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Kevin Cameron氏によるイタリアGPまとめ

技術系にめっぽう詳しくて、マルケスのタイヤマネジメントについてのわかりやすい記事も書いているKevin Camaron氏によるイタリアGPのまとめです。CycleWorldより。最速マシンがライダーを勝たせるわけではないというお話。
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夢見がちな人々が大事にしている幻想。下位集団に実は偉大なライダーが隠れいていて、トップライダーが素晴らしいマシンに恵まれているせいで不公平にも彼は下を走っている幻想。もしこの隠れた戦士が勝者と同じマシンに乗ったならすばらしい結果を出すだろう!

日曜にムジェロで行われたMotoGPのレースではマルク・マルケス、ホルヘ・ロレンソ、ヴァレンティーノ・ロッシの3人がトップ3だったが、この幻想を打ち砕く結果になったレースでもあった。最速のトップスピードを叩き出し、しかもオープンマシンにしか許されないエクストラソフトタイヤの助けを借りたプラマック・ドゥカティに乗るアンドレア・イアンノーネは予選で2位につけるという素晴らしい結果を出した。これはMotoGPクラスでの彼の最高グリッドである。しかしレースではスタートでトップに立ったもののずるずると順位を落とし、結局ワークスドゥカティのアンドレア・ドヴィツィオーゾにも抜かれ7位でゴールすることとなった。

何が言いたいかって?スタートからゴールまでタイヤのグリップを引き出し続けることができるのは熟練したライダーだけだということだ。そして熟練したライダーは同時に様々な状況を乗り越えるための頭脳とメンタルの強さを兼ね備えているということである。

今更言うまでもないことだがムジェロは高速サーキットだ。しかしこのレースではそれだけが要素ではなかった。イアンノーネのドゥカティはFP3で時速349km/hを記録したが、それで彼はどうなったのか?優勝したマルケスのトップスピードは340km/hで、ロレンソにいたっては「たったの」333km/hである。この件についてはドゥカティのカル・クラッチローが予選後にコメントしている。「エンジンがすごく速いんで確かにこのサーキットで有利なところもありますね。でもシケインに対応するにはもうちょっとマイルドにしたいし、レースに向けてまだセッティングが必要ですよ」

つまりトップスピードをマークできるようなエンジンだからといって、コーナーで強さを発揮しスムーズに駆け抜けることができるとは限らないということだ。レースではドゥカティの最高速は344km/hまで落ちている。

金曜の午後のプラクティスが雨にたたられたせいで、セッティングは土曜と日曜のウォームアップだけで対応しなければならなくなった。これまでの6レースと同様にマルケスがポールを獲得する。これでレースが楽しみになったか、つまらなくなったか?忘れないでほしい。ものすごく強いライダーが登場したとしても、レースをおもしろくするのは彼の役割ではない。スロットルを戻してライバルを弄ぶのを期待すべきではないのだ。これはそもそも危険なことである。クールダウンラップでライダーがリズムを崩してミスをすることから起きるクラッシュも多いのだ。

それに優勝ライダーは観客に見応えのあるレースを見せる義務があるわけでもない。観客は見応えのあるレースを望んでも、レースではあらゆることが起こりえるのである。それが魅力でもあるのだ。ライダーはもし簡単に勝てるなら喜んでそうするだろう。次のレースではゴールできないかもしれないし、もっと悪いことが起こるかもしれない。そうなれば運勢を取り逃がさなければ獲得できたはずのポイントをライバルが奪っていくのを指をくわえて見ることになる。

ステファン・ブラドルのLCRホンダは午前中のウォームアップでコースアウトし転倒した。マルケスのマシンも同じところでコースアウトしているが彼は転倒しなかった。私の考えではハードブレーキングが必要なホンダマシンはヤマハのマシン(コーナリングスピードを稼げるのでホンダほどハードブレーキングは必要としない)よりサスが硬く、そのせいで「メカニカルグリップ」(サス性能を充分引き出してタイヤを路面にグリップさせること)が稼げないのだろう。サスを締め上げればその分だけバンプによってホイールは跳ね上げられやすく、さらにマシンはコーナーから飛び出しやすくなるのだ。しかしもしホンダがスプリングを柔らかいものにすればブレーキングでの前後荷重移動が大きくなり、リアホイールが浮いてしまうことで安定性が失われることになる。サーキット入りしたら妥協は必要ということだ。その一方で研究開発部門が妥協を必要となし解決策を来シーズンに向けて探ることになる。

ロッシが10番グリッド(フロントタイヤの選択を誤ったせいで予選でのセッティング時間がなかったのだ)から1周目には4つ順位を上げ、、3周目にはさらに2つ上げ、そして4周目には3番手に上がりゴールするのを見てファンは大喜びしたろう。

