを獲得した。

そしてマルケスは冷静に安定したレースを展開する。スタートは慎重だった。ホルヘ・ロレンソにはじき出されたにもかかわらず冷静さを保ち、ついにはロレンソ、ロッシに追いつき、彼らを抜き去りトップに立つ。ロッシのやる気をくじくのに手間取りはしたが、結局ロッシはタイヤのせいで脱落する。ヤマハはホンダより少しだけタイヤに厳しかったのだ。ロッシは言う。「タイヤのパフォーマンスが落ちるとホンダはリアのグリップが失われるんですけど、ヤマハはフロントもいっちゃうんです。チャタリングが出て、加速するためにはワイドに走るしかなかったんです」

ホルヘ・ロレンソはもっと前の段階でトップ争いから脱落していた。体調の問題を抱えた上にヤマハM1をコントロールするのにも苦労していたのだ。タンクパッドが緩くなったのも一因だろう。パッドがないためにブレーキングで体が前に言ってしまい、特に右コーナーでマシンコントロールに苦労していた。トレーニングスケジュールの問題もあった。3週連続のレースに移動とPRが挟まったせいでまともにトレーニングできなかったのだ。

ロレンソのようにMotoGPマシンを軽々と操るのには並外れた身体能力が必要なのである。私が、ロレンソは苦労なしにM1に乗っているように見えると口にする度、彼のマネジャーであるウィルコ・ツィーレンベルグが繰り返していることだ。しかしそのせいでマレーシアの過酷な暑さと湿度の下ではロレンソはまともなペースを維持できないのである。

セパンでの最大の敗者はダニ・ペドロサだろう。予選までは彼がマルケスとトップ争いをするだろうと思われていたにもかかわらず、2周目の最終コーナーで転倒してしまった。彼は転倒の原因を把握しきれないでいる。「コーナーに入ったらバン!って感じでフロントからいっちゃったんです」。何の警告も予兆もなかったのだ。

ドゥカティもマレーシアでは散々な目にあった。カル・クラッチローは彼の言うところの「1ユーロの電線」がバイクの可動部分に接触して切れたせいでデスモセディチが止まってしまったのだ。そこで彼の追走は終わってしまう。クラッチローは明言しなかったが我々の推測ではワイヤーがドリブン・スプロケットかドライクラッチに接触したのだろう。あまりたくさんはないのだが、カウルをはずしたドゥカティの写真を見てみると、ワイヤーの取り回しは実に複雑で、バイクの両側にワイヤーやらコネクタやらが這い回っているのがわかる。

アンドレア・ドヴィツィオーゾも残念な結果となった。フューエルポンプの故障のせいでフルリーン時のスロットルレスポンスが荒っぽくなってしまったのだ。おかげでコーナリングスピードが稼げず、スロットルを開けるのにも苦労する有様だった。4番手を走っていたドヴィツィオーゾは順位を落とし、結局8位でフィニッシュしている。サテライトのプラマックに乗るヨニー・ヘルナンデスに前を行かれ、アヴィンティアのオープンドゥカティに乗るエクトル・バルベラの前でゴールするのがやっとだった。

さて、シーズン12勝というドゥーハンの記録に並んだマルケスについてはどう評価すべきだろうか?1997年のドゥーハンの凄さに比肩するのかというのは激しい議論になるだろう。97年のドゥーハンの勝率は80%。当時は15レースしかなかったのだ。さらに印象的な数字がある。ドゥーハンは12勝目を第13戦バルセロナで記録しているのだ。この時点での勝率は92%となる。一方のマルケスは12勝を挙げるのに17戦を擁している。勝率は70.6%。素晴らしい数字だがドゥーハンの支配率にはかなわない。

マルケスの支持者からは相対的な強さを見るべきだという意見が上がるだろう。ドゥーハンの相手はルカ・カダローラ、アレックス・バロス、セテ・ジベルノー、アレックス・クリヴィエだった。歴代勝利数でトップ40に入っているのはカダローラは17位とクリヴィエの35位である。一方のマルケスの相手は歴代勝利数2位のヴァレンティーノロッシ、5位のホルヘ・ロレンソ、8位のダニ・ペドロサだ。

これはマルケスの記録の凄さを示しているのだろうか?しかしロッシもロレンソもペドロサもシーズン18戦の時代のライダーである。さらにドゥーハンの時代にはワークスホンダのNSR500の台数も多かった。マルケスのデビューイヤーに同じマシンに乗るのはチームメイトだけだったのだ。そしてヤマハはブリヂストンタイヤとのマッチング、そして燃料制限に苦しんでいた。

つまりどういうことか?不可能とまでは言わないが、比較は難しいという話だ。実際にレースをさせてみなければライダー同士の優劣は測りにくいのである。レースで戦ったとしても、年齢が違い、キャリアの中でのどの時代にいるかも違い、マシンも違う。素晴らしい成績というのはどれだけで素晴らしいのだ。他のライダーがかつて何をしたか、これからどんな成績を残すかは関係ないのである。統計家が数字を使うのは他に頼りにするものがないからだ。真実はレコードブックに掲載された数字の裏にこそあるのだ。

