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セパン 木曜まとめ:ペナルティポイント、現代の剣闘士、娯楽としてのレース、そしてドゥカティ

海の向こうからなんとなくほのかなプレッシャーを感じたので長いけど訳出。
信頼のMotomatters.comはDavid Emmet氏のまとめです。
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マシンがコースに引き出される数時間前。いつもなら週末に走るライダーたちの話題で持ちきりのはずなのに、ここセパンではそうではなかった。誰が何位でゴールするかとか、セパンはホンダ向きなのかヤマハ向きなのかとか、ドゥカティはセパンのロングストレートの恩恵を被ることができるのか、それとも高速コーナーに悩まされるのかとか、スコット・レディングとポル・エスパルガロのどちらがMoto2のランキングトップに立つかとか、誰も語っていなかったのだ。ここでの話題はそうしたコース上の話ではなく、コース外の話が中心だった。

木曜はマルケスにとってDデイ(訳注:ノルマンディー上陸作戦の日。転じて決定的な1日のこと)だった。というよりRDデイ(訳注:R&D:「研究開発」の意?)と言った方がいいかもしれない。ランキングトップのマルケスはレースディレクションに呼び出されたのだ。理由はアラゴンでの事故。彼がダニ・ペドロサのリアホイールセンサーに接触、切断、その結果ペドロサがスロットルを開けたとたんに転倒してしまった件だ。マルケスはペナルティポイントを1点科せられ、ホンダはマルケスが稼いだ25ポイントのコンストラクターズポイントを剥奪されることとなった。(詳細はこちら:英語

結局どういうことか。まあ結果として最初からつけておくべきだった小さなカーボン製プロテクターがスイングアームについたことくらいがその影響と言えば影響である。1点のペナルティポイントで計3点となってもマルケスは最後尾スタートとなるわけではないし、ホンダもアルヴァロ・バウティスタが得た13点をコンストラクターズポイントとして加算できたことで、未だにヤマハに対して14点のリードを保っている。そもそもコンストラクターズチャンピオンには大した価値があるわけでもなく、今回の結論は何の意味もないと言っていいだろう。

しかしそれは重要なことではない。ポイントはレース・ディレクターのマイク・ウェッブがその後メディアに対して説明した内容(英語)である。彼はマルク・マルケスも含めたライダーたち、そしてメーカーに対して重要なメッセージを発したのだ。ホンダに対してペナルティを科す根拠は実に薄弱である。今回のペナルティはFIMの規則集3.3.1.2に書かれていることが根拠になっているのだが、これはなんでもありな項目であり、要するにレース・ディレクションはレースに対して問題となる出来事にならなんでもペナルティを科せられるという意味の規則なのだ。

レース・ディレクションからのメッセージはこうである。もしメーカーがここまで電子制御に頼り切ったマシンを作らなければならないのであれば、何か電子的な問題があってもライダーが怪我をすることがあってはならない、ということだ。電子制御のトラブルは今回が初めてではない。2011年のエストリルでニッキー・ヘイデンは半周分ずれてセッティングされてしまった電子制御によりたいへんな目にあった。エストリルのロングストレートではパワーが制限され、1コーナーのシケインを含む低速セクションでフルパワーとなってしまったのだ。ダニ・ペドロサは発進コントロールなしにスタート練習をしようとしてマシンから投げ出されたし、ホルヘ・ロレンソとベン・スピースはどちらも電子制御がモードを変更しなかったためにひどいハイサイドを喰らっている。しかしこうした事故のすべては何らかのヒューマンエラーに起因するものだった。アラゴンでのペドロサのハイサイドはそもそもHRCがセンサーケーブルの保護を怠ったためだし、デフォルトモードでフルパワーとなるようにしていなければ起こらなかったことだ。もちろんインパネにはウォーニングランプがあったろうが、コーナー真ん中でハングオン姿勢をとっているときにそれを見るのは至難の業だろう。

