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デニス・ノイスのベスト記事(2004年):MotoGPマシンの魂

MotoGPジャーナリスト界の重鎮、デニス・ノイス氏が2004年に書いた記事がSuper Bike Planetにアップされてました。欧米視点がとてもおもしろいので訳出。ところどころ訳注もつけてます。
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(昔のフォルダから素晴らしい記事を掘り出した。デニス・ノイスが書いたものである。今回彼は再掲載することを許可してくれた。しかも彼のメモ付きだ:編集部)

この記事は私が2004年に書いたものだ。去年ミサノで久しぶりに尾熊洋一(訳注:1980年代から90年代半ばのホンダのWGP監督)に会って、この記事は未だに古くなっていないと感じた。尾熊サンと私は尾熊流の会話を交わした。長い沈黙と時々動詞が抜かれるブロークンな話し方だ。私の記憶では(ノートも録音もないが)こんな感じだ。「ノープロブレム・・・うーん・・・ホンダだけじゃなくて、ヤマハも、でもドゥカティは・・・うーん・・・ドゥカティのことは助けないと、わかるためにね。(長い沈黙、そして尾熊は太陽が眩しいのか目をつぶったまま語り始める。ミサノのパドックが一望できるバルコニーで話していたのだ) むかし本田さんに教えてもらって、僕がアーブ(訳注:カネモト)サンとジェレミー(訳注:バージェス)サンに教えて、アーブサンとジェレミーサンが今度は若いエンジニアに教えて、でも今でも教えられるかな?コンピュータも満載だし・・・うーん・・・ノープロブレム」

私に4台メーカーのなんたるかはそれぞれたった3語以内で(いちばん短いのは4文字で)表現できると教えてくれたのは俳優のケン・フランケルだ(Hawaii Five-0シリーズをはじめとする多くの映画、特に「トラ・トラ・トラ」で知られる。フランケルは歌舞伎シアターで演じたこともあるほど日本の不思議に精通している)。彼は私に日本人特有の言外のコミュニケーションと「モクサツ(黙殺)」(字義通りにとるなら「沈黙で殺す」)という戦略について教えてくれた。

昔ながらの日本人らしいボスの最後の生き残りはおそらく先般引退した古澤政生だろう。ホルヘ・ロレンソの怒りっぽいチーフメカであるラモン・ファルサダに言わせれば、彼は「コンピュータを憎んでいる」のだそうだ。そしてそれに最も近いホンダの男と言えば、ずる賢くお茶目で説得力のある中本修平だ。

ジャーナリズムがペーパーレスになった今、編集部のディーンがインターネットの山の中のどこからか見つけてくれたこの記事のことはほとんど忘れていたのを告白しておこう。−DN
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ワールドスーパーバイクでは参戦マシンのテクニカルデータはオーナーズマニュアルに記載されている。ワールドスーパースポーツではFIMの監督官が6台のホンダCBR600RRをスタンダードのリアアクスルを使っていないことを理由に失格とした。しかしこれらと異なりMotoGPは真のプロトタイプレースである。つまり外観や写真から推測できる以外のことはトップシークレットなのだ。見たこともない金属でつくられており、サテライトではチームメカすら知らないこともあるだろう。

そしてこれはMotoGPマシンの技術的側面については対して語ることがないということでもある。これまで繰り返されてきたインライン4とV4、V5の良い点、悪い点といったことや、ヤマハのビッグバンクランク(訳注:クロスプレーンクランク)や、そしてあなたも私もこれまで聞いたり読んだりした、まあそういうことしか語れないのだ。なので今日は技術的な話はすこし置いておいて、ちょっと精神的な話をしようと思う。まあ他によい単語がないのだがMotoGPマシンの「魂」について語らせてほしい。

