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ブレーキングスタビリティの分析:なぜホンダはヤマハより安定しているのか?

Motomatters.comがマレーシアテストでのRC213Vの走りからのブレーキング時の安定性について詳細な分析を行っています。長文注意!
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メディアパスを保有していることで何よりいいのは、ガードレールのすぐ内側に立ってマシンが通り過ぎるのを間近で観て、そして音を確かめられることだ。セパンテストではその特権を最大限に活かして3コーナー(最初の素晴らしい右コーナーでライダーは4コーナーに向けてドリフトしながらストレートを立ち上がっていく)あたりをうろうろしながら最高のライダーが最高のテクニックを発揮するのを堪能させてもらった。

しかし私が観察していたのはMotoGPマシンの高速コーナーでの凄さだけではない。注意してみればライダーとメーカーが何をしようとしているかがよくわかるはずだ。昨今のMotoGPでは電子制御が大きな役割を果たしているが、コースサイドに来るとその進化がよくわかる。ピットでは(まあ新しいセンサーやトルク計以外では)ほとんどわからないが、コースサイドならマシンの動体解析アルゴリズムのアップデートが効果を発揮しているのかどうかがわかるのだ(つまりは効果を発揮していないことも時々はあるということなのだが)。

2013年の終わり時点でのマルク・マルケスとダニ・ペドロサの要求はブレーキング時の安定性と、より速いコーナリングスピードだった。セパンでマシンの音を聴くと、それがどのように達成されたのかがよくわかる。エンジン音の違いで電子制御のレベルやエンジンブレーキの設定やギアボックスの機能の違いが見えてくるのだ。

セパンではホンダがブレーキングとコーナー進入に力を入れていることが聞き取れた。RC213Vは常にブレーキングでスムーズな音を出していたが、4コーナーのブレーキングではそれが顕著だった。コーナーに向けてブレーキをかけシフトダウンしてもマルケスとペドロサのホンダは、6速ギアの4ストレーサーではなくまるでCVT(無段変速機)のビッグスクーターのように聞こえたのだ。エンジン回転はスムーズに落ちていき、シフトダウンの瞬間はほとんどわからない。アフターファイヤもなく、ただエンジン回転が落ちていく音がするだけなのだ。

これは何を意味しているのだろうか?基本的にはシームレスギアボックスのおかげだとみるべきだろう。ホンダの開発したこのギアボックスはシフトアップでもシフトダウンでも効果を発揮している。先にシフトアップ時の優位性については分析したが、ついにホンダはシフトダウンもうまくやる方法を見つけたようだ。ホンダのライダーはクラッチを使わずシフトダウンをしている。2013年終わりでロレンソとロッシが強く要望していたことからヤマハも同じ機能をセパンで試しているが、ホンダはその一歩先を行って、燃料噴射とRC213Vのスリッパー・クラッチ(バックトルクリミッター)を組み合わせてシー0無レスシフトダウンまで実現してしまったらしい。

このシステムによって何が変わるだろうか。シフトダウンでのアフターファイヤはオープンクラスのマシンで顕著だが、要するに燃料が無駄遣いされているということである。燃え残りの燃料がエキゾーストパイプ内で燃焼し、パン!という音を立てているのだから。燃料使用量に制限がなければ何の問題もないし、エキパイから火が見えるのもスペクタクルだ。ワールドスーパーバイクのカワサキZX-10Rはものすごく火を噴いている。MotoGPでそれが観たければカタールのナイトレースに行くといい。夜になると青い炎が良く見える

エンジン回転数に合わせて正確な量の燃料を噴射し燃え残りがないということは、エンジンが正確に必要なだけのエンジンブレーキを供給しているということでもある。21Lの燃料使用量が2014年から20Lになったことで、燃費が最優先事項の一つになった。そこで目をつけられたのが減速時のエンジンブレーキの際の燃料消費量である。ヤマハが極端に薄い燃調を試しながら燃費対策をしている一方、ホンダのライダーは少なくとも熱いセパンでは全く問題がないと言っていたことは、RC213Vの90土V4エンジンが既に十分な燃費性能を発揮していることを示していると言えよう。

燃費も重要なポイントであるが、あり得ないほどスムーズな減速というのも大きなメリットである。ドーピングしたバックトルクリミッターとでも言おうか、スクーターのような減速はブレーキング時のリアホイールの安定性に大きく寄与しているはずだ。シフトダウンでのエンジンブレーキ強度の変化はすでに完璧にコントロールされている。エンジンブレーキをかけながらのシフトダウンでリアがホッピングしないということは、ラインを正確にトレースできるということである。ホンダが4スト1000ccに天文学的な費用を投じて2スト的な挙動を再現しようとしているのはいささか皮肉なことではあるが。

