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クリニカ・モビーレ:テーピングの方法、その他諸々

怪我を負ったライダーが真っ先に駆け込むのがMotoGPの移動診療車であるクリニカ・モビーレ。ドクター・コスタで有名ですが、そのスタッフであるパオロ・カステッリ氏へのインタビューがMotomatters.comに掲載されてます。例によって長文。インタビュアーは写真家のスコット・ジョーンズ氏。今回は写真も重要だと思うのでMotomatters.comに転載許可申請中。許可がくるまではキャプションとリンク先の写真を交互に見比べて下さい。
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私が初めてクリニカ・モビーレで働くパオロ・カステッリとジュゼッペ・トリオッシに会ったのは2010年、フランクフルトからドーハに向かう機内でのことだった。お互いにMotoGPのレースに行くと言うことがわかった後、私たちはおしゃべりに興じた。半分英語、半分イタリア語で新たに幕を開けるシーズンについて語り合ったのだ。2人ともシーズン開幕前のテストで怪我を負ったマルコ・シモンチェリの手当をしたばかりだった。それ以来、いつでも時間があれば彼らに挨拶するためにクリニカ・モビーレに立ち寄り、時には彼らの仕事についてインタビューを行うこともあった。Moto2テストが行われたヴァレンシアのまだ静かなクリニカ・モビーレでパオロへのインタビューを行ったので掲載する。
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MotoMatters:とりあえずクリニカ・モビーレでのお仕事と日々何をしているか教えて頂けますか?
パオロ・カステッリ:クリニカ・モビーレで整骨医、そして理学療法士として働き始めてから7年になります。金曜、土曜、日曜とライダーは乗る前にマッサージをするんで、一番求められている仕事ですね。プラクティスや予選の後は、さらにリラックスするためのマッサージとストレッチングがあるんです。普段はこれに整骨的な頭蓋骨-仙骨リラックス療法とかを組み合わせたりしてますね。夜ぐっっすり眠れるように身体的・心理的エネルギーを取り戻すのに役立つんです。クリニカ・モビーレの整骨医はほとんどが整骨医ですがそのための勉強をしているわけじゃないんですよね。
 私たちのメインの仕事は理学療法と整骨の混合といったところでしょうか。いちばんよくやっているのは機能的テーピングで手を守ることです。グローブだけでは手の皮膚を守ることができないことがよくあるんですよ。こういうテーピングで内出血や靱帯の炎症を抑えることができるんです。
 いつもは水曜日の夕方にサーキット入りして木曜の9時から業務を開始します。前週のレースで怪我をしたライダーがいればリハビリから始めるんです。そういうライダーがいなければストレッチやリラクゼーションマッサージやその他ライダーがレースにでる準備をするために必要な手伝いをなんでもします。他には栄養サプリとかプロテインとかヴィタミンとかについてのアドバイスをしますね。あちこちにあるエアコンのせいでライダーは体調を崩しがちなんです。特に若いライダーはすぐに体調を崩しますね。
 ですからライダーに関して言うとこんな感じでやっていきます。いつもはどのライダーから始めるとかは決めていません。でも業務開始とともにライダーが集まり始めて何をしたいか決めるんです。たいていは同じスタッフを指名しますね。例えば僕がやった治療をライダーが気に入れば、次も僕を指名するって感じです。ライダーが抱えてる問題について理解することができるし、どんな治療を好むかもわかるので、これはいいシステムですね。ですからすべての理学療法士が担当のライダーを常に何人か抱えています。

カラー写真1
Moto2ライダーのヨハン・ザルコとジュゼッペ・トリオッシの魔法の手

MotoMatters:クリニカ・モビーレに来ないライダーもいるっておしゃったことがありますよね?
パオロ・カステッリ:ええ、そういうライダーもいます。クリニカ・モビーレに来たことがあっても、何らかの理由で私たちとの関係が切れてしまうんです。ロレンソやストーナーといったライダーは普通自分専属の理学療法士/マッサージ師を抱えていますしね。でもクラッシュみたいな大きな問題があればクリニカ・モビーレにやってきます。こちらにはX線検査をする放射線技師もいれば整形外科医もいますから、ここでしかできない特別な治療ができるんです。でも普通はトップライダーは専属理学療法士に頼んでいますね。