みんなヴァレンティーノが、ライダーはマシンより重要だと言うのを聞いただろう。今シーズン、GPキャリアで初めて不利なマシンに乗るヴァレンティーノのようなライダーだけがそんなことを言えるのだ。GPレースという現実世界では、並外れたライダーでなければちょっとした不利ですらカバーできないのだ。今日の極めて洗練されたMotoGPにあっては、石ころを磨いてもダイヤにはならないということだ。

去年、戦闘力のあったマシンは3種類。本題RC211V、ドゥカティ・デスモセディチ、ヤマハYZR-M1だ。技術的にはホンダが一歩抜きんでていた。そしてその優位性はロッシが乗ることによってさらに増すことになった。今はロッシがヤマハに乗っている。そしてヤマハは去年と比べるとずいぶん良くなっている。しかしIRTAテストから開幕までの彼の輝きは消えるかもしれない。これから待ち受けているのはホンダの中速域とトップスピードの強さが活かされるサーキットだ。ヤマハの本当の試練はこれからだ。

ドゥカティは今のところペースがつかめていないようだ。ムジェロに向けてわくわくするようなプレスリリースが何本か出されているが、現実は今年型GP4に加えて去年型まで持ち出さなければならないほどトララブルに見舞われているのだ。ロリス・カピロッシとトロイ・ベイリスの二人は2台を並べてどちらがましか選ばされることになっている。

プレシーズンテストに加えて開幕からの3戦はライダーに焦点が当たっていた。しかしそろそろメーカーに焦点が当たるべき頃合いだ。今では企業文化と呼ばれることもあるが、要するに大事なのは実際に会社でレースにたずさわる何人もの人たちの魂であり、なぜリースをするかという理由なのである。

日本企業を3語以下で
古くからの私の知り合いでテレビにも出ている、でもそれより重要なのは無類のバイク好きで今は引退して日本に住み日本語を流暢に操る男が教えてくれたことだが、日本のバイク業界で4台メーカーのレース部門がどのように呼ばれているかを3語で表現する方法を教えよう。これは彼が言ったことだが、彼も私も誰かを誹謗するつもりは全くないことをお断りしておく。

ヤマハ:純粋マーケティング
スズキ:レース気狂い
カワサキ:金持ちのレース
ホンダ:NASA

彼にヨーロッパメーカーはどう思われているのか聞いたら、彼はこう答えた。「夢追い人」

彼が自信に満ちてこういう呼び方を教えてくれた上に、それを裏付ける様々な逸話も教えてくれたせいか、いまだに私の頭の中にはこのイメージが染みついている。

イメージが先かそれとも観察の結果なのかはもうよくわからなくなっているが、以来ヤマハワークスはセールスのためにレースをしているのだと見ている。何年にもわたってヤマハのグランプリレースは最高の500ccマシンやMotoGPマシンというわけではなかった。しかし彼らは最高のプロの広報と、そして最も恐れを知らないライダーを抱えている。ロバーツ、レイニー、ローソンを思い出すといい(そして今はヴァレンティーノ・ロッシとホルヘ・ロレンソだ:DN)。

過去のレースレポートをひもとくと、この3人は常にマシンに文句をつけていた。でも勝ってもいたのだ。ケニー・ロバーツが彼独特の言い方でウェイン・レイニーにこう話したのを覚えている。「もしこれで勝ち続けたらヤマハの連中はこれがどんなクソバイクか気付かないままだぜ」。そしてジョン・コシンスキーがレース後マシンを降りてマシンがいかにひどいかについてまくし立てたのも忘れられない。「だれもこんなのには乗れるわけないね」。一方その時、ピットの向い側ではアメリカ国歌が流れ始めていた。ジョンがとても乗れないと言っていたのと同じヤマハに乗るレイニーがまた勝ったのだ。ジョンはウェインの勝利についてこう言った。「おかげで何も変わらないんだ」

