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2014ミサノMotoGP日曜まとめ:伝説ライダーの復活

ロッシ優勝で大いに盛り上がるMotoGP界隈。MotoMatters.comのまとめ長文を訳出します。ロッシ讃頌ですよ。
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日曜のミサノは完璧なイタリアおとぎ話と言えよう。Moto3、Moto2の両方でスペイン国歌が流れた後、MotoGPレースが終了するとイタリアのファンはイル・カント・デリ・イタリアーニ、つまりイタリア人の歌を高らかに歌い上げることができたのだ。ヴァレンティーノ・ロッシが81回目のMotoGP勝利を数限りない46の黄色い旗がはためく前で飾ってみせたのである。それも自宅から数kmの地元サーキットでだ。ロッシの勝利は去年のアッセン以来。ミサノでは2009年以来となる。

しかしロッシの夢のような勝利はフロックではない。保留付きの勝利ではないのだ。2013年のアッセンと違って怪我でいなくなったライダーもない。必ずや結果を残すというロッシの決意、戦闘力のあるマシンと素晴らしいセッティングを実現したチームの努力の賜である。ロッシはプラクティスを支配し、予選ではフロントローを獲得し、スタートも良かった。そしてチームメイトであるホルヘ・ロレンソを追い、マルク・マルケスを打ち負かした。マルケスのミスを誘ったのだ。

かつてのヴァレンティーノ・ロッシがよみがえったのだ。私を含めて多くの人間がもうそういうことはできないのかと恐れていた昔のロッシである。彼は未だに強さを保っていたということだ。肩の怪我、2年間のドゥカティでの低迷、ヤマハに適応するのに苦労した1年間を経てついに彼は速さを取り戻したのだ。勝利の方程式を再び取り戻したのである。ドゥカティ時代に苦しみ、そしてライディングスタイルを新時代のMotoGPに適応させるために苦闘し、アプローチを変え、新たな技術を獲得し、そしてその結果をコース上で発揮する。これらはすべてロッシが未だに勝利を渇望していることを雄弁に物語っている。ヴァレンティーノ・ロッシは間違いなくこれまでバイクに乗ったあらゆる人間の中で最も才能のあるライダーの一人である。しかし今回の勝利は単に才能によるものではない。すべてをつぎこみ、努力をし、野望を絶やさず、メンタルの強さも保ち続ける。その積み重ねがミサノでの勝利をたぐりよせたのだ。

土曜日から勝利の予感はしていた。ロッシはドライになると真っ先に飛び出しFP4では素晴らしい速さのレースシミュレーションをやってのけた。新たな予選方式で十分なグリップを得られる術をまだ身に付けてはいないもののフロントローを獲得した。ミサノのような抜きにくいコースでは極めて重要なことだ。ミサノでやるべきことをこなしていたロッシだが、他のホンダと同様にマルク・マルケスが苦労しているのを見るとロッシの速さに拍車がかかる。ロッシの振る舞いは水中に血の臭いを嗅ぎつけた鮫のようだった。あたかも獲物の周りをぐるぐる周り、攻撃の時を探っているかのようだったのだ。

その時は4周目にやってきた。ロッシが先頭で逃げるロレンソを追いかけているときだ。一撃で仕留めたわけではない。8コーナーでロッシが襲いかかってきたとき、ロレンソも粘り強く対抗はした。クエルチア、トラモントと順位を入れ替えつつ、しかしロレンソはついにアウトにはらんでしまい、ロッシとマルケスに抜かれてしまう。

ロッシとマルケスは共にロレンソを突き放し、そしてマルケスはロッシになんとか追いつこうとする。しかしマルケスは既にぎりぎりで走っていたのだ。クラッシュは時間の問題だった。彼が転倒したのは当然のように見えた。4コーナーのインサイドをカットし、そこで縁石に乗り上げてしまう。「コーナーでインに入りすぎて縁石に乗り上げちゃったんです。あそこではやっちゃいけないことだった。でフロントからいっちゃいました」とマルケスはレース後に語っている。

彼はプレッシャーに負けたのか?それともやりすぎてしまったのか?マルケスはこれを単純なミスだという。勝ちたい気持ちがいきすぎてしまったらしい。「僕はいつでも全レース勝つつもりで走っているんです。後ろの方でポイント計算をしながら走るなんてことはやりたくなかった。そうじゃなくてもっとリスクを冒してでも前を走りたかったんです」。マルケスが限界で走っていることは明らかだったが、マルケス自身は最初の3周か4周しかプッシュしていないと言っている。その後は彼によると「頭を冷やして」ロッシについていっただけだそうだ。しかし自分のペースで走っていたようには見えない。フロントタイヤは常に外側に逃げようとしていた。ホルヘ・ロレンソのチームマネジャーで元レーサーのウィルコ・ツィーレンベルグもマルケスがロッシを負かそうと限界を超えてしまったという見方に賛成する。

