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CRTとは何だったのか?

Kevin Cameron氏がMotoGPクラスにおけるCRTの導入を総括しつつMotoGPの政治的動きについて語っています。Cycle Worldより。
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CRTは結局どうなってしまったのだろう?どこから来て、どこへ行ってしまったのか?

2002年にMotoGPが始まった起き、ピーター・クリフォードの個人チームは余り知られていない東欧の会社であるブラタのV6エンジンを積んで走るつもりだった。しかしそれは実現せず、クリフォードはヤマハYZR-M1のエンジンをチューンして「MotoGPプロトタイプ」として走らせることになった。

しかしそれは結局拒絶されることになった。ルールが明示している。市販エンジンと見分けがつかないエンジンはお断りなのだ。これはプロトタイプだけのクラスなのだ!このクラスにエントリーするにはシリンダーとクランクケースの角度は市販エンジンから最低5度は異なっていなければならない。それができなければさようなら、なのである。

新たに導入された4ストローククラスには情熱を持った様々なチームがやってきた。F1を育てた多くのスポンサーが4ストロークという魔法の言葉に惹かれて参入してくるに違いないと思った者もいる。新たな時代の幕開けだ!

しかし年が経つにつれて情熱は冷めていった。アプリリアはF1エンジンをベースに開発した金食い虫のキューブエンジン(訳注:3気筒の最高の音色のマシン)がストレートで最速でもラップタイムでは最も遅いのに失望して撤退。ケニー・ロバーツのプロトンV5は資金難。KTMは前評判の高いMotoGP用プロトタイプエンジンを14基作ったがロバーツのチームがチェック後に要求した変更は予算を大幅に超えていたのだ。F1並の価格でエンジンを供給しようという会社もあったが、結局それを受け入れるチームはなかった。カワサキは撤退がらみの相次ぐ法的問題にうんざりし、二度と戻ってこないことを表明した(ホンダがAMAプロレーシングを撤退したのを思い起こさせる)。

BMWはF1で鍛えたエンジニアの集団を擁してやってくると噂されたが、MotoGPにセーフティカーを供給することの方がよっぽど費用対効果が見込まれているようだ(確かに夢のようなキューブに似た最先端の300馬力の3気筒エンジンについても噂されていたが、トルクカーブが極端にピーキーでテストライダーがハイサイドを起こしたらしいという話とともに消えていったのだ)。

ネクストバッターズサークルにいたのはイルモアだ。レーシングエンジンでは成功している会社の一つで、シーズン終了後に行われる恒例のヴァレンシアテストで白いカウルの800ccプロトタイプを走らせた。スズキのワークスマシンと同様にF1発祥のニューマチックバルブを備えたこのマシンは、外部の熱交換機で冷却水を温めないとエンジンを始動できなかった。これが未来なのか?MotoGPは禁断の領域に入り込もうとしているのか?その結果?F1と同じ幅18インチのタイヤに合わせたパワーバンドのおかげでハイサイドが増えるだけか?うーむ、そうなったらF1とMotoGPの違いはなんなのだろう?

次第に恐ろしい事実が浮き彫りになってきた。これまでは静かな湖面の下に潜んでいたのだが、水位が下がることで表に現れてきたのだ。バイクメーカーでなければMotoGPに参戦しようなどと考えてはいけない。例えバイクメーカーでもドゥカティのクラウディオ・ドメニカリが2003年に言ったことを覚えておくべきだ。「参戦には3200万ドル(35億円)、運営に年間1000万ドル(11億円)かかるんだ」

このまま将来にわたってグリッドの台数が減っていくとどうなるかドルナが予測を始めたとたんに幹部たちは青ざめた。ホンダ、ヤマハ、ドゥカティが2台か4台のバイクを参戦させるだけになってしまうのではないか?しかもその内のどのメーカーが抜けてもおかしくない状況だ。なんということだ!

そこで導入されたのがCRT(Claiming Rule Teams:当初はマシンが速すぎたら買い取り-Claim-できるということから名付けられたが、そのルールはすぐに引っ込められた)だ。CRTはスーパーバイクのキットエンジンをプロトタイプシャーシに載せたマシンである。「プロトタイプ」至上主義者たちは黙り込んでしまった。まずはグリッドを埋めよう!この偉大なスポーツを守っているメーカーにとっても金がかかりすぎるためにレースがばかばかしいものになってしまうのを何とかして止めなければならない!

ご存じの通り今ではホンダの「市販レーサー」(非常に上質に仕上げられているが加速力に劣るスプリングバルブのRC213Vクローン)、そして廃棄ヤードに捨てられずに済んだ旧型ヤマハ、奇妙なペーパーワークによって競争力がないと宣言してもらったことでエクストラソフトのリアタイヤと余分な燃料を許されたドゥカティにCRTは駆逐されてしまった。ちなみにドゥカティが成功しすぎたらワークスと同様のハードタイヤと1ライダー5基のエンジンに20Lの燃料に戻されることが決まっている。

この新たなルールにより戦闘力の劣るスーパーバイクエンジンのCRTは消えてしまった。同時に草の根ビルダーがワークスに一泡吹かせるという希望を抱えていたドルナの幹部はCRTのあまりのつまらなさに恥じ入ることとなってしまう。ひどい状況だ。これは1980年代初頭のAMAの「インスタントエキスパート」制度を思い起こさせる。草レーサーにエキスパートライセンスを与えるというものだ。ラップタイムは考慮しない。とにかくグリッドを埋めればよかったのである。

今でも悲観主義者がいて、彼らは貧乏なMoto2チームがグリッドを埋めるチームに出されるという報奨金を目当てに鋳造シャーシにスーパーバイクエンジンを詰め込み、倉庫の奥から不良品のサスとブレーキを引っ張り出してくるのではないかと噂している。

状況は落ち着いたのだろうか?危機は去ったのだろうか?そぷではないだろう。ドルナのCEOであるカルメロ・エスペレータは回転数制限と統一電子制御ソフトウェアで現状でも存在している大きな差を縮めようと考えているのだ。一方でホンダは自らのすばらしい研究開発部門を最大限に活かすためのルールを導入しようとしている。でなければレースをする意味などないのだ。いずれにしても個人的な感情の話ではなく、単にビジネスの話ではあるのだが。

この竜虎相まみえる状況から目を話さない方がいいだろう。しかし同時にエスペレータとホンダの中本修平の仲の良さも決して忘れてはならない。楽しいゴルフの席ですべてが解決されてきたのだ。

何かが起こる日は近い。
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昨日のタイヤ問題の記事もそうですが、2016年に向けて政治的な動きが活発になってきたんでしょうね。

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コメント

世界選手権として歪んだものになっておりませんかね。
何か抜本的な解決策はないものでしょうか?

投稿: サトウ | 2014/08/16 11:13

>サトウさん
 単なるスポーツとしてとらえるには興業としての規模が大きくなりすぎてるんでしょうね。継続的にちゃんとお金が回るシステムがあればいいんですけどねえ。

投稿: とみなが | 2014/08/16 18:36

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