イアンノーネは2番手からスタートし一瞬トップに立ったものの、スタートが得意なロレンソが1コーナーで彼からトップを奪った。マルケスが3周目にイアンノーネを抜いたが、マルケスのトップからの差はかなり興味深い推移を示している。最初の4周では差は0.6秒から1秒近くあったのだが、5周目に自身の最速タイムを出すと、しばらくロレンソとの差を0.25〜0.30秒に保ちながらクルーズしているように見えたのだ。

マルケスはこれについてこう語っている。「今年いちばんのタフなレースになると思ったんです。特にレース序盤では苦しんだんですよ。それにホルヘはコーナーがすごく速かったし、いいペースをキープできましたから」。マルケスはすでにこのことを予言している。彼はムジェロはヤマハ向きのコースなので全力を尽くす必要があると言っていたのだ。では1/4秒差で後ろにつきながら彼は何をやっていたのだろう。

一方のロレンソはプラクティスの後で、確かに良いペースで走れると言っている。ミスター・パーフェクトが戻ってきたのだ。大きなプレッシャーにさらされながら完璧な周回を重ねる。彼の集中力は本当にすごいものだ。しかしマルケスは何をやっていたのか?彼がついていくのに精一杯だったならラップタイムはもっとばらついているだろう(ライダーが限界で走っているときにはちょっとしたミスをしてタイムがばらつくし、それを挽回するには時間がかかる)。ということは彼は学習していたのかもしれない。

あるライダーが私に言ったことがあるが、すぐ前を走っているライバルのリアタイヤがたれてきたときには表面が変わってくるんだそうだ。マルケスはロレンソのタイヤがたれるのを待っていたのか?まあ理由は何にせよ、16周目にはマルケスは0.04秒差にまで差を縮め、そしてついに抜きつ抜かれつのすばらしい展開となった。実に11回のポジションチェンジが行われたのだ。彼らはなにもかも完璧にこなしていた。

1950年代のことだ。ファン・ファンジオとマイク・ホーソーンとの間でホイール・トゥ・ホイールの接近戦があったとき(これは4輪の話だが)、あるジャーナリストがホーソンに「凄いレースでしたね!興奮したでしょう!」と尋ねたことがある。その時のホーソーンの答えはこうだった。「実はものすごく退屈していたんですよ。集中力が高まるとそうなるもんなんです」

マルケスは最終ラップ最終コーナーでリードを保った。2位に入ったことについてロレンソはこう言っている。「たぶん最終コーナーではもっとインにつければ彼をインから抜けたかもしれませんね。でもミスしてはらんでしまった。それでストレートで彼を抜けなかったんです」

クラッチローは3周目に転倒を喫している。「3周しかできなくて本当にがっかりしてます。シケインでちょっと無理しすぎてフロントからいっちゃったんです」。彼のマシンはそのままブラドルにぶつかってしまう。実に運のない話だ。

ダニ・ペドロサは手術から復帰間近であることを考えればベストなレースをしたと言えよう。8位からスタートして4位に入ったのだ。ちょっとしたペースの違いが差をもたらすこともよくある話だ。トップは1分48秒台前半で走っていたが、ヤマハ・テック3のポル・エスパルガロは48秒台後半、時々49秒台で5位に入った。ドヴィツィオーゾは常にドゥカティの最高成績をおさめているが、彼は48秒台後半から49秒台前半で走っていた。どうしてみんな全力を出し続けないのか?前を走れるライダーというのは、上の順位を目指すかそれともグラベルでレースを終わるかという微妙な綱渡りをうまくこなしているのだ。ポイントを稼ぐのか栄光を目指すのかということもある。どちらかを選ばなければならないとしたらどうだろう。ニッキー・ヘイデンは手首の不調でレースに出場しなかった。

ランキングはどうなったか。マルケスは既に2番手のロッシや3番手のペドロサの50%増しのポイントを稼いでいる。

GP300戦目を終えたロッシは最高の言葉でレースを締めくくった。「ムジェロの表彰台はいつでも最高ですね。シーズンでも最高の瞬間ですよ。まるで素晴らしいコンサートみたいです」
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ヤマハの原田とアプリリアのビアッジが激しいバトルをしていた頃、だれだっかたGPの解説か鈴鹿の日本GPツアーの後のトークショーかなんかで「ヤマハのシャーシにアプリリアのエンジンを載せれば最速だと思うでしょ?でもそんなことはないんですねえ。エンジンとフレームは一緒に開発するんで、とっちらかったことになっちゃうんですよ」と言っていたのを思い出します。

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