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コラード・チェッキネリへのインタビュー:MotoGPの統一ソフトウェアの目的?公道で使えるようにするためです

統一ECU(電子制御ユニット)ソフトウェアが2016年から導入されます。これについては賛否両論で、ホンダに至っては今年2月段階でHRCの中本修平副社長が「自前ソフトを使えないなら撤退する」とまで言ってます(ワークスライダーとの契約状況を見るとまあそれはなくなったようですが)。というわけでMotoMatters.comがMotoGPの技術ディレクターであるチェッキネリ氏に諸々インタビューを行っているので訳出。
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2016年からMotoGPクラスのマシンは全て同一種類の統一電子制御ソフトウェアを使うことになる。ソフトウェアの開発はMotoGPに参戦するワークスがコードと要求仕様をひとつのウェッブサイトに提供する形で協働して行っている。ここまではよく知られていることだ。しかし私たちが知らないことでいろいろ興味深いことがある。どんな技術に対応しているのか?どんな機能があるのか?ソフトウェアはどれくらい優秀なのか?開発プロセスはメーカーとドルナのどちらが主導しているのか?

その答えを求めてMotoGPの技術ディレクターであるコラード・チェッキネリにシルバーストンでインタビューを試みた。彼は現在統一または共通ソフトウェアと呼ばれるものへの移行管理を行っている。チェッキネリは開発プロセスの管理や共通ソフトウェアの目的の定義を行い、すべての参加者にとって公平なものになるよう日々努力しているのだ。

長いインタビューだが実に興味深いものになった。様々な話題について話をしてくれたのだ。開発プロセスのロジスティクスから、使用できる技術、彼がこのソフトウェアの目的と考えること、そしてプロセス管理の方法等についてである。チェッキネリは共通ソフトウェアがどのように開発されているのか、そしてそれをどのように管理するのかの詳細について語ってくれた。開発は協働して行われているが、一部のファンが望んでいるのとは異なり誰もがそのコードにアクセスできるようなオープンプロセスではないとのことだ。

そしてチェッキネリはソフトウェアの将来についても語ってくれた。サーキットでの使用だけでなく市販車への適用も考えているという。ソフトウェアの目的はMotoGPレベルの電子制御エンジニアなら誰でも最高のパフォーマンスをこのソフトから引き出せるようにすること、つまり極端に複雑なソフトウェアを運用するための秘密の力は必要ないということである。独立したチームやワークス以外のチームでも使い易いということであり、彼らでも最高のポテンシャルを引き出せるようになるのだ。オープンカテゴリーを走らせるチームが今年初めのセパンテストで問題にしていたのはこの点である。このとき彼らに渡されたのは非常にパワフルだが極端に複雑なソフトウェアだった。そのアップデートはすぐに取り下げられ、従来型ソフトウェアの進化型に置き換えられることになった。

チェッキネリの考えでは共通ソフトウェアは市販の公道用マシンにも適用できるものにしたいということだが、これも興味深い話だ。サーキットで開発された技術が直接市販マシンにフィードバックできるようにするというのがその目的である。これは技術に制限をかけるということではなく、むしろすべてのライダーに恩恵を与えたいということなのだ。トラクションコントロールやエンジンブレーキ制御も排除しないが、それは市販マシンへのフィードバックを考慮して、乗りやすさのために使われることになる。共通ソフトウェアでもコーナーごとのセッティングが可能となる見込みだが、チェッキネリはこれを排除すべきだと強く考えている。もっと別の領域を開発すべきだというのだ。チェッキネリは強く主張していたが、その目的はメーカーが極端なパフォーマンス競争に陥らないようにし、むしろライダーに乗りやすいパッケージを提供するよう方向性を変えるためなのだ。チェッキネリは共通ソフトウェアでメーカーが注ぎ込む費用が削減できるとは考えていないが、それでもMotoGPに直接関係ない電子制御開発に注ぎ込んだ多大な投資からのリターンを減らすことが目的なのだとも語っている。

まずは開発プロセスの話と、現段階でどの程度まできているかについてから話が始まった。

MotoMatters.com:私の理解ではチャンピオンシップソフトウェア(訳注:統一ソフトウェア)はマニエッティ・マレリ社がメーカーと一緒に開発していますが、今後はどのメーカーも情報提供ができる協働用ウェッブサイトが使われるようですね。まずはこのプロジェクトはどこまできているんでしょうか?