問題の核心に近づいてきたようだ。マルケスにペナルティポイントが科せられたことは大きな波紋を呼んでいるが、実際には大した問題ではない。マイク・ウェッブがメディアに告げたように、彼の意図は明らかだ。マルケスには「他のライダー、特に自分の目の前にいるライダーには敬意を払うように」、そして他のまだ若いライダーには「今回のマルケスの件が一種の警告であり、砂に引かれた線に気付くように。もしこれを越えたら、どんな人気のあるライダーでもペナルティである」というメッセージを発しているのだ。MotoGPにおける最凶(訳注:変換ミスではないです)のライダーですらMoto2やMoto3では模範となれるだろう。特に見えないところ、例えばMoto2の中団グループは血の海であり、ポイントが獲得できるかどうかという瀬戸際ではライダーは何でもするのだ。来シーズンの契約がかかっていればなおさらである。もしレースディレクションがMoto2やMoto3のライダーたちに、いけないライディングがあると知ってほしいのであればすぐにでもペナルティを科すべきだろう。

ホルヘ・ロレンソも今回のペナルティポイントがある種のメッセージになっていると考える一人である。しかしその見方は大方の考えとは違っている。少なくとも我々は彼の奇妙な主張が意味するところを考えるべきだろう。ロレンソは皮肉をもって考え方を変えたと言っている。マルケスはレースをおもしろくしているのだから、ペナルティの代わりにチャンピオンシップポイントを加算すべきだと言うのだ。「彼のようなライディングはレースを面白くしていますからね」とロレンソはスペインのメディアに語っている(スペイン語)。「僕らが怪我をしようがどうしようが関係ないんですよ。大事なのは観客なんです。僕らを見て楽しんでいる人にとってはヘレスも見応えがあったでしょうし、シルバーストンでマーシャルが(マルケスのマシンから)走って逃げたのも面白かったでしょう。ラグナセカでのコースをはずれての抜き方もすごいと思ったでしょうね。それにダニがアラゴンでふっとんだのも。だからそういうレースを面白くする行為にはインセンティブを与えるべきなんでしょう。若いライダーもそれを見習うようにね。レースをおもしろくするってのは良いアイディアですよ」

皮肉だろうか?ロレンソの顔を見ていた者は誰でもこれが間違いなく皮肉だとわかったろう。しかし彼は3度これを否定した。「本当にそう考えているんですか?」「まじですよ」「皮肉ですよね?」「僕の意見ですよ。全然皮肉なんかじゃない」「皮肉ってるんでしょ?」「どうして僕が皮肉を言ってることにしたがるんですか?僕は自分の意見を言ってるだけで、それをわかってほしいですね」
いつ鶏がなくんだろうと思ったくらいだ。

その後、彼は自分の意見を明快に述べている。誰かがクラッシュするのは絶対見たくはないが観客はそうでないのだろうと。ペドロサが宙を舞うのを見て楽しかったかと聞かれて彼ははっきり答えた。「みんなはそういうのを見たいんでしょうね。何度もリプレイされるますしね。こういう事故のあとに起こる議論がまた観客を呼び寄せるんです」しかし彼にとってはそうでない。「宙を舞うなんてごめんですね。ダニが宙を舞うのも見たくはない。そして脚に怪我して歩けなくなるのもごめんですよ。そういうのは最低ですね。でもみんなそれを見るためにお金を払ってるんです。ローマのコロセウムでは剣闘士が殺し合うのを見て楽しんでいた。まあ今は誰かが死ぬのを観て楽しむなんてことはないですけど、クラッシュしたり接触したりすると観客が増える。ライダーの体なんかどうなってもいいんでしょうね」

これは明らかな非難である。しかし誰に対してだろうか?レースディレクションに対してか?それもあるだろう。しかしこれは金を払っている観客に対する非難でもある。ロレンソは間違いなく正しい。クラッシュ映像はテレビ視聴者の楽しみでありテレビでも特集されるほどだ。ロレンソが言うとおり時代は変わったし、ライダーは大きな怪我をすることは少ない。誰かが死ぬようなひどい事故は誰も見たくはない。しかしそうしたクラッシュ映像につけられる「誰も死んではいません」というキャプションを見る度に、アダルト映画の「本作では誰も妊娠していません」というキャプションを見るような嫌な気持ちを感じるのも事実だ。クラッシュ映像の視聴者もアダルト映画の視聴者も結果については誰も気にしていない。一時のスリルを楽しんでいるだけだ。