現在のヤマハはマシンそのものよりロッシのために努力しているように外野からは見える。しかし新型YZRはロッシのインプットがあったからできたわけでは決してないというのが真実だ。新型マシンは多くのライダー(チェカ、バロス、メランドリ、ジャック)や少なくとも最低一人の元ライダー(ランディ・マモラ)のおかげで、ロッシが契約する前にある程度出来上がっていたのである。実際、ロッシは新型マシンのポテンシャルを理解していたからこそ母なるホンダを離れる決意をしたとも言えるのだ(DN:ロッシと彼のスタッフがヤマハに移籍した最大の効果はエンジニアである古澤政生がクロスプレーン方式に自信を持てたことだろう)。

今シーズンヤマハがすべてをうまく運べるかどうかはあと2〜3戦観なければわからないが、しかしロッシと契約することでヤマハは素晴らしい広告看板を手に入れたことになる。1993年にレイニーがミサノでクラッシュして以来の低迷時代を思えばなおさらだ。今シーズンもことによったら低迷するかも知れないが、現時点ではマーケティングは大成功である。

スズキに気狂いタグをつけた友人が語ってくれたその根拠をお話ししよう。これはどちらかというとそれを作った人に対するタグではなくマシンそのものに対するタグである。最近の1000ccストリートマシンはどれも165~170馬力を発揮するためスズキのGSX-R1000がずいぶん普通に見えてしまっているが、これは史上最速の公道ロケットマシンなのである。そしてスズキこそがGSXR-750(後に1000も導入される)を産みだしハイパフォーマンスロードバイクの先鞭をつけたメーカーなのである。

スズキが最高のGPマシンを作っていると思われていた時期は1977年まで遡らなければならないだろう。その年バリー・シーンがRG500で2度目のそして最後のタイトルを獲得した。さらにこのロータリーバルブのスクエア4マシンはマルコ・ルッキネリが乗った1981年、フランコ・ウンチーニの1982年の2度タイトルを獲っている。

ケヴィン・シュワンツがいなければ80年代後半から90年代初頭にかけてやられっぱなしということになったろう。2000年にはケニー・ロバーツJr.がドゥーハンのいないホンダとレイニーのいないヤマハを破ってルーキーながらタイトルを獲得する。しかしここ最近はスズキががんばっているのはとんでもなく速くとんがったロードバイクだ。ヤマハやカワサキを置き去りにするような妥協のないマシンである。ホンダにいたっては最近のCBR1000RRまですっかり影を潜めていた。スズキという会社の商業哲学を表すなら「大胆」というのが「気狂い」よりは適切な言葉かもしれない。

カワサキはもちろん川崎重工業グループであり、日本では語りぐさとなっているが、60年代、ホンダやヤマハやスズキの方がヨーロッパでは自分たちより有名だということにうんざりしたカワサキの重役たちがバイクの魅力に最初に気がついたのだという。そこで彼らが考えたのがエキサイティングなプロジェクトだ。橋梁や機関車やタンカーを作るより魅力的で、名を上げるのにもってこいのプロジェクト。カワサキのようなリッチな会社の一員としてバイクを作る。最初は利益が出なくてもそれほど問題はないのだ。それが「金持ちのレース」という謂いの根拠だと私の友人は請け合った。(長い訳注:カワサキのバイクの歴史はもう少し遡って1954年に端を発します。さらに言うならカワサキ大排気量車のルーツと言ってもいいメグロ製作所は195037年(←御指摘を受けて訂正しました)からバイクを作ってますので、これはどうなんでしょうねえ。真偽のほどはかなり怪しいかと)

今ではカワサキのバイク部門は独立し収益部門となっているが、未だにメインスポンサーはおらず、とんでもなく金のかかるMotoGPを走っているにもかかわらず本気でスポンサーを探している様子もない。

とは言え、最もうまくつけられたのはホンダの「NASA」という表現である。

かつて私は現在では引退してしまったHRCの元トップである尾熊洋一と本当の翻訳者を通じて話す機会を得た。いつもなら会社がつけた人間が、尾熊の素晴らしいフレーズを矮小化し、まるで会社の商業的利益を代表してレースをしているかのように翻訳してしまうところだった。