チェッキネリ:おっしゃったような話は現時点ではまだアイディア段階にすぎません。プロジェクトにたずさわっている私からすると、ある種の自然淘汰をソフトウェアに対して行っている所です。アイディアはありますし、マレリの人もアイディアを持っているでしょうから、まずはこちらから考えを伝えているんです。というか、そうした進化はエンドユーザーの希望にもよるんですよ。エンドユーザーってのは2016年に参戦する全メーカーってことですね。で、確かに計画としてはプロセスをもっと正式なものにして、共有しつつ公正さを確保することは必要です。そこでSharepointサーバにそのためのツールを確保しています。これから許可された人しか入れないを構築して、要求をインプットしたり、それを評価したり、その要求を取り入れるかどうか決めたら優先順位を付けて、それを公表します。で、みなさんに進捗状況をお知らせするということになります。
 現行のオープンマシン用ソフトウェアがベースとなっていますけどまだそれほど洗練されたやり方ではないですね。まだただのメーリングリストですよ。


MotoMatters.com:バグ対策ソフトみたいな感じですね・・・。要求はすべて共有するんですか?それとも基本的には共有しないで、評価後に初めて共有することになるんですか?

チェッキネリ:もし我々に検討してほしいのであれば、要求はすべてこのサーバに置かれることになります。ですから自動的に共有されることになりますね。でも共有といっても許可されたメンバーだけが共有するものであって、1メーカーにつき1人か2人になるでしょう。ウェブサイトは公開しませんし。これについてはサイト内の制限区域で行われることになります。


MotoMatters.com:つまり完璧なオープンソースというわけではないのですね。私がそのサイトに行ってもコードはみられないと。

チェッキネリ:それは無理ですね。でも参加者ならできるということです。ですから参加者グループをどう定義するかという問題ですね。書き込みのパーミッションを持っている人もいれば、リードオンリーの人もいます。でもまだアイディアに過ぎませんけどね。


MotoMatters.com:このソフトウェアは誰が主導するんですか?ドルナとマニエッティ・マレリなのか、メーカーなのか。

チェッキネリ:実際は私、ということになりますね。私がすべての要求を吟味して、その可否を決めることになります。で、採用となったら優先順位を付けるんです。ご質問へのお答えとしては、こういうことですね。こうしてソフトウェアの方向性を決めるんです。
 もちろんプロセス自体には柔軟性を持たせますよ。何かしようとしたときに、先にやっておくべきことがあるかもしれない。でも方向性自体はそれほどぶれることはありません。ただ、やりたいことをやるんではなく、ちゃんと順番付けして、何を先にすべきか決めなければなりません。とは言え、基本的には私が自分の意志で決めることになりますね。
 今話しているツールについてはもうすぐリリースできると思います。今のところ私だけがアクセスできる状況で、自分で使い方を勉強しているところです。2016年の共通ソフトウェアについてはメーカーが必要とする時期よりかなり前もってリリースできる予定です。これに関してはメーカーは開発プロセスに関与しないと決めてますからね。決められた期日(2015年6月15日)までは自分たちの秘密を開示したくなかったということです。この日以降は独自ソフトウェアの開発が凍結されます。2〜3週間でツールの方はリリースできる予定ですね。そこから年単位の時間がかかるでしょうけど。現在の状況はこんな感じです。
 ツールがリリースされてうまく動けば、ソフトウェアの開発にはメーリングリストに替えてこちらのツールを使うことになります。違うリスト、つまりオープンマシンを使っているチームのメンバーと一緒にこのツールを使うことができるようになっているので、実際それでやってみて、本番環境でうまくいくかのテストをする予定です。


MotoMatters.com:オープンマシン用ソフトウェアで先進的な電子制御に対応するんですか?例えばシームレスギアボックスにも対応できるようにするかってことですが。

チェッキネリ:はい。


MotoMatters.com:電制制御のレベルをどうするかという課題もありますね。多くのチームがそ文句を言っていますが。あなたのお考えでは電子制御のレベルを制限しようとしているんですか?それともメーカーが今のレベルを維持できるようにするんですか?