ロレンソの発言は正しいのか?ドルナが視聴者の求めるスペクタクルを増そうとしているのは確かだ。ライダーの安全は最重要課題だが、ロレンソが見落としていることがある。MotoGPは他のプロスポーツと同様に娯楽なのだ。日曜の午後の楽しみとしては最上の一つである。挑戦というスポーツの純粋な側面は守られなければならないが、同時にこれは筋書きのないドラマでもあり、その結果は可能な限り誰でも楽しめるものでなくてはならない。お金を払う観客がいなければMotoGPはもとより、NFLもプレミアリーグもリーガ・エスパニョーラもチャンピオンズリーグも、ワールドカップですら存在できないのだ。GPを週末に運営するには莫大な費用がかかり、誰かがそれを払わなければならないのだ。現在それを払っているのはサーキットのオーガナイザーとテレビチャンネルである。つまりは観客だ。そして普通の観客はエンターテイメントを欲している。面白くなければ観客はおらず、スポーツは成立しない。単純な等式だ。

ある意味ではロレンソは正しい。スポーツの健全性はライダーの安全を守ることからきている点は間違いない。どんなスポーツでも参加する者がいなければ、プロモーターでマーケティングの天才であるバリー・ハーンが語るところの「男のための昼メロ」は成立しないのも事実なのだ。ライダーが死んだり怪我をしたりして入れ替わり立ち替わりすれば、誰を軸に見ればいいのかわからなくなってしまう。観客はバトルを楽しんではいるが、クリーンなバトルを求めているのだ。そして観客もこれがエンジンを使うスポーツだということを忘れてはいない。富沢祥也やピーター・レンツやマルコ・シモンチェリのような死はもうごめんなのだ。

最大の問題は4ストロークの導入が状況を悪くしたということである。15年ほど前、MotoGPマシンの前の500cc2ストロークは190馬力130kgだった(その前には115kgだった)。現在の1000ccMotoGPマシンはそれより30kg重く、60馬力強大で、最高速は20km/h上回っている。重量も馬力も大きくなったことで向き変えも難しく、クラッシュ時に投げ出されるマシンの距離も、他のマシンにぶつかったときの衝撃も大きくなっている。

マルク・マルケス自身はペナルティに対して何も感じていないと言ってはいる。今まで通りの走りをするとも表明しているが、同時に接触はさけるようにするとも言っている。これまでどおりにだ。マルケスの問題はそのライディングスタイルにある。コーナースピードが高いために、コーナリングでは前のライダーが自分よりハードにブレーキングしてしまうのだ。これが状況を複雑にしているとも言えよう。しかし初めてと言ってもいいだろうが、マルケスのしぐさは彼の発言とは裏腹だった。これまでライディングが問題になったときより深刻そうな顔つきだったし、明らかにプレッシャーを感じているようだった。これで彼のライディングが変わるかどうかは実際見てみないとわからないことではあるが、これまでで初めてライディングを楽しむだけの子どもではない顔つきをしていたことは記しておこう。自分のせいで巻きおこった騒ぎに驚く大人の顔つきだったのだ。

マルケス問題がセパンで話題に上る一方で、ドゥカティの状況についての噂が2つの大陸、3つの国を駆け巡っていた。ジジ・ダリーニャがドゥカティと契約したという噂だ。その噂は昼前には事実となって現れた。ジジ・ダリーニャがアプリリアを離れるというプレスリリースがピアジオグループのサイトに掲載されたのだ。そして午後にはドゥカティコルセがダリーニャの加入を発表した。しかもドゥカティのレース部門であるドゥカティ・コルセのトップとしてだ。そして現在のドゥカティ・コルセのトップであるベルンハルト・ゴブマイヤーはフォルクス・ワーゲンのレース部門に異動することも発表された。

この一連の動きはドゥカティ・コルセ内でこれから数か月続くであろう大変革の端緒に過ぎない。ダリーニャと契約したということは彼に白紙委任状を渡して、ドゥカティ内部の大掃除をさせるということなのだ。これは多くが待ち望んでいたことである。コミュニケーションはほとんどなく、ライダーの声に耳を傾けることも何年もなかった。そのせいでケイシー・ストーナーはドゥカティを離れ、ヴァレンティーノ・ロッシはワークスで不毛な2年間を過ごし、今シーズンはアンドレア・ドヴィツィオーゾが多大なフラストレーションを抱えている。チームは大きく変わることだろう。ダヴィデ・タルドッツィとパオロ・チアベッティの名前がMotoGPチームのメンバーとして挙がっている。しかし本社も大きく変わることだろう。プロセスだけではなく、エンジニアリングの根本的考え方も変わることになりそうだ。老兵は引退し、新兵に道を譲るのだ。