MotoMatters:ここでX線検査ができるってことですが、その他ライダーが地元病院に運ばれるまでに何ができますか?手術はしませんよね?
パオロ・カステッリ:ええ。でも手術が必要ないような、例えば肩に大きなダメージを負ったときとかは理学療法をやりますし、血腫があるときには瀉血して肩をテーピングで固定します。金、土はそんな感じで過ぎていきますね。レースに向けては痛み止めの注射をしたりもします。
 ライダーが痛がったとしても基本的に金曜日は侵襲的治療を避けるようにしています。ドクター・コスタの経験では少し痛いくらいの方がアドレナリンが出てライダーは強くなるし、いいパフォーマンスを発揮できるんです。金曜や土曜に怪我をしたライダーが日曜のレースで最高のパフォーマンスを発揮することもよく経験しますよ。
 何年か前にカタールの金曜のプラクティスで怪我をしたライダーがドクター・コスタの治療を受けたことがあります。痛みがひどくてうちに帰ると決めたんですが、ドクター・コスタが、どっちにしろ何日かすればもっと痛みがひどくなるし、レースに出場するのは偉大な挑戦だといったんです。それで彼は日曜に走ることにしました。痛みはひどかったですが、レースに出て勝ってしまったんです。彼にとっては初勝利で、しかもそれ以来勝っていません。心の働きっていうのはすごいものですよ。(訳注:マティア・パシーニのことでしょうか)

MotoMatters:今年のシルバーストンではカル・クラッチローが転倒して右の踝を骨折しましたが、日曜は後ろからスタートして6位といういい結果を出していますね。
パオロ・カステッリ:クラッチローは心が強いですよ。ファイターだし、状況が同じなら痛みがあった方が強いんです!

MotoMatters:そこがあなたの仕事のおもしろいところですね。ライダーが痛みを力に変えることができるなんて。
パオロ・カステッリ:ええ。偉大なライダーがまだそうなる16歳の時から見続けていると、きちんとして正確性を重んじて時間も守れるライダーになっていくのが面白いですよ。そういうのがレースに勝つ力を作るのを見るのもうれしいですね。
 何年か前のマルコ・シモンチェリはすごく印象的でした。筋肉に問題を抱えていると気付いてからはよくクリニカ・モビーレに来たんですが、予定をかっちり決めていつも同じ時間に現れたんです。すごいプロフェッショナルな姿勢ですよね。こういうライダーというのは自分の時間を調整できないルーズなライダーと比べていい成績が出せるものなんです。

(ここで少し休憩をとって、クリニカ・モビーレの中でインタビューを行うことにした。パオロがどのようにライダーにテーピングを施すのか興味があったので、パオロにデモを頼んでみたら、親切にも私を診療ブースに座らせてくれて、レースに臨むライダーにするようにテーピングをしてくれた。テープはライダーの手に合わせて毎回サイズを変えてカットされる)

カラー写真2
(パオロはまず脱脂綿で私の手にいいにおいのする粘着剤を塗った後、この写真にあるような粘着剤つきのテープを貼ってくれた)

パオロ・カステッリ:グローブの中ですごく汗をかくんでこうしないといけないんです。中手骨を守るためですね。これが第一層です。

カラー写真3
(私の手に合うようにテープを切ってから指の間に貼っていく)

カラー写真4(拳を握った状態で、それぞれのテープを手の甲に回す)

カラー写真5
(最後に拳を握ったときにテープに圧迫されないよう指を伸ばす)

カラー写真6
(これで指の付け根のプロテクションは完璧)

パオロ・カステッリ:前はテーピングした手で使い易いようにハンドルに似たスロットルレバーというものがあったんですが、今は使わないですね。グローブに加えてこういうテーピングが普通のものになったんです。中には手首にすごい負担をかけるんで傷めているライダーがいるんですが、そういうときはこれを使います。

カラー写真7
(手首保護のデモとしてパオロは青いテープを2本切って私の手に貼ってくれた。このテープは柔らかく柔軟性があって手首を皮膚の間を守ってくれる。白いテープと比べると皮膚を守るだけでなく支持力もあるようだ)

パオロ・カステッリ:マルコ・シモンチェリはいつもこれを使っていましたね。ここの皮膚が硬化していたんですが、それは彼が手首に負担をかけていたからなんです。
 これは手そのものと皮膚を守って胼胝やマメを防いでくれるんです。皮膚を守るだけじゃなく心理的な効果もありますね。私が思うに、手が守られているとライダーが考えるからでしょう。ライダーじゃないんではっきりしたことはわかりませんけどね。でもMoto2やMoto3ではあんまり皮膚のトラブルはないんですよ。でも若いライダーもMotoGPライダーがやっているのをみて同じことをするんです。MotoGPライダーは2〜3日バイクに乗ると胼胝やマメができてしまう。だからほんとうの傷になる前に皮膚を守らなければならないんです。

MotoMatters:セッションが終わるとはがしに来るんですか?
パオロ・カステッリ:いいえ、自分ではがしてますよ。

MotoMatters:テープが破れたり切れたりしてることで皮膚を守ってるってわかるんですか?
パオロ・カステッリ:いいえ、セッション後もテープはこんな感じですよ。下の皮膚は赤くなっていますがちゃんと守られてます。

MotoMatters:午前と午後のセッションでほとんどのライダーにこれをやってるんですね。
パオロ・カステッリ:ええ。だからすごく忙しいんですよ。ライダーが20人いて両手に午前と午後にテーピングをするわけですからね。だからテープはすごく使いますよ。1日に10巻くらいでしょうか。

