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化学合成油 vs. 鉱物油

常に口プロレスのネタとなるバイクのオイル。値段や添加剤や粘度や、そしてそれ以前に化学合成がいいのか鉱物油がいいのかというのもよく話題になりますね。古いバイクや車には鉱物油がいいというのも時々ききますし。

そんな中、Cycle Worldに技術系にめっぽう強いKevin Cameron氏が記事を書いていますので訳出。
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質問:初期の頃からケヴィンの記事を楽しんでいます。さて、化学合成油がいいのか鉱物油がいいのか良く議論になりますが、ケヴィンのご意見をうかがわせてください。 マーク・モラン

答え:これは良くきかれる質問です。ごくまれな例外を除いては化学合成油でないとだめなエンジンというのはありません。指定されていれば化学合成油で決まりですが、それ以外の場合はエンジンメーカーは単に粘度(5W-30等)とAPI企画(SJ等)を指定しているだけで、鉱物油にするか化学合成油にするかはオーナー次第です。

その理由を理解してもらうために、まずは潤滑には3タイプあるということを説明したいと思います。

1)完全にカバーされて液体で潤滑されている状態
 パーツの動きが速く、しかもオイルの粘度が充分高くて金属に貼りつく状態なら、負荷の掛かるところに必要な早さでオイルがわたり、パーツ同士(クランク軸とベアリング、ピストンリングとシリンダー壁、カムとタペット等々)の隙間にオイルが入ることで直接パーツがふれあわないようにすることができます。この時の摩擦は非常に小さく、普通はオイルなしの場合の1000分の1程度となります。

2)一部がオイルでカバーされている状態
 負荷の一部がオイルの膜に、一部がパーツ同士の直接接触にかかっている状態。これは始動時、オイルが全てのパーツに行き渡る前や、負荷がかかり過ぎたとき、そして粘度が低すぎたりパーツの動きが遅すぎたりしてオイルの膜が全体に行き渡らないときに起こります。

3)直接接触
 オイルの膜が切れてしまい、パーツ同士が直接接触している状態です。もちろんいい状態ではないですが、実際には思ったほどにはひどいことにはなりません。最近のオイルは表面に付着してオイルの代わりをする添加剤や表面コーティングをする添加剤が入っているからです。こうした化学物質のおかげで、実際に金属同士がこすれあうのに比べれば摩擦ははるかに小さくなっています。この場合の摩擦は1)に比べれば10〜100倍は大きいのですが、それでもダメージを防止したり、大きく減らしたりできるくらいには小さい物です。1)の完全にカバーされている状態ではパーツが動きに伴い粘度の充分高いオイルが負荷を支えています。つまりエンジンメーカーが指定する粘度のオイルなら、その働きは充分ということなのです。この観点からは鉱物油に対して化学合成油が特に優れているというわけではないのです。

一方、粘度というのは温度によって変化します。そして温度による粘度変化を表したものが粘度指数です。マルチグレードのオイルというのはベースオイルに粘度指標を変える物質を添加した物なのです。私の両親の時代、1950年代には冬に車を始動させるのは一苦労でした。当時は30Wというシングルグレードのオイルで、低温では粘度が高くて6Vのスターターではエンジンを回すことができなかったのです。マルチグレードのオイル、例えば10W-40は華氏0度(-17.8℃)で10Wのオイルと同じような粘度変化をし、華氏212℃(100℃)では40Wのオイルと同じ粘度変化をするものです。これは温度が上がると粘度が上がるという意味ではなく、100℃のときでも40Wと同程度の粘度にまでしか落ちないため100℃の10Wより粘度が高いということを示しています。

そういうわけでオイルのパッケージに示された粘度指標は華氏0度(-17.8℃)での粘度変化(10W-40なら10Wと同じ)と華氏212度(100℃)での粘度変化(10W-40なら40Wと同じ)を示しているということです。オイルの分子は長鎖炭化水素です。化学合成油と鉱物油の違いは、軍隊の兵隊に例えられます。鉱物油の分子は実際の兵隊と同じようにそれぞれ異なっていますが、化学合成油の分子はクローンの軍隊のようにすべて同一なのです。

