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ワールドスーパーバイク-Q&A:ダヴィデ・ジェンティーレ(ユージーン・ラヴァティのデータ分析担当メカ)

そんなわけでさっきの電子制御の話につなげるわけではありませんが、ワールドスーパーバイクでスズキに乗るユージーン・ラヴァティのデータ分析担当メカへのインタビューがCRASH.netに載っていたので訳出。どうやったらレースのデータ分析の仕事に就けるかとか、なかなかおもしろいです。中盤には電子制御の技術的な話題があります。なるほどなるほど。
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注:本インタビューはユージーン・ラヴァティが来シーズンMotoGPに参戦することを発表する前に行われている。

CRASH.net:こんにちは。まずはあなたについて聞かせてください。

ダヴィデ・ジェンティーレ:僕はイタリア人でこのチームで働いています。みんなにはイタリア人のデイブって呼ばれていますね。
 昔はバイク乗りでレースもやっていました。ロードレースじゃないですけど、2〜3年ばかりオフロードとエンデューロをやってました。若いときのことですけどね。
 今でもバイクには乗っていて、いろいろ言いバイクを持っています。ヤマハR1とかRG500γとかです。でも最近はドゥカティ・モンスターS4に乗っていて、天気が良ければちょい乗りに出かけすね。まあ僕はイギリス人じゃないんで天気が良くないとだめですけど!


CRASH.net:レースをやめたのはいつですか?

ダヴィデ・ジェンティーレ:ずいぶん昔ですよ。1992年だったかな。僕はヴァレンティーノ・ロッシじゃないってことは言っておいた方がいいと思いますけどイタリア選手権では結構いいところまでいって、望みが無いわけじゃなかったんです。最終的に大腿骨を骨折して膝もつぶしちゃったんでキャリアが終わっちゃったんですよ。でもレベルはそれほど低くなかったですね。


CRASH.net:どうやってデータ分析担当メカになったんですか?

ダヴィデ・ジェンティーレ:元々は普通のメカニックだったんです。トリエステで機械工学の学位を取ったんですけど、電子系を勉強してたわけじゃないんです。大学では内燃機関全般について勉強していましたけど、特にバイクのエンジンが好きだったんですよ。
 で大学の最後の頃になってアプリリアのレースチームで働く機会があったんです。学位を取るには必要だったんです。アプリリアはトリエステ大といろいろつながりがあったんでね。
 その時は125と250のGPマシンにたずさわってました。あと400ツインの初期にも関係しました。これは後に例の恐ろしいキューブ(訳注:3気筒MotoGPマシン)になるんですが。キューブのエンジンの開発が始まった頃のことを覚えてますけど、あれは本当にモンスターマシンで恐ろしいものでしたよ!
 その後アプリリアに入ってRSV1000で燃焼伝播について取り組みました。そしたらレース現場で人が必要になったんで誘われたんです。おもしろそうだから承諾しましたよ。
 レースチームでは新型マネジメントシステムの研究をしていて、データロガーから情報を集めるとか、そういうことをやってたんです。いろんなパラメータを表示してコントロールするためのプログラムを開発していて、幸運にもそれにかかわることができたんです。楽しかったですし、以来その分野で働いてるんです。そんなわけで機械工学のエンジニアが電子制御をやってるんですよ。


CRASH.net:バイクのデータ分析をやりたいとしたらエンジニアとしての勉強とIT分野の勉強と、どっちを優先すべきですか?

ダヴィデ・ジェンティーレ:私の意見ではやっぱり機械工学のバックグラウンドが必要ですね。バイクの力学とか熱力学とかはわかっていなければなりませんから。バイクにどう力が作用して、ライディングがそれにどのように影響するかについて理解しなければならないんです。とは言え今の僕の仕事は数字まみれですけどね。
 数値とマシンで実際何が起こっているかの関係性が大事なんです。加速やグリップやトルクとかについては実際に使えるレベルで理解していなければなりません。


CRASH.net:いわゆる普通の仕事には就いていないんですか?

ダヴィデ・ジェンティーレ:そうですね、大学を卒業してからボルトメーカーで働いたことがありますよ。あんまりいい仕事じゃなくって、3か月したらドゥカティが面接に呼んでくれたんです。


CRASH.net:アプリリアで働いてたって言いませんでしたっけ?