MotoMatters:クリニカ・モビーレの費用は誰が出しているんですか?
パオロ・カステッリ:IRTAだと思います。チームの組合ですね。(訳注:Ineternationarl Racing Team Association:国際レーシングチーム協会)

MotoMatters:じゃあライダーがここに来ても自己負担はないんですね?
パオロ・カステッリ:ええ。でもクリニカ・モビーレの運営にはお金がかかります。3クラスで95人のライダーがいて、その内70〜80人が来るわけですからね。ライダー人にテープ1巻かかるとすれば、なんとなく想像できるでしょう?ライダーはお金を払っていませんね。IRTAがドクター・コスタに支払っているです。契約には放射線機器、薬、テープ、レーザー機器とか、全部含まれていますよ。

MotoMatters:他に何かおもしろい話はありますか?
パオロ・カステッリ:ここで働くのはすごく楽しいですね。みんな友達なんです。家にいると一緒にいられないんですよ。みんなそれぞれの仕事を抱えているんでね。でもここにくればみんなに会える。夕方は全員集まってその日にあったことを話合います。ライダーと一緒に仕事をするのもたのしいですよ。例えばクラッチローとか、本当に面白いんです!彼はよくここに来てみんなと大笑いしてますね。夕方はみんなでビールを飲んで、そういう時がいいんですよね。うちに帰るとそういうわけにはいかないですから。一生懸命働かないといけないでしょ?
 MotoGPではいろんな話がありますよ。いいことも悪いこともね。毎セッション、日に2時間ライダーをみていれば感情移入してしまって、去年(訳注:2011年)のマレーシアみたいなことが起こると忘れられないことになってしまいますけどね。家族を失ったような気持ちになってしまうんです。人生というのは喜びと悲しみに満ちあふれています。感情もこもるし、あなたもよくわかるでしょうね。あなたの仕事は風景を、そして感動の瞬間を画にすることです。あなたにとってもライダーにとってもそうして時が止まった写真を見るというのは心を動かされることですよね。
 クリニカ・モビーレも同じです。ライダーが苦しみ、笑い、転倒し・・・。彼らが転倒するのを見るのは楽しいことじゃない。でも彼らが再び立ち上がるのを見るのは喜びです。彼らが感謝するためにここに戻ってきてくれるのは何よりの喜びです。十分に報われる仕事ですね。世界で最も報われる仕事と言ってもいい。お金の話じゃありませんよ。ここで働いても金持ちにはなれない。でも満足できる仕事なんです。

カラー写真8
(クリニカ・モビーレで最も重要な機械であるエスプレッソマシンの横に立つパオロ)

MotoMatters:どういう経緯でクリニカ・モビーレで働くことになったんですか?
パオロ・カステッリ:それほどバイクに興味があったわけじゃないんですが、今の仕事を愛してますよ。ある土曜日にテレビでプラクティスセッションを見ていて一人のライダーがひどいクラッシュにあったんです。でも日曜にはグリッドに着いていた。なんでそんなことができるんだと思いましたよ。で、レースの終わった月曜にイモラにいるドクター・コスタに電話して一緒に働かせてもらえないか聞いたんです。そしたら履歴書を送ってからまた電話するように言われたんですよ。それでまた電話したらレースとレースの間に行われるテストに来るように言われて、働き始めることになったんです。レースもバイクも好きではなかったんですがね。ヴァレンティーノ・ロッシを見るために何回かレースを見たことがあるだけで。

MotoMatters:それは何年前のことですか?
パオロ・カステッリ:2006年ですね。その年はあと1レースとWSBKのプラクティスを何回か担当して、翌年からフルタイムで働き始めました。おもしろいですよね。それまでバレーボールやテニスの選手は治療したことがあってもライダーを治療したことは一回もなかったのに。
 今では私もファンの一人です。でも何人ものライダーに同じことをしなればならない。もちろん飛び抜けておもしろいライダーもいます。みんなひいきのライダーがいるんで月曜はレースを見ますけど週末はたくさんのライダーに同じ治療をしなければならないんですよ。
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このインタビューに答えてくれたパオロに感謝したい。またクリニカ・モビーレのスタッフが施設の中に暖かく迎え入れてくれたことにも感謝したい。さらに治療中の写真を撮らせてくれたヨハン・ザルコにも感謝。

私のイタリア語ではパオロのコメントをうまく伝え切れないかもしれなかったので、友人のイタリア人、アンドレア・ラッディに翻訳をお願いした、彼にも心から感謝したい。
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時間をきちんと守るライダーが成功するってコメントが興味深いです。いまはそうでなければいけないんですね。つまりレーサーというものがアスリートとして研ぎ澄まされてきたということでしょう。
激しいライディングで悪童呼ばわりされたシモンチェリがそういうライダーだったというのもちょっと驚きです。

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