« ユージーン・ラヴァティへのインタビュー | トップページ | ギレルモ・デル・トロ:ただいまパシフィック・リム2の脚本を執筆中! »

そろそろブレーキのかけどころ

先日MotoGPの重量制限緩和についてのMotomatters.comの記事を訳しましたが、重く、そしてとんでもなく速くなったMotoGPを安全なレースにするためについての考察をこんどはMat Oxley氏が書いています。MoterSportMagazineより。
============
何年も前のこと、私はウェイン・レイニーにバイクで出した最高速を尋ねたことがある。彼はそれがヤマハの袋井テストコースで出した323km/hだと答えてくれた。どんな気持ちだったのか?「リアスプロケを1丁減らしたかったね」。つまりスピードそれ自体に意味はなかったということだ。彼はギア比を上げてもっとスピードを出したかったのだ。恐れはそこには見られない。「240km/hで走ろうが320km/hで走ろうが関係ないですよ。全然興奮なんかしない」

ギア比が適切なら2014年型YZR-M1は袋井なら354km/hまで出せるだろう。これが多くのMotoGPライダーが最高速度の制限を要求している理由だ。MotoGPの幹部もこれに同意している。320km/h以上で起こる事故の深刻さに恐れをなしているのだ。

ドルナの技術ディレクター、コラード・チェッキネリは言う。「ストレートで何かが起こっても不思議ではない状況にきています。ですからその対策は急務です。何かしなければいけませんね」

アクシデントを見れば改革の必要性は明らか
昨年のムジェロでマルク・マルケスが336km/hで転倒したのがその最初の徴候だろう。彼は奇跡的にも歩いて事故現場を離れることができたが、次に同じスピードで転倒したライダーが無事とは限らない。他のマシンも巻き込まれたとしたらなおさらだ。

最新のMotoGPマシンの重量が問題の一つだと多くのライダーが考えている。マシンは既に160kg以上の重量なのだ。1990年には115kgだったのに、4ストローク導入に伴い、どんどん重量制限が引き上げられていった。これは希少な素材を使ってコストが上がるのを防ぐためである。チェッキネリはこの点についてはライダーと意見を異にしている。物理の法則によればスピードを落とすときにエネルギーを放散する際に重量が果たす役割は小さいからだという。

「ブレーキングは質量と速度に関係しますけど、速度の方が質量より影響が大きいんです」とチェッキネリは言う。「エネルギーの方程式はこうです。エネルギー=1/2×質量×速度の自乗。これがブレーキングで放散しなければならないエネルギーなので、スピードの方が質量より大事なんです。
 質量を減らすことによる影響はすごく小さいんですよ。それにコストもかかる。5kg減らすのにだってものすごいコストがかかりますよ」

チェッキネリはカール・フォガティ時代にドゥカティのWSBチームで、そしてMotoGPでのドゥカティ全盛期に働いている。つまり彼の主張には根拠があるということだ。しかし私は一転において彼の主張には賛成しない。もし自分がクラッシュして頭の上にマシンが落ちてくるとしたら、115kgの500ccマシンの方が160kgのMotoGPマシンよりはるかにましである。

新たな規制
チェッキネリは回転数制限を課すことでスピードを制限するというアイディアが気に入っている。「回転数制限なら明日にでも導入できますよ。コストも対してかかりませんしトップスピードも制限できるのでいろいろ波及効果がある。ブレーキングの問題もランオフエリアの問題もサーキットの認定問題も、いろいろとまとめて解決できるんです。
 回転数制限が一番なのは明らかだと思うんですけどね。シンプルだし安価だし効果的です。でも導入は不可能そうです。賛成するメーカーもあれば反対するメーカーもありますから。そうなったら別の分野で戦うしかない。ブレーキとかですね」。これが最近MotoGPにおいて大径ブレーキディスクが全コースで許可された理由である。

「全メーカーが回転数制限に文句を言うのはわかりますね。例えば2000回転とか下のところで最高出力を出すためにエンジンを設計し直さなければなりませんから。でもそのコストはパフォーマンスを回復しようとしたらかかるコストであって、別問題なんです。回転数制限はエンジンのライフものばすことができますし、低回転で効率の良いエンジンを設計しなければならないのでストリートバイクの研究開発にも役立つはずです」

私もトップスピードを下げる必要があるというチェッキネリの意見には賛成だ。260馬力、350km/hのモンスターマシンが見られなくなるのは悲しいが。しかしチェッキネリや彼の同僚は事故の99%が起こるコーナーでの安全性についてはどう考えているのだろう?

