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ドゥカティの問題

久々の長文翻訳。Mat Oxley氏によるドゥカティの問題に関する考察です。MotorSportMagazineより
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カル・クラッチローとアンドレア・ドヴィツィオーゾの2人がドゥカティとの契約を更新したのは朗報だった。ジジ・ダリーニャがレーサーの設計を忘れていないことの証明になるからだ。彼が新型GP15に全勢力を注ぎ込めばドゥカティの凋落にも歯止めがかかるに違いない。

なんとしてでもこの長期低迷はなんとかしなければならないだろう。10年前を思い出してみよう。そのころのドゥカティには間違いなどなかった。MotoGPで何勝も挙げ、ワールドスーパーバイクではタイトルも獲得していた。毎週のようにダヴィデがゴリアテを倒していたのだ。今ではそれもかなわなくなっている。去年はこの25年間で初めてWSBで一勝も挙げられず、MotoGPではいつ以来勝っていないかも思い出せないほどだ。ちょっと待って、調べてみよう。なんと2010年のフィリップアイランド以来だ。この時乗っていたのはケイシー・ストーナーである。

ではストーナー以外で一番最近ドゥカティに乗って勝ったのは誰だろう?歴史書をひもといてみると、2007年もてぎのロリス・カピロッシとある。このレースはウェットとドライが混在する難しいレースで彼はタイヤチョイスに成功したのだ。以来118レースがMotoGPで開催されている。つまりドゥカティはレース用バイクを作る術を忘れてしまったように見えるということだ。

最近ドゥカティのMotoGPチームと本社の両方で働いたことのあるメカニックやエンジニアの何人かと少し話をしたのだが、誰もがデスモセディチに取り組んでいた時代については不満たらたらで頭を横に振りながら語っていた。デスモセディチは相当へんなマシンだと口をそろえて言っている。あるメカニックは元の職場に戻っていいるのだが、デスモセディチを触らないで済む日々について「まるで天国で目覚めるみたいだ」とまで言ったのだ。乗るのと同じくらいこのマシンをいじるのは悪夢だったらしい。

彼らの経験ではドゥカティのレース部門がレース用バイクの設計方法を忘れてしまったのではないという。ドゥカティの不調の原因はある種のエゴにとらわれてしまったから、つまりあらゆる証拠が揃っているにもかかわらず未だにマシンに問題があると自己認識できず、さらにMotoGPで成功を収めた経験のあるあらゆる人の意見に耳を貸さなくなっているからだというのだ。

マシンをいじるのが難しいというのは何か問題になるのだろうか?大いに問題である。別のあるメカニックは私にこう教えてくれた。
デスモセディチには7mmと8mm、9mm、さらに10mmのボルト・ナットが多用されているのだそうだ。そしてドゥカティで働く業界では高名なエンジニアとの雑談で、彼はボルト・ナットは8mmか10mmのどちらかにすべきだと提案したのだ。

ドゥカティのエンジニアは彼をいぶかしげに見つめていた。しかし彼はそれが速さにつながる理由を明解に説明してくれたのだ。「7mmと8mmのナットの違いや9mmと10mmのボルトの違いはすぐにはわからないけど、8mmと10mmのナットやボルトの違いはすぐわかるよね。45分しかないプラクティスの最中にサスを換えようとしたら、まずのナットだかボルトが何mmなのか判別しなきゃならない時に、見てわからないと時間がかかっちゃうでしょ。
 だからホンダはセッションで2回サスを換えられるけど、うちは1回しか替えられない。でホンダは2回目の交換のおかげでコンマ何秒かをレースで稼げたりするわけなんだ。そしてレースに勝つんだね」

彼の提案は未だに実現していない。たかが一メカニックの意見をなんで高名なエンジニアが聞き入れなければならないというのだ。そして7mm、8mm、9mm、10mmのボルトが相変わらずそのままにされているのである。

他にも似たようなメカニックを知っている。彼によればドゥカティの幹部はメカニックを2級市民のように扱うのだそうだ。厳然たる階級制度が存在していると彼は言う。「鼻で笑われる」と彼は言った。最前線で戦っているのはライダーと、そしてメカニックである。もし彼らの言うことに耳を貸さなかったら、それはトラブルも起こるだろう。軍隊でも前戦の兵隊の意見に耳を傾けないリーダーは負けることになるものだ。

