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ムジェロ:聖地の中の聖地

TTウィナーでもあるジャーナリスト、マット・オクスレイ氏によるライダーの心理についての記事です。こちらと合わせてどうぞ。MotorSportMagazineより。
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レーサーの心理というものは実に不安定なものだ。さっきまであった自信が手品師のトリックのように煙と共に瞬時に消え失せてしまう。自信とはある意味魂の奥底にある、しかし幻想のようなものなのだ。ある瞬間にはなぜかわからないのに確かに存在していて、しかし一瞬後には自分にそれがあったことさえ信じられなくなる。そして自信を取り戻せるとも思えなくなってしまう。

ヴァレンティーノ・ロッシとホルヘ・ロレンソはこの自らを頼む(なんなら自らを騙すと言ってもいい)という不思議な状態の対極にいる。自信がさらなる自信を生み出し、それが再生産される。ロッシは正しくこういう状態にあるに違いない。自信がなくなり始めるとこれが負のスパイラルを生み出す。これがロレンソがはまってしまった状況だ。

正のスパイラルと負のスパイラルは紙一重である。毎週のように正しいスパイラルに身を置くことはほぼ不可能だろう。1990年から500ccで3連覇をなしとげたウェイン・レイニーは誰よりも自分の気持ちをコントロールできるライダーだったが、同時にチームオーナーであったキング・ケニー・ロバーツ強力な助けも存在していたのだ。

「ウェインが落ち込んでいるときにはいつでも話し相手になってあげてたんだ」と自身も78年から500ccタイトルを3回連続で獲得しているロバーツは回想する。「それに舞い上がってるときにも彼と話すようにしていた。ばかもんめ、地に足をつけるんだ、ってね」

複雑な技術的問題ではなく心理的な問題によって大した原因もなく成績が左右されることも多々あるものだ。レーサーの心に何が去来しているか推し量ることなどできないのも心理的問題の難しさが理由である。


<ライダーの気持ちを推し量ること>
MotoGPレーサーの頭の中で起こっていることについては想像するしかない。私もあなたも彼らと真の意味で親密ではないからだ。だから私はロッシが2010年にムジェロで脚を骨折したとき、彼は引退するだろうと信じていた。私ならそうするからだ。

自分が9回の世界タイトルと105回の優勝を飾っていて、しかも2週間ごとに死ぬ気でがんばらなければならないとしたら、私ならそこでやめただろう。みんなありがとう。良い時を過ごさせてもらったよ。もうゆっくりしても良いと思うんだ。スピードはもういいよ。楽をしたいし、ソファでくつろぎたいんだ。しかし私はロッシではなく、つまり私は間違っていたということだ。

悲惨だった2013年についても同じことが言える。良い結果もたまにはあったが、彼は盛りを過ぎ明らかに下り坂にあった。何人ものヒーローがたどってきた道だ。目も眩むほどのすばらしい成績を出していたのに今では悲惨な結果しか出せない。下り坂にあるレーサーというのは結果が伴わないと相当な苦労を味わうことになる。スポンサーはもうおべっかを使ってくれず、ファンは静かに去っていく。

そんな状況にあったらバイクを停めて、誇りが残っている内にパドックを後にし、そしてたんまり溜まった貯金を数えながらランチにワインと洒落込もうではないか。そうなればなによりクリニカモビーレの階段を脚をひきずりながら登る心配をしなくて済むのだ。折れた左手に10本もの釘を入れられることもないし(神経に触らなければラッキーというものだ)、そこからピットに連れ戻されることもない。ピットに戻ればメカニックに尻を蹴飛ばされ、どうにかこうにかマシンに乗り込み時速340kmで走りながら次はコースアウトしないように祈ることになる。

もし私がロッシならすることは決まっている。居心地のいい豪邸にフランシス・ベーコンでも飾って、セラーを素晴らしいワインで満たし、水着に着替えてプールにでも飛び込もうかと考えるのだ。しかし私はロッシではなかった。

ロッシの復活、これは新たなチーフメカと改良型フレームのおかげだが、その復活が続くのであれば何年か前に噂になった彼の伝記映画企画をハリウッドが再度持ち出してくるかもしれない。彼は王であり、そして一時は虐げられ、そして見事に復活してみせた。まさしくハリウッド向きのストーリーだ。

しかし私が脚本家ならちょっと脚色したいところだ。ドゥカティでの悲惨な2年間をミラノの街での放埒な2年間に置き換えるだろう。ドラッグ売りのラテン系アメリカ人セレブから買ったコカインをキメて、何人もの美女をはべらす日々だ。