それがドゥカティで求められていたことである。ドゥカティは今年もなんとかフィリップモリスをスポンサーとしてつなぎ止めることができた。3年間なんの成功も収められなかったにもかかわらずだ。フィリップモリスもそろそろ痺れをきらしているころだろうし、ダリーニャはそのために呼ばれたのだろう。彼はアプリリアがRSV4でワールドスーパーバイクのチャンピオンとなる鍵となった人物であり、勝つためには何をすればいいかは十分にわかっている。サーキットレコードを叩き出した人物であり、しかもイタリア人であり(おかげでコミュニケーションは相当良くなるだろう)、レース自体にもレース部門の運営についても精通しているのだ。驚きを持って迎えられたカル・クラッチローのドゥカティ移籍もこうなってみると正しい判断だったのかもしれない。すくなくとも無茶な賭ではなくなったと言えるだろう。

今回の件で宙ぶらりんとなったのはアプリリアの未来だ。ピアジオグループのリリースによれば、ダリーニャの辞職は彼とアプリリアのビジョンの違いにあるという。今シーズンのワールドスーパーバイクでの不振もその理由に挙げられている。アプリリアはレース部門かで稼げるようにしたいのだ。ARTマシンをMotoGPチームに、そしてRSV4をスーパーバイクチームに売りたいということである。しかしカルディオンABがホンダを選択肢、アスパーはホンダとドゥカティのサテライトの間で迷っているというのが現在の状況だ。さらにヤマハがNGMフォーワードにマシンを与えようとしている。戦略を変えざるを得なくなったアプリリアは、すでにMotoGPでの勢力拡大に興味を失ったようだ。EVOルール(訳注:WSBKに詳しい方ヘルプをよろしく!たぶん市販ベースであることがより求められるようになったルールかと)のせいで、市販状態では戦闘力のないRSV4はWSBKでも不利になっている。そんなわけでアプリリアのレースプログラムについては実質白紙状態に戻ったと言えるだろう。

また日曜にはレースが開催される。目の離せないレースになりそうだ。今週末は雨予報である。3日間とも午後に雨が降るとのことだ。つまりはシーズン初のフルウェットな週末ということである。びっくりするようなこともあるだろう。そもそもマレーシアの天気はいつもびっくりを連れてくるのだ。もし雨が降ればすべての予想は無駄である。ということはチャンピオン争いはおもしろくなるということである。
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ロレンソの発言がちょっと鬱入っているっぽいのが心配。

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コメント

マルケスが、チャンピオンに、なることは、ほぼ確実?ロッシの後継者が、現れた。モーターマガジン社さん、また、レーシングオートバイDVD付き、発売して下さい

投稿: YAMAHA | 2013/10/12 01:19

>YAMAHAさん
 まあマルケスのチャンピオンは堅いでしょうね。でも来年はヤマハもなんとかしてくるはず!と思いたいです。

投稿: とみなが | 2013/10/12 14:47

Evoクラスはフレーム関連はスーパーバイクと同等の
改造が許されますが、エンジンは現行の
ピストン、コンロッド、クランクシャフトを
スペシャルパーツに交換することが禁止されます。

実質、スーパーバイクの車体にスーパーストックの
エンジンを積むみたいな格好です。

投稿: 通りすがる | 2013/10/13 06:24

>通りすがるさん
 をを!情報ありがとうございます!ほんとに市販車改造クラスになるんですね。ドルナとインフロントが兄弟会社になった影響でしょうか。

投稿: とみなが | 2013/10/13 18:57

2009年に暫定的にBSBに
EVOクラスが導入された時は
結構な速さをみせてましたね。
コースによってはスーパーバイクに
負けてませんでした。

MOTOGPにはエンジン基数制限があるのに
WSBの方は無くって
寿命の短いカリカリチューンエンジンを次々と
投入していたような状態ですから
そこに待ったがかかったということだと思います。

アプリリアなんかその典型ですね。

投稿: 通りすがる | 2013/10/14 23:07

>通りすがるさん
 そうするとアプリリアはますます辛そうですねえ。

投稿: とみなが | 2013/10/15 21:24

改めてレギュレーションを見るとエンジン計6基、追加電子装備の1000ユーロ(税込み)制限は厳しい内容ですね。車載ネットもなしで各機能スタンド・アロン。

投稿: ひさすえ | 2013/10/17 23:46

>久末さん
 まあその分ガソリンが4L余分に使えるということでしょうね。

投稿: とみなが | 2013/10/18 20:23

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