彼はミスをするようにしむけられたのだろうか?もっともありそうなのは、ロッシは単に全力で走っていただけで、マルケスが彼に勝ちたいと思い込みすぎてしまったというシナリオだ。土曜のマルケスはヤマハに対抗できるだけのペースを獲得できなかったが、日曜午前中になんらかの対策を見つけたようだ。しかしそれだけでは何かが足りなかったのは明らかである。

ロッシの勝利が大観衆を沸かせるというのは、砂漠は砂っぽいと言うのと同じくらい意味がない表現だ。MotoGPマシンの音量規制は130dB/Aだが、これはジェット機の離陸時の騒音に匹敵する。しかしロッシがロレンソに替わってトップに立ってから数周の間、歓声でマシンの音が聞こえなかったほどだ。ミサノ用スペシャルヘルメットの手形が象徴するように多くの観衆が後押ししたのである。日曜のロッシは観衆という波に乗って滑っていった。いい大人がティーンエイジャーのように叫んでいたのだ。

男も女も30代で、ロッシが初めて勝ったときには10代だったような年頃だ。モヴィスターヤマハで最高峰クラスを走り始めて15年目、ロッシはGP参戦19年目である。それほどの長きにわたって走り続けること自体が偉業である。しかしロッシはそれだけにとどまらない。常にトップレベルで戦っているのだ。驚くべきこととしか言いようがない。

ロッシの人なつっこい笑顔の裏にはカミソリのような勝利への渇望が隠されている。それが彼を前に推し進め、トレーニングを続けさせる原動力である。彼が自らライディングスタイルを変えようとし、そして実際に変えてみせたということだけでも彼は特別なライダーであると言える。優勝できる力をこれほど長い間高いレベルで維持していることは真に偉大なライダーの証だ。

彼の戦闘力は維持されているというよりむしろ向上しているのだ。レース後ロッシは、過去になかったくらいライディングが良くなっていると語っている。「今の僕が史上最高のヴァレンティーノですね。年間10勝とか11勝してたときと比べても遅くはなっていませんよ。大きな問題はライバルが強くなってきているということなんです。彼らは僕より若い次世代のライダーですからね。それに僕よりプロフェッショナルで、レースにすべてを注ぎ込んでいますから」。マルク・マルケスやホルヘ・ロレンソ、ダニ・ペドロサはみな記録に残るライダーだ。そのライダーたちを破ることができるというもの偉大なライダーであるもうひとつの証左であろう。

ホルヘ・ロレンソはフロントタイヤにハードをチョイスしたことが裏目に出た。プレスカンファレンスで彼は去年のデータに基づいてハードを選んだとのことだ。去年はハードでレース中のファステストを記録していたのだ。チャンピオンの望みが絶たれたことでギャンブルすることもできるようになったのだが、予想したほどグリップしなかったようだ。土曜からウォームアップまでは最速で、今シーズン初優勝にも自信を見せていたがそうはならなかった。ロレンソは言う。「ヤマハが1−2を決められてとてもうれしいですけど、僕自身について言えばがっかりな結果ですね。優勝も狙っていたんです」。しかし彼はモヴィスターヤマハのチームメイトについて行けなかった。「今日のヴァレンティーノは優勝にふさわしいですよ」。ロッシはミサノがヤマハにとって今シーズン最も優勝の確率が高いと言われていたことを実証した。しかしロレンソはそれがロッシではなく自分であることを望んでいたのだ。

ミサノでホンダよりヤマハが速いのはなぜだろう?机上の論ではミサノはホンダ向きのサーキットに思える。ハードな加速をする後にハードブレーキングが必要となるのだ。しかし滑りやすい路面とコーナー出口の形状がヤマハに加速時のアドバンテージを与えているようだ。これは他のコースにはあまり見られない特性である。ヤマハのマシンはコーナー出口でトラクションを得られる要になっている一方、ホンダはリアタイヤが空転を始めてしまい十分な脱出加速を得られないのだ。

リアがきちんと路面をかまないことでダニ・ペドロサは苦労していた。しかし彼の問題はそれだけではなかった。フロントとリアのどちらが問題かと尋ねられたときのペドロサの答えは実にシンプルだった。「両方です」。彼はスタートは良かったもののすぐにアンドレア・ドヴィツィオーゾとアンドレア・イアンノーネの2人のドゥカティライダーにつかまってしまい、さらにはヤマハのポル・エスパルガロにも抜かれてしまった。ペースは良かったのだがドゥカティを抜くのに時間をとられすぎ、抜いた頃にはトップからかなり遅れてしまったのだ。マルケスがクラッシュしたおかげで表彰台には昇れたが、最終ラップまでアンドレア・ドヴィツィオーゾと熾烈な争いを繰り広げることとなってしまった。