セパンで最も話題となったのはジャック・ミラーとアレックス・マルケスの間の仁義なき戦いだった。レース自体もスリリングで、素手での殴り合いに近いものだった。ミラーはマルケスとのポイント差を可能な限り縮めようとしており、一方のマルケスは最終戦の地、スペインに帰る前にMoto3チャンピオンを獲得できるものなら獲得したいと考えていた。

ミラーは準備万端だった。彼は過去の125cc、そしてMoto3レースを研究し、最終ヘアピンを前で立ち上がったライダーが前でゴールできることを知っていたのだ。そして自分のポイントを稼ぐだけでなく、マルケス(イタリア人は彼の兄であるマルクと区別するためにアレックスのことをミニマルケスと呼んでいる)の順位をできるだけ下げる必要があることもわかっていた。つまり自分とマルケスの間に可能な限り多くのライダーを挟むことが必要だったのだ。そのために彼はマルケスをブロックし、彼のリズムを崩し、集中を途切れさせようとしていたのだ。

誤解を怖れずに言うと、すばらしいライディングだった。シーズン後半になってミラーのKTMはマルケス、アレックス・リンス、エフレン・ヴァスケスが乗るホンダと比べて加速力で劣るようになっていた。KTMの強みはブレーキングであり、それはミラーの得意とするところでもある。ミラーは自分がほとんど全てのコーナーでマルケスの前でクリッピングをとれるとわかっており、そうすればマルケスがラインを外さざるを得ないことも知っていた。それがきちんとできればマルケスはMoto3表彰台の常連集団に飲み込まれ順位を落とすことになるだろう。もしミラーがマルケスの頭に血が上るように仕向け、いらいらさせることができればマルケスはミスをするかもしれない。そうすれば順位はさらに下がることになる。

その戦略は完璧だった。ミラーはマルケスにレース中ずっとラフファイトを仕掛けたのである。常にルールの範囲内で、マルケスが走りたいラインに自分のKTMをのせたのである。マルケスが曲がろうとすると常にそこにはオレンジとブルーに塗り分けられたミラーのKTMがいた。マルケスはラインを変えざるを得なく、ワイドにはらみ、ミラーにインを差されてしまう。そうしなければミラーに激突し、2台とも転倒するはめになったろう。

最終ラップ、ミラーは1コーナーでマルケスのインに飛び込んだ。そしてマルケスは再びアウトにはらんでしまう。その結果リンス、ヴァスケス、ダニー・ケントに抜かれてしまった。ケントがミスをしたせいでマルケスとケントはトップ争いから脱落し、優勝はトップ3台に絞られる。リンスが最終コーナーで無理をしたことで優勝はヴァスケスのものとなったが、ミラーはきっちりと2位を確保し、一方のマルケスは5位となってしまう。

マルケスにとっては不満の残る結果となった。クールダウンラップでマルケスはケントに珍しくも抗議の身振りをしてみせた。スペイン語の読唇術ができたなら、マルケスのチームマネジャーであるエミリオ・アルサモラがレース中ずっと何を叫び続けていたかわかったろう。チームはミラーがマルケスにラフファイトを仕掛けたのに怒っていた。レース終了直後はチームとしてはミラーの行為をレースディレクションに訴えることはないと言っていたが、すぐに考えを変え、ミラーとケントに何らかのペナルティを与えるよう訴えることにした。ケントについてはわざとマルケスがおそくなるようにブロックしたというのだ。

レースディレクションは様々なアングルのビデオを見返し、ケントのマシンのデータロガーの分析まで行った結果、エストレア・ガルシアチームからの訴えを却下した。ミラーはルールの範囲内でレースをしており、限界は超えていなかったと結論づけたのである。ミラーはコーナーでブレーキングをぎりぎりまで遅らせ、クリッピングに飛び込み、曲がる。マルケスはラインを変えざるを得ない。ミラーは常にマルケスと同時か、マルケスより早くコーナーに入っていた。ミラーがマルケスのインに入ったわけではない。2台が接触したのはマルケスが自分のラインを走るミラーに反応できなかったときだけなのだ。

もちろん多くの抗議の声も上がった。ソーシャルメディアでは激しい議論が巻きおこる。言語圏で立場が分かれたようだ。スペイン語圏ではミラーの首を求め、レースディレクションがミラーを罰しなかったのはタイトル争いをヴァレンシアまで持ち越そうという陰謀だという話まで出る始末だ。英語圏では肩をすくめながら「接触もレースだ」という格言が持ち出されている。英語圏のファンはミラーのことを彼らが愛し憎んだケイシー・ストーナーの生まれ変わりだと考えており、ついミラーの肩を持ちたくなってしまうのだろう。