ダヴィデ・ジェンティーレ:ええ、マティア・パシーニとランディ・ドゥ・ピュニエの2人と一緒に何シーズンかやりました。ランディがまだバリバリだったころにね。実は大学に行きながら働いていたんですよ。卒業してボルトメーカーに就職したんです。安定した仕事だと思ったんですよ。でも7時に起きて5時まで仕事するってのは僕のスタイルじゃなかったんです。だからドゥカティに呼んでもらえて良かったですよ。


CRASH.net:データ分析担当メカというのは安定した仕事なんですか?

ダヴィデ・ジェンティーレ:まあレース現場の仕事というのはなかなか不安定ですね。契約は普通1年だし、まあ良くって2年ってところなんですよ。それがレースというものです。でもデータ分析担当メカならシーズン終わりには次の仕事が見つかるってことがわかりましたね。多分僕はラッキーなんでしょう。あんまりこの仕事をやってる人は多くないですからね。
 ダヴィデ・ジュリアーノhttp://it.wikipedia.org/wiki/Davide_Giuglianoとドゥカティでやってたときにはチーフメカみたいなこともやりました。チーフメカ兼戦略立案って感じでしたね。結構おもしろかったですよ。ダヴィデは全力を尽くすライダーでしたから。でも一緒に働くのはたいへんでしたよ。うまくいかないとすぐ怒るし、手が着けられなくなることもあった。でも一旦信頼してもらえたらすごくいい関係を築けるし、たぶん今でも僕のことが大好きだと思いますよ!
 仕事の時間は一定しませんけど、シーズンの今頃が一番忙しいですね。レースの仕事だけじゃなくシーズン終わりのテストの準備もありますから。
 給料はすごくいいと思います。100万ユーロ(訳注:邦貨換算1億4千万円)とは言わないですけど、チーフメカくらいはもらってます。僕みたいな技術を持っている人は少ないんで、価値を認めてもらえるんです。
 いい思いをしてると思いますよ。だって自分でシステムを開発して好きなことができるんです。レプソル・ホンダじゃこうはいかないですよね。いつも誰か別のスタッフと一緒にやらなければならない。僕はクリエイティブなチャレンジが大好きなんです。


CRASH.net:他に一緒にやって楽しかったライダーはいますか?

ダヴィデ・ジェンティーレ:AMAでベン・ボストロムとやってたときも楽しかったですね。残念なことにその年は彼hあ健康問題を抱えていて、ベン・スピースという最大のライバルもいました。彼はすべてのライダーを撃破してましたからね。


CRASH.net:ところでベン・スピースがWSBKで大活躍したのはマシンのアドバンテージとアクティブサスのおかげだと思いますか?それともベン自身のライダーとしての能力だと思います?

ダヴィデ・ジェンティーレ:あれはヤマハがビッグバンエンジンを出した最初の年で、それほど熟成されていなかったんで、トム・サイクスみたいないいライダーでも6位か7位でした。でもベンについて言うと、あんな強いライダーは見たことが無いですよ。だからマシンとか電子制御のおかげじゃないと思います。あのときのヤマハのパッケージはそれほどでもなかったんですよ。全部ベンがあの年にすごいことをやったってことを意味しているんです。
 当時僕のチームもアクティブサスを使っていて、僕が知る限り手が掛かる割には大して見返りがなかったんです。アクティブとは呼ばれていましたが単にピットに戻らなくてもダイヤルで調整できたというだけの代物だったんです。セクションごとに、例えばあるコーナーに入るときに調整するなんて、あれほど接戦でブレーキングしてるときにできるわけがありません。多少は意味があったかもしれませんがね。


CRASH.net:今、WSBKはモーテック(訳注:電子制御機器メーカー)を使っていますが、あなたはマニエッティ・マレリを使っていましたよね。その経験は移行できたんですか?

ダヴィデ・ジェンティーレ:今モーテックのための新マッピングを作っているところです。でも基本的なロジックやマッピングは同じなんです。それにモーテックはソフトウェアキットを出していて同じことができるので、僕にとっては結果は似たようなものですね。
 プロセッサーのスピードはすごく速くなっているんで、安いユニットでもライダーが気付かないくらい速く対応できるんですよ。マレリの電子制御ユニットは2個だか3個だかのCPUを内応していて、モーテックのはもっとシンプルですけど、これ以上性能を上げる必要はないですね。
 現段階ではすべてのマッピングを来シーズン使うことになる安いECUに移行するためにいろいろやっているところです。マッピングはC++とかで書かれているんですが、僕はプログラミングはできないんです。僕がやるのはプロシージャーを整理してプログラマーに渡すところまでですね。
 プロシージャーの整理とプログラミングのためにはソフトのかなり深い部分まで知らなければなりませんし、ECUをコントロールするためにすべての機能をわかっていなければならないんです。どのチャンネルを使うかとか、この値になるまでこれを反復するとか、まあそういったことですね。
 僕の仕事はそれ以上のことをしなきゃならなくって、現実世界と関連づけなきゃならないんですよ。例えばトラクションコントロールを作りたければこのチャンネルを使ってこういうマッピングをしなきゃ、とかですね。


CRASH.net:チャンネルってどういうことですか?