チェッキネリ:これはすごく大きなプロジェクトでいろんな組織がからんでいます。私のような主催者サイドもいますし、メーカーもいますし、チームもいます。他にもたくさんいますよね。今考えているのは少なくとも2つの選択肢があるということです。私の意見はチームの意見に近いと思いますが、どうでしょうか。とりあえず私の意見としてはSFレベルにならない程度には合理的である必要があると思っています。今のところオープンマシン用ソフトウェアの進化版という感じですね。
 今でもソフトウェアは進化していますし、これからもそうなるでしょうが、もちろん違う相手と開発を始めたらペースも変わるでしょう。でも現時点でのコンセプトとしては現行ソフトウェアの進化版ということです。もちろん世界最高のソフトウェアとはならないでしょうね・・・。


MotoMatters.com:つまり目標はちゃんと機能するソフトウェアを作ることであって、世界を驚かせるようなものをつくるということではないんですね。

チェッキネリ:目標はトップクラスの性能ですけど、パフォーマンスについてトップということではありません。使いやすさとパフォーマンスの妥協点を探ることになるんです。そういう意味で最高のものにしたいんですよ。ワークスチームが使っているようなものにはなりません。あれは最高の妥協点というものではない。複雑で人類には理解できないものになりかけている。でもパワーは出る。ですから最高の妥協点を見つけてるんではなく、とにかくパフォーマンス優先なんです。そういうのを目指しているわけではないんですよ。
 開発では先ほど申し上げたように、チームつまり独立したチームということですが、チームは私と同じ考えでしょう。でもMSMA(訳注:モータースポーツ製造者協会:現時点ではホンダ、ヤマハ、ドゥカティで構成される)に参加するような大メーカーはそうは考えていないでしょうね。彼らは今と同じレベルまで全員が到達できるという理想像を描いていますからね。でもそれは無理ですよ。ですから最終的にどんな結果になるかはわかりませんが、現時点での私の考えはそういうことです。


MotoMatters.com:つまり電子制御エンジニアが1人か2人しかいない独立系のチームでもそのパッケージから最高のパフォーマンスを引き出せると言うことですね。

チェッキネリ:全ユーザーが100%までこれを使いこなせるというのが私の理想です。確かに理想論ですが、そういうコンセプトでいきますよ。もちろんユーザーのレベルが今より高くなって今よりポテンシャルのあるソフトウェアにできるという可能性も考えています。ワークス以外のチームについても今よりメーカーの関与が大きくなるでしょうからね。そうすればレベルも上がりますし。でも主催者としては誰でもフルにポテンシャルを発揮できるようなソフトでなければならないと考えています。公平性の原則に従っているんです。
 目標としては可能な限りパワフルにしたいと考えています。原則的には、大きなチームほどソフトウェアのポテンシャルを引き出せるということは避けたいんです。もちろん大きなチームならより良いライダーを確保できますし、いいチームも確保できるというのは事実です。でも私の立ち位置ははっきりしていて、とにかく公平性ということなんです。その優先順位ははっきりしています。


MotoMatters.com:つまりまだ何を許可して何を許可しないかは決まっていないということですね。コーナーごとのセッティングとか、そういうことですが。

チェッキネリ:まだ決まっていませんね。でも私の考えでは現行のオープンマシン用ソフトウェアを基本に開発していくことになる可能性が高いので、そこは考えないといけません。コーナーごとのセッティングを許すと戦略の幅が広がっていきます。
 でもそれは私はどうかと思っています。そういう部分に時間を割くのは無駄だと思うんですよ。市販バイクにフィードバックできない技術ですからね。主催者の立場としては投資をちゃんと公道マシンで改修できる方向に向かわせたいんです。責任ある立場というのはそういうものではないでしょうか。まだそういう方向に持っていこうとはしていませんが、でも私としてはそれこそレベルの高い目標なんです。そういう意味ではコーナーごとのセッティングはお金の無駄ですね。


MotoMatters.com:市販車にとって重要なのはなんでしょうか?スロットルレスポンスですか?燃費ですか?