私の立場ははっきりしている。ミラーは状況を完璧にコントロールしており、きちんと自分のマシンをコーナーに運び、マルケスをブロックしていた。彼の言葉がはっきりとそれを物語っている。「僕は彼が走りたいところにマシンを持っていったんだ」。レースディレクションがミラーを罰しなかったのは全くもって正しい。もしミラーにペナルティを与えるのであれば、ホルヘ・ロレンソにもペナルティを与えるべきだろう。彼はMotoGPレースのスタートでマルケスをアウトに押し出したのだ。あれはミラーが弟マルケスを抜くのより、もっと故意が含まれていたように見える。

ミラーのやり方はスポーツマンシップに則っているのか?フェアなのか?それは立場によるだろう。これはとてつもなく高いレベルで行われるバイクレースであり、トップクラスのスポーツではいつもそうなのだが、フェアであるかどうかは二の次なのだ。まずは勝つことが最優先なのである。「真剣なスポーツにはフェアプレイなど入り込む余地は無い」というのは1945年にジョージ・オーウェルが書いたことだ。彼はさらに続けてこう書いている。「銃での撃ち合いがないだけで戦争なのだ」

ヴァレンシアに向けて有利なのはどちらだろう?マルケスはミラーを11ポイント差でリードしている。そしてマルケスはミラーの後ろでゴールするだけでチャンピオンになれる。一方のミラーは敵意に満ちているであろうスペインの大観衆の前で走らなければならない。全員がブーイングをするだろうし、ミラーの転倒を望んでいるだろう。

それで彼はびびるだろうか?それが彼の不利になるだろうか?ジャック・ミラーならそんなことはないだろう。この若きオーストラリア人を見ると4度のスーパーバイクチャンピオンに輝いたカール・フォガティを思い出す。フォガティと同様、ミラーも敵意に晒されれば晒されるほど、競争が激しければ激しいほど闘志を燃やすのだ。ミラーはライバルやファンの敵意で燃え上がる。それこそが彼の勝利への情熱に油を注ぐのである。それこそがライバルを倒したいという彼の気持ちを奮い立たせるのである。地元で勝利を飾りアレックス・マルケスを叩きのめしたミラーは既に血の臭いを嗅ぎ取っている。ヴァレンシアのMoto3レースは地獄の様相を呈すに違いない。
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うひゃひゃひゃひゃ!

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コメント

 いつも解りやすい翻訳有難うございます。
 観客としては後味悪い終わり方さえしなければ
良いと言う感じです。

それと本文最後から数えて10行目
>>一方のマルケスは敵意に満ちているであろうスペインの大観衆の前で走らなければならない。

ミラーの間違いですね。

投稿: つよし | 2014/11/01 18:45

>つよしさん
 いつもご愛読ありがとうございます!
 御指摘、ありがとうございました。あわてて修正しました。m(__)m。

投稿: とみなが | 2014/11/01 19:13

面白い記事を紹介いただきありがとうございました。
記事を読んだ後、改めてマレーシアGPを見ましたが、なるほどなるほど。。とうなってしまいました。 ジャックの行動にどうしても目が行ってしまいますが、あの1コーナーでの接触をのぞけば、アレックスもインをあけ過ぎに見えますし、正攻法過ぎたと言えるのではないでしょうか。 

あのマルケスに「アグレッシブ」と言わしめたジャックですが、この記事が本当の本当に事実なら、マルケスがアグッレシッブに接触するのとジャックのそれは、見た目は同じですが、ずいぶん違う物になりますね。。 簡単に言うと、マルケスがジャックの立場で同じレースをしても、ジャックのような戦略はとらないように感じます。 ビックストーリーになってしまいますが、両者ともアグレッシブで狡猾、ただ、その先にあるスペイン人としてのアイデンティティとオーストラリア人の違いがあるんではないでしょうか。。 そう言う意味では、ジャックが早々にモトGPに行き、少なからず二人に絡みが出るのは楽しみですね。 ラテンの人達がある意味支配するレース界にケイシーとは違うアングロサクソンスパイスを加えてくれる事を祈ります。

記事を読んで、ハッとしました。 これはレースだと再認識です。 ありがとうございます!

投稿: ken | 2014/11/01 22:24

>kenさん
 こういう視点を与えてもらうと、次のレースがますます楽しみになりますね。兄マルケスvsミラーの戦いも早く見たいです!

投稿: とみなが | 2014/11/02 14:09

おめでとうジャック!
優勝おめでとう!!
ランキング2位おめでとう!!
ジャックに相応しい結果おめでとう!!

投稿: ミラー大好き | 2014/11/10 02:36

>ミラー大好きさん
 いやぁ、良いレースでしたねえ。こんな感じで来年ばちばちやってくれると楽しいです。

投稿: とみなが | 2014/11/10 19:56

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