ダヴィデ・ジェンティーレ:チャンネルってのは測定値のことで、要するにスピードとかピッチアングルとかのことですね。アウトプット、つまりエンジンをコントロールするのに必要ないろんな変数ってことなんです。
 トラクションコントロールがいい例ですね。一番簡単なトラクションコントロールはフロントホイールとリアホイールの回転数を比較するプログラムです。
 その比で設定値と閾値を決められます。で閾値との差分からエラー値を設定する。閾値は要するにそれ以上のホイールスピンをさせたくないという数値で設定値から5%ずれとかいう風に決めるんです。
 スピンが設定値の5%を超えたら設定値からどれくらい乖離しているかの信号が出て、その値に従ってエンジンをコントロールするんです。そうすれば設定範囲内にホイールスピンを収められるというわけです。
 トルクを制御するにはいろんなやりかたがありますけど、例えば点火進角を大きくしてエンジンパワーを制御範囲内にするという手があります。その他にも設定値からの乖離幅に従っていろんな手を使いますね。例えば3%ずれなら点火を弱くするとかです。
 残念ながらこれはちょっと複雑な話なんですよ。何が起こっているかを把握しながら同時にコントロールの結果を見て、それを比べるんです。状況が良くなっているのか悪くなっているのかを把握しなきゃならないということです。これはインテグラル・パスと呼ばれています。
 コントロールのためには3種類の数値を使います。ひとつはその時点での設定値のとの比率で、もう一つは傾向を見るために微分した結果で、3つめは介入の結果どうなるかを積分した結果です。これがコントロールのための3要素です。
 これを全部マッピングして開発者に渡して、その後デバッグすることになります。


CRASH.net:例えばモーテックのECUを私の公道用SV1000に積みたかったら何をすればいいんですか?

ダヴィデ・ジェンティーレ:ECUもソフトも買えますけど、お金次第でいろいろ手に入りますよ。
 でトラクションコントロールとかを使いたければECUに書き込んでエンジン制御をいじるためのマネジメントインターフェイスが必要です。でも正直言うとそれ以前にいじるための技術が必要ですし、でなければ何が起こっているかわからないまま数字をいじるだけになっていまします。
 デフォルト状態のECUでは燃調や進角のマッピングとかいろいろ設定しないとエンジンもかけられないですよ。それにバイクごとに設定値は異なりますしね。
 そういう設定値が入っているECUを買うこともできますが、お金がなければただの箱を買うことになります。箱の中身がないと基本的なマネジメントマッピングを入力するだけでまるまる1年かかるかもしれません。
 基本的なマッピングでエンジンが普通に動くようになったら次は自分なりのトラクションコントロールとかウィリーコントロールとかエンブレコントロールを入れなければなりません。


CRASH.net:そういうことをレースでもやっているんですか?

ダヴィデ・ジェンティーレ:ええ、その通りです。でもトラクションとかウィリーとかエンブレのコントロールといったことの裏にはトルクのコントロールがあるんです。あらゆる回転数とスロットルポジションの組み合わせでエンジンがどれくらいのトルクを発生するかを理解して、それで初めてちゃんとしたマッピングができるんです。
 こうしたマピングはコーナーごとに違いますし、リーンアングルでも違います。リアタイヤのプロファイルは丸いですから、タイヤのどの部分が接地しているかで(訳注:回転数が同じでも)リアタイヤからのスピード値は変わるんです。それに加えてタイヤの摩耗も考慮しなければならない。
 オフセットと呼ばれるマッピングもあります。これはタイヤが摩耗してもそれを調整して一定の値になるようにするものです。


CRASH.net:あなたはユージーン専属なんですか?

ダヴィデ・ジェンティーレ:テストしているときにはユージーンとアレックス(ロウズ)の両方といっしょにやってます。でもレースではユージーン専属ですね。
 レース後はユージーンから報告を直接聞いて、必要な変更をします。プログラムを調整してECUにインプットするんです。
 ライダーはたいてい感覚で話すので、その意味を咀嚼して物理的に何が起こっているのかを理解しなければなりません。ライダーを理解して、彼らがどう語るかをわかってないければいけないんです。僕の大事な技術のひとつですね。
 最初にユージーンと一緒にやったときにはアイルランドなまりがちょっとわかりにくかったですけど、今は彼のことをよくわかってますし、でもユージーンのお父さんは別問題ですよ!