ドヴィツィオーゾはかなりがんばったと言えよう。彼は優勝したロッシからわずか5秒遅れだったが、ここまでトップに近づけたのはしばらくなかったことである。ドヴィツィオーゾの結果はドゥカティの戦闘力が確実に向上していることを示している。しかし彼の順位は地元パワーのおかげという面もある。レースを通じて表彰台が見える場所にいつづけ、そのおかげでかなりのところまでいけたのだ。いつになくリスクを恐れず、最後の10ラップでは何度も限界を超えていた。ペドロサにもう少しのところまで迫ったのである。自分が体力的にも最終ラップまでいけることに驚いたかもしれない。いつもなら集中力をもってドゥカティの戦闘力を保のに疲れてしまうのに、今回彼はミサノで新たなステージに上がったのだろう。ペドロサに追いつくために最後の10周を全力で攻め続け、表彰台の最後の1席を確保するためにがんばったのだ。もう少しだったが残念ながらペドロサを抜くことはかなわなかった。

ドヴィツィオーゾのライディングは素晴らしいもので、家の近くのサーキットで友人や家族の前で走ることがどれだけ力になるかを証明したと言えよう。さらに今年のドゥカティがいかに進化したかも示している。改良された部分はささいなことの積み重ねだが、これが合わさることでマシン全体は驚くほど進化したのだ。2週間後のアラゴンではどこまでマシンが良くなるかについてはドヴィツィオーゾは慎重だ。新パーツが望むような違いをもたらしてくれるかには確信が持てないらしい。シルバーストンとミサノの結果は彼のライディングによるものでマシンのおかげではないという。「この2戦、僕がやったことはすごいことですよ」

カル・クラッチローがドゥカティと袂を分かつことにした今となっては、アンドレア・イアンノーネは実質的にドゥカティのセカンドライダーだ。しかしドヴィツィオーゾのペースには追いつけなかった。とは言え地元で5位に入っている。パワーの差でワークスマシンに追いつけなかったのだが、これまでで最もトップグループに近づいたレースだ。ドゥカティのライダーがミサノでテストをしたことも少しは助けになっているかもしれないが、3週間目とは路面状況が完全に異なっていることを思えば、期待していたほどテストの効果はなかったろう。

ロッシの勝利に加えて2台のドゥカティがトップ5に入るというのはイタリア人にとっては夢のような週末だったろう。Moto3ではエネア・バスティアニーニも良い走りをしているし、アーサー・シッシスに取って代わったマヒンドラのアンドレア・ミーニョもよく頑張った。ロッシはイタリアのファンにスペイン人と戦える力がまだあること、スペイン人がちょっとでも沈めばそこにつけいってみせることを証明してみせた。そして今回のレースでは高いレベルの新たな世代が台頭していることも示された。ミサノでのMotoGPレースの後、コースを埋めた観衆は大満足だったろう。

しかしロッシの勝利は単にイタリアの勝利ということではない。ロッシという存在は国を超えて、モータースポーツを代表しているのだ。MotoGPがスポーツ番組で取り上げられることがない国でもロッシならば2分間ばかりテレビで放映されるのだ。正直言うと10周目の後でレースへの興味は失せてしまった。ロッシは冷静にロレンソとの差をコントロールしていたのだ。しかしそれをやっていたのはロッシであり、世界中に名を知られ、世界中から愛される彼がやるならファンはそれを許すのである。彼がどう勝つかは関係ない。彼が勝てることが重要なのだ。

スペインのジャーナリストであるメラ・チェルコレスがロッシのことを「Patrimonio de la humanidad」と表したことがある。ヴェニスやストーンヘンジやイエローストーン国立公園といったユネスコ世界遺産のことだ。それはほんの少しだけ大げさかもしれないが、ヴァレンティーノ・ロッシはもう何年もにわたってスポーツを超えて人類のものになっているのかもしれない。MotoGPがそれほど人気のない国に住んでいると、何をしているのか訊かれてバイクレースについて書いていると答えるときに「知ってるでしょ、ヴァレンティーノ・ロッシが走ってるやつですよ」と言うと、誰もが納得してくれる。そして誰もがバイクレース界の象徴に微笑みを浮かべるのだ。ミサノのレースはなぜロッシが第一人者の地位に居続けるのかを教えてくれた。

史上最高のライダーは誰なのかについての議論もあるだろうし、彼より才能のあるライダーもいるだろうが、バイクレース界に最も影響を与え、そしてこのスポーツを世間に知らしめたのが誰かという点についてはヴァレンティーノ・ロッシ以外を挙げる人はいないだろう。だからこそロッシの勝利はモータースポーツの勝利なのである。
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ふう。私はロッシがデビューした頃から見ていて、なんとなくその影響力を過小評価しているところもあるんですが、やっぱ引退後はまずいんでしょうねえ。

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