しかしその日オランダではHRCの翻訳者がダッチTTお馴染みの金曜朝の渋滞に巻き込まれ、彼女無しで楽しく親密なプレスカンファレンスが始まったのだ。かわりにそこにいたのは善意で翻訳を請け負ってくれた日系アメリカ人だった。

私は今でも彼が戦いについて熱をこめて語った様子が忘れられない。

「他のメーカーは自分たちがなぜレースをしてるかわかってないんですよ。ホンダが自信をもってやってるからついてくる。まあ追い抜くこともありますけど、でも追い抜いちゃったら自分で道を切り開けるかというとそうでもない。将来展望がないからなんです。そしてホンダがまた追い抜く、で彼らは喜んでついてくる。彼らには見えない光をホンダが見ていることを知ってるんですよ」

そこにホンダの翻訳者がやってきて、最後の言葉を英語で聞いて青ざめていた。そして翻訳者は彼女に交代し、尾熊サンは同じ熱い情熱で語っているように見えたのに、翻訳される言葉はもう同じではなかったのだ。

しかし垣間見えた、そして少しだけ聞こえたのはホンダの心からの独白だったろうと私は強く思う。会社の文化の奥底の大事な部分でホンダはレース界のNASAなのである。

そしてドゥカティと予算不足のアプリリアはあらゆる意味で「夢追い人」である。
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ヤマハの中の人がセールスを考えていたり、カワサキのレース部門が金持ちとは思いませんけど、会社のスタンスというのは何らかの形で影響を及ぼすはずなので、なかなか面白い記事でした。

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コメント

>他のメーカーは自分たちがなぜレースをしてるかわかってないんですよ・・・

小熊さんの“本音”は圧巻ですね。
DはともかくYやSは一言も言い返すことができなさそう。
いい記事を覗かせてもらいました。

投稿: さわら | 2014/09/06 09:00

>さわらさん
 コメントありがとうございます。
 各メーカーがこんな感じで歯に衣着せずしゃべってくれればもっと楽しいんですけどね。ヤマハやスズキにも是非言い返してほしいです!

投稿: とみなが | 2014/09/06 23:49

静岡の子分YやSが本音をポロっと吐いたらH陀に思いっ切り踏み潰されますよ笑
雑誌で古沢さんの「H陀には私を殺したい人が何人もいる」というコメントを見た時この発言はヤバいなと。今季0勝がそのせいかどうかはわかりませんけどね。

ほんとほんとの本気を出したら唯一Hを力で粉砕できそうな気がするKは深い深い昏睡状態・・・これはK幻想ですな。

投稿: さわら | 2014/09/07 08:42

>さわらさん
 緑の人なんですねw。
 ちなみに私はスズキもヤマハもライバルではあれ子分だとは露程も思わないですねえ。

投稿: とみなが | 2014/09/07 11:12

初めてコメントします。

>彼らには見えない光をホンダが見ていることを知ってるんですよ」

この文章は長年自分が抱いていたモヤモヤに見事にこたえてくれました。 特にヤマハは、ホンダに勝つことを命題にしている・・ それに対して、ホンダはヤマハに勝つことを命題にしていませんよね。 2006年にニッキーがチャンピオンを取った後、2011年にケイシーがチャンピオンになるまで5年開いた訳ですが、え? 5年も? って感じでしたし。 つまり、勝っていなくてもホンダには存在感があるんですよね。 これがやまはt\

宗一郎さん亡き後も、ホンダスピリッツはあるんだなぁと実感しました。 

大満足です。 ありがとうございます!

投稿: ケン | 2014/09/08 19:24

>ケンさん
 お楽しみいただけて嬉しいです!
 ホンダは誰かに勝ちたいんじゃなくて、誰にも負けたくない、んでしょうね。まあでも他のメーカーもレースをしている限り同じかもですよ。

投稿: とみなが | 2014/09/08 21:20

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