CRASH.net:ユージーンは何を重視するんですか?

ダヴィデ・ジェンティーレ:彼はエンブレに対しては神経質ですね。ライディングスタイルが2スト乗りっぽいんですよ。エンブレのセッティングには正確さを求めるんです。エンブレがかからない感じでコーナーに入っていくのが好みで、(訳注:バック)トルクをコントロールするのに一番簡単なのはバタフライ弁を開けることですね。
 実際エンブレの良し悪しが一番大事なポイントなんです。コーナー進入が一番タイムを削りやすいし、それ以外でタイムを稼ぐのはなかなかたいへんなんです。
 エンブレが良ければ0.5秒とか稼げるんですが、世界最高のトラクションコントロールでもせいぜい0.2秒違うくらいなんですよ。トラクションコントロールなしで走っても最速ラップにはそれほど影響しないんです。
 トラクションコントロールで大事なのはタイヤを保たせられるということなんです。でもラップタイムにはエンブレの方が影響しますね。ですからそちらのマッピングは凄く複雑ですし、今でも開発は続けています。


CRASH.net:アレックスはどうですか?

ダヴィデ・ジェンティーレ:ユージーンはトルクの出方もトラクションコントロールもエンブレもがスムーズなのが好きで、一方アレックスはもっとアグレッシブなのが好みですね。とにかくすぐに最高馬力が出るのが好きなんです。トラクションコントロールもあまり入れませんし、エンブレも利かせます。コーナー進入も脱出もアグレッシブで、その分コーナリングスピードは低くて、見た目が派手なんですね。普通のスーパーバイクスタイルですよ。


CRASH.net:ユージーンのスタイルはMotoGP向きだということですか?

ダヴィデ・ジェンティーレ:ええ、その通りですね。スムーズだしコーナリングスピードも速い。ユージーンはいいシートを探していますけど、彼が残ってくれるといいですね。


CRASH.net:フィリップアイランド以降、パフォーマンスが落ちたのは何か理由があるんですか?

ダヴィデ・ジェンティーレ:フィリップアイランドはスズキ向きのサーキットなんですよ。ストップ&ゴーではないですし、それがうちのエンジンに向いているんです。ロングストロークで低回転域でもトルクがありますからね。ですからめちゃめちゃパワーが無くてもフィリップアイランドなら速く走れるんです。WSBKでもMotoGPでも同じことが起こっています。
 ラグナセカも似たようなキャラクターのサーキットなんです。だから本当はもっといけたはずなんですがエンジントラブルが発生して、2レース目ではリスタートが何度もあって、ユージーンはあんまりスタートが得意じゃないんですよ。ユージーンはレースディスタンスで力を発揮するんです。
 スタートの問題は実は機械的な問題もあって、ユージーンはスズキのクラッチに苦労しているんです。アグレッシブな使い方には向いているんでアレックスはうまくやってるんですけどね。でも残念ながらルールでクラッチには手を着けられないことになってますから。


CRASH.net:レースを続けるモチベーションはどこから来るんですか?問題を解決したいという欲求か、それともサーキットで競い合うことなのか?

ダヴィデ・ジェンティーレ:両方ですね。コースに出ればアドレナリンのおかげで、とにかく最後の言ってまでやり尽くそうという気になります。
 工学と数字もでも大事な側面です。レース中のライダーをよく観察して、それとライダーのコメントを比較するんです。レースを見るということはデータを取得するのと同じなんです。
 レース中に新しいマッピングのアイディアを得ることもあります。それでテストベンチにかけてコースでもテストするんです。


CRASH.net:CRASH.netでは「TalentFan(訳注:才能第一)」という投稿者がいて、彼は可能な限りすべての電子制御をやめるべきだと主張していますが、電子制御担当としてのご意見はいかがですか?

ダヴィデ・ジェンティーレ:僕の答えは「安全性」というひと言ですね。
  最近では公道マシンでも電子制御があれば安全になりますし、だからレースマシンに電子制御を載せて悪い理由はないでしょう?
 電子制御の最大の目的は安全性で、スピードが上がるのは副産物なんです。でもスピードが上がればますます安全性は重要になりますからね。


CRASH.net:ありがとう、ダヴィデ。

ダヴィデ・ジェンティーレ:どういたしまして。
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文中マッピングとしているのは原文ではstrategyです。このあたり電子制御に詳しい方、ヘルプ・プリーズ!

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