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黒くて丸くて・・・

マン島TTで優勝経験もあるジャーナリスト、マット・オクスレイ氏がタイヤサプライヤー変更によってもたらされるだろう変化について語ってくれています。MotorSportMagazineより。
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さて、来シーズンをもってMotoGPは例の黒くて丸いやつを別のブランドに変えることになる。でかい話だ。タ・イ・ヤ、のことである。

もちろんこれはでかいどころの騒ぎではない。タイヤブランドを変えるというのはライダーのキャリアを成功に導くこともあれば潰してしまうこともあるのだ。そして常勝マシンをとても乗れないマシンにしてしまうこともあるし、その反対も当然起こり得る。別の言い方をすれば、ブリヂストンに別れを告げ新たなメーカーを迎えるというのはMotoGPを混乱に陥れるということなのだ。現在の状況が全く変わってしまう。うまくいくかもしれないし、最悪の結果になるかもしれない。タイヤの変更というのはそれくらい大きな影響を及ぼすものである。

ミシュラン支配時代
1980年台、90年台、そして2000年台の初頭、ミシュランが最高峰クラスを支配していた。ライダーなら誰もがミシュランと契約できるとあれば祖父母を売り飛ばすくらいならやってもいいと思ったろう。ミシュランがなければ勝てない時代だったのだ。

しかしテクニックに合わないとか、タイヤにテクニックを合わせられないとかという理由でミシュランを好まないライダーもいたのだ。

ニュージーランド人のサイモン・クラファーもその一人である。1998年にダンロップを装着したレッドブルヤマハYZR500で彼は当時最強だったミシュラン-レプソルホンダNSR500-ミック・ドゥーハンという組み合わせをドニントンパークで破り、フィリップアイランドでも再び優勝しそうになっている。

ミシュランが当時最強のタイヤだったことからクラファーのチームはミシュランを履けばもっと速くなると踏んで1999年はそうすることにした。そしてクラファーは500ccタイトルを獲得するはずだった。しかし彼らは間違っていた。というより最悪の結果に終わってしまった。クラファーはMotoGPの勝者、ラップレコードホルダーという立場から、単なる参戦ライダーの一人になってしまったのだ。彼はミシュランを活かすことができなかったのだ。

彼をだめにしたのはフロントタイヤである。より正確に言うならフロントブレーキをリリースしてコーナーに進入する際のフロントタイヤのカーカスの変形が問題だったのだ。ダンロップのフロントタイヤはカーカスの弾力が強く、コーナーに突っ込む時のブレーキングでうまくつぶれ、ブレーキをリリースするとタイヤが通常のプロファイルにすぐに戻ることでコーナー進入のきっかけをつくっていたのだ。

それがなくなったことでクラファーはマシンを曲げることができなくなってしまった。99年、ミシュランでの最高成績はフランスGPでの11位であり、シーズン半ばで彼はチームから解雇されてしまった。これが実質的に彼の国際レースのキャリアの終わりとなった。わずか半年前は500ccのニューヒーローだったのに。

最近の例ではトニ・エリアスが挙げられる。ミシュランからブリヂストン、そしてブリヂストンのワンメイクタイヤ(これはタイヤ戦争時代とはかなり異なる特性がある)を経験した彼は、ミシュランでは自分の特殊なライディングスタイルに合わせたタイヤで優勝まで経験し、ブリヂストン時代にも表彰台をゲットしている。しかしワンメイク時代のブリヂストンでは散々な成績となってしまった。そしてヴァレンティーノ・ロッシも同じような苦労をしている。2012年以降のブリヂストンのフロントスリックにはなかなかライディングが合わずグリップ感を得られないでいた。

次のワンメイクタイヤ
MotoGPが2016年にタイヤメーカーを変更したら誰が勝者で誰が敗者となるのだろうか?それはだれにもわかない。しかしブリヂストンで速かったライダーの何人かは間違いなく苦労するだろうし、ブリヂストンをうまく使いこなせなかったライダーの中には喜ぶ者もいるだろう。

そしてバイクメーカーはどうなるだろう。ホンダは2008年にミシュランからブリヂストンに移行した際、RC212Vをタイヤに適応させるまでに2年近く、そして10種類以上のフレームを費やしている。2010年にケイシー・ストーナーが離脱する前からドゥカティが苦労していたことも思い出して欲しい。専用のブリヂストンタイヤを使っていた時代の2007年には11勝、2008年には6勝を挙げていたにもかかわらず、ワンメイク時代となった2009年、2010年の2年間では合わせて7勝しかしていないのだ。その原因はタイヤに合わせられなかったからだととりざたされている。そして現在もそうである。ジジ・ダリーニャはタイヤ変更前にブリヂストンにマシンを合わせる気があるのだろうか?

もちろん2016年に導入される前から新たなタイヤサプライヤーは多くのテストを行い、バイクメーカーやライダーが新タイヤに慣れる機会を与えることになる。そしてもちろん(コストはかかるが)シャーシの設計やりなおしが必要となる。ワンメイクタイヤがコストを削減するなど幻想である。ワンメイクタイヤというのはバイクレースからうまく金を吸い取る仕組みであり、吸い取れない大多数にとってはろくなシステムではない。

ワンメイクタイヤはファンにとってもいいシステムとは言えない。理論的には同じタイヤならレースが接近戦となっておもしろくなるだろう。しかしそうはならないのが現実である。ライダーによって向き不向きがあるからだ。接近戦などワンメイクでは無理なのだ。

MotoGPがスプリングレートもダンピング調整もできないワンメイクサスペンションを導入するという悪夢が実現したらどうなるだろう。タイヤと同様に合うライダーもいれば合わないライダーもいるのは道理である。これではレースを公平にしているとは言えないのは明らかだ。

ブリヂストンがなぜMotoGPから撤退するのかについてはドルナとブリヂストンの幹部を除いては誰にもわからないことだ。確かに両者の関係は昨年のフィリップアイランドでの大問題以降、緊張したものとなっていたが、それは始まりにすぎないだろう。

ことによったらワンメイクタイヤ契約をすることでかえって広告戦略にダメージを与えることにブリヂストンが気付いたのかもしれない。タイヤが性能を発揮しても誰もタイヤについて語りはしないが、だめなときは悪夢のような見出しが世界を駆け巡るのだ。

もっと深い理由、例えば2016年から導入される統一ECUソフトウェアがその理由かもしれない。ドルナはトラクションコントロールの介入を減らそうとしているのだ。

私はタイヤ技術者ではないが、ブリヂストンのリアタイヤはトラクションコントロール時代のタイヤだと考えている。ブリヂストンは2000年台に追放されてしまったミシュランよりも固く、ライダーには優しくないのだ。しかしエンジニアが電子制御に頼れる時代に何の違いとなるというのだろうか。ブリヂストンは電子制御時代と言う新たな波に対応した初のタイヤメーカーとなった。彼らは電子制御の介入が減らされる新たな時代に対応したくなかったのかもしれない。

どのメーカーが2016年のタイヤ入札に勝つにせよ(他のメーカーとガチンコ勝負ではあるがミシュランが最有力だと噂されている)、とにかくできるだけたくさんのライダーとマシンに適合するタイヤを作ってほしいものだ。理想的にはより多くのライダーにとって乗りやすく、ラインの自由度も増すように、もっと柔らかいタイヤが望まれる。しかし260馬力を受け止める柔らかいタイヤを作るのは至難の業だろう。まあ幸いにも私が考えるべきことではないが。
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なるほどー。いろいろおもしろい!

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