しかしそれ以外にも違いがあります。オイルの分子は高負荷の剪断(ギアの咬合やプレッシャーリリーフバルブ等)によって小さい分子に壊れていきます。そして粘度が失われていくのです(オイル分子の長さが短くなればなるほど粘度は下がります)。化学合成オイルはたいていの場合鉱物油よりこの粘度の低下が少ないのですが、採掘された石油からできている鉱物油だろうが、単一の分子で構成される化学合成油だろうがいずれにせよオイルはすべて長鎖炭化水素でできているということも忘れてはいけません。オイルは魔法ではないのです。最近では鉱物油も化学合成油と同様に分子サイズも揃ってきていますし、耐久性も上がっています。

オーナーズマニュアル通りのオイル交換時期を守れば、粘度の低下は充分許容範囲です。にもかかわらず多くの人が(ディーラでさえも!)3000マイル(4800km)か、それ以下でオイルを交換すべきだと思っていますね。

じゃあ化学合成油の優れた点って?
化学合成油が特に優れているのは温度耐性です。ジェットエンジンの黎明期には高温になるsy夫とベアリングやアクセサリードライブを潤滑するのには鉱物油ベースのオイルしかありませんでした。しかしジェットエンジンの開発が進むと、オイル全体の温度が上がるようになり、オイルの熱による劣化が問題となってきたのです。激しい高温でオイル分子が切れてしまったり、重合してゴム化したり、なくなってしまったりということが起こりました。

その代替品として何種類もの化学合成油が試され、タービンオイルのベースとしてはジエステルが使われるようになりました。以来、オイルの温度が高温になる度に、より高温に耐えられる、たとえばネオペンチル型ポリオールエステルが使われるようになってきています。オイル全体の温度が上がると、より高温に耐えられる化学合成油が開発されてきたのです。これはつまり重いトレーラーを引いて南西部の夏を走る普通のファミリーカーの方がたいていのバイク(普通は効率的なオイルクーラーがついていますから)より化学合成油の必要性が高いということです。

化学合成油は自動車/バイクのエンジンに有用な物であることが証明されましたが、しかし鉱物油用に開発された添加剤の中には化学合成油では代替できない成分が含まれていることもありました。そこで新たな化学物質が化学合成油の信頼性を高めるために開発されるようになりました。同時にこうした物質は鉱物油にも使われるようになり、結果として安い添加剤を入れた化学合成油より、良い添加剤を入れた鉱物油の方が性能が出ることにもなりました。API(米国石油協会)が決めたオイルのグレード(SJといったもの)は、そのオイルが耐久性、潤滑製、耐酸化性、溶解性、耐腐食性といった様々なテストを通っていることを示しています。こうした性能はオイルへの添加物で実現されるもので、オイルそれ自体からくるものではないのです。

つまりはこういうことです。オーナーズマニュアルで化学合成指定となっていない限り、お好きなものをお使いください。ライダーの中にはエンジンに何か良いことをしようと思って化学合成油に高いお金を喜んで払う人もいますし、頻繁にオイルを交換する人もいます。それで気持ちが良くなるし、エンジンにも害はないのですからいいのではないでしょうか。そういういことに肩をすくめて、マニュアルに書かれているオイルで満足する人もいます。マニュアルに書かれていることはエンジンメーカーが多大な労力をかけてオイルのテストをした結果なのだから、それはそれでいいでしょう。

エンジンが摩耗するのはコールドスタートの後の数分間です。その後はオイルが全体に回るのです。つまりエンジンの摩耗を防ぐのは添加物であって、エンジンオイルの分子が鉱物由来であろうが化学合成であろうが、どちらでも同じなのです。
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なるほどなるほど。

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コメント

いやぁ今更「なるほど」とか
言わんでくださいよぅ(笑)。
ここまで詳しくは説明できなくても、
似たような雑談は何回も
した記憶があるますよ~?

「ライダーの中にはエンジンに何か良いことをしようと思って化学合成油に高いお金を喜んで払う人もいますし、頻繁にオイルを交換する人もいます。それで気持ちが良くなるし、エンジンにも害はないのですからいいのではないでしょうか。」
ここが一番重要だと思います。
自分のバイクで、自分が気持ちいい、
これって大切ですよね!
お財布が許すなら、気持ちいいこと
を続ければいいのだ、と(笑)。

純正&純正指定絶対主義のヒトも、
そのヒトがそう考えるならば、
「それでいいのだ」と。

投稿: KEI | 2014/07/05 17:02

>KEIさん
 まあそうおっしゃらずに(笑)。

投稿: とみなが | 2014/07/05 17:34

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