そのメカニックによればドゥカティのフレーム担当チーフエンジニアがレースに来ることはほとんどないそうだ。その代わりにチームからボローニャ郊外のレース部門に提出される詳細な報告に頼っているらしい。これも問題だ、フレームエンジニアは毎週レースに来てライダーの目を、そして眉に落ちる汗を、苦悩を見るべきなのだと彼は言う。

GP14に乗るクラッチローの後ろを走ったあるライダーは、彼が毎コーナー、滑るフロントをひざで立て直しているのを見たと言う。ネズミに骨を囓られるように自信が失われていくだろう。胃が縮む思いに違いない。フレームエンジニアというのはその恐怖を毎週見て、自分の作ったマシンがコーナーを駆け抜けるのにどれだけ問題を抱えているかを認識すべきなのだ。

私自身、あるドゥカティの幹部に嘲笑を受けたことがある。何年か前、私はドゥカティのスポンサーのために仕事をしていて、その幹部と何度か話す機会があった。彼はいつでも私を悪臭のする浮浪者がコーヒーを飲むための50ペンスをせびっているよな眼で見ていたものだ。当時は自分だけがそんな目にあっているんだと思っていたが、そうではないということがよくわかった。

ストーナーもドゥカティの幹部を尊敬できないと語っている。同時に、ピットボックスで汗を流すメカニックたちには尊敬の念を隠さない。マシンに対する批判的なコメントが、ドゥカティの幹部には侮辱ととられたとヴァレンティーノ・ロッシも言っていた。本来なら彼がマシンに乗って問題を解決しようと努力した結果としての価値ある意見を喜んで受けるべきなのにだ。

こうした数々のコメントはジョン・サーティースが1950年代のノートンのワークスチームにいた時代を思い出させる。彼は幹部とメカニック・ライダー連合の間に溝があるノートンの文化を「あちらとこちら」と表現していた。ライダーとしての彼のコメントは会社の運営側には重んじられることはなく、結局ノートンという会社はなくなってしまったのだ。

今日、幹部のこうした問題はどの会社でも置き追っているのだろう。とんでもない報酬を得ている幹部というのは、現場の最前線で働く者にとっては声を掛けることさえ許されない偉い人たちなのだ。

もちろんこの話はダリーニャ以前の時代のことである。昨年秋にドゥカティのレース部門に加入した彼の第一声は、レース現場とボルゴ・パニガーレの本社との間のコミュニケーションの欠如に対する批判だったのだ。あるメカニックは私にこう表現した。「まずはレース部門の真ん中にコーヒーマシンを置くべきだね。そうすれば設計しているエンジニアと現場でレースをするメンバーが1日に何度かちゃんと話ができるようになるからね」

ドゥカティのMotoGP部門のコーディネーターであるダヴィデ・タルドッツィは最近こんなことを言っている。GP15(冗談まじりにGG(ジジ)15と呼ばれることもある)のボルトとナットはすべて新しくなるとのことだ。いいニュースである。しかし問題はダリーニャがデスモセディチを良いものにできるかではない(それは間違いないだろうから)。問題はエゴに満ちあふれた会社の文化に多少でも謙虚さをもたらすことができるか、なのである。

私はそれを望んでやまない。ロリス・カピロッシが、トロイ・ベイリスが、ケイシー・ストーナーが、ホンダやヤマハを真っ赤なドゥカティで打ち負かした日々が大好きなのだ。
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なんかねえ、階級制度とか権謀術数に溺れるとか、そういうのってイタリアっぽいですよね(塩野七生風味)。

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コメント

なんだかドイツの会社みたい...まあ今はアウディ傘下ですけど。時々こんな会社、ありますね。営業のフィードバックを信用しない。そんな事はない!とか...

投稿: ひさすえ | 2014/07/31 11:53

元スズキの横内さんの回顧録でも、
4輪F-1エンジン開発時に似た
ような目に遭った、という話が
ありましたよね。
階級制度(の名残り?)かぁ。。。

投稿: KEI | 2014/07/31 13:24

なるほどと思いました!
ドカティの特殊さ、プライドの高さ。
ジジが来年、改革できるかですね。
こだわりのあるドカティのデザインは大好きなんですけどね。

投稿: motobeatle | 2014/08/02 13:02

>ひさすえさん
 ヨーロッパの会社はすべからくそうなんですかねえ・・・。

>KEIさん
 だからホンダの中本さんとかも煙たがられるのかしらん。

>motobeatieさん
 これで会社全体の改革になればいいですね!

投稿: とみなが | 2014/08/02 14:59

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