妄想はこれくらいにして・・・。いずれにせよロッシは私の想像を遥かに超えている。最近になって私は彼が賞味期限切れだというようなことを言いかけたが、それもやめである。2014年のカタールは素晴らしかったが去年もカタールは良かったのだ。だからそこでの結果にはあまり驚かなかったのが事実である。オースチンとアルゼンチンの成績は大したことがなく、つまりは彼の季節は終わったということだと思ったのだ。もう表彰台に昇って喜ぶこともないだろうと。

ロッシがアルゼンチンで惜しい4位に終わったとき、私はロッシの友人の一人に、彼は表彰台から1.6秒まで近づけて喜んでいるだろうねと言ったら、まるで汚らわしいものを見るような目つきでこう言われた。「ヴァレンティーノは表彰台のてっぺんに上がるつもりで今シーズンを迎えてるんだ。表彰台の一番したから2秒落ちが目標なんじゃない」

そしてヘレスではダニ・ペドロサとホルヘ・ロレンソという、ここ4シーズン勝つのに苦労してきた相手を易々と退け、マルク・マルケスに次いで2位に入ってみせた。次のルマンではトップに向かって爆走し、トップに立つと差を広げ、結局ブレーキングをミスしてマルケスに抜かれてしまった。しかしマルケスがいなかったらどうだろう。ロッシはこの2戦で優勝し10回目のタイトルを確実なものとしていたということになる。


<尊敬心>
ルマンのレース後プレスカンファレンスは2人の仲の良さが際立つものだった。メディアに身を置いている我々は、明らかにお互いを嫌っているライダーがPRトレーニングの成果を発揮して薄ら笑いを浮かべながら当たり障りのない言葉を発し、お互いに尊敬しあっているなどとのたまう記者会見にうんざりしている。しかしルマンでは2人は間違いなくお互いを尊敬しており、しかもそれは人格とレースに立ち向かう勇気の両面において成立しているのだ。

ロッシは21歳の若きチャンピオンが相当好きらしい。彼の天才を褒めそやし、レースで彼と交錯したことを楽しそうに語る。彼は終始笑顔だった。そして次のレースがムジェロであることを思い出すと、もう一度22歳に戻ってマルケスと戦いたいと言った。

マルケスは35歳の精神的に頂点にある男が2〜3日の間なら簡単に22歳に戻ってみせるだろうとわかっていて、笑いながらこう言った。「ムジェロではヴァレンティーノはまた22歳になりますよ!」

ムジェロは記念すべきレースである。ロッシの300戦目であり、2010年以来初めてホームで勝てるチャンスを得たのだ。彼は今自信に満ちあふれており、これが彼の最後のチャンスではないとしても、その時はそれほど遠くないと知っているファンの期待に取り囲まれている。

一方マルケスはやや寡黙だった。去年のムジェロはシーズン最悪の週末だったからだ。3日間で4回転倒し、しかもその内1回は時速336kmでの転倒だった。これが彼の唯一の完走できなかったレースである。

さて、ここ3年ムジェロで連勝しているロレンソはどうだろう。「いらいらしてマイナスモードに入っている」とルマンでロッシに言われたりもしている。マルケスからタイトルを奪い返せると自信を持って開幕を迎えたにもかかわらず、マルケスに5連勝を飾られてしまったからだ。そしてロレンソはまだ1回しか表彰台に昇っておらず、マルケスからは80ポイント離れてしまっている。これが彼の自信を失わせ、そして表彰台が遠ざかっていることは想像に難くない。これは彼自身に起因する問題である。

去年見せた序盤の速さこそがロレンソの持ち味だった。8勝のうち6勝は1ラップ目からトップに立ちそのまま勝っているのだ。しかし今年は集団に飲み込まれがちで、ここはロレンソの得意とするところではない。ロレンソが速く走るためには前が空いていないといけないのだ。誰にも邪魔されないからこそ彼の切り裂くようなコーナリングが見られるのである。そうでない場合、どうしても遅れてしまうのだと彼は言う。「6番手で走ってみるといつもと勝手が違いました。スムーズに走れなかったんです」

もしロレンソが頭を整理し直せて、もしロッシがこのままの心理状態をキープして、そしてもしマルケスが他を圧倒して逃げるということがなければムジェロでは最高のレースが見られるだろう。
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私ただいまKampa!をいただいて舞い上がっておりますので、正のスパイラルに入って訳しまくりモードです!

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