高速コーナーを持つ多くのサーキットではランオフエリアが問題となっている。MotoGPの最高のサーキットのいくつかはこのままでは失われてしまうだろう。だからコーナリングスピードについてもなんらかの対策が必要である。

皮肉なことに前回MotoGPがパフォーマンスを低くしようとしたときには(2003年の鈴鹿での加藤大治郎の死亡事故を受けてのことだ)800ccが導入されることになったが、これはコーナリングスピードを高める結果となってしまった。タイヤと電子制御の開発が進んだことで、最新の1000ccマシンは800cc並のコーナリングスピードに達してしまっている。その結果クラッシュしたマシンは壁まで突進することもよくあるのだ。

コーナリングスピードを低くする方法はいくつかあるが間違いないのはグリップを減らすことだ。私はかつてブリヂストンにこの提案をしてみたが、まあ予想通り彼らは恐れをなしてあとずさりしてしまうことになった。タイヤエンジニアはグリップを良くすることに人生を賭けているのだ。彼らにグリップを減らせというのはレンガ職人に今建てたばかりの家を壊せと言うようなものだろう。

しかし来年を最後にMotoGPのタイヤサプライヤーが変更となる。そして同時に統一ECUが導入され、ことによったら回転数制限も導入されるのかもしれない。ということはタイヤの進む方向を見直す良い機会ではなかろうか。

チェッキネリはタイヤのグリップを減らすことには慎重である。ライダーは常にグリップの強化を求めるからだ。グリップを少なくしろと言うライダーなどいない。しかしグリップを減らしつつもフィーリングを良くして挙動が予測しやすいタイヤにすれば、様々な面でライダーの安全性は高まるだろう。接地感も高まるし、何よりクラッシュの危険性も低くなる。そしてクラッシュしてもコーナリングスピードは低いので今ほどはね飛ばされることはなくなるだろう。

チェッキネリはこう言っている。「当然グリップが低くなるならタイヤの挙動を予測しやすくしなければいけません。いちばん良い例は予選タイヤでしょう。パフォーマンスは高いですが予測しにくい。だから予選タイヤは一般的にコントロールしにくいんです。しかし目的はグリップを減らすことではなく挙動を予測しやすくすることなんです」

他にもコーナリングスピードを落とす方法がある。電子制御の介入を減らすのだ。ドルナは既に2016年から統一ECUを導入してこれを実現する予定である。これによりECUはパフォーマンス重視から安全性重視に転換することになるだろう。

チェッキネリは言う。「現時点ではメーカーは安全性のためにトラクションコントロールを作っているわけじゃないんです。安全がトラクションコントロールに必要なのはスライドコントロールで、スリップコントロールじゃない。まず電子制御から取り除きたいのはマシンのコース上での位置を把握するシステムです。こうしたシステムを機能させるにはコストもものすごくかかるしストリートマシンにも応用できない。それで安全性が高まるかどうかはわかりませんが、よりシンプルなソフトウェアはライダーの関与を増やすことができますし、パフォーマンスを低くすることにもなります」

こうした一連の流れによって、他にも波及効果がある。タイヤがグリップ重視でなくなることでライダーはもっといろいろな乗り方ができるようになる。位置情報を利用しないエンジンブレーキコントロールやトラクションコントロール、ウィリーコントロールとなればエンジニアはコースの平均値をりようするしかなくなり、ライダーは電子制御の恩恵を受けることがすくなくなる。つまりはMotoGPの初期に見られたスライド合戦も復活するだろうということだ。
============
ライダーの技量が問われるようになるのは大歓迎!

|

« ユージーン・ラヴァティへのインタビュー | トップページ | ギレルモ・デル・トロ:ただいまパシフィック・リム2の脚本を執筆中! »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/69409/59781555

この記事へのトラックバック一覧です: そろそろブレーキのかけどころ:

« ユージーン・ラヴァティへのインタビュー | トップページ | ギレルモ・デル・トロ:ただいまパシフィック・リム2の脚本を執筆中! »