チェッキネリ:現時点での予測ですが、乗りやすさが重要ですね。いろんなことに影響します。エンブレの制御だとかトラクションコントロールだとか、とにかくすべてが市販マシンにとって重要なフィードバックになるようにしたいというのが現時点のシナリオです。ですからコーナーごとのセッティングの機能ははずしたいですね。そうすれば時間も無駄にならないですし、機会費用の損失も防げますし、誰もがうまい妥協点を探ることになります。そうすれば公道マシンにもいろいろかかわってきますよね。
 その結果、どこでもいい感じで走れるマシンができるようになるでしょう。市販マシン的に、ということです。しかも今は禁止されている別のシナリオも検討できますしね。例えば電子制御サスとかABSとかそういうものですね。


MotoMatters.com:EUでは全市販マシンにABSが義務づけられますし、電子制御サスも以前より市販マシンでみられるようになっていますね。

チェッキネリ:まだ時期尚早だとは思いますけど、投資するにはいい分野だと思います。メーカーが公道マシン関連の分野にもっと投資するようになるといいと考えている主催者としては、その方が誰にとっても健全ですし、結果としてモータースポーツが生き延びるチャンスも広がるでしょう。モータースポーツからのフィードバックがあるんですからね。メーカーはレースを純粋なマーケティング費用としてではなく研究開発の場にもしたいと思っているんですし。
 でもこれは彼らがそういっているだけで、実際には別の方向を向いていますよね。


MotoMatters.com:どんなにコストをかけても勝ちたいと思っているということですか?

チェッキネリ:ええ。ですから私の考えではコーナーごとのセッティングができるとなると、10人のスタッフがコース中を駆け回って図面に起こしてすべてを測定しなければならない。そうしないと良いセッティングが出せないんです。20人いればもっと良くなる。そこに限界はないんです。もし1000人いれば900人の時より、ほんの少しだけですが、良いセッティングができる。そうなればそこに資金を注ぎ込むことになります。だから導入しない方がいい機能もあると思っているんです。


MotoMatters.com:コーナーごとのセッティングというのは公道では意味がないとお考えなんですね?GPSが一般的になってきていて、乗り物の制御にも使われるようになっています。すでに4輪には装備されてますよね。その観点からレースとの関連性はありませんか?

チェッキネリ:ないですね。全然そうは思いません。まずご存じの通りGPSはMotoGPでは許可されていません。コーナーごとのセッティングというのはGPSとは全然違う機能なんです。市販マシンには全く意味がないんですよ。レーサーはホイールの回転を検知してタイム測定用のセンサーを通るたびにリセットしているだけなんです。
 でもGPSが使えるようになったとしても現時点でのGPS技術は精度に欠けるんです。これはバイクだからということではなくてバイク業界を動かしている人の問題なんですが。でも将来的に充分精度が上がっても、自分がどこにいるかわかるだけではだめなんです。コースのどこにいるかがわかれば、カントがどれくらいついているか、路面の摩擦係数はどうかとか何でもわかるようになります。でも公道では意味がないんです。もちろん世界中の道のカントや傾斜や摩擦係数が入っている地図があれば別ですけどね。しかもそれでもわからないことはたくさんある。濡れているかも知れないしほこりが浮いているかもしれない。公道というのは常にコンディションが変わるんです。ですから自分の居場所によってセッティングを変えることに意味を全く見いだせないんですよ。
 日産GT-RはサーキットでしかフルパワーにならないようにGPSと連動していると読んだことがありますが、使い道はそれくらいですね。ですから場所によってセッティングを変えるとしてもその程度です。でもこれはコーナーごとというレベルではなく、サーキットにいるかどうかという大きなレベルで充分なんです。


MotoMatters.com:ではまとめると、あなたが目指しているのはパワフルなソフトウェアだけど、パワフルすぎると熟練した有能なエンジニアでないと使いこなせない、ということなんですね。

チェッキネリ:ポテンシャルを超えてさらに10%を絞り出すことに価値を見いだせないんですよ。それはテレビではわからないことだし、むしろ興業としてはつまらなくなるんです。

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こうした情報を取材して長い記事を書くには非常に時間を要します。もしこの記事を楽しんでいただけたならMotoMatters.comを是非ご支援ください。サイトサポーターになっていただくのでも、素晴らしいカレンダーの購入でも、寄付でも結構です。よろしくお願いします。
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わたしからもよろしくお願いします。

なんとなくホンダの言い分しか聞いていませんでしたが、こうした視点もとても重要ですね。

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