どのようにしてここまで洗練されたシフトダウンを実現したのだろう。ひとつはトルダクター(Torductor)のおかげだろう。これはギアボックスのドライブシャフトにつけられた回転するトルクセンサーで、ホンダのワークスマシンに取り付けられているものだ。噂によればこれは6万ユーロ(邦貨換算8百万円)するとも言われている。当初はシフトアップでのスムーズなパワー特性を実現するためのものだったが、シフトダウンにも効果的なようだ。ドライブシャフトからのトルクとリアホイールでのトルクを測定している他、スロットルを閉じた時にはリアホイールのブレーキングパワーも測定し、電子制御システムにフィードバックしているらしい。

電子制御、シームレスギアボックス、そしてエンジンブレーキを制御するバックトルクリミッターのおかげでライダーはブレーキングだけに集中することができる。もちろんシフトダウンは自分でしなければいけないが(自動シフトはルールで禁じられている)、完璧なタイミングでのシフトダウンというのはもう必要がないようだ。ライダーはブレーキレバーとブレーキペダルだけに集中し、最適なポイントでブレーキをかけるだけでいいのだ。これでマシンコントロールがやりやすくなりコーナー進入も楽になる。エンブレで挙動が乱れるのを心配しなくても良くなったのだ。ブレーキ効率が高まりコーナー進入が楽になると言うことは、ブレーキングでの競り合いに勝てるということであり、しかも同時にコーナリングスピードを上げられるということである。

まあそのせいで見応えのあるブレーキングというのが観られなくなってしまったわけでもあるのだが。電子制御と洗練されたバックトルクリミッターのおかげでマシンはコントロールしやすくなった。コーナー進入も楽に、しかも速くなり、そのかわりに見応えがなくなってしまったとも言えよう。

他のマシンとの比較によって状況はより明らかになる。一番わかりやすいのは市販RCV1000Rとの比較だろう。この市販マシンは2013年型RC213Vによく似ているが、スプリングバルブとシームレスでないギアボックスとより大きな燃料容量と、そしてドルナ仕様のソフトウェア(これはパドックでは「チャンピオンシップソフトウェア」と呼ばれいている)が違っている。ニッキーヘイデンがアスパーチームのRCV1000Rに乗って4コーナーに進入していくのを観察してみたが、アフターファイヤが出た折、明らかにヘイデンの体の下で暴れていた。もちろんシーズンが進んでいけばソフトウェアも良くなるだろうが、しかしワークスマシンに追いつけるとは到底思えない。

ヤマハでも状況は同じである。テック3のマシンはシームレスギアボックスが装着されていなかった(チームオーナーのエルヴェ・ポンシャラルによればシーズン開幕時には入手できるということだ)。彼らのマシンは市販ホンダと同じようにアフターファイヤの音を立てていた。まあ市販ホンダよりは洗練されているようだったが。

一方ワークスヤマハのマシンはブレーキングでのアフターファイヤはかなり減っている。ロレンソもロッシも新型のシームレスギアボックスを使っていたようだ(コースサイドからはよくわからなかったのだが)。新型ギアボックスはホンダのものほど洗練されてはいないようだが、同様のアドバンテージは持っているようだ。ワークスヤマハのライダーはテック3やRCV1000Rに比べればスムーズで静かだったのだ。音は明らかに違っており、少しはアフターファイヤがあったものの、回転数はうまくコントロールされているようだった。

ヤマハとホンダでは要求されるライディングスタイルが異なっているという事実により正確な比較は困難ではある。ロレンソはホンダよりブレーキング開始が早く、一方ブレーキングリリースも早めであり、その分コーナリングスピードが高い。彼のライディングスタイルは素晴らしくスムーズで、マシンの力を借りる前からシフトダウンは最適化されていた。とは言えヤマハのシフトダウンははっきりと音でわかるものであり、去年までのホンダと同じような感じだった。

コースサイドからはブレーキング時のシフトダウンがホンダとヤマハの開発競争の焦点になるだろうことが見て取れた。燃料消費量制限とスピードの追求の狭間ででてきた当然の帰結である。そして私の限られた観察でも、ホンダが一歩先を行っていることはあきらかだった。

ここまで書いたことはもちろん推測に過ぎない。多くのライダーがラップを重ねていた午前中に、同じ場所から1時間ほど観ていただけなのだ。エンジン音には明らかな違いがあり、ブレーキング時の挙動も明らかに違っていた。しかしシステムがどう機能しているかについては私の推測である。HRCやヤマハのエンジニアに確認したわけではないのだ。エンジニアには本当のことを明かす義務もないのだし。私の推測を否定もできれば肯定もできる。そして彼らのいっていることが本当かどうかを判断することは私にはできない。現時点ではせいいっぱいの推測だが、それでも私の特権を最大限に活用して得た情報からの仮説である。

1:写真家のスコットにカタールでホンダがアフターファイヤを出している画像がないかとたずねてみた。もしホンダがアフターファイヤを出しているなら、彼はその瞬間を逃さないと信じていたからだ。しかしかれはそんな画像はないと言っているし、彼が持っていないなら誰も持っていないだろう。つまりドゥカティやヤマハと違ってホンダにはアフターファイヤがないということなのだと私は考えている。これも私の仮説を裏付けてくれる。
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今年はホンダが圧勝するのかなあ・・・。

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